月琴WS@亀戸 2017年6月!

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斗酒庵 WS告知 の巻2017.6.18 月琴WS@亀戸 楽器の性能の違いが音楽の差でないということを…教えてやる!! の巻


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 6月場所 のお知らせ-*

 ----いえ,そんなたいそうなことは教えませんが。(w)

 2017年,6月の清楽月琴ワークショップは,18日,日曜日の開催予定。
 会場はいつもの亀戸 EAT CAFE ANZU さん。

 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願い。

 お昼過ぎから,ポロポロゆるゆるとやっております。
 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもOK。

 初心者大歓迎。1曲弾けるようになってってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可です。

 やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41号と49号の2本の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

 なんかじわりと暑くなってきたし梅雨も近いし, 3面同時修理直後のさらに2面追加(w),さんごのキョダツ感もましましですがガンバリますう。

 梅雨どきの気晴らし散歩のついでに,どうぞお立ち寄りください!

月琴の弾き方(4 中級者編)

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斗酒庵流 清楽月琴演奏法月琴の弾き方(4 中級者編)

STEP4 も少しうまく,弾いてみよう!

 さてひさびさの月琴弾きかた教室。
 えーと,前に書いたのが2012年………おぅ!5年もたってますやん!!

 月琴はギターや琵琶なんかと同じ「撥弦楽器(はつげんがっき)」,糸を「はじいて」音を出す類の楽器です。
 月琴の弦は4本ですが,2本づつ同じ音に調弦しますので,2本しか弦のない楽器と同じ。
 同じ音に調整した弦を2本いっしょにおさえ,2本いっしょにはじいて音を出します。こういうのを「複弦楽器」って言いますね。
 フレットは8枚。
 基本,13コしか音の出ない,ごくごく素朴で単純な弦楽器です。
 難しそうに見えても,あんまり難しく考えないように。

 「できない」とか思ったら,そこで負けだよ(キラキラ)

 糸のかけかたや調弦の仕方については,過去記事をどうぞ----

   改訂版・月琴の弾き方(1)
   改訂版・月琴の弾き方(2)

 まず基本は「ピンカラ弾き」。
 一音に一回,バチでパチパチ弦をはじいて音を出します。
 ピンカラ鳴るので「ピンカラ弾き」と呼んでおりますが,兄弟ともトリオとも関係はありません(w)

 ではこれで「朧月夜」を弾いてみましょう。なのはーなばたけえにー



 左手の指の位置をいちいち確かめなくとも,ドレミの場所がおさえられるようになり,弦をバチ先で確実にとらえることができるようになったら,次の段階に進みましょう。

 「ピンカラ弾き」は基本ですが,これだけだとどんな曲弾いてもおんなじ調子で。どんなに良く弾けてても,おこしゃまのおゆうぎみたいに,どことなく幼稚に聞こえてしまうんですね。

 音を出すのに慣れてきたら,弦をはじく回数を減らしてゆきましょう。
 今回はそのテクニックのいろいろを。
 
 まずは「スライド」。
 弦をはじくのと同時に,指をすべらせて連続音を出します。1度はじいて2つ3つの音を出しちゃうワザです。

 コツは,弦をあまり強くおさえすぎないこと。
 あんまり「すべらそうすべらそう」と意識すると,指先にチカラが入りすぎて,指がフレットにひっかかっちゃったりします。(w)
 指を離したら音は中途半端なところで止まっちゃいますから,目的のフレットまでは,指を弦から離さないこと。
 あと,指に入れる力に強弱をつけましょう。
 はじめの音(弦をはじくとき)はふつうの強さでおさえておき,すべらせた先ではちょっとだけ指先に力を入れてきっちり「止める」----弱……強!ってとこですね。
 こんな感じ----



 「スライド」でうにょん,と音がつなげられるようになったら,つぎにトライするのが「ハンマリング」。
 邦楽器とかだと「打ち音」って言い,清楽の古い楽譜ではカタカナの「ウ」で指示されてます。

 基本的にはスライドと同じく,1度弦をピックではじいて,その音が残っているうちにほかの音を出す奏法のひとつ。
 「スライド」で指をすべらすのの代わりに,弦に指先をたたきつけて鳴らすわけです。

 ド・レ・ミと3回律儀にはじくより,ド・レではじいてミを「打ち音」で出すほうがなめらかに聞こえますし,開放弦のドではじいて,レ・ミの両方を「打ち音」で出したりもできます。

 ギターには,このハンマリングの音が出しやすいよう,フインガーボードのフレットとフレットの間をエグってくぼませた「スキャロップド・ギター」てのがあるくらいですが,月琴の場合,ギターにくらべてはじめッからフレットの背丈が高いので,もともとこの「打ち音」が出しやすい。
 慣れてきましたら,弦をはじかなくても指を打ちつけるだけで音を鳴らすことができるようになりますよ。

 「ハンマリング」は,指を弦にたたきつけて出す奏法ですが,弦をおさえた指を勢いよく「離して」も音を出すことができます。
 清楽では名前がない奏法ですが,ギターだとこれを「プリング・オフ」と言います。
 指先にちょっとだけ力を入れて,ぷん,と指を離すと「みょん」って感じに鳴りますね。たとえば,ラ・シ・ド(高)の3箇所を同時に指で押さえておいてド(高)をはじき,その音が残っている間に,ド・シの指をじゅんぐり離すと,ド・シ・ラの3音が出せるというわけです。

 これも慣れてくると,弦をはじいてなくても,指を離すだけで音が出るようになってきますってばよ。(ウソじゃないって)

 このハンマリングとプリングはセットみたいなものなので,組み合わせると,ドレミファソラシドが上からでも下からでも,低音弦1はじき,高音弦1はじきの2発で出せるようになります。こんなふうにね----



 「スライド」や「ハンマリング」で出せる2音め3音めは,もちろんピックで1回1回はじいたときの音よりは小さいので,大きく強調したい音はピンカラはじき,べつになんとなく聞こえてりゃいいや(w)くらいのとこや,とくになめらかにつなげたいとこで,この「スライド」や「ハンマリング」を使うわけですね。
 ピンカラ弾きだけだと,どの音も同じ調子になっちゃいがちですが,そこにこういうテクをはさめると,演奏にメリハリがついてなんかいかにも巧げに聞こえる,しかも弦をはじく回数が少ないぶん省エネ----っていう寸法ですな。

 では,ふたたび「朧月夜」を。
 こんどはスライドやハンマリングの技法をまじえて弾いてみましょう。
 ----はじめはまず「右手」のほうに注目。 右手が動いていないのに音の出てる時が,スライドやハンマリングを使ってるところですからね。



 「スライド」も「ハンマリング」も,弦をはじく回数を減らす,音と音の間をなめらかにつなげるという意味合いでは同じなんですが,「スライド」の場合はAとBの間の音が入っちゃいます。つまりドからミにつなげたいのに,間のレのかすかながらどうしても入っちゃうわけで。ハンマリングだとド・ミと2音だけ出せますが,手軽さはハンマリングのほうが,音の大きさとぬるんとしたなめらかさはスライドのほうがわずかに勝ってますかね。
 どの場面でどっちを使うかはフィーリングなんですが,まあ,スライドのほうが少しかんたんで分かりやすいので,まずはそちらから練習してみてください。

 さて,最後は斗酒庵のお家芸,「トレモロ奏法」です。
 大陸の月琴や少数民族の楽器ではふつうの奏法なんですが(もっと速いけどww),まあ,日本の月琴の伝統的な奏法には含まれてませんし,うちのWSでもここまで出来ると上級者なんで,今回は「参考」ぐらいに。
 またまた同じく,「朧月夜」を弾いてみましょう。



 この奏法では,右手はずっと弦をひっかいてます----そう,「はじく」んじゃなく,2本1セットで並んでる弦の「表面」を「ひっかいてる」感じで,バチを動かすんです。

 わたしは人差し指の根元にバチのお尻のところをおいて,親指でぎゅっと押さえこみ。バチ先に中指の腹を当てて,おもに中指でコントロールしてますが,自分でやりやすければ,どんな握り方でもかまいませんよ。(斗酒庵流のピックの持ちかたは「改訂版・月琴の弾き方(3)」参照)

 最初のうちはバチ先がスカったり,逆に,深く入りすぎてひっかかっちゃったりしますが,練習を続けると,だんだん長続きできるようになってきますから,がんばってください。
 この奏法でも同じようにスライドやハンマリングが使えます。組み合わせて,よりなめらかに,キレイな音が出せるようにしていきましょうね。


(つづく)

月琴WS@亀戸 2017年5月!

