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2号月琴(明清楽月琴)

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斗酒庵 明清楽月琴を直す 2之巻2004.12~2005.1月 明清楽の月琴(2号)



STEP1 修理箇所の確認
購入時
  見本写真で見たときは「そのまんま弾けるかな」とか思ってたんですが,届いてみると案外イタみがあって,要修理ってことで。お飾りでない,実用月琴,モノは悪くないようですよ。

 ○ 側板表面の黒檀の薄板 欠け,ハガレ数箇所
 ○ 第2柱 欠損  
 ○ 柱の減り,ヘコミ著し
 ○ 表ヘビ皮 劣化著し 
 ○ 裏板に欠損,クギ打ちされ,釘がサビている
 ○ 棹の固定あまく ややぐらつく



 下調べした結果の修理手順,予想は

 ・裏板をはがして破棄
 ・クギをぜんぶひっこぬく
 ・全体をクリーニング
 ・あっちゃこっちゃをくっつけなおし,締めなおし
 ・棹を内部からクサビ止め
 ・最後に裏板再製作


 てとこですね。全治1~2ヶ月,てとこでしょうか。


STEP2 修理開始!




  まず裏板をひっぱがします。

  側板の材が1号月琴よりぶ厚く,最大で2cm近くあったのでびっくり。円周下のほうに2コばかり,小さなシミが左右に見えますが,これは裏板をとめていたクギのサビが,周囲の木材に染み出しているのです。
  響き線は二本。太さ 0.7~8mm くらい。トンボの目玉というかバカボンのほっぺたマークというか。左は丁寧に巻いてありますが,右は巻き方もぞんざいでガタガタ。

* 1号月琴の側板(サクラ材)の板厚は 8.5mm 平均だった。檀材でできた良質の月琴で5mm前後の厚さ。

 * よく勘違いされるが,月琴の側板は四角い板か角材から,1/4円づつの形を切り出し,それを組み合わせて円にしたものである。その証拠にこうして裏板をはがしてみると,下右図のように,木目が曲面に関係なく縦方向に入っている。 蒸気で曲げる加工をした場合は,木目は曲面に沿って走っているはず。

  保存状態や時間による劣化のせいも若干はあるようですが,これを作った職人さん,どうもニカワの扱いがそれほど上手じゃなかったようで,本来表,板と側板にぴたっと密着してなきゃならない真ん中の仕切り板なのに簡単にはずれちゃいました。
  ニカワが薄い!接着が甘い!――でもおかげで,知りたかったこの部分がくまなく観察できて,じつに勉強になりました。

  * 月琴の音の「命」ともいうべきこの響き線,サビがひどく,このままでは使用に耐えられないため,取り外したうえ再製作。

  つぎに棹を抜いてみました。 材は正目の紫檀。フレットののっかる指板部分には鉄刀木(タガヤサン)の板が貼られています。 蓮頭(先端の飾り板)を除いて,寄木でなくムクの削り出しで,差込部分は杉材を継いでいます。

* 棹の付け根部分の処理が荒く,差込がユルすぎるのと,かなり深めのノコ傷が残っているので,この部分は補強する必要アリ。

  ピック・ガードのヘビの皮もはずしておきます。
  直接貼り付けるものと思っていましたが,和紙でていねいに裏打ちしてありました。

* この皮が貼られていた周辺には,ピックによるエグり傷のほか,虫害によるものと思われる痕多数。かなり深いものもあるので要補修。

STEP3 第一段階
修理その1
(修理その1)
  右の写真で側板上にポツポツ白っぽく見えるのが,裏板を打ち付けてたクギのあと。ほとんどが芯までサビていたため,抜こうにも抜けず,やむなくクギの周囲をピンバイスでえぐってほじくりだしました。
  穴に木屑漆をつめこみ,丸材を埋め込んで充填。

