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楓溪さんの月琴(2)

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斗酒庵 楓溪さんの月琴を直す 之巻(2)2006 11月~ 明清楽の月琴


楓溪さんの月琴(2)

  前にも書いたとおりこの楽器,あまりコワれてるところがないので,この糸倉のヒビ継ぎのほかは,表板のクリーニングとあとは棹の取付がちょっとユルいのを直す程度であります。

飾り取外し(1)

  まずは作業にジャマな象牙製のフレットと,胴体についたお飾り類をとっぱらいます。

  フレットや木製の目摂は,ちょっと水で濡らせばかんたんにはずせたのですが,凍石(篆刻で印材として使うような石)製のお飾りがなかなかはずれません。

  結局,上から濡れタオルをあてて焼き鏝で蒸らしたりして,なんとか取り去りましたが,いくつかちょっと欠けたり,キズついたりしてしまいました。
  とくに胴体の一番上についていたお飾りなど,もともと一度欠けたかしたのを彫りなおしたものらしく,一部分極端に薄くなっていたので,ほぼバラバラ。

  さいわい庵主は篆刻もやるため,材料はいっぱいあります。

  こんど,もうちょい立派な石で,再現してつくってみましょ。
飾り取外し(2)

第4フレット取付部
■ 棹のフレットをはずすときに気がついたんですが。この月琴の第4フレットは棹上というか,もうそのギリギリ「継ぎ目の上」といってもいいくらいの場所に付けてあります。
  これはこれで,なかなか難しい工作ですね。


■ 絃停のヘビ皮はノリで表面板に直接貼り付けてありました。
  通常,この絃停は和紙などでちゃんと裏打ちしてから貼り付けられることが多いのですが。貼り付け方も多少雑,後で補修したものかもしれません。
絃停(表) 絃停(裏)



  糸倉のヒビ継ぎにかかります。

ヒビ継ぎ(1)
  まずは糸倉側部と基部の二箇所に,チギリを打つためのくぼみを彫っておきます。
  今回も力がかかる場所だし,かなり小さい部品となるので,チギリには細工しやすく粘りのある象牙を使います。

  チギリはきっちりとくぼみに嵌るように慎重に調整しておきます。
  場所が場所だけに作業はほぼ一発勝負。失敗はゆるされません。

ヒビ継ぎ(2)
  軸孔にラジオペンチの先をつっこみ,ヒビ割れ部分をちょっと広げるようにしながら,ゆるめに溶いたニカワをたらして染ませます。ヒビ全体にニカワがゆきわたったところでペンチをはずし,すかさずチギリを打って継いでしまいます。

  ゆるく溶いたニカワは乾くのに時間がかかりますので,この日はこれで終了。 継ぎめからニカワが滲んできますので和紙でくるんで,その上から輪ゴムやらひもやらで緊縛して一晩おいておきます。

  ニカワをたらすときに苦労するほどごく細いヒビだったので,それほど深いものではなかろうと思っていたのですが,翌日になって確認してみると,昨日のニカワが糸倉の内側まで滲み出て,細い細いスジになってました。
  完全に割れていたようですね。


ヒビ継ぎ(3)   修理二日目。

  まずは補強のため,竹釘を二本ほど通しておきます。
  はみだしたニカワが乾いたら,頭をちょんぎって整形。

  次に籐を巻きます。

  籐は細く裂いて,ニカワといっしょに鍋で煮てやわらかくしておきます。
  籐が濡れてるうちに,糸倉にニカワを塗ってイッキに,しっかりと巻く――あらかじめ,糸倉の上下に籐をひっかけるための浅いミゾを切っておくとラク。


  仕上げに焼き鏝をあてて,強制接着。
  ついでに平らに均します。
籐巻き(1) 籐巻き(2) 籐巻き(3)

  籐はすこし焦げるぐらいでいいのですが,くれぐれも木のほうを焦がさないよう…あ,内側少し焦がしちゃった。まあ,このくらいなら。あと,最後の止め目が少々目立つところにきちゃったのが少々ザンネンながら,強度はバチリと思われます。

  糸倉は弦楽器のイノチ。
  ここがイカれるとたいていの楽器はおシャカですが,1号月琴ですでにお試し済みの補修。

  今のところ軸をかなり強く挿してもヒビは広がりません。

楓溪さんの月琴(1)

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斗酒庵 楓溪さんの月琴を直す 之巻(1)2006 11月~ 明清楽の月琴


楓溪さんの月琴

楓溪月琴
  2面同時進行の二枚目はこちらの月琴。

  コウモリさんとは違って,第4フレットが棹上にある,ややロングスケールの月琴です。
  厚みを除けば,大きさはほぼ4号ちづるちゃんと同じ。棹は細いですが裏のアールが浅く,1号のようにほぼ直線に近い。糸倉の姿などから見ても明治後期以降,比較的新しい時代に作られたものだと思います。

  時代がかかって黄色くなった象牙の山口とフレット,彫りの丁寧な目摂,凍石のお飾りも多くついていてキレイな楽器ですが,いわゆる「お飾り月琴」ではなく少し前まで実際に使われていたみたいで――証拠に,軸にも山口やフレット表面板にもちゃんとした(遊びでつけられたのではない)使用痕が見られます。

  以前に持っていた人はこの楽器を本当に大切にしていたようですね。
  部品は欠けなし。少しホコリがついてますが,保存状態は特上です。

  作った職人さんもナミではありませんね。表面板の材はこまかな柾目。よく手を抜かれる裏板も板目ではありますが,厚みの一定な良い板を継いでいます。
  接合部は単純な凸凹接ぎ。よく見るが,よくスキマが出来てしまう加工です。しかし――塗装されているせいもあるでしょうが,ちょっと目には継ぎ目がどこだか分からないくらい精密な工作で,カミソリの刃先も入らないほどぴったり,寸分の狂いスキマもない見事な腕前です。
  響き線も澄んだキレイな音で鳴っています。おそらく2本入ってますね。

  うう…胴体にアラがないので,裏板をあけて中を見れません。
  楽器のためには喜ぶべきことなれど,何だかちょっとザンネン。

  そしてそして,裏板には墨で絵が描いてあります!

楓溪裏面墨書(1) 楓溪裏面墨書(2) 楓溪裏面墨書(3)

  芭蕉の葉に,香炉に,花…何でしょうねえ? 花じゃなくて「霊芝」かもしれません。
  香炉の上の文字は「楓溪寫」,葉っぱの下のは「禅溪」かと。

  絵を描いたのが所有者だったかどうかわかりませんが,ともかく命名。
  「楓溪さんの月琴」でキマリです!

修理前所見
楓溪月琴・全体
1.採寸

全長: 670mm

胴体:径 355mm 厚 38mm
  (うち表面板/裏面板ともに5mm)

棹:長 300mm
 (蓮頭をのぞく・うち糸倉 160mm/
  指板部分(山口-基部)138mm )

絃長(山口-半月): 422mm



蓮頭・糸倉・山口 蓮頭・ヒビ
◎ 蓮頭:オリジナル。
  *材不明。透かし彫り。下部左右にヒビ。修理痕。

◎ 糸倉:損傷アリ。
  *横から見て細く末広がりな明治後期の型。
  *左最下の軸孔からヒビ。修理された痕跡はない


◎ 軸:4本存。オリジナル。
  *松音齋と同じく一面に三本のミゾを刻む。細く短く,やや華奢なデザイン。

◎ 山口:オリジナル。
  *象牙製,糸溝や糸擦れの痕多数。使用感がある。
  *材は花梨か?

第4フレット取付
◎ 棹:損傷なし。
  *指板が山口の前で切れるタイプ。指板の材はカリンか?

◎ 柱:8柱全存。
  *象牙製。第1・4フレットに修理痕。ニカワ少しはみ出す。
  *第4フレット,加工不良?左右わずかに指板よりはみだす。


目摂
◎ 目摂:左右存。
  *意匠不明。玉蘭花(ハクモクレン)か?

◎ 飾り(中央):胴上のみあり。
  *いまのところ指板上に飾りのあった痕跡は見られないが,この類の飾りがかつては棹上柱間にも付いていた可能性がある。上から花(蓮花もしくは牡丹,凍石),魚?(木),花(梅?凍石),花(蘭?竹?凍石),そして円盤状のものはおそらく鳳凰(凍石)。

◎ 半月:損傷なし。
  *おそらくカリン。98×40mm。高 10mm。
  *糸孔の配置はV字型。糸で擦れて,糸孔が広がるのをふせぐため象牙が埋め込まれている。


◎ 絃停:ニシキヘビの皮。110×81mm。
  *やや横長で半月からはみだす。

中央飾り~半月

糸倉のヒビ   はじめにも言ったように,保存状態がキセキ的で,あえてするほどの修理箇所は一見なさそうですが――よく調べてみると糸倉左,一番下の軸孔から糸倉の基部にかけて,ヒビが走っていました。

  軸を抜いてやるとほとんど見えなくなるくらいのごく細いヒビですが,軸を強く挿すとわずかに広がります。修理された形跡はありません。

  1号やコウモリ月琴のように,パックリ割れていないのがかえってブキミですね。
  こういうキズは後からジワジワと響いてくるもんで,今のうちにできることをやっておきましょう。
  なにせ弦楽器の寿命を決めるのは,この糸倉ですからね。

  今回の修理のメインはここ。
  あとはちょっと棹が抜けやすくなってしまっているのを直すのと,全体のクリーニングくらいしかすることがナイなあ。


コウモリ月琴(3)

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斗酒庵 コウモリ月琴を直す 之巻(3)2006 11月~ 明清楽の月琴(コウモリ月琴)


   STEP3(続) 側板の割レ継ぎ

  割レ箇所の補強が続きます。

■ 前回ご紹介のコウモリさんは,こうなりました。
コウモリさん(1) コウモリさん(2)
  あとでこの上から塗装するので,インレイのようにくっきりしたシロモノにはならないでしょうが,「薄暮の蝙蝠」さん程度にうっすらと見えてるってのも粋ってもんでげしょ?

  もちろんタダ飾りとして付けたのじゃなく,割れを継ぐチギリの役も果たしてもらっています。
  右の大きなコウモリさんは,さらに例のクギ先がとびでてたところのキズ隠しでもある。

  さすがにここまでしますと,棹を挿しても,ビクともしません(今のところ)。
  また,接着の時に部材を圧縮したせいでしょうか,前より多少きっちりとはまってくれているように感じます。

コウモリさん(2)
■ 割レ箇所に裏から和紙をかぶせます。

  継いだ部分を中心にお湯で少し湿らせ,ニカワを塗って,紙の目が交差するように2度貼り。
  湿っているうちに,製本用の目の細かい「うづくり」でとんとんと叩いて,紙と下地を馴染ませます。



   STEP4 側板の再接合

側板の再接合
  今回の月琴の接合部は,部材同士のすり合わせの加工が良く,スキマもほとんど見えないくらいです。
  そのままでも良さそうなものではありますが,例によって経年の風化でニカワがとんでしまっております。
  楽器全体を鳴らすためにはやっぱり,わずかなスキマとはいえ埋めておかないと。

■ やや薄めに溶いたニカワを接合部にたらしこみます。

  スキマをあけたりとじたり動かして(壊さないていどに!),ニカワを接合面全体に行き渡らせ,裏に和紙を貼りつけて,いつもの補強です。
  あとは上の「STEP3(続)」と同じ。
  どちらも乾いたら軽くペーパーをかけて余計な紙を取り払い,上から柿渋を染ませておきます。
  最後に防湿のため,薄くカシューを刷いて保護しましょう。

コウモリ月琴(2)

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斗酒庵 コウモリ月琴を直す 之巻(2)2006 11月~ 明清楽の月琴(コウモリ月琴)


   STEP3 側板の割レの接着

  ぱっくりキレイに割れてるんで,合わせてみてもさほど部材のズレがありません。有難い。
  まずは,先にサビ釘をほじくりだして大穴があいてますんで埋めておきます。
  ワリバシの先をリューターやヤスリで,穴にぴったりはまるように削り,ニカワをつけて押し込み,乾いたら根元から切りとって,断面を整形。
大穴充填(1) 大穴充填(2)

割れ箇所接着
  いよいよくっつけます。
  両面をお湯で少し濡らしておいてから,両断面にニカワを塗りのばし,ズレないようにはめこみ,当て板をしてクランプではさみこみます。ニカワはなるべく薄く,盛りすぎないこと。

  ヒビから「ぶじゅる」と,ニカワが均等に噴き出ように,慎重に締めてゆきます。あんまり強く締めると,部材がイタみますので注意。



竹釘打ち込み
  クランプで固定したまま二三日間乾かしたら,次に竹釘をうちます。
  これは割レの固定より,縦方向に繊維を通しておくことが目的なんで,釘自体にはそれほど強度がなくてよろしい。
  竹のワリバシを削って,長 2cm 径 1mm ほどの細い竹棒を作ります。先っちょをちょっとナナメに切り落としておくと打ち込みやすいですね。打ち込む途中でぽきぽき折れるんで,けっこういっぱい作りました。
  ピンバイスで穴をあけ,先にニカワを塗った竹釘を,部材の強度も考えながら打ち込めるだけ打ち込んでおきます。



  ヒビがまた広がらないように,裏側にはチギリをはめこんでおきましょう。
  力のかかる場所なので,ちょっと固さよりネバリのある材を,ということで,今回は象牙で。
  ただの板でもよかったんですが,ちょっと一手間かけて裏面をカスガイ風に削り込んでみました。
  1cmないくらいの品なんですが,こういうとき象牙だとかなり精かいとこまで細工が可能ですね。

チギリ チギリ(横)
チギリ打ち込み
  左に二箇所,右に一箇所。ヒビがくびれた中央部分をちょうど通るような感じに,リューターでくぼみを彫込み,チギリを打ち込みます。

  木部と馴染みやすくするため,象牙のチギリはあらかじめニカワを湯煎するナベでいっしょに煮ておきましょう。
  木部にキズをつけないためと,木槌にニカワがついちゃうので,チギリの上には和紙でもかぶせて,側板の下にはコルクを敷いておいたほうがいいでしょう。



表面欠損部を充填
  表側もちょっとキレイにしておきましょうか。

  右側の割レの端っこがちょっとギザギザになってましたし,釘先がとびでてメクレていた箇所は板が欠けて,ちょっと大きなクボミができてました。

  釘を引抜く時に,欠けたカケラはとっておいたので,これをまたはめ込み,欠損部分は木粉パテで充填。
  うまいことにそれほど目立ちませんね。



  クランプで固定しているあいだのヒマに,こんなモンを作っていました。
  ――象牙の板で作ったミニ・コウモリさんたち。
  さて,問題です。わたしはこれを,どこにどう使うつもりでしょうか?
  回答は次回!


ナゾのミニ・コウモリさん

コウモリ月琴(1)

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斗酒庵 コウモリ月琴を直す 之巻(1)2006 11月~ 明清楽の月琴


コウモリ月琴 
ネオク写真
  今回の修理は,2面同時進行。

  工房に到着したのはこちらの月琴のほうが後だったんですが,もう一面のほうはほとんど壊れておらず,イマイチ「修理人ダマシイ」がシゲキされない。
  一方,こちらはといえば。
  もー見てスグ分かるくらいの「破れ月琴」であります――ムラムラと湧きあがれ俺の小宇宙!
  というわけで。 「修理報告」は,まずこの月琴からとまいります。

蝙蝠飾り
  片方,一匹だけになっちゃってますが,目摂のコウモリさんが可愛らしい。
  で,命名はいつも通りベタで…。

  大きさ,デザインともに3号とよく似ています。
  棹もやや太めで,胴体の厚みもいくぶんあります。
  第4フレットが胴体のほうに置かれてる点も3号と同じ,やや小型月琴の部類となりましょうか。

  上のネオクの写真では,蓮頭はちゃんとへっついてますが,梱包のときにでもポロリしてしまったのでしょう。届いた時には別部品になってました。

  そのほか,パッと見で分かる要修理箇所は主に2点。

  一つは軸ですね,2本足りない。
  また軸削りで地獄を見るか!ま,もう慣れたし…がむばろがむばろ。

割れ(1)割れ(2)

  もう一つのメインは,コレ。
  天の側板の棹のホゾ穴を中心に,左右に割レ。
  割レの左右の端では表面板もヒビて少し浮いている。
  まあ,面板のヒビの一本や二本はいつものことだし,側板も単純に割れてるだけならさして問題はありません。割レも中途半端で,一部くっついてたりするとかえってアレですが,見事にパックリとイッてしまっていれば,むしろ修理はしやすい。色々としようがあるのです。

  ですが…悪いことに。よく見るとこの部分,すでに「修理」されているのです。
  それも2本の鉄クギでもって,表面板ごと打ちつけるという,なりふりかまわぬ力技。
  …右のクギなんざ,先っちょが飛び出て板がメクれてますわ。おまけにサビサビ。

  「いやあ,シロウトはんは,ホンにダイタンなことしはりますなあ~ぶひぇぶひぇぶひぇ。」

  と,京風底冷え笑いを噛締めながら――いざ。


修理前所見
コウモリ月琴・全体
1.採寸

全長: 637mm

胴体:径 353mm 厚 36mm
  (うち表面板/裏面板ともに4mm)

棹:長 280mm
 (蓮頭をのぞく・うち糸倉 150mm/
  指板部分(山口-基部)133mm )

絃長(山口-半月): 415mm



蓮頭・糸倉・山口
◎ 蓮頭:オリジナル。
  *棹と同材と思われる。4号月琴と同様のデザイン。
◎ 糸倉:擦りキズ多少。ほか目だった損傷はなし。
  *天に別木をはさむ。基部のところのカーブがややキツく,デザイン的にややつまった感がある。
◎ 軸:2本存。オリジナル。
  *このところ修理した4号や鶴壽堂にくらべると軸はちょっと太め。
◎ 山口:オリジナル。
  *糸溝や糸擦れの痕多数。使用感がある。
  *材は花梨か?

◎ 棹:損傷なし。
  *指板のないタイプ。手の当たる部分の塗装がはげ,色落ち。

◎ 柱:棹上1/面上4本存。
  *脱落したフレットも痕はすべて残る。
  *オリジナルは竹製。表面板上のうち,2本(第5・6フレット)は木製で後補部品。

半月・絃停 ◎ 目摂:右側一枚のみ存。(既述)   *左は面板上に痕跡のみあり。

◎ 半月:損傷なし。
  *胴材と同材か?90×42mm。高 10mm。糸孔はやや小さく,配置はV字型。
◎ 絃停:ニシキヘビの皮。100×80mm。


  修理の前に,例によって柱(フレット)や目摂,絃停などの小部品はとっぱらっておきます。
  だいたいニカワやノリで貼り付けてあるだけなので,筆で軽く水を刷いてからちょっと揺するととれます。
  今回はこの作業で大した発見はナシ。

  クギをひっこぬき,天の側板を修理しなきゃならないのと,損傷が表面板に集中しているため,今回の修理では始めて「表」面板のほうをひっぺがすことになりました。音に大きく影響してくる部分だけにちょっと心配ですが,まあ,やるっきゃない。

内部所見
コウモリ内部
  さてこの月琴,揺すっても響き線がカラとも鳴りません。面板を叩いてみるとかすかに金属系の余韻がしますので,何か入っているのは間違いなけれど,棹のホゾ穴からのぞきこんでもどうなっているか見えない。ハテ?どんな構造なのかと考えていましたが,あけてみると――こんなんなってました。

  この部品,本来は胴内でぷらぷら揺れてなきゃならないモノなんですが,先端が上桁にひっかかって,すんとも動なくなってしまっています。
  はじめは何か意図あっての構造か?とも考えましたが,それにしては線の接触している部分にそれらしい加工の痕もありません。当初からの加工のせいか,後に衝撃等により偶然なったものかは不明ですが,何らかの目的により意図的にされたようなものではなさそうです。

◎ 響き線:一本弓なり。太 0.8mm ほど。長 直線にして約40cmほど。

響き線基部
  ひっかかってるの自体は,ちょっと指でつまんだらカンタンにはずれたんですが,全体にサビに覆われており,ハガネ線にしてはなにやら柔らかく,はじいてみても月琴の響き線らしい澄んだ音がしません。焼入れが甘いか,されていないモヨウ。

  *基部を厚7mm・2cm角ほどの小木片中心の穴に竹釘で固定。この木片は上から見て,側板がわの面の両側が張り出していて,上桁の左端に彫られたミゾにはめ込まれている。


◎ 側板 厚最大 10.3mm/最小 5.5mm。
  *材はサクラ。内側わずかにノコ目が残る。
  *板はかなり薄め。材どり,加工ともによく,四枚ともほぼ同形,同寸。接合部木口のすり合わせも良く,右側2箇所はいまだしっかりと接着されている。
  *天の板,表面板側,棹のホゾ穴を中心に割れアリ(既述)。ほかはほぼ損傷なし。


◎ 棹取付け基部
  *材質・色は3号・4号と同じだが,クワにしては軽い。これらの棹の材はカツラか?
  *継いでいるのはヒノキ等ではなく,胴と同じサクラ。
  *基部裏面に「下」と墨書。

棹基部・裏面 棹基部

◎ 内部桁:2本。上 326mm/下 270mm。
  *材はヒノキか。
  *上桁に2つ,下桁に一つ,申し訳程度の音孔があけられている。直径1cm程度。
  *側板にミゾを切らず,面板・側板にニカワで接着。わずかに左方向に傾いだ取付けだが,両端接着面の加工もよく,しっかりと固定されている。
  *表面板に接着される面の両端角が落とされているのははじめて見る加工。


表面板ウラ
◎ そのほか(1)
表板裏面,側板数箇所に指示書き。すべて墨書。
表板裏面中央右は「玄」か?
棹ホゾ穴の表面板側に「キ」。



黒いシミ
◎ そのほか(2)
天の側板から左右の接合部周辺にかけてと,表面板上部に黒いシミが見える。
おそらくは水濡れ,放置等により,接着していたニカワが劣化,変色したものと思われる。
シミの広がりのちょうど中心に当たるのが天の側板の割れ箇所なので,何か関係あるものと思われる。




修理開始!

   STEP1 クギ抜き
クギ抜き(1) クギ抜き(2) 割れ
  ナニはともあれ,ここからまいりましょう。
  棹穴左右の割レをとめている釘をとりはらいます。
  まずは正攻法でクギの周りの面板を削ってクギの頭を出し,引張ってみましたが,ビクとも動きません。木の中でクギがサビて固まってしまってるんですね。
  ふつう,クギを正しく木の中にぶっこんで,埋め木などで隠したような場合,そのクギが新品ならこんなふうにサビることはありません。前の2号月琴の時もそうだったんですが,こういう修理にはかならず新品じゃなく,道具箱の底や,土間に転がっていたような,すでにサビたりしたクギが使われていることが多いですね~。
  それでも右のほうは側板から飛び出してた先っちょをつまんでグリグリしているうちになんとか抜けましたが,ばっちり叩き込まれた左のクギは,ピンバイスでクギの周囲の穴を広げ,ほじくりださなければなりませんでした。

  クギ2本を引っこ抜き。問題の箇所が現れました。思ったとおりのきれいなパックリ割れです。
  両面をきれいに掃除して,ピンバイスでいくつも穴を通しておきます。あとで竹釘を打ち込むための穴です。



   STEP2 響き線
響き線(改修前) 響き線(改修後)
  次はここ。ひっかかって丸く固まってた響き線。
  線は根っこのところの竹釘を引っこ抜き,残りをキリでグリグリとこそぐと,かんたんにポロリとはずれます。
  サビを落とし,胴内の所定のスペースにきっちり収まるようにカタチを整えてから,コンロであぶって焼きを入れます。
  またひっかからないよう,先っちょを曲げておくのを忘れないように。
  仕上げにサビ止めを兼ねて,表面にラックニスを刷くと,真っ黒の,いかにもハガネ,といった感じの線になりました。今度は音も月琴の響き線らしく,きーん,カーンと鳴ってくれてます。

  線を穴にもどして竹釘を指でおしこみ,楽器を弾く姿勢に傾けたとき,線がちょうど胴体の真ん中でぶらぶらして,面板とぶつからないような位置になるように,何度か楽器を傾けながら調整します。位置が決まったら,木槌で竹釘を一気にたたきこみ,固定。
  

鶴壽堂月琴

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斗酒庵 鶴壽堂の月琴と対面する 之巻2006 3月~ 明清楽の月琴


鶴壽堂月琴 

鶴壽堂ラベル   さて,三月弥生ともなると,木の芽も萌えれば虫も湧く…などということは関係なく,月琴修理の毎日であります。
  「4号」「おりょうさん」,ともにはじめての本格ウルシ塗りに手間取り,部屋の片隅の仮ムロにぶるさがったまま,約1ヶ月が経過しております。この間,ボディに塗装の用がなかった「松音齋」は早々と修理完了。依頼主の元へと帰ってゆきました。
  ――で,ワタシ,さみしいの。などと頬杖をついていたら,またまた月琴がコロがりこんできてしまいました。もうなんも言わん!わしゃ月琴修理で今年も終わるんじゃ!