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斗酒庵 WS告知 の巻2017.5.21 月琴WS@亀戸 あの楽器は良いものだから… の巻


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 5月場所 のお知らせ-*

 ちーん。

 2017年,5月の清楽月琴ワークショップは,21日,日曜日の開催予定。
 会場はいつもの亀戸 EAT CAFE ANZU さん。

 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願い。

 お昼過ぎから,ポロポロゆるゆるとやっております。
 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもOK。

 初心者大歓迎。1曲弾けるようになってってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可です。
 おかげさまをもちまして,今期の3面はなんやか嫁ぎ先もいちおうまとまり----お父さん,いまムスメのいなくなったお部屋で寂莫さにさいなまれております。
 とはいえ現在,依頼修理の1面を抱え,そこにもうすぐもう1面来襲予定。浜の真砂は尽きるとも,世に壊れ月琴のタネは尽きまじ。(w)
 やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41号と49号の2本の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

 藤も終わり,節句も過ぎて,お散歩にはいい季節かと思われます。
 陽向のついでにどうぞお立ち寄りください!

ベトナム琵琶魔改造!!

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斗酒庵工房魔改造編 の巻2017.2~ ベトナム琵琶を魔改造して清楽琵琶に

STEP1 きちゃった(テヘペロ),パート2

 さてと,3月の3面月琴修理も完了し,修理報告もブジ書き終えましたところで。
 ハナシはちょっと時をさかのぼります。
 それは2月の末つごろ。
 1年以上のブランク越えたとたん,次から次と月琴が舞い込んでくるちょっと前あたりのこと----なにげなく見てたネオクの出物に,なんとなく入札していたら。思いもかけず開始値段で楽器が落ちちゃいました。
 楽器の値段は¥500,送料が¥2000くらい(w)
 まあ,ネオクではよくあることですよね。
 以前,同じような事して「楽器の玩具」に入れてたつもりが,けっこう巨大な本物の楽器がとどいて,びっくらこいたこともありましたなあ。

 それで,今回とどいたのがこれだ!!

 ベトナムの琵琶 「ダン・ティパ」 ですな。
 映像とかでは見たことがありますが,庵主でも実物を触るのはハジメテであります。
 基本,中国の琵琶(ピパ)と同じ類の楽器ではありますが。がらが小さいのと,弦高がかなり高くなっています。あと,中国琵琶は,1~4フレットまでが 「相(シャン) 」 というカマボコやオニギリ型になっていますが,ベトナムのは上から下まで板状のフレットで構成されています。中国では,この板状のほうを 「品(ピン)」 と言って区別してますね。
 月琴のフレットは基本的にぜんぶ「品」ですが,長い棹の台湾月琴なんかは,琵琶と同じように低音部が「相」になってますね。

 おっと----ちょい話が逸れました。
 我が家にはすでに1面,清楽で使われた古い唐琵琶があるのですが,槽が全面紫檀で作られてる高級楽器ではあるものの,そのせいで重すぎて(w)ふだん持ち歩くのにはあんまり適しておりません。
 それに比べると今回入手したこの楽器----何で作られてるんでしょうねえ。軽いしサイズも小さめで,ふだん使いにはよさそうです。

 日本で作られた唐琵琶には,庵主のもののように紫檀や黒檀と言った高級な材を使ったものも,たまにあるんですが。当初唐木で作られていた月琴が,やがてホオやカツラといった安価な雑木で作られるのが主流になっていったように,清楽の唐琵琶にも,けっこうどこにでもあるような材料で作られたものが少なくありません。
 筑前とか薩摩琵琶だと,唐木でなくても,クワやケヤキといったそれなりに重く硬い木がよく使われますが,唐琵琶の場合はもっと軽い,スギとかヒノキみたいな針葉樹材が使われてたりもしますね。月琴でも41号のように総桐作りなんつーのがあってビックリしたことがありますが,そういう唐琵琶も,たいがいスオウとかで染めて,もとの木の質感を消してあるものの,持ってみるとバカみたいに軽くてかなーりビックリします。

 塗りで誤魔化してはいますがこの楽器,腹板の周縁とか棹の部分にカリンなんかが使われているものの,全体にかなり細かく寄木細工になってるみたいです。 槽の大部分はなんでしょう?---なんか,ラワンみたいな軽く柔らかい材料が使われてますね----いや,バルサかもせん(w)

 並べてみると,うちの唐琵琶より10センチ以上小さい。可愛らしい楽器です。

 さて今回は,このベトナム月琴を魔改造し,清楽の琵琶として使えるようにいたしましょう。


STEP2 ぶッた斬りのバラード

 まずはこのごっつい 「乗絃(じょうげん=トップナット)」 をぶった切ります。

 こういうカタマリを,樹脂系接着剤ベットリでガッチリ本体にへっつけ,さらに上から塗料で塗りこめてますんで,水で濡らしたりドライヤーであっためればどうにかなるようなレベルではありません。(w)
 うちにある最強兵器,ピラニア鋸(大)で横ざまに切り落としてしまうのがいちばんです----ガリガリゴリゴリ!----ああ,好きだなあこういう野蛮な作業!

 中国琵琶の乗絃は,基本,月琴の山口と同じ,カマボコを縦半分に切ったようなシロモノですが,ベトナム琵琶のものはむしろ,日本の薩摩や筑前琵琶のものに近い。 庵主は専門じゃないのでよく知りませんが,日本の琵琶は,中国のものより,あんがいこういう南方の楽器を参考に作られたのかもしれませんね。
 ちなみに棹の長いベトナム月琴(ダン・ングゥイット)のトップナットもこれと同じカタチです。


 続いてフレットを取り去ります。

 こちらも接着剤バリバリでへっつけてはありますが,ものが板状なので,ナイフで根元にキズを入れ,ペンチでモギると比較的かんたんにはずれました。

 なんか,ジゴクで亡者の拷問してるみたいで,正直ちょっと楽しいです。(闇)

 作業した部分をキレイに均して第一段階終了。
 おつぎは「覆手(ふくじゅ=テールピース)」をはずしましょう。

 オリジナルの状態で,覆手下縁部の高さは1センチほど。月琴の半月とあまり変わらないくらいではありますが,この覆手,乗絃の高さに対応するため,上縁のほうがやや上むきに,すなわち横から見て斜めに取り付けられているのです。
 唐琵琶の覆手は高さ1センチほどで,底はほぼ平らです。新しい乗絃にはふつうの唐琵琶と同じタイプのものを取付けるつもりですので,このままにしておくと覆手のところでの弦高が高くなりすぎ,運指に影響が出てしまいますので,これを一度取り外し,取付け部を削って平らにする必要があります。

 この部品も,接着剤でベッタリへっつけられているうえ,そのほかになにか補強もされてるみたいです。ここはもう一度,ピラニア鋸さんにご登場願いましょう。まあ,どうせ削り直すつもりのモノですので----そりゃあっ!ザリザリザリザリッ!!!

 うん,クギですね。
 細めの鉄釘が2本,固定補強のためにぶッこまれてたみたいです。
 それにしてもさすがピラニアさん,木もクギもいっしょに,スパッっと切れましたわ。

 この釘。槽の内部まで達していて,ちょっと月琴の響き線みたいな役割もしているようです。
 腹板を叩いてみると,反響に金属音が混じっているのは,どうやらこの釘のおかげのようですね。はじめはほじくって取り除こうかと思ったんですがやめときましょう----このまま残しておくのが吉,と出た。

 とりはずした覆手の底を均して平らにし,ふたたび胴に戻します。こちとらは古式通り,ニカワによる接着でまいります。

 オリジナルの状態では,このうなじの部分は塗り込められていましたが,唐琵琶ではここに工作隠しのため,象牙や骨材の小板が貼られています。さすがにもったいないので竹で同じようなもの作りましたが,まあだいたいはこんな感じ。

 塗装をはがした下は黄色い木材です。ちょっとツゲに似た色味ですが,削った感触はツゲじゃない。同じくらい硬いですが,もうすこしモロモロと繊維質な感じですね。軽い木で作った胴体に,この比較的硬い黄色い木を継いで,楽器の背がわ部分を構成し,棹の指板となる表がわにカリンのようなさらに硬い材の薄板を貼りつけてあるようです。
 日本の琵琶なんかはやたら一木っぽいところにこだわりますが,このベトナム琵琶。いったい何ピースぐらいの材料で構成されてるんでしょうねえ。

 オリジナルの糸巻も4本そろってはいるんですが,少し短いのと,庵主,もともとついてた横ジマのタイプの糸巻の感触がどうも好きになれんので,慣れてる月琴と同じ,六角形タイプのを1セット,削ってあげることとします。
 材料箱を漁ったらちょうど,以前に予備として削っといた素体が4本ぶんありましたので,これでまいりましょう。
 1本ちょっと色味の違っちゃいましたが,まあよろしい。

 月琴の山口をちょっと大きくしたような乗絃を付けます。
 材料はツゲで,高さは15ミリ。加工して低くした覆手との高低差は,およそ5ミリあります。月琴より弦長が長くフレットも多いので,いくぶん高低差が大きいほうが,後の作業がラクになるでしょう。

 さあ糸を張りましょうか----とその前に。


STEP3 正調唐琵琶調弦講座

 日本で出された清楽の本 にはよく,唐琵琶の調弦を 「合・上・尺・合(六)」 だと書いてあります。

 使用する弦については,『物識天狗』あたりに,「和琴の糸・三味の一の糸・月琴の太いの・月琴の細いの」 と,書いてありますね。(参考:左画像,クリックで別窓拡大) 月琴では通常,三味線の二の糸と三の糸を2本づつ使ってますので,うちの唐琵琶には,通常のお三味の1セットに,さらなる低音弦として,義太とか津軽の一の糸(同じ一の糸でももっと太い)を1本加えて張っています。

