明笛44号 「招月園」刻銘

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斗酒庵 「招月園」の明笛を調べる の巻明笛について(21) 明笛44号 「招月園」刻銘
STEP1 刻まれた詞(コトバ)

 ひさびさに笛を落札しました。
 前回の記事との間に4本ぐらい開いてるんですが気にしないでください。(w)

 今回入手したのは,漢詩の彫ってある古いタイプの明笛。
 清楽に使われた長ーい笛ですね。
 管頭2行に書かれた文字は

 茅 屋 何 人 共 住 石 林 似 我 曾 遊 白 雲 只
 在 半 嶺 青 山 誰 到 上 頭 亥 極 月 〓 〓

 明・藍仁「題青山白雲図」ですね。

 茆 屋 何 人 共 住,石 林 似 我 曾 遊。
 白 雲 只 在 半 嶺,青 山 誰 到 上 頭。

 茆屋 何人か共に住まむ,石林は似たり我が曾て遊ぶに。
 白雲只だ半嶺に在す,青山誰が上頭に到らむ。

 (絵の中の)あの田舎家には,どんな人々が住んでいるのだろう,
  そそりたつあの岩山は,まるでむかし旅したあの地のようではないか。
  山のなかばは白い雲に隠れている,あそこで
  あの青い頂をあおぎみているのは誰なんだろう

 題からするに,実際の景色ではなく「青山白雲図」という絵を見て詠んだ詩なわけですね。
 本では「茅」が「茆」になってますが,意味はおんなじ。
 「茆屋」であばらや,質素な田舎家を指します。

 漢詩の授業ではまず教わらない「六言詩」,しかも李白とか杜甫の詩じゃないあたりが,いかにも本意気の「清楽家」の笛----うん,このくらいイヤミじゃないと(www)----っぽいです。

 「極月」は十二月のこと。「亥年の十二月」,この笛の完成年記でしょうか。
 これに続く歌口の左下にある二文字(右画像)が今のところ解読不能です。「暖済」にも見えますが……さて。



STEP2 「招月園」について

 漢詩のとなり,左下に三文字あるのが,この笛を購入した理由----「招月園」の銘ですね。

 手もとの資料でこの名前が清楽家としてはじめて現れるのは,明治12年の『西京人物志』。
 「月琴」の項目に

  上京区第三十組麩屋町御池南
   招月園女史

 翌明治13年の『大日本現在名誉諸大家獨案内』では

 ○明清合奏
  麩や丁姉小路 招月庵

と,「招月"庵"」になってます。「招月庵」だと歌だか俳句だかの名跡で同じ名前の人がいますが,調べた限りでは関係はなさそうです。住所も同じ「麩屋町」ながら,その後がちょっと違ってますが「姉小路」は「御池通りの南がわ」にありますんで,同じ場所を指しているのだと思います。
 続いて14年,遠藤茂平の『京都名所案内図会』にも

 ふや丁
  御池南  招月園女史
 と,出てきます。
 3年連続してなにかしらに取り上げられてるとこからしても,この明治10年代に名を売ったヒトのようですね。
 最初の資料で「上京区第三十組」となってましたから,中白山町,いま旅館が何軒かあるあたりですかねえ。

 福田恭子「山口巌の生涯」によれば,お箏の山口巌氏の京都盲唖院時代の資料中に「"音曲研究会" 京都府盲唖院 三月廿六日 於 東山知恩院内午前正六時始メ午後五時終リ…」(『検査一件書』 明治18年3月)と「音曲研究会」により演奏会が行われたという記事があり,その参加者として----

 ○明清楽
 水滸伝武鮮花,二宗不諗母流水
  招月園 社中

と「招月園」の名が出てくるようです。「社中」とあるからには清楽のお教室として参加したということでしょう。「二宗」は「仁宗」でしょうね。この「武鮮花」「仁宗不諗母」といった曲は芝居仕立ての大曲なので,あまり月琴独奏という形式では演奏されない曲です。(「仁宗不諗母」がどういう曲だったかにつきましては今夏の復元記事をどうぞ!)
 どっちかというと大勢でいろんな楽器を持ち寄ってワイワイやる手合いですね。
 明治25年の『音楽雑誌』20号,大阪東区の「備一亭」で行われた平井連山(初代)の七回忌の演奏会についての記事中にも,この「招月園社中」が協力した旨が見えます。これも当時の清楽関係としてはかなり規模の大きな催しだったようですから,それに手助けを頼めるくらいの規模で,あるていどの人数を教授していただろうということがうかがい知れます。

 しかしながら,庵主も現状文献から追えるのはこのくらいなもので。

 そもそも「招月園」というのは「○○亭」とか「××庵」と言ったのと同じ,自分の家や庭や部屋などの名前を以て,自分の名前に代える----いわゆる「室号(しつごう)」という類。庵主の「斗酒庵」てのもそうですが,ペンネーム・芸名,雅号てのの一つです。
 つまりこの人,現状本名も分からないわけですね。
 ただ最近,大正13年に出された『日本音楽の聴き方』(那智俊宣)という本の中に,こんな一節を発見しました。

 …この期の初めから末期にかけて流行を極めましたのは,文政年間長崎に伝来した支那近代楽の「明清楽」でありました。南宗画及び煎茶の普及と共に。支那近代趣味の人に迎へられ,其雅筵にはこれが演奏を絶たない有様でありました。明治の初年から,二十年頃までを極盛期といたしまして,日清戦役に至って一時に音を絶ちました。長崎派と渓庵派の二派ありまして,長崎派では久留米の人仙台の箏曲の山下検校,渓庵には東京に長原梅園,春田母子,京都に岡崎招月園女史など覇を称しました。管絃楽を重とし,月琴,阮咸,提琴,胡琴,明笛,太鼓等はその楽器の重なるものであります。(「七、諸樂交替期」より)

 あー,細かいことを先に言っときますと。長原梅園と春田は「渓庵派」ではありませんね……たぶんこれは東京を中心に活躍した長原梅園の一派を,本家の連山派が「大阪派」と呼ばれるのに対し「東京派」と呼ぶこともあったところからきた混乱でしょう。鏑木渓菴が興し富田渓蓮斎が継いだ「渓庵派」も,活動の中心を東京としていたことから「東京派」と呼ばれることもありましたが,伝承の系統が違っています。
 また長崎派の代表にお箏の山下検校入れちゃうのか!ってあたりも文句がないでもないんですが(w),山下検校が清楽にも関わってたのはまあ事実。長崎派ってのもふつうだと小曾根乾堂・三宅瑞蓮とか東京なら奥山の松本瑞蘭あたりでしょうねえ。

 そりゃまともかく----ここには「岡崎招月園女史」と書かれています。清楽家で「京都に」っていうから,ここまで追ってきた「招月園」のことで間違いないでしょう。

 もっとも,京都ですからもしかすると「岡崎」は左京区の「岡崎」なのかもしれないんですが(心配性)----まあほかの人名がその形式になってませんので,ここは素直に名字と受け取って良いでしょう。
 「招月園」の名字が「岡崎」だというのは,現在までの所この記事以外に見たことがありません。

 さてこの文の筆者「那智俊宣」は鈴木鼓村の別号。
 明治~昭和にかけて活躍したお箏の人で京極流の創始者。北原白秋などのやっていた「パンの会」のメンバーでもあり,交遊は広く趣味も多彩にして多才の人。大正時代にはこの名前で,京都で日本画家としても活躍していたそうです。
 明治8年,宮城県の生まれなので,招月園の活躍時には直接的な交流はなかったと思われますが,明治30年代以降は京都がその活動の中心であったので,そこで手に入れた情報だったのか…または,この人の祖母・母ともに京都の人らしいので,あるいはそのあたりの伝手からの情報だったのかもしれません。
 もっとも,ほぼ独学で『日本音楽の話』なんていう大著を書きあげちゃうくらい音楽全般に底知れぬ造詣を有していた人ですので,たんに「知っていた」だけなのかもしれませんが。


STEP3 笛の状態と修理

 さて,今回入手した笛に戻りましょうか。
 招月園女史本人の作ったものか,社中で作らせたものに銘を刻んだだけか,そのあたりはまあ分かりませんが。

 庵主の刻文の読みが合ってたとして「亥年」の作だとすると明治では8(1875),20(1887),44(1911)。招月園の活躍時期や笛の状態からすると真ん中の,明治20年代の作かなあ。

 以前音大で見た伊福部先生のところの招月園の清笛は,色の薄い地に変り斑をちらばせたキレイなものでしたが,こちらは全体が茶色。
 煤竹っぽい色ですが,管尻のところを見る限り竹の肉の色や感触は違いますので染めでしょう。
 お飾りをはずした状態で管長は543。
 明治~大正の頃に売られていた標準的な明笛で長さはだいたい45センチくらいなので,10センチ近くも長いですね。

 管頭のお飾りがなくなったか,お飾りの接合部分が破損したかしたらしく。凸になった部分を切りとり,内がわを削って少しラッパ状に加工してあります。
 まあこのタイプの明笛は,歌口から管頭までの部分が長いので,飾りがなくてもこれで格好はつくだろう,ということでしょうか。
 管尻のお飾りは残ってますが,虫やらネズやらにやられ,かなりボロボロな状態です。素材は牛の角ですね。
 管径は管頭で外22,管尻で外20,内11.5。
 歌口は12x8,指孔はそれよりわずかに小さく10x8ていどの棗型。響き孔と裏孔はφ6の円形。

 歌口から各孔までの寸法は以下の通り----

歌口響孔調子孔1調子孔2裏孔
73137164191218247274332356312

 明笛の場合,歌口の中心から裏孔までが,弦楽器で言うところの有効弦長にあたりますね。反射壁(管頭の詰め物)は歌口の上端から4ミリほど下がったところとなっています。
 すでに述べたよう,管頭のお飾りはなくなっており,管尻のお飾りもボロボロですが,そのほかの損傷個所は以下----

 歌口のあたりの塗りが傷んでいるのは,使い込まれた笛としてはまああたりまえの故障なのですが,反射壁手前の塗りの剥離は,状態から見て,前の所有者が反射壁の位置を後で調整したのではないかと思われます。

 現状で息を吹きこめば音が出る状態,しかも管全体がビビるくらい共鳴してますんで,この前所有者によるピッチの調整はバッチリGJ。製作当初はもうすこし歌口がわというか,手前に位置していたようですね。
 周辺の内壁,そして歌口と響孔の中間部位の管背がわにも数箇所の剥離が見られます。これらも使用による劣化というよりは,反射壁調整の巻き添えを喰らったものだと思われます。そのうえ,塗りが剥離した状態でそのまま使っていたようで,露出していた竹の地が,ヨゴレで真っ黒になっていましたよ。

