月琴55号 お魚ちゃん(3)

G055_03.txt
斗酒庵 わらしべ長者 の巻2017.6~ 月琴55号 お魚ちゃん(3)

STEP4 きぬぎぬのよあけ


 さて,測るものも測り,調べるところもあらかた調べ,ひっぺがすものも身ぐるみひっぺいだ(w)ところで,いよいよ修理開始です。

 いつも言ってるように,楽器はいくらおキレイに外がわが直っていても,その内がわで薄板一枚・棒一本はずれていたら,それだけで何の役に立たない,タダの置物にしかなりません。
 まあ,今回の楽器。意味もなく魚づくしの満艦飾なところからも想像がつくように,多分に 「お飾り月琴」 のキライはあり。表板にキズ一つ見当たらないことから言っても,おそらく,楽器としてはほとんど使用されたことがないと思われるのですが。棹の角度調整もしっかりされており,内桁の接着は頑丈で,胴の作りや響き線の加工も丁寧----本体部分のみに関して言えば,ちゃんと楽器として製作されてはおります。
 山口やフレットなど,欠損している部品を補作してあげれば,あとは経年の損傷と原作者のちょっとした工作ミスが少々。さほどのこともなく,マトモな楽器として再生させてあげられることでしょう。
 そのためにも,まずは内がわから----

 下桁の割レを継ぎます。
 これはもともと割れの入ってたとこが,裏板ひっぺがしのときに完全に逝ってしまったもの。
 そもそもの原因は響き線を鳴らす 「舌」 として打たれた鉄クギ。原作者の少々無茶な工作のために割れたもので,もともと割れるように出来てるような箇所ではないですし,大切な響き線の基部にも近いので,ここはエポキで継いでしまいましょう。


 つぎは右下の接合部。
 まあ原作者が胴体組み立ててみたら側板の長さが,1ミリくらい足りなかった,と。
 で,ここまできて直すのも面倒だしぃ,まあこのくらいなら唐木の外皮で締めつけておけばへっつくだろう----てな感じで。

 石工用のハンマーの尖ったほうで殴るぞ,オイ。

 唐木の飾り板の浮き,裏板のヒビ割れ,地の側板の剥離。
 この楽器の主要な故障のほとんどが,おそらくここの工作不良に起因しています。
 もちろんこのままには出来ませんので,ここが今回一番の要修理個所ですね。

 問題の箇所を補修する下準備として,手はじめにまず,地の側板のハガレを処理しておきます。ここがきちんと固定されてないと,部材が動いてこの後の作業の精度が下がりますからね。

 真ん中あたりの接着面に浅い虫食いがあって,そこからハガれたらしいので,そのあたりに板のスキマから木粉粘土をつっこみ,充填してからニカワを垂らしこんで固定。
 余分な木粉粘土とニカワがにじゅるとハミ出してきますので,きっちりと拭い取っておいてやります。

 そしていよいよ問題の右下接合部。
 まず,スキマにぴったりはまるような小板を作ります。
 端材の中からちょうどいいくらいのカツラの板を発見。接着も良い木ですので,これでいきましょう。
 スキマを埋める板が出来たところで,接合部にニカワを流し込んでつっこみます。事前の調査で異常はありませんでしたが,ついでにほか3箇所の接合部や内桁のホゾなんかにも新しいニカワをたらしこんでおきました。
 そこですかさず間髪入れず。胴側に太輪ゴムをかけてしめあげ,接合部各所を密着。
 右下接合部は,内がわの補強板も片がわ接着がはずれちゃってますので,ここにもニカワを浸ませ,輪ゴムの外からさらに,クランプで3D的に固定しときます。

 スキマ充填,接着補填。これにて内部構造はガッチリと固まりました。
 もともと部材が厚めで工作もよく,材質的にも接着に問題がないんで,きちんとニカワ仕事が出来ていればバッチリへっつく類の作りになっています。
 そのあたり,ひとつ前にやった53号なんかと比べると少しラクですね。

 つぎの日に再接着箇所を確認。
 地の側板や接合部のニカワのはみだしや,側面の工作アラの細かな凸凹を軽く均したところで,飾り板を巻き直します。
 まずはニカワを滲みこみやすくするため,本体側部の表面と唐木の飾り板を湿らせます。
 本体のほうはいいんですが,飾り板のほうは唐木なんで滲みこみが悪い。こういうときは,筆でぬるま湯を刷いたあと,表面にラップをかけておくといいです。

 そのまま10分ほど置き,いい感じに湿ったところで,緩めに溶いたニカワを塗布。楽器にだいたいぐるっと巻きつけたところで,端をちょっとクランプではさんで一時固定。その隙に太輪ゴムをかけ回します。

 接着面をじゅうぶんに濡らしといたので,輪ゴムをかけてからも調整する時間がかなり取れました。しめあげる輪ゴムを増やしながら,浮いてる箇所,ずれてる箇所を修正していったところ。両端のそろう棹口のところで,板が左右合わせて2ミリばかり余り,重なってしまいました。
 飾り板の端を急遽削らなければならなくなったんですが,縛りつけているゴムを当て木で浮かせたりしてよけながらの,せまい中での作業----使える工具も限られ,けっこう大変でした。
 まあそんな甲斐もあり,こんどはもう,どこにも浮いてブヨブヨしてるところはありません。(喜)

 百年前には輪ゴムなんてものもなかったでしょう。

 たぶん当時は,濡らした麻ヒモとか革ヒモなんかで縛りあげ,固定したもンかと思われますが,その手だと,瞬間的なしめつけの力は輪ゴムより強力なものの,かかる力の分布と持続性に少し問題があって,工作のムラができやすいんですね。

 オリジナルの接着剤自体はムラなくついてたのに,あちこちに浮きやハガレができちゃってたのもしょうがないとは思います。この原作者の木工の腕前自体は,おそらく庵主なんかよりかなり上だと思うんですが,100年の時間の流れ。まあ使ったのは現代ではありふれたモノではありますが,その工具の差が出ましたね。

 胴体を緊縛ボンテージ鬼しばりしている間に,欠損部品の補作にも取り掛かりましょう。

 まずは糸巻。
 例によって材料は¥100均のめん棒36センチ,スダジイとかの類で出来てます。
 今回はちょっとレベルの高い楽器なので,高級月琴に多い六角三本溝にします。

 普及品の楽器なんかだと六角形各面一本溝のタイプが多いですね。この溝はまあ飾りみたいなものなので,1本が3本に増えたからと言って,なにか操作性が向上するようなわけではありません。

 作り手の手間が三倍になるだけですね(w)

 おつぎは蓮頭。
 「魚づくし」なんていう装飾例がほかにないし,作者も不明なので,もとはどんなのが付いてたのか,まったく見当もつきません。
 まあこの楽器,ほかの飾りはだいたい揃ってますので,庵主が遊べるのはここくらいなもの。
 いっちょう派手に遊んでみましょう。今回はいつもみたいに意匠の意味や,吉祥などはあんまり考えない方向で。

 こんなん出来ました~。

 楽器の先端に仔猫が2匹。
 視線の先には水面----ここには翡翠色の凍石をはめ込みます。この小さな水たまりは,糸倉から下,魚づくしの水中世界へと通じてる,って感じで。
 いつもながら,庵主がネコを彫るときは,いつもちょっとあざとい(w)です。

 両方ともスオウ染ミョウバン媒染,薄くベンガラ下地で仕上げにオハグロ染。

 このところ定番の,深い紫黒色に染め上げます。
 仕上げは柿渋と亜麻仁油ですね。

 山口とフレットはツゲで作ります。
 オリジナルのフレットは竹でしたが,これも水中世界の一部にしちゃいたいので,ここでもまた,ちょっと遊ばせていただきましょう。

 いつも使ってる黄色い上物のツゲじゃなく,ちょっと前のベトナム琵琶魔改造でも使った,琵琶撥の端材。
 染めないまま磨くと,ちょっと白っぽく骨材みたいな質感になるのと,そこに入ったマーブル模様が,水中にある岩の表面にも,流水のゆらめきのようにも見えます。

 下磨きまでした山口と板状に切ったフレットの材料は,いちどアセトンで脱脂と軽く漂白。ツゲは密なので塗料染料の染みが悪いのですが,これしとくとニスの滲みこみが若干良くなります。
 強度的には問題がない材なので,今回のニス塗りは,あくまで表面の目止めとツヤ出しが目的です。


