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コウモリ月琴(1)

MOONH12.txt
斗酒庵 コウモリ月琴を直す 之巻(1)2006 11月~ 明清楽の月琴


コウモリ月琴 
ネオク写真
  今回の修理は,2面同時進行。

  工房に到着したのはこちらの月琴のほうが後だったんですが,もう一面のほうはほとんど壊れておらず,イマイチ「修理人ダマシイ」がシゲキされない。
  一方,こちらはといえば。
  もー見てスグ分かるくらいの「破れ月琴」であります――ムラムラと湧きあがれ俺の小宇宙!
  というわけで。 「修理報告」は,まずこの月琴からとまいります。

蝙蝠飾り
  片方,一匹だけになっちゃってますが,目摂のコウモリさんが可愛らしい。
  で,命名はいつも通りベタで…。

  大きさ,デザインともに3号とよく似ています。
  棹もやや太めで,胴体の厚みもいくぶんあります。
  第4フレットが胴体のほうに置かれてる点も3号と同じ,やや小型月琴の部類となりましょうか。

  上のネオクの写真では,蓮頭はちゃんとへっついてますが,梱包のときにでもポロリしてしまったのでしょう。届いた時には別部品になってました。

  そのほか,パッと見で分かる要修理箇所は主に2点。

  一つは軸ですね,2本足りない。
  また軸削りで地獄を見るか!ま,もう慣れたし…がむばろがむばろ。

割れ(1)割れ(2)

  もう一つのメインは,コレ。
  天の側板の棹のホゾ穴を中心に,左右に割レ。
  割レの左右の端では表面板もヒビて少し浮いている。
  まあ,面板のヒビの一本や二本はいつものことだし,側板も単純に割れてるだけならさして問題はありません。割レも中途半端で,一部くっついてたりするとかえってアレですが,見事にパックリとイッてしまっていれば,むしろ修理はしやすい。色々としようがあるのです。

  ですが…悪いことに。よく見るとこの部分,すでに「修理」されているのです。
  それも2本の鉄クギでもって,表面板ごと打ちつけるという,なりふりかまわぬ力技。
  …右のクギなんざ,先っちょが飛び出て板がメクれてますわ。おまけにサビサビ。

  「いやあ,シロウトはんは,ホンにダイタンなことしはりますなあ~ぶひぇぶひぇぶひぇ。」

  と,京風底冷え笑いを噛締めながら――いざ。


修理前所見
コウモリ月琴・全体
1.採寸

全長: 637mm

胴体:径 353mm 厚 36mm
  (うち表面板/裏面板ともに4mm)

棹:長 280mm
 (蓮頭をのぞく・うち糸倉 150mm/
  指板部分(山口-基部)133mm )

絃長(山口-半月): 415mm



蓮頭・糸倉・山口
◎ 蓮頭:オリジナル。
  *棹と同材と思われる。4号月琴と同様のデザイン。
◎ 糸倉:擦りキズ多少。ほか目だった損傷はなし。
  *天に別木をはさむ。基部のところのカーブがややキツく,デザイン的にややつまった感がある。
◎ 軸:2本存。オリジナル。
  *このところ修理した4号や鶴壽堂にくらべると軸はちょっと太め。
◎ 山口:オリジナル。
  *糸溝や糸擦れの痕多数。使用感がある。
  *材は花梨か?

◎ 棹:損傷なし。
  *指板のないタイプ。手の当たる部分の塗装がはげ,色落ち。

◎ 柱:棹上1/面上4本存。
  *脱落したフレットも痕はすべて残る。
  *オリジナルは竹製。表面板上のうち,2本(第5・6フレット)は木製で後補部品。

半月・絃停 ◎ 目摂:右側一枚のみ存。(既述)   *左は面板上に痕跡のみあり。

◎ 半月:損傷なし。
  *胴材と同材か?90×42mm。高 10mm。糸孔はやや小さく,配置はV字型。
◎ 絃停:ニシキヘビの皮。100×80mm。


  修理の前に,例によって柱(フレット)や目摂,絃停などの小部品はとっぱらっておきます。
  だいたいニカワやノリで貼り付けてあるだけなので,筆で軽く水を刷いてからちょっと揺するととれます。
  今回はこの作業で大した発見はナシ。

  クギをひっこぬき,天の側板を修理しなきゃならないのと,損傷が表面板に集中しているため,今回の修理では始めて「表」面板のほうをひっぺがすことになりました。音に大きく影響してくる部分だけにちょっと心配ですが,まあ,やるっきゃない。

内部所見
コウモリ内部
  さてこの月琴,揺すっても響き線がカラとも鳴りません。面板を叩いてみるとかすかに金属系の余韻がしますので,何か入っているのは間違いなけれど,棹のホゾ穴からのぞきこんでもどうなっているか見えない。ハテ?どんな構造なのかと考えていましたが,あけてみると――こんなんなってました。

