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ナゾの中国月琴

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斗酒庵 中国月琴を直す 之巻 2004.12月 中国月琴

STEP1 まず,所見。

  最初その形状が明清楽のものとも,わたしの知っていた現在の中国月琴とも異なっていたため,「ナゾ月琴」と命名。以下そのときヘンに思ったところ:

○ 胴体が小さく(径30cm),表裏の板で側板をはさみこむサンドイッチ構造(明清楽のと同じ)。
○ 胴側板外面にアールがついている(あまり見ない)。
○ 琴頸(ネック)が細いが短い。
○ 糸倉(糸巻をさすところ)の反りが通常の月琴と逆。
○ 琴頸が胴を貫通せず,中央の仕切り板のところでとまる。
○ 胴内に「響き線」が仕込まれている。
○ 柱が10本。
○ 半月がほぼ完全な半円形。

  「広東音楽で使う月琴か?」「今の月琴への進化途上の試作品?」「少数民族の月琴?」など,色々と御意見をいただいたり,考えてみたりしたのですが,調べた結果,解放前に一般的だった中国月琴は,こういう形をしていたんだ,ということが判明。現在の中国月琴の,御先祖様ですね。
  明清楽の月琴ばかり追いかけてたもので…浅学恥じ入るばかり。
ナゾ月琴・購入時
ナゾ月琴・ネック



STEP2 修理箇所の確認。

要修理箇所   「壊れて部品不足の月琴」といって売られてたので,相当カクゴしてたんですが,届いてみると,それほどヒドくもなかったです。   無くなっていた部品は軸一本。
  しかし,この楽器は絃三本で弾くことも多いので,はじめから無かったのかも。その他,主な要修理箇所は以下のとおり:

○ 左側板下部から下の側板。
  ▲ 塗装のヒビ,ハガレひどく,木地まで露出。
  ▲ 接合部ハガレ,板に少しユガミ。
  ▲ 同部付近 表板ハガレ,少しく浮く。
○ ネックの接合あまく,すぐ抜ける。
  ▲ 前所有者による修理あり。
  1.胴体との接合部に接着痕。木工ボンドと思われる。
  2.ナットの向きが逆。
    * 直角に切り立った面が,糸巻きのほうに向いています。
  3.第2柱後補。
    * 材質はオリジナルと同じ竹の板ですが,サイズも形状もてきとうで,なぜか赤く塗られている。
○ 表板左肩にヒビ。幅1.2mm 長さ10cm くらい。
○ 全体塗装面に小さなヒビ,ハガレ多数。



STEP3 では修理開始!

第一段階!   まず,いちばん重傷なところからまいります。

○ 左の側板と下の側板の接合部に出来たスキマ。
  △ ニカワを流し込んで接着。
○ 表板の浮いているところ,および浮きかけているところ。
  △ 一度切開して,古い接着剤をこそいでから再接着。
  △ 板の端が一部層のように剥がれたところは,木口から少し湯を湿し,薄めに溶いたニカワを含ませてから,板とクランプで圧着整形。
○ 接着箇所とその付近に,薄くといたニカワを塗り,和紙を貼り付ける。

  平面なら板とかではさんでやればいいのですが,月琴の胴体は丸いし,そのうえこの月琴の側板にはアールが付いているので,側板接合部に圧力をうまくかけられません。
  重ね貼りされたこの和紙は,乾くと両方向にぎゅっと縮んで,バインダーとかクランプの代わりをしてくれます。
  乾いたら,余分な和紙は紙やすりでこそげ落とし,残ったのはそのまま下地に埋め込んでしまいます。接合部の補強とか,ヒビだらけの塗装の剥落どめとかも兼ねているわけです。