 さて,二日ばかり鬼六先生ばりの緊縛を施した胴体。飾り板の再接着もうまくいきました。
 さすがは現代科学(ゴム輪)。さっきも書いたとおり,浮きもなくバッチリへっついてくれたようです。これであと裏板をもどせば,胴体の修理はだいたい完了。


 楽器の修理のやりかた,というか,仕事の仕方というものは人によって様々ですが。庵主は細かい仕事を同時進行で片づけてゆき,最後にそれを一気にまとめる,というやり方が好きです。
 前にも書いたかもしれませんが,それまでは一見関係・関連のなさそうなバラバラの物件が,パズルのピースのように,パチパチと火花を放ちながら組み合わさって,それぞれの意味を叫びながら一つのモノとなってゆく光景,というのが何ともたまらないんですね。
 ただ,この方式だと,一度作業を始めたらノンストップ。スピード落ちるとぶッ飛ぶ爆弾の仕掛けられたターボチャージャー付きロードローラーなみに,最後まで止められません。最終工程のあたりは分刻み作業で,三日くらいほとんど徹夜みたいな状態となりますので,気力と体力,あとなにかしら,生きる上で大切なもの(w)がギセイとなります。
 ウチの修理は「修理」というより楽器の「再生」作業に近い。いちど失われたイノチを蘇らせるためには,それなりのカクゴと等価交換が必要,ということでしょうなあ。

 よって修理が終わると庵主,すべてを使い果たした状態,まッ白のバタンきゅうで寝込むことが多いです。さらに最近はまあ,寄る年波のだっぱあぁんとともに,年々キツくなっておりますですヨ,ハイ。

 次回はそういう(w)仕上げ工程のおハナシとなります。

(つづく)


糸巻がゆるみやすいとき

PEG_02.txt
斗酒庵 糸巻指導 の巻糸巻がゆるみやすいとき

STEP0 ゆるゆるゆーてぃ

 ウチで修理した楽器の場合。
 とくに糸巻がなくなっちゃってて,新しく作った楽器の場合などは,糸倉と糸巻の噛合せ等ちゃんとやってますので,修理後スグにゆるゆる~なんてことはまずナイ(と思うんですがww)。

 音合わせがどうしてもうまくいかないとき,大きな原因のひとつがこの糸巻のユルみです。

 1) 気がついたら糸巻のところで糸がほぐれてユルユルになっちゃってる。
 2) きっちり音を合わせたのに,糸巻がはずれて糸がもどってしまう。

 というようなことが頻発した場合----まあもちろん,単純な加工不良が原因な場合もあるのですが,そこらへんを疑う前に,まず確認してほしい点がいくつかあります。
 今回はそこらへんをまとめてみましょう。


確認1 糸巻の扱いかたが三味線式

 ほかの楽器の前科餅(w)の方にけっこう多いのですが。
 三味線の場合,調弦の時は糸巻を糸倉から少し浮かして音を合わせ,最後に糸巻をぎゅッと糸倉におしこんで止めるとゆーことをします。
 しかしながら,月琴の糸巻と糸倉は,三味線のと違う作りになっています。さらに単音の三味線と違って,4弦2コースの複弦楽器。2本の弦を「同じ音」にそろえる,という行為はかなりセンシチブなものなので,三味線と同じやり方をすると,最後の 「ぎゅッ」 のところで音が微妙にズレてしまうため,いつまでたっても糸の音がそろいません。
  
 またこの方式でやると月琴の場合,「ぎゅッ」の後も糸巻が糸倉の中でちゃんと止まってない場合が多く,つねに抜けやすくゆるみやすい状態になってしまいます。
 三味線弾きの場合,クセもついちゃってましょうが,「おかしいな」と思ったら,ちょっと注意してみてください。

 月琴の正しい糸巻の持ちかた・扱いかたは以下の記事をご参照あれかしこ。


確認2 糸巻の握りかたが違う

 まず最初に----

 糸巻の握りかたが,画像のようになっちゃってませんか?
  
 これが初心者に最も多い 「ダメダメ握り」(w) というものです。

 月琴の糸巻は先細りになってますので,こういうふうな握りで糸巻を回すと,回したら回したぶんだけ,先端が糸倉から浮き上がって,どんどんはずれていっちゃうんです。
 ----そうですね。ネジ回しでネジを抜こうとしてるのと同じ状態,ってとこでしょうか。
 月琴の糸巻の回し方は,むしろドライバーでネジを押し込む時のほうに似ています。
 こういうダメダメなやりかただと,調弦の時,たとえ一時的に音がピッタリ合っても,糸巻が糸倉にちゃんと固定されていないので,手を離したら糸巻が動いて,音がすぐにズレてしまうわけですね。

 糸の張り替えで,糸巻によぶんな部分を巻き取るときなんかは上の握りかたで回しても構わないんですが。
 糸があるていどピンとなってから,「さあ音を合わせるぞ!」 ってときの,糸巻の正しい持ちかたはこうです----
  
  A(左):糸倉と糸巻のお尻に指をかけ,糸巻が抜けないよう「おさえこみ」ながら回す。

 あんまり糸巻を 「押しこむ」 ほうに気を入れると,こんなふうに糸倉パックリ割れちゃいますからね(泣)
 あくまで,「抜けようとする糸巻をおさえこむ」 くらいの感じでお願いします。
 これは沖縄三線のちんだみなどでやるのと同じ方式ですが,庵主なんかも手が小さいんで,これだと小指が糸巻のお尻にとどかないことがあります。そのときはB(右)の方法で,

  B(右):反対がわの糸巻をひざなどに当てて,糸巻のお尻のあたりを握り込み,軽くおしこむようにしながら回す。

 画像と反対がわの糸巻を合わせる時は,ヒザじゃなくて肩や胸に押し付けたりしますね。

 そのほか,A)に似たやりかたとして,楽器を膝の上に置いて,こんなふうにやる方法もあります----
  
  C:人差し指を糸倉にかけ,糸巻の尻をおさえこむようにしながら回す。

 曲げた人差し指の先を壁にして,糸巻をおしこむわけですね。
 演奏の最中とかならAかBのほうが,とっさの対応が可能なのですが,ゆっくり時間をかけて調弦出来る場合はこちらのやり方でもいいです。楽器を寝かせてやるので,面板の上にチューナーを置いて確認しながら微調整が出来るのも利点ですね。


確認3 巻き取った糸が寄りすぎてないか?

 ウチでは月琴の弦に,お三味の糸を使っています。
 月琴はお三味にくらべるとかなり短いんで,糸の余分は,糸倉のなかに巻き込み,巻き込んだぶんはそのまま,すぐ使える予備の糸としています。
 半月のほうで切れた場合,だいたい2回くらいまでは同じ糸をそのまま使えるので経済的なんですよね。
 しかしながらこの,けっこうな長さ巻き込んだ余分の糸が,糸倉の中で悪サしてることがあるんですねえ。
  
 糸巻がなんかの拍子にハズれて,ぎゅるんと戻っちゃった後とか,糸を張り替えた後なんかによく起こります。
 急いで巻いたりするとこんなふうに,テキトウに巻き込んだ糸が邪魔になって,糸巻を糸倉から押し出してしまうことがあるんですね。
 対処法は,糸巻から糸を引き出し,キッチリと巻き直してあげるだけです。

 糸が軸孔に噛んじゃうと,傷んで切れちゃうこともありますし,あんまり一箇所に寄せて巻いて,おダンゴを作っちゃうと,弦の反発がすごくなって糸巻が回ったり,最終的な音合わせがうまくいかなくなったりもしますので,糸はなるべく均等に,キッチリ巻いてあげましょう----この楽器の扱いの中で,意外と見落とされがちな部分です。


確認4 それでもうまくいかない場合

 まずまず初心のうちは,上記のような理由であることが多いんですが,以上を確認しても,まだユルみやすい,音が合わないといった場合には,次のようなマジ故障のこともあるのでご連絡を。

 1)糸巻の加工不良。
 2)棹なかごの接着剥離。
 3)棹孔の割れ。

 1)はまあ調整ミスですね,ないではないです,ごめんなさい。
 2)3)の場合は糸を張るときよく見てると,若干棹が浮き上がったり動いたりします。こういう時は,棹を抜いて胴体の棹口と,棹なかごの基部を確認してみてください。
 2)の場合,棹本体と延長材を持って軽く反りや曲げをかけると接合部にスキマができちゃいますし,3)の場合は棹口のどこかにヒビ割れが出来ちゃってると思います。棹口に指をつっこんで軽く広げてやれば確認できるかと。
  
 何度も書いてるように,清楽月琴ってのは13コしか音のない,おぼえちゃえばバカでもネコでも弾ける,ごく単純な楽器ですが,「音合わせ」はこの楽器を扱う上での最初の関門。とはいえ,弦楽器ってのはチューニングができなきゃ,基本弾けないものです。

 さあ,みなさんがんばって,快適な月琴ライフを!!!

