ナゾの中国月琴
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STEP2 修理箇所の確認。 ![]() しかし,この楽器は絃三本で弾くことも多いので,はじめから無かったのかも。その他,主な要修理箇所は以下のとおり: ○ 左側板下部から下の側板。 ▲ 塗装のヒビ,ハガレひどく,木地まで露出。 ▲ 接合部ハガレ,板に少しユガミ。 ▲ 同部付近 表板ハガレ,少しく浮く。 ○ ネックの接合あまく,すぐ抜ける。 ▲ 前所有者による修理あり。 1.胴体との接合部に接着痕。木工ボンドと思われる。 2.ナットの向きが逆。 * 直角に切り立った面が,糸巻きのほうに向いています。 3.第2柱後補。 * 材質はオリジナルと同じ竹の板ですが,サイズも形状もてきとうで,なぜか赤く塗られている。 ○ 表板左肩にヒビ。幅1.2mm 長さ10cm くらい。 ○ 全体塗装面に小さなヒビ,ハガレ多数。 | |||
STEP3 では修理開始! ![]() ○ 左の側板と下の側板の接合部に出来たスキマ。 △ ニカワを流し込んで接着。 ○ 表板の浮いているところ,および浮きかけているところ。 △ 一度切開して,古い接着剤をこそいでから再接着。 △ 板の端が一部層のように剥がれたところは,木口から少し湯を湿し,薄めに溶いたニカワを含ませてから,板とクランプで圧着整形。 ○ 接着箇所とその付近に,薄くといたニカワを塗り,和紙を貼り付ける。 平面なら板とかではさんでやればいいのですが,月琴の胴体は丸いし,そのうえこの月琴の側板にはアールが付いているので,側板接合部に圧力をうまくかけられません。 重ね貼りされたこの和紙は,乾くと両方向にぎゅっと縮んで,バインダーとかクランプの代わりをしてくれます。 乾いたら,余分な和紙は紙やすりでこそげ落とし,残ったのはそのまま下地に埋め込んでしまいます。接合部の補強とか,ヒビだらけの塗装の剥落どめとかも兼ねているわけです。 | |||
STEP4 黄色い下地塗り。![]() おそらく砥の粉の類を水で溶いて,泥みたいにしたものを,かなりぶ厚く(最大 2mm 近く)塗っているようです。増量のためか強度を増すためか(たぶん前者),棉ぼこりのような細かい繊維質のものも混じっています――剥がれた中から,人毛らしきものもハケン。 同じように砥の粉を溶いたもので塗りなおしても良かったんですが,オリジナルの塗装が残っているところは,なるべくそのままにしときたかったんで(はじめは全部落として,一から塗り直すつもりだったんですが…くじけました),剥落止めも兼ね,砥の粉にニカワを混ぜて練った一種のパテを使用しました。 修理箇所の補強として強度的には問題ないんですが,錆漆に比べるとちょっと湿気に弱い。とはいえ,どうせ上から何度も塗料を重ね塗りしますから,あまり問題ナシ。 なにより黄色いので,次に修理する人が分かりやすいです。 | |||
STEP5 一段落と内部観察。![]() パテ自体はすぐに乾くのですが,下地が乾いて充分になじむまで,ちと時間があります。 棹を取り付けてしまうと,もう中を覗けないんで,この機会に内部をじっくり観察しました。 ![]() 表裏板の真ん中,横幅一杯に厚さ5mm,幅1cm ほどの細板がわたされていて,その真ん中に10×2.5×1cmほどの木の板。中心に棹を受けるホゾ穴があり,その横に小さな穴が一つあいていて,響き線のハリガネが竹の釘でとめられています。 穴からのぞいたくらいなので,響き線の先端がどのようになっているのか,はっきり確認はできませんでしたが,およそ上の参考図のようになっていると思われます。 | |||
![]() 桐の木をうすーく削いで,ニカワつけて埋め込み。余分なニカワの吸い取りと,接着部の補強に和紙を貼っています。このあと平らに整形してから,上に薄く塗料をすりこんで,湿気対策をします。 ○ ネック接合部 ![]() わたしの1号月琴なんかでは,クサビはまして固定してありますが,中国の月琴のネックは,もとから取れやすくしているのが多いようですが,もともと棹を取り替えることなんてまずないし,音を考えるとあまり利巧なこととも思えないので,今回はかなりガッチリ固定してしまおうと思っています。 | |||
STEP7 下地の仕上げ。上塗り,重ね塗り,最後の仕上げ。 ![]() 砥の粉は粒子が細かいので,マスクしながらの作業。大陸でもないのに,部屋が時ならぬ 「黄塵萬丈」 の世界となってしまいました。表面を磨いてゆくうち,オリジナルの塗装のアラとか新しいデコボコに気がついて,また削りなおし,パテ埋めしたりしますので,けっこう時間がかかります。 下地磨きが終わったら下地塗り。 塗っては磨き,磨いては塗って重ねること4~5回。塗装面のヒビや細かいクボミ,乾燥中についた小さなホコリなども,このときついでに塗りこめたり,削り出したりしてしまいましょう。 理想の仕上がりは「カガミのような」表面ですが,ま,細かいことは言わず,のんびり重ね塗りを。 仕上げ塗りとか,表板のクリーニングなどがまだの状態ですが,とりあえず形にしてみました。 裏板右肩に,ナニヤラ灰色の線が走ってますが,板にもとからついてたか,あるいは加工のときについたキズを,例の下地材で埋めたものです。もっと目立たないパテで埋めなおしてもいいんですが,そのそばにこの月琴の資料的証拠になる「1955年 堺税関」の丸印と,手書きの「月琴」の文字がありまして手をつけにくく,そのままにしとくことに(手ヌキじゃないぞ!)。 | |||
12月末 修理完了! ほとんどは見えるところ。楽器表面の修理のみだったので,さほどタイヘンではありませんでしたね。ありがたや。
・ 弾いてみて 音は明清楽のとかに比べると,硬い感じですね。 胴体は小さいですが,わりと大きな,くっきりした音が出ます。 ただ,絃が短いせいかフレットがやたらと敏感で,指の角度,力加減のちょっとした違いで,音が 1/4 音くらい,あっちゃこっちゃイッてしまいます。はじめはフレットの取り付け位置が悪いのか(中国楽器では良くあるハナシ)とか思ってたんですが,押さえ方によっては,ちゃんと音階を踏みます。 「押さえる」というよりは「触れる」感じですね。 明清楽のと比べると,メカニカル・キーボードとタッチパネルくらいの差でしょうか。それでいて指がちょっとでもズレると,ちゃんと音がでません。つまりは北斗神拳で秘孔を突きまくるように弾け,ということのようです。 メロウな曲にはちと合いませんが,元気よくてテンポの早い,戯劇のタカタカ音楽なんかには良さそう。 |