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3号月琴

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斗酒庵 小さな月琴を直す 之巻2005.5月~ 明清楽月琴(3号)

つい,デキゴコロで…

  去年暮れからの2号の修理,花咲いてとつぜんの1号の再修理も終わり,やれやれ,もうしばらく修理は御免だ…と,思っていた矢先。
  ついデキゴコロで,また一面,壊れ月琴を入手してしまいました。
  もはやこれは業かタタリか…今年はどうやら月琴の修理から逃れられぬが,サダメかな。

修理前所見
おもてうら
  ○ 寸法:全長 約620mm 胴面の直径 約350mm 厚さ 40mm (表裏面板 約6mm) 棹長 270mm 。
  ** 大きさとしては1号,2号よりは中国月琴(古)に近い。

  ○ 胴・棹:材質は檀木の類にあらず,桑とかクルミのあたりではないかと思われる。
  ** 桑よりは軽く感じるので,クルミかな? それともこれがウワサの「沢栗」――古書にはそういうので作る,と書いてあるものがありました――というものなのかもしれない。

  ○ 飾りの類は蓮頭を除いてすべて脱落,欠損。
  ** 接着痕もほとんど残っていないため,もともと付いていたかどうかさえ不明。

半月
  ○ 半月:丈低く(高 10mm),木の葉を半分に切った横長の形。
  ** 現存する明清楽月琴ではあまり見ませんね,ここまで横に長いのは…サイズがやや小さいですが,現在の中国月琴の半月の形に良く似ています。

  ** 明清楽月琴ではよく,糸穴が削れて大きくならないように,薄い象牙の輪がうめこんであったりしますが,それもありません。 糸穴が明清楽月琴で多い「V」字型でなく,現在の中国月琴で一般的な「ハ」の字型になってるのもはじめてですね。 ただ良く見ると,この糸穴は垂直ではなく,上から斜め前方に傾けて穿たれています。 糸を通しやすくするための細かな気遣い,というか工夫のようですが,明清楽月琴でも中国月琴でも,ちょいと見たことのない工作です。


蓮頭がわよりフレットを望む
  ○ フレット:一部残存。煤竹製と思われる。
  ** 竹のフレットは,現代の中国月琴でも,もっともポピュラーなものであるが,明清楽月琴のものは,工作が多少違っている。
   通常は肉厚の竹から,下図左のように切り出し,糸の触れる部分のみに皮を残したものが多いが,今回の月琴のフレットは右のように切り出し,左写真のように楽器のてっぺん,蓮頭側に皮面を向けて取り付けられている。
   断面を三角形になるように削りだす手間から考えれば,こちらのほうが容易いかもしれないが,かといって手抜きではないようで。竹の質も良く選ばれており,工作は精緻である。


フレット・図解

蓮頭・糸倉・軸・棹
  ○ 棹:山口(ナット)を置くところ右に小カケ。
  ** たいしたキズではなし。1・2号と違って指板が貼られていません。
    指板にあたる部分の長さ:143mm
    糸倉:長 140mm 深さ 56mm
  糸倉のカーブは馬橇のようでやや無骨ですが,ネック部分には,下部と左右わずかにアールがついていて,なかなか美しい。


  ○ 糸倉・軸穴:ともに損傷なし。
  ** 糸倉は全部削り出しではなく,二股に切り出し,てっぺんに別木をはさみこんだ寄木形式

  ○ 軸:オリジナルのものが3本残存。
  ** 1本は折れて軸先のみ糸倉に残るものの,ともかく軸が残っていたのは初めて。材質は胴材と同じか,もっと軽い木で,表面におそらく柿渋やベンガラを塗って染めてあるもよう。

  ** 軸と半月に,古い糸の切れ端が残っていました。白い絹製のもの。
  わたしはふだん,三味線の長唄用の黄色い絹絃を使っていますが,以前,某楽器博物館で見せていただいた,むかし京都で販売していたという月琴用の糸が,ちょうどこんな感じでした。


  ○ 蓮頭:オリジナル。中央に円形刻書。
  ** 檜材と思われる。全体を赤っぽく染め(おそらく柿渋),表面に黒で彩色。2号のもの(紫檀製・オリジナル)と比べるとやや大きく,厚みもある。