(おわり)


月琴55号 お魚ちゃん(2)

G055_02.txt
斗酒庵 わらしべ長者 の巻2017.6~ 月琴55号 (2)

STEP3 渦まき楽器クロニクル

 ふぅ…………
 なかなか,良かったぜ。(…シクシク)

 というわけで,内部構造確認と修理のため,裏板をひっぺがしました。

 側面に貼りまわした唐木の薄板は,表裏の面板の間にはまってるカタチになってるんで,どのみちどっちかの板をハガさないと確実な修理ができませんゆえ……
 表板ははがすと後が面倒ですし,さいわい裏板は真ん中にビッっとヒビも入っており,その両端にハガレも少々----いえいえ,ただもうナカミを見たかっただけとか,お父さんの目覚まし時計同様ぶッ壊してみたかったとかいうわけでは,けっしてけしてございません。

 まず目につくのは響き線ですね。
 渦巻線自体は珍しくありませんが,取付けられているのが下桁で,さらに片側に寄っています。
 定番は上桁の真ん中か左右に一つづつ,といったところで。まあ推測するまでもなく,そのどちらもシロウトさんならだれしもが思いつきそうな 「いかにも構造」 ではあります。
 それに対してこちら。演奏位置に立ててみるとこれが,お客さんのほうに最も近く向き合う位置となりますので,もしかすると若干の音響的効果を考えてなされた工夫だったかもしれません。

 少しサビは浮いていますが,線の状態はごく健康的。
 かなり丁寧に,キレイに巻かれてます。
 下桁に挿されているクギは線の固定とはまったく関係なく,線を鳴らすための「舌(ぜつ)」 として入れられたモノと思われます。四角いクギでですが,頭がT字形になっていたり表面に若干加工の痕が見られますのでよく見かける和クギではなく,西洋式の丸クギを叩いて平たく延べたのかもしれません。
 ただ,こういう角のある鋭いモノを,ただでさえ割れやすい針葉樹材(おそらくマツ)の板に遠慮なくぶッこんだものですから,クギの刺さっているところから割れが入り,裏板がわがほとんどブラブラになるくらいハガれちゃってます----ちょっと下孔あけてから,とか考えなかったのかね,このヒトは(w)


 側板の本体は,やや厚めのホオ材。四方の接合部をちょっと彫り下げて小板を渡し着け,接合を補強しています。この補強工作のおかげもあって,四方のうち3箇所までは,カミソリの入るスキマもないくらいガッチリとくっついていますが,裏板がわから見て右下にあたる接合部の接着がトンでおり,完全に分離してしまっています。
 側部飾り板の浮きや裏板のヒビ割れなど,この楽器の主要な故障の原因は,おそらくここからきてるものかと直勘されますが,さて,どうでしょう。

 ひとしきり確認し,計測をすましたところで第二段階。


 側面の飾り板をハガします。
 これは唐木の薄板をただ巻いてへっつけてあるだけなので,現状のように何箇所も浮いたところがあるとそこからペリペリ,かんたんにハガれちゃいますね。

 (悪代官) うりゃああああっ!!
        よいではないか,よいではないか!

 (村娘) あ~~~~れ~~~~~!

 てな感じに。(w)

 ううむ,なるほど。やっぱりなあ…
 飾り板をハガしてみたところ,先に触れた右下接合部が,およそ1ミリほど離れちゃってます。周辺に表板との接着の剥離や接合部の歪みもないので,これ,よくあるように材料が年月を経て縮んじゃったとかじゃなく,もともと部材の寸法が足りなかっただけのもののようです。
 この作者,工作の誤差であるこのスキマを埋めないまま,飾り板で巻き締めて誤魔化しちゃったんですねえ。樽とか桶でもあるまいに…………まったくもう,意外と大胆な力ワザだなあ。(汗)

 続いて,棹と表板上のお飾りや,接着痕に残った古いニカワなどをとりのぞき,修理への下準備をはじめます。
 この手の満艦飾な楽器の例によって,凍石の小飾りもニラミも余計なくらい頑丈に貼りつけられてますので,けっこうタイヘン。あちこち難渋しましたが,なんとか三日がかりで,月琴の身ぐるみをぜんぶひっぺがすことに成功いたしました。

 左右のニラミも真ん中の板飾りも,本物の唐木----たぶん黒檀----ですね。
 材料的にもお金のかかってる楽器です。

 ではここで恒例のフィールドノートを。
 損傷個所と各部の寸法など,詳しいデータはこちらに書き込んであります。
 下の画像,クリックで別窓拡大。
 何かの参考にどうぞ。


(つづく)


月琴WS@亀戸 2017年7月!!

20170730.txt
斗酒庵 WS告知 の巻2017.7.30 月琴WS@亀戸 エラい人には分からんのです!! の巻


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 7月場所 のお知らせ-*

 ----飾りなんて飾りです!!(w)

 2017年,7月の清楽月琴ワークショップは,月末30日,日曜日の開催予定。
 会場はいつもの亀戸 EAT CAFE ANZU さん。

 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願い。

 お昼過ぎから,ポロポロゆるゆるとやっております。
 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもOK。

 初心者大歓迎。1曲弾けるようになってってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可です。

 やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41号と49号の2本の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

 さてさて,夏のニガテな低血圧庵主。7月も30日といえばもうまつもなっさかり----生きてるかな?

 8月は庵主帰省のため,お休みさせていただきます。では夏のブランク前の開催,ふるってご参加アレ!

月琴54/55号 (1)

G054_01.txt
斗酒庵 わらしべ長者 の巻2017.6~ 月琴54号/55号 (1)

STEP1 53号の遺産(1)

 53号は良いところへお嫁にまいりまして,お父さんとしては一安心。
 今回は向こうでお持ちの楽器と交換,ということで。
 以前にうちで修理を手掛けた山形屋の楽器が,代わりにやってまいりました。
 自腹切ったわけではないので「自出し」というわけではありませんが,まあこれを54号といたします。

 修理記は こちら。

 このあいだ修理した52号とタメ張るくらい,ピカピカ真っ白の新品状態で出てきた楽器でした。
 修理と言っても,原作者の手抜きっぽい棹の調整不足の補正と,内部でひっかかってた響き線の調整をしたくらいで,あとはほぼオリジナルのままで最高のコンでッション。

 帰ってきてから小リビジョン。
 原作で山口の糸溝がやや広すぎたのを,コース一つぶん内がわに切りなおしたのと,バチ布をエンジから黒紺のに貼り替えました。

 お江戸の月琴らしい,澄んだ,ガラスの風鈴みたいな響きの楽器----すぐ弾ける状態です。

 あらたなお嫁入り先ぼしゅうちゅう!