 その糸での月琴の調弦 「上/合」 を 4C/4G とした場合,すなわち 「上=4C」 の時,この琵琶の調弦 「合・上・尺・合(六)」 は,3G・4C・4D・4G となるわけなのですが。 これで実際に糸を張ってみると,月琴より弦長がはるかに長いこともあってテンションはパッツンパッツン。前の楽器では,見事覆手がふッとびました。
 清楽における実際の音階は,これより3度ほど高い 「上=4Eb」 ですから,もしそっちに合わせたとしたら,さらにシメあげなきゃならないわけで………間違いなく器体が保ちません。
 可能性として,全体を1オクターブ下げた調弦も試してみましたが,そうするとこんどは弦がユルユルになって弾けませんでした。

 しょうがないので,庵主はふだん,弦の音関係が同じ4度1度4度の 3C・3F・3G・4C の調弦で弾いていますが----どうもおかしい。
 文献の記述が,実情と合わないのです。

 音楽が専門のヒトはこういう場合,もっと太い弦を,もしくは細い弦を張ってみたりして,現実との擦り合わせをするようですが,庵主は真の意味での 「文献第一主義者」 ですので,本に書いてあることと現状が合わない場合は,本に書いてあることをまっさきに疑います。
 これは 「本に書いてあることが間違っている」 と言うことではありません。その書いてあることの解釈,もしくは書いた本人の,書いてあることに対する認識が間違っている可能性がある,ということです。


 さて,中国の本を見ると,琵琶の調弦は,「正工調」 だと日本の本にあるのと同じく 「合・上・尺・合(六)」 ,ほかに 「小工調」 だと 「尺・合・四・尺」 だと書いてあります。
 「上=C=ド」 として,これをそのままドレミに直しますと,正工調の調弦は ソ・ド・レ・ソ,小工調のは レ・ソ・ラ・レ ですね。
 ソ・ド・レ・ソ----すなわち G・C・D・G だと,楽器の実情に合わないというのは,すでに述べたとおりですが,もう一つ書いてある レ・ソ・ラ・レ のほうなら,ふだん庵主がやってる ド・ファ・ソ・ド の1度上に過ぎません----こッちならぜんぜん大丈夫。

 さてここで,日本の記事には出てこない「正工調」「小工調」という言葉が,調弦の前にへっついてますよね。清楽の本で,月琴や明笛の音階を表すものとして用いられている工尺譜の符字の順列----

 合 四 乙 上 尺 工 凡 六 五…

----というのは基本的に,中国の本でいうところの「小工調(正調)」で使われるものと同じです。もうひとつの「正工調」というのは,これの「四」を「工」に読み替えたときの音階ですので,同じ音を表す時に,符字の並びは----

 尺 工 凡 合 四 乙 上 尺 工…

----と,なります。
 仮に小工調の「上」を「ド」としますと,正工調では同じ音が「六(もしくは合)」の字で表される,ということですね。

 日本の清楽本に出てくる琵琶の調弦 「合・上・尺・合(六)」 が,中国の本に書いてあるのと同じ意味,すなわち本来は「正工調」のときの音階だったのだとしたら。これをふだん使っている月琴の音階(小工調)に変換すると 「上・凡・六・上」 になります----わあ,これって「上=4C」でいうとまさしく ド・ファ・ソ・ド。 庵主がいつもやってるチューニングじゃないですか!

 「正工調」の時の唐琵琶と,月琴の音符の読み替えの対応表を作って右に置いておきます。

 いまのところ清楽の本で 「唐琵琶の"尺"は,月琴の"合"の音だよ」 なんてことを親切に書いてくれてる本は見つかってませんが,おそらく日本の清楽家は,中国音楽のこういう基本的な部分を全無視で,向こうの本に書いてあったそのままを,意味も分からずに転載しちゃってたんでしょうねえ。

 「正工調」で C・F・G・C にしたとしても,「小工調」で D・G・A・D にしたとしても,2・3弦間は1度しか違いません。
 ふと思ったんですがコレ----要は三味線の本調子と二上リが同居してるカタチなわけですよね。 いままではお三味の糸を1セットのほか,最低音の弦として一回り太い糸を使ってましたが。お三味の糸の1セットで,二の糸だけを2本にするくらいでもえーのじゃないでしょか。

 琵琶と言うと日本では,重厚な低音楽器のイメージが強いですが,大陸の琵琶はもっと軽やかで華やかな楽器です。今回は,楽器自体も本式よりいくぶん小さいので,文献よりやや細めの,こっちの糸の組み合わせ(三味の1セット二の糸だけ2本)でやってみることとします。


STEP4 必殺!仕上げ人

 数年越しの懸案であった唐琵琶の調弦の問題がなんか片付いたところで,フレッティングとまいりましょうか。

 まずは「相」をこさえてゆきましょう。
 前回の唐琵琶ではオニギリ型にしましたが,今回はカマボコ型にチャレンジです。
 材料は,黄色くないですがこれでもいちおうツゲ。
 青筋とかの混じった下等品ですが,いちおうこれでも国産。薩摩琵琶のバチの端材だそうな。

 つづいて相と乗絃の間に黒檀の板を接着。
 これも本来は,糸倉と棹本体部分との接合工作を隠す目隠し板ですが,乗絃の固定補強の意味もあるかと思われます。
 できあがった相は磨いてニスをかけます。
 質の良くないものなんで,模様が出ちゃってますが,これはこれでマーブル模様みたいで良いですね。

 5フレットから先は,板状の「品」になります。
 こちらは手熟れた竹で。
 清楽の唐琵琶だと10枚ですが,今回は月琴と同じく西洋音階準拠にしますんで,2箇所,半音の欲しいところを足して12枚にします。

 できあがったフレットと糸巻をヤシャブシで黄色く染め,作業で塗装の剥がれたあたりはカシューで補彩。
 そして相と第5フレット,さらに第5フレットと第6フレット間の二箇所に飾り板を接着。

 最後に腹板の左右に半月を刻んだら完成です!

 ベトナム琵琶改の清楽琵琶。
 小さいので振り回しも良いですし,本家の唐琵琶にくらべるとやや軽めながら,音も響きも悪くはありません。

 そもそもなんで,ベトナム琵琶を改造して清楽琵琶にしたかったかと申しますと。

 清楽琵琶には庵主のこれと同様,細長くて薄っぺらなものが多いんですが,現在の中国琵琶はこれより大きくて幅ももう少しありますよね。 中国琵琶はこれらと同じく,フラットな腹板になってますが,清楽がやってきた福建や台湾の南管音楽などで使われている琵琶には,日本の薩摩琵琶みたいなアーチトップタイプもあり,形も中国琵琶よりは日本の琵琶に近くなっています。

 んじゃこの細長い琵琶は,どこから来たのか。

 清朝俗間の古い芝居本などではよく,女性がこのタイプの細長い琵琶を抱えてるとこが描かれたりしてますから,中国で古い時代に,こういう琵琶があったことは間違いありませんが,清楽流行のその時代,大陸で現実に弾かれていた琵琶の多くは,現在の中国琵琶とほとんど変わらないタイプのものでした。
 中国より過去に伝わったものがそのまま残った,とも考えられますし,そういう本に出てくる楽器を真似て作られた,と考えることも出来ます。そして,実は中国からではなく,もっと南の地方で弾かれていた,このタイプの楽器が伝わったものだったのだ,と考えることも………もしそうならば,ベトナム琵琶と清楽琵琶の間には,どこかに互換性があるのではないか,とか。

 まあ言うたかて庵主,琵琶は専門でないので。
 楽器の起源やらなんにゃら難しいあたり,あとは琵琶弾き。月琴弾きよりずッと数いるんだから,あンたらがどうにかしなさい。(w)

 そのほか,研究のほうでは----庵主,いままで清楽の琵琶譜,読み解けなかったんですが。
 今回の調査で,あれどうやら「正工調」で書かれてるかも,ということが分かってきました。

 ----さあて,これで琵琶譜のナゾに挑戦ですね。


(おわり)


月琴52号 (終)

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斗酒庵 50面越えたとたんに の巻2017.3~ 月琴52号 (3)

STEP3 DSの彼方に

 こちらの楽器も,もともと欠損部品は少ないので,虫食い探しとその穴埋めさえ終わってしまえば,ほとんど修理完了というところ。
 51号と違い棹の調整作業も,多少左右方向にガタつきがあったのを直したくらいで,さほどのこともありませんでした。

 棹調整が終わったところで,表板を軽く清掃。べつだん汚れているとかいうわけではないのですが,お飾りをはずすときに湿らせたので,その作業痕がちょっとシミになっていますので。
 こうして板を濡らすと,ふつうはバチ痕とかが浮かび上がってくるものなのですが,この楽器。いくら目をこらしてみても,キズ一つ見えてきません----いや,ほんとにほとんど未使用の状態なんですね。