  ** 刻まれている字はたぶん「壽」。刀跡が多少たどたどしい。


内部構造(裏面から)
  ○ 内部構造:側板四枚,木口で接合。
  ** 胴材の最大厚は 約1.5cm もっとも薄いところで約6mm。 厚みは一定していないが,切り出しの鋸痕はかなり緻密であり,ニカワ付けも上手く,工作は良い。

  ○ 内部構造2:一本桁。
  ** 円の中央に一本桁をわたしただけの構造は,この手の小型の月琴には多いものだが,工作が,両端からV字の切れ込みを入れたものである点が多少珍しい(下にて詳述す)。材質は松(これはニオイで確実)*1

  *1 その後,音楽知り合いの大工の親方に鑑定してもらったところ,「てめぇ,マツとヒノキも嗅ぎ分けられねぇのかよ」とワロられてまいました。( ´,_ゝ`)  ×マツ→○ヒノキ。 (06.02)

  ○ 響き線:2本,直線。
  ** わずかに高さを違えて,半月の手前あたりで,触れないまま,交差するようにとりつけられている。鋼線は左右胴材の内側に埋め込まれ,根元に釘を打ち込んで留めてある。

  ○ 内部構造3:棹基部,はさみこみ型,クサビうち。
  ** 棹材の基部は巾 23mm 長 45mm 厚 14mm。 横から見て先から 35mm ほどのところまで,かなり鋭角なV字型に切って,別材をはさみこむように継いでいる。 継いでいるのはたぶん杉だと思うが,かなり目が詰まったもの。 側板のほぞのところにクサビとして別材の板がはさみこまれている。 桁との接合部手前に,垂れた痕があるくらいで,接合部分各所には,やや多めのニカワがたっぷりと塗られ,かなり頑丈に固定されている。

観察結果・修理予定

響き線根元・釘
  1.内部に墨を使った下書きや,線が見受けられること。
  2.「響き線」をとめている釘が四角釘(右写真)。
  3.木部の劣化・乾燥具合。

――などから考えて,もしかするとお江戸の時代…少なくとも明治初くらいの,かなり古い作なのではないかと思われます。

  とにかく汚れてはいますが,全体に見て,さほどヒドい破損箇所というようなものは今のところ見られません。キタなくてよければ,このままでフレットをたてて,糸を張れば,いちおう音は出るでしょう。

  まあ,「音楽」する,となると,そういうわけにもいきませんので。

  修理の必要ある箇所は以下の通り――

  1.側板(表から見て)左肩部接合部にハガレ。対角線上の右下接合部かんぜんにハガレ。
  2.右下接合部より左方向へ表板ハガレ,部材の4/5,長さにして20cm ほどまでに達する。
  3.内部桁(棹側から見た面の)左上腕部分,折れ。 材質,工作悪し。要再製作・交換。
  4.響き線,サビあるも軽度。(サビとり,油拭きで再生するものと思われる。)
  5.表板右と左下にネズミにカジられたあと。やや深し。
  6.表板,側板に虫食い穴,十数個。直径はいづれも1mmほど,いづれも軽症。
  7.蓮頭:左上部にカケ。わずか。

仕切り板
  ヤマはこの部品だけですね。まんなかの桁,仕切り板です。

  もともと何かの端材を切ってこさえたものらしく,表裏で色が違ってたりします。内部の観察から考えても,表のヨゴレはこの月琴の中でついたものではなく,もともとこの板についていたもの。色とかからすると,戸外に長年さらされてついたような感じなので,戸板か壁の羽目板,もしかするとドブ板みたいなものの切れ端なのかもしれません。


仕切り板・損傷箇所
  裏板をひっぺがすとき,カンタンに折れてしまいました。
  それもそのはずで,この腕の根元部分,上下にちょうど節がわたって,スカスカになっております。これじゃあもともと強度はないも同然…ぷんすかヽ(*`Д´)ノ。
  写真でもお分かりになれましょうが,鋸目が完全にオーバーラン。単に切り目を左右4本入れて,真ん中部分を引きちぎったみたいで,工作はたいへんに雑です。