 あとは管尻がわ指孔の第1孔周辺,塗りも竹の表層部も剥がれ,竹肉の部分が露出して表面がガサガサになっています。指孔の縁もちょっとボサボサになってますし,孔の壁の塗りも傷んでますね。竹の表層ってのはふつうけっこう丈夫なものなんですが……これは削れたとかでなくて,管表から管背にかけて,液体が滴ったような痕跡が見られますね。
 単なる水濡れではありません。
 なにか薄い酸とかアルカリとかで,時間をかけて浸食,溶かされたみたいな感じです。
 管内の塗りには損傷が及んでおらず,指孔も押さえた時の感触が悪いだけで使用上の問題はさほどなさそうですが,軟らかい竹肉の部分が出てしまっていますし,表面がこんなだと何かにひっかかって傷んでしまいそうですので,少々表面を固めてやらなければなりますまい。

 音が出せる----つまりは楽器として使用可能なわけで,この時代に作られた古楽器としては保存状態がかなりよろしい。塗りの補修と傷んで竹の肉の出てる第1孔周辺を固めれば,ふつうに使える状態に戻るでしょう。

 正直音階を調べるだけなら,管頭と管尻のお飾りは楽器としては無くてもまあ構わないんですが。管頭のお飾りについては,演奏時に長い管体のバランスをとるカウンターウェイトとしての機能も持ってますんで,「笛として使う」なら作らなきゃなりますまい。

 管尻のほうはボロボロながら残っているものの,管頭のお飾りに関しては現物が残ってないので,どんなものだったか分かりません。カタチよりは重さを考え,だいたいの大きさを決めて作りました。
 今回の材料は,いつも庵主が月琴の糸巻作るのに使ってる百均のめん棒----ふつうなら旋盤で作るような部品ですが,持ってナイもので,根性と手ヤスリで削り出します(w)
 管尻のほうはだいたいのカタチを出した後,管尻方向から中心に孔を通してリーマーでグリグリして内がわをラッパ状に。管の接続部をさしこむほうは,彫刻刀で深さ1センチほどの凹に彫り込みました。

 もともとの塗りがかなりしっかりしていたようなので,内塗りは基本的に管内や指孔の縁の剥離箇所の補修と保護塗りていどで済みました。外がわは第1孔周辺の損傷個所に塗料を染ませて毛羽立った表面を固めたほかは,かるく全体を拭いたていどですね。
 一週間ほど硬化養生させてから磨き,公園で試奏してきました。

 口 ●●●●●●  合/六  4Bb+35~4B-42
 口 ●●●●●○  四/五  5C+25
 口 ●●●●○○  乙  5D-12
 口 ●●●○●○  上  5Eb+15
 口 ●●○○●○  尺  5F+20
 口 ●○○○●○  工  5G-10
 口 ○●●○●○  凡  5A-25
 (口は歌口,●閉鎖,○開放)

 全開放は5A+30
 呂音での最高音は 口 ○●●●●● で,全閉鎖のほぼオクターブ上,5Bb が出ました。

 西洋音階にあてはめると,筒音がかなりビミョーな感じではありますが,「"合" がBbからB」というのは文献通りの当時の音。かなり正確な清楽音階になっているのではないかと思います。
 修理前にも思いましたが,非常に吹きやすいですね。研究用に購入したものですが,ふだん使いの楽器としても使えそうです。
 ほぼ同じ大きさの31号とくらべても,音の安定がとてもよろしい。
 呂音から甲音への切り替えもスムーズ。
 笛へたっぴな庵主でも,苦労せず甲音が出せます。
 さすがほんとうの清楽家が作ったマジ笛,ちゃんと分かって作ってる,って感じですか。

 楽器として庵主にはもったいないくらいの上等品ですんで,こりゃもう少し練習しなきゃなあ。

(おわり)

清楽月琴WS@亀戸 2018年11月場所!!

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斗酒庵 WS告知 の巻2018.11.24 月琴WS@亀戸!  の巻


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 11月場所 のお知らせ-*


 ようやく秋めいた----というか一気に冬かもねな,きょうこのごろ,いかがお過ごしでしょうか?

 庵主はこのところ,古い明笛の修理をしております。
 清楽に使われた古い明笛…明治のはじめごろに活躍した京都の演奏家の名が刻字に切ってあります。
 もうすこしまとまりましたら報告しますね。

 2018年,11月の清楽月琴ワークショップは,24日土曜日の開催予定です!

 飛び石休日の中日ではありますが,ふだん来れない連休のかたもぜひどうぞ!

 会場はいつもの亀戸 EAT CAFE ANZU さん。

 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願い。

 お昼下りの,にょろにょろ開催。
 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもOK。

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。うちは基本,楽器はお触り自由です。

 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 弾いてみたい楽器(唐琵琶とか弦子とか)やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!


 現在,お譲り出来る楽器は1号月琴と57号時不知。
 どちらも初代・石田不識の作,関東の月琴です。
 興味あります御方は,試奏がてらにでもどうぞ~。

清楽月琴WS@亀戸 2018年10月!!

20181020.txt
斗酒庵 WS告知 の巻2018.10.20 月琴WS@亀戸  の巻


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 10月場所 のお知らせ-*


 ジャングル開墾より帰ってまえりました。(w)

 帰京後2発め,2018年,10月の清楽月琴ワークショップは,20日土曜日の開催予定。
 会場はいつもの亀戸 EAT CAFE ANZU さん。

 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願い。

 お昼下りの,ちょろちょろ開催。
 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもOK。

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。うちは基本,楽器はお触り自由です。

 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 弾いてみたい楽器(唐琵琶とか弦子とか)やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!


 61号をうちの楽器にしちゃった関係で,1号月琴を格安でお譲りいたします。あと57号時不知も嫁き遅れてちゅう(w)。
 どちらも初代・石田不識の作,関東の月琴です。
 興味あります御方は,試奏がてらにでもどうぞ~。

 今回のしくだいはこれかな?


斗酒庵式月琴ピック配布のおしらせ

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斗酒庵 ピック配布告知 の巻斗酒庵式月琴ピック配布のおしらせ の巻


*こくちというもの-月琴ピック配布のお知らせ-*


 うやく涼しくなってきましたねえ。

 年に数回こさえております牛蹄の月琴用ピックの製作をまたやりますので,必要な方はご連絡ください。
 うちから楽器の渡ってる方々には,基本無料ですんでお気軽に。

 その際,厚め薄め長め短め伝説のムラマサ・ブレード風などご要望がございますれば,あらかじめ申告を。
 素材が自然物ですし作り手がヘボなので必ずしもご期待にはそぐえないかもしれませんが,なんとかがんばります。(w)

 今現在お持ちの連中も,折れた曲がった反った削れたなどメンテあるいは再製作の要あらば,この機会にまとめて。
----ただしポチタマに食われた/食わせた場合は,罰としてビールなりオゴリな。

 きのう作業を開始したばかりなので完成は10月なかば以降かと思われますが,ご連絡はお早めに。

 副産物としてギターやらマンドリン,他の弦楽器用の三角ピックもできちゃいますので,欲しい場合はいっしょにどうぞ。
 そちらのオーナーさんも追加が必要なら言ってください。
 小さめのジャズマスターからティアドロまで,だいたい作れるかと。珍しいとこでは三味線とか琵琶の爪弾き用(バチ出してまで弾かないようなヒマ時用)の奴なんかも作ってますよ。
 ご要望ございますれば,その手もおまかせあれ。

関連記事:最新改訂版・斗酒庵流月琴ピック製作記

長曲「仁宗不諗母」の復元

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斗酒庵 「秘曲」をひもとく! の巻『清風雅唱-外編』「仁宗不諗母」の復元(1)

STEP1  前説・簡解

 本稿では富田渓蓮斎『清風雅唱-外編』に掲載された長曲「仁宗不諗母」の歌曲としての復元を行う。テキストとして用いた国会図書館アーカイブの資料は乱丁本であり,歌譜は画像のコマ数でいうと----

・16-20コマ(5)>
・30-31コマ(2)>
・24-28コマ(5)>
・57-58コマ(2)

----の計14コマで完成する。
 他の資料に収録された同題の歌譜に基づき,画像を正しい順でつなぎ合わせたものが以下である。


 歌詞対照譜,符字のほかには句点と音の長さがきめられていない不定拍長音の記号だけが付されている。もちろんこの譜単体で曲調が読み解けるようなものではない。
 歌詞の頭に「○」と「・」の指示がついている。どちらもの記号も書中に解説はないが,ほかの資料ではここが「oo」と「・」となっていることから考えると,板(=拍板:打楽器)の指示ではないかと思われる。「○」が2拍「・」が1拍,もしくは「○」で板を入れ「・」は板の入らない歌詞の切れ目ということかもしれない。

 譜は長くはあるが,曲は最初と最後の部分以外ほぼ同じようなフレーズとその小バリエーションの組み合わせ,および繰り返しで構成されており,そのほかに2箇所「白」,すなわち短い科白の挿入がある。

 復元作業は,以前に手がけた「四不像」などと同じく,符字順列上の類似や句点などを参考として,全曲をあるていどの大きさのフレーズに区分し,音長の手掛かりのある他資料を参照しつつ,再現された曲調をMIDIで組んで実際の音楽としながら,頭から一つ一つ読み解いてゆくこととなる。

 今回,主として用いた参照資料は,土岐達『月琴雑曲集』である。これに収録された「仁宗不諗母」の譜には,不完全・不正確ながらいちおうの音長指示が付されている。基本は----

 無指示の符字:1字1拍
 符字下に「レ」:2拍
 「。」:休符1拍
 傍線:半拍

 そのほか作者による解説はないものの,復元される楽曲と他の譜との比較から,「レ。」は2分半+休符の全符(近世譜だと「上--○|」),「上~尺」と符間に「~」の記号をはさむものが2分半4分もしくは4分半8分の不均等関係,「…」が不定拍長音である可能性が高い。
 本稿では以降これを「土岐達」と略称する。
 土岐達の長音指示は,あくまでも備忘録的に曲中の「ここは必ずのばす」「ここでぜったい切れる」といった重要点を指し示しているだけのもので,渓派の付点や四竃訥冶などの近世譜のそれのように,それによって全体の曲調を再現できるようなものではない。ただ本曲の場合は,使用されているフレーズの多くが他の清楽曲,とくに「○○流水」と題されるような一群の曲中に類似の例を数多く見いだすことができるため,フレーズ中の数箇所,長音や句点の位置が分かるだけでも,そうした類例との比較検討上,相当に役に立つものとなることだろう。
 ほかに符字や歌詞の参考資料として,河副作十郎『清楽曲牌雅譜』(=略:河副)と,筆者所蔵の写本『小蘇女史清楽譜(仮)』(=略:小蘇女史),長崎歴文所蔵の『清楽』(中村18:34 地巻=略:歴文清楽)などを用いる。