  背のラベルに「鶴壽堂」とありますので,以下この月琴は「お鶴さん」と呼ぶことといたしましょう。さん,ハイ――
  「おつうさ~ん!」
  ヨゴレで分かりにくいのですが,側板や棹はウルシではなく,飴色のニスのようなもので塗られてますし,このラベルも洋紙にしっかり銅版印刷されたものですから,明治の後期以降,比較的新しい時代に作られた月琴だとは思います。
  内部構造の手ヌキを除けば,「松音齋」のウデ前はなかなかのものでしたが,この「鶴壽堂」さんはどうでしょう。
  ――期待でドキがムネムネいたしますねえ。


修理前所見

鶴壽堂・修理前全景
   1.全体の採寸ならびに損傷箇所簡見

全長 660mm 
胴径 357mm 厚 38mm うち表板(平均)5mm 裏板 3.5mm
棹長 290mm(蓮頭をのぞく) 糸倉 152mm 指板 139mm(+ 山口取付部分 10mm) 
絃長(山口-半月) 421mm


■ 表裏板のヨゴレ,かなり。表板に使用痕,キズ多数。三味線のバチ痕と思われる。
■ 裏板右下に径1mmほどの虫穴。そのすぐ左横,板の継ぎ目にヒビ。板接合部内部に虫食いがあると思われる。
■ 側板・棹もかなりのヨゴレ,褪せ。ただしキズはあまりない。
■ 側板接合部,工作上々。部材の木口同士を接着しただけのふつうの接合だが,スキマ,ユガミほとんどなし。
■ 左上接合部付近に表板のハガレ。長150mm。



   2.細部ならびに各部品・所感


蓮頭・糸倉 ◎ 蓮頭:オリジナル。
** 材質不明。唐木の類でないことは確か。彫刻なく,刻みは柔らかで,全体に丸っこく,最下部のトンガリもひかえめ。
◎ 糸倉:損傷軽微。 ◎ 軸:全欠落。
** 天に別木をはさんだ組木型。工作良く,左右の厚さは7~8mm ほどしかない。
** 軸穴も小さく,径大9mm-小7mm。内側に軽くウルシを刷く。
** 糸倉の材自体は健全だが,軸穴上2コ,大きなほうの縁周に,使用によって圧迫され,わずかに変形した痕がある。サイズの違う糸倉を挿してみたか,経年の使用によるものかは分からないが,軸穴内部の塗装がさほど損傷していないことから見て,前者ではないかと思われる。


指板 ◎山口:欠落。 ◎ 指板:損傷なし。
** 山口の前で切れる「おりょうさんの月琴」と同じ型。ただし厚みは「松音齋」のほうに近く,1mm ほどしかない。材はおそらくタガヤサン。
** 指板上のフレットは1コのみ存。3号4号と同じく竹製で,表皮部を胴体側に向けたもの。工作は悪くないが,いままでの例にくらべるとかなり厚く感じられる(底部で厚5mm 以上)。
** 指板上のフレット痕,あと3ツ確認。棹上に第4フレットをおくロングスケールタイプならん。


◎ 目摂:オリジナル。
** 右がやや黒っぽく変色するも,キズなく健全。材質はもしかすると紫檀。やや厚めで彫り線が細い。左右の意匠は牡丹。真ん中は結紋。 目摂
半月 ◎半月:損傷なし。 ◎絃停:錦布。
** こういう材質感のものははじめて。くっきりとした木目のある木で,おそらく蓮頭と同材だろうが,例によって正体不明。糸孔の配列はV字,孔の径はきわめて小さい。
** 半月内部,高音絃側に,何かちり紙を丸めたようなものが,糸で巻かれて入っている。
** 絃停はもと紺か緑地の錦布だったようだ。すっかり色も落ち,今やかすかに模様がうかがいしれるのみ。




修理開始!

  STEP1 小部品の除去

表板・キズ   はて――表板の真ん中の扇飾り周辺に,三味線のバチ痕と思われる細く鋭いキズがいくつも確認できます。
  三味線のバチを用いた場合でも,通常の演奏をしていれば,こんなところにキズはつかない――ナゾですね。

  大作業にかかる前に,目摂とか柱といった細かい部品は,いったん取り去っておきましょう。

表板部品除去後 ■ 柱は筆で部品の周囲に水を少しづつ,何度も含ませて,指でちょっとグラグラ揺らすと,ポロリと,比較的素直に取れました。
■ 目摂は同様にしてから,周縁のあちこちから均等に,刃物で持ち上げるようにしてはずします。
■ 絃停も筆で全体に水を含ませ,はじのほうからひっぺがしてゆきます。ちゃんと和紙で裏打ちしてあり,ノリはあまりゴベゴベとついてませんでした,アリガタヤ。

  今は真っ黒な布切れにしか見えないんですが,剥がしたあとの裏地から見るに,もとは緑色の地に,薄い銅色の花唐草紋が踊っている,渋い錦布だったようです。

扇飾り除去後 ■ 真ん中の扇型の飾りの下から,真っ赤に染まった和紙が出てきました(→)。飾りを彫りこむとき,補強のため裏面に貼ったものと思われますが,それが何でそのまま残っていたのやら?
  この色から推して…左右二つはおいといても,この部品はおそらくベンガラかなにかで染められてるんでしょうね。

  部品をはずしたあとに,もう一度水を含ませて,残ったノリやニカワを布でかるく拭い去っておきましょう――あとの仕上げ作業がラクになります。



  STEP2 裏板はがし

内部観察

  今回の月琴。裏板の接着はやはり完璧に近いものでしたが,ニカワ付けがそれほど強固ではなく,楽器左肩のハガレてる接合部のあたりにあったスキマから刃物を入れ,そのスキマと板の周縁を水で濡らしながらすこしづつハガしてゆきました――1時間以上かかりましたが,結構キレイにハガ…ややっ,これはなんじゃ!
  何か書いてあります。
  墨書が出てきました!
鶴壽堂・内部
  え~庵主,四角い文字はかなり複雑なのまで読めるんですが,手書きや草書はニガテで……
  裏板裏面(写真左):
  表板裏面(写真右):
 和洋[音]楽器[等]之所
  名古屋市上園町三丁〓
   鶴[心]〓居
 明治三十六年 [春]
 明治三十五年 四月
  名古屋市上園町三丁目
   〓〓〓〓〓〓
       〓〓〓

  裏板の3行目,表板の後2行――カンジンの名前のところが読めましぇん。しかも[ ]内は自信ナシ。
  表板と裏板で,まる一年違ってるのというはちょっとナゾですが,でもまあ,とりあえず明治36年に名古屋で作られた楽器であることが分かりました。百三年前の楽器かあ…そういえば大正琴の発明者・森田吾郎さんも名古屋の出身でしたね。しかも月琴奏者でもあったとか。何やら縁がありそうななさそうな。

楽器左肩接合部・内部 ◎側板 最大厚 16.5mm 最小 12mm。
** いちおう真ん中が厚く,両端が薄い…ほかと同じ部材どりにはなっているのだが,全体に分厚いためか,両端と中心部との厚みの差もあまり感じられない。木口接着のみの単純な接合だが,板が厚い分,作業がしやすかったのか,部材同士のすりあわせはかなりきっちりしており,楽器右肩の接合部などカミソリの刃も入らない。ハガれている左肩のスキマでさえ,テレホンカードがやっとである。
** 材質は「松音齋」と同じ,赤っぽい色の木(おそらくカバかサクラ)。内面の処理も「松音齋」と同様,鋸痕がきわめて薄く,ヤスリかカンナで少しなめらかに仕上げられている。

棹基部・天側板棹孔 ** 天部の側板,棹穴左にメクレ小。ほか部材に損傷ナシ。

◎棹取り付け基部
** 4号と同様の継ぎ方。工作は悪くない。上桁が近いだけ,同タイプのほかの月琴に比べると短い。長 115mm 幅 18-12.5mm 厚 15-10mm。
** ふつう延長材は棹と異材のスギかヒノキを継いであることが多いが,この月琴は棹と同じ材をわざわざ継いでいる――ほなら,最初から一木造りにした方が良かったんとちゃいまっか?――とは考えるものの,整形や後での微調整など実際の作業を考えると,このほうが容易いかもしれない。
** 裏面根元のところに,幅1cm ほどの薄板を貼って調整している。
** 表面根元に「ま」とエンピツ書。


桁・音孔 ◎桁 2本桁。上 294mm 下 325.5mm/幅 33mm 厚 7mm。
** 上が短く,下が長い。側板にホゾを切り,両端をハメこみ。中央よりやや上に配置。
** 音孔はいづれも左右に2つ。きっちり長方形にくりぬかれているが,効果を考えるとやや小さいか? 上音孔 54×12mm ×2 下音孔 90×12mm ×2。響き線の構造・配置から考えると,両方とも二つ孔である必要はなさそうだが?


◎響き線 真鍮線2本,真っすぐ。上 265mm 下 165mm 径 0.6mm 程度
** 楽器左側板中央(高音絃がわ)に長いのが,右側板下部(低音絃がわ)に短いのが2本ささっている。留め釘のない直ざし。
** 当初,灰緑色のサビに薄く覆われていたのを軽く磨いてみると,黄金色の地肌が出てきた。真鍮線と判明。
** 今まで見たハガネ線のものよりかなり細いので,振動に対するレスポンスはさほど大差ないが,音質的にどのような差が出るのかは不明。


◎そのほか ** 墨書のほかにエンピツによる指示線,指示書アリ。
** 表板:「や 表」。裏板:「や うら」。



  STEP3 接合部再接着・補強

  今回の月琴は部材が厚いぶん作業しやすかったのか,各接合部とも木口と木口ぴったりと密着するよう,きちんと擦り合わされています。 しかしながら,時のチカラというものはオソロしいもので,やっぱり部材同士を貼り付けていたニカワは飛んで,今や接着されたままなのは右肩接合部のみであります。

■ 作業はいつものとおり。
接合部補修中   まずは接合部に残った古いニカワを取り除き…あれ,狭すぎて刃物が入らねーや。テレホンカードをさしこんで何とか,スキマに残ったニカワの粉を除去。
  次は新しいニカワをユルめに溶いて,流し込む――と,これもスキマが狭くて,なかなか木口全体に行き渡りません。ニカワに水を足して,さらにユルく溶き,両手で部材をひっぱり,スキマを広げながら,筆で流し込みました。

■ 楽器左肩と対角線の右下は,表板もハガレてますのでこれもついでに接着(←)。


接合部・補修 ■ 接合部裏面に,和紙を重ね貼り(→)。
  表面が滑らかなんでいくぶんラクであります。乾燥ののち,柿渋を染ませて,表面をウルシ塗料で保護。



  STEP4 各部第一次清掃・補修

蓮頭・清掃前後 ■ 側板と棹の表面を,エタノールで第一次クリーニング。

  蓮頭や楽器の肩の部分のヨゴレは,もう表面の塗装と同化しちゃっていて,濡れ雑巾くらいじゃとてもとても…細かい目の耐水ペーパーに,エタノールを付けて,コスコスします。
  オリジナルの塗装をなるべく傷つけないように,慎重にコスコスコス…。

  細かいキズやヘコミのなかに入りこんだヨゴレまではムリですが,表面を曇らせていたヨゴレはあらかたとれたかと

裏板・虫食い   「修理前所見」でも述べたように,裏板の右下の方,桐板の継ぎ目に直径1mmほどの虫食い孔があり,そこから継ぎ目に沿って,縦下方に細く,ヒビというかもろもろしたスキマができており,このあたりに虫食いが隠れていることは推測できたんですが…裏板の状態を調べながら,虫食い穴をたどってほじっていったら,こんなに巨大な虫食い痕が出てきてしまいました!
  墨書もあるし,あんまりいじりたくない箇所なんですが,この部分の板は,もー薄皮一枚状態になってしまってますんで,見てみぬふりしたままだと,弾いてるうち,ズボッ!と大穴があいちゃうかもしれません。補修しておきましょう。
  ほじった孔の内側を多少キレイに均してから,


■ 中心の一番大きなところのカタチに桐板を削って,埋め込みます。

  ニカワを塗り,はめこむほうの板を水ですこし湿らせてから,焼き鏝でイッキに接着。枝分かれした,細かなぐにょぐにょ孔の痕は木屑を混ぜたパテで埋めます。もともと表面には1ミリほどの孔が一つあいていただけ,裏側からの作業なもんで,裏板表面からはほとんど分かりません。
  ありがたいことに,虫食いはほとんどこれ一箇所。それにしても一匹の虫がここまで食い荒らすのかとカンシンいたしました。




  STEP5 軸(糸巻き)製作!

軸作成   さて,ワタシもこの楽器を初めて見たとき,ホッケさんの団扇太鼓のキタナいのと間違えたことがありますが,月琴は打楽器でなく弦楽器ですから,糸巻きがないと楽器として使えません(苦笑)。
  今回の月琴では,4本ぜんぶ無くなってしまっているので(良くある),もともとどんなのが付いていたかは分かりませんが,胴体や棹の色が,少し前に直した「松音齋」に似てますから,今回はアレのを真似して黄色っぽい色の軸でイってみましょうか。

■ いつものように材はカツラ。休日のある日,まずは材料四本分を,長 115mm 程度,四面を斜めに削ぎ切っておきました。(写真上)
  あとはヒタスラ,ミニカンナとヤスリで削るダケ。「おりょうさん」の軸をこさえた時,イッキにやって腕が飛雄馬りましたので,一日一本,四日で四本!――と今回は決めて作業をいたしました。のんびりいこうよぉ~。

■ はじめは「松音齋」のと同じに,三本線彫りこもうと思っていたんですが,今回の月琴は蓮頭や半月にも装飾がない,ちょっと「実用本位」っぽい造り。糸巻きを削りながらふと,軸もそういうのが似合うんじゃないかと考えまして,大体カタチが揃ったところで組んでみたら…コレが,けっこうイイ。(写真中)
  今回は装飾線ナシ。プレーン・タイプでゆきます!

■ ヤシャブシの汁に砥粉を溶いたもの(表板を染めるのと同じ)で塗装,黄金色に染め上げたら,油で磨いて,一週間乾かし。乾いたところに今回はセラックニスを塗布。黄金色のピカピカ仕上げ!(写真下)



  STEP6 表板清掃


表板清掃   さて,いよいよ修理も終盤。
  裏板をへっつける前に表板のクリーニングをしておきましょう。

■ 作業前はこんな黒子さん。(写真左上)
  いつものように,エタノールをたらしながら#240くらいの耐水ペーパーで,垢すりみたいにコスってゆきます。削っちゃダメよ,こすこすこす…

  棹や側板に付いてたのもそうでしたが,今回のヨゴレは全体に手ごわい。
  ふだんよりずっと濃い,こげ茶色のモロモロが出てきました。一度に全体を濡らすと楽器に影響が出ますので,あっちゃこっちゃと少しづつ,濡らしてはコスり垂らしてはコスります。

■ ヨゴレの層が硬くて,一度では除ききれず,まずは全体が灰鼠色に。(写真左下)
  この時点ではまだ,ヨゴレが表板表面に薄皮一枚かかってるんですね。

■ コスっては乾かし,表面の様子を見ながら,さらにコシコシすること半時間。ようやく濡らすとオレンジ色っぽくなって,ヤシャブシ染めされた桐板の真皮にまで到達しました(写真右上)。

■ 乾いたら,こんなに白っぽいカンジになりました(写真右下)。


  ずいぶん白いですが,楽器内面の,ヤシャ染めしていない桐板もともとの色などから推して,おそらくこれが製作当初の染め色にけっこう近いと思われます。
  コスりながら感じたんですが,この表板のヤシャ染め工作。ヤシャ液の調合をちょっと間違ったかしたらしく(もしくはこういう流儀か?),木はしっかり染まっているのに,それほどの発色がありません――おそらくは,砥粉の分量が足りなかったかと。
  砥粉が多いと木目が全部埋ってしまって,やたらペカペカした仕上がりになりますが,少ないと木に汁が染み通るばかりで,ちゃんと黄金色になりません。

  こないだ修理した「松音齋」あたりの染まりグアイが最適なんですが…さて,今回もああ上手くゆくかどうか?
  そのへんはまだ先の作業ですが。


  STEP7 裏板再接着/塗りぬり各種


裏板再接着中   裏板の再接着――ああ,これでもう墨書は見られません。
  月琴の裏板には表板と比べるとプアーな板がよくへっついています。松吉さんには横に9枚もの細い板を継いでデッチあげたものが貼り付けてありましたし,3号のは木目があっちゃこっちゃに向いてるのが,おりょうさんや2号のなんかにも,薄くて質もあまり良くない板が使われています。
  鶴壽堂のは,柾目ですが左右で厚みが違う。左側は3mm 以上あるんですが右に行くにつれてうすーくなり,右端では 1.5mm くらいしかありません。
  それでもまあ,デカい虫食いがあったほかは,剥がしたときについた周縁のキズをちょいと埋める程度で充分に使える状態です。

■ 工程はほかと同じ,さして付け加えることナシ。
  やっぱり難しいですね。
  これだけ何回もやってるのに,例によってピッタリ元どおり,とはまいりません。
  ちょっと段差が出来てしまいました。


  数日置いて,裏板がくっついたら,裏板のクリーニングと,表板をもう一度磨いて,ヤシャブシ染めの準備にとりかかります。

** 「鶴壽堂」のラベルを残して周りだけキレイにするのがちと骨でしたが,耐水ペーパーの薄いのを裏返して,ラベルを隠しながら,なんとか周りのヨゴレだけ取り去りました。 裏板のクリーニングはそんなにしっかりやらなくてもいーです。どうせあんまり見えないし,質が悪いんで,あんまりゴシゴシするとどっかに穴があきかねません。

ヤシャブシ染め ■ ヤシャブシの実を煮出した汁で砥粉を溶いたものを刷毛につけて,全体をなるべくムラなく塗ったくります。
  濡れてる時には不穏な黄色,乾くと白粉拭いたように真っ白々になりますが,まずはこれで結構。

■ 一晩置いて乾かしてから,表面に浮いた砥粉をペーパーや布で拭き取り,次の仕上げ染めの地をこさえたら,今度は砥粉を混ぜないヤシャ液だけを全体に塗布。塗った汁が生乾きのうちに,カルナバ蝋の粉をつけた布でこすりあげ,ツヤ出しをします。
  このとき色むらがあるようなら,布をヤシャ液に浸して,こすりつけながら修正,少しづつ全体を均等に黄色っぽく染め上げてゆきます。
  ついでに木目の凸凹に入った余分な砥粉なんかも,拭い払ってしまいましょう。
ヤシャ染め・仕上がり
** 今回の月琴は,蓮頭も黄色なら,軸も黄色,半月も黄色。
  あまり白っぽいと面板がやたらと浮いちゃいますし,あんまり黄色黄色してると今度はほかを食っちゃいそうです。黄味加減が,むつかしーっ!


  これでいいかな?ってくらいになったら,いったん完全に乾かして様子を見,仕上げにもう一度,乾いた布に蝋の粉をつけて,モレなくキュッキュと磨き上げます。

** 今回は表板のキズや凸凹が数多く,いったん最後まで作業をしたんですが,仕上がってみると,あちこちの光沢ムラやらキズの影がヒドく,けっきょく表板を磨ぎなおして,最初からもう一度するハメになりましたが…まあ,こんなもんでしょうか。
  桐板の質がそれほど良くなかった割には,うまく染まったほうかと思います。


■ 棹と側板にシェラックニスを薄く刷きます。
  あとは次の仕上げ磨きまで,4~5日乾燥ですね。やれやれ。

**  放置されている間にこびりついたと思われるヨゴレは取り去りましたが,あちこちについた伝世のキズについては,今回はあえて磨き直しませんでした。 表板のムチャクチャな使用痕とかと違って,木質の硬いこういう部分についてるキズには,何だか見てるとそれぞれに物語があるような気がして…キズの上からの塗装,てのは修理人としてはちょっと恥ずかしい行為なんですが,上に塗ったニスはいつでもハガせるシロモノですし。
  このキズは楽器の勲章,みたいなものですね。

(2006.04.30.まで)
  さてこの間に,5号鶴壽堂,めでたくお嫁入りが決まりました。うわーい!ぱちぱちぱち!
  なもので自分で使うんならこの程度でいいや,と思ってた所を何箇所か補修することに。まずは「プレーンタイプで行きます!」なんていってた軸に,もう一手間。

軸追加工 ■ 軸尻を塗り,軸面に筋を彫り込みます。

  この筋はよく「滑りどめ」だとか言われてますが,実際には装飾程度のもので,あまり実用性はありません。ただ,軸は糸合わせの時などもっとも感覚的に使う部分ですから,筋一本でも感触の変化を感じ取るまさに「手がかり」になるには違いありません。
  今回製作した軸は寸法的には,直前に修理した「松音齋」のもののコピーですんで,最初はあちらと同じく3本線を彫りこもうかと考えたんですが…くじけまして,普及品に多い一本筋に…弱いボクです。
  達人の彫りは浅いそうですが,わたしは彫りに関しては,小僧の門前のイヌの糞てくらいに下手なんで,こういう線を刃物で刻むとどうしても余計な深彫りをしてしまいます。そこで今回は切り出しや彫刻刀ではなく,棒ヤスリでしょりしょりと線を削ってみました――うん,これなら深彫りにならず,軌道の修正もしやすい。
  下手は下手なりに考えるものですわ。



  STEP8 最終仕上げ~修理完了!


  キミ待つこの身はツラかった…10日後,トップコートのコーパルニスはいーぐあいに乾いてます。おっと,とはいえこのニスが完全に,芯まで乾くのは何年か後のことです。いまはまだ全体が固まって,表面のほんの表層がカチンコになってるに過ぎず,その下はまさに赤ちゃんの柔肌。仕上げ作業も慎重に行きましょう。

磨いてます
■ 塗装面を磨き上げます。
  まず,#600の耐水ペーパーで刷毛目や塗りムラで盛り上がってしまったようなところを均します。次に#1200~#2000までに石鹸水をつけながら,しょこしょこしょこ…と全体をまんべんなく擦りあげましょう。
  ペーパーがけが終わったら今度は,パフ研磨用の研磨剤をタオルにこすりつけて。磨く磨く磨く磨く磨く磨く磨く磨く磨く…!電動工具とかならカンタンでしょうが,そんなもの持ってないし,第一工具では指ほど細かなところまで届きません。まんべんなく,ムラなく,もれなく,一箇所で「小野川のマメモヤシ 煮て食った 美味かった」と5回以上唱えながら,ひたすら,磨く磨く磨く磨く磨く磨く磨く磨く磨く…
  作業も終わったころにはもう,汗だくっす。


  磨きに磨いた甲斐あって,もーぴかぴか。オニの鏡面仕上げとなりましたタガヤサンの指板なぞ,凶悪なほど美しく細やかな縞模様を醸し出しております。
  この磨き作業だけで,まる一日。
  ちかれた~。

  翌日,いよいよ最終仕上げであります。

フレット立つ! ■ まずは糸を張り,フレットを立てます。

  前につけた目印は,その後の磨きで,まーキレイさっぱりなくなっちゃってますから。チューナーを頼りに再度位置決めからの作業となりました。棹上の四本はまあいいんですが,面板の四本は左右のバランスをちゃんと見ておかないと,へっつけたあとにも一度直さなきゃなくなりますんで注意。

  さて次に,絃停なんですが。いつものとおりヘビ皮じゃなく金襴錦でまいります。


■ 臙脂地夕雲花手毬(でいいのかな?)の布を貼り付けます。
絃停試作
  5号では数種類の絃停を試作しました。
  じつは最後に,今回へっつけた臙脂色の花手毬の柄の布と,緑地の花小紋の布が候補に残り,すでに決まっているお嫁入り先サマのご意見なども聞きながら,最終的には緑色の布をへっつけることとなっていたんですが…さあ,へっつけるべいとキリフキで濡らすと,なぜか緑の布のほうだけ,裏に張った和紙がペロン,と剥がれるんですね。しょうがないか,と予備の一枚を濡らすと,こっちもペロンと端がめくれる…
  この布,何か楽器にキラわれてるようで,どうやら臙脂色のほうがお好みのようですね。
  布の質,工程も作った日までまったく同じなのに,こっちでは何の事故も起こらない――すんません,当座はこの第二候補にしといてください。
  楽器の機嫌が直ったらあとで張り替えましょう!


  そんな怪奇現象も少々ありましたが,最後に目摂とお飾りをはりつけ,飾り紐を結いつけて。

■ 5月20日,修理完了いたしました!