STEP2 53号の遺産(2)


 さて,こちらは今回の交換で 「これはオマケ」(ありがたや) としていただいたモノ。 これもまあ「自出し」ではありませんが(w),55号とさせていただきます。

 全長:635。
 胴縦:359,横:360,厚:37。
 有効弦長:430。

 胴側に唐木の薄板を貼りまわした満艦飾の高級月琴です。

 蓮頭,糸巻4本全損,山口,いちばん上の小飾り,棹上フレット全損。
 バチ皮はなく,接着痕には浅いですがけっこうな虫食いが見られます。そのほか胴に数箇所虫孔アリ。
 裏板中央付近に上下ほぼ貫通したヒビ割れ,あとは胴側の飾り板が数箇所浮いています。

 欠損部品と虫食いが少しあるものの,保存状態は上々。表裏板の質も悪くなく,工作もけっこうしっかりとしています。

 サイズ的にも工作の面でも,この間修理した「長崎からの月琴」や「佐賀県から来た月琴」にたいへん近い楽器ですね。


 コードネームは 「お魚ちゃん」。

 いちばん上の小飾りが何だったのかは不明ですが,そこから エイ,タイ,フグ? カレイ? アリゲーターガー?(w) コイ----と,小飾りが「魚づくし」になっています。

 扇飾りは凍石で菊,中央飾りは唐木でキリン。
 左右のニラミも唐木で,流麗な鸞が付けられています。

 糸倉はやや厚めで,アールがきつく,間木が分厚くなっています。
 うなじはやや長く平たく,棹背は鳥の頸。胴との接合部で33,うなじの手前あたりで21,なだらかな曲線を描いています。
 指板は唐木。関西に多い,山口のところで切れているタイプですね。


 棹を抜いてみましょう----なかごがかなり短いですね。
 断面がほぼ真四角。月琴の棹のなかごとしては太目です。
 棹本体は軽く染められ,生漆をさっと刷かれているようですが,なかごの基部のところは染められてないのでもともとの木肌が出ています。延長材はホオだと思うんですが,棹本体は木理やや粗く,アッシュなんかに近い感じ……シオジあたりかな? さて,どうでしょう。
 基部表がわに経木のスペーサが貼られており,棹はきちんと角度調節されています。測ってみると,山口のあたりで背がわに3ミリ----一見お飾り月琴ですが,そのへんのことはちゃんと分かって作ってる人みたいですね。

 棹孔からのぞいてみますと,内部は比較的清潔。
 桁は2枚で,棹なかごの長さからも分かるように,上桁は胴のかなり上のほうに取付けられています。部分的に見える下桁も,実にきれいに工作されています。
 表板を叩いてみた感じから,響き線は渦巻タイプだと思われるんですが,上桁には基部がない。おそらくは下桁か地の側板に付けられてるんだと思います。

 前回の「長崎からの月琴」は依頼修理だったので,何の理由もなしに,板ァひっぺがすわけにもいかず,内部構造に一部不明点を残したままで終わってしまいましたが,今回はいちおう自出し(系の)楽器。

 側部飾り板のウキの修理もありますので,心置きなく身ぐるみハガさせていただきやす。

 うぉりゃああッ!!
    ちゃっちゃと脱げやあッ!!!


(つづく)


フレットがポロリしたら

flet_02.txt
月琴ファーストエイド の巻フレットがポロリしたら

STEP0 世に悲しみのつきぬよう,フレットポロリは月琴の宿命。



 清楽月琴のフレットはポロリします。

 どんなにしっかりへっつけてても,何時の日か,というか,まあけっこうしょっちゅう,ポロリとはずれよります。

 清楽月琴のフレットがポロリするのは,ごくふつうのことなので,これを直すのも,楽器のホコリを払ったり,糸を張ったりバチ皮のめくれをちょいと直したりするのと同じくらいのこと----この楽器持ってる以上,どッちにせい必ずやらなきゃならなくなる 「日常のメンテナンス」 のひとつ,だと考えてください。

 ----さあ,もうアキらめて,さッさとやったやった。(w)


STEP1 水で濡らすだけ。

 とはいえまあ,はじめてポロリするとけっこうビックリしますよね。

 ----でも,慌てないで。
 …おい,その手に持ったボンドとか瞬間接着剤は捨ててもらおうかッ!
 さもなくば,撃つ!!

 カンタンにポロリする,ということはへッつけるのもカンタン,ということでもあるのです。

 はじめはもっともカンタンな直しかた。
 まずフレットの裏と,そのフレットのへっついてたところを筆や綿棒でちょっと濡らしてみましょう。
 5分くらいおいて。
 ちょっと触ってみて少しでもベタつき感があるような大丈夫----接着剤のニカワはまだ生きてますので,次のようにすればだいたいはへっつきます。



STEP2 ニカワをつけよう。

 STEP1の修理はまあ,あくまで応急処置的なもので。
 2度ほどポロリをくりかえすと,ニカワの接着力がなくなって,へッつかなくなってしまいます。
 また,もともとニカワが薄かったり(足りなかったり),劣化して接着力が落ちちゃったりしている場合。
 何度やってもすぐポロリしちゃう場合などは,ニカワを足して接着しなおします。

 ほかのサイトとか,うちの記事で楽器修理の様子見てくれてるヒトだと,「ニカワで修理するなんて難しいことできないぃいッ!!」  とか思っちゃうかもしれません。
 まあたしかに----ニカワの扱いはボンドや瞬接に比べるとメンドいかもしれませんが,それはあくまでこれを「煮蕩かし」ドロドロにして使う,本格的な修理でのハナシで。

 庵主でも,日々のフレットポロリくらいで,
   いちいちニカワ湯煎するなんてこたァしませんて。
(w)

 うちの月琴引き取ってくれた方なんかには,たいてい楽器渡した時にいっしょに,小袋に入ったメンテナンス・キットを差し上げてるはず----その中に細切れにした 「棒ニカワ」 が入ってると思います。

 これを使います。

 フレットの底とへッついてたところを,あらかじめ濡らしておいてやるところまでは,前のステップと同じ。
 以下,手順。

 楽器のほうにもすこしヌルヌル,なすりつけといてやるとより効果的。

 ならすとき,ニカワが固まったり着けすぎてダマみたいになっちゃったときは,指に水をつけてなぞってなめらかにして,接着面にカタマリができないようにしてやってください。

 ニカワによる上手な接着のコツは 「薄くまんべんなく,そして軽い圧」 です。

 へッつけたあと,マスキングテープを上から渡しかけてやるとか,ちょっとした重しを上に乗せといてあげると,接着力がさらに高まります。


STEP3 もしも

 間違ってヘンなとこに貼っちゃった----とか,
 あとで見たら曲がってたりしてた時も,慌てない。

 フレットの前後に水を刷いて,しばらく(10分くらい)おけば,だいたいはまたモゲます。

 接着がうまくゆきすぎ(w),ガッチリ着いてなかなかモゲないようなときは,同じところにチリ紙とか脱脂綿に水をふくませたのを置いてやります。1時間くらいすれば,だいたいはモゲましょう。

 んでまたやり直せばヨイ。
 ニカワでの作業の良いところは,何度もやりなおしが効くところなのです----時間単位でも,百年単位でも。

 「棒ニカワ」 は画材屋さん,あるいはいまだと通販でも手に入ります。
 日本画のコーナーとかにありますね。画材屋さんによっては1本売りしてくれるところもあり,1本売りだと,ふつうはそんなに高いものじゃないです。

 接着するだけならべつだん「粒ニカワ」や「粉ニカワ」でもいいんですが,持ち歩く便を考えると,やっぱり棒ニカワがいちばんです。「液ニカワ」だと着かないんでご注意。

 使い終わった棒ニカワは,
  こんなふうにして立てて乾かしておきましょう。


 フレットに限らず,小飾り,蓮頭なんかがとれた時も同じような方法で良いですよ。

 んでは,メンテナンスもおぼえて,
   どうぞ快適な月琴ライフ(w)をお過ごしください。


(おわり)


月琴53号 (6)

G053_06.txt
斗酒庵 唐物と出会う の巻2017.4~ 月琴53号 (6)

STEP6 翼よ,あそこが杏家村。

 表裏の板がへっつき,胴が箱になったところで
 半月接着の前に,板をキレイにしておきます。

 国産月琴の場合,桐板の染めにはヤシャブシに砥粉を混ぜたものが用いられますが,唐物月琴ではヤシャブシの液のみか,それにスオウ,あるいはカテキューなどを混ぜたものが用いられているようです。
 染め液にスオウが混ぜられている場合,いつも使ってる重曹水で清掃しちゃうと,スオウがアルカリに反応して,板がピンク色になっちゃう危険性がありますので,まず目立たない端っこのほうで試してから----うん,だいじょうぶみたいですね。

 かなり濃いめの染めですが,どうやらヤシャ液だけのようです。あと何か,色合い的に黄色か茶色系の染料が混じってる気もするんですが,さすがにそこまで染色に詳しくないもので。(汗)


 表面板を濡らしたら,バチ痕がくっきりと浮かび上がってきました。

 けっこう大事に,そしてきちんと使われ続けた楽器だったみたいですね。
 明治期の月琴ではよく,三味線のバチなんかでけっこう深いキズが縦横につけられちゃってる場合がありますが,この楽器のは浅く細かく,ついてる場所から言っても,間違いなく清楽用の擬甲の痕跡です。

 該当する日焼け痕や接着痕が半月の上に残っていなかったことから,この楽器のバチ皮はかなり早い時期に取り除かれていたものと考えられましたが,それはこのバチ痕の範囲や軌跡からも確かめられます。中心部分はだいたい空白になってますが,バチの痕跡がバチ皮・バチ布の貼られる領域の内がわにまでいっぱい食い込んでいるのです。

