1号月琴・再修理
![]() ![]() DATA: 明清楽月琴 1号(明治中?) ○全長:660mm ○胴面の直径:355mm 厚さ:32mm(表裏面板:3.5mm) ○棹長:315mm 指板付 幅:24-28mm ○山口から半月までの糸長:428mm また,コワれました… 胴材がサクラ,というちょっとこの種の楽器としては変わった材料で出来ている1号月琴。よりにもよってサクラの花も満開の春の夜中に裏板が,「ぱきゅん!」と大きな音をたててはがれよりました。 去年,もともとついてた板が歪んで,夏前の大修理ではりかえたのですが。その時,桐の薄板が手に入らなかったので,ホオの板(厚3mm)を貼っていました。それがまあ,みごとにパックリと…目も詰まっているし堅いんで,音は悪くなかったんですが,桐板にくらべると温度湿度の変化に,ちょっと敏感だったようです。 この月琴は,わたしにとってはじめての明清楽月琴であります。 とはいえ,巣鴨のお縁日で最初見かけたときには,「法華のタイコ」のキタナイのがある,と間違って手に取ったというくらいで。我家に来たときの1号は,面板は真っ黒,裏板ぱっくり。フレットも糸巻きもなくなってました。 購入当初の状態![]()
○ フレットはいちばん最初に作ったのが竹(すべりは良いが音が),つぎがタモ材(音は良いけど減る),そしてタモに竹を貼ったコンパチ,と変遷しています。 これも安く作れるし,悪くはないんですが,2号につけた黒檀+象牙のコンパチにくらべると,やっぱり音色・操作性で劣りますね。 ○ 山口(ナット)は黒檀のブロックを削って,ギターの牛骨ナット材をはめこんだもの。 ○ 糸巻きは三味線の細棹のものです。 この糸巻き。三味線屋さんに行って 「四本ください」 と言ったら,「何に使うんだ?」と尋ねられまして。「月琴」という楽器を拾って修理している旨,打ち明けたところ,「そんならウチで修理のとき出た,中古のがたくさんあるから持ってけ。」と。 優しいお言葉に甘え,十本くらいもらってきちゃいました。 いまもって,感謝。 その後,交通事故(トラックの運ちゃんが,後方確認しないで開けたドアに激突)で糸倉にヒビが入ったり,酔っ払って転んで糸巻き折ったり,エタノで拭いたら色が落ちたりと,以来,どっかがコワれるたんび,その場あたりや山カン勝負の,トンでもない修理を重ねてきました。(つか,もっと気をつけて扱え!) 以前は月琴という楽器の,構造も工法もなーんも知らんちんでしたが,去年暮れからの2面連続修理,その後のお勉強。経験値があがってるこの機会に,汚れちまった思い出を清算するため,1号月琴,過去の修理箇所をぜんぶひっぺがし,イチから修理をしなおすことといたしました~(パチパチパチ)。 | ||
修理1 裏板はりなおし すんません。今回ははじめ,こんなに本格的な大工事しようと思ってなかったので,最初の方の修理工程をちゃんと記録してません。 ![]() まずは裏板の張替え。 前の修理では,ギターと同じように,中心から左右対称に2枚づつの四枚はぎ(写真左)。しかしこの方法だとネックが邪魔で,中心線部分の接着がどうしても弱くなります。今回の裏板ぱっくりも,結局はそれが原因だったみたいです。 こんどの裏板は(写真右),オリジナルに戻って,桐の板。軽く,気孔が大きくて,温度や湿度でひずみにくいこの材が,やはりいいみたいですね。継ぎ方もふんどし式に真ん中に一枚,左右に二枚づつ,計5枚を継いでいます。 この桐の板。2号月琴の修理の時,予備に買っといたものだったのですが,貼ってみるとさすがに1枚だけではちと足りない。で,材料袋の中をごそごそ探してたら,去年の修理の時はぎとった1号のオリジナルの裏板をハケーン! 新旧板張り混ぜて,みごと裏がふさがりました――いやあ,木材ってのは何でも取っておいてみるものです,ホント。 | ||
