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4号月琴

MOONH08.txt
ALT="斗酒庵 明清楽の月琴を直す4 之巻"2005.12月~ 明清楽の月琴(4号)

またかよ
  今年もまた…暮れがおしせまり,世間様が忙しくなってくると。
  もはやこれは習慣? それとも年中行事なのでしょうか?
  年の瀬に なると来ちゃうよ 破れ月琴。
  例によって,蔵か物置のようなところに,長年放置されてきたものらしく,かなりヨゴレておりますが,見たところ,各部しっかりしていて,部品もだいたい揃っており,さほどに重傷の様子はありません。
  今回の明清楽月琴は,3号と同じくらいの大きさの小型月琴ですが,全体の華奢な造り,とくに棹や糸倉の線の細さなぞ,じつに繊細で。 よしよし,おぢさんが,いーところへ連れてってあげるからね。  というくらい,カレンな少女のような月琴であります。(((w゚Д゚)w< オマワリサーン!

  冗談は蔵の中。では,いつものように修理前の観察から。

STEP1 修理前所見

1.全体の採寸ならびに損傷箇所簡見

◎ 全長:635mm
◎ 棹長:300mm うち指板部分 150mm  (最大幅:32mm 最小幅:24mm)
◎ 絃長:417mm * 山口より半月まで。
◎ 胴面:直径 350mm 厚さ 35mm
  * うち表裏面板・各 3mm
4号月琴・修理前
主な損傷箇所
■ 表板:左肩に2箇所,下部に数箇所 ネズミ食/右端 ややヨゴレ 少しく黒ずむ/右下部 側板接合部ふきんよりヒビ 軽 600mm ほど/右目摂中央付近に穴(義甲によるエグレ痕か?)。かなり深いものと見受けられる。
■ 裏板:右肩に ネズミ食。/全体に虫食い孔数箇所
■ 胴側材:接合部四箇所ともにニカワの劣化がみられ,接合ややハガレ。/左側部,表板にハガレ,左側材長の4/5。




2.細部ならびに各部品
◎ 糸倉:棹から左右までムク,天に間木をはさむ。
   * 実用に支障するような損傷はなし。ただし裏面下部にエグレ傷あり(ネズミ?)。
◎ 軸:4本ともに完存。3号と同形だが,やや細身。平均長 115mm。
  * 材質不明。数箇所カケ等見られるも,重傷なし。軸孔との噛み合わせなどから見ても,かなり精度の高い加工がなされている。
◎ 棹:損傷とくになし。反り,ユガミ等も今のところ見られず。
   * 材質不明。かなり緻密な木目だが,軽い。胴体への取付部のニカワが劣化して脱落か?   わずかにスキマあり。ただし歪み,ユルミ等はなし。

◎ 山口:存。26×9×9.5mm 半カマボコ型。
   * 取付面左右にやや広く余裕がある(2mm ほど)。糸の擦り痕は多く見られるものの,糸溝は刻まれていない。
◎ 蓮頭:存。最大長800×幅55mm 最大厚 7mm。
  * 雲形,線刻あり。ほかでもみたことのある意匠だが,何なのかまだ分からない。あるいは「宝珠」をさかさまにしたものか?
  左下部にわずかにカケが見られるものの,状態は良く,取付も堅固。装飾は簡素だが,手前から奥にかけて厚みにテーバーを持たせているところなど,細工は緻密である。

4号月琴・山口/蓮頭
4号月琴・糸倉

4号月琴・柱

◎ 柱:5本存(第2,5~8)。
   * 3号月琴と同じく,煤竹製と思われるが,3号(右下写真参考)とは逆に,竹の表皮面を半月側に向けてとりつけられている。使用痕あり。工作は多少粗い。
   * 欠損した柱についても,楽器上に痕跡がはっきりと残っており,オリジナルの位置,幅,厚みなどが推測できるが,棹上のフレット左右の余裕(通称,蟻通し)が,やや広めにとられている。
   * 現存する第2柱などからみて,弦高はかなり低かったと思われる。

参考/柱の加工 参考/3号月琴・柱の取付

4号・半月

◎ 絃停 緑色の皮革 100×85mm 厚0.8mmほど
  * おそらくオリジナルではなく後補。牛皮と思われる。カバンとか家具に使われる染め革を切ったものではなかろうか。
◎ 半月:損傷ナシ。ほぼ完全な半円形(直径 90mm 高 10mm),角型。
   * 糸孔の配列はV字型。半円の左側,表板との接着面付近に小スキマ見受けられるも,グラつきはなし。
   * 内部に新聞紙のようなものが詰めこまれている。