 さあて,ひさしぶりに糸巻を削りましょう。
 まあ,同時修理の51号でも補作のを1本,去年の暮れにも2~3本削ってますが。1セット4本まるまるってのはずいぶん久しぶりです。ひょっとすると去年の春先にやった47号以来じゃないかな。

 例によって¥100均のめん棒を削ります。51号みたいな高級楽器だとツゲや黒檀などが使われますが,このクラスの楽器だと,胴や棹と同じホオやカツラといった柔らかい雑木が使われることが多いため,壊れやすくて残ってない場合も多いのですね。

 補作の糸巻は,材料こそ¥100均のめん棒ですが,これにはブナやカシなどの硬い木が使われていますから,高級楽器の唐木ほどではないにせよ,オリジナルで付いてたものよりは丈夫で長持ちしてくれるはずです。

 まずはめん棒の四面を斜めに落として,先端が1センチ角の四角錘に近い状態に----これが「素体」になります。国産月琴も唐物も長さはだいたい11~12センチほどですので,庵主はいつも修理のため,四面切りをした12センチのものを何本かストックしてあります。
 しかしながら,現在使っている¥100均めん棒の長さは33センチ。12センチにしちゃうと2本しかとれません。そこで今回は11センチにして1つの棒から3本。もう1つから残りの1本と51号に使った補作の糸巻を切り出しました。

 この画像なら木目が分かりやすいですかね。
 月琴の糸巻は,こういう木目で削って,この木目に対し垂直方向になるよう糸孔を穿ちます。画像だとこの上下のとんがってるところのライン上に孔をあけるわけですね。

 同じ作者の43号の例から見て,この楽器についてた糸巻も長さは11.5センチだったと思われます。5ミリ短くなっちゃいますが,まあさほど操作性は変わりませんし,新しく作るぶんは,楽器の軸孔に合わせてきっかり調整されるので,数打ち規格品のオリジナルよりは使いやすくなってるかもしれません。


 普及品の楽器で多い六角一溝の形に削ったら,#400まで磨き上げ,染めに入ります。
 スオウを3~4回かけて,ミョウバンで赤く発色。いちど完全に乾燥させてから,黒ベンガラとオハグロ液で黒染めにします。ベンガラを薄くかけてからのほうが,下地の赤が褪せず色味が深くなってイイみたいですね。
 今回は特に,オハグロの具合もよく,黒染めがバッチリ決まってます!

 山口には牛骨で作ったものをくっつけました。
 これも51号と同じ時期に作り置いてあったものです。

 フレットは胴上の5枚が残,棹上の3枚が欠損です。
 糸を張り,補作のフレットを牛骨で作って並べてみましたら,50号,51号に続いてこの楽器もまた半月での弦高が高すぎ,オリジナルフレットの背丈が低すぎ(w)まして。またまたまた半月にゲタを噛ませることとなりました。

 以前作ったツゲのフレットの端材が,ちょうど良いカタチと厚さでしたので,これをちょちょいと削って半月に接着。これにより半月のところで9ミリだった弦高が,7.5ミリに----だいたい1ミリ半下がったわけですね。

 これにより胴上のオリジナルフレットが,そのままで使える高さになってくれました。
 オリジナル位置にフレットを立てた時の音階は,以下のとおり----

開放
4C4D+104E+14F+354G+234B+275C#-445D+475F+45
4G4A+44B-95C+365D+195E+125G+305A+256C+33

 うむ……ちょっと全体にオーバー気味ですね。清楽音階にしては第3音(第2フレットの音)の数値が高め(ふつうはE/B-20 程度)ですが,全体を均すと,やっぱりここだけ15%ほど低めになりますので,それほどハズれている,とも言えないかと。

 計測の終わったところで,補作のフレットはヤシャブシで軽く染め,西洋音階に並べ直します。

 この楽器でも,当初,胴体のきわに貼られていた第4フレットが,西洋音階に合わせたところ,棹の上に移動してしまいましたが,こちらはもともとかなりオーバー気味でしたので,接合部にひっかかることなく,ぴったり指板のきわのところにおさまってくれました。やれ良かった(w)

 頭の丸いフレットは,ギターのバーフレットとかに比べれば厚みがあるので,正確な音階を出すのには向きませんが,ちょっと触れても,がっちり握り込んでもふつうにちゃんと音が出るので,演奏のポジションや運指のクセなんかをあんまり考えなくて済みます。

 正確な音階をよりクリヤに出したければ,糸との接触面の狭い,先のとんがった三角形のフレットが有利ですが,そのぶん,力の入れ具合が難しくなったり,スウィート・スポットをはずすと音が屁こいたみたいにスカったりと,糸の押さえに独特のコツと感覚が必要になってきます。まあ,慣れちゃえばそれぞれの好き好き(w)ですが。

 あとは,染め直してさっと油拭きしておいたお飾りを戻し,バチ布を貼るだけ。
 おそらくもともとはヘビ皮がへっつけてあったと思いますが,かなり最初のほうの段階でハガれてしまったのか,日焼け痕や糊の痕跡もほとんど見当たりません。まあ,そのおかげで,この部分によくある虫食いもなかったのですね。

 真っ赤なスオウ染めがほぼオリジナルのまま残ってはいますが,全体として眺めるとやはりどちらかといえば地味めな印象があるので,今回,バチ布はちょっとハデ目なものを貼ってみました。

 2017年4月4日。
 ほぼデットストック状態だった月琴52号。
 デッドな状態から復活!!

 うむ……油拭きしたぶん色が濃くなってますが,糸巻が付いたほかは,修理前とあんまり変わりがないですね。(w)

 この楽器がほぼ未使用状態であろうことは,そのキレイさと,器体に使用痕がないことから簡単に分かります。ちょっと前にも書きましたが,楽器というものは使用する人間とともに成長してゆくものなので,ふつうこうした状態から再生された楽器は,どこかまだ「こなれてない」音しか出ないことが多いのですが………

 この楽器,けっこうこなれた音が出てますね。

 この楽器の作者さんは,特筆すべき腕前や技術は持っていませんし,独創的な工夫や加工を加えているわけでもありません。ただ,普及品の楽器でも手を抜かず,あたりまえのことをあたりまえに,きっちりとやり貫いており。おそらく,けっこうな数作ったのでしょう。どこをどうすれば,どのくらいの音になるのかが,かなりしっかり分かってるみたいです。
 状態が良かったのもあって,ほとんど改変箇所がなかったぶん,木の状態が「リセットされた」ような部分が少なかったのかも。そのため原作者の工作がほぼそのまま,時間の流れによる変化だけを受け継いで,今の状態になっているのかもしれませんね。
 人が誰も弾いてくれなかった代わりに,時間が弾いていてくれた,と言えるのかもしれません。

 低音の響きや余韻の深さに関しては,唐木をふんだんに使った51号あたりには到底かないませんが。  音ヌケが良く,明るい響きは前に飛び,周囲へもけっこう広がってゆきます。音量はそこそこ。音ヌケの良いぶん,実際よりかなり響いてる感じもしますね。
 余韻は素直な減衰音。直線の響き線のつむぎだすまっすぐなうなりが,時折音のメインに重なって,軽やかな鳥の合唱みたいに聞こえる時があります。

 関東風の細長い棹を持った楽器で,重さも50号と同じくらいですが,器体のバランスはこちらのほうが若干よいようですね。棹と胴体のバランスを,きちんと踏まえたうえで組上げられてる感じがあります。
 バランスの良い楽器は弾きやすい。
 フレットの調整もばっちりしてますから,運指上の支障もまずもってございません。
 51号と違って,操作上のクセはない楽器です----音色的には「クセ」が出来るほど弾きこなされていない,とも言えましょうか。
 初心者から上級者まで,要求されるところの奏法から演奏まで,あるていどソツなくこなすことができましょう。あとはあなたの「クセ」を,この楽器の音色にのせることが出来るかどうか。

 ----そのあたりはあなたの努力次第,と言ったところでしょうか?