内部構造・1号   左は1号月琴の仕切り板,ふつうはこんなふうに,棹を固定するほぞ穴をはさんで,左右に楕円形の穴を穿っているものが多いです。
  1号,2号の場合は,胴体内部のせまい空間いっぱいに,音を響かせようという工作と思われますが,以前見た私設楽器博物館所蔵の一面では,楽器の肩の裏側から伸びた響き線が,この穴をくぐり,半月の下まで通っており,穴はハリガネのある側,片方だけしか空いていません。

  この穴の実際の効果というものも,ちょっと計測したことがありませんし,まだ多少実見不足なため分かりませんが,ほんらい音響のためだった,とは断言できない面もあるようです。


修理開始!
5月31日
○糸巻き製作。
  本体にあまり重傷なところがないので,今回はけっこう気楽にいきま~す。

  一本だけなくなっている糸巻きをこさえます。
  ほか3本のオリジナルの軸は材質不明。何か軽くて赤っぽい色の木で作られており,表面には塗装が施されています。最初のクリーニングのとき,水に続いてエタノで拭いたところ,ちょっと表面がベタつきましたから,ウルシ塗りなどではなく,おそらくはベンガラ柿渋塗りの油仕上げなんだと思います。

  今回の材料はハンズの端材のコーナーでてきとうに買った角材(* クスらしい)。
  色合いは異なりますが,手で持ってみて,オリジナルと同じくらいの比重の木を探してみました。
  本物をお手本に,切り出しと鬼目やすりで,とにかく削って,削って,削って…形ができたら(上),柿渋&ベンガラで塗装(下)。


6月1日
○側板・表板のハガレ箇所接着。
  続いては胴体の補修をします。
  表板の左肩とその対角線の右下の接合部がハガレ,右下の接合部周辺では表板も浮いていました。接合部の木口を極少量の水でゆっくり湿らせ,カッターの刃や厚紙を使って,古いニカワをだいたい掻きだし,新たにニカワで貼りつけ,クランプで締めて固定しときます。

○裏板の補修。
6月3日・全景   つぎに,裏板のウラの補修をしておきます。
  オモテからはあまり見えないんですが,ニカワのついてた接着部を中心に,虫が食い荒らしていて,あちこちミゾが出来てたり,デコボコになっています。このままだと貼りなおしたときに隙間ができるので,深くて大きいのには,桐の端材を刻んではめ込み,浅いものは砥粉とニカワと,虫除けに柿渋を混ぜたパテみたいなものを作って埋め,乾いてから平らに削りました。


6月3日・接合部の補強

○接合部の補強。
  側板の接合部分は,古い月琴のいちばんの弱点。
  まれに蟻組やホゾを切って,しっかり組んであることもありますが,高級なものでも2号のように表を薄板で覆ったり,接合部分を隠すように彫刻の付いた飾り板を渡したり(下写真参照)などで補強してあるだけ,多くの月琴では,部材の木口同士をニカワで接着しているだけなので,木部の狂いやニカワの劣化,衝撃などでけっこう簡単に割れたりはがれたりしてしまいます。
月琴接合部・飾り板による補強の例
  さらに,月琴の側板は,均一な板を蒸気で曲げるなどして整形したものではなく,角材からムリムリ曲面を切り出したもので,外見的にはきれいな円になっていても,裏板はがしてみると,写真のように部材同士の厚さが極端に違っていたりプラモデルのバリみたいな切り残しがそのままになっていたりしていることが多多あるようです。

  今回の月琴,木部自体はたいした狂いもなく,しっかりしているので,1号のように裏からクサビをうつなどしなくても,ニカワの劣化によってハガれたらしいこの2箇所を,ただ再接着するだけでヨサゲなのですが,古いものなので,せめて補強を加えておきたいと思います。
  まずは接合部にニカワで和紙を重ね貼り。
  この和紙はあらかじめ,目を交差させた2枚をノリで貼り合わせ,水につけて揉んで,繊維をからませておいたもの。こうすると一定方向に切れたりしないので,紙とはいえかなり強いですよ。今回はさらに上から柿渋で強化してあります。