  この部品,本来は胴内でぷらぷら揺れてなきゃならないモノなんですが,先端が上桁にひっかかって,すんとも動なくなってしまっています。
  はじめは何か意図あっての構造か?とも考えましたが,それにしては線の接触している部分にそれらしい加工の痕もありません。当初からの加工のせいか,後に衝撃等により偶然なったものかは不明ですが,何らかの目的により意図的にされたようなものではなさそうです。

◎ 響き線:一本弓なり。太 0.8mm ほど。長 直線にして約40cmほど。

響き線基部
  ひっかかってるの自体は,ちょっと指でつまんだらカンタンにはずれたんですが,全体にサビに覆われており,ハガネ線にしてはなにやら柔らかく,はじいてみても月琴の響き線らしい澄んだ音がしません。焼入れが甘いか,されていないモヨウ。

  *基部を厚7mm・2cm角ほどの小木片中心の穴に竹釘で固定。この木片は上から見て,側板がわの面の両側が張り出していて,上桁の左端に彫られたミゾにはめ込まれている。


◎ 側板 厚最大 10.3mm/最小 5.5mm。
  *材はサクラ。内側わずかにノコ目が残る。
  *板はかなり薄め。材どり,加工ともによく,四枚ともほぼ同形,同寸。接合部木口のすり合わせも良く,右側2箇所はいまだしっかりと接着されている。
  *天の板,表面板側,棹のホゾ穴を中心に割れアリ(既述)。ほかはほぼ損傷なし。


◎ 棹取付け基部
  *材質・色は3号・4号と同じだが,クワにしては軽い。これらの棹の材はカツラか?
  *継いでいるのはヒノキ等ではなく,胴と同じサクラ。
  *基部裏面に「下」と墨書。

棹基部・裏面 棹基部

◎ 内部桁:2本。上 326mm/下 270mm。
  *材はヒノキか。
  *上桁に2つ,下桁に一つ,申し訳程度の音孔があけられている。直径1cm程度。
  *側板にミゾを切らず,面板・側板にニカワで接着。わずかに左方向に傾いだ取付けだが,両端接着面の加工もよく,しっかりと固定されている。
  *表面板に接着される面の両端角が落とされているのははじめて見る加工。


表面板ウラ
◎ そのほか(1)
表板裏面,側板数箇所に指示書き。すべて墨書。
表板裏面中央右は「玄」か?
棹ホゾ穴の表面板側に「キ」。



黒いシミ
◎ そのほか(2)
天の側板から左右の接合部周辺にかけてと,表面板上部に黒いシミが見える。
おそらくは水濡れ,放置等により,接着していたニカワが劣化,変色したものと思われる。
シミの広がりのちょうど中心に当たるのが天の側板の割れ箇所なので,何か関係あるものと思われる。




修理開始!

   STEP1 クギ抜き
クギ抜き(1) クギ抜き(2) 割れ
  ナニはともあれ,ここからまいりましょう。
  棹穴左右の割レをとめている釘をとりはらいます。
  まずは正攻法でクギの周りの面板を削ってクギの頭を出し,引張ってみましたが,ビクとも動きません。木の中でクギがサビて固まってしまってるんですね。
  ふつう,クギを正しく木の中にぶっこんで,埋め木などで隠したような場合,そのクギが新品ならこんなふうにサビることはありません。前の2号月琴の時もそうだったんですが,こういう修理にはかならず新品じゃなく,道具箱の底や,土間に転がっていたような,すでにサビたりしたクギが使われていることが多いですね~。
  それでも右のほうは側板から飛び出してた先っちょをつまんでグリグリしているうちになんとか抜けましたが,ばっちり叩き込まれた左のクギは,ピンバイスでクギの周囲の穴を広げ,ほじくりださなければなりませんでした。

  クギ2本を引っこ抜き。問題の箇所が現れました。思ったとおりのきれいなパックリ割れです。
  両面をきれいに掃除して,ピンバイスでいくつも穴を通しておきます。あとで竹釘を打ち込むための穴です。



   STEP2 響き線
響き線(改修前) 響き線(改修後)
  次はここ。ひっかかって丸く固まってた響き線。
  線は根っこのところの竹釘を引っこ抜き,残りをキリでグリグリとこそぐと,かんたんにポロリとはずれます。
  サビを落とし,胴内の所定のスペースにきっちり収まるようにカタチを整えてから,コンロであぶって焼きを入れます。
  またひっかからないよう,先っちょを曲げておくのを忘れないように。
  仕上げにサビ止めを兼ねて,表面にラックニスを刷くと,真っ黒の,いかにもハガネ,といった感じの線になりました。今度は音も月琴の響き線らしく,きーん,カーンと鳴ってくれてます。

  線を穴にもどして竹釘を指でおしこみ,楽器を弾く姿勢に傾けたとき,線がちょうど胴体の真ん中でぶらぶらして,面板とぶつからないような位置になるように,何度か楽器を傾けながら調整します。位置が決まったら,木槌で竹釘を一気にたたきこみ,固定。
  

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