修理完了!
修理後・所感


● 楽器自体の製作時期・由来について。
  あらためて述べるまでもないが。
  内部墨書の解読は完全ではないものの,明治後期に名古屋で作られたものであることは間違いない。ただし表と裏の面板で年次に一年の差がある。書き間違い,という可能性もないではないが。ただ,このことから,いままで推定するだけだったこの楽器の製作工程が,また一つ解明されたようにも思う。
  すなわち,墨書をそのまま信じるのなら,胴体に最初に接着されたのは表面板であったはずである。墨書がなされた後に横桁がはめこまれたのか,あるいはすでに組まれた状態の胴体に墨書をほどこした表板を接着したものかは不明であるが。最後に接着されたのが裏板――そして,製作期間が年末から翌年始にかかった場合は,こういうこともありうるだろう。
  棹の組み込みがどの時点でなされるのかについてはまだ確証がないが,延長材と内部桁との噛み合わせ等を後で調整することを考えると,胴体が完全に閉じられた後でないことは確かだ。

● 材質から考えると,普及品クラスであるが,工作のレベルは高い。
  意匠にやや特殊性を感じる。蓮頭と半月が色の薄い木で作られていること,また真鍮の響き線とその配置などは,この作家のオリジナルだろうか。またその装飾の簡易さ,部材の厚みなどから,まったくお飾りではなく実用本位に製作された楽器の感が強い。

● 以前に修復された形跡はない。
  修理で取り替えたとかいうのでなければ,裏板の材があまりといえばあまりな気もするが,保存中に受けたと思われる水濡れの痕がわずかに見られるほかには,全体に初心であり後で手を加えられた形跡は見られない。

● 前所有者について~使用痕からの推察~。
  使用痕から前所有者は三味線を弾く者と思われる。表面板に残っていた擦痕は,三味線のバチ痕であることは間違いない。そのことと,その使用痕の多くが表面板上半分にあることから考えて,この楽器によって演奏されていたのは,明清楽ではなく日本の俗曲,あるいは当時の流行歌であった可能性が高い。
  月琴本来のピックや明清楽の奏法ではこうしたキズはまずつくことがないし,胴上のフレット音域まで使われることが多いため,バチ痕は楽器のもっと下部,絃停周辺に点在することが多い。また三味線のバチを使用した場合でも,楽器を膝上にのせ,琵琶と同じく左右にバチを展開して弾かれたはずで,演奏時の姿勢から考えても,バチ痕は同じく中央から絃停周辺となる。それが楽器上部に集中しているのは,棹上のフレット音域のみで構成される,単純なメロディの曲を立ってかかえた状態で弾いていたのではないかと考える。
  ただ,戸外で使用したような形跡はない。
  木部各所に擦りキズや打ち痕が多少見られるが,いづれも通常の使用によってつけられたものであり,全体に付いた汚れはいづれも屋内における保存中についたもので,それ以上の不自然なものは見つからない。

● 操作性は上々。
  細く裏面にアールの軽くついた棹は手に優しい。わたしの演奏スタイルだと,最下の軸に左手が触れることがあるが,それほど邪魔にはならない。ただしニスがまだ完全に乾いた状態でないため,これより多少の期間,演奏時の取り扱いには注意を要する。
  今回のフレットはオリジナルに合わせて,やや厚め(従来 2~3mm,今回 3.5~4.2mm)に製作したのだが,これも接地面が大きく安定が良い。
  上から2番目の軸が,現状ややユルいかもしれないが,使用にさほどの支障はない。

● 音色について。
  重量感のある音(戦車に喩えるなら,タイガーIとまではいかないものの,パンターD型なみかと)。
  側板が厚めだったわりに,音ヌケはかなりいい。前にも出てるし,おなかにもズンときます。
  響き線の感度・効果もかなり良好で,ほとんど雑味のない金属的サスティンがかかる。
  また線自体がきわめて細く,やや短いためか,演奏中の線触れによるノイズもほとんど起こらない。


  そのいかにも「実用本位」っぽいデザインや装飾には,やや好き嫌いがあるかもしれないが,音色・操作性からは,きわめて優秀な楽器であり,いままで手がけたものと比較しても,「銘器」と言って過言ではない逸品だと思います。末永くご大切に。


松音齋の月琴

MOONH10.txt
斗酒庵 松音齋の月琴と勝負する 之巻2006 1月~ 明清楽の月琴


松音齋の月琴,到着す

松音齋ラベル   さて,人類の長い歴史の中には,こういう実にコアなHPを見てくださっているキトク方もいたらしく,とうとう他人様の月琴を修理することとなりました。
  こんなHPを垂れてますが,べつだん楽器の修理を商売としているわけではないので,他人様のを直すのは実質はじめてですが(「おりょうさんの月琴」はお寺のモノなので,人の所有物でわない)――シロウト修理ながら少しはオボエもあることとて,出来るだけのことは,やってみることといたしましょう!

  今回の月琴には,裏面中央の上の方に「松音齋」という小さな紙が貼られております。 おそらくこれが,製作者の銘ではないかと思いますので,この月琴を「松音齋の月琴」と命名――え?まンまやんけ…って,わたしはネコに「ネコ」って名前を付けるニンゲンですぞ!

  古物の月琴というものは,まず間違いなくどこかが壊れているか,部品が二つや三つかならずなくなっているもので,この月琴のように,ほとんどの部品が揃った状態であることはキセキに等しいのですが,揃っているからと言って完全に「弾ける状態」であるとは限りません。
  依頼者が購入後,実際に糸を張って弾いてみたところ,演奏上の不具合としては――

  1) 糸 が す ぐ ゆ る む。
  2)低 音 絃 の 音 が こ も り が ち。
  3) 高 音 域 の フ レ ッ ト に ビ ビ り。


  また――

  4)裏 板 に ヒ ビ 数 箇 所( 増 え て る ? )
  5) 棹 が 抜 け る。


――と,いうような不具合があることも判明。
  実際に手にとって見てもかなりキレイな保存状態で,一見何も問題はなさそうに見えはしますが,こういう年月を経てきた古い楽器は,表面上は何ともなさそうに見えても,どこに故障が隠れているやも知れぬもの。外側,内側,とにかく隈なく調べてみんことには,原因も何も分かりませんが,どこかしらコワれてることは確か。

  幸い,修理中の4号,おりょうさんの月琴ともに,仕上げ段階で塗装の乾燥待ちのほか,さしてすることがない――ここらでもう一台増やしても大丈夫,でしょう,かね? オレ。


修理前所見

松音齋・修理前全景
   1.全体の採寸ならびに損傷箇所簡見

全長 635mm 
胴径 350mm 厚 40mm うち表板(平均)5mm 裏板 3.5mm
棹長 294mm 糸倉 140mm 指板部 143mm 
絃長(山口-半月) 415mm


ヒビ・左肩 ■ 表裏板ヤケ,ヨゴレかなり。
■ 側板,棹など木部表面の状態はしごく良好。染色,艶とも保存よし。木部表面は柿渋染めのあと,生漆で拭いてあるようだ。
■ 裏板中央および右肩部にヒビ(←),中央のものは棹下「松音齋」のラベルから,胴径の4/5にまで達する。
■ 裏板右端中央あたりに虫食い。
棹を抜いたところ
■ 棹基部の接着がはがれ,棹が脱落する状態となっている(→)。
■ 側板の接合工作は良く,顕著な歪み等は見受けられない。ただし例によって経年の風化により,ニカワはほとんどはがれている様子。下部左右の二箇所,裏板との接着部にウキがみられる。
■ 柱の工作よろしからず。太すぎ。また第5柱高音部に減りかカケあり。
■ 柱現位置に疑問。前修理者の仕業か。胴上の4本は,だいたいオリジナルの位置と思われるも,棹上のものは等間隔に取り付けられている。木工ボンドか。
■ 絃停,ボロボロになり,はがれかけていたものを前修理者が再接着か?



   2.細部ならびに各部品・所感


蓮頭・糸倉 ◎ 蓮頭:オリジナル。
** 材質はカツラか,茶ベンガラとウルシで上品な色に仕上げてある。糸倉の大きさに比すると,やや小さいように感じる。意匠はコウモリ。
◎ 糸倉:損傷なし。
** 天に別木を挟む組木。正面から見るとさほど気にならないのだが,軸をはずしてみると,下2本の軸孔の間隔がやや狭く感じる。
◎ 山口:オリジナル。
** 小型月琴でよく見る富士山型。象牙か練物か現状では判別不能。
◎ 軸:長(平均) 115mm 最大径 28mm。
** 3本オリジナル,1本後補。

棹・指板側面UP ◎ 棹:損傷なし。
** 断面で見たとき,ほかの月琴のような逆カマボコ形(三味線の棹などと同じ)ではなく,ほぼ角を落とした正方形となっている。
◎ 指板:紫檀と思われる薄板を接着,厚 0.2mm ほど。
** 驚異の薄さだが,正直あまり意味のない加工。ヒビが数箇所に走るが,浮き上がりはなく,健全である。
◎ 柱:オリジナル。山口と同じ材質。
** 工作はそれほど良くない。とくに月琴の柱としては,やや厚すぎるように感じる。

側板接合部 お飾り・目摂 ◎ 側板接合部:単純な彫り組み。
** 形式は「おりょうさんの月琴」と同じだが,工作の精度はこちらのほうがずっと上。例によってニカワはとんでいるようだが,全体に食い違いはわずか,めだったスキマは見られない。

◎ 目摂:オリジナル。
** 目だった損傷はない。左右の意匠は菊。中央の扇板は不明。

半月 ◎ 半月:オリジナル。半円型。
** 材質はおそらく紫檀。形状はは4号月琴のものによく似ているが,糸孔の配列がVではなくハの字型である。
◎ 絃停:たぶんオリジナル。ニシキヘビの皮。105×80mm。
** おそらく何度か直しているが,あちこち裂けてボロボロになった皮をまた,そのまま貼りなおしたもののようだ。


修理開始!

  STEP1 裏板はがし

半月   裏板をはがす前に,表板や棹の表面にくっついている,スグとれげな部品を,全部とってしまいます。修理中にとれるとヤだし,クリーニングするときじゃまになりますから。
  柱や目摂は簡単にとれるのですが,絃停がちょっと難物。前の所有者は,同じ皮を,ボロボロになってもなお何度も貼り直したようです――ちょっとけなげというか何というか。

■ ハケで水を含ませながらひっぺがし,剥ぎ取った後を刃物でこそげて(←),皮の残りやノリのかたまりを取り除きます。これをちゃんとしておかないと,後でここだけつるつるしたヘンな色になったりしますので,けっこう時間をかけて丁寧にします。
  ちなみに接着剤はフノリのようです。


内部観察

松音齋月琴・内部   で,恒例の キタ━━(゚∀゚)━━ッ!!! 裏板へっぱがしです!
  今回も裏板の接着が見事で,かなり手こずり,裏板周縁部にいくらか損傷を出してしまいましたが,側板にはほとんどキズをつけず剥ぎ取ることに何とか成功。
  では,以下内部観察結果,報告です。

内側から見た側板接合部(表板から見て右上から時計回り) ◎側板 最大厚 10mm 最小 5mm。
** 目の詰まった硬く赤っぽい木。おそらくカバかサクラ。部材切り出しの技術はかなり精度が高く,4枚ともにほぼ同形同寸で,中央部もさほどぶ厚くはなっていない。
** また,他の月琴では顕著な鋸目がほとんどなく,内辺はなめらか。部材切り出し後,カンナで整形したものと思われる。
** 各接合部裏面にかなり多めにニカワを盛った痕があるが,すでに風化してボロボロ。面板と凸凹組のおかげではずれていないだけにすぎない。表面からはさして大きなスキマは見えないが,やはり組み合わせの工作は不完全で,部材同士は密着しておらず,裏面から見ると各接合部に最大 1.5mm 幅程度のスキマが見受けられる。


松音齋月琴・響き線 ◎桁 2本桁。上 335mm 下 270mm。
** 配置は4号に近く,取り付け方法は「おりょうさんの月琴」同様,ホゾにはめず胴内壁に直接ニカワ着けするタイプだが,工作は良く,胴体・表板と強固に接着されている。ただし,上桁の取付はずいぶん斜め―故意の工作か手ヌキの結果かは不明。上桁には音孔はなく,左端に響き線を通すための円孔が穿たれているのみ。下桁は中央に一つ。 材質はおそらくヒノキ。

◎響き線 鋼線,半円弧。
** 左側板のやや上に直接,鉄釘で止める。25mm 程のところから円弧を描き,上桁の円孔を通り,2/3ほどのところで下桁中央の音孔にわずかにかかり,右へと抜ける。サビ浮くも健全で,焼入れもきちんとされているらしく,感度・音ともに素晴らしく良い。

棹取り付け基部 ◎棹取り付け基部
** 棹は4号と同様の継ぎ方,ただし延長材の材質は不明。丁寧な工作ではあるが,補填材なしで脱落しないほど精度は高くない。棹基部に墨で目印。ちょうどその下の表板上には,エンピツで指示線が書かれている。
  
(06.01.28)


   STEP2 接合部の補強

補強工事(1)   外側からながめて,裏板はいで,だいたいの不良箇所は判明。
  いよいよ修理にかかります。

■ まずはニカワがとんでスキマが出来ている側板の接合部を再接着。部材のスキマを刃物の先でこそいでキレイにしてから,新たにニカワを流し込み,キリをうすーく削いだ板をかまします(←)。

補強工事(2) ■ ニカワが乾いたら,飛び出た部分を削り落とし,和紙を貼りつけて接合部を補強・保護(→)。

  このあとは紙の上から柿渋を数度塗って強化したうえで,ウルシ塗料を塗れば,補強・防虫・防湿,いづれもバッチリであります。  (06.01.29)


  STEP3 裏板の継ぎなおし

裏板   最初からヒビてはいたものの,はがすときに完全に割れちゃいました。
  左肩にあったヒビは,部材の収縮で桐板の継ぎ目が裂けた,ふつうのものですが,中央の大きなヒビは,虫食いによって板同士の接合が弱くなったのが原因のようです。表面からは見えないのですが,ちょうど中心のあたりに,細ながい虫食い穴が,板の継ぎ目に沿って走っていました(← 下写真)。

裏板修理 ■ 中央割れ目は,虫食い部分をそぎ落とし,継いだあとのクボミは桐板を細く削ったもので埋め木。

  ついでに長い間割れたままだったせいで,板が多少狂って,継ぎ目のあたりが反ったりしていますので,

■ 数箇所にリューターでくぼみを彫りこみ,クサビ板で固定。(→)
■ 修理箇所の補強に和紙を貼り,柿渋で強化。
  補強に貼った和紙は,乾燥後不要な部分をペーパーでこそげ落として,必要最小限の範囲に――ハイ,元どおり円い板になりました。 今度はほかのどこかが割れるかもしれませんが(^_^;),とりあえずここで修理した部分は,そうカンタンにヒビますまい。  (06.01.29)


   STEP4 軸の再製作

軸   4本ある軸のうち,3本はオリジナルの部品のようなんですが,1本だけ後補のものが付いていました。(←)写真,左はじ。ほかとくらべて色が違くて,やや細いのがお分かりになれましょうか?

後補の軸UP   こちら(→)がアップ。
  軸先のほうにベンガラか何かと思われる,茶色い塗装痕が残っており,たぶんほかの月琴の軸を削りなおしたものと思います。加工は雑で,先がやや細すぎ,糸倉との噛み合わせもイマイチです。

黄色い軸・再製作 ■ もうすこしマシなのを作っておきましょうね。
  オリジナルは一見,ツゲみたいな黄色をしてますが,例によって材が何なのか分からん。とりあえず「おりょうさんの月琴」で使ったカツラの角棒がまだ残っているので,これで作ること――さて,でもそのままだとちょっと色がね…。
  で,月琴の表板を染めるのに使うヤシャブシの液を塗ってみました。おおーっ…「カツラの七化け」良く染まります(← まだ途中ですが)。けっこうツゲっぽいじゃん。

■ ついでに山口さん(ナット)を作っておきます。
  上写真,奥。右がオリジナル,左が新しく製作したもの。
  オリジナルの裏側をちょっと削って,ニオイを嗅いでみたところ,刃先の感触といい,ツメに似たニオイといい,間違いなくムクの象牙であります。 斗酒庵製のツーピースなんかよりよりずっと高級ですが,良材かならずしも良音を出さず――というか調整のために削ったりしなきゃならんかと思うとモッタイナイので,象さんキバのオリジナルは後世のためにとっておきましょう,そうしましょう。  (06.01.30)


   STEP5 表板清掃

表板清掃
  さて,今回は側板の塗装等,ヨゴレ作業がもうあまりないので,ここらで表板をある程度キレいにしておきましょう。

■ 表板にエタノールを垂らしては,#240 の耐水ペーパーで擦ってゆきます。
  ヨゴレているのはごくごく表層だけなので,削る,ってほど強くでなく,垢すり程度のキモチで木目にそって擦りあげてゆくと,濃い黄土色の汁と,モロモロしたものが沸いてきます。これをボロでぬぐいながら…ハイっ!出来ました(←)。

  一番下のナベの中身は,作業後,ボロを洗った汁。
  こすると出てくるモロモロと黄土色の汁の正体は,表板についたヨゴレと,桐板を染めるのに使われたヤシャ液なんですが,この汁の色,まさしくヤシャ液そのものであります――リサイクルできんかな? とか考えてみる。
  第一次のクリーニングは終わり。あとは乾燥させて,表面の様子を見ながら,細かいヨゴレやキズをぬぐいます。  (06.02.04)


   STEP6 裏板再接着

  塗装作業がないと早いなあ。
  さて,いつものことながら,内部構造が見えなくなると,なにか「おナゴリおしい」ような気がしますが,裏ブタをしめないと弾けないわけで,名残を惜しんでもいられません。

■ 裏板を貼る前に,まずは棹を再接合。
  始めはオリジナルどおり,側板との合わせ目部分のみにニカワを塗って接合してみました。製作当初は部材の噛み合わせも完璧で,この工作だけで抜けなかったでしょうが,今はアナが広がり,ユルくなってるので,結局,桐の薄板を削ったのをおしこんで,内側からクサビを噛ましておくことに。
  たった二箇所ですが,たぶんこれでそう容易くは抜けないでしょう。
棹再接合
裏板再接着
■ 裏板再接着。
  工程はほかの月琴と同じ。
  最後にクランプを等間隔に配置して一晩おいときます。
  翌日,クランプをはずして裏板をクリーニング。「松音齋」のラベルを傷つけないようにこするのが,ちと難しかったですが,やりかたは表板と同じです。


  STEP7 仕上げ作業(1)

  仕上げ第一段階は表裏の板の表面処理と,フレット立て。

仕上げ(19
■ 表裏板はヤシャ液+砥粉を拭いて,クリーニングで白っぽくなっちゃった木地の黄金色を復活。仕上げにカルナバ蝋の粉をふりかけて磨きあげます。

■ フレットは黒檀+象牙のコンパチ。
  当初は棹上のフレットがほぼ等間隔に(木工ボンドで)接着されてたりしたのですが(古物屋の仕業ならん)。製作者が指板上に,ケガキでシルシを付けておいてくれたおかげで,オリジナルの位置は判明――スゴいな。例によってチューナーで測りながら,フレットを立てる位置を探っていったんですが,ほとんどすべてのフレットが,けっきょくほぼオリジナルどおりの位置。いままで修理したものの中で,ここまで精確だったことはありません。

第5フレット ** 当初ついていた第5フレット(写真左)は,他の7本とくらべるとやや色が黄がかり,工作も不精確なことから,後補部品と思われます。 よくみるとわずかに「反り」があるので,ブレスレットとか,牙彫刻細工の飾り物の一部から削りとったものでしょう。
  この付近でビビりが発生した主な原因は,この部品の加工不良にありますが,そのほか,この月琴は1号と同じく,棹がわずか~に背面に反って取り付けられているため,フレットの高さがちゃんと調整されていないと,その周辺が音の響きが死んじゃう場所,デッド・スポットになってしまいます。ただでさえ絃がほかのフレットにふれてビビってるとこに,響きもない。依頼者の感じた「低音の違和感」も原因の一つはここにあると思われます。

  さて,今回の修理でも,毛先一本,高いとビビるし,低いと響かなくなる――この第4~第5フレットの調整にはかなり手こずり(^_^;)。試作品,全部で4~5本,オシャカりました。


絃停 ■ ハガしてしまったヘビ皮の絃停のかわりに錦布を貼ります。
  今回は帯地のハギレ,流水小桜紋ですね。正絹ではなくレーヨンですが,まあ,虫食いがないからいいか。
  和紙を重ね貼りして裏打ちし,柿渋を拭いて,ちょっと褪せた,落ち着いた感じにしてみました。どだ?


目摂 ■ はがしておいた目摂も接着。
  当初は枯れたようなぼやけた色をしていたんですが,荏油を拭いて磨いたら,紫檀のような濃い赤茶色になりました。ベンガラ染めに拭き漆だったかと。


  STEP8 仕上げ作業(2)――低音絃の軸孔の調整

  依頼者も「低音絃がすぐユルむ」と言ってました。
  フレットを立てるため糸を張ってみると,確かに軸がすべって,つるりつるりとよくユルみます。
  軸自体が長年の使用によって減っていることもあるのですが,低音絃にくらべると,高音絃のほうはそれほどでもありません。軸をあちこち取り替えてみても同じ。
  なもので,糸倉にあいた孔のほうを,あらためて観察してみますと――

軸孔のエグレ   あ,これだわ。

  上二本の軸の,太いほうの孔の内側周縁に,かなり大きなエグレがあります。
  これは後でつけられたキズではなく,製作時からあったもののようです。下二本の孔の周縁はキレい――このエグレとその後の使用によって,軸孔の一方が変な形に広がって,固定が悪くなっているのですね。
  ためしに孔の内部をエンピツで汚して軸をさしこんでみると,細い方は黒くなるのに,太い方にはほとんどつきません。

■ 軸孔の内側に薄い和紙をニカワで貼って,軸とのスキマをせばめます。
  和紙にはさらに柿渋を染ませ,上から合成ウルシを刷き,乾いてから,軸をさしこんで様子を見ながら磨いて調節しました。


修理後・所感

修理完了 060222
まずは結論・推論から。

● 明治中期以降に作られた月琴である。
  それほど自信はありませんが(^_^;)。響き線のとめに四角釘が用いられている点は,江戸以来の古例に倣っているが,一つには内部に見える指示線などがエンピツで書かれていること,またオリジナルのフレット位置から推測される音階が,かなり精確に西洋音階をなぞっていることなどが,推測の理由としてあげられます。明治末から大正初期か。

● 材料や工作からいうと,楽器としてのランクは中の(かなり)上。
  この上のものは,もう黒檀や紫檀で出来ていまーす。といったところか。その工作には他人の手が感じられない。部材の切り出しから,組み立て,飾りや柱の取り付けまで,おそらく一人の職人が一貫して行ったものと思われる。

● 以前に数度修繕されたことあり。
  ネオクに出品した古物屋が最後であろうが,そのうちの一回は,おそらく製作者の手によるものと思われる。裏板周縁の下部にある貼りなおしの痕がそれで,裏板はもしかするとこのとき貼りなおされたもので,製作当初からの部材ではないかもしれない。
  次が第五フレットと後補の軸で,加工の水準から見て,これらは同じ時に作られたものではなかろうかとも思う。

  手の小さなわたしには,棹がやや太めに感じられるのだが,演奏上はじつに扱いやすい。当初,やや不自然に感じたその四角い断面も,実際に持ってみると,そのおかげで楽器が自然に,最適の演奏ポジションにおさまってくれる。
  音色的には,明るく,クリヤーな音であり,内部の「響き線」もほどよく共鳴し,無駄な鳴りもそれほどない。
  じつに優秀な楽器であります。末永く大切にご愛用のほどを。

  「おりょうさんの月琴」の修理中に,それに近いタイプの月琴が,それもほぼ完全なカタチで手元に来るというのは,ともかく因縁めいたものを感じるなあ。とてつもなく参考になりました。


おりょうさんの月琴

MOONH09.txt
斗酒庵 おりょうさんの月琴を直す 之巻2006 1月~ 明清楽の月琴

さても

  今年は坂本龍馬の奥さん,おりょうさんの没後百年にあたるという。
  去る1月14日,「よこすか龍馬会」の皆さんの主催で,おりょうさん慰霊祭が,女史墓所のある横須賀は大津の「信樂寺(しんぎょうじ)」さんにて行われた。
  同寺では現在,龍馬とおりょうさんの仲睦まじい姿を再現した,等身大の木像を安置する「龍馬の部屋」を計画中とか,おりょうさんのいる部屋なら,月琴がそこに掛かっていても良いわけで。どうせあるなら,その楽器は,実際にちゃんと弾けるようになっていた方が良いと思う。
おりょうさんの月琴
  おりょうさんがあちらからふと来た時に「おや,月琴があるじゃないかい。」と手にとって奏でられるように――

  というわけで,住職さんおよび龍馬会会長さんに直訴のうえ,寺宝として展示されていた月琴を,不肖,斗酒庵め,修理させていただくこととなった。

  この月琴自体は,龍馬会の会長さんが古物市で購入,信樂寺に奉納なされたもので,ほんとに「おりょうさんが弾いていた」月琴,というわけではないが,個人的にもう決めちゃったので,以下名称「おりょうさんの月琴」で通させていただく。

  会長さんによれば,購入後三味線屋さんに「直して」もらったそうだが…


STEP1. 修理前所見

1.全体の採寸ならびに損傷箇所簡見


◎全長 635mm 
◎胴径 347mm 
◎厚さ 39mm うち板厚 4mm
◎棹長 290mm 指板部分 140mm
◎糸倉弧径 135mm
◎絃長(山口-半月) 415mm


おりょうさんの月琴・修理前

■ ヨゴレ中度。前修理者が磨いたためか,全体にさほど汚くはない。
■ 木部,かなり濃い目の茶ベンガラで塗られていたか? 各所に塗装痕が点残。剥がしたときについたと思われるヤスリ痕も残る。
■ 側板接合部,数箇所にやや大きなスキマ。
■ 表面右,縦にヒビ貫通。すでに補修済み。
■ 中央上フレット下,および半月左上にやや大きな虫食い孔。


2.細部ならびに各部品・所感
蓮頭?・山口
◎ 蓮頭:後補部品。
** 今回のなんじゃコリャ?PART1…おそらく三味線の胴の余り木片(花梨?)で作ったものか。3枚の木片を横に継いで,角を落としただけのモノ。真ん中になぜか象牙の板(おそらく三味線の撥の破片)が貼り付けてある――意図不明。
  (ふつうはどんなかは コチラ

◎ 糸倉:天までムクの彫り出し。損傷なし。
◎ 軸:後補部品。

** 修理で出た古い音締めを削ったもの。工作悪く,噛み合わせに難あり。
◎ 山口:オリジナル。小型月琴でよく見る富士山型。
** 指板はこの山口の手前でとまり,山口は指板の上ではなく,棹材に直接貼り付けられている。写真では見たことがあるが,実際にこの取り付けを見たのははじめてである。
◎ 指板:オリジナル。長 140mm,厚 2.5mm。
** エタノールで拭いても脱色しないので,紫檀の板と思われる。

側板接合部
◎ 側板接合部:単純な彫り組み。
** この形式もいままで写真でしか見たことがない。しかし,まったく直線的に凸凹を組み合わせただけなので(ふつうは台形に刻む),木口同士で接合する通常の場合と比しても,さほど強度が上であるとは思えない。
  接合部付近に黒っぽく残っているのは,製作当初に塗られていた茶ベンガラ。 同様の残滓が棹にも見られることから見て,この月琴の木部にはもと,かなり厚めにベンガラが塗られていたものと思われる。


柱
◎ 柱:ぜんぶ後補部品。
** なんじゃコリャ?PART2。加工がどうのこうのではなく,蓮頭と同じ材を棒状に削ってテキトウに貼り付けただけのシロモノ。おそらく現代の中国月琴の写真か何かを参考にしたのだろうが,数も位置もムチャクチャなうえ,上から下まで高さが同じ,もちろんこれで演奏は不可能。
目摂
◎ 目摂:オリジナル。
** 意匠は菊。右ほぼ完品。左カケ有。全体に白っぽく見えるのは,塗装の劣化と,前修理者が液体ワックスを使用したらしく,その拭き残しが彫刻の木目や微細なモールドに入り込んでしまっているため。

半月
◎ 半月:オリジナル。半円型,曲面構成。
** ここはキレイ。塗りか唐木か不明。


修理開始!