6月3日~棹ほぞ
○棹のホゾ穴補修
  胴体に棹をさしこむ穴の加工が悪く,付け根のところの左右に大きなスキマができてしまいます。オリジナルでは,小さな木片をテキトウにただ詰め込んでありましたが,もうちょっとちゃんと誤魔化しときましょう。
  まずはスキマのできる部分をヤスリで削って,三角やら四角やらっぽく形を整えます。それにあわせて木片を削り,ニカワをつけてはめこみます。(写真上)
  くっついたらつぎに,ミゾを彫ったり削ったりして,棹がするり・ぴったりと入るよう,微調整。 (写真下)
  さらに,棹をはずしてみたところ,表板の棹のあたっていた部分が虫食いでガタガタになっていたので,ついでにここも補修しときます。 最初は砥粉とニカワのパテで埋めてみたんですがどうも上手くいかず,けっきょく桐の板を薄く削って貼り付けてみました。



6月7日~仕切り板 ○仕切り板の再製作
  さて,今回修理のヤマと予測した「仕切り板」の再製作に入ります。

  写真イチバン上がオリジナル。
  次が最初に作った仕切り板。 ハンズで買ったヒノキの端材から,オリジナルをお手本に,ぴったり寸法を合わせて作り出したんですが,イザ組んでみると,スキマがあいたり,棹が曲がったり(わたしのせいじゃないですよ! お手本の工作が悪いんです!)

  そこで次(写真いちばん下)は端材じゃなく,キチンと切ってあるヒノキの板材で作りました。 厚さ 9mm と,オリジナルより 2mm ばかり厚くなりましたが(たんに 7mm まで削るのがメンドウだっただけ),中心の棹穴からV字ミゾまでの寸法を縮めて,さらに切込みを少しだけU字っぽくして,音の通る穴を広げてあります。
  この変更による音響的な効果・変化のほどは不明なれど,組上げの精度や強度は問題なしかと。



蓮頭
○蓮頭 再製作
  上写真・黒いのがオリジナルの部品。材質不明。染め色が多少違うものの,たぶん軸と同じ素材ではないでしょうか。
  左上のところがカケていますが,さほどたいしたキズでなし,これを補修して使ってもいいんでしょうが,表面の黒い塗料(ウルシ,のように見えるのだけど…もしかすると黒ベンガラか,ただの墨の類かも)が風化していて,ウカツに手を出すと思わぬ大工事になりそうなので,いッそ新しく作ってしまいます。
  仕切り板をこさえたのと同じ,ヒノキの端材の板に原型を押し当てて型をとり,糸ノコで大体のカタチを切り出したら,あとはヤスリで,ひたすらしこしこしこ…

  オリジナルと同じ「壽」でも良かったのでしょうが,そこはヘボとはいえ蔵太滿。 とわいえ透かし彫りするまでの根性はないので,あさーくお目出度絵柄を彫り付けました――真ん中に「樂」の字,まわりに五匹のコウモリさん。「五福擁樂」の圖――「楽器」の「樂」だし,いいよね?
  柿渋塗って木地固め,リューターで絵柄を粗く仕上げたら,ベンガラをベッタリ。乾いたら彫りをナイフでシャープに仕上げ,も一度ベンガラ塗り。 最後に上からウルシを塗って仕上げます。


継ぎ目1

○各部組上げ

  棹と仕切り板を組み付け,和紙を貼って補強した側板接合部にウルシを塗って,さらなる補強と防湿を図ります。

欠損部(購入当初) 欠損部(修理後)
○表板の補修
  表板の欠損部,左は購入当初の状態,右は修理後。
  上二つは,ネズちゅうのカジった痕,下は虫食い痕です。 表板では,この三箇所がいちばん大きなキズの類でした。
  ネズミの歯痕は最初から見えてたんですが,虫食い穴のほうは修理中あちこちコスってるうち,薄皮が破けて発見されたもの。
  基本的には切り出しやアートナイフで,虫食い痕のボロボロになってる部分を削って整形し,だいたい同じカタチに刻んだ桐の板にニカワを塗ってはめこみ,ヤスリや紙やすりでもってならすだけです。
  3号月琴の桐板は,厚さが5~6mmくらい(1・2号は3mm 前後)ありますので,ちょっとやそっと削ったぐらいじゃアナもあきませんので,気がラク――とはいえ,あまり上手にいきませんでしたが…まあ,このあと表面処理しているうちにだんだん目立たなくなってゆくだろうし,弾くには問題ないかと。