◎ 左目摂:ほぼ全形をとどめるも,ヨゴレ多少強。
  * 下部表面に大きなエグレ,カケあり。ネズミ食か?
◎ 右目摂:少カケあるも,全形をほぼ完全にとどめる。
  ** 左右ともに加工はやや雑。意匠とした花の種類は今のところ不明。 4号・目摂



糸残欠 おまけ1・月琴の糸の,半月への取付方について

  糸巻きと,半月左孔に絃のかけらが残っていました。
  半月に残った糸片から,この月琴の前所有者は

1.半月の孔に糸を通し,下から引き出す。
2.一方の糸端に一重結びの輪を作る。
3.引き出した方の糸端(長いほう)を,輪に通す。
4.輪の糸端を引き,締める。
5.糸を軸に巻き取る。

――という手順で糸を張っていたようだ。
  ただし高音絃の残欠がないため,両方同じようにしていたかどうかは不明。

** 庵主はこれまで,「玉結び」か「もやい結び」の輪を先に作っておいてそこに通していたが,こっちのほうが単純だし後での調整もラクなので,現在はこれ一辺倒。この結び方は図説つきで「月琴基礎知識2」に置いてあります。どうぞご参考に。



おまけ2・半月内の残留物について

  半月内部に紙片が詰まっていたのを,諸作業に先がけて取り除くことにした。
  明清楽月琴はこの内部の表板に,小さな孔が穿たれていることが多く(後述),そこからホコリ等が胴内に入るのを嫌ってか,和紙片などで孔にフタをしていることがある。最初は同様の意図から,前所有者が紙片を詰め込んだものと考えたが,かき出してみると――

半月内部の清掃
1.新聞紙もしくは雑誌頁の欠片 10片
   (うち1片には印字あり)
2.厚紙,もしくは美濃紙をはりあわせたもの。
   5mm 角
3.鼠糞 3個
4.綿ほこり
5.木屑

という内容で,人為的に詰め込まれたものではなく,周縁がギザギザになった紙片の形状から察してネズミが巣作りの際に運んだものと思われる。また,横置きの状態では糞がここに自然に入るということは考えにくいので,この楽器は一時,斜めか,立てて置かれていたに違いない。ネズミの咀嚼痕が,左肩表裏両面,同様の箇所に付いているのもそのせいか?

  なお,異物除去のあとで半月内部を確認したら,上に触れた「小孔」が見当たらない。(・_・)? ハテ



 STEP1 裏板ひっぺがし

  現状,裏板にはハガレもウキもなく,その接着の工作は,ほぼ「完璧」といえるほど見事なもので,これをへっぱがすなどという行為は,非常に心苦しいッす。 表板のほうなら,ハガレたり浮いたりしている箇所があるから,へっぱがすことだけ考えるなら,こちらのほうがラクそうなのだが,表板にうかつに手を出すと,のちのち音に悪影響を与える危険が大きいので,なるべくなら補修,補強程度にとどめておきたい…そうすると,やはり裏板にギセイとなってもらうしかなかろう。┐(- _-)┌ フッ…

  裏板左下にわずかにあった「ウキ」とも言えないような隙間に刃物を挿しこみ,ムリヤリこじあけますた。
  あ~,職人さん m(_ _)m ゴメンナサイ!

4号月琴・内部所見

4号月琴' 05.12.26 現在
◎ 側板:厚・最大 11mm/最小 5mm。

  * 内周には鋸目が細かく残る。鋸目は糸ノコのまだなかった時代,こうした曲面を材から削りだすのに一般的だった「回し引きノコ」のもの。 高級な三味線の胴裏などに施される「綾」のような効果を狙って,意図的に残されたものか,単に内側で見えないのでそのままにされたものかは不明(個人的には後者の意見だなー(^_^;)。)。

◎ 桁: 2本,単板,厚 7mm 長 a.330mm b.260mm。

  * 今度こそ,だと思う(w,3号月琴の記事参照)。 表面の加工が粗く,材取りもさほど良くはない。

  * 二本桁だが内部を均等に3分しているわけではなく,上の桁は真ん中よりやや上(胴端から145mm),二本目はちょうど,表板の半月の真下に位置する。また,二本目は両端を斜めにそぎ落とし,胴材内部に接着してあるだけ。