修理2 糸倉の籐巻きなおし・軸穴補強 さて,糸倉―弦を巻き取るところ―というものは,弦楽器のイノチ。ここがコワれたら,楽器はふつう,まずオシマイです。 ( ゚Д゚)....ぶつけ逃げしたトラックの運ちゃんのことは,夜中に五寸釘打ったり,粘土人形の心臓のあたりに,ささくれたてた四角い竹串を,ゆ~っくりと何本も何本も何本も…したので,もういいんですが.... ( ゚Д゚) ![]() あのとき泣きながら,ぱっくりと開いた割れ目にニカワを流し込み,竹釘を何本も打ちこんで修理した思い出の修理箇所。そういう状態ながら,木部にいちおうの修理ができてるところは,我ながらホメてやるとして。 保護のため外側に巻いた籐が,太いわ厚いわでみっともない。防湿のためにウルシを塗ったら,さらに目立ってしまいました。なんか夜のおヒトのお化粧みたい… ![]() 今回は気持ちに余裕がありますから,籐をほそーく裂いて,きちんと巻いてみましょう。 …あ,修理してたらまた思い出した。粘土と竹串,どこだっけ ( ゚Д゚) ニカワを塗り,巻き締めたあと,焼き鏝で表面をならして強制圧着,そしてペタンコに整形します。 焼き鏝が重くて,ちょっと,あちこちコガしちゃいました。 ![]() 最近,ちょっとユルくなってきたし,いちばん下の穴,左右二つには糸倉が割れたときにヒビが今も入ってますので,今回はその穴に,ニカワで和紙を貼って補強,さらに柿渋でひきしめて,最後にウルシ塗りをしました。 「復元」を目指すなら,糸巻きも代えなきゃならないとこですが,これを作るのはまだちょっとホネなのと,三味線の軸に合わせておいたほうが,あとあとの調達に便利でしょうから。 わたしの次にこれを持つヒトにとってもね。 | ||
各部塗装![]() 昨年の大修理の際,防湿を兼ねてウルシ塗料をぬったんですが,どうもピカピカして気持ちが悪い。 そこで今回の修理では,そういう不自然な塗装をひっぺがし,本来の自然な色へ戻そうと思い,いざひっぺがしてみると…あれれ,買ったときはこんなに薄い色じゃなかったなあ。 ウルシ塗りのときほどではないにせよ,もっと濃くて,赤というか茶色っぽい色だった気がするんですが,側板なんか,だんだん薄れて最近じゃほとんど黄色。 飾りが黒檀や紫檀っぽく塗装されているのは,前から知ってたんですが。 もしかすると,この胴体の部材も,本来,何かで染めてあったんじゃなかろか? という疑問は起ったものの, 「柿渋」 に思いあたったのは,たんなる偶然…というか なになに,奈良時代からある? 木に塗ると色が濃くなる? 傘に塗るくらいだから,防湿効果もあるべさ。 それになにしろ,エコロジー。うむ,コレじゃあ! ――というくらいの完全なる思いつきだったんですが。 ビンのフタをあけたとたん,その独特のニオイに嗅ぎおぼえが! 以前の修理で,お飾りを煮つけた(後述)とき,茶色く濁ったナベのお湯からたちのぼった,あのニオイです。 去年の修理で,はじめて裏板を全面ひっぺがしたとき。月琴の内部から漂ってきた,あのニオイです。 「1号ちゃん製作当初復元」への第一歩,まずはビンゴ。 もっとも,高級な月琴では,棹や胴材が黒檀や紫檀など,歴年による変化の少ない丈夫な材料で作られていますので,胴材にこういう処理がなされることは,ほとんどないと思います。 1号ちゃんはなんせ,エコノミークラスですから。 | ||
![]() 4.30.段階○ 表板はまたまた飾りがないノッペラボウ状態。磨いてみるとやっぱり,左から2枚目,再利用の板がやや黄色ががってて,ちょっと目立ちますね。この数年間(それこそ色が落ちるほど)磨き続けたんで,表板はさすがに美しいです。 ![]() 材はおそらく花梨。購入当初はここにも,茶ベンガラがべっとりと塗られていました。あまりにチープな色合いで,いつだったか全部こそげ落としたものです。 今回は茶ベンガラを溶かした柿渋で,10回くらい染め,さらに荏油にもベンガラを加えて,こすりこみました。
上は柿渋塗り状態。下は荏油でオイルフニッシュ2回目,乾燥中。 上の側板の写真だと,どうもあんまり変わってないように見えますが,下の指板/棹の写真で比較できるように,木部はかなり色が濃くなってます。
今回の仕上げには,ギターのオイルフィニッシュ加工に燃えてる, 「アコギ製作*club」 さん のアドバイス,受けてまーす。