 以下各項,はじめに掲げた3桁の数字が小分けにしたフレーズの番号と工尺譜,次段に歌詞,続いて各フレーズの考察とそれによって再現された曲調を,4/4,1字1拍の近世譜で表わすこととする。


(つづく)

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斗酒庵 「秘曲」をひもとく! の巻『清風雅唱-外編』「仁宗不諗母」の復元(2)

STEP2 復元前半

001 尺六五。工工尺上四合。尺工。尺上尺上(切)。

 ニイ イュイ エー ツャン ツィン サア ツァヲ チュウ リャウ
○你 与 爺 ・将 青 沙 𦋃 住 了

 ニャン ニャン レン フワア ラ ラ イン シャン リャウ 
・娘 々 臉 ・花 喇 々 引 ・上 了
 ウ チャウ メン ワイ
 午 朝 門 外

 はじめの「尺六」2音,歌詞「你与爺」,土岐達では「…」で不定拍の長音が指示されている。以前本書の譜では「你与」までが「尺」1音,「爺」は「六」がのびて小さな「五」につながっており,句切りの「。」が添えられている。不定拍長音の尻に付いた「五」は器楽に対する指示だろう。

(器楽)尺---|----|----|六---|
    --五○|
(歌唱)尺---|----|尺---|六---|
    你         与    爺
    ---○|

 「工工尺上四合」歌詞は「将青沙𦋃住了」,1字1音で末尾の「合」には不定拍長音の指示がある。土岐達はすべてを2拍としているが,不定拍指示のある末尾「合」を全符+2分,4小節として体裁を整えよう。

 工-工-|尺-上-|四-合-|---○|
 将 青  沙 𦋃  住 了

 続く「尺工」不定拍長音の2符で「娘娘臉」「花喇々引」という2つの小フレーズが唱えられる。画像の上では「花喇々引」のほうが長いが,後者の「喇々」は語気音の繰り返しであるので,両者同じくらいの長さで良いと思う。

(器楽)尺---|----|工---|----|
(歌唱)尺--尺|尺--○|工-工工|工--○|
    娘  娘 臉    花 喇々 引

 つぎの「尺上尺上」を土岐達は,はじめの「尺上」と末の「上」を各2拍,3符めの「尺」を不定拍長音とする。本書ではすべて不定拍長音で,3符め「尺」の不定拍の傍線の内がわ,歌詞「門」の横に小文字で「四」,末「上」の不定拍指示の尻に「切」と書かれ,句切りの「。」が添えられている。小文字の「四」は歌唱に対する指示ではないかと思われるので----

(器楽)尺---|上---|尺---|--上-|
    ---○|
(歌唱)尺---|上---|尺-尺-|四-上-|
    上    了    午 朝  門 外
    ---○|

としてみる。次の歌詞の頭に「○」があるのて,一度ここで句切ろう。


002 上工六尺。工四上尺。工四上尺。工四上尺四上尺工上四仩合。

 タウ キン チャウ ツウ テン キ
○到 今 朝 ・子 登 基
 クヮン ワン ミン ム キャウ キャイ ポ ネン ニャン ツィン
・管 万 民 ・母 叫 街 不 諗 娘 親

 「上工六尺」歌詞は「到今朝」で土岐達は頭の「上」のみ2拍,本書の譜より真ん中の「今」に「工六」2音があてられていることが分かる。3度くりかえされる「工四上尺」はいづれも「工」と「尺」が2拍,最期の「四上尺工上四仩合」は2つめの「四」にのみ2拍の指示がある。これをそのまま近世譜に直すと

  上-工六|尺工-四|上尺-工|-四上尺|
  -工-四|上尺-四|上尺工上|四-仩合|

となる。4/4の8小節ぴったりでおさまりはよいのだが,調子に対する長音の位置,前後の関係を考え,長音でないはじめの小フレーズの区切りに休符を置く,また次が器楽間奏であるところから末尾「合」をのばして2分半+休符の全符とするとやや見られる形に整った。

 上-工六|尺○工-|四上尺-|工-四上|
 到 今  朝 子  登 基  管 万
 尺-工-|四上尺-|四上尺工|上四-仩|
 民 母  叫 街  不 諗  娘親
 合--○|

 ここまでがいわゆる「序曲」「解説」にあたる導入部のようなもので,つぎの間奏から先が芝居の本筋である。


003 合四合四仩合四仩仩。伬伬仜合合四仩合。四仩仩

 間奏部,譜横に「流水」とある。本曲の間奏部の曲調は「○○流水」と題される他曲に文字順列上,フレーズの似通ったものが多い。土岐達の音長指示に従うと----

  合四-合|四仩--|○合四仩-|仩伬伬工|
  合○合四|仩--○|合四仩-|仩○

であるが,まず出だし「合四」以下の小フレーズは連山派の「林氏流水」など「○○流水」と題する清楽曲中によくある出だし部分と同じものであろう。それら類例から考えると,出だし2符「合四」は1拍2拍ではなく各2拍,すなわち「合-四-|」である可能性が高い。
 1番目の句点以降,2・3番目の小フレーズは符字順列上,「漫板流水(漫波流水)」の出だしと一致する。同様の曲調はまた「林氏流水」のほか「竹林流水」,連山派『声光詞譜』の「流水」,「如意串」などの中などにも見られる。
 これらを参考にすると----

 合-四-|合四仩-|合四仩-|仩--○|
 伬-伬仜|合-合四|仩-合四|仩-仩○|

という曲調が得られる。土岐達の指示・句点や原譜の2番目の句点を無視するかたちになるが,清楽曲としてはこれがもっとも妥当であろう。次の歌唱との間を考えると,末尾の「仩○」を全符の長さで揃えたほうがよいかとも思われるが,曲導入部のはじめの一段めが終わったところであり。間奏でぴったり8小節,これ以上間があくのもやや不自然なので,とりあえずはこのままとする。


004 尺六。工尺工尺工上

 ニ イュイ エヽ ツャン クヮン カゥ
○你 与 爺 ・将 官 告

 「尺六」にいづれも不定拍長音の指示,歌唱は「尺」で「你与」,「六」で「爺」を発音する。出だし部分と類似したフレーズなので,長さは 001 と同様か,それより少し短いくらいが適当であろう。本譜では「六」の後に小区切りの「。」が入っている。「工尺」で「将官」各1字,「告」に残りの4符があてられており,土岐達ははじめの「工尺工」までを各2拍としている。不定拍長音の部分だけは不明だが,あとは末尾「上」と次の器楽部分の間に休符を1拍置く程度でいいのではないかと考える。

(器楽)尺---|----|----|六---|
    -○工-|尺-工-|尺工上○|
(歌唱)尺---|----|尺---|六---|
    你         与    爺
    -○工-|尺-工-|尺工上○|
      将  官 告


005 上四上上。尺工六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 011,017,022,027,033,036,039,042,049 として同じフレーズが出てくる。
 歌唱なしの間奏部分。土岐達の指示だと----

  上四上-|尺工六-|尺六工○|工尺工尺|
  工六--|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

となる。16符めの「六」とつぎの「五」の間に音長の不均等関係を表すと思われる「~」が入っているが,これは2分半4分か4分半8分か分からない。長崎歴文の写本『西奏楽意譜』(中村18:57)の「林氏流水」の中などに,これと一致するだろうフレーズが見られる。符字順列は----

  上四上上尺工六尺六工工尺工尺工六五六工尺上合四上

この長崎歴文写本の「林氏流水」は符字順列から推測して,渓派や連山派で一般的な「林氏流水」とは少し異なり,「徳健流水」の出だしを「林氏流水」のそれに替えただけのような曲である。該当箇所は渓派の「徳健流水」(SG016)で言えば,2段8小節目からの以下のような部分にあたる。

                 上四上-|
  上-尺-|六-尺六|工--○|工尺工-|
  尺工六○|五六工尺|上-合四|仩--○|

これらのことから,前の間奏部分と同じくこの箇所も,「林氏流水」や「徳健流水」中のフレーズのヴァリエーションであろうと推察される。土岐達の長音指示とこれら類例の曲調を参考に少し整形すると----

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上○合四|
 仩-仩○|

というあたりが妥当であろう。


006 上尺工六工尺 合合四仩合四仩仩

 ホー パン リィ
○部 班 裡 

 018,034 に同様のフレーズがある。
 前半歌唱は3文字で符の配分は「上 尺工 六工尺」,土岐達はこのうち「上」と「六」に2拍の指示を付す。後半は器楽のみで,土岐達は1符めと7符めに2拍の指示,近世譜にすると

  上-尺工|六-工尺|合-合四|仩合四仩|-仩

となる。前半はそのままで良いが,後半「合合四」以下は前項同様,流水調の曲によくあるフレーズなので----

(器楽)上-尺工|六-工尺|合-合四|仩-合四|
    仩-仩○|

と整形する。
 「工尺」4分で切れるため,このままだと歌唱部分の切れかたがやや唐突でつながりが悪い。伴奏とは別に,歌にもう1音低い「上」を足して,間奏に少しかぶさるくらいにくらいすると,歌いやすく,また聞きやすくなるだろう。

(歌唱)上-尺工|六-工尺|上--○|○○○○|
    部 班  裡
    ○○○○|

007 (白)家 爺 為・何 不 穿 帯

 器楽なしの科白部分。


008 尺尺工六五仩五仩五五仩六工六 六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 ニイ キャア エー エヽ ヽヽ イュイ スエン ワン
○你 家 爺   与 先 王 

 013,019,024,029,044,046 に同じフレーズがある。
 前半歌唱部分,土岐達の指示によれば----

  尺-尺工|六○五仩|五○仩五|五-仩六|工六 

となる。これに歌詞をあて,合わせて多少整形すると

  尺-尺工|六○五仩|五○仩五|五仩六-| 
  你 家  爺 エエ エ エエ 与ガ先ナイ
  工-六-|
  王

というあたりになろうか。4小節目「五」をのばすか「六」をのばすかは少し悩ましいところなのだが,ここでは歌詞の「与」に語気音「ガ」がついているので,こちらを長音とした。歌詞の配分によっては「六」が長音で良い箇所もあるかと思う。土岐達による後半間奏部分は----