裏板 ○裏板 再接着
  裏板を胴体にふたたびへっつけます。
  オリジナルの状態が良いので,今回はこれをそのまま使うことに。とわいえ,力のかけにくい円形なうえに,クランプ不足なので,ニカワを塗ってはしめつけ…円周の1/4づつ作業してゆき,つごう二日もかかりました。
  また,イチから貼りなおすときには,大きめに切ったのを貼り付けてから,縁辺をきっちりと処理できるのですが,付け直しだとどうしてもズレちゃいます。やっぱりうまくいきませんねえ。一部にちょい段差が生じてしまいました。




○ヤシャブシ染め~仕上げ!

  当初,とにかくヨゴれていたので,修理の作業中もずっと,表板を水やらエタノやらで拭いていたのですが。 真っ黒くこびりついたホコリやら煤やらがとれたあと,調子に乗って磨いていたら,そのうち布が黄土色に染まって,色が薄くなってきました。
  これはこの桐板が「ヤシャブシ」で染められていた証拠。
  お色直しと補修部分を目立たなくするために,今回はこれにチャレンジ!

ヤシャブシ   ** ヤシャブシはカバノキの仲間。「矢車」とも「夜叉」とも書き,植物系HPをめぐると,実がでこぼこしてるのが夜叉みたい(牧野富太郎説が引源らしい)だとか,ギザギザのある葉っぱが矢車みたいだとか,語源説がいくつかあるようですが,中村浩先生は『植物名の由来』(東書選書)の中で,「濃く染める」ことを意味する古語の「ヤシホ」の「ヤシホブシ」が訛って「ヤシャブシ」になったんだ,と言うておられる。つまりそのくらい染料としては有名な植物で,皮でも葉でも染まるそうですが,マツボックリを小さくしたような実が染料としては一般的。「ヤシャダマ」と呼ばれております。染料としては布の草木染のほか,桐ダンスの仕上げ根付など細工物の古色づけにも使われておるようですが,ドライフラワーやリースの装飾用として,そういったアクセサリー屋さんなどにおいてあることもあるようです。

  さすがハンズ…こんなものまで置いてあるとわ!

  下にあるのが原料のヤシャダマ。金製のナベだと,煎じ液が金属と反応して色が変わってしまうそうなので,耐熱ガラスの小鍋でぐつぐつと煎じました。汁の濃さは表板と同じ桐板のハギレにちょと塗って,色具合を確かめながら決めるのが良いようです。出来た汁をハケで手早く塗ります。つけすぎるとムラになったり,板がイタんだりしますのでご注意。


ヤシャブシ染め2
  写真ははじめの1回目で液のみの塗布の状態ですが,一度の塗りで見事な金茶色…天然染料とはいえあなどれないなあ。
  中国月琴(旧・ナゾ月琴)の表面の色とほとんど同じです。

  このあと乾いてから,ヤシャブシに砥粉を溶いたものを塗り,#230のペーパーがけ,いったんほとんど落としちゃってから,もう一度同じものを塗り,カルナバ蝋の粉にしたのを振りかけながら#600くらいのペーパーでこすって仕上げました。

○修理完了!!
8月1日・修理完了!
  胴体と棹は,磨いたあと荏油を少しづつ重ね塗ってオイルフィニッシュ,カルナバ蝋で磨いて仕上げました。
  塗った当初はかなりビターなチョコレート色でしたが,その後乾燥するにつれて,濃い金茶色に。
  う~む,まだ何の木だか分かりません。

  新しく作った蓮頭を付け,フレットを立てて(もとが煤竹なので,今回は色の近い紫檀と象牙のコンパチで作りました),8月1日,修理完了いたしました!
糸倉アップ
○ 蓮頭には1号,2号のお飾りでも紹介した ベンガラ→茶うるし→黒ウルシ→ベンガラ+砥粉で磨き→拭きウルシ という古色付け塗装をしてあります。

○ 今回は山口(ナット)を3つばかり試作いたしました。
  けっきょく取り付けたのは,どちらかというとフツーのカマボコ型のものですが,高音外弦の軸位置の関係で,これ以上低くしたり薄くしたりすると,糸が糸倉に触れてしまい,ヨロシクないようです。