  んだば,さっそく修理をば始めやしょう。
  まず持ち帰ったその日のうちに,蓮頭(?)や柱など,後補の部品はすべてとっぱらいましたが,その辺については思い出してもハラがたつのでイチイチ書きたくない(なんじゃぁこりゃ !( ゚Д゚)!とか,木工ボンドかよ!( ゚Д゚)!とか)。
  ここからがホントの「修理」ですねー。
  ――そして,恒例の裏板はがし!こんどはこんどは,ど~んなか~な♪


内部観察

内部構造
◎側板 最大厚 13mm 最小 8mm。
** 中央が厚くなっている。削りだしは各部材おおむね一定しているが,接合部分にかなりのスキマが見える。これらは経年による材の収縮の結果ではなく,単に製作者のウデの問題。ニカワの脱落のせいもあるが,凸凹組みはしていても,現状しっかりとした接合はされていない。

◎桁 2本桁。長 300mm。
** ホゾを組まず,胴内壁に直接ニカワ着けされている。音孔は上下二本とも同じく,四角い穴が中央に一つ。 柾目のヒノキで,材質は良いが,取り付けの工作はやや雑で,側面,表板どちらの接着もきわめてゆるく,しごく簡単にはずれる。

桁・響き線基部
棹取り付け基部
◎響き線(←) 健在,鋼線,横一本。
** 先を曲げる。左側面の内側に直接,鉄釘で止めてある。 サビはわずか。ただし色や音,また自由に曲げられることなどからして,ちゃんと焼きが入れられていないようだ。鉄釘は断面四角で先がわずかに曲がった,狗釘という形のもの。

◎棹取り付け基部(→) 
** これもある意味「なんじゃコリャ?」――ただし前修理者に向けてじゃなく,作者あて。
  棹の根元を 27×37×15mm ほどのブロック状に削りだし,中心に竹の目釘を打って,固定してある。
  いままでの例から考えると,なんだか非常にアブなそうな構造だが,もちろん元からこれだけだったわけではなく,胴側板との接合部で,ニカワによってより堅固に接着されていたようだ。削り出し部分,およびほぞ孔の寸法はともにほぼ正確で工作は良い。




所見結果

  たぶん明治中期以降の月琴(普及品)。
  工作の技量はやや稚拙だが,全体にややがっしりとした造りで,本体に重大な損傷箇所もないため,前修理者の修理箇所の修正と,通常の補強,補修で演奏可能な状態に戻せるものと思われる。



STEP1.接合部・内部構造の補強

接合部補強   内部の確認も済んで,だいたいの問題箇所も分かりました。
  でわ,いよいよ本格的に修理作業とまいります。まずは――

  ■ 接合部の補強。
  かなり雑なる凸凹接合のスキマには,内側から桐の薄板にニカワをつけて挿しこみ,埋めてしまいます。もちろん見栄えが良くなるだけでなく,板が接着剤がわりになるんで強度はうp。接合部の内側には例によって和紙を二重貼り,柿渋で固めます。

桁   ■ 桁の付け直し。
  最初に見た段階ですでに,表板になんとかくっついていただけで,左右はぜんぜんくっついてませんでした(木部の収縮とかでそうなったのではなく,最初からそんなだったふう)。
  真ん中をつまんでぐらぐらと揺らしたら,とれちゃいました。
  古いニカワをこそげてから,胴内側にぴったりハマるよう,左右の木口を少し調整したあと,ニカワで貼りなおします。



STEP2.表板・木部のクリーニング

全景060116   接合部が補強され,構造的に丈夫になったので,もうちょっとやそっとのことでは「ばき」とか「ぐしゃ」,と壊れることはない。さてこれで安心してつぎの作業。全体のクリーニングへ。

  ■ 表板のクリーニング。
  余計なものをぜんぶはがしてから,エタノールを垂らしながら,耐水ベーパーでこする。
  右側のヒビ補修のスキマや,各所に点在する虫食い痕は,例のパテでちょちょっと埋めてから,ヤシャブシの煮汁でちょっと色をつけておきます。
  すでにヒビは入っているものの,この楽器の表板は比較的状態が良く,キレイなもんでした。

  すでに書いたように,この月琴の木部はもと,かなり濃い目のベンガラで茶色に塗装されていたとおぼしい。そこまでまっ茶色にする気はありませんが,ベンガラ塗装はもちろんしてあげたい。
  しかしながら,ここに一つ問題が。
  前修理者が液体ワックスで,塗装の残滓も打ち傷もスリ傷も見ないフリして,てーねーにゴシゴシしやがってくれたおかげで,そのままだとぜんぜん塗装がのりません。

  ■ 塗装下地加工。
  木部を一度紙ヤスリで磨きなおします。塗装の残りやキズの類はあらかた消えまして,ちょっと新品っぽくなりました。磨き終わったらエタノールで,残ったヨゴレやホコリを,てってーてきに拭いとっておきましょう。
  紙ヤスリはさほど荒目のものを使っていないので,最後にこの作業をすると,ヤスリ目なんかもほとんど見えなくなります。



STEP3.糸巻き地獄

  さて,今回の修理の,ある意味最大の難関――かなあ?

  ■ 糸巻き(軸)製作。

  もとは前修理者がつっこんだとおぼしい,三味線の糸巻きをぶった切ったシロモノが付いていました。 加工が悪くて軸孔とまるで噛み合ってはいないものの,ちゃんと削り直せば,まあ使える――のですが。
  何しろ今回は「おりょうさんの月琴」であります。 ちょっとリキ入れて,ちゃんとした「月琴の」糸巻きをこさえてあげるといたしやしょう。
  糸巻き自体は3号月琴の修理の際にも作ったことがあり,2時間ほどでカタチはできましたが,けっこうタイヘンだったキオクが…

** この月琴の糸巻きというシロモノ。
  高級品では黒檀だのツゲだのと,おそろしく手ごわそうな木が使われていますが,わたしの修理するような中級以下のものでは,比較的軽く,柔らかい,正体不明の木材が使われています。
  ――ええ,「正体不明」なのです。
  3号のものは何かあかっぽい広葉樹の類でしたし,今修理中の4号のはけっこう気胞の荒い軽い木(もしかするとキリか?)。 多く表面が塗装されてるせいもあるのですが,ほかで見た例でも,一度としてその正体判明に到ったことがありません。
  逆に言うと,ある程度の堅さと粘りをもった木なら,何を使っても良いのかもしれません。

糸巻き製作中   今回はカツラの角材を使ってみました――あ,これ良いですねえ。軽いわりには粘りもあって,切って良し削って良し。
  作業は左写真の通り。
  角材を切って,ミニカンナで断面を正六角形に削り,ヤスリで削って側面のアールをつけ,先っぽをはめては削ってまたはめて,だいたいぴったりになるまで調整してゆきます。

糸巻き製作中(2)   技術的には,さして難しい作業ではありませんが,そのカンナとヤスリの往復回数たるやオソロしいもので――一日目に1本半仕上げ,二日目に2本切り出し,そのうちの1本をだいたい削ったところで,右手首が「ピシッ!」って星飛雄馬しました。

  (→)が二日目の状況。前の日に作ったぶんには,線を掘り込んだあと,柿渋を塗ってあるので,ちょっと色が付いています。  (06.01.18)


STEP4.組上げ

  各所補修・修理も済み進み,いよいよ組上げです。
  これが終われば修理の作業自体は8割がた完了。ただし,この後がただただ長いんだよね。塗装の乾燥待ちとか,仕上げとか。

  ■ 棹の組み付け。
  まずは棹をちゃんと組み付けます。
  胴体との接合面に塗ったくってあった(しかもぜんぜん着いてなかった)木工ボンドの痕をキレイに取り除き,そこと基部の一部にニカワを塗り,押し込む――ハナシはそれだけのことなれど,この作業,一発で決めないと棹が曲がったまま固定されたりして,後で直すのがタイヘン。けっこう緊張しました。

裏板再接着・作業中   ■ 裏板の接着。
  作業はいつもの通り。今回はひっぺがすときに3つに割れてくれたおかげで,いつもの作業にくらべるとかえってラクです。割れ目も,もともと桐板の継ぎ目だった所なので,なあに継ぎなおせばイイサ――てくらいに考えてたんですが。
  割れるには割れるナリの理由が(((( ゚Д゚))))。
  表からはほとんど分からなかったんですが。継ぎ目のニカワが狙われたのか,この部分,虫食いでボロボロ。周縁部も良く見るとかなりな虫食いが数箇所あり,右端のあたりなぞ,スカスカになっていました。
  周縁部は裏からパテを穴に充填して,補強してからの作業。じゃないと圧着するときに潰れてしまいそうです。
  継ぎ目のところは,しょうがない,多少見栄えは悪くなりますが埋め木でいきましょう。食われているところを中心にV字状に溝を彫り,桐の薄板を削って埋め込みます。直線的だからまあ作業はラク



STEP5.平和なる日々

目摂・修理中   朝,木部に油を拭いたら,本体にはついては後やることがない…まあ,細かいものでも仕上げていきましょう。

  ■ 目摂の補修。
  面板の左右に付くお飾りです。
  右の板に大きなカケがありましたので,左のを参考に見ながら,アガチスの板切れを,切って削ってはめこみます。そのあと表面を刻んで,ベンガラ柿渋で色づけ――ま,こんなもんかな。こういう細かいものをやるときは,裏面に薄い和紙を貼っておくと作業がしやすいです。

山口   ■ ナットの再製作。
  オリジナルの山口(ナット)の状態は,悪くはないのですが,ヘンに汚れがこびりついているのと,何か軽いので,再製作。ローズウッドに,絃を乗せるところが減らないように象牙を噛まして,表面を柿渋とウルシで〆ました。なにやらイロっぽい色に。
  ごらんのとおりオリジナルとほぼぴったり同じサイズ。



STEP6.修理再開!

修理再開!   約1ヶ月…ベンガラ塗りが上手くいかなかったり,ウルシ塗りしようとして全身カブレてあきらめたり。
  ちょいと試行錯誤…というか,余計な遠回りをしてしまい。修理の修理で作業が遅れちまいやがりました。
  この春めいた4~5月は,わがデカンショ生活の仕事ナシ期間であります。
  ぞんぶんに修理しまくりましょう。

■ 棹と側板の塗装。
  今回は日本リノキシンさんのシェラックニスを使用しました。
  塗装の失敗で何度もへっぱがしたため,下地は却って磨かれ,つるつるになってましたから,塗装はラク。製造元から教えてもらったとおり,下地塗りを2回ほどしてから,コーパルニスで仕上げ塗装。 塗りっぱなしの間は,なんかテラテラしてて 「あちゃ~,またしくじったかな?」 とか思ってたんですが,乾燥後,#2000の耐水ペーパーで全体に磨きをかけたら,ジツにしっとりとしたイー感じになりました。
  はじめて使うニスですが,艶が自然ぽいし,塗膜はけっこう頑丈ですね。言われたよりも,けっこう力いっぱいゴシゴシ磨いてしまったんですが,ビクともしとりません。
  塗装が乾いたら,次の作業。

軸・蓮頭 ■ 山口と蓮頭の取付。
■ 軸長の調整。
  取り付けてみるたび,なにか長すぎるような,バランスの悪いカンジがするので,付けては削り,削っては詰めて,もう最初に作った時からすると 1.5cm ばかり短くなってますが,これが最後の詰め。糸倉とのバランスがようやくマトモになりました。
  これは当初,3号月琴を参考に軸のサイズを決めたせいですね。3号の軸は太くて長く,今の中国月琴と同じような丈夫げなものになっています。最近修理した「松音齋」「鶴壽堂」や4号なんかの軸先は,三味線の中棹なんかとほとんど変わらないくらい細い。
  「おりょうさん」の軸はそこまで細くはありませんが,時代としては「松音齋」「鶴壽堂」などと同じ頃の作でしょうから,軸の長さや糸倉とのバランスも同じようなタイプと考えて良いでしょう。

  長さを詰めたときに,全体削りなおしてしまったんで,またイチから塗装しなおし。 今回は茶ベンガラに少量の赤ベンガラを混ぜたので,ちょっと艶っぽい色になりました。 握る部分にはあとでニスを塗って,表面の保護とベンガラ留めをしとこうようと思っております。

  さて,HPでは初公開の蓮頭。デザインは河からのぼってくる不思議な馬(?)。5・6フレット間に付く扇飾りと対になって,あるメッタに使わない四字熟語を表します(漢文レベル9以上かな?)


表板ヤシャ染め ■ 表裏の面板の染色(←)。
  この月琴の桐板はもともとかなり赤みをおびた濃い色をしていたようなので,エタノールでクリーニングしたあとも,ちょっと赤っぽく見えます。うまく黄金色に染めあげられるかどうか…
  まずは砥粉をヤシャ汁で溶いたものを全体にハケ塗り(上),半乾きのときに布でこすって,木目をちょっと埋めてしまいます。 乾いたら白っぽくなりますんで(中),これに今度はヤシャ汁だけを塗ります。
柱製作中   しあげにカルナバ蝋の粉をふって磨く――けっこう金色っぽくなりました(下)

■ フレット製作(→)
  フレットはローズウッド+象牙。
  わたしはニカワを湯煎する小鍋でいっしょに茹でてからひっつけてます。そんなに大きなものではないんで,洗濯ばさみとか,クリップがクランプの代わり。くっついたら,まずは楽器に立ててみて高さを調整,糸にも触れず,前のフレットを押さえてもビビらない,ちょうどいい高さになったところで,両面を削って台形にし,柿渋を塗って強化しておきます。



  フレットの調整のために,山口に糸溝を切って糸を張り,鳴らしてみました。

  ――ああ,この楽器は何十年ぶりに音を出したんでしょうね…。

  そう考えると何やらカンドーしますが,カンジンの音はというと…これがそれほどカンシンしません。
  いや,あの手ヌキの内部構造のわりには,けっこういー音で響いてるとは思いますヨ。
  しかしながら響き線がやたらとガンガラガンガラ鳴るわりには,さほどの余韻が出ない。
  工作から見て,この楽器は大流行した時期に,工房のようなところで複数人の手を経て作られたものと考えられます。ですんで,同じような構造をしていても,「松音齋」のような「銘入り」の職人モノとくらべるのはちょっとコクかもしれませんが…。

  まあ,でもどちらかといえば明るい,素直な音が出てます。
  弾き方によっては万人好みかな?


STEP7.修理ついに完了!

  第6フレットまでは一気だったんですが,最後の7・8フレット,最初に作ったのが低すぎ,かなり強く押さえないと音が出ないので,も一度作り直し。

  なので,その間に5フレットまでの仕上げをしときます。#1200の耐水ペーパーで表面を磨いて,ニスを塗り,乾いたら#2000のペーパーで仕上げ研ぎをします。材質によってカラ磨きだったり,油磨きだったり,ロウ磨きだったりしますが,今回は荏油で磨いてしっとりしたカンジに。

扇飾り ■ 扇飾完成。
  材質はアガチス。軸に塗ったのと同じ茶+赤ベンガラを塗って,素材感を消した後,ウルシ塗料の黒を薄めたのを何度か刷いて,ベンガラを留めるのとともに色を落ち着け,最後の塗装が乾くちょっと前に,砥粉とベンガラを混ぜた粉を布に付けて擦る――と,こんなふうに埃っぽく,古めいた質感が出るんですねえ~。下地もちょっと高級材っぽく見えるでしょ?
  意匠は「川から出てきた不思議なカメさん」。すでに述べたよう,蓮頭と対の意匠です。

半月
  糸を張ってみて,あらためて気がついたのですが。

  半月にある外絃の孔が,縁からずいぶんと近くにあけられています。間隔は2mm ないほど。うちにあるほかの月琴で測ってみると,だいたい4~5mm が平均のようで,これはずいぶんと狭い。こんなに細いせいで,糸擦れによってけっこう深いミゾが刻まれてしまっています。
  まあ,今日明日ブチ切れるというようなものではありませんが,操作上,音色の上でも何らメリットがなく,もちろん強度の点から言っても耐久性から言っても,よろしい工作ではない。おまけに糸輪が小さくなって見栄えも悪いなあ。

  この月琴にはどうもこういう,アトサキ考えない工作が多いですね。

  たとえそれがムダな加工であっても,何か信念とか誇りのようなものが見えてくる工作は好きなんですが…

修理完了!
 最後に第6~8フレット,お飾りの類を貼り付け,完成です!

  今回はちょっと表板の色が濃い目になりましたが,古色めいてて悪くはない。テラテラだった軸も,磨いたらしっとり感が出ました。新しく作ったまん中の扇飾りも,それほど違和感がなくってグー。

修理前目摂
** 組上げてから気がついたんですが,修理前は目摂が左右逆についてたんですね(参考←)。
  小型高級月琴などに見られる「鳳凰」なんかの場合はこの向きなんですが,こういう菊や牡丹などを定型化させた植物の意匠の場合は,琵琶の三日月とかと同じカタチ,楽器の中心に弧の部分が向いてるよう付けられるのがふつう。



修理後所感

  今回の修理,外見はまあカンペキだと思うんですが,楽器としては問題点がいくつか残りました。

  1)響き線の感性不良。
  オリジナルの線は焼入れが甘く,ほとんど生の「鉄線」といってもいいもの。 加工も悪く,胴体内で糸の音にうまく反応して「響いて」くれてません。
  音に対する感性は良くないのですが「揺れ」に関しては敏感で,ちょっとポジションが悪いと,とたんにガランガランとよく「鳴り」だします。

  2)高音3フレット目に原因不明のノイズ小。
  ここを押さえた時,ビビリに似たへんな金属音の残響がすることがあります。楽器の構え方,押さえ方によっては鳴らない時もあり。内部構造からくる余計な共鳴現象だとは思うのですが,いまひとつ原因不明。まあちと耳障りなくらいで気にするほどでも。

  いづれも音色の問題であり楽器の基本構造や,本来の工作に起因するものなので「修理」する身には多少どうしようもない部分はあります。
  音色についてはすでに述べましたが,あまりよろしくない。
  しかしこれを改良しようと思うと,この楽器を「別の月琴」に作り変えるくらいの加工が必要なので,現状ではここまで。
  今回は必要最小限の修理・補修にとどめて,本体を製作当初の状態に近く再現し,次の世代に渡すことといたしましょう。

4号月琴

MOONH08.txt
ALT="斗酒庵 明清楽の月琴を直す4 之巻"2005.12月~ 明清楽の月琴(4号)

またかよ
  今年もまた…暮れがおしせまり,世間様が忙しくなってくると。
  もはやこれは習慣? それとも年中行事なのでしょうか?
  年の瀬に なると来ちゃうよ 破れ月琴。
  例によって,蔵か物置のようなところに,長年放置されてきたものらしく,かなりヨゴレておりますが,見たところ,各部しっかりしていて,部品もだいたい揃っており,さほどに重傷の様子はありません。
  今回の明清楽月琴は,3号と同じくらいの大きさの小型月琴ですが,全体の華奢な造り,とくに棹や糸倉の線の細さなぞ,じつに繊細で。 よしよし,おぢさんが,いーところへ連れてってあげるからね。  というくらい,カレンな少女のような月琴であります。(((w゚Д゚)w< オマワリサーン!

  冗談は蔵の中。では,いつものように修理前の観察から。

STEP1 修理前所見

1.全体の採寸ならびに損傷箇所簡見

◎ 全長:635mm
◎ 棹長:300mm うち指板部分 150mm  (最大幅:32mm 最小幅:24mm)
◎ 絃長:417mm * 山口より半月まで。
◎ 胴面:直径 350mm 厚さ 35mm
  * うち表裏面板・各 3mm
4号月琴・修理前
主な損傷箇所
■ 表板:左肩に2箇所,下部に数箇所 ネズミ食/右端 ややヨゴレ 少しく黒ずむ/右下部 側板接合部ふきんよりヒビ 軽 600mm ほど/右目摂中央付近に穴(義甲によるエグレ痕か?)。かなり深いものと見受けられる。
■ 裏板:右肩に ネズミ食。/全体に虫食い孔数箇所
■ 胴側材:接合部四箇所ともにニカワの劣化がみられ,接合ややハガレ。/左側部,表板にハガレ,左側材長の4/5。




2.細部ならびに各部品
◎ 糸倉:棹から左右までムク,天に間木をはさむ。
   * 実用に支障するような損傷はなし。ただし裏面下部にエグレ傷あり(ネズミ?)。
◎ 軸:4本ともに完存。3号と同形だが,やや細身。平均長 115mm。
  * 材質不明。数箇所カケ等見られるも,重傷なし。軸孔との噛み合わせなどから見ても,かなり精度の高い加工がなされている。
◎ 棹:損傷とくになし。反り,ユガミ等も今のところ見られず。
   * 材質不明。かなり緻密な木目だが,軽い。胴体への取付部のニカワが劣化して脱落か?   わずかにスキマあり。ただし歪み,ユルミ等はなし。

◎ 山口:存。26×9×9.5mm 半カマボコ型。
   * 取付面左右にやや広く余裕がある(2mm ほど)。糸の擦り痕は多く見られるものの,糸溝は刻まれていない。
◎ 蓮頭:存。最大長800×幅55mm 最大厚 7mm。
  * 雲形,線刻あり。ほかでもみたことのある意匠だが,何なのかまだ分からない。あるいは「宝珠」をさかさまにしたものか?
  左下部にわずかにカケが見られるものの,状態は良く,取付も堅固。装飾は簡素だが,手前から奥にかけて厚みにテーバーを持たせているところなど,細工は緻密である。

4号月琴・山口/蓮頭
4号月琴・糸倉

4号月琴・柱

◎ 柱:5本存(第2,5~8)。
   * 3号月琴と同じく,煤竹製と思われるが,3号(右下写真参考)とは逆に,竹の表皮面を半月側に向けてとりつけられている。使用痕あり。工作は多少粗い。
   * 欠損した柱についても,楽器上に痕跡がはっきりと残っており,オリジナルの位置,幅,厚みなどが推測できるが,棹上のフレット左右の余裕(通称,蟻通し)が,やや広めにとられている。
   * 現存する第2柱などからみて,弦高はかなり低かったと思われる。

参考/柱の加工 参考/3号月琴・柱の取付

4号・半月

◎ 絃停 緑色の皮革 100×85mm 厚0.8mmほど
  * おそらくオリジナルではなく後補。牛皮と思われる。カバンとか家具に使われる染め革を切ったものではなかろうか。
◎ 半月:損傷ナシ。ほぼ完全な半円形(直径 90mm 高 10mm),角型。
   * 糸孔の配列はV字型。半円の左側,表板との接着面付近に小スキマ見受けられるも,グラつきはなし。
   * 内部に新聞紙のようなものが詰めこまれている。


◎ 左目摂:ほぼ全形をとどめるも,ヨゴレ多少強。
  * 下部表面に大きなエグレ,カケあり。ネズミ食か?
◎ 右目摂:少カケあるも,全形をほぼ完全にとどめる。
  ** 左右ともに加工はやや雑。意匠とした花の種類は今のところ不明。 4号・目摂



糸残欠 おまけ1・月琴の糸の,半月への取付方について

  糸巻きと,半月左孔に絃のかけらが残っていました。
  半月に残った糸片から,この月琴の前所有者は

1.半月の孔に糸を通し,下から引き出す。
2.一方の糸端に一重結びの輪を作る。
3.引き出した方の糸端(長いほう)を,輪に通す。
4.輪の糸端を引き,締める。
5.糸を軸に巻き取る。

――という手順で糸を張っていたようだ。
  ただし高音絃の残欠がないため,両方同じようにしていたかどうかは不明。

** 庵主はこれまで,「玉結び」か「もやい結び」の輪を先に作っておいてそこに通していたが,こっちのほうが単純だし後での調整もラクなので,現在はこれ一辺倒。この結び方は図説つきで「月琴基礎知識2」に置いてあります。どうぞご参考に。



おまけ2・半月内の残留物について

  半月内部に紙片が詰まっていたのを,諸作業に先がけて取り除くことにした。
  明清楽月琴はこの内部の表板に,小さな孔が穿たれていることが多く(後述),そこからホコリ等が胴内に入るのを嫌ってか,和紙片などで孔にフタをしていることがある。最初は同様の意図から,前所有者が紙片を詰め込んだものと考えたが,かき出してみると――

半月内部の清掃
1.新聞紙もしくは雑誌頁の欠片 10片
   (うち1片には印字あり)
2.厚紙,もしくは美濃紙をはりあわせたもの。
   5mm 角
3.鼠糞 3個
4.綿ほこり
5.木屑

という内容で,人為的に詰め込まれたものではなく,周縁がギザギザになった紙片の形状から察してネズミが巣作りの際に運んだものと思われる。また,横置きの状態では糞がここに自然に入るということは考えにくいので,この楽器は一時,斜めか,立てて置かれていたに違いない。ネズミの咀嚼痕が,左肩表裏両面,同様の箇所に付いているのもそのせいか?