  六-尺六|工○工尺|工尺工六|--五六|
  工尺上-|合四仩-|仩

であるが,これも連山派の「林氏流水」「清響流水」「徳健流水」に,   六-尺六|工--○|工尺工-|尺工六-|   五六工尺|上-
というほぼ同じフレーズが見える。これにほかでも繰り返される末尾「合四仩仩」を足したものが妥当であろう。

  六-尺六|工--○|工尺工-|尺工六-|   五六工尺|上○合四|仩-仩○|

(器楽)尺-尺工|六○五仩|五○仩五|五仩六-|
    工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
    尺工六-|五六工尺|上○合四|仩-仩○|
(歌唱)尺-尺工|六○五仩|五○仩五|五仩六-| 
    你 家  爺 エエ エ エエ 与ガ先ナイ
    工-六○|○○○○|○○○○|○○○○|
    王
    ○○○○|○○○○|○○○○|○○○○|


009 上尺上尺六五六工尺 合合四仩。合四仩仩

 チョエン ヒャア サン リン
・穿 孝 喪 霊 

 014,020,025,030,037,043,047 に同じフレーズが見える。
 前半歌唱,土岐達の指示では----

  上-尺上|尺六-五|-六-工|-尺 

だが,これは歌詞の配置から考えて,2音を2拍にするだけで整う。後半は 006 と同じだが,最初の「合四仩」の後に句点があるので,「仩」を2拍から1拍+休符とする。

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 穿    孝    喪  ガ 霊
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|


010 尺尺工六五六五六五六六六六六 工尺工尺工上 

 ツャン ヒャン パンアヽアヽ ア アアア ターウ レエヽヽ ヅァイ
・将 香 盤 桃  列 在 

 同様のフレーズはここのほか 016,026,032,035,038,041,048 として登場する。
 土岐達の版では「六五」のくりかえし,連続する「六」の回数などに小変異がみられるが,本譜の場合,その文字順列はすべて同じである。
 土岐達ははじめの「尺」のほか,連続する「六」の後の「工尺工」3符および末尾の「上」に各2拍の指示が付けている例がある。近世譜に直すと----

  尺-尺工|六五六五|六五六六|六六六工|
  -尺-工|-尺工上|-

となるが,長音指示のない「尺尺工」から「六」の連までが,そのままだと不自然である。歌詞の配分のほか,連山派の「清響流水」中に類似のフレーズが見られるので,その音長を参考にすると

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 将 香  盤 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  桃 列  エ ヽヽ 在

という曲調が得られる。本項では一つながりになっているが,この後につづく例ではすべて,5連の「六」の最後のところに句点があり,2つの小フレーズに分かれている。そのためここだけは類例と異なり,「六」の2拍ではなく1拍+休符とするのが妥当であろう。


011 上四上上。尺工六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 005と同じ間奏。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上○合四|
 仩-仩○|


012 工尺工上尺上合乙四 四合四。合四仩四仩四合工工。六五六尺尺工六五六。尺工六五六工尺上。合四仩仩

 ツィン ランアヽヽヽ シャン 
・進 廊 上 

 本項のほか,023,040,045,050 に同じフレーズがある。また1符少ない 028 もこのヴァリエーションである。
 土岐達の版に長音の指示はないので,そのままだと1符1拍となるが,曲中の類似フレーズ中に----

  工尺工上尺上合乙四 

と長音指示がなされているものがある。これに従えば近世譜は----

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|
 進ガ廊    アヽ ヽヽ上

となる。歌詞との兼ね合いも,次とのつながりもよいのでこれで良しとしよう。。

 後半の間奏部分に関しては,連山派の「林氏流水」をはじめ「徳健流水」「清音流水」「漫波流水」などの中に前後を含め,ほぼ同様のフレーズが見られる。沖野竹亭『清楽曲譜』「漫波流水」では----

                 四合四-|
  合四仩-|四仩四合|工-工-|合四合-|
  尺-尺工|合四合-|尺工合-|四合工尺|
  仩仩合四|仩-仩-|

 柚木友月『明清楽譜』「清音流水」では

                 四合四-|
  合四仩-|四仩四合|工-工-|六五六-|
  尺-尺工|六五六-|尺工六六|五六工尺|
  上-合四|仩---|

 小差異はないでもないが,曲調はどの曲でもほぼ同じである。この種の曲における典型的なフレーズの一種らしく,これらを参考に組むと本譜は次のような曲調となる----

                四合四○|
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

 土岐達の版ではこれの前の歌唱部分にほとんど差異はないものの,こちらの間奏部分は----

1)五六五六五仩、五仩五六工工六五六、尺尺工六 五六、尺工六五六工尺上、合四仩
2)五六五六五仩五仩五六工工六五六尺尺工六五六工工六五六工尺上合四仩
3)五六五五六五仩五仩五六工工六五六尺尺工六五六尺工六五六工尺上合四仩
4)五六五六五仩五仩五六工工六五六尺尺工六五六尺工六五六工尺上合四仩
5)五六五六五仩五六工工六五六、尺尺工六五六、尺工六五六工尺上、合四仩仩
6)五六五六五仩五仩五六、工工六五六、尺尺工六五六、尺工六五六工尺上、合四仩仩

と長音の指示にわずかな差異がある。しかし1)を基本と考え「~」となっている箇所を「レ」と同じ2拍指示とし,2箇所長音を足すと----

                 五六五-|
  六五仩○|五仩五六|工-工〓|六五六○|
  尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
  上○合四|仩-仩〓|

と,筆者の組んだ上記の例と曲調上の差異のほとんどないフレーズとなる。出だしが「四合四」でなく「五六五」になっているが,これは符字が1オクターブ上のものになっているだけで,月琴で弾いた場合の曲調はほぼ同じである。


013 尺尺工六五。仩五仩五五仩六工六 六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 ショェン チ クィイヽヽヽ メン チャウ テン 
○双 膝 跪   面 朝 天 

 句点の位置が異なるだけで,008と同じ。土岐達の版ではこの箇所の該当フレーズに長音指示がないが,ほかの4箇所では出だしの「尺」に2拍の指示がある。

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 双 膝  跪  イ ヽ ヽヽ 面ガ 朝
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
   天
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 5小節目「天」は間奏の頭にかぶさる。この小節の歌唱は「工 六-○|」となろう。


014 上尺上尺六五六工尺 合合四仩。合四仩仩

 ゴ ハイ スェンナイ ワン
・哭 拝 先 王

 009 と同じ。

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 哭    拝    先    ナイ王
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|


015 工工工工工上工尺尺 合合四仩合四仩仩

 アイ イヽヽ スェン ワン ヱ
 噯 先 王 爺

 土岐達は前半歌唱部出だしの「工」5音を1音不定拍に,また末尾の「尺尺」を1音の「尺」2拍としている。後半は 009,014 と同じである。出だしの「噯イヽヽ」の部分は調子を整える語気句であるから長さ的にはどうとでもなるが,構成的に見て 014 と対で,014 の「先王」を受けて強調するだけのフレーズであると推察される。そこから考え,続く「上工尺尺」を各2拍として,「先王」の発音位置やフレーズの長さはそろえたほうが良いだろう。また「爺」の「尺尺」は,伴奏では「尺」2拍2音,歌唱では「尺--○|」1音として唱えるほうが自然である。

 工-工-|工工工-|上-工-|尺-尺-|
 噯    イヽヽ  先 王  爺
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|


016 尺尺工六五六五六五六六六六六 工尺工尺工上

 ネン ウィ ジン イヽヽヽ アヽヽヽヽ シウ ギュイン エン
・念 微 臣   ・受 君 恩

 010 と同じ。

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 念 微  臣 イヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  受 君    恩

017 上四上上。尺工六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上合四仩仩

 005 と同じ間奏。末尾「合四仩仩」前の「上」に句点がないので,ここを4分+休符でなく2分とする。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 土岐達の版は8小節目の「上」に休符がついているだけで,全体としてはこれに近い。


018 上尺工六工尺 合合四仩。合四仩仩

 ユウ スウ ザァイ
○有 数 載 

 006と同じ。後半の句点に小変異。

(器楽)上-尺工|六-工尺|合-合四|仩○合四|
    仩-仩○|
(歌唱)上-尺工|六-工尺|上--○|○○○○|
    有 数  載
    ○○○○|


019 尺尺工六五。仩五仩五五仩六工六 六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上合四仩仩

 ミン ヲィ ジン エヽヽヽ ヒャ テン チウ
○命 為 臣   下 澄 州 

 末尾「合四仩仩」前の句点がないだけで 008 と同じ。

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 命 為  臣  エ ヽ ヽヽ 下ガ澄
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
   州
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|


020 上尺上尺六五六工尺 合合四仩合四仩仩

 シン チイ キーヤー ミン
○賑 済 飢。 民 

 句点が省略されているだけで 009 と同じ。

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 賑  カ 済    飢 ヤ    民
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|


(つづく)

funen03.txt
斗酒庵 「秘曲」をひもとく! の巻『清風雅唱-外編』「仁宗不諗母」の復元(3)

STEP3 復元後半

021 上上上四合工尺工尺工上

 ヲイ チャウ チョエン ナ シュイ イヽ ヅゥ
○回 朝 転 ・那 誰 知

 土岐達は----

  上-上-|上四合工|-尺工尺|工上-

 とする。フレーズの間に休符を一つはさむだけで

 上-上-|上四合○|工-尺工|尺工上-|
 回 朝  転    那 誰  イヽ知

 となり,これで特に問題はない。

022 上四上上。尺工六尺六工。工尺工尺工六五六工尺上合四仩仩

 005 と同じ。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

023 工尺工上尺上合乙四 四合四。合四仩四仩四合工工。六五六尺尺工六五六。尺工六五六工尺上。合四仩仩

 チャウ チョン アヽヽヽ ロワン
・朝 中 乱 

 012 と同じ。

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 朝 中    アヽ ヽヽ乱
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|


024 尺尺工六五仩五仩五五仩六工六 六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 ヘウ コン リー イヽヽヽ チュウ リャウ
○後 宮 裡   出 了 

 008 と同じ。

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 後 宮  裡  イ ヽ ヽヽ 出ガ了
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
 ----
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

025 上尺上尺六五六工尺 合合四仩。合四仩仩

 スャウ コー ヲイ ワイ
○小 郭  淮 

 009 と同じ

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 小    郭    ヲ イ    淮
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

026 尺尺工六五六五六五六六六六六 工尺工尺工上

 ツャン ベン パウアヽヽヽ アヽヽヽヽ ター レイヽ ヅァイ
・将 莾 袍  打 列  在

 010 と同じ。

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 将 莾  袍 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  打 列  イ ヽヽ 在