STEP4 黄色い下地塗り。

下地塗り   つぎに,もとからあった,および,修理であらたに出来ちゃった塗装のハガレやデコボコを埋めてゆきます。   オリジナルは灰色の,もろもろとした粉のような下地が塗られていました。古琴だと漆に鹿の角の粉を混ぜたもの,ふつうの漆塗りだと下地には錆漆,砥の粉と漆を混ぜたものが用いられますが,どうもそんなのではないようですねえ。
  おそらく砥の粉の類を水で溶いて,泥みたいにしたものを,かなりぶ厚く(最大 2mm 近く)塗っているようです。増量のためか強度を増すためか(たぶん前者),棉ぼこりのような細かい繊維質のものも混じっています――剥がれた中から,人毛らしきものもハケン。
  同じように砥の粉を溶いたもので塗りなおしても良かったんですが,オリジナルの塗装が残っているところは,なるべくそのままにしときたかったんで(はじめは全部落として,一から塗り直すつもりだったんですが…くじけました),剥落止めも兼ね,砥の粉にニカワを混ぜて練った一種のパテを使用しました。
  修理箇所の補強として強度的には問題ないんですが,錆漆に比べるとちょっと湿気に弱い。とはいえ,どうせ上から何度も塗料を重ね塗りしますから,あまり問題ナシ。
  なにより黄色いので,次に修理する人が分かりやすいです。


STEP5 一段落と内部観察。

内部構造
  パテ自体はすぐに乾くのですが,下地が乾いて充分になじむまで,ちと時間があります。
  棹を取り付けてしまうと,もう中を覗けないんで,この機会に内部をじっくり観察しました。
内部構造2   1号月琴では ○に二の字 となっていましたが,この月琴は ○に一文字 の構造。しかも,真ん中の仕切りが一枚板ではありません。(右図参照)
  表裏板の真ん中,横幅一杯に厚さ5mm,幅1cm ほどの細板がわたされていて,その真ん中に10×2.5×1cmほどの木の板。中心に棹を受けるホゾ穴があり,その横に小さな穴が一つあいていて,響き線のハリガネが竹の釘でとめられています。
  穴からのぞいたくらいなので,響き線の先端がどのようになっているのか,はっきり確認はできませんでしたが,およそ上の参考図のようになっていると思われます。


STEP6 細かい作業。

  まず,真っ赤に塗られたナゾの第2柱。カタチだけくっつけたもので,実際の使用に耐えるものではありませんので,再製作。タモ材に竹を張ったコンパチ。高さは後で絃を張ってから微調整します。

  次にオリジナルのナットと,蓮頭(糸倉の上)の中心にはまってる飾りが,いかにも安っぽの成型プラスチック製なので,作り直すことに。

  ○ ナットを黒檀のブロックで再製作。
  大体の大きさに四角い棒を切り出し,前にギターを直したとき出た牛骨のナットを刻んではめ込み。オリジナルとくっつけて,高さや形を合わせながら削り出してゆきます。

  ○ 飾りはホオの木に彫刻,円く切ったもの
  オリジナルの絵柄は細かい花鳥図で,それを真似るのも面白そうだったんですが,「お月さん」ですからね。何か縁のあるものをと,モチ搗きウサちゃんに。多少モダンな絵柄になりましたが。

  どちらも小さい部品なので,指がキズだらけですぅ。

  ○ 次にテイルピース,半月の塗りなおし。
  オリジナルには,ナニやらゴミみたいなものがいっぱい混じった,すさまじいニス(?)が塗ったくってありました。明清楽の月琴では,この部品は堅い木で作られることが多いのですが,これは杉とかヒノキみたいな柔らかそうな木でこさえてあります。
左オリジナル・右再製作
半月

左肩ヒビ・ネック   ○ 表板左肩のヒビ
  桐の木をうすーく削いで,ニカワつけて埋め込み。余分なニカワの吸い取りと,接着部の補強に和紙を貼っています。このあと平らに整形してから,上に薄く塗料をすりこんで,湿気対策をします。