 バチ痕に2種類のクセがあることから,少なくとも2人の人物がこの楽器に関わり,これを使って演奏したものと思われます。それと同一人物かどうかは分かりませんが,右のニラミの補作などは,この楽器のことをある程度わかっている人の工作だと考えられますが,山口やフレットの加工調整などは行き当たりばったりの作業であった感が強く,別の,あまり楽器の構造等にくわしくない者の仕業であろうかと思われます。

 山口は黒檀で新しいのを補作。

 端材箱を漁ったら,そこそこ良いカタマリがあったのでそれを材料に----ほとんどマグロ黒檀に近い材です。
 棹基部工作不良の影響で,オリジナルは上面が平らに削られ,かなり低くなっちゃってましたが,唐物月琴ということで,ほんらいの背丈はやや高め。補作のこれも13ミリにしました。

 糸巻はいつもの¥100均めん棒製。
 オリジナルも1本だけ残ってたんですが,やや細くて操作性が悪いのと,若干加工が粗いので,新しく1セット削ることにします。

 長12センチ,角をまるめた六角深溝の天華斎タイプ。
 玉華斎とかだと,糸巻のお尻がもう少し丸くとんがってて,現在の琵琶や中国月琴のペグなんかに近いのですが,天華斎系の楽器の糸巻のお尻は,国産月琴の糸巻のそれに近い----お尻の山が浅くて平らになってるんですね。
 これもおそらくは,天華斎の楽器のスタイルが,国産月琴に影響を与えた証左のひとつなのかもしれません。国産月琴の糸巻はこれを基本に,三味線の音締めなどの影響も受けながら,よく見かける,より角ばった,溝の浅いタイプへと発展していったんだと思います。

 スオウで下染め,ミョウバン発色。
 軽くベンガラを刷いてからオハグロがけ。
 この路線にしてから,黒染めの失敗がありません。今回も深みのある赤黒に染まってくれました。

 半月は欠けた部分をエポキで継いで清掃。
 亜麻仁油で拭き磨いた後,底部を平らに整形しておきました。
 ここもやや加工が粗く,板の上に置くと左右端に少々スキマができちゃう感じだったので----

 部品が揃ったところで半月を再接着します。
 まずは計測して,楽器の正確な中心線を求め,つぎに糸を張って実際のコースを確認しながら,慎重に半月の接着位置を決めます。
 位置が決まったところで,印のマスキングテープを貼り,ズレないように当て木を噛ませたら接着。
 大事な場所なので,クランプをかけたまま2晩ほど放置します。

 こういう時は庵主,基本,原作者の工作を信じないで,定規と糸と,自分の目だけを頼りにやることにしています。
 なぜかというと,この楽器の場合,こういうこと(上右画像)がママあるからですね----
 現在この半月がへっついてるのは,かなりシツコイ計測と計算の結果,庵主がハジキだした楽器中心線上の位置ですが,赤線は原作者のケガキ線。 この楽器の半月は,もともとこの位置にヘっつけられてたわけですね。
 その差,およそ7ミリ(^_^;)

 …ちょっと前の老天華ほどではありませんが………まあ当初はこれも,棹とか大きく傾いていたんでしょうからね。

 半月の接着具合を確認したところで,外弦を張ってフレッティングに入ります。
 今回のフレットは竹。

 唐物月琴ではかなりの高級品でも竹のフレットが付いてることが多いのです。
 晒し竹で作ったフレットはご覧のとおり,そのままだと真っ白ですが,これをヤシャ液で煮て一晩漬け込み,つぎにオハグロ液をまぶして一日。
 乾かして磨き,最後にラックニスに漬け込み,また磨いてようやく完成。
 牛骨や唐木のに比べると,加工は格段に楽なのですが,古びて見せようと思うと,それそこに手間のかかるものです。

 フレットをオリジナルの位置で配置した時の音階は----

開放
4C4D-114Eb+114F-294F#+494G#+475C-405D-445E+20
4G4A-204Bb+65C-445C#+405Eb+315G-495G#+455B+14

 まあ,楽器の棹やフレットの状態から,ある程度は想像してましたが…
 ちょっとむちゃくちゃですねえ。(w)
 棹基部を調整修理しない状態で,フレットの高さや位置を変えてなんとか対処しようとしていたようですので,このオリジナルのフレット位置が製造当初からの物だったかについては疑問がありますが。
 庵主はおもにこういうデータが目当てで楽器の修理してるんですが(^_^;)ここまで誤差があると清楽の音階の資料としてはちょっと使えません----まあ「参考」程度にはなりましょうか。

 なくなっていた蓮頭。
 オリジナルの意匠は牡丹かコウモリってとこですが,このところ牡丹ばっかり彫ってましたので,ひさびさにコウモリですね。これと同作者・同時期と思われる天華斎の楽器の資料画像を参考に,手を似せて彫りました。
 縁に鋸痕残してギザギザにしとくと,より唐物っぽくてカンペキになったんですが,まあ庵主,その手の工作にアレルギーのある日本の職工ですし。(w)

 胴左右のニラミと扇飾りは染め直し,ニスを軽くはたいて色止めしときます。

 柱間の小飾りは,オリジナルが3コ残ってますので,あと4つ,それらしいのを彫りましょう。
 あいかわらず,花なのか実なのかよくわからん物体ですが,もうかなりの数作ったんでこのくらいならちょちょいのちょい。
 書道のハンコ,篆刻用に売ってる凍石を2ミリほどの厚さに切って,三角もしくは台形に刻み,彫金用の精密ノコや篆刻用の印刀で彫りあげます。石は石なんですが,柔らかいのでけっこうサクサク彫れちゃうんですよ。

 中央飾りは痕跡もなく,もともと付いてたか付いてなかった分からないんですが,とりあえず胴の中心がスペース的にヘンに空いてしまうので,なにかこさえて付けとくことにします。
 線彫りの鳳凰のついた円盤状のお飾りが定番ですが,今回は庵主,ここに存在証明を残しておこうと思います。
 蝶と牡丹。ちょっと凍石細工の限界に挑戦してみました。

 バチ布には斗酒庵定番の梅唐草の裂。
 半月が小さめなので,それに合わせて上角を丸くしたコンパクトなやつにしました。

 最後にラベルの贋作を(w)
 何代目のかは分かりませんし,確実な証拠もありませんが,各部の特徴や工作から見て,たぶん天華斎で間違いはないと思います。画像資料を参考に作り,贋作だという証拠に一部の画を違えたうえで,庵主の落款をベタっと捺しておきましょう。

 以上をへっつけ,2017年5月20日。
 春の連続修理,最後となりました唐物月琴53号,
 めでたく修理完了!!!!


 鳴ります----もう激鳴り。
 下品なぐらい(w)ごわんごわん,大音量で鳴る楽器ですね。

 表裏板も側板も薄いので音のヌケがよく,国産月琴にくらべると,ずっと開放的で明るい音色です。ギターなんかの音に近く,日本的な「風雅」なんちゅうものからは少しはずれた感じですが,庵主はこれこそが「月琴」という楽器,本来の音だと思ってますよ。
 ちょっと前にも書きましたが,国産月琴の音色は日本人が「月琴」という名前から想像(妄想)したもの,ある種,中二病的な観念から紡ぎ出されたものですが,もともとこれは西南少数民族のダンス・ミュージックの伴奏楽器です。
 このくらいガンッっと響かなきゃ,誰も踊ってくれませんて(w)

 とはいえその音にはやはり,歴史を経めぐっててきた大陸の古楽器の趣きがあります。明るく鳴り響く音の胴体の向こうから時折,震えるような白い余韻が還ってくる----食通云うところの「回味」みたいなこの音の感触は,国産月琴ではなかなか味わえませんね。

 胴側部と棹は,亜麻仁油をしませ乾燥させてから,カルナバ蝋で磨き上げました。

 鉄刀木に近い木で「ムラサキタガヤサン」と呼ばれるものがあり,長いこと両方「タガヤサン」と言って売ってきたもので,銘木屋さんでも時折区別のついてないことがあるんですが。本物の鉄刀木(ホンタガヤ)は,油をしませると濃いワインレッドになり,ムラサキタガヤよりいくぶん繊細な縞模様と,細かな「あわめ」と呼ばれる独特の模様が浮かび上がります。細かいあぶくというか粒状の模様----ずっと「粟目」だと思ってきましたが「泡目」だったかもしれませんね----あと,所により金色に燃え立つような帯状の光彩(上右画像参照)が出たりもします。
 カタいは暴れるはよく割れるわで扱いのきわめて難しいニクたらしい木(w)ではあるんですが,手入れをちゃんとすると,たしかにほかに換えようがないくらい美しいんですよ。高級材として珍重されてきたのも納得。

