楓溪さんの月琴(1)
![]() 楓溪さんの月琴 ![]() 2面同時進行の二枚目はこちらの月琴。 コウモリさんとは違って,第4フレットが棹上にある,ややロングスケールの月琴です。 厚みを除けば,大きさはほぼ4号ちづるちゃんと同じ。棹は細いですが裏のアールが浅く,1号のようにほぼ直線に近い。糸倉の姿などから見ても明治後期以降,比較的新しい時代に作られたものだと思います。 時代がかかって黄色くなった象牙の山口とフレット,彫りの丁寧な目摂,凍石のお飾りも多くついていてキレイな楽器ですが,いわゆる「お飾り月琴」ではなく少し前まで実際に使われていたみたいで――証拠に,軸にも山口やフレット表面板にもちゃんとした(遊びでつけられたのではない)使用痕が見られます。 以前に持っていた人はこの楽器を本当に大切にしていたようですね。 部品は欠けなし。少しホコリがついてますが,保存状態は特上です。 作った職人さんもナミではありませんね。表面板の材はこまかな柾目。よく手を抜かれる裏板も板目ではありますが,厚みの一定な良い板を継いでいます。 接合部は単純な凸凹接ぎ。よく見るが,よくスキマが出来てしまう加工です。しかし――塗装されているせいもあるでしょうが,ちょっと目には継ぎ目がどこだか分からないくらい精密な工作で,カミソリの刃先も入らないほどぴったり,寸分の狂いスキマもない見事な腕前です。 響き線も澄んだキレイな音で鳴っています。おそらく2本入ってますね。 うう…胴体にアラがないので,裏板をあけて中を見れません。 楽器のためには喜ぶべきことなれど,何だかちょっとザンネン。 そしてそして,裏板には墨で絵が描いてあります! ![]() ![]() ![]() 芭蕉の葉に,香炉に,花…何でしょうねえ? 花じゃなくて「霊芝」かもしれません。 香炉の上の文字は「楓溪寫」,葉っぱの下のは「禅溪」かと。 絵を描いたのが所有者だったかどうかわかりませんが,ともかく命名。 「楓溪さんの月琴」でキマリです! |
修理前所見![]() 1.採寸 全長: 670mm 胴体:径 355mm 厚 38mm (うち表面板/裏面板ともに5mm) 棹:長 300mm (蓮頭をのぞく・うち糸倉 160mm/ 指板部分(山口-基部)138mm ) 絃長(山口-半月): 422mm ![]() ![]() ◎ 蓮頭:オリジナル。 *材不明。透かし彫り。下部左右にヒビ。修理痕。 ◎ 糸倉:損傷アリ。 *横から見て細く末広がりな明治後期の型。 *左最下の軸孔からヒビ。修理された痕跡はない ◎ 軸:4本存。オリジナル。 *松音齋と同じく一面に三本のミゾを刻む。細く短く,やや華奢なデザイン。 ◎ 山口:オリジナル。 *象牙製,糸溝や糸擦れの痕多数。使用感がある。 *材は花梨か? ![]() ◎ 棹:損傷なし。 *指板が山口の前で切れるタイプ。指板の材はカリンか? ◎ 柱:8柱全存。 *象牙製。第1・4フレットに修理痕。ニカワ少しはみ出す。 *第4フレット,加工不良?左右わずかに指板よりはみだす。 ![]() ◎ 目摂:左右存。 *意匠不明。玉蘭花(ハクモクレン)か? ◎ 飾り(中央):胴上のみあり。 *いまのところ指板上に飾りのあった痕跡は見られないが,この類の飾りがかつては棹上柱間にも付いていた可能性がある。上から花(蓮花もしくは牡丹,凍石),魚?(木),花(梅?凍石),花(蘭?竹?凍石),そして円盤状のものはおそらく鳳凰(凍石)。 ◎ 半月:損傷なし。 *おそらくカリン。98×40mm。高 10mm。 *糸孔の配置はV字型。糸で擦れて,糸孔が広がるのをふせぐため象牙が埋め込まれている。 ◎ 絃停:ニシキヘビの皮。110×81mm。 *やや横長で半月からはみだす。 ![]() |
![]() 軸を抜いてやるとほとんど見えなくなるくらいのごく細いヒビですが,軸を強く挿すとわずかに広がります。修理された形跡はありません。 1号やコウモリ月琴のように,パックリ割れていないのがかえってブキミですね。 こういうキズは後からジワジワと響いてくるもんで,今のうちにできることをやっておきましょう。 なにせ弦楽器の寿命を決めるのは,この糸倉ですからね。 今回の修理のメインはここ。 あとはちょっと棹が抜けやすくなってしまっているのを直すのと,全体のクリーニングくらいしかすることがナイなあ。 |