027 上四上上。尺工六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上合四仩仩

 005 と同じ。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

028 工尺工上上合乙四 四合四。合四仩四仩四合工工。六五六尺尺工六五六。尺工六五六工尺上。合四仩仩

 カイ フヲン アヽヽヽ  フウ
・開 封  府 

 012 とほぼ同じ。「尺」1符を欠くが,本譜における歌詞の配分から考えて,以下のようになるものと思われる。

 工-尺工|上-上-|合乙四-|四合四○|
 開ヤ封  ア ヽ  ヽヽ府
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|


029 尺尺工六五。仩五仩五五仩六工六 六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 ニイ キャア エーヽ エヽヽヽ シャン キン デン
○你 家 爺   上 金 殿 

 008 と同じ。

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 你 家  爺  エ ヽ ヽヽ 上ガ金
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
   殿
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

030 上尺上尺六五六工尺 合合四仩合四仩仩

 チャウ ハイ シンナイ ギュイン
○朝 拝 新 君 

 009 と同じ。

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 朝    拝    新    ナイ君
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

     ワン スイ ユフ ツ セン パウ キン
031 (白)万 歳 有 旨 宣 包 卿 上 殿


032 尺尺工六五六五六五六六六六六 工尺工尺工上 

 ホ ティン テ エヽヽヽ アヽヽヽヽ キン パイヽヽ セン
○忽 聴 得  ・金 牌 宣 

 010 と同じ。

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 忽 聴  得 エヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  金 牌  イ ヽヽ 宣

033 上四上上。尺工六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 005 と同じ。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

034 上尺工六工尺 合合四仩合四仩仩

 ニン ハイヽヽ チャウ
○銀 牌 招 

 006 と同じ。

(器楽)上-尺工|六-工尺|合-合四|仩○合四|
    仩-仩○|
(歌唱)上-尺工|六-工尺|上--○|○○○○|
    銀 牌イ ヽ ヽ招
    ○○○○|

035 尺尺工六五六五六五六六六六六 工尺工尺工上 

 イ プ ルウヽヽヽ ウヽヽヽヽ ライ ヂゥヽヽ ヅァイ
・移 歩 児  ・来 住 在 

 010 と同じ。

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 移 歩  児 ウヽ ヽヽウ  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  来 住    ヽヽ 在

036 上四上上。尺工六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 005 と同じ。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

037 上尺上尺六五六工尺 合合四仩。合四仩仩

 ツウ スー クワンナイ チャウ
・仔 細 観  瞧 

 009 と同じ。

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 仔    細    観 ナ  イ 瞧
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

038 尺尺工六五六五六五六六六六六 工尺工尺工上 

 ナ シャン メン アヽヽヽ アヽヽヽヽ ヅヲ デ エヽヽ ズウ
○那 上 面  ・坐 的 是 

 010 と同じ。

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 那 上  面 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  坐 的  エ ヽヽ 是

039 上四上上尺工六尺六工工尺工尺工六五六工尺上合四仩仩

 005 と同じ。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

040 工尺工上尺上合乙四 四合四合四仩四仩四合工工六五六尺尺工六五六尺工六五六工尺上合四仩仩

 チン ミン アヽヽヽ ツイ
・真 命  主 

 012 と同じ。

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 真カ命    アヽ ヽヽ主
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

041 尺尺工六五六五六五六六六六六 工尺工尺工上 

 ナー リャン パン アヽヽヽ アヽヽヽヽ ザン リイヽ ヅァイ 
・那 両 傍   ・詀 立 在 

 010 と同じ。

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 那 両  傍 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  詀 立  イ ヽヽ 在

042 上四上上。尺工六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 005 と同じ。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

043 上尺上尺六五六工尺 合合四仩合四仩仩

 チョン ヲイヽ コンナイ キン
○象 位 公  卿 

 009 と同じ。

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 象  ガ 位イヽ  公    ナイ卿
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

044 尺尺工六五仩五仩五五仩六工六 六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 ナー チョン ジン エヽヽヽ  ケン ガアヽ アン
○那 忠 臣 見 俺 

 008 と同じ。

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 那 忠  臣  エ ヽ ヽヽ 見ガア
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
 ヽ 俺
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

045 工尺工上尺上合乙四 四合四。合四仩四仩四合工工。六五六尺尺工六五六尺工六五六工尺上合四仩仩

 ウヒ ウヒアヽヽ シャヲ
・微 微  笑 

 012 と同じ。

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 微 微    アヽ ヽ 笑
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

046 尺尺工六五。仩五仩五五仩六工六 六尺六工工尺工尺工六五六工尺上合四仩仩

 ナー ケン シン エヽヽヽ   ケン ガアヽ ツァ
○那 奸 臣   見 咱 

 008 と同じ。

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 那 奸  臣  エ ヽ ヽヽ 見ガア
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
 ヽ 咱
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

047 上尺上尺六五六工尺 合合四仩合四仩仩

 モ モ ウワイ エン
・黙 黙 無 言 

 009 と同じ。

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 黙  ガ 黙    無    ワイ言
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

048 尺尺工六五六五六五六六六六六 工尺工尺工上 

 ツャン ベン パウ アヽヽヽ アヽヽヽヽ  ライ チェエヽ ポー
・将 莾 袍  来 扯 破 

 010 と同じ。

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 将 莾  袍 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  来 扯  エ ヽヽ 破

049 上四上上。尺工六尺六工。工尺工工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 005 と同じ。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

050 工尺工上尺上合乙四  四合四合四仩四仩四合工工六五六尺尺工六五六。尺工六五六工尺上。合四仩仩 

 ナン フヘンアヽヽヽ ペン
・難 分  辨

 012 と同じ。

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 難ガ分    アヽ ヽヽ辨
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

051 尺六工尺工上工尺上工尺

 ツー ロ テ キャウ ドン アン チョン ディ ヒョン
○只 落 得 叫 同 俺 象 弟 ・兄

 土岐達は「尺六…工-尺工上-工…尺-上工尺-」とする。004 に近い。既出の項を参考に,また「象」にあてられた「工」の不定拍長音の傍線が「弟」横の「尺上」にかかっているのを,伴奏と歌唱の違いととると----

(器楽)尺---|----|----|六---|
    -○工尺|工-上-|-○工-|----|
    --工-|尺--○|

(歌唱)尺---|----|尺---|六---|
    只         落    得
    -○工尺|工-上-|-○工-|--尺-|
      叫同 俺      象 
    上-工-|尺--○|
    弟ヤ兄

とでもなろうか。不定拍長音のため実際の音長は不明だが,指示のない「叫同」を思い切って短くしたところ,緩急の変化がついて,より「それらしく」なった感があった。

052 工尺上尺 工尺上尺

 ツヲー パン ユウ プー キウ キン スゥ スャン
・左 班 右 部 ・九 卿 四 相

 土岐達は「工-尺上尺 工尺上尺」とする。後半の「工尺上尺」に長音指示がないのは,同じフレーズくりかえしとみて略したものとおぼしい。あとはフレーズの切れ目である「尺」を4分休符とするか2分半休符とするかだが,終曲の盛り上げ部分であり,前のパートが「緩」だったことを考えると,このあたり3フレーズは「急」の部分であろう。ならば----

 工-尺上|尺○工-|尺上尺○|
 左 班右 部 九  卿四相

と短くまとめるのが妥当と思われる。

053 上尺上尺 上尺

 ター ツウ スャウ パウ フ マ ペ
・太 子 少 保 ・附 馬 伯

 土岐達に長音の指示はない。
 ここまでが前からの続きで比較的「急」な箇所,次からふたたび「緩」となってゆくわけである。

 上-尺-|上-尺○|上-尺○|
 太 子  少 保  附馬伯

054 上尺 尺六

 ツィン リャウ ツャン ペン パウ
・請 了 ・将 莾 袍

 土岐達に長音の指示なし,最初の「上尺」までは前節からのつながりで,まだ「ゆっくり」程度。

 上-尺○|尺---|----|六---|
 請ガ了  将    莾    袍
 ---○|

055 六上六上 六上六上

 ツァ ヅァイ ペ ヨ°タイ  マウ ザァイ キン
○扎 在 白 玉 帯 ・帽 載 金

 ふたたび「急」。土岐達に長音指示はないのでそのままだと各1拍であるが,「玉」に符があてられていないことなどを考えて,全体を2拍とした,実際の演奏ではテンポのほうを調整して,ゆるく単調に繰り返す部分であったと思われる。

 六-上-|六-上-|六-上-|六-上-|
 扎 在  白玉帯  帽    載 金

056 尺上 尺上

 しめの4音。すべてに不定拍長音の指示傍線。4/4で組む関係上8拍,12拍の長さとしたが,実際の演奏では前項同様,しだいに遅くなってゆくテンポに合わせて音を自由にのばしてゆくところだろう。

 チェン ポ リ ギュイン メン チャウ トン
○臣 不 理 君 ・面 朝 東

 尺---|----|上---|---○|
 臣    不 理  君
 尺---|----|上---|----|
 面    朝    東
 ---○|

 今回の復元はあくまでも,全体的な曲調の把握を目的とした「おそらくこんなものだろう」というレベルの作業なので,歌詞や発音についての考察もなく,繰り返しされるフレーズもほぼ同じ一律に再現したが,実際の演奏では同じメロディでも,箇所によりテンポを違えたり,ブレスや長音の位置を移動させるなどして,単調にならないよう工夫していたことだろう。
 数年前に行った「四不像」の復元でもこれと同じく,はじめは音長の分かる資料が1つしかなく,作業は困難を極めたが,今回の場合は符字順列上の同定から,他の清楽曲のフレーズがほとんどそのまま流用できる箇所が多く,はるかに容易かった。むしろ今回は過去に入力した楽曲のデータがメインで,音長参考の資料である土岐達のほうが,補助的な確認・参考資料の位置にあったとも言える。
 より正確な再現は,もっと詳細な音長指示の入った新たな資料の発見を待たなくてはならないが,これまで行った「四不像」や「孟浩然」などの復元試行でもそうであったように,そうした資料が見つかった後で比較しても,出来栄えとしては意外に「それほど間違ってはいない」というくらいにはなっている,という程度には,憚りながら自信がある。(w)
 長曲であるが一定のメロディの繰り返しなため,演奏は比較的容易である。
 いっちょう覚えてみても面白いかもしれない。


(つづく)

funen04.txt
斗酒庵 「秘曲」をひもとく! の巻『清風雅唱-外編』「仁宗不諗母」の復元(4)

STEP4 仁宗不諗母(全曲近世譜)