(おわり)


月琴51号 (終)

G051_03.txt
斗酒庵 50面越えたとたんに の巻2017.3~ 月琴51号 (3)

STEP3 きょうもあしたもタワシのコロッケ

 さて,棹の調整もいちおう終わり。
 作んなきゃならない欠損部品もそんなにないので,あとは糸張ってフレット立てれば本体完成----

 そうは問屋がおろさないのが人生と,松のはしごと楽器の修理。

 糸を張ってみましたら,楽器の中心線に対し棹の中心線がわずかに右に傾いていることが分かりました。
 このままだと,低音弦のコースが糸2本ぶんばかり左寄りになって,低音域でフレットの端かなりギリのところになります----これもおそらくは原作者がこの楽器に熟知していないところからきた調整の甘さでしょう。
 まあ,このままでも弾けますし,最初から分かってさえいれば演奏上の支障はさしてありませんが。せっかくの良い材料と思いここまで仕上げてきた楽器です,手間惜しみはしますまい。

 棹孔を削って,楽器の中心線と棹の中心線を合わせます。
 なんかこの工作,最近よくやってる気がする。(w)


 材料が硬い唐木なので作業はそれなりに大変ですが,そのぶん精密な調整工作はしやすいですね。
 1ミリ程度,左がわに寄せたところでほぼ合致。棹の左右のテーバーが,もともとわずかに非対称ぎみなところもありますので,目測より,定規で測ってあちこちに貼りつけた目印を目安に細かな摺合せをしてゆきます。

 最後に,左に寄せたぶんのスペーサを黒檀の端材から切り出して接着。棹がスルピタでおさまるようにさらに調整。
 このくらいならちょうど棹の接合部に隠れて見えませんね。
 これでだいたい左右のコースがほぼバランスよく,山口から半月まで流れてゆく感じになりました。

 楽器に残ってたオリジナルのフレットは,胴上のものが5本。
 国産月琴の高音域フレットとしてはやや背が高めですが,半月での弦高も高いせいで,これでも弦との間隔が広くなってしまっています。半月の糸孔が縁に近すぎるのと,糸が出るところのへりをちょっと薄く削り新すぎたせいですね。
 ただ,この糸孔自体は糸替の時の便を考えて,上から下へまっすぐでなく,少し斜めにあけられてたりします----こういうあたりの工作は妙に丁寧なんで,やっぱり楽器の素人さんではないと思う。
 オリジナルのフレットの質や工作自体は良いものですし,これよりさらに高いフレットをぜんぶ象牙で作るとなると,それなりにコストもかさんじゃいますので,糸のほうを下げることとしましょう。

 50号に続いて半月にゲタを噛まします。
 材は象牙。
 これにて半月における弦高が2ミリほど下がり,糸とフレット頭の間隔もうまいぐあいに一定になりました。琵琶と違って,フレットに糸をぎゅうぎゅう押しこむような楽器じゃありませんからね。指頭で触れれば音が出る,くらいが理想なんです。

 オリジナルの弦高でオリジナルの位置にフレットを配した時の音階は以下----

開放
4C4D+144E-384F+234G+164B-25C-25D-125F-2
4G4A+144B-395C+155D+175E-145G-95A-85C-6

 弦楽器の調律として基本の,オクターブの合わせはだいたい合ってるみたいですね。清楽器の音階としては第2フレットがふつうより10%ほど低めですが,1オクターブ上ではマイナス10代ですので,それほど違ってもいません。

 ゲタを噛まして弦高を下げると,音の響きと運指のうえでは良い効果があるのですが,フレット位置が若干変わってしまうことがあります。オリジナルの弦高のとき,胴体の縁に位置する第4フレットは西洋音階から10%ほど高いくらいで,これをぴったりにするのには,ほんの1ミリほど棹にかかるかかからないかくらい山口がわに移動してやれば良かった程度だったと思いますが,弦高を下げたために音の位置が変わってしまいました。
 このフレットはこの楽器の通常の調弦(間5度)の際に使われるところですので,位置合わせはかなり正確にやっとかなきゃなりません。それでいて胴と棹のちょうどきわのところにあるものですから,前回も書いたように,棹と胴体の接合部に段差とかがあると,きちんと貼りつけることができなくなっちゃうんですね。
 オリジナルでは胴体のきわ,0.5ミリほど手前。新しい位置は,フレット本体が棹上に3/4,胴体に1/4かかってる感じです。
 フレットの大部分が棹の上に移ってしまったので,端を少し削って指板の幅に合わせました。
 いやあ,棹の調整の時に,しつこく段差を消しといてホントに良かったですわ。(^_^;)

 足りなくなってたフレットは3枚。
 はじめ牛骨で作ってみたんですが,加工してるうちに3枚とも割レが入っちゃったので,けっきょく,材料箱にあった端材を総ざらいして見つけ出した象牙で,も一度3枚を作りあげました。同じ板材から,とかじゃないので品質はちょっとバラバラですが,こんどはいちおう象牙。(汗)

 山口は牛骨。
 こちらはだいぶ前に作ってあった作り置きを磨き直したもの。1年くらい前,44号とか45号をやってたあたりだったかなあ。ラックニスがいい感じに滲みて,それこそ象牙みたいな質感になってました。

 糸巻は1本補作。
 オリジナルはツゲ。こちらはいつものように材料は¥100均のめん棒ですが,今回はスオウとヤシャブシで黄染め。まだちょっと色に落ち着きがありませんが,1年くらいしたらもう少し目立たなくなるかと。

 最後にお飾りが2つ。
 ひとつめは蓮頭。
 残片もなく,作者は分からないし,作例的にぴったり同じような資料もないので,オリジナルがどんなだったか分かりませんが,似たような胴飾りのついた楽器の例から,50号に続いてボタンを彫ることにしました。
 うむ,2コめなのでいくぶんキャベツ感は薄れたかと。

 扇飾りはもともと痕跡すらなく,

 また,国産月琴ではこの飾りのすぐ下にある第6フレットがふつういちばん長いものなのですが,この楽器では一つ下の第7フレットがいちばん長くなっています。修理前までは古物屋あたりが貼りつけ間違えたのだろう,と思ってましたが,フレッティングの際ならべてみたら,長いフレットのほうが背が低く,順番は間違っていなかったことが確かめられました。
 ここからも,この楽器の第5・6フレット間に飾りがあったかどうか,多少怪しいところもないではないのですが,さすがにほかの月琴に見慣れた目には,せめてこれがついてないと,表板の景色が間の抜けてるような感じしちゃいますので,とりあえず何か作ってへっつけとくことにします。
 ちょっと凝って,ちょうちょが2匹と唐草。ボタンと合わせて「富貴連綿」ですね。

 バチ布には緑の牡丹唐草を。
 こういうお飾りの少ない,重厚な楽器には,ミドリ色の地味めな布が映えますね。

 ぜんぶそろったところで貼りつけて。
 2017年4月5日。
 唐木製の高級月琴51号,修理完了!

 音には文句がありません。
 重く硬い木をふんだんに使っているぶん,音ヌケはあまり良くありませんが。低音の響き,深く優しい余韻は,カツラやホオで作られた普及品の楽器では,まずそうそう出せるものではありません。

 ちょくちょく書いてるのですが,ではこういうのが 「月琴の音」 かというと,多少意地悪いことながら,庵主には疑問があります。たとえば,現代中国月琴でもいいですが,大陸からきた古渡りの月琴,あるいは庵主が源流と考えている西南少数民族の楽器の音は,もっと明るくて軽やかです。それこそギターとかウクレレに近いですね。

 国産月琴の作者の多くはこの楽器を,知識的にはちょっとアレな清楽家の喧伝する「唐渡りの風雅な楽器」みたいなイメージをもとに作っていました。 時代が進むにつれ,大陸の楽器の構造やその本来の音色から離れ,音もカタチも次第に「月琴」という字面と,そのコトバの響きからくるイメージを具現化するようになった楽器----ある意味その結果として,現実にあった(中国の)月琴と別物になった 中二病的産物 が,日本の「清楽月琴」という楽器だと,庵主は考えてます。

 もちろん,それが 「本来の音や構造」と違っている から,と言って。漆黒の闇より湧きいづる混淆の響き や,冷月の影に封印されし白銀の波導美しくない理由もなく----もう一度書きます。

 いやほんと,(楽器としての)音には文句がありません。
 文句なく,いい音の楽器ですよ。(w)

 外国文化をとりこんで クールジャパン に昇華する構造は,月琴流行のころからもうあったのだ! とも言えますねえ。
 ともあれ,こういう高級品は初心者向けではないので,できればすでになんにゃら一本持ってる方に弾いてもらい,音の違いを楽しんでもらいたいとこですね。

 半月にゲタを噛まして操作性をあげてありますんで,少なくとも低音域はほぼフェザータッチ状態。ただ,フレットはオリジナルに合わせ,ぜんぶ頭の平らなタイプにしてあるので,ふつうの頭の丸まってるタイプに慣れてると,最初のうちは若干指がひっかかる感じがあるかと思います。
 あと,このタイプのフレットは,糸を握り込むとビビリが出やすいです。そのあたりも考慮してフェザータッチに調整してあるんで,運指はなるべく軽やかに。

 そのほかはちょっと重いんで,立奏よりは椅子とかに座って,じっくり弾くほうをおススメします。

 ----というように月琴51号,間違いなく文句なく,とびきり高性能ではありますが,多少クセのある楽器です。この「クセ」は,何回も書いてるように,原作者が月琴という楽器を熟知していないまま作ったことによる,工作の差異から生じたモノですが,流行期の楽器にはよくあることですし,楽器として致命的な欠陥であるとか,「月琴」のレギュレーションから大きく外れた工作,というようなわけでもないので,基本,原作者の工作を尊重した(放置した? ww)部分ですね。
 カンタンに言うと,修理はした----あとは弾いて慣れろ! と。

 まあ,どうしてもガマンできなかったら,フレットの頭丸めるくらいの調整はふつうにやりますので,お気軽にご要求ください。

(おわり)


月琴52号 (2)