色合いに関しては柿渋の下塗りが効いているのと,あんまり重ねると側部の木口から表の桐板が油吸ってシミになるので,あと2回くらいですね。 塗ってすぐは,やたらと黒っぽく,焦げたような色に見えて,内心かなりあせったのですが,二日もすると油が乾いてきて,ちょうどいい感じになってきました。 柿渋を染ませていたときは,いくらでも吸い込んでしまうので,油仕上げには,ちょっと不安があったのですが,乾燥した柿渋の防湿効果のおかげで,余計な吸い込みは抑えられたようです。 その柿渋塗りのせいか,木質のせいかは分かりませんが,いくぶん乾燥が遅いようですね。 ○ 指板は当初,薄茶けた色のチープなベンガラ塗りでありました。 その後の手入れ(?)でほとんどハゲちゃってるので,今回は柿渋と茶ベンガラで染め,ニセ紫檀っぽい色に。その後表面をうるし塗り,オニの鏡面仕上げにしてあります。 ![]() 前のものは現代の中国月琴を参考に作りました。メーカーにもよるようですが,現在の月琴では,もっと丸まっちくて小さめなものが多い。 ハンズで買った紫檀のブローチ材料を,ちょっと刻んでせっせと磨き,うるし塗りの鏡面仕上げです。 ○ フレットはとりあえず,大き目のを多めに製作。本体が仕上がってから,高さ調整しながらの取り付けますが,よく削りすぎたりして作り直すハメになるので。 ○ 下段の三個。「目攝」(表板左右対の飾り)とコウモリ飾り(5・6品間にある)は完成! 購入当初,反ってハガれかけてたのを,ナベで煮て(!…おいおい)平らにのしたんですが。そのさい塗装がはがれちゃって(ナベがまっ茶色に染まりました),以来,木地状態になっちゃってました。 左が完成状態。フラッシュをたいたので,やけに黒光りしてますが,実際はもうちょっと,しっとりつや消し仕上げです。 当初の仕上げと同じに,ベンガラ柿渋塗り(右)をしてから,その上に透うるしを2度,黒うるしをちょっと薄めに1度(わざとマダラに―檀木ぶりっこ加工)。 そしてもう1回透うるしを塗って,水ペーパーや炭粉で磨いてから,拭きうるしするのですが,このとき黄砥粉をふりかけて,布で擦りこむようにしてやると,いー具合につや消しにもなり,ほどほどの古色もつきます。砥粉にベンガラをすこーし混ぜると,モアベター。 今回開発の新裏ワザでした。 | ||
5.13.とりあえず修理完了! ![]() 手にはもうぜんぜんつきませんが,木部に染ました油は,まだ完全には乾いていません(1~2ヶ月はかかるとのこと)。とりあえず組上げて,乾燥待ちです。 いまのところ色の濃さも,手触りもいー感じ。油が乾燥してくるにつれ,音色が変化するそうなのでそれも楽しみです。 今回の修理では古典ギターのCRANEサマ,アコギ製作CLUBサマはじめ,各所楽器製作関連HPより,助言,御教授の数々…ほんとーにお世話になりました。 ![]() 山口さん(ナット)を2号月琴と同じく,半月(テールピース)より低くした影響で,高音部のフレットがオドロキの低さです! 第8柱なんて高さ3mmくらいしかありませぬ。 コウモリの扇飾りも高さギリギリ。 弾いてみて指がひっかかるほどではないので,このままに。 当初からだったのか,使っているうちに反っちゃったのか分かりませんが,1号月琴の棹は背面の方にわずかに傾けてとりつけられていました。そのために棹のいちばん根元のところにある第4柱から,フレットの高さが急激に低くなりました。 ![]() 巻きなおした籐にちょっと彩色。目立たなくしてます。 蓮頭の取り付け位置はこんなもの。 各所で見た月琴の実物および,所有の2号月琴を参考にしました。 ![]() 目摂・扇飾りは仮づけ。大修理後ですからね。 いつでもハガせるように,ニカワでうすーくへっつけてあります。 やっぱり単なるお飾りとはいえ,これがついてると明清楽月琴らしさがぐんとうpしますねえ。 弾いてみて
それもどうやら,この1号月琴完成で終了! さて今夜は,水晶堂のドラ焼きをサカナに,祝杯あおって寝ます! | ||
追加情報 05.AUG 良かれと思って低くしたフレットでしたが,第5柱のところがデット・ポイント(音の響きがなくなる場所)となってしまいました。 月琴のような高いフレットでは,指で押さえてるところを横から見ると,弦はふつうV字にへっこむわけですが,この月琴は棹がわずかに反ってとりつけられているため,第5柱のところでちょうど,VがΛになってしまうわけです。こうなると弦の振動が止まってしまい,楽器の音は響きません。 けっきょく,ナットとフレットは,ほぼもとの高さで作り直しました。どつかれさん。 |