 つなぎあわせた歌譜の画像と,MIDI と AquesTone で再現した曲を合わせて動画を作ってみました。
 以下の全曲譜とともに練習のお伴としてください。
 MIDI作製は SAKURA。もともとの工尺譜は文字譜,「"ド"と文字入力すればドの音が出る」というMMLとの相性が良く,五線譜と違って楽譜をテキストエディタで変換すればそのまま曲になります。それゆえに,この 2010年代末になってまだMMLなどという古代の技術を使っている庵主なのでありました。(w)

 尺---|----|----|六---|
 你         与    爺
 --五○|工-工-|尺-上-|四-合-|
      将 青  沙 𦋃  住 了
 ---○|尺---|----|工---|
      娘  娘 臉    花 喇々
 ----|尺---|上---|尺---|
 引    上    了    午 朝  
 --上-|---○|上-工六|尺○工-|
 門 外       到 今  朝 子  
 四上尺-|工-四上|尺-工-|四上尺-|
 登 基  管 万  民 母  叫 街  
 四上尺工|上四-仩|合--○|
 不 諗  娘親

 合-四-|合四仩-|合四仩-|仩--○|
 伬-伬仜|合-合四|仩-合四|仩-仩○|

 尺---|----|----|六---|
 你         与    爺
 -○工-|尺-工-|尺工上○|上四上-|
   将  官 告
 上○尺工|六-尺六|工--○|工尺工-|
 尺工六-|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 上-尺工|六-工尺|合-合四|仩-合四|
 部 班  裡
 仩-仩○|

(白)家 爺 為・何 不 穿 帯

 尺-尺工|六○五仩|五○仩五|五仩六-| 
 你 家  爺 エエ エ エエ 与ガ先ナイ
 工-六○|六-尺六|工--○|工尺工-|
 王
 尺工六-|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 穿    孝    喪  ガ 霊
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 将 香  盤 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  桃 列  エ ヽヽ 在

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上○合四|
 仩-仩○|

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 進ガ廊    アヽ ヽヽ上
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 双 膝  跪  イ ヽ ヽヽ 面ガ 朝
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
   天
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 哭    拝    先    ナイ王
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

 工-工-|工工工-|上-工-|尺-尺-|
 噯    イヽヽ  先 王  爺
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 念 微  臣 イヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  受 君    恩

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 上-尺工|六-工尺|合-合四|仩○合四|
 有 数  載
 仩-仩○|

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 命 為  臣  エ ヽ ヽヽ 下ガ澄
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
   州
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 賑  カ 済    飢 ヤ    民
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

 上-上-|上四合○|工-尺工|尺工上-|
 回 朝  転    那 誰  イヽ知

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 朝 中    アヽ ヽヽ乱
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 後 宮  裡  イ ヽ ヽヽ 出ガ了
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
 ----
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 小    郭    ヲ イ    淮
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 将 莾  袍 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  打 列  イ ヽヽ 在

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 工-尺工|上-上-|合乙四-|四合四○|
 開ヤ封  ア ヽ  ヽヽ府
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 你 家  爺  エ ヽ ヽヽ 上ガ金
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
   殿
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 朝    拝    新    ナイ君
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

(白)万 歳 有 旨 宣 包 卿 上 殿

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 忽 聴  得 エヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  金 牌  イ ヽヽ 宣

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 上-尺工|六-工尺|合-合四|仩○合四|
 銀 牌イ ヽ ヽ招
 仩-仩○|

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 移 歩  児 ウヽ ヽヽウ  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  来 住    ヽヽ 在

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 仔    細    観 ナ  イ 瞧
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 那 上  面 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  坐 的  エ ヽヽ 是

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 真カ命    アヽ ヽヽ主
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 那 両  傍 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  詀 立  イ ヽヽ 在

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 象  ガ 位イヽ  公    ナイ卿
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 那 忠  臣  エ ヽ ヽヽ 見ガア
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
 ヽ 俺
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 微 微    アヽ ヽ 笑
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 那 奸  臣  エ ヽ ヽヽ 見ガア
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
 ヽ 咱
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 黙  ガ 黙    無    ワイ言
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 将 莾  袍 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  来 扯  エ ヽヽ 破

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 難ガ分    アヽ ヽヽ辨
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

 尺---|----|----|六---|
 只         落    得
 -○工尺|工-上-|-○工-|--尺-|
   叫同 俺      象 
 --工-|尺--○|工-尺上|尺○工-|
 弟ヤ兄       左 班右 部 九  
 尺上尺○|上-尺-|上-尺○|上-尺○|
 卿四相  太 子  少 保  附馬伯
 上-尺○|尺---|----|六---|
 請ガ了  将    莾    袍
 ---○|

 六-上-|六-上-|六-上-|六-上-|
 扎 在  白玉帯  帽    載 金

 尺---|----|上---|---○|
 臣    不 理  君
 尺---|----|上---|----|
 面    朝    東
 ---○|


(おわり)


清楽月琴WS@亀戸 2018年9月!!

20180922.txt
斗酒庵 WS告知 の巻2018.9.22 月琴WS@亀戸 暑いですかあ? の巻


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 9月場所 のお知らせ-*


 最高気温がそちらの最低気温より低い北の大地より告知いたします。(上からww)
 つつがなきや?

 2018年,9月の清楽月琴ワークショップは,22日土曜日の開催予定。
 会場はいつもの亀戸 EAT CAFE ANZU さん。

 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願い。

 お昼下りの,にょろにょろ開催。
 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもOK。

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。うちは基本,楽器はお触り自由です。

 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 弾いてみたい楽器(唐琵琶とか弦子とか)やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

 8月は庵主帰省のためお休みにさせていただきまあす。

 57号時不知(石田不識)がまだ嫁き遅れております(w)興味あります御方は,試奏がてらにでもどうぞ~。

楽譜を読もう!

score_01.txt
楽譜を読もう! の巻 楽譜を読もう!

STEP1 オムツを脱いで,栄光なるフンドシへ!!


 ドレミが出来るようになったら,
        曲に挑戦してみましょう。


 明治のころの清楽では,こういう「工尺譜(こうせきふ/こうしゃくふ,でも構わない)」という楽譜が使われてました。
 まあ一見漢字の羅列ですが,日本人が音階をハニホヘトイロハに当てはめたように,西洋の人がアーベーツェー(ABC)に当てはめたように,中国は漢字の国なので,ドレミの音階を漢字で表しているだけのこと。
 どの文字がどの音にあたるかさえ覚えてしまえば,何てこともないのですが,漢字=難しいモノ,みたいな刷りこみや先入観があるせいでしょうか。オトナのみなさんはだいたい,このお経みたいな見かけだけで,ワケもなく尻ごみます(w)

 この縦書きの工尺譜は,横についてる「付点」というものを頼りに,どの音が長いか短いかを読み解いてゆくのですが。その「付点」の形式が統一されてなかったことや,方式自体に表現上の限界があるので,一般人がこれだけでその曲がどんなメロディだったのかを読み解くのはちょっと難しい。
 そこで明治のころにこの工尺譜を,西洋から入ってきた楽譜の形式を使って,より分かりやすい形式にした楽譜が流行しました。これを庵主は 「近世譜」 と呼んでいます。
 より多くの人が楽譜を読めるようにするため,明治の人が参考にしたのは----イタリアあたりが発祥らしいのですが----音楽を五線譜にオタマジャクシではなく,数字であらわす 「数字譜」 というものでした。これはかんたんに言えば

 1=ド,数字一つを1拍。

 としてメロディを横書きにしたものですね。「1234567」が「ドレミファソラシド」で1文字1拍(=4分音符),休符が「0」。伸ばす音は「-」,半拍(=8分音符)は下線,四分の一拍(=16分音符)は二重下線で表現します。中国ではいまでもこの類の数字譜が使われていますので,二胡などやっている人にとってはお目馴染みですよね。

 明治の「近世譜」というものは,この数字譜の数字を工尺譜の文字記号に置き換えただけのモノです。
 基音楽器である明笛の音階をもとに,数字譜の数字と文字記号の対応表を作ると,こんなふうになります。

音階ファファ
数字譜
明笛(乙)
月琴六/合五/四𠆾

 上にあげた四竃訥治の本で上下に並んでるとおり,近世譜のきまりは数字譜と同じ。
 ただし符字(音符)の字の読み解きには,基本的に工尺譜のきまりごとが適用されます。
 すなわち,月琴は最低音が「上」なので「合」は「六」「四」は「五」として弾きます。明笛は「合四乙」が出せますので低いほうの「ソラシ」で吹きますが,「合四乙」にはさまれた,また隣り合わせた「仩」以上の高音は,ニンベンのない,1オクターブ下の音として演奏します。(ちなみに 「乙」が低音か高音かはフィーリング(w))
 こうやって文字を変えることで,楽器ごとにパート分けしなくても同じ譜面を読みながらすべての楽器が合奏できるというのが,工尺譜の特異な合理性なんですが,上の表にあるとおり数字譜では「7」以上の高音は記号の上に「・」を,「1」以下の低音には下に「・」を付して表すものの,高音低音の違いが点だけで記号自体は変わらないせいか,工尺譜的なきまりごとがイマイチ直感的に把握できません。

 数字譜は,あくまでも「オムツ」です。
 フンドシ(縦書き工尺譜)にまで手を出さなくても結構ですので,はやくパンツ(近世譜)が穿けるように各人奮励努力せよ。

 なによりアナタ。
 せっかくレアな楽器を演奏してるんですから,ここらでさらに株をあげとかないと。
 1=ドの数字譜はシロウトさんでもすぐ理解しやすいですし,さっきも書いたように二胡なんかやってるヒトにとっては見慣れたシロモノです。
 ですが漢字の「工尺譜」は,今やその発祥の地,中国でも読める人が少ない。Imagin----

 「さー月琴弾くぜぇ!」

と言いながら,漢字のならんだ工尺譜をピラっとひろげ,おもむろに,何事でもなさげに演奏しているアナタ----
 たとえほんとはまだちゃんと読めてなくてほとんど耳コピの演奏だっととしても(w),またそれが数字を漢字に置き換えただけ,知ってる人ならだれでも読めちゃう近世譜であったとしても。

 衆目のマトでっせ~。

 庵主がこれまでに解読した渓派の楽曲や,月一回のワークショップで使われる楽譜の類は,本拠HPのほうに置いてあります。


 PDFに組んでありますので,DLしてコンビニのコピー機などで自由にプリントアウト可能です。
 一部の譜は近世譜/数字譜対照になってますので,そちらでまず目を馴らしてから,漢字の近世譜だけのヴァージョンに挑んでみてください。
 弾きたい曲をプリントアウトして,上にドレミなり123ふっておぼえるのがいちばん効果的かと。対応表はだいたいどの譜集にも付いてますが,別途それの載ってるページだけ印刷しとくのも手かもしれません。
 実際に耳で聞かないとおぼえられないムキには,いちばん上のページの表から,それぞれの楽曲の解説ページに飛べば AquesTone を使った歌付きの版も聞けます。
 聞きながら楽譜見て弾くと,さらに効果ありですね。