G052_02.txt
斗酒庵 50面越えたとたんに の巻2017.3~ 月琴52号 (2)

STEP2 薄皮1枚下の生命たち

 52号,百年以上前の彩色や板の色がそのまま。
 見かけ的には,ほとんど未使用のデッドストック品と言って良い状態であります。
 欠損部品は糸巻が4本全損,棹上のフレット3枚。
 糸巻全損は労力的にちょっとキツいとこですが,まあいつもやってることですから,カクゴさえ決めちゃえば大したことではありません。(w)

 そのほかは,棹と表面板に,けっこう大きそうな虫食いが数箇所。

 今回の修理はここからですね。
 とりあえずはまず,表板上のお飾り類をとりはずしましょう。左のお飾りのすぐ下にもひとつ,大きな虫食い孔がありますから,もしかするとこの下にも広大な虫食いワールドが広がってるかもしれません----もしそうならイヤだなあ。(w)

 まずはこの虫食い穴を目安に,表板の皮一枚になってる箇所をケガキの先などを使って探しだし。ほじくりかえします。


 この二つの孔,中でつながってると思ってたんですが,虫食いのトンネルは2本ありました。
 それぞれ別の虫だったみたいですね。
 右はお飾りの下あたりから上桁のところまで,左の1本は矧ぎ目に沿ってかなり長く,側板のところですこし横にも広がっていましたが,どちらもほぼ直線でわりと幅の広い,大きな虫食いでした。またどちらもほとんどの部分で板を貫通してはおらず。溝の底は船底みたいなハーフパイプ状になっていました。

 桐板の破片と木粉粘土を埋め込んで充填。
 この後,清掃したりお飾りを貼り直したりもするので,後で軽くエポキを滲ませておきましょう。


 棹の虫食いは全部で3箇所。糸倉の付け根,山口が乗っていたあたりの左右と,棹左側面。

 このうち糸倉基部の虫孔は,左右が中でつながってるようです。侵入孔と脱出口だったかもしれません。
 やわらかいハリガネなどで触診してみますと,右の孔は入り口から二股に分かれ,片方は1センチくらいで止まっていますが,片方はそのまま指板の中心方向へ,左の孔は入り口からほぼまっすぐ,同じく指板中心方向へ向かっています。ここにこういう食害があるのはちょっと珍しいですが,おそらくは指板と棹本体の接着部か山口取付のためのニカワが狙われたものでしょう。
 虫孔としてはけっこう大きなほうですが,食害はほぼ平面的で,広がりもあまりありません。あまりひどかったら指板を剥がして処理しようかと思ってましたが,このまま埋め込んでしまっても,棹や糸倉の強度に影響はなさそうです。
 まずはユルめに練った木粉粘土を,注射器で充填。端材や割り箸を細く削ったもので,なるべく奥へ奥へと押し込みます。時間を置いて,生乾きになったところで,エタノで溶いたエポキを流し込み,仕上げに,薄くしなやかに削った端材を押しこめるだけ押しこみます。充填剤がハミ出てきますので,これをぬぐい,さらに押しこみながらの作業となりました。

 棹側面の虫食いも,けっこう大きなものではありましたが,深さはさほどでもなく,これのせいで棹がボッキリ逝ったりするほどではございません。 どちらもしっかり乾かして,硬化後に表面を軽く整形。


 指板表面のフレット痕にも浅い虫食いがありますので,これもついでに埋めておきましょう。

 この指板----だいたいの作家さんは紫檀黒檀かカリンあたりを使うものですが。これ,どうやらツゲみたいですね。
 ツゲという木は染まりが悪いので,この作業中にちょっと擦ったら,ぜんぜん滲みこんでないスオウの下から黄色い木地が現れてきました。
 硬木ですのでこういうところに使われてもおかしくはありませんが,月琴ではちょっと珍しい。


 補修箇所に,オリジナルと同じスオウで補彩を施すと,元の色の保存が良かっただけに,補修箇所はほとんど分からなくなりました。

 補彩が終わったところで,枯れたみたいにカサカサになってる木地に,保護のための亜麻仁油をつけたら----いやあ吸い込む吸い込む----
 とはいえ,いきなり油まみれのヌルヌルにするわけにもいきませんので,何日か置きながら布につけた油を少しづつ滲ませます。
 棹や胴と違って,表裏板の桐は油を忌む素材なので,これにはけっして付けないよう細心の注意を払いましょう。

 パサパサになった枯れ木が,材木としては使い物にならないのと同じで,木材は適度な水分を含んでいるときがもっとも強い。その水を木にとどめる役割をしているのが油分。本来,楽器はそうした水分や油分を使用する人間の身体から摂取していきます。楽器というものは,人の手が触れ身体が触れることによって,いろんなものを少しだけ吸収し,そのぶんいろんなものを与えてくれるモノなのです。
 だから,いつも言っているように楽器にとっては,弾くことがいちばんのメンテナンス,であるわけなのですね。
 宿主のいない寄生生物が生きていけないように,住む者のいなくなった家が朽ち果ててゆくように,使われなくなった楽器は壊れます。そうなって「壊れるべきところではないところ」から壊れた楽器は,ふつうに使用されて「壊れた」場合より修理が難しいものです。

 この楽器の場合,作られてからほとんど弾かれたことがない様子。
 これが楽器として再び立ち上がるためには,それなりの助走剤が必要です。この乾性油が乾ききるまでに,良質な油脂分の補給者……いえ,弾いてくれる宿主が現れてくれるといいんですがね。

 まあもちろん汗まみれのピザな身体で抱きしめるとか,ポテチつまんだばかりのギトギト手で弾く(うわあああぁ…)なんてのはもってのほかですが。(w)  みなさん,楽器に触れる前には,ちゃんと手を洗いましょうね。

(つづく)


月琴51号 (2)

G051_02.txt
斗酒庵 50面越えたとたんに の巻2017.3~ 月琴51号 (2)

STEP2 もしかするとカラ鍋。


 さて,今回の3面のうち,50号をのぞいた2面につきましては。一見したところ,本体部分に深刻な損傷はなく,なくなってる部品をちょこっとこさえ,ちょこっとキレイにしてやればすぐにも直る----みたいな感じではありますが。
 庵主,こういう外面のヨロしい連中ほど,みずからの内がわにトンでもない悪魔を飼っておるものじゃ,ということをいままでのけーけんから思い知っておりまする。

 まずはとりあえず,胴体上の付着物をへっぺがしますです。フレットが5枚に,左右の装飾,あとはバチ皮。
 左のお飾りのシッポのあたりが割れてましたが,ほかにはさして問題もなく,濡らして10分ほどで素直にハガれてくれました。

 裏面には墨書があるので手出しできませんが,表板のほうはお飾りさえはずしちゃえば何もないので,ついでに全体を,さッと清掃しておきましょう。まあ,さほどのヨゴレもついてませんが,右のお飾りの周囲に少し水ムレの痕があります。このあたりも始末しておきましょう。

 濡らしたら,バチ皮の部分を中心に,左上から右下へ,かなりの数の細かなバチ痕が浮かび上がってきました。

 それなりに使い込まれた楽器だったようですね。
 流行期の末ごろに作られた楽器だと,三味線のバチ先で付けられた傷などがついてる場合があるのですが,それほど鋭くもなく深くもなく。細かで浅いところから見て,これは間違いなく,清楽用の短く薄い擬甲でつけられたものですね。

 乾いたところで,バチ皮の下についてた虫食いを充填補修。3箇所くらいありましたが,桐板が目の詰んだ上質なものであったおかげか,深くもなければ広がりもなく,ごく軽微なもので済んでました。
 場所がここでなければ,定石通り桐板を刻んで埋め込むところなんですが,このあとバチ布を貼る工程もあるんで,木粉パテで充填,エタノで溶いたエポキを滲ませて整形します。
 同じバチ皮部分の左に,皮の収縮によるヒビ割れも出来てましたので,こちらは木屑を埋め込んで補修。

 ここまでの作業時間,ほんの1~2時間程度。
 胴体部分に関しましては,このほかにやらなきゃならないようなことはほとんどありません-----さて,ですが。

 今回の修理,ここからがけっこうながくてながくて…(泣)
 さいしょのところで書いたとおり。
 外面のキレイな楽器ほど,内部に深刻な問題を抱えたりしております。
 この楽器最大のアクマは,棹の取付けにあります。

 この楽器の胴体と棹の基部の間には,0.5ミリほどの段差があり,さらに楽器の頭のほうから見ると左方向にねじれ,横から見たときは,楽器の前面方向へわずかにお辞儀したかたちになってしまっています。

 三味線でもギターでも,この手の弦楽器において,ネックの取付けや調整というのは,最も精度が必要とされかつ気を遣う部分であり,またそれぞれの楽器のことが 「ちゃんと分かって」 いなければ,そもそもマトモに作業の出来ない個所でもあります。胴体や棹の加工工作の精度から,この楽器の作者の木工の腕前はかなりのものだと考えられるのですが。この棹取付け周りの工作から見ると,おそらくはこの楽器----すなわち「月琴」というものについては,熟知していないようです。
 糸巻の損耗や胴表面の演奏痕から見て,これが飾り物ではなく,実際に楽器として使われていたことは間違いありませんが,音を出す道具,楽器としてじゅうぶんに成立してはいるものの,この棹取付けの雑な設定からすると,「月琴」という楽器としては,ある意味,かなりギリギリのモノであったと庵主は考えます。