4号月琴内部・上下桁   * 上桁の音孔(?なのかな?―これについても,3号の修理記事,桁の修理の項目参照)は,棹基部のほぞ穴を中心に,左右に二つ(いづれも長 100mm 幅10mm ほど,楕円形)。下桁のものは真ん中に一つ。長 160mm 最大幅 20mm ほどもあり,面板に接している部分は幅 5mm に満たないくらい細い。いづれも穴あけの工作は雑,また材料も悪いので扱いには注意を要するだろう。

  * ひっぺがすときに上桁左に小ヒビ。(^_^;)>ごめん。

** 上桁が穴二つ,下桁が一つのこの形式は,2号月琴と同じ。 **

4号月琴' 響き線(1) ◎ 響き線:1本。鋼線,線径 0.8mm ほど。
4号月琴' 響き線(2)
  * 基部より 30mm ほどから,上桁の棹基部の突き出しの真下を頂点とする,ゆるく浅い円弧を描く。基部から円弧の端まで 270mm。線長 330mm 程度。
  * 基部を胴側板裏に接着された台形の木片につきさし,サワリでもある竹釘で留めている。
  * 小サビ浮くも,ごく表面のみ。軽くサビとりののち,油拭き等でじゅうぶんに再生するものと思われる。



◎ 棹基部,ならびに延長材

棹と胴体の取付部   * この部分の工作はじつに丁寧で,美しい。棹材にV字形のキレコミを入れ,ヒノキの延長材を継いでいるのだが,両材ともにきっちりと整形されていて,継ぎ目にもスキマがない――おしむらくはこの延長材,何かの端材を使ったらしく,真ん中にクギを抜いた痕が見えるなあ,これ無かったら100点!

  * また,ふつうは胴材の穴が大きめで,そのスキマにくさび状に削った木片や,多めのニカワを埋めこんで,棹の取付を調節しているものなのだが,この月琴の取付部はじつにスッキリとしていて,そういう補填材は見られない。ここからも作者の技術の高さがうかがえる。

** よくみると,棹基部の上に,何か書いてある。取付の指示符号などではなさそう。作者のサインかもしれない。





所見結果・気がついた特徴など

 サイズ上は3号とほぼ同じ小型月琴であるものの,棹がわずかに長く,第4フレットの痕跡は棹上にある。このくらいのサイズの小型月琴では,第4フレットが胴体の最周辺か,ちょうど胴体と棹の継ぎ目上にあることが多い。
 上記長い棹や,糸倉および軸の形状は,明治後期の作に多い特徴である。
 胴側板および棹はかなり濃い茶色に塗られている。塗料の粘度が高く,また質も悪いためか,ところどころで塗りはやや荒く,蓮頭・糸倉の横など,木目が完全に埋められておらずザラザラとした仕上がりのところが多い。
 胴側板・棹ともに材質は不明であるが,唐木のたぐいではない。おそらくは国産の広葉樹(桑かサクラ?)。 ニカワが劣化して,実質的にはたがいに接合されていないようだが,接合部の食い違いなどはほとんどなく,材そのものにも歪みや反りは見られない。
 表面板は柾目ではないが,かなり木目を考えて選ばれていると思われる。おそらく四枚剥ぎだと思うが,工作が良いため,継ぎ目を見分けることが困難。表板には一部にハガレが見られるものの,裏板接着の工作などはほぼ完璧で,ウキ箇所一つ見えない。
 第5~6柱間の距離がやや広いか? またヤケ痕やニカワ付けの痕跡が見られないことから,この楽器には通常ここにある扇飾りが,初めから付いてなかった可能性がある。
 半月に糸尻が残り,絃停が張り替えられているなど,何らかの用途に使用された形跡はあるが,山口には糸溝が切られておらず,胴面に撥痕等がほとんど見られないことから,「楽器として」本格的に使われたものであるかどうかについては,多少疑問が残る。


 STEP2 絃停をとっぱらう

絃停除去・ノリ痕とりのぞき作業中   ふつうは こういうもの が貼られます。 皮革表面に使用痕がさほど見られないことなどから見て,後補のものと思われるし,何しろ見た目が悪すぎる,これはとっぱらってしまいたい。