○  オリジナルのナットの大きさやフレットの位置は,ケガキでつけた印が残っていたため,推測せずとも良かったのですが,チューナーを使って音を確かめながら立ててみると,第1フレット(d/a)と最高音の第8フレットで約5mm ,第2フレットはもとのしるしから2cm近くもズレてしまいました。
  でもまあ,これはいつものことなので,むかしはチューナーなんてなかったし,音階も西洋音階ってわけではなかったのですから。(^_^;)

○  例の2本交差の響き弦が,どうもうまく鳴っていないような気がするので,微調整をするため,今のところ棹をニカワで接着していません。そのため,音に多少の甘さがあるかな? と。
  「微調整」は棹をはずした穴から,菜箸をつっこんで,響き弦を押したりひっこめたりして行っています。(2005.8.3 現在)


修理後感想!
大きさ比較
  汚れはヒドかったものの,重傷箇所はなく比較的ラクな修理でした。
  第4フレットが胴体上にある小型の月琴は,博物館や資料館の所蔵物としては見たことはありましたが,実際に修理するのははじめて。ちょっとワクワクしながらの作業でした。
  楽しかったですねえ。

  ちなみに大型の1号月琴とくらべると,大きさはこのくらい(左参照)違います。

3号UP
  ○ 修理が終わり,糸を張って,実際に弾いてみて,まず気がついたのは,高音2本の「糸間がすごく狭い」ということ――3mm ないですね。
  ちょっと狭すぎて,指の腹がうまく糸の間にはさまらず,ややチョーキングがしにくいようです。

  ただ,糸を張ってみると,高音と低音の糸間がびみょーに違っていることが分かります。 低音2本の糸間は,高音ほどせまくない。低音糸は太いですからね,演奏する時のことを考えれば,たしかにこのほうが理にあう。調べてみると,一見左右対称な半月(テールピース)の穴の配置が,よーくみると微妙に変えてあるのですね――こんなとこにも匠のワザ!

  ○ つぎに「弦圧が高い」ということ。
  小型の月琴なので,弦長が短いせいもありましょうが…ハンマリングの音が出にくいのと,高音域が多少押さえにくいです。 そのかわり,音色はやや堅めの,メリハリある音が出ます。

演奏比較   ○ つぎが演奏ポジションの問題です。
  1号月琴の場合,わたしは楽器をほとんど琵琶のように立てて弾いています(左写真)。胴体の大きな1号月琴では,この恰好でないと高音域のフレットまで確実におさえることが出来ないからなのですが,3号月琴で同じように立てて弾くと,低音域を弾いているときに,左手の甲が糸巻きにぶつかってしまいます。
  これは2号月琴と同じで,一番下の軸が,1号月琴にくらべるとかなり手前というか下の方に取りつけられているためです。

  現代の中国月琴は,かなり横に倒して弾きますし,明治時代の絵などでもときどき,月琴を横抱きで弾いているように描いているものを見ますが,この月琴もギターほどではないにせよ,寝かせたほうが弾きやすい――というか,横に倒さないとうまく弾けません。
  この3号月琴の場合は胴体が小さいため,この横弾きのポジションでも,楽器をホールドする体勢を崩さず,ムリなく高音域まで指を安全に伸ばすことができます。

  これが軸が糸倉に対して垂直にささっているものと,三味線のようにやや斜め,末広がりになるようにささっているもの(上掲写真参照)――たんに楽器の構造からくる違いなのか,あるいは小型月琴の類は全部こうなのか。またこの縦抱き,横抱きに,何か演奏する楽曲の違い,あるいは流派の違いのような理由があったのかなど。こういうとこが,絶えてしまった楽派なので,なかなか分かりません。
  鋭意調査中。


○その後の微調整 05.AUG~
1.1~5柱(フレット)までを削りなおし。
  かなり急いで作ったもので…高すぎてたり,左右に傾いていたりしてたのを,削ったり,平らにしたりでバランス良く調整。