 いちばん上の糸巻が,蓮頭のかなりギリギリの位置になってますね。
 向こうがわを膝とかに押し付けて調弦するぶんにはさして問題になりませんが,演奏姿勢のまま直そうと思うと,蓮頭が手に近すぎてちょっと気になるキライはあります。

 現状では各部修理個所に問題は発生していませんが,なにせけっこうな大手術でしたし,もともと材料・構造的の強度不安がないではない。
 出来うる限りの補強はしましたが,もともと接着に難のあるような材料を,極限まで薄くしたような部材で構成されてますんで,どっかにちょっとぶつけたら,かんたんにパッキリバッキリ逝っちゃいそう----そういうあたりいくぶん繊細なので,取扱い上注意してやってください。

 ----とはいえまあ,壊れたら壊れたでまた直しますから。
         いまはまず最上の道具,ガンガン弾いてやってくださいね。(w)


(おわり)


月琴53号 (5)

G053_05.txt
斗酒庵 唐物と出会う の巻2017.4~ 月琴53号 (5)

STEP5 フェイト・イン・ザ・チャイニーズノット

 胴体がめでたく「桶」の状態にまでもどった月琴53号。
 各部の補強や補修も進んで,グラグラプラプラで不安定だった胴体構造が,ようやくあるていど安定した状態になりました。

 前回も書いたように,この時点で庵主は,ハガれた板を全面固定してはおらず,この表面左右の小板も部分的に板が剥離した状態になっています。
 表面板,楽器に向かって右がわは,オリジナルの接着がかなりの範囲で残っており,もともと比較的安定した状態になっていましたが。左がわは小板自体の質が若干劣るためもあり,右に比べると剥離の範囲も大きく,動きやすいプラプラした状態になっていました。
 庵主ここまで,逆にこの状況を利用して,板の矯正や再接着の際に生じた微妙な作業誤差を,なるべくこちらのサイドに寄せるようにして処置してきたもので。最終的には数ミリくらいのズレが生じるような事態もいちおうは考慮していたのですが,けっきょく終わってみると,表面板の縁にわずかな段差ができる程度で収まってくれました。


 この,修理作業で生じた誤差の辻褄合わせをするために,まずは左の小板を切り取ります----胴体構造が固まっていない段階だと,こういう作業もできなかったわけですね。
 そして切り取った小板と中央の板との間に,幅5ミリほどのスペーサを噛ませて再接着。
 これで板の縁が胴体からハミ出るかたちになりますから,あとは余分を切り取り,整形すればもとのとおり側板と面一になるわけで。

 同時進行で,板表面のほかの部分のお手入れもしてゆきましょう。
 まずは半月の接着痕にある大きな虫食い。
 板を貫通するほどではありませんが,けっこう深く複雑です。

 もう一つは上縁中央,棹口の真上あたりが潰れて丸くなってしまっています。これは前にも書いたように,棹基部の工作不良のため,棹がお辞儀していたせいですね。 棹が持ち上がるたび,棹オモテ接合部の角がこのあたりに刺さって,面板の縁を潰してしまったものでしょう。
 これをこのままにしておくと,棹をちゃんとした位置に挿した時,棹の接合部と指板との間に大きなスキマができてしまい,棹の安定上もよくないですし。この棹と胴の境目のあたりは,調弦に使うため大事な第4フレットがつくところですので,きちんと直しておかないと後々めんどうが増えます。

 この二箇所の補修は,木粉粘土&エポキの最新技法で行います。
 木片を埋め込んだり継ぎ足したりする方法もあるんですが,半月の虫食いは複雑な形状になってますし,棹口のところは木目的に木口の部分になるので,継ぐ木の加工が難しく,この後の作業に耐えられるかという,強度的な問題もありますからね。
 最近開発したカガクの力をちょっと借りましょう。

 虫食い痕にはヤシャ液で練った木粉粘土を充填,棹口のところには角に盛り上げ,固まったところであるていど整形。そしてそこに,アルコールで緩めたエポキを何度かに分けて塗布。補修部分にじっくり吸わせて強化したうえで,硬化後,ハミ出したエポキを削り取りつつ,も一度きっちり整形します。

 ついでに半月のところにあけられてた 「陰月もどき」の孔も,桐板のカケラで埋め込んでしまいますね。
 唐物月琴に基本この手の孔はあいていません。おそらくはこれも,日本の職人さんが琵琶の陰月の真似してあけてしまったものでしょう。


 最後に矧ぎなおした箇所のスキマやヒビ割れ・裂け割れ,縁の欠けた部分などを埋め込み,整形してゆきます----直接音に影響のある部分だけに,裏板のないオープン状態で表裏から確実な作業ができるのが有難い。

 だいぶんあちこちハゲハゲになっちゃった感じですが,これで表板上の下作業はだいたい終了。 あとは裏板を貼れば胴体が箱にもどりますが,その前に棹のフィッティングをしておきます。

 これもまたオープン状態のいまなら,
    どんな微妙な調整でも可能ですからね。


 棹孔は裏からネックブロックを接着して補強してありますが,もともとの加工がけっこう乱暴なので,ネック・ブロックとの間に少し溝と段差ができちゃってました。
 まずはこれを,唐木の粉をエポキで練ったパテで埋め込み,整形します。

 ついで,実際に棹を挿してみながら,角度や傾きを調整。
 もともと唐物月琴の棹の取付けは,日本人の感覚からするとかなり雑なもので。挿しこみがユルユルガタガタなのは当たり前,弦がユルんでると右か左に傾いちゃう,なんてケースもありました(それでも,弦をきっちり張れば,所定の位置にちゃんともどるので,演奏上の支障はあまりない)。
 言うても,庵主もまた神経質で心配性な日本の職人ですので,どうもその手の工作にガマンができません。(w)はじめからちゃんとした位置に,スルピタでおさまっててくれないと何かおなかのあたりがムズムスしてしょうがないのです。

 棹孔と棹本体の基部を少しづつ調整して,

 1) 楽器の中心線と棹の中心線が合う位置に,
 2) 胴との接合部のところでは指板と面板の縁を,段差なく面一に,
 3) 山口のところで,背がわに3ミリほど傾くように。

 すなわち,この楽器の理想的な設定に近づけてゆきます----とまあ,言いならべるはカンタンなれど。
 いつものことながら,その「理想に近づける」工程は,この楽器の修理作業の中で,いちばん時間もかかり,神経も使う場面ですね。

 位置や角度が決まったところで,こんどはスキマなく,ガッチリ噛み合うように調整した棹本体と延長材を接着します。

 せっかく時間も手間もかけ,バッチリキッチリ調整したので,ここらでもう微塵も揺らいで欲しくはありません。今回は裏板も開いてますので,棹を楽器に挿し,その「理想の状態」にしたままで,接着養生しちゃいましょう!

 この棹の作業が終われば,ようやく胴裏を開けておく用事がなくなります。

 裏板は4枚矧ぎ。まあいちばん左端の小板は,辻褄合わせに入れられた幅1センチくらいの細いものなので,質的には表の3枚矧ぎと同じようなものです。ただし,それぞれの小板の質は表よりかなり劣っていて,大小の節目があちこちにあり,ちょっと厄介な暴れかたをしそうな板になっちゃってますね。


 あらかじめ左端の小板を継いでおいて,3分割の状態で再接着の作業をします。あとで左右の間にスペーサを埋め込むので,そのぶん少しスキマをあけて接着します。

 左のスペーサは必要最小限の幅ですが,右の小板の端に少々厄介な節目(左画像)があり,これを少し切り削って除いておきたいので,右がわは少し間隔をあけ,1センチくらいの幅にしてあります。
 この節目----真ん中にあったなら,さして気にもならないんですが,胴材が薄いせいでただでさえ接着に不安のある縁の部分,さらには胴の接合部のすぐそばにその中心があるので,将来のカコンとなる恐れが多少ござる。

 一晩おいて板の接着を確認したら,修理で出た古板を刻んで埋め込みます。
 固まったところで,スキマやヒビ割れを補修し,均して完成です。

 さあて,これで胴体が箱にもどりました。
 53号天華斎,楽器として復活するのも,間もなくです!!