  皮も厚いし,さほどしっかりへっついてないようなので。刃物で四隅を持ち上げて,色んな方向から,少しづつはがし,そのあとを絞ったタオルで湿らせてふやかして,残った皮裏と糊のカスを刃物でしごいて取り除きました。 刃についたものから見て,ニカワでなく米糊の類でへっつけてあったようです。

■ ついでにヨゴレの状態の確認も兼ねて,表板の全体を第一次清掃。
  今回はヨゴレ,それほどヒドくないようですね。
  ペーパーがけと軽いエタノ拭き程度でかなりキレいになりました。   ('05.12.26)


 STEP3 側板の再接着と補強

  月琴の胴体は,基本的には表裏二枚の「面板」と,四枚の側板でできております。
  この側板は,まれに蟻継ぎなどで接合しているものもありますが,たいていはこの4号と同じように,互いの木口と木口とを,シンプルにニカワで接着してあるだけ
  だから,けっこう弱い。
  衝撃を加えるとカンタンに割れるし,年月がたって木材の伸縮がくりかえされるうち,ニカワ自体がボロボロに劣化して無くなってしまったりもします。

  今回の4号の接合部も,ニカワがついていた痕の染みがあるだけで,粉すら残っていないといったありさま。表裏の面板がしっかり接着されているおかげで,一見分かりませんが,ようするに現在,この月琴の胴体は側部は,繋がっていない,部材がバラバラの状態であるわけです。

側板接合部・作業中 ■ というわけで,まずは接合部の再接着から。

  接合部の表と裏から,隙間にちょっとゆるく溶いたニカワを流し込みます。
  つぎにニカワが隙間全体にゆきわたるよう,(コワれないていどに)部材をウニウニと動かします――ふう…なんとか。
側板再接着・作業中   ただ再接着するならこれだけでも良いでしょうが,さらに接合部の裏に和紙をはりつけて補強。薄くて丈夫な和紙を,目が交差するように二枚ばかり,接合部にニカワで重ね貼り。貼りおえたら上から筆で何度かなぞって紙をなじませ,空気を追い出します。
  紙をはるだけのことですが,この紙+ニカワが乾くときにぎゅッと縮むので,接合部が密着して,より強固に接着されたりもします。こういう曲面のもの同士の圧着は,クランプをいっぱい使っても難しいものなのですが,これをたかが二枚の紙切れがやってくれるわけで。 う~ん,経済的。
  また,何せ紙ですから,後の修理の時にも取り去りやすいかと。

  乾いたら,防湿と防虫(接合部のニカワを狙って虫が食いやすい),強化を兼ねて柿渋をなんどか塗り,ウルシ塗料を軽く刷いておきましょう。
■ 同時に表板のハガレてる部分も接着。

  …つか,実はこれ,後で別作業としてやるつもりだったんですが,部材をウニウニしているときに,ニカワがドバっと流れてしまいまして,もったいないのと,そのままだと中途半端なカタチでくっついてしまいそうなので,急遽,流れたニカワを筆でのばし,クランプではさみこんでくっつけてしまいました。 ケガの功名か,ニカワの量なんかちょうどよかったようです。


 STEP4 小さなことからコツコツと

表板・ナゾの穴ぽこ   細かいところをいろいろとやっておきましょう。

■ 表板のナゾの穴ぽこ埋め。
  虫食い穴にしてはずいぶん大きいが,節穴にしては小さい。(8×4mm)  穴の中には何かマユの切れ端のようなモノがひっかかっていましたが,それが犯人のものか,たんに後から穴に入り込んだものなのかはちょっと判かりません。穴自体はずいぶんすべらかなものです。
  ともあれ。端材入れから桐の切れ端をとりだして,ちょいと削り,ニカワをちょと塗って押し込み,余った部分をしんちょうにヤスリがけ。
  ちょっと色が違ってしまいましたが,もともと目摂(表板の飾り)が付くところなので,さほどには目立たないかと。


山口三面 ■ 山口さん取外し。
  目摂や柱はカンタンに外れたんですが,この山口だけビクともしません。 山口さんの周囲に筆で水を含ませて2時間,ようやく外れました。
  単なるカマボコの縦切り型ではなく,棹に接するあたりでキュッとすぼまっているところが,ちょっと洒落た形ですね。