  ○ ネック接合部
棹加工中   上側板の穴と胴体中央のホゾ穴にあたるところに,板を貼りつけ。キツからずユルからず,するぴた,とハマるようになるまで削いでゆきます。
  わたしの1号月琴なんかでは,クサビはまして固定してありますが,中国の月琴のネックは,もとから取れやすくしているのが多いようですが,もともと棹を取り替えることなんてまずないし,音を考えるとあまり利巧なこととも思えないので,今回はかなりガッチリ固定してしまおうと思っています。



STEP7 下地の仕上げ。上塗り,重ね塗り,最後の仕上げ。

三面図
  下地がカチンコに乾いたら,余分なパテを削り落としながら,表面を紙やすりで平らにしてゆきます。
  砥の粉は粒子が細かいので,マスクしながらの作業。大陸でもないのに,部屋が時ならぬ 「黄塵萬丈」 の世界となってしまいました。表面を磨いてゆくうち,オリジナルの塗装のアラとか新しいデコボコに気がついて,また削りなおし,パテ埋めしたりしますので,けっこう時間がかかります。
  下地磨きが終わったら下地塗り。
  塗っては磨き,磨いては塗って重ねること4~5回。塗装面のヒビや細かいクボミ,乾燥中についた小さなホコリなども,このときついでに塗りこめたり,削り出したりしてしまいましょう。
  理想の仕上がりは「カガミのような」表面ですが,ま,細かいことは言わず,のんびり重ね塗りを。   仕上げ塗りとか,表板のクリーニングなどがまだの状態ですが,とりあえず形にしてみました。
  裏板右肩に,ナニヤラ灰色の線が走ってますが,板にもとからついてたか,あるいは加工のときについたキズを,例の下地材で埋めたものです。もっと目立たないパテで埋めなおしてもいいんですが,そのそばにこの月琴の資料的証拠になる「1955年 堺税関」の丸印と,手書きの「月琴」の文字がありまして手をつけにくく,そのままにしとくことに(手ヌキじゃないぞ!)。


12月末 修理完了!

  ほとんどは見えるところ。楽器表面の修理のみだったので,さほどタイヘンではありませんでしたね。ありがたや。

・ 修理作業により判明したこと

  ① 側板の材質はではないかと思われますが,不明。黒檀,紫檀,花梨あたりではないことは確か。
  ② 内部の仕切り板は,木目から見るに針葉樹。杉かヒノキ

  ③ 表板は,3枚ほどを横に剥ぎ継ぎ。日本のものより色が多少濃いですね。
  ④ 裏板の材は柔らかく,端が一部,湿気を吸って層のように剥がれていたので,最初はベニヤか何かだと思ったのですが,おそらく「楓」(カエデにあらず,フウという大陸の木)だと思います。こちらは単板。
  ⑤ 棹もの類かと。いちおう目の詰まった部材。胴内に入るところで > 型のホゾを切り,杉材を継いでいます。
    頭の飾りまで全部一本材の総彫りのようですが,ナットの乗っかってる部分とか,飾り板裏側の処理はかなり荒いです。もーヤケクソで削った,えぐった,って感じ。
完成

・ 弾いてみて

  音は明清楽のとかに比べると,硬い感じですね。
  胴体は小さいですが,わりと大きな,くっきりした音が出ます。
  ただ,絃が短いせいかフレットがやたらと敏感で,指の角度,力加減のちょっとした違いで,音が 1/4 音くらい,あっちゃこっちゃイッてしまいます。はじめはフレットの取り付け位置が悪いのか(中国楽器では良くあるハナシ)とか思ってたんですが,押さえ方によっては,ちゃんと音階を踏みます。
  「押さえる」というよりは「触れる」感じですね。
  明清楽のと比べると,メカニカル・キーボードとタッチパネルくらいの差でしょうか。それでいて指がちょっとでもズレると,ちゃんと音がでません。つまりは北斗神拳で秘孔を突きまくるように弾け,ということのようです。
  メロウな曲にはちと合いませんが,元気よくてテンポの早い,戯劇のタカタカ音楽なんかには良さそう。




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