 この修理報告でも何度か書いているとおり,月琴の棹は理想として背がわに少し傾いて取り付けられていなければなりません。また,4番めのフレットが棹と胴体接合部の上下いずれかに位置するため,接合部のあたりに段差があるというのは,音階を決定するフレットというものの性質上,調整の際にあまり有難くない状況を産むこととなります。
 前にお辞儀しているのと,接合部に段差があることについては,原作者の経験不足による問題ですが,棹の取付けにねじれが生じているほうは,フレットの加工などにそれに合わせるための調整加工等がなされた形跡がないので,製造後に生じた部材の変形によるものだと考えられます。

 いつものようにツキ板をスペーサとして貼りつける程度の調整では,こうした棹の取付けの問題を,根っこのところから解消することができません。ですので今回は棹本体からなかごの延長材をとりはずし,その接合部のところを削りなおして,ちゃんとした角度,ちゃんとした傾きで胴体にささるように調整する必要があります。
 棹に接合された延長材をはずすための方法は,接合部を湿らせて,接着剤のニカワをユルめる----という,ごく単純なもの,ではあるのですが。この部分,滅多なことではずれてしまっちゃあ困る箇所だけに,この楽器の中でもっとも頑丈へっつけられているところなのであります。
 さらに上に書いたよう,この楽器の作者は,月琴という楽器については熟知していないかもしれませんが,その木工工作の腕前はかなりスゴい。この接合部もまさに「カミソリの刃も入らない」くらいの精度で,そりゃもうガッチリバッチリはめ込まれちゃっております。

 お湯をふくませた脱脂綿を巻いてラップで包み,紐や輪ゴムで両端をしばって,時折ほどいては水分を補充----並の作家のものなら数時間,かなりの人のでも一晩かければ,まず無事にはずれるところ----三日濡らし続けても,接着部からニカワがニジみだしてはくるものの,取付け自体はまったくユルまず,グラともビクともしやしやがりません。(汗)
 棹本体は丈夫な唐木で出来ているとはいえ,あんまり長びくと,ほかの余計なところに悪い影響が出てしまいますので,三日目からは,わずかなスキマにクリアフォルダの切れ端を挿しこんで,ノコギリみたいに挽きこすり,そこから水分を染ませてゆく作戦を並行させ,ようやくとりはずすことができました。

 いやあここまで時間のかかったのは,いままでありませんでしたねえ。
 腕の良すぎるのも,ある意味考えもの,といったところ(w)。

 まずは棹本体の基部を削り直し,棹を楽器の背がわにわずかに倒します。山口(トップナット)のあたりで,胴体表面の水平面から3ミリ,といったくらいが理想ですね。

 オリジナルの状態では,指板面とこの胴に触れる面がカッチリ90度。曲尺の角当ててピッタリ,そりゃもう見事に加工されていました。緻密な加工が可能な唐木を使ってるとはいえ素晴らしい腕前ですが,この楽器としては残念ながら間違った設定です。
 つぎに延長材の接合部分を削り直し,棹が新しい角度で胴体にちゃんとささるよう調整します。

 この延長材は長く薄く,先端部分では5ミリほどしか厚みがありません。この楽器では表板の裏,棹孔と内桁との中間に板材が貼りつけられてますが,これはやはり,作者がこの薄い延長材だけで,唐木の重たい棹を支えられるのか心配になって入れた「支え板」だったんでしょうねえ。
 また,この延長材,はじめはこれによく使われるヒノキか何か,針葉樹材だと思ってたんですが,濡らしてみると針葉樹材のようなニオイがまったくしません。削ってみた感触も違います。かなり密で,比較的粘りのある広葉樹材のようですね。サクラにしてはやや白く,柔らかく。ソフトメイプルにちょっと似てますが…さて,正体はちょっと分かりませんね。


 棹のねじれは,このなかごの延長材のねじれによって生じたものと思われます。接合の時にねじれた形で接着してしまった,というようなことはよくあるのですが,今回の場合は接合部分の加工に問題はなく,ねじれは延長材の途中----計測したところから考えると,おそらくは例の補強材に触れているあたり-----からはじまっています。加工時にはまっすぐだったと思うのですがね。延長材自身の質と,糸の張力による変形であろうと考えられます。
 まだちゃんと枯れていない材だったのではないでしょうか。ほかの材に取り替えてしまってもいいのですが,問題があるとはいえオリジナルの部品。加工自体は素晴らしいですし,さすがに作られてから百年以上たってますので,もうこれ以上はそうそうねじれないと思われます。
 要はこれが,上桁の棹孔にまっすぐ入ってくれればいいわけですから。いつもよりはちょっと手間ですが,ツキ板を何枚か貼り重ねて削り,こんな感じ(図参照)の加工をしてみました。
 厚めの板を貼りつけて同じように削る,という方法もあったんですが,こちらのほうがより微妙な調整が出来ますので。

 ふぅうううう………まず,延長材をはずすのに三日以上。さらに棹の調整は,3Dで細かく考えていかなきゃならないのもあって,なんとこれだけで一週間近い時間がかかってしまいました。

 棹の調整は,もともとこの楽器の修理作業の中で,いちばん心身労力のかかる精密作業ではあるのですが,月琴という楽器に関する経験不足の面はあるものの,最高の材料と腕前で作られた楽器であるだけに,このヘッポコ修理者がこれを変に損ねるわけにもいきません。「原状復帰」が信条の修理者としては少し邪道にはずれるかもしれませんが,末席とはいえモノづくりの一人としては,最高の材料で作られた楽器だからこそ,その楽器としての最良の状態にして送り出してあげたいものですものね。

 しつこいほどに食い下がって行った調整作業の甲斐もあり,棹は山口のところで背がわに約3ミリ……ほぼ理想的な傾きとなり,棹基部と胴体表面板との段差も解消されました。

 じつに,いい感じになってきましたよ!

(つづく)


月琴50号フグ(4)

G050_04.txt
斗酒庵 一年ぶりで50面を越える の巻2017.3~ 月琴50号 フグ (4)

STEP4 イルカではない,河豚である。

 この50号は----状態としましては真っ黒に汚れてたし,虫食いもけっこうありましたが。古物の楽器としては欠損部品が少ないほうです。  損傷していてもオリジナルの部品は大切なので,使えるものはなるべく補修して使うことにしましょう。

 まずは糸巻が1本だけ,けっこうヒドく虫に食われていました。
 糸巻が食われるってのはめずらしいですね。ふつうニカワとかはついてない部品ですから。さらにこの先端部分のみ食われており,ささっていた糸倉のほうに被害はありませんでした----味噌汁にでも落として,出汁滲みちゃったのかな?(w)
 ここは唐木の端材と,唐木の粉をエポキで練ったパテを埋め込んで補修。

 場所が場所だけにどうかな~という心配もあったんですが,けっこう丈夫に直りました。
 ああ,そうか…糸巻にはニカワなんか使いませんが,巻きついてるお糸には糊とかニカワ使われてますね。そして糸の芯は絹----動物性ですし。それが狙われたのかもしれません。
 にしてもまあ,はじめて見る故障でした。

 棹は重曹水でさッと拭って,乾いてから油拭きしたらかなりキレイになりました。
 清掃前にはほとんど判別できなかったんですが,指板にやっぱりうすーい唐木の板(厚さ1ミリないほど)が貼られてますね。木目から見てカリンを染めたものじゃないでしょうか。

 山口は国産ツゲ。
 松派のほかの作家さんの例から考えて,オリジナルはたぶん牛骨だったと思います。


 蓮頭はなくなっていたので,オリジナルがどんなだったのかは分かりませんが,松音斎や松琴斎の楽器で,胴飾りが鸞のものには,牡丹の花が蓮頭に付けられていることが多いようなので牡丹を……ううむ,まだいくぶんアブラナ科の植物のニオイのするボタンですが,まあカンベンしてください。

 彫り物には「格」ってもんがありまして。
 龍虎や獅子,牡丹なんかは,本来それなりの腕前を持ってなきゃ,彫っちゃあイケないものなんですよ。小器用言うても庵主,しょせんはシロウトですからね。キャベツな牡丹が限界(w)

 胴飾りは中央の円飾りをのぞいてぜんぶ残っています。
 スオウが褪せて色が薄くなっちゃってますので染め直します。
 スオウを3~4回刷いてミョウバンで一次媒染。乾いたところでオハグロ液をかけて二次媒染----蓮頭同様,黒染めにします。
 一昨年,それまで5年以上もたせてきたオハグロを枯らしちゃいまして。今使っているのは,去年あらためて作り直したやつなんですが,一年以上たってようやく熟れてきたようで,今回は黒染めがバッチリです。