山口取外除後・m(_ _)m ** あまりにガンコな取付けだったもので,外すとき刃物がオーバーラン(→)。指板をちょいと削ってしまいました m(_ _)mスマソ!オリジナルの匠様! めくれたところにニカワを塗って元にもどし,そっとペーパーがけをして平らにしておきました。後でベンガラ柿渋塗って,なんとか誤魔化せるでせう。


半月補強 ■ 半月底部の接着補強。

  半月の円周部分に,少しだけスキマができていました。半月自体にグラつきはなく,おそらくはその周辺のニカワの脱落によるものだと思われますが,力がかかる部分なので,念のため補強しておきましょう――と,いっても,スキマにニカワを流し込み,ぎゅっとおさえつけてやるだけです。楽器の工具なんかには,こういうことをする専用のクランプがあるのですが,¥100屋のふとん干し用巨大洗濯ばさみで代用。 力がいる場合はこれに太輪ゴムでもかければよろしいでしょう。



目摂・修理中 ■ 目摂の補修。

  ネズミがかじってエグレたところ,欠けたところを補修します――単純な欠損なら,木片を削ってハメたり埋めたりできるんですが,あまりに細かくて複雑で,とてもやってられません。
  そこで今回は,最近流行りの「木から作った」となん自然素材系パテを使ってみることとしました。主原料が微細な木の粉末。指物なんかで使う木屑漆(こくそうるし―オガクズを漆で練ったもの)の現代版といったとこでしょうか?
  右の方は被害が数箇所ですが,左の方はひどいですねー。下半分,ほとんどサイボーグ状態となってしまいました。こっちのが美味しかったのかな?
  乾いてから互いのモールドを参考に,ヤスリやアートナイフで整形。そのあとパテを盛ったあたりにベンガラを塗ります――木目に似せてヤスリ目を残しておくとか,綿棒でぬぐって,わざとムラにするとか… ┐(-_-)┌ フッ …誤魔化しばかり,上手いオトナになっちまったもんだ。


 STEP5 裏板再接着

裏板再接着   さて…この作業が終わったなら,もう半分直ったようなもの――いよいよ裏板をふたたびへっつけます! カンペキにへっついていたものを,ヘボが無理無理はがしたんで,あちこちスキマやらカケやらができてしまっておりますが,もう過去はふりかえりますまい。

■ 再接着。

  板,本体の接着面に,あらかじめ,ぬるま湯を含ませておきます。ついでニカワをハケでぬりたくり,クランプではさんでくっつける…言うは易いが行なうは難し,の実例ですね。
  ですが,今回はつぇえ新兵器「ドライヤー」サマがあります。
  最初に4~5箇所クランプでとめて,位置あわせをしておきます。
  つぎに残りのクランプ総動員で,ある部分を集中的にしめつけ,ニカワがぶじゅる,とあふれてきた加減を,ドライヤーでもって強制乾燥――あとは少しずつ位置をずらしながら,それをくりかえします。
  写真(上)はその作業,最後のあたり。
  写真(下)は作業終了――ふうぅ…ε- (~、~A) けっきょく3時間以上かかりました。
  クランプを均等に配置して,あとは一晩ぐらい放置プレイです。
  ドライヤー様のおかげもあって,誤差 0.2~0.3mm ってとこかなあ,上手くいったほうだとは思いますが,何度やってもぴったりきっちりにはなりませんわ。

糸倉補修 ■ 糸倉の補修。

  ちょうど裏向いてるし,しばらく動かせないんで,この間に糸倉の補修もしておきましょう。(→) 一番上が元の状態。ちょっと白っぽく見えるところが,ネズのカジ痕。
  糸倉の根元のところのがちょっとヒドかったですねー。下二枚,修理後。ヨク見ないとわからんでしょう――昨日の目摂の修理と同じやりかたです。


おまけ3・裏板の染み
裏板の染み   今回の作業やってて気がついたんですが,裏板のちょうど棹の真下あたりのところに,赤っぽい染みに囲まれた,四角い日焼け痕があります。(写真上)

  この部分には写真(下二枚)のような赤いお札がよく貼られています。こうした刷り物になっているのは作者や店の名前のようです。
  寸法や形から推して,たぶんこの月琴にも,これらと同じようなものがはられていたのでしょう。
  このお札にはほかにも,所有者があとで,漢詩の一節を書いてはりつけたものや,論語や易経などの本から,お好みの一節を切り抜いてはったものもありました。 この行為のもとが,どういう由来,動機によるものかは,今のところちょっと不明ですが,たぶんエレキなんかで,バンドのロゴとか,メーカーのシールとか貼りつけるやつ――あれと同じかもね。