(つづく)


月琴53号 (4)

G053_04.txt
斗酒庵 唐物と出会う の巻2017.4~ 月琴53号 (4)

STEP4 バインディング・ヨー・フット

 月琴53号天華斎,まずは胴四方接合部の補修から。

 前回も書いたように,もともとモロく弱い木取りになってる部分に,わざわざ壊れやすい複雑な組みかたをしているのではありますが,まずはその破損部を継いでもとの構造に戻します。
 この段階では,部材の接合そのものには一切手を加えません。単に割れてるところを継ぎ直すだけ。

 正直なところ,この状態だといっそ接合部まるごとエポキで固めてしまうのがいちばんてっとり早く,かつ最も丈夫なのでありますが,そうした場合,この接合部は二度と「壊れなく」なってしまいます。
 いつも書いてるように,「壊れるべきところから壊れたもの」は何度でも修繕して再生・使用できますが,「壊れないもの」は壊れたらゴミにしかなりません。この接合部が壊れてるのは,棹の不良や胴材の収縮によるもの。もしここが壊れるべくして壊れてなければ,側板の真ん中からバッキリと割れたり,胴体が半分になってしまっていたかもしれないのです。
 ですので,もしここを「壊れないように」してしまった場合,次に何らかの衝撃や予期せぬ負担がかかっても,その逃げ道がありません。そうなった場合の破損状況は,原作者の意図も修理者の能力も超えた,修復不可能なものとなる可能性があります。
 100年以上前に福州で作られ,日本の清楽家に名器と讃えられてきた楽器です。なるべく長く,とこしえに,あり続けてもらいたい。
 もちろん,オリジナルの工作に問題があるのですから,その対策はします。しかしそれはここが二度と「壊れないように」するものではなく,あくまで 「壊れるべきときには壊れる」 ような方法でなければなりません。

 さてさて,ちょっとした哲学問答みたいなハナシですね。

 破損部分が接ぎ固まったところで,はがれていた天の側板を表面板に再接着します。第2回で述べたように,不安定な状態で棹からの圧力を受け続けた天の板は若干たわんでのびてしまっていますので,そのままだと板の中央のあたりが,面板の縁から1~2ミリ後退した状態になってしまいます。
 面板と側板の接着面をじゅうぶんに湿らせ,薄めたニカワをふくませたところで,内桁と天の板との間に切ったワリバシを何本も挿しこみ,天の板を少しづつ持ち上げ,接着しました。道具が道具なので,見たとこそんなたいそうな作業をしてる感じもしませんが。粘りのないタガヤサンのこと,一気にやるとバキッっとか逝きそうですので,板の内外を筆で湿らせながら,長さを少しづつ変えたワリバシを様子を見ながら押し込んでゆく,きわめて緊張感あふれる作業でありましたよ。
 さらに,これによってほかの部分が歪まないように,ゴムをかけまわして調整しています。
 このまま2日ばかり放置しました。

 天の側板がもとの位置にだいたい戻ったところで,次は地の側板を接着。こちらもほぼ全周ハガれてしまっていますが,天の板と違って部材自体に変形はありません。

 ここまでの作業で,じつは庵主,この天地の板を全面完全に再接着してはおりません。表面板は3枚継ぎ,中央にいちばん幅の広い板があり,左右に小板が接いであるのですが,庵主が接着しているのは,その中央の板のさらに中央部分のみ。左右小板の矧ぎ目より手前,四方の接合部にかかるより手前のところから先のハガれているところはハガれたままにしてあります。
 これは,部材の矯正作業もやってるこの時点ですべての板をガッチリつけちゃうと,各部材がまったく動けなくなっちゃうからですね。まずは楽器の縦のライン,背骨にあたる部分を矯正・復活させ,そこからほかのカタチを固めてゆく作戦です。

 天地の側板がぶじ板にへっついたところで,いよいよ接合部の補強にとりかかります。

 やることはまあ,ごくスタンダードな方法。
 もとの板が「薄くてモロい」のですから,これ以上割れないように,裏から板を足してやりましょう。カツラの補強板を,各接合部裏面の形状に合わせて削り,貼りつけます----原作者が見栄えの為だけによけいな工作をしてくれやがったせいで,たかだか板へっつけるだけなのに,補強板をピッタリ合わせる加工がけっこう複雑でタイヘンです。(^_^;)
 できあがった補強板は,ニカワを湯煎するのといっしょの鍋に入れ,煮て少し柔らかくしておきます。お湯で湿らせた接合部の裏がわに,ニカワをたっぷりしませ,さらに唐木の粉をニカワで練ったゆるめのパテを部材表面の細かな凸凹の充填剤として塗りつけたところで補強板をセット。接合部を手で密着させながら,表裏に当て木をしてクランプをかけ,補強板を圧着してゆきます。

 つぎは棹口を補強します。
 縦方向の支えになる構造のないこの楽器で,棹からの負担を一身に受け止めていたのは,天の板の棹口部分と表面板との接着面----幅5ミリあるかないかの「のりしろ」部分でした。棹の工作不良による余計な負担の集中が重なったとはいえ,そのせいで一度変形してしまってるうえに,ただでさえ接着に難のあるタガヤサンですから,向後の安心のためにも,きちんと補強しておかなければなりません。
 ではどうするか?----天の板をもっと丈夫で接着の良い材に取り替える,天の板と内桁の間にいまワリバシでやってるような「支え」を渡す,表裏の板ウラにギターのブレーシングのような補強板を接着する……考えつく方法はいくつもありますが,その中でいちばんオリジナルを損なわず,もっともシンプルな工法を選びましょう。
 天の板の接着がはがれ変形したのは,その材質と5ミリしかないせまい「のりしろ」のせいです。もし同じ材質だったとしてもせめて厚みがその倍あれば,こうはならなかったはずです。

 棹孔の裏にネック・ブロックを接着します。
 材はこれもカツラ----カツラは接着が良いので,タガヤサンの側板にも桐の面板にもしっかりくっついてくれるはずです。最も力のかかる部分にだけ「のりしろ」を足すことで,棹からの圧力をより効率的に,表板のほうへと分散させようというわけです。「のりしろ」が広くなったぶん接着も強くなってますので,側板の変形にもあるていど対抗できるかとも思われます。
 棹孔裏面の色が濃くなっている部分は,原作者の工作によるカケがあったところ。こういうのがあって接着面が凸凹してるとうまくくっついてくれないので,まずはこういうところを補修・整形しながらの作業ですね。

 ネック・ブロックが着いたことで,楽器の新しい「背骨」が完成しました。
 これで裏板がつけば,縦方向への剛性は前よりも増加しているはずです。
 四方の接合部もあらかた固まったので,クランプをはずし,補強板の余分を切除して整形,充填剤のハミ出しや圧着痕なども軽く清掃しておきます。

 続いては内桁左右端の接着。
 胴材の変形の影響で,ここもニカワがトンでしまっています。

 これを再接着するのと,ついでに裏板がわから見て内桁の左,響き線の通っているがわのはしっこの工作が悪いので補修しときましょう。
 まずはカケ部分に合わせて削った木片にニカワを塗って押しこみ,クランプで固定。一日置いて整形します。この左端部分は厚みがありすぎて,少し側板から凸ってましたので,上面もざっと削り,側板と同じ高さに均しておきます。

 内桁の接着養生中に響き線の手入れもしておきましょう。
 少しサビは浮いているものの,線自体は全体に健全。基部の傷みもさほどありません。
 唐物月琴の響き線は胴体に直挿し。少し大きめの孔に線を挿しこみ,竹などを打ち込んで固定しています。国産月琴だと留めのクギが線の基部に突き立ってますが,唐物の場合だと頭が切ってあって,ほとんど目立ちませんね。


 それほどのサビでもないので,#400の Shinex で軽く落とし,柿渋拭きを何度かして済ませます。Shinex に柿渋を染ませて何度か拭うと,表面が真っ黒になります。布で軽く拭っていちど完全に乾かし,その上からラックニスを刷いて防錆加工とします。
 鉄と反応して真っ黒に変色した柿渋の液は,板についたりしたらまずとれませんので,作業の時には下にラップなど敷いておきましょう。