 円飾りは日焼け痕から推測して,おそらくこのタイプ。
 「獣頭唐草」 と庵主が勝手に呼んでる意匠---たぶん雲龍紋の変形だと思うんですけどね。
 ホオの薄板を刻みます。
 ここは胴上につくほかのお飾りと「手」を合わせなきゃならないんですが,松鶴斎,庵主よりお飾りの彫りがヘタクソです。自分より巧い人の場合は,まったく同じものを作るのはハナからムリなので,「自分の出来るせいイッパイ」で誤魔化す(w)しかないワケですが,自分よりヘタな人の手に合わせるってのも,それはそれなりにけっこうな拷問ですのよ。
 これも彫り上がったところで,磨いて黒染めしておきます。

 フレットは牛骨。
 オリジナルも数枚残っていましたが,棹上のは全損です。(幅の足りない妙なのが1枚貼りついてましたが,ボンドでつけられた後補)今回もペットショップで買ってきた牛骨を使ってるわけなんですが。もとがワンちゃんのおやつだけに,工業用の素材みたいに脱脂がちゃんとされてません。
 まあ脂抜きがされてなくても,べつだん指や弦につくわけでもないんで問題ないんですが,部分的に染みが残って,ただでさえ安い素材がさらに安っぽく見えちゃったりしますので,今回はもう一工夫。
 ¥100均コスメの除光液と,同じく¥100均で売ってる瞬接のはがし液を混ぜて,特製の脱脂汁といたします。どちらも主成分はアセトンですからね。
 板状に削った牛骨を,これに1~2晩漬け込みます。

 これを乾かし,フレットのカタチに整形。高さを調整したら磨いて,薄くなったところでこんどはキッチンハイター的な漂白剤で軽く漂白。

 じゅうぶんに乾燥させてから,滲みこみ防止にニスを薄く2度ほど塗布,乾いたところでヤシャ液に20分ほど漬けて古色付。そして最終の磨き----っと。
 安い材料ですが,ここまで手間かけると,シロウトさんには象牙と見分けがつかないくらいの出来になりますでよ(w)。


 フレットをオリジナルの位置に配置した時の音階は以下----

開放
4C4D+74E-364F+54G-44A+45C+145D+205F-49
4G4A-84B-405C5D-65E-135G-65A+75B+30

 「上(低音開放弦)」から数えた第3音が,西洋音階よりやや低いのが,清楽器の古い音階の特徴。清楽の音階は,関東の渓派と大阪の連山派の間でも少し違っていたようですが,この部分は基本的に同じですね。

 オリジナルのままだと,山口から半月までの糸のコースが胴板表面とほぼ並行で,半月においての弦高がやや高く,少し弾きにくいので,半月にゲタを噛まし,弦のコースに傾斜を加えました。2ミリ近く下げたんですが,これでもオリジナル・フレットの丈が低すぎで。第8フレットにオリジナルの第5を流用した以外,けっきょく7枚は新しく削りました。

 データ収集と確認の後,フレットを西洋音階に並べ直して接着。仕上げておいたほかのお飾りも一気に接着して,

 50号松鶴斎,修理完了です!

 同時修理中の3面の中ではいちばんの重症患者でしたが,それなりにうまく修理はできたかと。
 松派の中でも音ヌケのいい楽器なのは,やはり関東の作家の影響があるためかと思われます。松音斎や松琴斎の楽器はもうすこし音がこもって,優しい感じがしますね。

 うちの不識の楽器(1号&27号)あたりに近く,素直な音が,前にまっすぐ飛んでゆく感じです。細くて長い関東風のネックに,松派独特の内部構造と胴体工作----作者のなかで,関西と関東の技術がいまだせめぎ合ってこなれていないためか(w)ややヘッドヘビーで,速弾きの際に楽器が少し不安定になることがあります。

 まあもちろん,パッヘルベルのカノンあたりを弾きこなすくらいの速弾きをしない方にはあまり影響なく,慣れれば身体のほうが楽器に合わせて勝手に対処するようになるので,さほどの問題でもありません。
 普及品なので「音の深み」とかの点ではさすがに,高級な楽器には一歩も二歩も譲りますが,音量もそこそこ出るし,余韻も効いています。ふだん使いの楽器としてはじゅうぶんな性能を持ってると思いますよ。

 ちょうど似合いそうな布がなくって,とりあえずのをバチ布としてへっつけてたんですが,さすがにかわいそうになり,同じ系ですがもう少しマシな布に貼り換えました。


 ちなみに,うちのバチ布は基本,渋紙で裏打ちしてヤマト糊で楽器に接着しているだけですので,こうして筆とかで濡らして湿らせれば,ごく簡単にハガせます。

 なんどか書いてますが,庵主は色彩感覚に関してはヒドくザンネンなヒト(w)なので,なにかイイ古裂とか帯の端布なんかが手に入りましたら,お気軽に貼り換えてやってください。
 お気に入りの布などありますれば,裏打ちくらいまではやってあげますよ。
 そういうときは布送ってください。(ただし,布の種類によってはバチ布に向かない場合もあります)

(おわり)


月琴50号フグ(3)

G050_03.txt
斗酒庵 一年ぶりで50面を越える の巻2017.3~ 月琴50号 フグ (3)

STEP3 ヒレをこう,熱燗できゅーっと。

 ----やっちゃった。

 分解作業のとちゅうで,上桁がパッキリと。
 よく見たらこの音孔(?)のいちばんふくらんだところ。いちばん薄々になってる部分が虫にやられてました。
 あわわわわわ。

 見事にパッキリ逝っちゃったぶん,継ぐの自体は難しくありませんが,力のかかるところだけに,これを通常通りニカワで継いだのでは強度的にシンパイが残ります。

 ここはエポキでいきましょう。
 継いだ部分を音孔の内がわからさらに,和紙貼りして補強します。

 原作者のちょっとやり過ぎ加工と虫のコンボ。
 気をつけてたつもりでも,なかなか難しいものです。

 虫食い部分を除去してスカスカにした表板は,4分割してそれぞれに足りない部分を継ぎ足します。以前の修理で出た松琴斎の楽器の板がありましたので,まずはこれを使いましょう----さすが同門(たぶん)。板の厚みや質がほぼ同じですね。
 経年の部材の変化で,この4枚をそのまま継いでも,現在の楽器の横幅には少し足りません。残りの部分は,胴体に貼り付けてから継ぎ足しましょう。

 虫食いを埋め込んだ胴材は,接合部にニカワを塗って板クランプの上に並べます。これをはさみこみ,かるく固定したままで位置を調整。4枚の胴材が歪みなく,そしてもっとも互いに密着する位置になるまで,微妙に動かしてゆきます。
 ふだんは12本のボルト・ナットでしめあげますが,今回はこの接合部の調整ため,4方向をあけた8本にしてあります。あけておいた部分から,接合部にアクセスして,位置の調整をしたんですね。この板クランプ,ウサ琴の外枠を改造したものですが,ほんといろんな場面で活躍してくれてます。

 胴材が密着したところで,ナットをしめて位置を固定。そのまま乾かして,翌日接合部の裏に薄い和紙を重ね貼りして補強----接着部がちょうどこの和紙のかかるところになるので,下桁の接着はこの作業が終わってからとなります。

 一晩おいて接合部が固まったところで,型枠の下半分だけはずし,下桁を入れて接着します。また一晩養生。下桁がへっつくと胴材が安定します。もう持ち上げてもだいじょうぶ。

 4つのパーツに矧ぎなおした表板に胴材を接着します。このとき小板の間を少しづつ空けて,板の上下左右を少しだけ余らせておきます。

 板がへっついたところでスペーサを埋め込みます。また一晩おいて板の表面と周縁を整形。

 裏板も虫食いがかなりヒドかったんですが,表板に比べると強度の心配もないので,こちらはなるべく切り取らず。充填補填・細かな埋め板で補修してゆきます。表板と違って表面を清掃してないのは,この後の作業で腹に一物あるため。(w)

 こちらも表板同様,スペーサのぶんをあけて接着。
 この作業であちこちこすってるうちに,胴材の棹孔の横のあたりにけっこうな虫食いが見つかりましたので,ばっちり埋め込んでおきます。力のかかる棹孔まで食害が及んでなくって良かったです。

 胴体が箱になったところで,裏板を清掃します----うぷ,表板にも増してすごい真っ黒な月琴汁が!----そう,実はこれが欲しくて,裏板をキレイにしてなかったんですね。
 この真っ黒な月琴汁を,ツギハギな表板の補修箇所になすりこみ,補彩とします。
 なんせもともとついてたものだから,馴染みがよろしい。
 おぅおぅ,スゲぇ。染まってく染まってくぅ!

 お次は胴側を染め直します。
 この楽器の胴側はカテキュー染めです。作業の前に,表裏の板の木口をマスキングしときましょー。もともとそれほど濃い染めではないので,数回さっと刷く程度。ナチュラルカラーっぽい仕上げですね。

 表裏板が乾いたところで,半月を接着します。

 これでもう後一歩ですよぉ!!

(つづく)


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