おまけ4・裏板の書き込み
裏板墨書   ■ 裏板の補修中,楽器右肩あたりに見つけた墨書です。

  なんでしょうねえ?……カタカナで「フニ」「スニ」のように見えますが――何かの符号なのか,それとも誰かの名前なのか。内部の調べのとこでも述べたように,取り付けの目印や符号はぜんぶエンピツ書きでしたから,たぶん前所有者の書だと思いますが。
  裏板には,穴ぽこ埋めるほか,さほど手をかけません。これもまた,思い出といっしょに,そのままとっておくことといたしましょう。


 STEP6 ネズかじ補修

耗子喫了的 耗子喫了的・補修   北京の方言で,ネズミのことを「耗子(ハオツ)」と申します。清代の学者先生は「什器を齧って耗(へ)らす」から,そう言うのだと説明しておりますが,まさにその通りで。
  ただ,今回のネズちゅう痕(写真:棹左側/半月直下周縁部)。3号月琴にあった思い切りの良い齧り痕に比べると,とにかく浅く,細かい――ネズミの種類の違いでしょうかね?
  齧り痕に合わせて板を削り,はめこむのが常策なのですが,あまりに浅く,ちょー複雑なので,いくら細かい作業が好きとはいえ,ワタシの手には負えません。

  はじめは例の新素材パテで埋めてみたんですが(右図最上)。
  かなり目立っちゃいますねー。

■ んで,大きくて目だつ二箇所に,もう一手加えてみました。

  作業工程は右図2の通り。
  パテで埋めたところを,リューターで階段状に削りとり,表と木口面から桐板をニカワでへっつけるわけです。平面が多い分なんぼかカンタン,これならボクにも何とか出来そう。
  で,右写真下2枚。まあ,前よりははるかにマシかと。


 STEP7 修理再開

  さあ,修理を再開しましょう。
  裏板をつけて,あと少しで音だし,という段階でいるのに,もう半年近くものっぺらぼうでぶらさがっているなんて…この間,同じ頃にはじめた松音齋,おりょうさん,と修理は終わり。1号3号の改修,ずっと後の5号鶴壽堂でさえ,もう仕上げ段階に入っています。
  これじゃホントに放置プレイだ。

■ とりあえず,お飾りでも彫っておきましょうか?

  購入当初から,この4号には扇飾り――5・6フレット間にある飾り――が付いていませんでした。該当箇所に小さな染みはありましたが,ニカワの痕とも,部品がついていたことによる日焼け痕とも言えないようなかすかなものでしかありません。
  もしかすると,この月琴にはもともと付いていなかったか,あるいはかなり以前に脱落してしまっていたのではないかと思われます。
  まあ,無ければ無いで何だかサミシイ気もしますので,修理再開のふんぎり記念として,ちょっと凝ったのを作ることといたしましょう。

扇飾り製作
  絵柄はコウモリさん。
  前にも書きましたが,これが丸い物体に付くと「福在眼前(シアワセは目の前!)」というお目出度い意味になります。コウモリ(蝙蝠・ピェンフー)の「蝠」が「福」,月琴の丸い胴体をお金(眼銭=眼前)に見立てているわけですね。
  明治時代の国産月琴ではシルエットは似てるんですが,コウモリじゃなく,真ん中で束ねられた唐草のような帯の文様になっているものも多く見かけます。これは真ん中の部分が「まんじ」で,帯だから「萬代(=萬帯)」という意匠の一種だと思います。2号と鶴壽堂には,ほとんど同じこの型の扇飾りが付いていました。蓮頭の意匠をコウモリにして,ここをただの花唐草文様にしている例もけっこうあります(松音齋などがそう)。