(おわり)


柏遊堂5 パラジャーノフ (6)

HL01_06.txt
斗酒庵いろいろみろり の巻2018.6~ 柏遊堂5 (6)

STEP6 告白

 さてさてさて,こんどこそ組立てこんどこそ仕上げ……
 お願い!もうナニも起こらないでえッ!!!(泣)

 色の褪せてた側板を染め直します。
 指板と同じくスオウ染めミョウバン媒染。乾性油を染ませて乾いたところで柿渋塗布。ロウ磨きで仕上げです。

 同時進行で再びのフレッティング。
 まずはオリジナル位置にフレットをたてた時の音階を----

開放
4C4D+104E-434F+114G+114A+55C-C#5D+125F+24
4G4A+44B-425C+95D+145E-145G+215A+86C+14

 棹角度をかなり変更しているので,数値は参考程度のものとなります。
 第2フレット,開放からの第3音が半音近く下がってますね。毎回書いてるように,この音が若干低いのが清楽の音階の特徴の一つなんですが,これはさすがに下がり過ぎ。そのほかの部分は最大でも誤差が20%,だいたいは10%代でそろってますから,これもまた先の初代不識・61号同様,西洋音階に比較的近い並びになっていたと思われます。

 原音階の調査後,チューナーを使って西洋音階準拠で立て直してみると,第3フレットの位置がけっこう大きくズレ,フレットの丈が合わなくなってしまったため作り直しました。第2・3フレット間は間隔がせまいため,高さの差が一定以上になると押さえにくく,音を出しにくくなってしまうのですね。2枚のフレットがほとんど同じ高さ,わずかの差になってないとフェザータッチでの発音が実現できないんで,ちょっと難しいところです。

 で,第3フレットの丈が高くなると,こんどは従前の高さに合わせていた第4フレットがガクッっと低くなっちゃうのは理の自然----これも作り直し(^_^;)
 月琴のフレットは丈が高く,また棹に角度もついてる関係で,フレットの高さは単純な減衰線を描きません。この楽器は関東風の作りですので第4フレットまでが棹の上ですが,だいたいはこの第4~第5フレットのところでガクーッと丈が低くなります。今回は第3フレットがわずかに移動して高さが変わった関係もあって,ガクーッと低くなるポイントが,第4から第5フレットに移ったということですね。単純な構造の楽器ではありますが,このあたりは実に微妙なものです。

 第3フレットは尺合調(D/G調弦)の時,第4フレットはふだんのC/G調弦の時の糸合わせに使われるため,正確な音程の求められる大事なフレットですし,ここらのフレットの高低差がうまい具合になだらかになっていないと,正直かなり弾きにくい楽器になっちゃいますので,位置と高さの調整では特に気を配る箇所----ここまできてこんくらいの手間ならもう「三歩進んで五歩さがる」とか言っておられません(w)

 こちらも61号同様,そのままだと若干半月での弦高が高いようなので,オリジナルの音階を測った後,半月に象牙の端材でゲタを噛ませ,1ミリほど弦高を下げました。山口の丈は削ってないので,低音域ではほとんど変わりませんが,高音域でフレットと糸との間がぐっと近くなるので,運指への反応や音の安定が改善されます。

 調整の終わったフレットは表面をよく磨いて,染め汁にドボン。一晩漬け込みます。
 翌朝これを取出し乾かした後,薄目に溶いたラックニスを染ませてさらに2~3日乾燥。竹のフレットは,唐物・国産通じて月琴でもっとも一般的なもの。調整や加工はラクなんですが,けっこう手をかけないといかにも安っぽく見えてしまいますので「作った後の作業」のほうがタイヘン(w)かもしれません。唐木や骨・牙の類だと,だいたいは磨けばそこで作業終了ですもんね。

 フレットの仕上げ作業とほぼ同時進行で,お飾り類も染め直します。
 この楽器のお飾りの材はホオの薄板ですね。スオウで染めてありますが,色褪せちゃって白っぽくなっちゃってました。スオウをかけてオハグロで鉄媒染。ごく軽く油拭きした後,ラックニスをタンポ塗り----ザクロの色が甦ります。

 仕上がったフレットとお飾り類を接着し,板の補修個所にちょちょいと補彩を施して。

 七夕前日の2018年7月6日。
 依頼修理の柏遊堂,修理完了しました!

 ふだんですとそれほど差はないんですが,今回の楽器では修理前の画像とくらべると,棹の傾きがけっこう変わってるのが分かりましょう。

 いつも書いてるとおり,キレイなバラにはトゲがあり,キレイな古物にゃアラがある----の典型的修理でした(w)  いや,今こうして見比べてみても思うんですが,修理前の状態,ほんとにキレイなんですよね。フレットは数本とんでますが,糸巻もそろってるし一見そんなに汚れてない。
 けれど修理前の画像とノートをあらためて見かえしてみますと。
 この楽器,表裏板の清掃の時の観察から,本体にほとんど使用痕がなかったにもかかわらず。表板の下縁部と棹の左右あたりが妙に黒ずんでいました。ふつうだとこれは使用による手擦れなのですが,すでに書いたように表板には楽器として使った痕跡----バチ痕等が見えないわけですから,何かがオカシい…今にしてみればこれ,古物屋さんによる「修理」の痕跡だったわけですね。おそらくは汚れた状態で補修作業をした際に,接着に使ったニカワがゆるすぎてこぼれたりあふれたりし,それが滲みて清掃前の汚れが残ってしまっていたのではないかと。
 やれやれ…ボンドべったりにくらべると手間は少なかったものの,今回も素人古物屋さんの仕業に苦しめられた修理でした(w)

 音は国産月琴らしい,コロコロとした,耳触りの良い素直な音がします。
 普及品レベルの楽器なのでドスも効きませんし,音量や音の深みはさほど出ませんが,細い響き線の効きはよく,直線特有のすーっと減衰してゆく余韻がキレイにかかります。線鳴りは少ないほう,けっこう崩れた姿勢で弾いていても,響き線はそれなりに効いてます。
 演奏姿勢にあまり制限がないのと,棹およびフレット周りの調整をしつこくくりかえしたおかげで操作性は上々。糸を押しこまなくてもほぼフェザータッチで発音されます。

 あとバチ布に貼った「荒磯」,以前の修理で複数作ったのの最後の一枚なんですが,これがバッチリはまった感じでよく似合いましたねえ。(自己満足www)

 いちおう注意点も書いておきますと,再接着に妙に手古摺った棹基部とあたらしい延長材のあたりに若干不安が残ります----これはどうやら木の「相性」に由来するらしいので今ひとつどうなるかハッキリしません。調弦がうまくいかないだとか,糸張ってるとなんか棹が持ち上がる,みたいな症状が出たらこのあたりの故障が原因ですのですぐにご連絡ください。
 あとは虫食いを補修した糸巻がある日突然ポッキンとなるかもしれませんが,このあたりはそうなってからでないと次の対策がたてられませんので,今のところはむしろぶッ壊してやるおつもりで,気にせずガンガンと弾いてやってくださいね。

(おわり)


柏遊堂5 パラジャーノフ (5)

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斗酒庵いろいろみろり の巻2018.6~ 柏遊堂5 (5)

STEP5 村いちばんの若者

 この期におよんでクギ?
 …クギとなッ!?


 月琴の修理はなにしろ,演奏不能な「古物」の状態からの出発。演奏可能な状態になってみてはじめて分かるような不具合も多々ございますが,じっさい,こんな仕上げの間際になってこれだけの事態が見つかるのは珍しい。
 あわててもう一度全体を調べ直しましたが,打たれてたクギはどうやらこの2本だけのようです----よかったぁ。
 こういう素人修理で打たれた鉄釘は楽器にとって癌の腫瘍であり最悪の病巣,さッさと摘出して適切な手当てをしとかないと,無限に近いはずの楽器の寿命が大きく縮んでしまいます。
 まずこれを打ったヤツ(もう逝ってるかもしれませんが)に, ギックリ腰と足の小指の付け根に魚の目20年分の呪い をかけた後,修理に入ります。

 釘は細いものですが,細工釘とかではなくふつうの鉄釘ですね。打たれてからけっこう年月が経っているらしく,サビが板のほうにも滲みだしています。
 ふぅッ----とアタマの中に40号クギ子さんの悪夢が甦りました。

 とにもかくにも。頭を落としてあるのでそのままでは抜き出せません。
 1本はアートナイフで釘の周縁の板を彫り込みペンチで引き抜きましたが,もう1本は芯まで腐っており,ペンチではさんだとたん一瞬で砕け散る始末。側板に入ってる部分ももはやほとんどクギといえるような形状を保ってはいないようです。こちらはもう引き抜くのを諦めて,2ミリのドリルで赤錆のカタマリごとほじくりました。
 ドリルからあがってくる粉が,もう木の色じゃなく鉄の粉の色になってましたわい。

 この釘打ち補修箇所と,最初のほうでやった表板の虫食い補修箇所のうちもっと大きな二箇所は,パテ埋めだけだとちょっと目立っちゃうので,もう一手間かけることにしました----右画像は過去の修理において虫食いで除去した古い板。中のほうは食われてスカスカ,皮一枚になっちゃってますが,これのその「皮」の部分を使います。
 パテ埋めした箇所の表面を少し削り,この「皮」を移植。接着してあとで平らに均します。
 キレイに直そうと思うなら本来こうするのが本式なんですが,比較的直線的な食害痕にしか使えないのが玉に瑕。複雑なグニャグニャ溝や,細い食害が集中しているような場所だと却って目立っちゃうのが欠点ですね。

 さて,最期のほうで思わぬ事態も発生しましたが,これで胴体の修理も今度こそ完了!
 仕上げに向けて進んでゆきましょう----と,心根もあらたに組み立て,フレッティングまで進みましたところ。
 おや……フレットがなんだかずいぶん左右非対称になるなぁ。
 棹の調整は3度もやりなおし,棹の傾きもバッチリ。指板の端と表板の接合部だって面一で触っても接合部が分からないくらい……段差なんかないし傾いてもいないハズですよ?
 ははあ,こりゃオリジナルの山口の加工がまずってたのかな,と我点してお尻のがわから糸倉のほうを眺めてみた結果。

 ………棹が,ねじれてます。(泣)

 それも根元先端から全体的に,ではなく棹のちょうど真ん中らへんから左方向へ回転するような感じで。

 うわああぁぁあん!