  なお,異物除去のあとで半月内部を確認したら,上に触れた「小孔」が見当たらない。(・_・)? ハテ



 STEP1 裏板ひっぺがし

  現状,裏板にはハガレもウキもなく,その接着の工作は,ほぼ「完璧」といえるほど見事なもので,これをへっぱがすなどという行為は,非常に心苦しいッす。 表板のほうなら,ハガレたり浮いたりしている箇所があるから,へっぱがすことだけ考えるなら,こちらのほうがラクそうなのだが,表板にうかつに手を出すと,のちのち音に悪影響を与える危険が大きいので,なるべくなら補修,補強程度にとどめておきたい…そうすると,やはり裏板にギセイとなってもらうしかなかろう。┐(- _-)┌ フッ…

  裏板左下にわずかにあった「ウキ」とも言えないような隙間に刃物を挿しこみ,ムリヤリこじあけますた。
  あ~,職人さん m(_ _)m ゴメンナサイ!

4号月琴・内部所見

4号月琴' 05.12.26 現在
◎ 側板:厚・最大 11mm/最小 5mm。

  * 内周には鋸目が細かく残る。鋸目は糸ノコのまだなかった時代,こうした曲面を材から削りだすのに一般的だった「回し引きノコ」のもの。 高級な三味線の胴裏などに施される「綾」のような効果を狙って,意図的に残されたものか,単に内側で見えないのでそのままにされたものかは不明(個人的には後者の意見だなー(^_^;)。)。

◎ 桁: 2本,単板,厚 7mm 長 a.330mm b.260mm。

  * 今度こそ,だと思う(w,3号月琴の記事参照)。 表面の加工が粗く,材取りもさほど良くはない。

  * 二本桁だが内部を均等に3分しているわけではなく,上の桁は真ん中よりやや上(胴端から145mm),二本目はちょうど,表板の半月の真下に位置する。また,二本目は両端を斜めにそぎ落とし,胴材内部に接着してあるだけ。

4号月琴内部・上下桁   * 上桁の音孔(?なのかな?―これについても,3号の修理記事,桁の修理の項目参照)は,棹基部のほぞ穴を中心に,左右に二つ(いづれも長 100mm 幅10mm ほど,楕円形)。下桁のものは真ん中に一つ。長 160mm 最大幅 20mm ほどもあり,面板に接している部分は幅 5mm に満たないくらい細い。いづれも穴あけの工作は雑,また材料も悪いので扱いには注意を要するだろう。

  * ひっぺがすときに上桁左に小ヒビ。(^_^;)>ごめん。

** 上桁が穴二つ,下桁が一つのこの形式は,2号月琴と同じ。 **

4号月琴' 響き線(1) ◎ 響き線:1本。鋼線,線径 0.8mm ほど。
4号月琴' 響き線(2)
  * 基部より 30mm ほどから,上桁の棹基部の突き出しの真下を頂点とする,ゆるく浅い円弧を描く。基部から円弧の端まで 270mm。線長 330mm 程度。
  * 基部を胴側板裏に接着された台形の木片につきさし,サワリでもある竹釘で留めている。
  * 小サビ浮くも,ごく表面のみ。軽くサビとりののち,油拭き等でじゅうぶんに再生するものと思われる。



◎ 棹基部,ならびに延長材

棹と胴体の取付部   * この部分の工作はじつに丁寧で,美しい。棹材にV字形のキレコミを入れ,ヒノキの延長材を継いでいるのだが,両材ともにきっちりと整形されていて,継ぎ目にもスキマがない――おしむらくはこの延長材,何かの端材を使ったらしく,真ん中にクギを抜いた痕が見えるなあ,これ無かったら100点!

  * また,ふつうは胴材の穴が大きめで,そのスキマにくさび状に削った木片や,多めのニカワを埋めこんで,棹の取付を調節しているものなのだが,この月琴の取付部はじつにスッキリとしていて,そういう補填材は見られない。ここからも作者の技術の高さがうかがえる。

** よくみると,棹基部の上に,何か書いてある。取付の指示符号などではなさそう。作者のサインかもしれない。





所見結果・気がついた特徴など

 サイズ上は3号とほぼ同じ小型月琴であるものの,棹がわずかに長く,第4フレットの痕跡は棹上にある。このくらいのサイズの小型月琴では,第4フレットが胴体の最周辺か,ちょうど胴体と棹の継ぎ目上にあることが多い。
 上記長い棹や,糸倉および軸の形状は,明治後期の作に多い特徴である。
 胴側板および棹はかなり濃い茶色に塗られている。塗料の粘度が高く,また質も悪いためか,ところどころで塗りはやや荒く,蓮頭・糸倉の横など,木目が完全に埋められておらずザラザラとした仕上がりのところが多い。
 胴側板・棹ともに材質は不明であるが,唐木のたぐいではない。おそらくは国産の広葉樹(桑かサクラ?)。 ニカワが劣化して,実質的にはたがいに接合されていないようだが,接合部の食い違いなどはほとんどなく,材そのものにも歪みや反りは見られない。
 表面板は柾目ではないが,かなり木目を考えて選ばれていると思われる。おそらく四枚剥ぎだと思うが,工作が良いため,継ぎ目を見分けることが困難。表板には一部にハガレが見られるものの,裏板接着の工作などはほぼ完璧で,ウキ箇所一つ見えない。
 第5~6柱間の距離がやや広いか? またヤケ痕やニカワ付けの痕跡が見られないことから,この楽器には通常ここにある扇飾りが,初めから付いてなかった可能性がある。
 半月に糸尻が残り,絃停が張り替えられているなど,何らかの用途に使用された形跡はあるが,山口には糸溝が切られておらず,胴面に撥痕等がほとんど見られないことから,「楽器として」本格的に使われたものであるかどうかについては,多少疑問が残る。


 STEP2 絃停をとっぱらう

絃停除去・ノリ痕とりのぞき作業中   ふつうは こういうもの が貼られます。 皮革表面に使用痕がさほど見られないことなどから見て,後補のものと思われるし,何しろ見た目が悪すぎる,これはとっぱらってしまいたい。

  皮も厚いし,さほどしっかりへっついてないようなので。刃物で四隅を持ち上げて,色んな方向から,少しづつはがし,そのあとを絞ったタオルで湿らせてふやかして,残った皮裏と糊のカスを刃物でしごいて取り除きました。 刃についたものから見て,ニカワでなく米糊の類でへっつけてあったようです。

■ ついでにヨゴレの状態の確認も兼ねて,表板の全体を第一次清掃。
  今回はヨゴレ,それほどヒドくないようですね。
  ペーパーがけと軽いエタノ拭き程度でかなりキレいになりました。   ('05.12.26)


 STEP3 側板の再接着と補強

  月琴の胴体は,基本的には表裏二枚の「面板」と,四枚の側板でできております。
  この側板は,まれに蟻継ぎなどで接合しているものもありますが,たいていはこの4号と同じように,互いの木口と木口とを,シンプルにニカワで接着してあるだけ
  だから,けっこう弱い。
  衝撃を加えるとカンタンに割れるし,年月がたって木材の伸縮がくりかえされるうち,ニカワ自体がボロボロに劣化して無くなってしまったりもします。

  今回の4号の接合部も,ニカワがついていた痕の染みがあるだけで,粉すら残っていないといったありさま。表裏の面板がしっかり接着されているおかげで,一見分かりませんが,ようするに現在,この月琴の胴体は側部は,繋がっていない,部材がバラバラの状態であるわけです。

側板接合部・作業中 ■ というわけで,まずは接合部の再接着から。

  接合部の表と裏から,隙間にちょっとゆるく溶いたニカワを流し込みます。
  つぎにニカワが隙間全体にゆきわたるよう,(コワれないていどに)部材をウニウニと動かします――ふう…なんとか。
側板再接着・作業中   ただ再接着するならこれだけでも良いでしょうが,さらに接合部の裏に和紙をはりつけて補強。薄くて丈夫な和紙を,目が交差するように二枚ばかり,接合部にニカワで重ね貼り。貼りおえたら上から筆で何度かなぞって紙をなじませ,空気を追い出します。
  紙をはるだけのことですが,この紙+ニカワが乾くときにぎゅッと縮むので,接合部が密着して,より強固に接着されたりもします。こういう曲面のもの同士の圧着は,クランプをいっぱい使っても難しいものなのですが,これをたかが二枚の紙切れがやってくれるわけで。 う~ん,経済的。
  また,何せ紙ですから,後の修理の時にも取り去りやすいかと。

  乾いたら,防湿と防虫(接合部のニカワを狙って虫が食いやすい),強化を兼ねて柿渋をなんどか塗り,ウルシ塗料を軽く刷いておきましょう。
■ 同時に表板のハガレてる部分も接着。

  …つか,実はこれ,後で別作業としてやるつもりだったんですが,部材をウニウニしているときに,ニカワがドバっと流れてしまいまして,もったいないのと,そのままだと中途半端なカタチでくっついてしまいそうなので,急遽,流れたニカワを筆でのばし,クランプではさみこんでくっつけてしまいました。 ケガの功名か,ニカワの量なんかちょうどよかったようです。


 STEP4 小さなことからコツコツと

表板・ナゾの穴ぽこ   細かいところをいろいろとやっておきましょう。

■ 表板のナゾの穴ぽこ埋め。
  虫食い穴にしてはずいぶん大きいが,節穴にしては小さい。(8×4mm)  穴の中には何かマユの切れ端のようなモノがひっかかっていましたが,それが犯人のものか,たんに後から穴に入り込んだものなのかはちょっと判かりません。穴自体はずいぶんすべらかなものです。
  ともあれ。端材入れから桐の切れ端をとりだして,ちょいと削り,ニカワをちょと塗って押し込み,余った部分をしんちょうにヤスリがけ。
  ちょっと色が違ってしまいましたが,もともと目摂(表板の飾り)が付くところなので,さほどには目立たないかと。


山口三面 ■ 山口さん取外し。
  目摂や柱はカンタンに外れたんですが,この山口だけビクともしません。 山口さんの周囲に筆で水を含ませて2時間,ようやく外れました。
  単なるカマボコの縦切り型ではなく,棹に接するあたりでキュッとすぼまっているところが,ちょっと洒落た形ですね。

山口取外除後・m(_ _)m ** あまりにガンコな取付けだったもので,外すとき刃物がオーバーラン(→)。指板をちょいと削ってしまいました m(_ _)mスマソ!オリジナルの匠様! めくれたところにニカワを塗って元にもどし,そっとペーパーがけをして平らにしておきました。後でベンガラ柿渋塗って,なんとか誤魔化せるでせう。


半月補強 ■ 半月底部の接着補強。

  半月の円周部分に,少しだけスキマができていました。半月自体にグラつきはなく,おそらくはその周辺のニカワの脱落によるものだと思われますが,力がかかる部分なので,念のため補強しておきましょう――と,いっても,スキマにニカワを流し込み,ぎゅっとおさえつけてやるだけです。楽器の工具なんかには,こういうことをする専用のクランプがあるのですが,¥100屋のふとん干し用巨大洗濯ばさみで代用。 力がいる場合はこれに太輪ゴムでもかければよろしいでしょう。



目摂・修理中 ■ 目摂の補修。

  ネズミがかじってエグレたところ,欠けたところを補修します――単純な欠損なら,木片を削ってハメたり埋めたりできるんですが,あまりに細かくて複雑で,とてもやってられません。
  そこで今回は,最近流行りの「木から作った」となん自然素材系パテを使ってみることとしました。主原料が微細な木の粉末。指物なんかで使う木屑漆(こくそうるし―オガクズを漆で練ったもの)の現代版といったとこでしょうか?
  右の方は被害が数箇所ですが,左の方はひどいですねー。下半分,ほとんどサイボーグ状態となってしまいました。こっちのが美味しかったのかな?
  乾いてから互いのモールドを参考に,ヤスリやアートナイフで整形。そのあとパテを盛ったあたりにベンガラを塗ります――木目に似せてヤスリ目を残しておくとか,綿棒でぬぐって,わざとムラにするとか… ┐(-_-)┌ フッ …誤魔化しばかり,上手いオトナになっちまったもんだ。


 STEP5 裏板再接着

裏板再接着   さて…この作業が終わったなら,もう半分直ったようなもの――いよいよ裏板をふたたびへっつけます! カンペキにへっついていたものを,ヘボが無理無理はがしたんで,あちこちスキマやらカケやらができてしまっておりますが,もう過去はふりかえりますまい。

■ 再接着。

  板,本体の接着面に,あらかじめ,ぬるま湯を含ませておきます。ついでニカワをハケでぬりたくり,クランプではさんでくっつける…言うは易いが行なうは難し,の実例ですね。
  ですが,今回はつぇえ新兵器「ドライヤー」サマがあります。
  最初に4~5箇所クランプでとめて,位置あわせをしておきます。
  つぎに残りのクランプ総動員で,ある部分を集中的にしめつけ,ニカワがぶじゅる,とあふれてきた加減を,ドライヤーでもって強制乾燥――あとは少しずつ位置をずらしながら,それをくりかえします。
  写真(上)はその作業,最後のあたり。
  写真(下)は作業終了――ふうぅ…ε- (~、~A) けっきょく3時間以上かかりました。
  クランプを均等に配置して,あとは一晩ぐらい放置プレイです。
  ドライヤー様のおかげもあって,誤差 0.2~0.3mm ってとこかなあ,上手くいったほうだとは思いますが,何度やってもぴったりきっちりにはなりませんわ。

糸倉補修 ■ 糸倉の補修。

  ちょうど裏向いてるし,しばらく動かせないんで,この間に糸倉の補修もしておきましょう。(→) 一番上が元の状態。ちょっと白っぽく見えるところが,ネズのカジ痕。
  糸倉の根元のところのがちょっとヒドかったですねー。下二枚,修理後。ヨク見ないとわからんでしょう――昨日の目摂の修理と同じやりかたです。


おまけ3・裏板の染み
裏板の染み   今回の作業やってて気がついたんですが,裏板のちょうど棹の真下あたりのところに,赤っぽい染みに囲まれた,四角い日焼け痕があります。(写真上)

  この部分には写真(下二枚)のような赤いお札がよく貼られています。こうした刷り物になっているのは作者や店の名前のようです。
  寸法や形から推して,たぶんこの月琴にも,これらと同じようなものがはられていたのでしょう。
  このお札にはほかにも,所有者があとで,漢詩の一節を書いてはりつけたものや,論語や易経などの本から,お好みの一節を切り抜いてはったものもありました。 この行為のもとが,どういう由来,動機によるものかは,今のところちょっと不明ですが,たぶんエレキなんかで,バンドのロゴとか,メーカーのシールとか貼りつけるやつ――あれと同じかもね。





おまけ4・裏板の書き込み
裏板墨書   ■ 裏板の補修中,楽器右肩あたりに見つけた墨書です。

  なんでしょうねえ?……カタカナで「フニ」「スニ」のように見えますが――何かの符号なのか,それとも誰かの名前なのか。内部の調べのとこでも述べたように,取り付けの目印や符号はぜんぶエンピツ書きでしたから,たぶん前所有者の書だと思いますが。
  裏板には,穴ぽこ埋めるほか,さほど手をかけません。これもまた,思い出といっしょに,そのままとっておくことといたしましょう。


 STEP6 ネズかじ補修

耗子喫了的 耗子喫了的・補修   北京の方言で,ネズミのことを「耗子(ハオツ)」と申します。清代の学者先生は「什器を齧って耗(へ)らす」から,そう言うのだと説明しておりますが,まさにその通りで。
  ただ,今回のネズちゅう痕(写真:棹左側/半月直下周縁部)。3号月琴にあった思い切りの良い齧り痕に比べると,とにかく浅く,細かい――ネズミの種類の違いでしょうかね?
  齧り痕に合わせて板を削り,はめこむのが常策なのですが,あまりに浅く,ちょー複雑なので,いくら細かい作業が好きとはいえ,ワタシの手には負えません。

  はじめは例の新素材パテで埋めてみたんですが(右図最上)。
  かなり目立っちゃいますねー。

■ んで,大きくて目だつ二箇所に,もう一手加えてみました。

  作業工程は右図2の通り。
  パテで埋めたところを,リューターで階段状に削りとり,表と木口面から桐板をニカワでへっつけるわけです。平面が多い分なんぼかカンタン,これならボクにも何とか出来そう。
  で,右写真下2枚。まあ,前よりははるかにマシかと。


 STEP7 修理再開

  さあ,修理を再開しましょう。
  裏板をつけて,あと少しで音だし,という段階でいるのに,もう半年近くものっぺらぼうでぶらさがっているなんて…この間,同じ頃にはじめた松音齋,おりょうさん,と修理は終わり。1号3号の改修,ずっと後の5号鶴壽堂でさえ,もう仕上げ段階に入っています。
  これじゃホントに放置プレイだ。

■ とりあえず,お飾りでも彫っておきましょうか?

  購入当初から,この4号には扇飾り――5・6フレット間にある飾り――が付いていませんでした。該当箇所に小さな染みはありましたが,ニカワの痕とも,部品がついていたことによる日焼け痕とも言えないようなかすかなものでしかありません。
  もしかすると,この月琴にはもともと付いていなかったか,あるいはかなり以前に脱落してしまっていたのではないかと思われます。
  まあ,無ければ無いで何だかサミシイ気もしますので,修理再開のふんぎり記念として,ちょっと凝ったのを作ることといたしましょう。

扇飾り製作
  絵柄はコウモリさん。
  前にも書きましたが,これが丸い物体に付くと「福在眼前(シアワセは目の前!)」というお目出度い意味になります。コウモリ(蝙蝠・ピェンフー)の「蝠」が「福」,月琴の丸い胴体をお金(眼銭=眼前)に見立てているわけですね。
  明治時代の国産月琴ではシルエットは似てるんですが,コウモリじゃなく,真ん中で束ねられた唐草のような帯の文様になっているものも多く見かけます。これは真ん中の部分が「まんじ」で,帯だから「萬代(=萬帯)」という意匠の一種だと思います。2号と鶴壽堂には,ほとんど同じこの型の扇飾りが付いていました。蓮頭の意匠をコウモリにして,ここをただの花唐草文様にしている例もけっこうあります(松音齋などがそう)。

  今回は,この二つのポピュラーな意匠を混ぜちゃいましょ。

  お手本は2号のオリジナルお飾り(萬代模様,下段新作の左手に見えてる)。これの大きさ,外枠の輪郭と,文様のシルエットを参考に,中身をコウモリにしちゃいました。

  材はアガチス。
  板に絵柄を書き,透かし彫る部分にドリルでいくつも穴をあけ,アートナイフや切り出しで広げてゆきます。 模様の輪郭をリューターで彫ったら,外側を切り出し,さらに細部を修正。 このとき裏に和紙を張っておくと,細かいところが壊れにくくなって作業がしやすい。
  最後に柿渋+ベンガラを塗ったくります。
  今回は左右の目摂に色を合わせて,ちょっと赤っぽく仕上げてみました。


 STEP8 苦難のヒビ

  暮れに届いて,1月に修理をはじめ,月のうちに本体の修理は終わっていたのに…そのアトがいけません。そもそもの間違いは,この月琴の表面に塗ってあった塗料を,ウルシの質の悪いもの,と決め付けたところ。

  日本リノキシンさんによれば,明治時代,漆器の需要が急激に増えたころ,ウルシの色に似せた「偽ウルシ」,一種のオイルニスがさかんに使われていたらしいんですが…4号のあの赤茶色の塗料は,どうやらそれであったようです。

  とまれ,じっさい棹と側板は,塗装表面の保存状態がかなり悪くて,クリーニングだけではどうにもならず,塗りなおしが必要ではあったのですが――

1)1月 下地のベンガラ塗り失敗。思ったような発色が出ず,木がうまく染まらない。
2)2月~3月 塗装に本ウルシを使用。全身カブれて断念。
3)4月 オイルヴァーニッシュ試用,紫外線硬化のため外干ししたところ,表板にヒビが入り断念。

  というような大小の失敗をくりかえし,あーでもない,こーでもない,と色んな塗料やら顔料やらを塗っては剥がし,塗っては削り取り――楽器にずいぶんと可哀想なことをしてしまいました――反省。
  とりあえず木部をキレイにしておいて,下地にシェラックニスを塗り,5月に入ってようやくふんぎりがついて,トップコートに現代版「ニセ漆」として名高いカシューを使用することに。そこに到るまで,いろんなサイトを覗き,楽器に使用する塗料について勉強させていただきました。ほんとーに,ありがたい時代になったものです。

塗り工程
■ 塗装工程

  一番上が下地の状態。シェラックニスをさらに数度塗り重ね,中塗りまでしてあります。二番目,カシュー塗り第一段階。なるべく薄い塗膜で色に深みをだしたかったので,ゆるく溶いたカシューを塗っては磨き,塗っては磨き。三番目の色合いになるまでまで,7度ほど塗り重ねました。

塗り工程2   色具合が頃合になったところで一週間ほどおき,塗膜をよ~く乾燥させてから,木部全体を#2000の耐水ペーパーで水砥ぎし,塗装の凸凹を均します。
  (←)ツヤ消し状態になりました。
  これを研磨剤をつけた布キレで磨いて,塗装作業終了!
  磨いたんですから塗膜は薄くなったはずなんですが,塗りっぱなしでテラテラしていたときより,かえって色濃く見えるような気がします。


■ 仕上げ作業

フレット   今回のフレットは,オリジナルの煤竹のフレットの色合いに近い,紫檀と象牙のコンパチにしました。3号と同じです。
  オリジナルも参考に高さを設定しましたが,全体にかなり低めですねー。
  四角い細棒状に切った紫檀に,これまた細棒に切った象牙をニカワ付けし,チューナーで位置を決め,高さを調節して整形。シェラックニスを塗って,一日おいてから磨き,最後にもう一度チューナーで測りながら位置を修正し,ニカワで貼り付けます。

  お飾りを貼り付け,内絃を張って糸溝を切り,6月15日,ついに修理完了いたしました!


修理後・所感

4号修理完了!
●製作時期等について
  確証はないが明治末期の月琴と思われる。
  明治以降の作であることは,例によって内部に残る目印等がエンピツ書なところからも知れる。サイズ的には江戸期からあった小~中型月琴の寸法をほぼ踏襲しているが,棹がやや長く細身なこと,山口側に向かってすぼんだ糸倉側面の形状,軸の細さといった形体上の特徴は1号・5号に近く,また表面に塗られていた粗製な「偽ウルシ」の流行時期などから考えても,古作ではないことは確かである。

●工作等について
  棹基部に書名らしきものが残るが,裏板のラベル等脱落のため,工房・職人名は不明。内部桁の工作にややアラがあるところから,簡単な部品を作る手伝いていどの者がほかにいたかもしれないが,本体の加工には統一性があり,部材の加工から組上げまで,ほぼ一人の手によるものと思われる。工作技術は高い。
  保存状態からきたイタミはあったものの,材どりからニカワづけ,糸倉や棹基部の流麗な加工…ともにいままで手がけた月琴の中でも,その工作精度は極めて高く,また美しい。
  はっきり言って,この作者にはかないません。まったくムリ。

●保存状態・以前の修理等について
  全体にやや華奢に見えるが,造り自体はしっかりとしており,演奏可能な楽器として作られたものであることは間違いない。だが,面板上に使用痕らしいキズがほとんど見当たらず,また山口に糸溝が刻まれていなかったことなどから考えて,おもに「お飾り」として使われ,実際に音楽演奏に使われたことはほとんどなかったものと思われる。
  本体に修理の形跡はない。絃停のみ後補の部品であるが,その材質や加工などから考え,これも「演奏のために」付け直されたものではなく,カタチだけのものであっただろう。

** 器体オリジナルの工作は素晴らしいものであったのに,このヘボちんがあちこちいぢくりまわし,本筋の修理とは関係のない,実験的作業・余計なこともイロイロとしてしまっているため,その影響が今後どのように出るのか,今のところそれがイチバン心配である。

● 操作性について
  馴れの問題もあるだろうが,器体がきわめて軽いため,現状少しバランスがとりにくい
  小型月琴では,わたしのように立てて弾くと,演奏中に一番下の軸に左手の甲が触れてしまうことがママあるのだが,この月琴は棹も糸倉も長く,軸も深い位置にあるため,それがあまりない。この点は有難い。
  棹の太さ・形状については好みだが,ふだん弾いている1号によく似ているため,わたしの場合は問題はない――てか,好みのタイプ。
  響き線の加工が良いのか,かなり揺すってもノイズは出にくい。
  フレットが低いので連続音は出しやすいが,やや音が浅くなりがちなので,伸びる音が必要なときには,糸を少し深くおさえこむ必要がある。

● 音色について
  フレット工作のため,単絃で弾いていた時には,さほど大した音でないと感じたのだが,複絃にしてみるとけっこう大きな音が出ている。5号ほどではぜんぜんないが,1号・3号よりは大きい。
  響き線は低音側でより効きが良く,重く太い音が出る一方,高音側はやや弱く,どちらかというとサスティンの浅い,軽やかな音である。   このため音のバランスに少し考慮して演奏する必要がある。また,フレット高の影響もあり,音の伸び・深みの点ではやや物足りなさを感じる。さらに音が短いわりには,響き線の効果が強すぎるのか,強く弾くとドライヴのかかりすぎたような,多少耳の奥にイタい残響がある。
  総じて言うと,月琴としての音色自体は,鶴壽堂や松音齋に比されるようなものではない。音は華やかではあるが軽く,しっとりとした曲にはあまり向かない。
  だが,低音・高音を混ぜ弾いたり,高音絃でのメロディ弾きの合間に低音開放絃を積極的に入れるなどした場合は,音色の差が逆に良い効果となるなど,実際の演奏においては意外と個性的で面白い。



  (追加事項 06.06.20)   わーい完成だ~。
――ということでさっそくその週末,近所の公園へテストを兼ねて出かけ,一日弾きまくってました。音は軽いですが,外で聞くにはなかなか面白い響き。弾き心地は悪くなかったです。
  お池のそばで夕方まで弾いて,いい気持ちで帰ってからふと気がつくと,山口がこう,グニャっと…斜め15度くらいにズレてました。
  原因はカシュー塗装のツルツルの上からニカワ付けしたこと。接着後一週間は経ってたんですが,木部に染みこめなかった接着部は,完全に固化できないまま層になっていて,外での気温や湿度でユルんだようです。
  力のかかる部分なもので,山口さんはズレるついでに周囲の塗膜を道連れ,あたりはシワやらヒビやら,地すべりの崖面みたいにされてしまいました。

――泣くもんか!