  今回は,この二つのポピュラーな意匠を混ぜちゃいましょ。

  お手本は2号のオリジナルお飾り(萬代模様,下段新作の左手に見えてる)。これの大きさ,外枠の輪郭と,文様のシルエットを参考に,中身をコウモリにしちゃいました。

  材はアガチス。
  板に絵柄を書き,透かし彫る部分にドリルでいくつも穴をあけ,アートナイフや切り出しで広げてゆきます。 模様の輪郭をリューターで彫ったら,外側を切り出し,さらに細部を修正。 このとき裏に和紙を張っておくと,細かいところが壊れにくくなって作業がしやすい。
  最後に柿渋+ベンガラを塗ったくります。
  今回は左右の目摂に色を合わせて,ちょっと赤っぽく仕上げてみました。


 STEP8 苦難のヒビ

  暮れに届いて,1月に修理をはじめ,月のうちに本体の修理は終わっていたのに…そのアトがいけません。そもそもの間違いは,この月琴の表面に塗ってあった塗料を,ウルシの質の悪いもの,と決め付けたところ。

  日本リノキシンさんによれば,明治時代,漆器の需要が急激に増えたころ,ウルシの色に似せた「偽ウルシ」,一種のオイルニスがさかんに使われていたらしいんですが…4号のあの赤茶色の塗料は,どうやらそれであったようです。

  とまれ,じっさい棹と側板は,塗装表面の保存状態がかなり悪くて,クリーニングだけではどうにもならず,塗りなおしが必要ではあったのですが――

1)1月 下地のベンガラ塗り失敗。思ったような発色が出ず,木がうまく染まらない。
2)2月~3月 塗装に本ウルシを使用。全身カブれて断念。
3)4月 オイルヴァーニッシュ試用,紫外線硬化のため外干ししたところ,表板にヒビが入り断念。

  というような大小の失敗をくりかえし,あーでもない,こーでもない,と色んな塗料やら顔料やらを塗っては剥がし,塗っては削り取り――楽器にずいぶんと可哀想なことをしてしまいました――反省。
  とりあえず木部をキレイにしておいて,下地にシェラックニスを塗り,5月に入ってようやくふんぎりがついて,トップコートに現代版「ニセ漆」として名高いカシューを使用することに。そこに到るまで,いろんなサイトを覗き,楽器に使用する塗料について勉強させていただきました。ほんとーに,ありがたい時代になったものです。

塗り工程
■ 塗装工程

  一番上が下地の状態。シェラックニスをさらに数度塗り重ね,中塗りまでしてあります。二番目,カシュー塗り第一段階。なるべく薄い塗膜で色に深みをだしたかったので,ゆるく溶いたカシューを塗っては磨き,塗っては磨き。三番目の色合いになるまでまで,7度ほど塗り重ねました。

塗り工程2   色具合が頃合になったところで一週間ほどおき,塗膜をよ~く乾燥させてから,木部全体を#2000の耐水ペーパーで水砥ぎし,塗装の凸凹を均します。
  (←)ツヤ消し状態になりました。
  これを研磨剤をつけた布キレで磨いて,塗装作業終了!
  磨いたんですから塗膜は薄くなったはずなんですが,塗りっぱなしでテラテラしていたときより,かえって色濃く見えるような気がします。


■ 仕上げ作業

フレット   今回のフレットは,オリジナルの煤竹のフレットの色合いに近い,紫檀と象牙のコンパチにしました。3号と同じです。
  オリジナルも参考に高さを設定しましたが,全体にかなり低めですねー。
  四角い細棒状に切った紫檀に,これまた細棒に切った象牙をニカワ付けし,チューナーで位置を決め,高さを調節して整形。シェラックニスを塗って,一日おいてから磨き,最後にもう一度チューナーで測りながら位置を修正し,ニカワで貼り付けます。

  お飾りを貼り付け,内絃を張って糸溝を切り,6月15日,ついに修理完了いたしました!


修理後・所感

4号修理完了!
●製作時期等について
  確証はないが明治末期の月琴と思われる。
  明治以降の作であることは,例によって内部に残る目印等がエンピツ書なところからも知れる。サイズ的には江戸期からあった小~中型月琴の寸法をほぼ踏襲しているが,棹がやや長く細身なこと,山口側に向かってすぼんだ糸倉側面の形状,軸の細さといった形体上の特徴は1号・5号に近く,また表面に塗られていた粗製な「偽ウルシ」の流行時期などから考えても,古作ではないことは確かである。