 まあ「棹のねじれ」ってのは,糸倉の頭からなかごまで一木作りの不識の楽器などではけっこうある事態なんですが,月琴の場合,三味線やギターと違って棹が極端に短いし,弦も絹糸が主なので,弦圧によって棹が変形するといった故障は滅多にありません。ましてやこのレベルの普及品の楽器では棹はホオやカツラといった,木材としては軟らかいが比較的安定した材料が用いられます。スゴいテンションでギリギリに糸張り続けたとか,棹のほうを下にして置いて上に荷物載せてた(w)とかいうような事態でもない限り----あ,そういえばこの楽器,棹と胴がホオじゃなくエンジュかトチだったか……狂いの度合いについては知らないけど,エンジュはたしか乾燥の難しい材だったはずだ。
 くーそー。

 今度はいちど,フレッティングのとこまで進んだんですが(泣)
 いちど棹を抜いて4度目の棹調整作業に入ります。
 測ってみたところ山口の上辺左右に傾きはありませんでした。棹のねじれが製作当初からのものだとすれば,この山口の左右も傾けてあるはずですので,このねじれは無使用保管中に生じたものと推測されます。
 まずはこの山口の上辺を基準として,棹指板面と胴表板面が面一になるよう調整をします。

 棹の基部を削ったりツキ板を貼ったりして,お尻がわから見た時,山口上辺と半月の上端が平行になるよう,左右の傾きを調整すると,胴との接合部のところで,ねじれのぶん指板の左がわがもちあがりました。そこで棹を挿した状態でこれを削り,指板面と表板を面一に近づけます。
 意外とけっこうなねじれで,ギッチリ合わせると1ミリ近く削らなきゃならなくなるようだったため,削り直しはほどほどのところで止め,あとは棹上のフレットの左右をわずかに傾けることで対処することにしました。あんまり削ると今度はせっかく直した棹の傾きとか,棹自体の操作性に影響が出そうでしたので。これでも最初の状態よりははるかにマシになってますし,器体への影響も考慮するとこのあたりが限界,棹自体の材取りおよび工作のマズサせいもありますので,これ以上は新材で棹ぜんぶ作り直しちゃったほうが早いかと。

 調整を終えた棹の指板面,染めがすっかりハガれて木地がでちゃってますので染め直しです。
 刷け塗りだと時間と回数のかかる分,水気が内部まで滲みてまたぞろねじれの原因ともなりかねませんので,濃いめの染料をたっぷり刷いてラップがけ。部分的に,イッキに染め上げます。
 ミョウバン媒染でも同じようなことをし,発色後,乾燥させて油拭き,油が乾いたところで柿渋塗布,ロウ磨き仕上げ----修理前の状態だとスオウがだいぶん褪せちゃってたんですが,製作当初はこんな感じの色合いだったと思いますね。

 仕上げ直前でつぎからつぎへと襲いくる不具合!
 ううむ…これぞまさしく「三歩歩いて五歩さがる」のノロイ。(汗)


(つづく)


月琴61号 マツタケ (終)

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斗酒庵いろいろみろり の巻2018.6~ 月琴61号 (終)

STEP5 香りマツタケ味シメジ

 さて,組立てです。
 今回は7枚残っているオリジナルのフレットが,材質も加工も良いのでそのまま使おうと思うのですが,量産期の月琴のフレットというものは,寸法表とか型みたいなものに合わせ本体とは別口で作られていたらしく,歩留まりを少なくするためかなり低めに作られています。

 庵主がいつもやっているよう,実器合わせでフレットを削り,頭を糸のギリギリにすると,運指も楽になるし音も正確に出せ理想的ではありますが。量産を考えると,それぞれ一面ごと各8枚のフレット一枚一枚,精密に調整・加工するというのは手間も時間もかかって大変です。しかしそういう理想的な設定の数割ていど全体均等に低く作れば,運指のなめらかさや音の正確さはいくぶん失われますが,寸法表に合わせるていどの大雑把な加工でも,楽器本体に工作の誤差が多少あっても使用可能なフレットをあらかじめ大量に作っておくことができます。あんまり低くしすぎると糸の押し込みのせいで音程が狂ってしまいますが,「どの楽器につけても(さほど)支障が出ない」というくらいのレベルのものなら,さして難しくはなかったことでしょう。
 当時は今と違って音を視覚的に,正確に把握できるチューナーみたいな道具もなかったですし。フレットの位置(=音階)はだいたいのところが合っていればよく,高さはとにかくビビリが発生しなければヨイ,といった認識だったんだと思いますね。

 まずは山口とフレット,あと補作した第6フレットを並べ,オリジナルの音階を調べます。

開放
4C4D+124E-114F+144G+124A+75C-145Eb-245F-5F#
4G4A+104B-105C+115D+145E+25G-175A+456C+20

 初代不識の楽器…というより渓派準拠の楽器は,関西のものや唐物月琴に比べるともともとやや西洋音階に近い設定になってるのが特徴です。実際,下のようにオリジナルとチューナーできっちり西洋音階準拠に並べ替えた時の画像をならべてみても,ほとんど差異が分かりません。この楽器もEをのぞけば,全体10%高いくらいですもんね。この開放からの第3音が低いのは清楽の音階の特徴ですが,このくらいだと実際に弾いてみても音階的にそれほどの違和感を感じません。東京あたりはいち早く西洋音楽が流入して広がっていったので,そういう影響もあったかもしれませんね。

 さてさて,補作の山口が高さ12ミリで,棹の傾きが約3ミリ。オリジナルの工作だと,半月での弦高が意外と高くて 8.5ミリほどのところから糸が出てました----もうちょっと下になると思ってたんですが----これで糸を張ったら弦高は表板の水平面とほぼ平行になりました。

 楽器の設定としてはこれでもいいんですが,最初に書いたようにフレット自体が理想値より低めに作られているため,このままだと第1フレットの頭から糸までの間が2ミリちょい,最終フレットでは5ミリ以上も開いてしまうんですね。この半分ていどならまあ許容範囲なのですが,さすがにこれではどこのフレットでも糸をいちいち押しこまなければならず,音が安定しません。
 糸のコースも理想としては,山口のほうが1~2ミリほど高く半月に向かってゆるやかに下ってゆくようになってるのが良いんですが。山口はもともとこれでも高めの設定。また現状,第1フレットからしてすでに低すぎる状態ですから,これ以上山口のほうを高くしても,スキマが開くだけになってしまいます。

 いちばんカンタンな解決法は,現在の弦高に合わせてフレットを全部作り替えちゃうことなんですが(w),今回はこのオリジナル・フレットを活かそうという主旨なので,楽器本体のほうにいささか手を加えることとします。
 まずは半月にやや厚めのゲタを噛ませました。材は黒檀。これで半月での弦高は 7.5ミリと約1ミリ低くなり,あとは第1フレットに合わせて山口の底を1ミリ削って11ミリに。これで第1フレットの頭はけっこう糸ギリに近くなり,棹の傾き3ミリを引いても,0.5ミリ山口がわが高い設定となりました。まあたった0.5ミリ……ちょとギリギリですが,楽器としてもこちらとしてもこれがギリギリの妥協点(w),運指もずいぶん楽になり,ほぼフェザータッチで音が出るようになりました。

 せっかくの高級楽器,見かけだけでなくちゃんと「それなりの人が使っても」使えるくらいにしておきたいですもんね。


 左右のニラミ,扇飾りはともに唐木製でした。損傷もなく,軽く油拭きしただけでほぼ元の色ツヤを取り戻します。数日置いて油が乾いたところで,補作の蓮頭などとともに貼りつけましょ。

 バチ布には「蘭」の模様の布を。
 かなり前からあって,模様はいいンでいちど使ってみたかったんですが,これ色合いが少々微妙でして………(^_^;)
 以前にも柿渋で染め直してみたことがあったんですが,イマイチでした。今回はこれをヤシャブシ染,ミョウバン媒染で染めてみます。
 もとが青っぽい色だったので地色が緑に,模様の銀色は金色っぽくなってくれました----これなら大丈夫!
 ニラミが「菊」なので「蘭(この場合はラン科の植物じゃなくオミナエシの類)」が加わるとそれだけで「秋風辞」だなあとか思いつつ。

 2018年7月3日,自出し月琴61号,
 修理完了いたしました!!

 ちょーエコロジィ全自動冷暖房「大自然」(w)装備のわが部屋は,夏温かく冬涼しいため,本格的な夏暑が続くと作業不能,やッたら死ぬ,の状態(泣)になります。この6月は例年に比べるとやたら暑かったもののその間隙をぬって作業を進め,なんとか夏の帰省前に修理を終わらせることができました。
 依頼修理なんかではこの時期「完成は秋以降になるけど…」とお断りすることもありますからね。

 さて,いままで扱った石田義雄(初代不識)の楽器の中では,おそらくいちばんの高級品であろう61号----月琴としてのその音にはもちろん文句がありません。いかにも唐木使用の楽器らしく,低音はずっしり重く,高音はコロコロと軽やか。
 低音弦と高音弦の間で少し音のメリハリに差があるのと,高音高音域で多少余韻に金属的な倍音が感じられ,庵主的には耳につきますが,このあたりは好みですね。
 弦高の調整で運指を追求しましたので,操作性には問題ナシ。ただやはり,棹が糸倉からなかごまで紫檀のムクなのに対し,胴はサクラに唐木の薄板を巻いたものですのでバランス的に多少ヘッド・ヘビーなところがありますが,座奏のときいつもより楽器をわずかに倒して弾くとさほどの支障にはなりません。

 あとは不識の月琴に共通した点として,関西方面で作られていた楽器や関東だと唐木屋あたりの楽器に慣れてると,棹が長かったり,楽器のバランス位置が異なったりしますんで多少慣れるのに時間がかかろうかと。
 庵主の場合ははじめに触った月琴がこの人のでしたので何も問題ありませんでしたが。(w)

 勧業博の賞牌のマークは銅板印刷なのでイマイチ真似できんかったのですが,修理札代わりに不識の錦町時代のラベルを偽造して貼りつけておきましょう。贋作(w)なので一部の文字の画を違えて,ワタシのハンコも捺してあります。

 黒々とした紫檀の棹,ほの赤く照る継ぎ目のない胴側。
 唐木の深みを湛えたニラミと扇飾り,半月。
 スラリとした棹のフォルムとも相俟って,美しい楽器。
 音量も結構あるので,ちょっとした会場ならライブ用にも使えますね.

 いまだ銘は決まってませんがこの61号,先に修理した同じく不識作の57号時・不知とともにお嫁入り先募集中!
 修理記見ててなんかピンときた!----とか。
 ワレこそは!----と思わん方はご連絡アレ。
 

(おわり)


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