  てわけで,まずはズレちゃった山口を取り除き,山口の載る部分の塗装を木地まではがしてから,周囲の塗装のハガレを除き凸凹を均して,山口を再接着,まわりを再塗装。
  用心のため今日まで置いて,糸を張ってみたんですが。
  今度は大丈夫なようです。
  ああ…また酷い目にあわせちゃったよ。

3号月琴

MOONH07.txt
斗酒庵 小さな月琴を直す 之巻2005.5月~ 明清楽月琴(3号)

つい,デキゴコロで…

  去年暮れからの2号の修理,花咲いてとつぜんの1号の再修理も終わり,やれやれ,もうしばらく修理は御免だ…と,思っていた矢先。
  ついデキゴコロで,また一面,壊れ月琴を入手してしまいました。
  もはやこれは業かタタリか…今年はどうやら月琴の修理から逃れられぬが,サダメかな。

修理前所見
おもてうら
  ○ 寸法:全長 約620mm 胴面の直径 約350mm 厚さ 40mm (表裏面板 約6mm) 棹長 270mm 。
  ** 大きさとしては1号,2号よりは中国月琴(古)に近い。

  ○ 胴・棹:材質は檀木の類にあらず,桑とかクルミのあたりではないかと思われる。
  ** 桑よりは軽く感じるので,クルミかな? それともこれがウワサの「沢栗」――古書にはそういうので作る,と書いてあるものがありました――というものなのかもしれない。

  ○ 飾りの類は蓮頭を除いてすべて脱落,欠損。
  ** 接着痕もほとんど残っていないため,もともと付いていたかどうかさえ不明。

半月
  ○ 半月:丈低く(高 10mm),木の葉を半分に切った横長の形。
  ** 現存する明清楽月琴ではあまり見ませんね,ここまで横に長いのは…サイズがやや小さいですが,現在の中国月琴の半月の形に良く似ています。

  ** 明清楽月琴ではよく,糸穴が削れて大きくならないように,薄い象牙の輪がうめこんであったりしますが,それもありません。 糸穴が明清楽月琴で多い「V」字型でなく,現在の中国月琴で一般的な「ハ」の字型になってるのもはじめてですね。 ただ良く見ると,この糸穴は垂直ではなく,上から斜め前方に傾けて穿たれています。 糸を通しやすくするための細かな気遣い,というか工夫のようですが,明清楽月琴でも中国月琴でも,ちょいと見たことのない工作です。


蓮頭がわよりフレットを望む
  ○ フレット:一部残存。煤竹製と思われる。
  ** 竹のフレットは,現代の中国月琴でも,もっともポピュラーなものであるが,明清楽月琴のものは,工作が多少違っている。
   通常は肉厚の竹から,下図左のように切り出し,糸の触れる部分のみに皮を残したものが多いが,今回の月琴のフレットは右のように切り出し,左写真のように楽器のてっぺん,蓮頭側に皮面を向けて取り付けられている。
   断面を三角形になるように削りだす手間から考えれば,こちらのほうが容易いかもしれないが,かといって手抜きではないようで。竹の質も良く選ばれており,工作は精緻である。


フレット・図解

蓮頭・糸倉・軸・棹
  ○ 棹:山口(ナット)を置くところ右に小カケ。
  ** たいしたキズではなし。1・2号と違って指板が貼られていません。
    指板にあたる部分の長さ:143mm
    糸倉:長 140mm 深さ 56mm
  糸倉のカーブは馬橇のようでやや無骨ですが,ネック部分には,下部と左右わずかにアールがついていて,なかなか美しい。


  ○ 糸倉・軸穴:ともに損傷なし。
  ** 糸倉は全部削り出しではなく,二股に切り出し,てっぺんに別木をはさみこんだ寄木形式

  ○ 軸:オリジナルのものが3本残存。
  ** 1本は折れて軸先のみ糸倉に残るものの,ともかく軸が残っていたのは初めて。材質は胴材と同じか,もっと軽い木で,表面におそらく柿渋やベンガラを塗って染めてあるもよう。

  ** 軸と半月に,古い糸の切れ端が残っていました。白い絹製のもの。
  わたしはふだん,三味線の長唄用の黄色い絹絃を使っていますが,以前,某楽器博物館で見せていただいた,むかし京都で販売していたという月琴用の糸が,ちょうどこんな感じでした。


  ○ 蓮頭:オリジナル。中央に円形刻書。
  ** 檜材と思われる。全体を赤っぽく染め(おそらく柿渋),表面に黒で彩色。2号のもの(紫檀製・オリジナル)と比べるとやや大きく,厚みもある。

  ** 刻まれている字はたぶん「壽」。刀跡が多少たどたどしい。


内部構造(裏面から)
  ○ 内部構造:側板四枚,木口で接合。
  ** 胴材の最大厚は 約1.5cm もっとも薄いところで約6mm。 厚みは一定していないが,切り出しの鋸痕はかなり緻密であり,ニカワ付けも上手く,工作は良い。

  ○ 内部構造2:一本桁。
  ** 円の中央に一本桁をわたしただけの構造は,この手の小型の月琴には多いものだが,工作が,両端からV字の切れ込みを入れたものである点が多少珍しい(下にて詳述す)。材質は松(これはニオイで確実)*1

  *1 その後,音楽知り合いの大工の親方に鑑定してもらったところ,「てめぇ,マツとヒノキも嗅ぎ分けられねぇのかよ」とワロられてまいました。( ´,_ゝ`)  ×マツ→○ヒノキ。 (06.02)

  ○ 響き線:2本,直線。
  ** わずかに高さを違えて,半月の手前あたりで,触れないまま,交差するようにとりつけられている。鋼線は左右胴材の内側に埋め込まれ,根元に釘を打ち込んで留めてある。

  ○ 内部構造3:棹基部,はさみこみ型,クサビうち。
  ** 棹材の基部は巾 23mm 長 45mm 厚 14mm。 横から見て先から 35mm ほどのところまで,かなり鋭角なV字型に切って,別材をはさみこむように継いでいる。 継いでいるのはたぶん杉だと思うが,かなり目が詰まったもの。 側板のほぞのところにクサビとして別材の板がはさみこまれている。 桁との接合部手前に,垂れた痕があるくらいで,接合部分各所には,やや多めのニカワがたっぷりと塗られ,かなり頑丈に固定されている。

観察結果・修理予定

響き線根元・釘
  1.内部に墨を使った下書きや,線が見受けられること。
  2.「響き線」をとめている釘が四角釘(右写真)。
  3.木部の劣化・乾燥具合。

――などから考えて,もしかするとお江戸の時代…少なくとも明治初くらいの,かなり古い作なのではないかと思われます。

  とにかく汚れてはいますが,全体に見て,さほどヒドい破損箇所というようなものは今のところ見られません。キタなくてよければ,このままでフレットをたてて,糸を張れば,いちおう音は出るでしょう。

  まあ,「音楽」する,となると,そういうわけにもいきませんので。

  修理の必要ある箇所は以下の通り――

  1.側板(表から見て)左肩部接合部にハガレ。対角線上の右下接合部かんぜんにハガレ。
  2.右下接合部より左方向へ表板ハガレ,部材の4/5,長さにして20cm ほどまでに達する。
  3.内部桁(棹側から見た面の)左上腕部分,折れ。 材質,工作悪し。要再製作・交換。
  4.響き線,サビあるも軽度。(サビとり,油拭きで再生するものと思われる。)
  5.表板右と左下にネズミにカジられたあと。やや深し。
  6.表板,側板に虫食い穴,十数個。直径はいづれも1mmほど,いづれも軽症。
  7.蓮頭:左上部にカケ。わずか。

仕切り板
  ヤマはこの部品だけですね。まんなかの桁,仕切り板です。

  もともと何かの端材を切ってこさえたものらしく,表裏で色が違ってたりします。内部の観察から考えても,表のヨゴレはこの月琴の中でついたものではなく,もともとこの板についていたもの。色とかからすると,戸外に長年さらされてついたような感じなので,戸板か壁の羽目板,もしかするとドブ板みたいなものの切れ端なのかもしれません。


仕切り板・損傷箇所
  裏板をひっぺがすとき,カンタンに折れてしまいました。
  それもそのはずで,この腕の根元部分,上下にちょうど節がわたって,スカスカになっております。これじゃあもともと強度はないも同然…ぷんすかヽ(*`Д´)ノ。
  写真でもお分かりになれましょうが,鋸目が完全にオーバーラン。単に切り目を左右4本入れて,真ん中部分を引きちぎったみたいで,工作はたいへんに雑です。

内部構造・1号   左は1号月琴の仕切り板,ふつうはこんなふうに,棹を固定するほぞ穴をはさんで,左右に楕円形の穴を穿っているものが多いです。
  1号,2号の場合は,胴体内部のせまい空間いっぱいに,音を響かせようという工作と思われますが,以前見た私設楽器博物館所蔵の一面では,楽器の肩の裏側から伸びた響き線が,この穴をくぐり,半月の下まで通っており,穴はハリガネのある側,片方だけしか空いていません。

  この穴の実際の効果というものも,ちょっと計測したことがありませんし,まだ多少実見不足なため分かりませんが,ほんらい音響のためだった,とは断言できない面もあるようです。


修理開始!
5月31日
○糸巻き製作。
  本体にあまり重傷なところがないので,今回はけっこう気楽にいきま~す。

  一本だけなくなっている糸巻きをこさえます。
  ほか3本のオリジナルの軸は材質不明。何か軽くて赤っぽい色の木で作られており,表面には塗装が施されています。最初のクリーニングのとき,水に続いてエタノで拭いたところ,ちょっと表面がベタつきましたから,ウルシ塗りなどではなく,おそらくはベンガラ柿渋塗りの油仕上げなんだと思います。

  今回の材料はハンズの端材のコーナーでてきとうに買った角材(* クスらしい)。
  色合いは異なりますが,手で持ってみて,オリジナルと同じくらいの比重の木を探してみました。
  本物をお手本に,切り出しと鬼目やすりで,とにかく削って,削って,削って…形ができたら(上),柿渋&ベンガラで塗装(下)。


6月1日
○側板・表板のハガレ箇所接着。
  続いては胴体の補修をします。
  表板の左肩とその対角線の右下の接合部がハガレ,右下の接合部周辺では表板も浮いていました。接合部の木口を極少量の水でゆっくり湿らせ,カッターの刃や厚紙を使って,古いニカワをだいたい掻きだし,新たにニカワで貼りつけ,クランプで締めて固定しときます。

○裏板の補修。
6月3日・全景   つぎに,裏板のウラの補修をしておきます。
  オモテからはあまり見えないんですが,ニカワのついてた接着部を中心に,虫が食い荒らしていて,あちこちミゾが出来てたり,デコボコになっています。このままだと貼りなおしたときに隙間ができるので,深くて大きいのには,桐の端材を刻んではめ込み,浅いものは砥粉とニカワと,虫除けに柿渋を混ぜたパテみたいなものを作って埋め,乾いてから平らに削りました。


6月3日・接合部の補強

○接合部の補強。
  側板の接合部分は,古い月琴のいちばんの弱点。
  まれに蟻組やホゾを切って,しっかり組んであることもありますが,高級なものでも2号のように表を薄板で覆ったり,接合部分を隠すように彫刻の付いた飾り板を渡したり(下写真参照)などで補強してあるだけ,多くの月琴では,部材の木口同士をニカワで接着しているだけなので,木部の狂いやニカワの劣化,衝撃などでけっこう簡単に割れたりはがれたりしてしまいます。
月琴接合部・飾り板による補強の例
  さらに,月琴の側板は,均一な板を蒸気で曲げるなどして整形したものではなく,角材からムリムリ曲面を切り出したもので,外見的にはきれいな円になっていても,裏板はがしてみると,写真のように部材同士の厚さが極端に違っていたりプラモデルのバリみたいな切り残しがそのままになっていたりしていることが多多あるようです。

  今回の月琴,木部自体はたいした狂いもなく,しっかりしているので,1号のように裏からクサビをうつなどしなくても,ニカワの劣化によってハガれたらしいこの2箇所を,ただ再接着するだけでヨサゲなのですが,古いものなので,せめて補強を加えておきたいと思います。
  まずは接合部にニカワで和紙を重ね貼り。
  この和紙はあらかじめ,目を交差させた2枚をノリで貼り合わせ,水につけて揉んで,繊維をからませておいたもの。こうすると一定方向に切れたりしないので,紙とはいえかなり強いですよ。今回はさらに上から柿渋で強化してあります。



6月3日~棹ほぞ
○棹のホゾ穴補修
  胴体に棹をさしこむ穴の加工が悪く,付け根のところの左右に大きなスキマができてしまいます。オリジナルでは,小さな木片をテキトウにただ詰め込んでありましたが,もうちょっとちゃんと誤魔化しときましょう。
  まずはスキマのできる部分をヤスリで削って,三角やら四角やらっぽく形を整えます。それにあわせて木片を削り,ニカワをつけてはめこみます。(写真上)
  くっついたらつぎに,ミゾを彫ったり削ったりして,棹がするり・ぴったりと入るよう,微調整。 (写真下)
  さらに,棹をはずしてみたところ,表板の棹のあたっていた部分が虫食いでガタガタになっていたので,ついでにここも補修しときます。 最初は砥粉とニカワのパテで埋めてみたんですがどうも上手くいかず,けっきょく桐の板を薄く削って貼り付けてみました。



6月7日~仕切り板 ○仕切り板の再製作
  さて,今回修理のヤマと予測した「仕切り板」の再製作に入ります。

  写真イチバン上がオリジナル。
  次が最初に作った仕切り板。 ハンズで買ったヒノキの端材から,オリジナルをお手本に,ぴったり寸法を合わせて作り出したんですが,イザ組んでみると,スキマがあいたり,棹が曲がったり(わたしのせいじゃないですよ! お手本の工作が悪いんです!)

  そこで次(写真いちばん下)は端材じゃなく,キチンと切ってあるヒノキの板材で作りました。 厚さ 9mm と,オリジナルより 2mm ばかり厚くなりましたが(たんに 7mm まで削るのがメンドウだっただけ),中心の棹穴からV字ミゾまでの寸法を縮めて,さらに切込みを少しだけU字っぽくして,音の通る穴を広げてあります。
  この変更による音響的な効果・変化のほどは不明なれど,組上げの精度や強度は問題なしかと。



蓮頭
○蓮頭 再製作
  上写真・黒いのがオリジナルの部品。材質不明。染め色が多少違うものの,たぶん軸と同じ素材ではないでしょうか。
  左上のところがカケていますが,さほどたいしたキズでなし,これを補修して使ってもいいんでしょうが,表面の黒い塗料(ウルシ,のように見えるのだけど…もしかすると黒ベンガラか,ただの墨の類かも)が風化していて,ウカツに手を出すと思わぬ大工事になりそうなので,いッそ新しく作ってしまいます。
  仕切り板をこさえたのと同じ,ヒノキの端材の板に原型を押し当てて型をとり,糸ノコで大体のカタチを切り出したら,あとはヤスリで,ひたすらしこしこしこ…

  オリジナルと同じ「壽」でも良かったのでしょうが,そこはヘボとはいえ蔵太滿。 とわいえ透かし彫りするまでの根性はないので,あさーくお目出度絵柄を彫り付けました――真ん中に「樂」の字,まわりに五匹のコウモリさん。「五福擁樂」の圖――「楽器」の「樂」だし,いいよね?
  柿渋塗って木地固め,リューターで絵柄を粗く仕上げたら,ベンガラをベッタリ。乾いたら彫りをナイフでシャープに仕上げ,も一度ベンガラ塗り。 最後に上からウルシを塗って仕上げます。


継ぎ目1

○各部組上げ

  棹と仕切り板を組み付け,和紙を貼って補強した側板接合部にウルシを塗って,さらなる補強と防湿を図ります。

欠損部(購入当初) 欠損部(修理後)
○表板の補修
  表板の欠損部,左は購入当初の状態,右は修理後。
  上二つは,ネズちゅうのカジった痕,下は虫食い痕です。 表板では,この三箇所がいちばん大きなキズの類でした。
  ネズミの歯痕は最初から見えてたんですが,虫食い穴のほうは修理中あちこちコスってるうち,薄皮が破けて発見されたもの。
  基本的には切り出しやアートナイフで,虫食い痕のボロボロになってる部分を削って整形し,だいたい同じカタチに刻んだ桐の板にニカワを塗ってはめこみ,ヤスリや紙やすりでもってならすだけです。
  3号月琴の桐板は,厚さが5~6mmくらい(1・2号は3mm 前後)ありますので,ちょっとやそっと削ったぐらいじゃアナもあきませんので,気がラク――とはいえ,あまり上手にいきませんでしたが…まあ,このあと表面処理しているうちにだんだん目立たなくなってゆくだろうし,弾くには問題ないかと。

裏板 ○裏板 再接着
  裏板を胴体にふたたびへっつけます。
  オリジナルの状態が良いので,今回はこれをそのまま使うことに。とわいえ,力のかけにくい円形なうえに,クランプ不足なので,ニカワを塗ってはしめつけ…円周の1/4づつ作業してゆき,つごう二日もかかりました。
  また,イチから貼りなおすときには,大きめに切ったのを貼り付けてから,縁辺をきっちりと処理できるのですが,付け直しだとどうしてもズレちゃいます。やっぱりうまくいきませんねえ。一部にちょい段差が生じてしまいました。




○ヤシャブシ染め~仕上げ!

  当初,とにかくヨゴれていたので,修理の作業中もずっと,表板を水やらエタノやらで拭いていたのですが。 真っ黒くこびりついたホコリやら煤やらがとれたあと,調子に乗って磨いていたら,そのうち布が黄土色に染まって,色が薄くなってきました。
  これはこの桐板が「ヤシャブシ」で染められていた証拠。
  お色直しと補修部分を目立たなくするために,今回はこれにチャレンジ!

ヤシャブシ   ** ヤシャブシはカバノキの仲間。「矢車」とも「夜叉」とも書き,植物系HPをめぐると,実がでこぼこしてるのが夜叉みたい(牧野富太郎説が引源らしい)だとか,ギザギザのある葉っぱが矢車みたいだとか,語源説がいくつかあるようですが,中村浩先生は『植物名の由来』(東書選書)の中で,「濃く染める」ことを意味する古語の「ヤシホ」の「ヤシホブシ」が訛って「ヤシャブシ」になったんだ,と言うておられる。つまりそのくらい染料としては有名な植物で,皮でも葉でも染まるそうですが,マツボックリを小さくしたような実が染料としては一般的。「ヤシャダマ」と呼ばれております。染料としては布の草木染のほか,桐ダンスの仕上げ根付など細工物の古色づけにも使われておるようですが,ドライフラワーやリースの装飾用として,そういったアクセサリー屋さんなどにおいてあることもあるようです。

  さすがハンズ…こんなものまで置いてあるとわ!

  下にあるのが原料のヤシャダマ。金製のナベだと,煎じ液が金属と反応して色が変わってしまうそうなので,耐熱ガラスの小鍋でぐつぐつと煎じました。汁の濃さは表板と同じ桐板のハギレにちょと塗って,色具合を確かめながら決めるのが良いようです。出来た汁をハケで手早く塗ります。つけすぎるとムラになったり,板がイタんだりしますのでご注意。


ヤシャブシ染め2
  写真ははじめの1回目で液のみの塗布の状態ですが,一度の塗りで見事な金茶色…天然染料とはいえあなどれないなあ。
  中国月琴(旧・ナゾ月琴)の表面の色とほとんど同じです。

  このあと乾いてから,ヤシャブシに砥粉を溶いたものを塗り,#230のペーパーがけ,いったんほとんど落としちゃってから,もう一度同じものを塗り,カルナバ蝋の粉にしたのを振りかけながら#600くらいのペーパーでこすって仕上げました。

○修理完了!!
8月1日・修理完了!
  胴体と棹は,磨いたあと荏油を少しづつ重ね塗ってオイルフィニッシュ,カルナバ蝋で磨いて仕上げました。
  塗った当初はかなりビターなチョコレート色でしたが,その後乾燥するにつれて,濃い金茶色に。
  う~む,まだ何の木だか分かりません。

  新しく作った蓮頭を付け,フレットを立てて(もとが煤竹なので,今回は色の近い紫檀と象牙のコンパチで作りました),8月1日,修理完了いたしました!
糸倉アップ
○ 蓮頭には1号,2号のお飾りでも紹介した ベンガラ→茶うるし→黒ウルシ→ベンガラ+砥粉で磨き→拭きウルシ という古色付け塗装をしてあります。

○ 今回は山口(ナット)を3つばかり試作いたしました。
  けっきょく取り付けたのは,どちらかというとフツーのカマボコ型のものですが,高音外弦の軸位置の関係で,これ以上低くしたり薄くしたりすると,糸が糸倉に触れてしまい,ヨロシクないようです。

○  オリジナルのナットの大きさやフレットの位置は,ケガキでつけた印が残っていたため,推測せずとも良かったのですが,チューナーを使って音を確かめながら立ててみると,第1フレット(d/a)と最高音の第8フレットで約5mm ,第2フレットはもとのしるしから2cm近くもズレてしまいました。
  でもまあ,これはいつものことなので,むかしはチューナーなんてなかったし,音階も西洋音階ってわけではなかったのですから。(^_^;)

○  例の2本交差の響き弦が,どうもうまく鳴っていないような気がするので,微調整をするため,今のところ棹をニカワで接着していません。そのため,音に多少の甘さがあるかな? と。
  「微調整」は棹をはずした穴から,菜箸をつっこんで,響き弦を押したりひっこめたりして行っています。(2005.8.3 現在)


修理後感想!
大きさ比較
  汚れはヒドかったものの,重傷箇所はなく比較的ラクな修理でした。
  第4フレットが胴体上にある小型の月琴は,博物館や資料館の所蔵物としては見たことはありましたが,実際に修理するのははじめて。ちょっとワクワクしながらの作業でした。
  楽しかったですねえ。

  ちなみに大型の1号月琴とくらべると,大きさはこのくらい(左参照)違います。

3号UP
  ○ 修理が終わり,糸を張って,実際に弾いてみて,まず気がついたのは,高音2本の「糸間がすごく狭い」ということ――3mm ないですね。
  ちょっと狭すぎて,指の腹がうまく糸の間にはさまらず,ややチョーキングがしにくいようです。

  ただ,糸を張ってみると,高音と低音の糸間がびみょーに違っていることが分かります。 低音2本の糸間は,高音ほどせまくない。低音糸は太いですからね,演奏する時のことを考えれば,たしかにこのほうが理にあう。調べてみると,一見左右対称な半月(テールピース)の穴の配置が,よーくみると微妙に変えてあるのですね――こんなとこにも匠のワザ!