2.山口さん(ナット)を3mm 以上削りました。
  この2つの作業にて全体に弦高が低くなったため,弦圧が高かったのと,ハンマリングが効きにくかったのが,いくぶん改善。メロウな音もなんぼか出せるように。

3.上の作業をしたらこんどは,高音内弦の開放音で,みょーにスサマじいビビりが発生,これはナットにつける糸筋のヤスリ目が,わずかに2重になっていたためと判明。ちょと削りなおして1本にしたところ直りました。高さわずか 0.0ウンミリ,長 0.5ミリのでっぱりが…やっぱり楽器ってタイヘンですなあ。



○余話―お飾りがない!
  この修理報告をはじめた最初のころから,「もしかしたら…」と言ってたことなんですが――終わってみてハッキリしました――やっぱり付いていなかったようです。

目摂   古い月琴の表板の左右には,菊や鳳凰を象った「目摂」という装飾が付いています。
  とくにこのくらいの小型月琴では,はじめから演奏用というより,お目出度い「装飾用」楽器として造られたものも多く,目摂だけでなく表板の中心や柱の間などにも,象牙やメノウや玉などで出来たさまざまな飾りが付いていたりします。

  こうした飾りは一般に,すでに取れてなくなってしまっていても,ニカワの接着痕や飾りによる押捺痕,もしくは長年ついていたことによる,日焼け痕 (というか「焼け残し痕」) のようなものがかならず残っています。 あちこちヨゴレが残っていた当初は,「そのうち何か,カタチになって出てくるだろう」と思っていたんですが,終わってみると 表板ほぼ,まんべんなくキレイになってしまいました。
   お飾りのものらしい,ニカワ痕も押捺痕もぜんぜん見えません。
  フレット位置の目安のケガキ線やその接着痕は,とれてしまっているもののも含めてしっかりと残ってるのですから,これは この月琴にはそうした装飾が「はじめから付いてなかった」 と推測するのが妥当かと。

  月琴にこうした彫刻装飾をつけるといった習慣は,現在の中国月琴では,ほとんど見られなくなっています。祝儀用の引き出物などとして,特別に作られる装飾用月琴の類をのぞけば,少数民族の月琴でも,実際に使用するものではペイントが主流で,まず見られません。
  まあフレット間にある飾りなどで平面的でないものは,演奏する時には邪魔なだけのシロモノなのですが,「まったくナイ」というのも,日本の月琴ではあまり見たことがありません。
  最低でも「目摂」は付いていることが多いですねえ。
  これが日本の月琴で,はじめから付いてなかったとするなら,わたしとしては,それもはじめてのことですね。


○余話2―「蓮頭」について
  2号月琴の蓮頭(オリジナル)は,何も装飾のない紫檀の薄い板(厚約5mm)だったのですが,今回の月琴についていたものは,厚さが 1cm 近くありました。
  こうした小型の月琴の蓮頭はだいたい同じような厚さですね。あまり薄いのは見かけません。
   材料も,胴材と同じ硬木ではなく,もっと加工しやすい軟木(今回使ったヒノキや,ホオ,マツなど)を削ったものが多いようです。
  材質が柔らかいので,あまり薄作りにはできないわけです。

  高級な月琴の蓮頭には,一面に象嵌してたり,凝った透かし彫りになっているのがあります。これらはよく,胴材と同じような色に,上手に染めてあったりするので――

  「うぉー!コクタンをこんなカタチに,スゲー!」。

――とか思って持ってみると,やたら軽かったりでズコー!てなこともありました。
  月琴の蓮頭のカタチをならべて比較してみましょうか。
参考資料・蓮頭(明清楽) 参考資料・蓮頭(3号) 参考資料・蓮頭(現代中国)

  明清楽月琴の蓮頭はいちばん左のカタチが多いです。
  今回の月琴のは真ん中図のように上の凸が一段足りません。これじゃ「雲板」じゃなくて「ラブ板」ですねー。

  いちばん右が中国月琴によくついてる形。
  現在の中国月琴では,この下のトンガリも無くなって,まるまっちい十字架とか,「梅板」になっているのも見かけます。

  この板のカタチからも,この楽器の伝系か何かの手がかりが,つかめそうな気がするんですが…  

  ** 月琴の頭部分のかたどる「如意」について補足説明 **



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