●工作等について
  棹基部に書名らしきものが残るが,裏板のラベル等脱落のため,工房・職人名は不明。内部桁の工作にややアラがあるところから,簡単な部品を作る手伝いていどの者がほかにいたかもしれないが,本体の加工には統一性があり,部材の加工から組上げまで,ほぼ一人の手によるものと思われる。工作技術は高い。
  保存状態からきたイタミはあったものの,材どりからニカワづけ,糸倉や棹基部の流麗な加工…ともにいままで手がけた月琴の中でも,その工作精度は極めて高く,また美しい。
  はっきり言って,この作者にはかないません。まったくムリ。

●保存状態・以前の修理等について
  全体にやや華奢に見えるが,造り自体はしっかりとしており,演奏可能な楽器として作られたものであることは間違いない。だが,面板上に使用痕らしいキズがほとんど見当たらず,また山口に糸溝が刻まれていなかったことなどから考えて,おもに「お飾り」として使われ,実際に音楽演奏に使われたことはほとんどなかったものと思われる。
  本体に修理の形跡はない。絃停のみ後補の部品であるが,その材質や加工などから考え,これも「演奏のために」付け直されたものではなく,カタチだけのものであっただろう。

** 器体オリジナルの工作は素晴らしいものであったのに,このヘボちんがあちこちいぢくりまわし,本筋の修理とは関係のない,実験的作業・余計なこともイロイロとしてしまっているため,その影響が今後どのように出るのか,今のところそれがイチバン心配である。

● 操作性について
  馴れの問題もあるだろうが,器体がきわめて軽いため,現状少しバランスがとりにくい
  小型月琴では,わたしのように立てて弾くと,演奏中に一番下の軸に左手の甲が触れてしまうことがママあるのだが,この月琴は棹も糸倉も長く,軸も深い位置にあるため,それがあまりない。この点は有難い。
  棹の太さ・形状については好みだが,ふだん弾いている1号によく似ているため,わたしの場合は問題はない――てか,好みのタイプ。
  響き線の加工が良いのか,かなり揺すってもノイズは出にくい。
  フレットが低いので連続音は出しやすいが,やや音が浅くなりがちなので,伸びる音が必要なときには,糸を少し深くおさえこむ必要がある。

● 音色について
  フレット工作のため,単絃で弾いていた時には,さほど大した音でないと感じたのだが,複絃にしてみるとけっこう大きな音が出ている。5号ほどではぜんぜんないが,1号・3号よりは大きい。
  響き線は低音側でより効きが良く,重く太い音が出る一方,高音側はやや弱く,どちらかというとサスティンの浅い,軽やかな音である。   このため音のバランスに少し考慮して演奏する必要がある。また,フレット高の影響もあり,音の伸び・深みの点ではやや物足りなさを感じる。さらに音が短いわりには,響き線の効果が強すぎるのか,強く弾くとドライヴのかかりすぎたような,多少耳の奥にイタい残響がある。
  総じて言うと,月琴としての音色自体は,鶴壽堂や松音齋に比されるようなものではない。音は華やかではあるが軽く,しっとりとした曲にはあまり向かない。
  だが,低音・高音を混ぜ弾いたり,高音絃でのメロディ弾きの合間に低音開放絃を積極的に入れるなどした場合は,音色の差が逆に良い効果となるなど,実際の演奏においては意外と個性的で面白い。



  (追加事項 06.06.20)   わーい完成だ~。
――ということでさっそくその週末,近所の公園へテストを兼ねて出かけ,一日弾きまくってました。音は軽いですが,外で聞くにはなかなか面白い響き。弾き心地は悪くなかったです。
  お池のそばで夕方まで弾いて,いい気持ちで帰ってからふと気がつくと,山口がこう,グニャっと…斜め15度くらいにズレてました。
  原因はカシュー塗装のツルツルの上からニカワ付けしたこと。接着後一週間は経ってたんですが,木部に染みこめなかった接着部は,完全に固化できないまま層になっていて,外での気温や湿度でユルんだようです。
  力のかかる部分なもので,山口さんはズレるついでに周囲の塗膜を道連れ,あたりはシワやらヒビやら,地すべりの崖面みたいにされてしまいました。

――泣くもんか!

  てわけで,まずはズレちゃった山口を取り除き,山口の載る部分の塗装を木地まではがしてから,周囲の塗装のハガレを除き凸凹を均して,山口を再接着,まわりを再塗装。
  用心のため今日まで置いて,糸を張ってみたんですが。
  今度は大丈夫なようです。
  ああ…また酷い目にあわせちゃったよ。


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