  ○ つぎに「弦圧が高い」ということ。
  小型の月琴なので,弦長が短いせいもありましょうが…ハンマリングの音が出にくいのと,高音域が多少押さえにくいです。 そのかわり,音色はやや堅めの,メリハリある音が出ます。

演奏比較   ○ つぎが演奏ポジションの問題です。
  1号月琴の場合,わたしは楽器をほとんど琵琶のように立てて弾いています(左写真)。胴体の大きな1号月琴では,この恰好でないと高音域のフレットまで確実におさえることが出来ないからなのですが,3号月琴で同じように立てて弾くと,低音域を弾いているときに,左手の甲が糸巻きにぶつかってしまいます。
  これは2号月琴と同じで,一番下の軸が,1号月琴にくらべるとかなり手前というか下の方に取りつけられているためです。

  現代の中国月琴は,かなり横に倒して弾きますし,明治時代の絵などでもときどき,月琴を横抱きで弾いているように描いているものを見ますが,この月琴もギターほどではないにせよ,寝かせたほうが弾きやすい――というか,横に倒さないとうまく弾けません。
  この3号月琴の場合は胴体が小さいため,この横弾きのポジションでも,楽器をホールドする体勢を崩さず,ムリなく高音域まで指を安全に伸ばすことができます。

  これが軸が糸倉に対して垂直にささっているものと,三味線のようにやや斜め,末広がりになるようにささっているもの(上掲写真参照)――たんに楽器の構造からくる違いなのか,あるいは小型月琴の類は全部こうなのか。またこの縦抱き,横抱きに,何か演奏する楽曲の違い,あるいは流派の違いのような理由があったのかなど。こういうとこが,絶えてしまった楽派なので,なかなか分かりません。
  鋭意調査中。


○その後の微調整 05.AUG~
1.1~5柱(フレット)までを削りなおし。
  かなり急いで作ったもので…高すぎてたり,左右に傾いていたりしてたのを,削ったり,平らにしたりでバランス良く調整。

2.山口さん(ナット)を3mm 以上削りました。
  この2つの作業にて全体に弦高が低くなったため,弦圧が高かったのと,ハンマリングが効きにくかったのが,いくぶん改善。メロウな音もなんぼか出せるように。

3.上の作業をしたらこんどは,高音内弦の開放音で,みょーにスサマじいビビりが発生,これはナットにつける糸筋のヤスリ目が,わずかに2重になっていたためと判明。ちょと削りなおして1本にしたところ直りました。高さわずか 0.0ウンミリ,長 0.5ミリのでっぱりが…やっぱり楽器ってタイヘンですなあ。



○余話―お飾りがない!
  この修理報告をはじめた最初のころから,「もしかしたら…」と言ってたことなんですが――終わってみてハッキリしました――やっぱり付いていなかったようです。

目摂   古い月琴の表板の左右には,菊や鳳凰を象った「目摂」という装飾が付いています。
  とくにこのくらいの小型月琴では,はじめから演奏用というより,お目出度い「装飾用」楽器として造られたものも多く,目摂だけでなく表板の中心や柱の間などにも,象牙やメノウや玉などで出来たさまざまな飾りが付いていたりします。

  こうした飾りは一般に,すでに取れてなくなってしまっていても,ニカワの接着痕や飾りによる押捺痕,もしくは長年ついていたことによる,日焼け痕 (というか「焼け残し痕」) のようなものがかならず残っています。 あちこちヨゴレが残っていた当初は,「そのうち何か,カタチになって出てくるだろう」と思っていたんですが,終わってみると 表板ほぼ,まんべんなくキレイになってしまいました。
   お飾りのものらしい,ニカワ痕も押捺痕もぜんぜん見えません。
  フレット位置の目安のケガキ線やその接着痕は,とれてしまっているもののも含めてしっかりと残ってるのですから,これは この月琴にはそうした装飾が「はじめから付いてなかった」 と推測するのが妥当かと。

  月琴にこうした彫刻装飾をつけるといった習慣は,現在の中国月琴では,ほとんど見られなくなっています。祝儀用の引き出物などとして,特別に作られる装飾用月琴の類をのぞけば,少数民族の月琴でも,実際に使用するものではペイントが主流で,まず見られません。
  まあフレット間にある飾りなどで平面的でないものは,演奏する時には邪魔なだけのシロモノなのですが,「まったくナイ」というのも,日本の月琴ではあまり見たことがありません。
  最低でも「目摂」は付いていることが多いですねえ。
  これが日本の月琴で,はじめから付いてなかったとするなら,わたしとしては,それもはじめてのことですね。


○余話2―「蓮頭」について
  2号月琴の蓮頭(オリジナル)は,何も装飾のない紫檀の薄い板(厚約5mm)だったのですが,今回の月琴についていたものは,厚さが 1cm 近くありました。
  こうした小型の月琴の蓮頭はだいたい同じような厚さですね。あまり薄いのは見かけません。
   材料も,胴材と同じ硬木ではなく,もっと加工しやすい軟木(今回使ったヒノキや,ホオ,マツなど)を削ったものが多いようです。
  材質が柔らかいので,あまり薄作りにはできないわけです。

  高級な月琴の蓮頭には,一面に象嵌してたり,凝った透かし彫りになっているのがあります。これらはよく,胴材と同じような色に,上手に染めてあったりするので――

  「うぉー!コクタンをこんなカタチに,スゲー!」。

――とか思って持ってみると,やたら軽かったりでズコー!てなこともありました。
  月琴の蓮頭のカタチをならべて比較してみましょうか。
参考資料・蓮頭(明清楽) 参考資料・蓮頭(3号) 参考資料・蓮頭(現代中国)

  明清楽月琴の蓮頭はいちばん左のカタチが多いです。
  今回の月琴のは真ん中図のように上の凸が一段足りません。これじゃ「雲板」じゃなくて「ラブ板」ですねー。

  いちばん右が中国月琴によくついてる形。
  現在の中国月琴では,この下のトンガリも無くなって,まるまっちい十字架とか,「梅板」になっているのも見かけます。

  この板のカタチからも,この楽器の伝系か何かの手がかりが,つかめそうな気がするんですが…  

  ** 月琴の頭部分のかたどる「如意」について補足説明 **


1号月琴・再修理

MOONH06.txt
斗酒庵 またまた1号月琴を直す 之巻2005.4月 明清楽月琴(1号)

1号月琴・修理前
DATA: 明清楽月琴 1号(明治中?)
○全長:660mm
○胴面の直径:355mm 厚さ:32mm(表裏面板:3.5mm)
○棹長:315mm 指板付 幅:24-28mm
○山口から半月までの糸長:428mm

また,コワれました…

  胴材がサクラ,というちょっとこの種の楽器としては変わった材料で出来ている1号月琴。よりにもよってサクラの花も満開の春の夜中に裏板が,「ぱきゅん!」と大きな音をたててはがれよりました。
  去年,もともとついてた板が歪んで,夏前の大修理ではりかえたのですが。その時,桐の薄板が手に入らなかったので,ホオの板(厚3mm)を貼っていました。それがまあ,みごとにパックリと…目も詰まっているし堅いんで,音は悪くなかったんですが,桐板にくらべると温度湿度の変化に,ちょっと敏感だったようです。

  この月琴は,わたしにとってはじめての明清楽月琴であります。
  とはいえ,巣鴨のお縁日で最初見かけたときには,「法華のタイコ」のキタナイのがある,と間違って手に取ったというくらいで。我家に来たときの1号は,面板は真っ黒,裏板ぱっくり。フレットも糸巻きもなくなってました。

購入当初の状態

1号月琴・去年の修理 内部構造
○ 全身汚れで真っ黒。
○ フレット,ナット,すべて脱落(接着痕のみ残る)。
○ 糸巻きすべて欠落。
○ 蓮頭(棹先端の雲状飾り)欠落。
○ 右目攝,反り,脱落寸前。
○ 胴材右下接合部にハガレ。
○  同 右上接合部に少歪み。
○ 表板右肩に少亀裂。
○ 裏板左下に水染み,亀裂,部材長の半分程度まで。
○  同 を中心に裏板のハガレ,歪み。

○ フレットはいちばん最初に作ったのが(すべりは良いが音が),つぎがタモ材(音は良いけど減る),そしてタモに竹を貼ったコンパチ,と変遷しています。 これも安く作れるし,悪くはないんですが,2号につけた黒檀+象牙のコンパチにくらべると,やっぱり音色・操作性で劣りますね。

○ 山口(ナット)は黒檀のブロックを削って,ギターの牛骨ナット材をはめこんだもの。
○ 糸巻きは三味線の細棹のものです。
  この糸巻き。三味線屋さんに行って 「四本ください」 と言ったら,「何に使うんだ?」と尋ねられまして。「月琴」という楽器を拾って修理している旨,打ち明けたところ,「そんならウチで修理のとき出た,中古のがたくさんあるから持ってけ。」と。 優しいお言葉に甘え,十本くらいもらってきちゃいました。

  いまもって,感謝。

  その後,交通事故(トラックの運ちゃんが,後方確認しないで開けたドアに激突)で糸倉にヒビが入ったり,酔っ払って転んで糸巻き折ったり,エタノで拭いたら色が落ちたりと,以来,どっかがコワれるたんび,その場あたりや山カン勝負の,トンでもない修理を重ねてきました。(つか,もっと気をつけて扱え!)

  以前は月琴という楽器の,構造も工法もなーんも知らんちんでしたが,去年暮れからの2面連続修理,その後のお勉強。経験値があがってるこの機会に,汚れちまった思い出を清算するため,1号月琴,過去の修理箇所をぜんぶひっぺがし,イチから修理をしなおすことといたしました~(パチパチパチ)


 修理1 裏板はりなおし

  すんません。今回ははじめ,こんなに本格的な大工事しようと思ってなかったので,最初の方の修理工程をちゃんと記録してません。

1号月琴・背面
  まずは裏板の張替え。
  前の修理では,ギターと同じように,中心から左右対称に2枚づつの四枚はぎ(写真左)。しかしこの方法だとネックが邪魔で,中心線部分の接着がどうしても弱くなります。今回の裏板ぱっくりも,結局はそれが原因だったみたいです。

  こんどの裏板は(写真右),オリジナルに戻って,桐の板。軽く,気孔が大きくて,温度や湿度でひずみにくいこの材が,やはりいいみたいですね。継ぎ方もふんどし式に真ん中に一枚,左右に二枚づつ,計5枚を継いでいます。

  この桐の板。2号月琴の修理の時,予備に買っといたものだったのですが,貼ってみるとさすがに1枚だけではちと足りない。で,材料袋の中をごそごそ探してたら,去年の修理の時はぎとった1号のオリジナルの裏板をハケーン! 新旧板張り混ぜて,みごと裏がふさがりました――いやあ,木材ってのは何でも取っておいてみるものです,ホント。

修理2 糸倉の籐巻きなおし・軸穴補強

  さて,糸倉―弦を巻き取るところ―というものは,弦楽器のイノチ。ここがコワれたら,楽器はふつう,まずオシマイです。

   ( ゚Д゚)....ぶつけ逃げしたトラックの運ちゃんのことは,夜中に五寸釘打ったり,粘土人形の心臓のあたりに,ささくれたてた四角い竹串を,ゆ~っくりと何本も何本も何本も…したので,もういいんですが.... ( ゚Д゚)

糸倉・修理前   ハズカシイ部分なので…今回の修理前の状態が写ってるのがあんまりありません(写真左)。

  あのとき泣きながら,ぱっくりと開いた割れ目にニカワを流し込み,竹釘を何本も打ちこんで修理した思い出の修理箇所。そういう状態ながら,木部にいちおうの修理ができてるところは,我ながらホメてやるとして。
  保護のため外側に巻いた籐が,太いわ厚いわでみっともない。防湿のためにウルシを塗ったら,さらに目立ってしまいました。なんか夜のおヒトのお化粧みたい…

糸倉・修理後   厚化粧はとっぱらい。
  今回は気持ちに余裕がありますから,籐をほそーく裂いて,きちんと巻いてみましょう。

  …あ,修理してたらまた思い出した。粘土と竹串,どこだっけ ( ゚Д゚)

  ニカワを塗り,巻き締めたあと,焼き鏝で表面をならして強制圧着,そしてペタンコに整形します。
  焼き鏝が重くて,ちょっと,あちこちコガしちゃいました。

本当の月琴の糸巻き   最初にも書いたように,この月琴の,もともとの糸巻きは無くなってしまっているので,わたしはこの糸倉に三味線の細棹の糸巻きを挿して,弾いているのですが,ほんとうの月琴の糸巻きはもっと太いもの(左写真参照)なので,軸穴の内側にシナ材の薄板をはりつけて,隙間を埋めています。

  最近,ちょっとユルくなってきたし,いちばん下の穴,左右二つには糸倉が割れたときにヒビが今も入ってますので,今回はその穴に,ニカワで和紙を貼って補強,さらに柿渋でひきしめて,最後にウルシ塗りをしました。

  「復元」を目指すなら,糸巻きも代えなきゃならないとこですが,これを作るのはまだちょっとホネなのと,三味線の軸に合わせておいたほうが,あとあとの調達に便利でしょうから。

  わたしの次にこれを持つヒトにとってもね。

各部塗装
塗装はがしたら
  昨年の大修理の際,防湿を兼ねてウルシ塗料をぬったんですが,どうもピカピカして気持ちが悪い。

  そこで今回の修理では,そういう不自然な塗装をひっぺがし,本来の自然な色へ戻そうと思い,いざひっぺがしてみると…あれれ,買ったときはこんなに薄い色じゃなかったなあ
  ウルシ塗りのときほどではないにせよ,もっと濃くて,赤というか茶色っぽい色だった気がするんですが,側板なんか,だんだん薄れて最近じゃほとんど黄色。 飾りが黒檀や紫檀っぽく塗装されているのは,前から知ってたんですが。 もしかすると,この胴体の部材も,本来,何かで染めてあったんじゃなかろか?

  という疑問は起ったものの, 「柿渋」 に思いあたったのは,たんなる偶然…というか

  なになに,奈良時代からある? 木に塗ると色が濃くなる?
  傘に塗るくらいだから,防湿効果もあるべさ。
  それになにしろ,エコロジー。うむ,コレじゃあ!


  ――というくらいの完全なる思いつきだったんですが。
  ビンのフタをあけたとたん,その独特のニオイに嗅ぎおぼえが!
  以前の修理で,お飾りを煮つけた(後述)とき,茶色く濁ったナベのお湯からたちのぼった,あのニオイです。 去年の修理で,はじめて裏板を全面ひっぺがしたとき。月琴の内部から漂ってきた,あのニオイです。

  「1号ちゃん製作当初復元」への第一歩,まずはビンゴ。

     もっとも,高級な月琴では,棹や胴材が黒檀や紫檀など,歴年による変化の少ない丈夫な材料で作られていますので,胴材にこういう処理がなされることは,ほとんどないと思います。
  1号ちゃんはなんせ,エコノミークラスですから。



表裏全景 4.30

4.30.段階

○ 表板はまたまた飾りがないノッペラボウ状態。
  磨いてみるとやっぱり,左から2枚目,再利用の板がやや黄色ががってて,ちょっと目立ちますね。この数年間(それこそ色が落ちるほど)磨き続けたんで,表板はさすがに美しいです。

半月アップ ○ 油磨きに入るまでは,そんなに色変わってないなあ,と思っていた半月(テールピース)ですが。油を含ませてみてビックリ! みごとに染まってました。
  材はおそらく花梨。購入当初はここにも,茶ベンガラがべっとりと塗られていました。あまりにチープな色合いで,いつだったか全部こそげ落としたものです。
  今回は茶ベンガラを溶かした柿渋で,10回くらい染め,さらに荏油にもベンガラを加えて,こすりこみました。


側板アップ
指板アップ
○ ぬりぬり仕上げ,続行中。
  上は柿渋塗り状態。下は荏油でオイルフニッシュ2回目,乾燥中。
  上の側板の写真だと,どうもあんまり変わってないように見えますが,下の指板/棹の写真で比較できるように,木部はかなり色が濃くなってます。

  今回の仕上げには,ギターのオイルフィニッシュ加工に燃えてる, 「アコギ製作*club」 さん のアドバイス,受けてまーす。

  色合いに関しては柿渋の下塗りが効いているのと,あんまり重ねると側部の木口から表の桐板が油吸ってシミになるので,あと2回くらいですね。
  塗ってすぐは,やたらと黒っぽく,焦げたような色に見えて,内心かなりあせったのですが,二日もすると油が乾いてきて,ちょうどいい感じになってきました。
  柿渋を染ませていたときは,いくらでも吸い込んでしまうので,油仕上げには,ちょっと不安があったのですが,乾燥した柿渋の防湿効果のおかげで,余計な吸い込みは抑えられたようです。
  その柿渋塗りのせいか,木質のせいかは分かりませんが,いくぶん乾燥が遅いようですね。

○ 指板は当初,薄茶けた色のチープなベンガラ塗りでありました。
  その後の手入れ(?)でほとんどハゲちゃってるので,今回は柿渋と茶ベンガラで染め,ニセ紫檀っぽい色に。その後表面をうるし塗り,オニの鏡面仕上げにしてあります。

飾り 05.04.30 ○ いちばん上は「蓮頭」(棹先端の雲状飾り)。1号にもともと付いていたが,どんなものだったのかは分かりませんが,某楽器博物館の館長さんからの指摘と,2号月琴のものを参考に,今回はぐッと大きめのを作ってみました。
  前のものは現代の中国月琴を参考に作りました。メーカーにもよるようですが,現在の月琴では,もっと丸まっちくて小さめなものが多い。
  ハンズで買った紫檀のブローチ材料を,ちょっと刻んでせっせと磨き,うるし塗りの鏡面仕上げです。

○ フレットはとりあえず,大き目のを多めに製作。本体が仕上がってから,高さ調整しながらの取り付けますが,よく削りすぎたりして作り直すハメになるので。

○ 下段の三個。「目攝」(表板左右対の飾り)とコウモリ飾り(5・6品間にある)は完成!
  購入当初,反ってハガれかけてたのを,ナベで煮て(!…おいおい)平らにのしたんですが。そのさい塗装がはがれちゃって(ナベがまっ茶色に染まりました),以来,木地状態になっちゃってました。
  が完成状態。フラッシュをたいたので,やけに黒光りしてますが,実際はもうちょっと,しっとりつや消し仕上げです。

  当初の仕上げと同じに,ベンガラ柿渋塗り(右)をしてから,その上に透うるしを2度,黒うるしをちょっと薄めに1度(わざとマダラに―檀木ぶりっこ加工)
  そしてもう1回透うるしを塗って,水ペーパーや炭粉で磨いてから,拭きうるしするのですが,このとき黄砥粉をふりかけて,布で擦りこむようにしてやると,いー具合につや消しにもなり,ほどほどの古色もつきます。砥粉にベンガラをすこーし混ぜると,モアベター。
  今回開発の新裏ワザでした。



5.13.とりあえず修理完了!
全景

  手にはもうぜんぜんつきませんが,木部に染ました油は,まだ完全には乾いていません(1~2ヶ月はかかるとのこと)。とりあえず組上げて,乾燥待ちです。
  いまのところ色の濃さも,手触りもいー感じ。油が乾燥してくるにつれ,音色が変化するそうなのでそれも楽しみです。
  今回の修理では古典ギターのCRANEサマ,アコギ製作CLUBサマはじめ,各所楽器製作関連HPより,助言,御教授の数々…ほんとーにお世話になりました。

フレット拡大
  山口さん(ナット)を2号月琴と同じく,半月(テールピース)より低くした影響で,高音部のフレットがオドロキの低さです!
  第8柱なんて高さ3mmくらいしかありませぬ。
  コウモリの扇飾りも高さギリギリ。
  弾いてみて指がひっかかるほどではないので,このままに。

  当初からだったのか,使っているうちに反っちゃったのか分かりませんが,1号月琴の棹は背面の方にわずかに傾けてとりつけられていました。そのために棹のいちばん根元のところにある第4柱から,フレットの高さが急激に低くなりました。

糸倉拡大
  巻きなおした籐にちょっと彩色。目立たなくしてます。
  蓮頭の取り付け位置はこんなもの。
  各所で見た月琴の実物および,所有の2号月琴を参考にしました。

飾り
  目摂・扇飾りは仮づけ。大修理後ですからね。
  いつでもハガせるように,ニカワでうすーくへっつけてあります。
  やっぱり単なるお飾りとはいえ,これがついてると明清楽月琴らしさがぐんとうpしますねえ。



弾いてみて
○ 油仕上げの音色に対する影響は,いまだし判らねど,うるし塗料で覆われていた時より,たしかに音のヌケはよくなったような気がします。
  少し「乾いた」音が出るようになったかな。
○ たぶんそれとは別に,ナットとフレットをいぢくったせいでしょうが,ピッキングする位置によって,音量の変化が顕著になりましたねえ。
  胴体の真ん中付近ではじくと,かなり大きな音が出るようです。
○ 前に比べるとフレットの高さは平均で2/3がた低くなってますが,象牙コンパチにしたおかげで,すべりは良く,操作性は向上しています。

  このたびは,ホントに何のタタリか。花見の時期から約1月,次から次へとコワれる楽器…長かったにゃあ,修理の日々よ。
  それもどうやら,この1号月琴完成で終了!
  さて今夜は,水晶堂のドラ焼きをサカナに,祝杯あおって寝ます!

追加情報 05.AUG
  良かれと思って低くしたフレットでしたが,第5柱のところがデット・ポイント(音の響きがなくなる場所)となってしまいました。
  月琴のような高いフレットでは,指で押さえてるところを横から見ると,弦はふつうV字にへっこむわけですが,この月琴は棹がわずかに反ってとりつけられているため,第5柱のところでちょうど,VがΛになってしまうわけです。こうなると弦の振動が止まってしまい,楽器の音は響きません。
  けっきょく,ナットとフレットは,ほぼもとの高さで作り直しました。どつかれさん。

2号月琴追記

MOONH02_2.txt<
斗酒庵 明清楽月琴を直す 2-2之巻2005.5月 2号月琴 追記
(2005.05.10 - ) 2号月琴 お飾り製作記!
  1号月琴再修理中のある日のこと。
  修理が終わったと喜んでた2号ちゃん。蓮頭がポロリととれてしまいました。
  そっちのほうはスグにひっつけたんですが,興がノったので,ついでにお飾りを工作することに。
  大修理後の監視期間なので,あと半年くらいはとりつけてあげられませんが,まあ作っておいても損はないし。何より,じつわワタクシ,こういう細っちい細工物が大好きなのです。

目摂(オリジナル)
  これがオリジナルのお飾り。
  左右一対の目摂は,
  扇飾りは…何なのでしょうねえ。卍に帯(wandai=萬代)か何か,吉祥文の一つだとは思うのですが。フォルムが1号月琴の扇飾りの蝙蝠とよく似てますから,もしかするとこのコウモリくんの成れの果てなのかもしれません。
  このてっくりかえった仏壇の飾り菓子みたいな菊は,月琴のお飾りとしてはよく見る形。ほとんどまんま同じ型で,花びらだけ変えて「牡丹」にしちゃってるのも見ます。
  オリジナルの部品であり,どこもイタんではおりません。けれど――あまりに図案化,というか典型化されてしまっていて面白くない。 そのうえ細工がてんでに悪い!
  というわけで,イチから再製作ですど~ん。
目摂(製作中1)STEP 1
  まず目摂の絵柄を何にするか。
  小型の月琴では「鳳凰」が多いようですね。菊のほかには牡丹とか竹とか,魚なんてのも見ますが,「月」の琴,1号が「菊」,せめて秋草でそろえたいところ,ここは我が家の裏家紋でゆきましょう。
  「桔梗」であります。
  まずデザイン。さいしょ自分で二三描いてみたんですが,どうもしっくりこない。そこで,尾形光琳の秋草小袖の文様をそのまま使うことに。
  パソコンにとりこんだ画像から,ちょうど良さげなところを切り取り,拡大,適度に白黒にして下絵にしちゃいます。(江戸時代にはなかった,ダイタンなパクりかたですね(笑))
  さすがは光琳サマ…。
  絢爛たる小袖の,袂の隅っこの部分にあった,ほんの小さな一株だというのに,その配分,バランス,一分のスキもありません。
    (** ちなみに,下にすでに一枚切り出してありますが,こいつはその後,彫りを失敗して廃棄処分となりました。)
  扇飾りは古式にのっとり「蝙蝠」。ただ,1号と同じゃ面白くないので「蝠在眼錢(コウモリの前に穴あき錢)」の図に仕立てました。中国語で読むと「福在眼前」なわけで。やれ,おめでたや。
  「月琴基礎知識」のコーナーにも書きましたが,もともと円い月琴に蝙蝠がとまってるだけで,その意味になってるわけですから,蛇足といや蛇足なんですが。
目摂(製作中2) STEP 2
  下絵を板に写して,デザインナイフで切ったり,リューターでほじくったり。
  ノミやら切り出ししかなかった頃と違って,作業の早いこと。
  荒仕上げまでほんの2時間てとこです。
  今回の材料はアガチスかヒノキか…ハンズで買った端材なのでわかりましぇんが,さくさくと切れるわりには,けっこう細かいところまで彫りこめました。
目摂(製作中3) STEP 3 ほか
  扇飾りの方を先行して作ってしまったので,ちょっと進行が違いますが,以下工程。
● 彫ったくったお飾りは,まず柿渋の溶液の中に一昼夜漬け込みます。
● つぎにこれを日陰で干し。乾燥して木地がしまったら,毛羽立ったところを,リューターで,あちこちなめらかに仕上げ。彫りの手直し。
● それからベンガラをお酒で溶いて,柿渋で薄めたものを,表面べっとりと塗装。(液はあらかじめ混ぜておいて,1時間ぐらい置いたほうが良いようです)
● 乾いたら布でこすって,余計なベンガラは落とします。

  右写真はそこまで…ふう,約二晩の強行軍でした。
  オリジナルはこれに油を拭いて仕上げていますね。
  わたしは上から漆を塗って,檀木風にしあげようと思います。
2号月琴 修理完了1

STEP 4 付けてみました

  こんな感じ。どうでしょう?
  ちと大きかったかな?
  2号月琴の修理はこれにていちおう完了ですね。
  結局6ヶ月…半年かかりましたか。

2号月琴(明清楽月琴)

MOONH02.txt


斗酒庵 明清楽月琴を直す 2之巻2004.12~2005.1月 明清楽の月琴(2号)



STEP1 修理箇所の確認
購入時
  見本写真で見たときは「そのまんま弾けるかな」とか思ってたんですが,届いてみると案外イタみがあって,要修理ってことで。お飾りでない,実用月琴,モノは悪くないようですよ。

 ○ 側板表面の黒檀の薄板 欠け,ハガレ数箇所
 ○ 第2柱 欠損  
 ○ 柱の減り,ヘコミ著し
 ○ 表ヘビ皮 劣化著し 
 ○ 裏板に欠損,クギ打ちされ,釘がサビている
 ○ 棹の固定あまく ややぐらつく



 下調べした結果の修理手順,予想は

 ・裏板をはがして破棄
 ・クギをぜんぶひっこぬく
 ・全体をクリーニング
 ・あっちゃこっちゃをくっつけなおし,締めなおし
 ・棹を内部からクサビ止め
 ・最後に裏板再製作


 てとこですね。全治1~2ヶ月,てとこでしょうか。


STEP2 修理開始!