 ニスが乾くまで,さらに二三日おいて。
 ここまではめてきた天の板矯正のワリバシやクランプ,固定の輪ゴムをぜんぶはずしました。
 まだ接合部は板と接着されていませんが,天地板の再接着と各部補強板のおかげでグラつきもなく,胴体構造は非常に安定しています。

 さて,ここまではだいたい庵主の考えた通りの手順,想定内の作業で修理は順調に進んでおります。

  ----このままナニゴトもなく,スムーズにいけばいいのですが。


(つづく)


佐賀県からきた月琴(2)

TY03_02.txt
斗酒庵 SAGAよりの使者に会う の巻2017.4~ 佐賀県からきた月琴 (2)

STEP2 ワラスボ怪人が倒せない。

 んでは,SAGAの国からとどいた月琴,
                   修理開始いたします。


 とはいえこの楽器,器体の基幹部分に損傷はありませんので,この先なんかのひょうしにどえりゃあキズでも見つからない限り,だいたいのところは「補修」レベルの作業でとどまりそうです。

 まず何はともあれ,棹や表板上のお飾り類をはずします。 棹上いちばん上の菊の金属板と,3番目のサンゴのかけらはあきらかに後補。そのほか第2フレットと4番目のお飾りも,同様にゴム系の接着剤でへっつけられていました。
 あと,第5フレットはおそらく木瞬。カリカリした感じの接着剤----いづれも古物屋さんのシワザでしょう。
 百年以上むかしの楽器にこの手の接着剤を使うあたり,昔カタギな骨董屋の小僧経験者としては,業界の堕落を鼻で笑うしかございませんが。 たんにヘタなのか,それともいちおう遠慮して使ったのか。今回このあたりは比較的カンタンにはずれてくれやがりました。

 苦労したのは,むしろオリジナルの接着部分で。

 -----ああ,やっぱりこの作者,ウデが良いや。
 スゴいですね,バッチリへっついてます。
 接着面にスキマもほとんどないくらいの緻密な加工も相俟って,そりゃもうガッチリピッタリはずれません。
 ちッとやそッと水刷いても,滲みこんでもいかないもんなあ(汗)
 ものつくりの職人として,その気持ち,分からないでもないんですが……ただそれが「楽器」というものである限り,後先にかならずメンテナンスの必要があるってことまでもうちょっとちゃんと分かってたなら,こんなにガッチリへっつけはしなかったでしょうねえ。

 楽器は置物でなく,人に使われる「道具」です。ノコギリなら目立てをしないと,刃物なら砥がないと,どんなイイ物でも真価を発揮できません。減ったり切れたりしたら,足したり替えたりしてあげなければなりません。汚れたらキレイにして,磨いてやらなければなりません。

 そのあたりまで考えてくれてれば,「名人」って呼んであげてもいいくらいなんですが(w)

 ふつう2時間も湿らせれば,だいたい取れてくるところ。ちょっと頑丈でも一晩あればなんとかなるところ----今回は全部はずすのに足かけ2日もかかりました。
 ちょっと前の老天華などでも同じような事態に出食わしましたが,ふつうならコレ,メンテナンスの下準備ていどの作業。
 こんなことで器体に余計な負担をかけつづけるのも良くないので,ガンコなあたりは,クリアフォルダの切れ端でしごいてハガしてゆきます。

 板が乾いたところで,楽器左下縁の板の剥離を処置。
 上で使ったクリアフォルダの切れ端で,板と胴のスキマにニカワを流し込み,よーくもみこんで行き渡らせ,クランプで固定します。
 側板表面の飾り板も少し浮いてるようなので,当て木を噛ませ,ゴムをかけておきました。

 楽器右下,板の縁に少し大きなカケがありましたので,ここは桐板のカケラを接着して整形。
 そのほかお飾りをはがすときについた被害箇所とバチ皮の貼ってあった部分の右がわにあったヒビ割レ(生皮の収縮で裂けたもの)を埋めておきます。
 今回,楽器本体に直接関係する補修はこのくらい。

 さあて,後はさらに細かいですよ~。

 半月のお飾りは,いじくってたらポロリととれてしまいました。まあこれは,ニカワを塗ってへっつけてあるだけですので,ヘっつけ直すだけ。

 左はしに,カケてなくなってる部分がありますので,これを補します。オリジナル部分はツゲですが,ツゲは古色をつけるのが少し難しい材,同材だと補修部分が目立ってしまいますので,ここは染まりやすく七化けするカツラの端材でこさえます。
 だいたいのカタチに刻んで磨き,スオウやヤシャブシで染め,ほかといっしょに油磨きしたらほら----うまい感じにおさまりました。

 ニラミの意匠はザクロですね。
 右に数箇所割レが入っているのと,左に葉先がカケちゃってるとこがあるので直しておきます。
 月琴のこの飾りは,だいたいがカツラとかホオとか,彫刻しやすい材を唐木風に染めたものなんですが,この作者のはホンモノの黒檀,それもかなり上質な板を使ってます。彫刻も精緻ですね。
 端材箱を漁って,ちょうどいいくらいの大きさのマグロ黒檀のカケラを見つけ,これを刻んでエポキで継ぎ。あとは右のお飾りを参考にしながら,彫刻刀やリューターを駆使して,オリジナルと模様をつなげます----彫りが……こ…細かいぃっ!!!…これに合わせるのか(汗)

 剥がした時に割れてしまった2番目の小飾りを補修。
 いちばん上のお飾りには新しくを,3番目のところにはを凍石で彫りました。

 余計な溝が何本も切られていて不便だしまぎらわしいので,山口の糸溝をいちどぜんぶ埋めてしまいます。


 このパテは,赤系の唐木の粉をエポキで練ったものですね。
 こういうところに盛るときは,そのままだとパテが自重で崩れたり流れてしまうので,必要箇所にこんもり盛り上げてから,くっつかないような板や,クリアフォルダの切れ端などでフタしてやるようにすると,こんなふうにうまくいきます。
 これを削って均し,新しく糸溝を切ります。

 外弦間14ミリ,各コースの間隔は2ミリほど。
 高音弦と低音弦で糸の太さに合わせ,微妙に変えます。

 これで糸が張れるようになりました----さあフレットをもどしましょう!

 佐賀よりきた月琴,オリジナル位置での音階は-----

開放
4C4D-44Eb~4E4F-164G-44A+45C-255D-135F-18
4G4A-84Bb+455C-145D-135E+25G-305A-116C-33

 第2フレットの第3音が低めで,ほとんど Eb になってます。清楽の音階ではもともと低めな音ですが,だいたいはマイナス20%前後ですね。高音域に少し乱れがみられますが,これもまあいつものこと。チューナーのなかった時代,このくらいなら十分に許容範囲だったと思いますよ。

 あとは内弦を張って,お飾りをもどし。
 楽器といっしょにオーナーさんから送られてきた錦裂で
 バチ布をあつらえて。

 2017年5月,佐賀からきた月琴,修理完了です!!


 まあ,表板を清掃したのとお飾りが二三入れ替わってるくらいで。画像だとよほど細かく見ないと外見的には違いが分からないかと思います。(w)
 裏板の中央に少しヒビが入ってるんですが,フシ目の真ん中に出来た自然発生的なものなので,現状,広がるのかこのままなのか判別できず,今回は手を出しませんでした。
 このままでも音や操作上の支障はないと思いますが,ヘンに広がってくるようでしたら補修しますので送ってください。

 木部は全体さっと清掃して,亜麻仁油とカルナバ蝋でとぅるっとるに磨いてあります。
 さすが唐木の高級月琴----軽くお手入れしただけでぴかっぴかです!

 響き線の形状の差で,余韻は多少異なりますが,こないだ直した51号にも似た,温かくやわらかな音ですね。
 国産月琴としては音量もそこそこ出てるし,かなりいい楽器です。

 糸巻がやや細いので,調弦のクセによっては,多少力加減が伝わりにくいかな。
 もっとも糸倉との噛合せは良いので,それほど困ることはないと思います。

 普及品の楽器に比べるとかなり重たいので,慣れないうちは演奏時のバランスの違いにちょっと戸惑うかもしれません----あと,これだけ重たい楽器なんで,壁とかにたてかけて置いておくときなど,ちょっと注意してください。雑木の楽器なら倒れてもそうたいしたことにはならないんですが,この手の唐木重量級楽器は,自重とその衝撃でけっこうパックリ逝っちゃうことがありますんで。

 では末永く弾いてやってください!

(おわり)


«月琴53号 (3)