  まず裏板をひっぱがします。

  側板の材が1号月琴よりぶ厚く,最大で2cm近くあったのでびっくり。円周下のほうに2コばかり,小さなシミが左右に見えますが,これは裏板をとめていたクギのサビが,周囲の木材に染み出しているのです。
  響き線は二本。太さ 0.7~8mm くらい。トンボの目玉というかバカボンのほっぺたマークというか。左は丁寧に巻いてありますが,右は巻き方もぞんざいでガタガタ。

* 1号月琴の側板(サクラ材)の板厚は 8.5mm 平均だった。檀材でできた良質の月琴で5mm前後の厚さ。

 * よく勘違いされるが,月琴の側板は四角い板か角材から,1/4円づつの形を切り出し,それを組み合わせて円にしたものである。その証拠にこうして裏板をはがしてみると,下右図のように,木目が曲面に関係なく縦方向に入っている。 蒸気で曲げる加工をした場合は,木目は曲面に沿って走っているはず。

  保存状態や時間による劣化のせいも若干はあるようですが,これを作った職人さん,どうもニカワの扱いがそれほど上手じゃなかったようで,本来表,板と側板にぴたっと密着してなきゃならない真ん中の仕切り板なのに簡単にはずれちゃいました。
  ニカワが薄い!接着が甘い!――でもおかげで,知りたかったこの部分がくまなく観察できて,じつに勉強になりました。

  * 月琴の音の「命」ともいうべきこの響き線,サビがひどく,このままでは使用に耐えられないため,取り外したうえ再製作。

  つぎに棹を抜いてみました。 材は正目の紫檀。フレットののっかる指板部分には鉄刀木(タガヤサン)の板が貼られています。 蓮頭(先端の飾り板)を除いて,寄木でなくムクの削り出しで,差込部分は杉材を継いでいます。

* 棹の付け根部分の処理が荒く,差込がユルすぎるのと,かなり深めのノコ傷が残っているので,この部分は補強する必要アリ。

  ピック・ガードのヘビの皮もはずしておきます。
  直接貼り付けるものと思っていましたが,和紙でていねいに裏打ちしてありました。

* この皮が貼られていた周辺には,ピックによるエグり傷のほか,虫害によるものと思われる痕多数。かなり深いものもあるので要補修。

STEP3 第一段階
修理その1
(修理その1)
  右の写真で側板上にポツポツ白っぽく見えるのが,裏板を打ち付けてたクギのあと。ほとんどが芯までサビていたため,抜こうにも抜けず,やむなくクギの周囲をピンバイスでえぐってほじくりだしました。
  穴に木屑漆をつめこみ,丸材を埋め込んで充填。

修理その2
 (修理その2)
  半月(テイルピース)の白い輪っか。糸孔が糸でこすれて広がらないようについてる部品が,四つ中三つまでなくなっていたので,再製作。

  ちょうど掃除してたら,前に持っていた琵琶の壊れたお飾り(象牙製)が出てきたので,それから直径約4.5mm,厚さ 0.7mm くらいの小さな円板を削り出し,真ん中に穴あけてはめこみました。

修理その3
 (修理その3)
  棹の差込部分の補強。

  付け根部分は黒檀の木屑を練ったもので傷を埋め,同じ材の板を貼って紙みたいにうすーく削り,孔にスル・ピタとはまるよう調整。


STEP4 第二段階

修理その1(修理その1)
  面板のクリーニングのため,飾りやフレットもぜんぶはずしてあります。
  写真で棹の上にかかってるのは,側板を覆っていた黒檀の化粧板。

  当初はここまでするつもりはなかったんですが,前にも書いたようにこれを作った職人さん,ニカワ付けがヘタで,この化粧板もあちこちで浮き上がったり,本体からハガれかけていました。部分的な修理ではキリがないですし,このままにしておくと音にビビりが入るような可能性もあるので,思い切ってぴっちり貼りなおすことに。

  はがしてみると薄板と胴体のスキマに,杉板を薄く削いだ小片をいくつもはさみこんで,加工の悪さをゴマかしたとこも発見。


  手ヌキです。

化粧板を貼りなおし前
 (修理その2)
  胴側板表面のクリーニングの後,本体のヘコミ箇所に薄い木の板を茹でてニカワを塗り,アイロン(使ったのは「焼きゴテ」…という道具ですが,分かりますかね?)で強制接着。乾いてから紙やすりで整形。

  形を作るだけならべつにパテとか盛ってもいいんですが,楽器ですから。音のことを考えると,こちらの方法のほうがよりよろしいかと。
  貼り付ける板にはブビンガの突き板を使用しました。一つには材質がカリンに近いことと,気孔が比較的大きいので,アイロンがけするときにニカワが表面に滲み出したりしますが,その分板の食いつきが良く,密着してくれますので。

響き線・再製作
 (修理その3)
  さて,いよいよ難関の「響き線」の製作です!

  写真上がオリジナル。 新作のほうがやや径は小さいですが,巻きの回数は同じです。材料は直径1mm のピアノ線。70cm くらい使いましたね。

  巻きはしたものの,このままでは柔らかすぎて,「ボヨンボヨン」としか鳴らないので,この銀色のピアノ線にヤキを入れ,表面が青い酸化膜で覆われた「バネ」の状態にしてあげます。


  と,ここまで思いついてから気がついたのですが。

  このまま全体にヤキを入れると,加工後,この部品は曲げられなくなります。1号月琴のように,真っ直ぐな一本線なら問題はないのですが。こちらでは仕切り板にあけた穴に,線の付け根部分をコの字に曲げて挿し込み,固定しているうえ,2本あるので,あとでどうしても位置の微調整とかもしなきゃなりません。
  つまりこの部品は,取り付け部分を残して,グルグル巻き部分だけにムラなくヤキを入れなきゃならないわけです…う~む,適当に丸めてつっこんでるだけと思っていたが。こんなところに隠されてたか,職人技(^_^;)。


STEP5 第三段階

1.25段階

  化粧板を貼りなおし,組み立ててみたところ。

  本体にニカワを塗り,ナベに湯を沸かして,黒檀の薄板を蒸気でむらしてからはりつけ,表面をアイロンでなぞってすこしづつ接着してゆきました。2時間くらいかかりましたね。
  完璧とはいえないものの,前よりはずっと胴体に密着しています。

  つぎは響き線の取り付け。加工は「ムラなく」とまではゆかなかったものの,グルグル巻き大部分を,「テンパー・ブルー」に染めあげることに成功しました。失敗しないでよかったあ~。
  取り付けもまあ,こんなもんでしょう。前のハリガネをはずしたときに,すこし穴を広げたので,その部分には竹釘を削って差し込み,よりしっかりと固定しております。
  直接ハジくと微妙に左右の音色が違いますが,表板を軽く叩いてみて返ってくる響きは,なかなかいー感じです。

* 組み込んでみて,はじめて分かったんですが,このグルグル巻き型の響き線は,一本線のものにくらべて震動に対する感性が高いわりに揺れ幅が小さく,胴体の中でぶつかりにくいようです。
  カタチ自体にはあまり意味がないと思ってたんですが,つまりコレは楽器が揺れても余計な音が出にくく,この金属の震動を絃音の共鳴のため,より効果的に使うための工夫だったんですねえ…誰が思いついたか知らないけれど,感服。



STEP6 第四段階

 (修理その1)
  裏板を貼ります。桐の板,四枚を横継ぎ。材料の板は,厚さ4mm となるとふつうのDIY屋さんなどでは売っていないため,木場の「木よう大工」さんにお願いして作ってもらいました。

  1号の修理での経験を生かし,いきなり四枚を貼るのではなく,真ん中,右,左…と一枚づつやっていきます。

* 「なにもそんなことせんで,一枚板を円く切って貼りゃいいじゃん?」 と思うでしょう? 実際やってみると分かるのですが,カドのない円形の胴体で,こういう板をピッタリ貼り付けるのはとてもタイヘン。クランプでアッチを締めるとコッチ浮き,両方締めると中が浮くというぐあいで,キリがありません。やはり小分けにして,すこしづつ貼ってゆくのがベストのようです。板の横幅なぞは均等でなくても構わないようで,古い月琴では,良く見ると6枚も7枚も継いでるものがあります。
  板を交換する場合や,内部の修理のためはがすときのことを考えても,単板より横継ぎのほうがムダが少ないようです。

  板を貼り終わったところで,はみだした部分をカッターで切りとり,ヤスリがけしたあと,木口に薄いニカワで練った砥の粉を刷り込みます。これは小さいスキマやちょいカケしてるところのアラ隠し,もう一つにはこの木口のところを固くして保護するためです。

 (修理その2)
  黒檀の化粧板の欠けてたところを埋めます。
  今回は他の部品を再製作してるときに出た,黒檀のノコ屑をニカワで練ったもので充填しました。 いやあ,何でも取っておくものですねえ。
  表裏の板と化粧板の間にできたスキマは,砥の粉をニカワで練ったパテで充填。
  乾燥後,小刀と荒目の紙やすりでこそげ落とし,仕上げに側板全体に拭き漆をして,表面を保護しました。

フレット
 (修理その3)
  フレットを再製作。
  オリジナルはマグロ(黒檀の高級品,まっくろ)のムクでした。どんなもので作ろうかと,いろいろと悩んだ結果,台をマグロにして,糸と擦れるところに象牙の薄板を貼った合成型となりました。
  多少加工に手間はかかりましたが,これだと黒い指板の上でも見やすいし,すべりもいい。材料はどちらも稀少なものですが,ムクならともかく,この方式なら,ほんのカケラでもあれば再修理できるというのもメリット。

  前の月琴に比べるとフレットが低いぶん,フレット間の高低差が小さいので,ヤスリ一目の高さ調節で,音がちゃんと出たり出なかったり。微調整がちとしんどかったす。


STEP7 仕上げ



  表板の虫食い穴や,キズの大きなものは,砥の粉+ニカワのパテで埋め,磨きあげました。

  面板の最終仕上げに1500番の水ペーパーに蜜蝋をなすりつけたので磨き上げます。テカテカせず,しっとりとした仕上がりで,アラ隠しにもよろしいかと。
  軸をとりつけ,山口に糸を乗せる筋を切り。

   2月3日,修理完了です!

○ 古い楽器,しかも長年弾かれてなかったわけですから。 修理後半年くらいは,新しく塗ったニカワの収縮とか,温度湿度の変化とかで,板がとつぜん「びしっ!」とかヒビたりすることがあります。 演奏には関係ないですし,そういう細かい修理の時,たびたびジャマになるので,飾り(目摂)はしばらく取り付けず,こういうスッピン状態で弾こうと思っております。

明清楽の月琴(2号)
  ほとんど同時に入手したのですが,先にやった中国月琴の修理がさほどタイヘンでなかったため,けっこうナメてかかったところ…意外に重傷でした。
  「響き線」をはじめ,加工の手順もわからないような作業ばかりでしたが,得たものは多かった――たぶん「ニカワ付け」の技術だけは,オリジナルの職人さんに勝った,と思います(^_^;)。

今回の修理で分かったこと

1 山口と半月の高低差
  1号月琴では,当時,アーバスさんからのアドバイスにより,山口(ナット)の方を半月(テールピース)より1~2mm 高く作りました。このため1号月琴では横から見ると,糸は山口の方から半月に向かって,わずかに傾斜しています。
  ところが今回の月琴で見ると,オリジナルの部品では,逆に山口の方が半月より2mm ほど低くなっています。
  実際に糸を張ってみると,この設定により糸が面板とほぼ平行になることが判明。
  フレット高が低くなったので,多少工作が難しくなったものの,操作性はこちらのほうがよろしいようです。

2 軸について

軸取り付け比較軸取り付け比較

  2号月琴の軸(糸巻き)は,四本とも棹に対して,ほぼ直角に差し込まれています。
  琵琶や三味線など東洋の弦楽器では,軸は棹に対してややハの字型になるよう,少し角度をつけて取り付けられることが多い。これは斜めに穴を通したほうが,軸穴内部の摩擦面が大きくなるので,軸がすべらず,糸がゆるみにくいからです。
  右写真で比較していただければ分かりますが,1号月琴は斜めになっています。これほどではありませんが,中国月琴では現在も,軸はわずかながら同じような角度をもって取り付けられています。

* 明治の風俗写真や,むかしの挿絵などで見る月琴では,どちらかというと2号の形が多いようですが,構造からいうと,先に述べたことからも判るように構造的に不利な点があるわけで,わたしはこちらの形のほうを,より後期に製作されたものと推理しています。

3 フレットの取り付け位置について

修理前のフレットの位置修理後のフレットの位置

  第2柱は,購入時にはすでに欠損していましたが,指板にその工作痕が残っていたため,オリジナルでフレットの立っていた位置は,だいたい分かっていました。ところが,チューナーで音を確かめながら探ってゆくと,ほかの柱はオリジナルの位置から大きくても柱の幅1本分,5mm 前後のズレの範囲におさまるのですが,この第2柱(音はB)だけは,オリジナルより 1.5cm ほども下になってしまいました。
  音で言うと,ちょうど半音分ぐらい違うわけで。

  これが月琴もしくは明清楽の古い音階に合わせたものだったのか,単なる工作・調整の甘さからきたものなのかは,不勉強でちょっと不明。
  とりあえず現代に生きるわたしは,西洋音階に近いところに合わせなおしておきました。そのままだとフォークソング弾けないもんね。


  あと第7柱と8柱が,当初(左)は入れ代わって取り付けられていましたが,これはたぶん後で誰かがテキトウにへっつけたもののと思われます。






ナゾの中国月琴

MOONH01.txt
斗酒庵 中国月琴を直す 之巻 2004.12月 中国月琴

STEP1 まず,所見。

  最初その形状が明清楽のものとも,わたしの知っていた現在の中国月琴とも異なっていたため,「ナゾ月琴」と命名。以下そのときヘンに思ったところ:

○ 胴体が小さく(径30cm),表裏の板で側板をはさみこむサンドイッチ構造(明清楽のと同じ)。
○ 胴側板外面にアールがついている(あまり見ない)。
○ 琴頸(ネック)が細いが短い。
○ 糸倉(糸巻をさすところ)の反りが通常の月琴と逆。
○ 琴頸が胴を貫通せず,中央の仕切り板のところでとまる。
○ 胴内に「響き線」が仕込まれている。
○ 柱が10本。
○ 半月がほぼ完全な半円形。

  「広東音楽で使う月琴か?」「今の月琴への進化途上の試作品?」「少数民族の月琴?」など,色々と御意見をいただいたり,考えてみたりしたのですが,調べた結果,解放前に一般的だった中国月琴は,こういう形をしていたんだ,ということが判明。現在の中国月琴の,御先祖様ですね。
  明清楽の月琴ばかり追いかけてたもので…浅学恥じ入るばかり。
ナゾ月琴・購入時
ナゾ月琴・ネック



STEP2 修理箇所の確認。

要修理箇所   「壊れて部品不足の月琴」といって売られてたので,相当カクゴしてたんですが,届いてみると,それほどヒドくもなかったです。   無くなっていた部品は軸一本。
  しかし,この楽器は絃三本で弾くことも多いので,はじめから無かったのかも。その他,主な要修理箇所は以下のとおり:

○ 左側板下部から下の側板。
  ▲ 塗装のヒビ,ハガレひどく,木地まで露出。
  ▲ 接合部ハガレ,板に少しユガミ。
  ▲ 同部付近 表板ハガレ,少しく浮く。
○ ネックの接合あまく,すぐ抜ける。
  ▲ 前所有者による修理あり。
  1.胴体との接合部に接着痕。木工ボンドと思われる。
  2.ナットの向きが逆。
    * 直角に切り立った面が,糸巻きのほうに向いています。
  3.第2柱後補。
    * 材質はオリジナルと同じ竹の板ですが,サイズも形状もてきとうで,なぜか赤く塗られている。
○ 表板左肩にヒビ。幅1.2mm 長さ10cm くらい。
○ 全体塗装面に小さなヒビ,ハガレ多数。



STEP3 では修理開始!

第一段階!   まず,いちばん重傷なところからまいります。

○ 左の側板と下の側板の接合部に出来たスキマ。
  △ ニカワを流し込んで接着。
○ 表板の浮いているところ,および浮きかけているところ。
  △ 一度切開して,古い接着剤をこそいでから再接着。
  △ 板の端が一部層のように剥がれたところは,木口から少し湯を湿し,薄めに溶いたニカワを含ませてから,板とクランプで圧着整形。
○ 接着箇所とその付近に,薄くといたニカワを塗り,和紙を貼り付ける。

  平面なら板とかではさんでやればいいのですが,月琴の胴体は丸いし,そのうえこの月琴の側板にはアールが付いているので,側板接合部に圧力をうまくかけられません。
  重ね貼りされたこの和紙は,乾くと両方向にぎゅっと縮んで,バインダーとかクランプの代わりをしてくれます。
  乾いたら,余分な和紙は紙やすりでこそげ落とし,残ったのはそのまま下地に埋め込んでしまいます。接合部の補強とか,ヒビだらけの塗装の剥落どめとかも兼ねているわけです。


STEP4 黄色い下地塗り。

下地塗り   つぎに,もとからあった,および,修理であらたに出来ちゃった塗装のハガレやデコボコを埋めてゆきます。   オリジナルは灰色の,もろもろとした粉のような下地が塗られていました。古琴だと漆に鹿の角の粉を混ぜたもの,ふつうの漆塗りだと下地には錆漆,砥の粉と漆を混ぜたものが用いられますが,どうもそんなのではないようですねえ。
  おそらく砥の粉の類を水で溶いて,泥みたいにしたものを,かなりぶ厚く(最大 2mm 近く)塗っているようです。増量のためか強度を増すためか(たぶん前者),棉ぼこりのような細かい繊維質のものも混じっています――剥がれた中から,人毛らしきものもハケン。
  同じように砥の粉を溶いたもので塗りなおしても良かったんですが,オリジナルの塗装が残っているところは,なるべくそのままにしときたかったんで(はじめは全部落として,一から塗り直すつもりだったんですが…くじけました),剥落止めも兼ね,砥の粉にニカワを混ぜて練った一種のパテを使用しました。
  修理箇所の補強として強度的には問題ないんですが,錆漆に比べるとちょっと湿気に弱い。とはいえ,どうせ上から何度も塗料を重ね塗りしますから,あまり問題ナシ。
  なにより黄色いので,次に修理する人が分かりやすいです。


STEP5 一段落と内部観察。

内部構造
  パテ自体はすぐに乾くのですが,下地が乾いて充分になじむまで,ちと時間があります。
  棹を取り付けてしまうと,もう中を覗けないんで,この機会に内部をじっくり観察しました。
内部構造2   1号月琴では ○に二の字 となっていましたが,この月琴は ○に一文字 の構造。しかも,真ん中の仕切りが一枚板ではありません。(右図参照)
  表裏板の真ん中,横幅一杯に厚さ5mm,幅1cm ほどの細板がわたされていて,その真ん中に10×2.5×1cmほどの木の板。中心に棹を受けるホゾ穴があり,その横に小さな穴が一つあいていて,響き線のハリガネが竹の釘でとめられています。
  穴からのぞいたくらいなので,響き線の先端がどのようになっているのか,はっきり確認はできませんでしたが,およそ上の参考図のようになっていると思われます。


STEP6 細かい作業。

  まず,真っ赤に塗られたナゾの第2柱。カタチだけくっつけたもので,実際の使用に耐えるものではありませんので,再製作。タモ材に竹を張ったコンパチ。高さは後で絃を張ってから微調整します。

  次にオリジナルのナットと,蓮頭(糸倉の上)の中心にはまってる飾りが,いかにも安っぽの成型プラスチック製なので,作り直すことに。

  ○ ナットを黒檀のブロックで再製作。
  大体の大きさに四角い棒を切り出し,前にギターを直したとき出た牛骨のナットを刻んではめ込み。オリジナルとくっつけて,高さや形を合わせながら削り出してゆきます。

  ○ 飾りはホオの木に彫刻,円く切ったもの
  オリジナルの絵柄は細かい花鳥図で,それを真似るのも面白そうだったんですが,「お月さん」ですからね。何か縁のあるものをと,モチ搗きウサちゃんに。多少モダンな絵柄になりましたが。

  どちらも小さい部品なので,指がキズだらけですぅ。

  ○ 次にテイルピース,半月の塗りなおし。
  オリジナルには,ナニやらゴミみたいなものがいっぱい混じった,すさまじいニス(?)が塗ったくってありました。明清楽の月琴では,この部品は堅い木で作られることが多いのですが,これは杉とかヒノキみたいな柔らかそうな木でこさえてあります。
左オリジナル・右再製作
半月

左肩ヒビ・ネック   ○ 表板左肩のヒビ
  桐の木をうすーく削いで,ニカワつけて埋め込み。余分なニカワの吸い取りと,接着部の補強に和紙を貼っています。このあと平らに整形してから,上に薄く塗料をすりこんで,湿気対策をします。

  ○ ネック接合部
棹加工中   上側板の穴と胴体中央のホゾ穴にあたるところに,板を貼りつけ。キツからずユルからず,するぴた,とハマるようになるまで削いでゆきます。
  わたしの1号月琴なんかでは,クサビはまして固定してありますが,中国の月琴のネックは,もとから取れやすくしているのが多いようですが,もともと棹を取り替えることなんてまずないし,音を考えるとあまり利巧なこととも思えないので,今回はかなりガッチリ固定してしまおうと思っています。



STEP7 下地の仕上げ。上塗り,重ね塗り,最後の仕上げ。

三面図
  下地がカチンコに乾いたら,余分なパテを削り落としながら,表面を紙やすりで平らにしてゆきます。
  砥の粉は粒子が細かいので,マスクしながらの作業。大陸でもないのに,部屋が時ならぬ 「黄塵萬丈」 の世界となってしまいました。表面を磨いてゆくうち,オリジナルの塗装のアラとか新しいデコボコに気がついて,また削りなおし,パテ埋めしたりしますので,けっこう時間がかかります。
  下地磨きが終わったら下地塗り。
  塗っては磨き,磨いては塗って重ねること4~5回。塗装面のヒビや細かいクボミ,乾燥中についた小さなホコリなども,このときついでに塗りこめたり,削り出したりしてしまいましょう。
  理想の仕上がりは「カガミのような」表面ですが,ま,細かいことは言わず,のんびり重ね塗りを。   仕上げ塗りとか,表板のクリーニングなどがまだの状態ですが,とりあえず形にしてみました。
  裏板右肩に,ナニヤラ灰色の線が走ってますが,板にもとからついてたか,あるいは加工のときについたキズを,例の下地材で埋めたものです。もっと目立たないパテで埋めなおしてもいいんですが,そのそばにこの月琴の資料的証拠になる「1955年 堺税関」の丸印と,手書きの「月琴」の文字がありまして手をつけにくく,そのままにしとくことに(手ヌキじゃないぞ!)。


12月末 修理完了!

  ほとんどは見えるところ。楽器表面の修理のみだったので,さほどタイヘンではありませんでしたね。ありがたや。

・ 修理作業により判明したこと

  ① 側板の材質はではないかと思われますが,不明。黒檀,紫檀,花梨あたりではないことは確か。
  ② 内部の仕切り板は,木目から見るに針葉樹。杉かヒノキ

  ③ 表板は,3枚ほどを横に剥ぎ継ぎ。日本のものより色が多少濃いですね。
  ④ 裏板の材は柔らかく,端が一部,湿気を吸って層のように剥がれていたので,最初はベニヤか何かだと思ったのですが,おそらく「楓」(カエデにあらず,フウという大陸の木)だと思います。こちらは単板。
  ⑤ 棹もの類かと。いちおう目の詰まった部材。胴内に入るところで > 型のホゾを切り,杉材を継いでいます。
    頭の飾りまで全部一本材の総彫りのようですが,ナットの乗っかってる部分とか,飾り板裏側の処理はかなり荒いです。もーヤケクソで削った,えぐった,って感じ。
完成

・ 弾いてみて

  音は明清楽のとかに比べると,硬い感じですね。
  胴体は小さいですが,わりと大きな,くっきりした音が出ます。
  ただ,絃が短いせいかフレットがやたらと敏感で,指の角度,力加減のちょっとした違いで,音が 1/4 音くらい,あっちゃこっちゃイッてしまいます。はじめはフレットの取り付け位置が悪いのか(中国楽器では良くあるハナシ)とか思ってたんですが,押さえ方によっては,ちゃんと音階を踏みます。
  「押さえる」というよりは「触れる」感じですね。
  明清楽のと比べると,メカニカル・キーボードとタッチパネルくらいの差でしょうか。それでいて指がちょっとでもズレると,ちゃんと音がでません。つまりは北斗神拳で秘孔を突きまくるように弾け,ということのようです。
  メロウな曲にはちと合いませんが,元気よくてテンポの早い,戯劇のタカタカ音楽なんかには良さそう。



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