修理その2
 (修理その2)
  半月(テイルピース)の白い輪っか。糸孔が糸でこすれて広がらないようについてる部品が,四つ中三つまでなくなっていたので,再製作。

  ちょうど掃除してたら,前に持っていた琵琶の壊れたお飾り(象牙製)が出てきたので,それから直径約4.5mm,厚さ 0.7mm くらいの小さな円板を削り出し,真ん中に穴あけてはめこみました。

修理その3
 (修理その3)
  棹の差込部分の補強。

  付け根部分は黒檀の木屑を練ったもので傷を埋め,同じ材の板を貼って紙みたいにうすーく削り,孔にスル・ピタとはまるよう調整。


STEP4 第二段階

修理その1(修理その1)
  面板のクリーニングのため,飾りやフレットもぜんぶはずしてあります。
  写真で棹の上にかかってるのは,側板を覆っていた黒檀の化粧板。

  当初はここまでするつもりはなかったんですが,前にも書いたようにこれを作った職人さん,ニカワ付けがヘタで,この化粧板もあちこちで浮き上がったり,本体からハガれかけていました。部分的な修理ではキリがないですし,このままにしておくと音にビビりが入るような可能性もあるので,思い切ってぴっちり貼りなおすことに。

  はがしてみると薄板と胴体のスキマに,杉板を薄く削いだ小片をいくつもはさみこんで,加工の悪さをゴマかしたとこも発見。


  手ヌキです。

化粧板を貼りなおし前
 (修理その2)
  胴側板表面のクリーニングの後,本体のヘコミ箇所に薄い木の板を茹でてニカワを塗り,アイロン(使ったのは「焼きゴテ」…という道具ですが,分かりますかね?)で強制接着。乾いてから紙やすりで整形。

  形を作るだけならべつにパテとか盛ってもいいんですが,楽器ですから。音のことを考えると,こちらの方法のほうがよりよろしいかと。
  貼り付ける板にはブビンガの突き板を使用しました。一つには材質がカリンに近いことと,気孔が比較的大きいので,アイロンがけするときにニカワが表面に滲み出したりしますが,その分板の食いつきが良く,密着してくれますので。

響き線・再製作
 (修理その3)
  さて,いよいよ難関の「響き線」の製作です!

  写真上がオリジナル。 新作のほうがやや径は小さいですが,巻きの回数は同じです。材料は直径1mm のピアノ線。70cm くらい使いましたね。

  巻きはしたものの,このままでは柔らかすぎて,「ボヨンボヨン」としか鳴らないので,この銀色のピアノ線にヤキを入れ,表面が青い酸化膜で覆われた「バネ」の状態にしてあげます。


  と,ここまで思いついてから気がついたのですが。

  このまま全体にヤキを入れると,加工後,この部品は曲げられなくなります。1号月琴のように,真っ直ぐな一本線なら問題はないのですが。こちらでは仕切り板にあけた穴に,線の付け根部分をコの字に曲げて挿し込み,固定しているうえ,2本あるので,あとでどうしても位置の微調整とかもしなきゃなりません。
  つまりこの部品は,取り付け部分を残して,グルグル巻き部分だけにムラなくヤキを入れなきゃならないわけです…う~む,適当に丸めてつっこんでるだけと思っていたが。こんなところに隠されてたか,職人技(^_^;)。


STEP5 第三段階

1.25段階

  化粧板を貼りなおし,組み立ててみたところ。

  本体にニカワを塗り,ナベに湯を沸かして,黒檀の薄板を蒸気でむらしてからはりつけ,表面をアイロンでなぞってすこしづつ接着してゆきました。2時間くらいかかりましたね。
  完璧とはいえないものの,前よりはずっと胴体に密着しています。

  つぎは響き線の取り付け。加工は「ムラなく」とまではゆかなかったものの,グルグル巻き大部分を,「テンパー・ブルー」に染めあげることに成功しました。失敗しないでよかったあ~。
  取り付けもまあ,こんなもんでしょう。前のハリガネをはずしたときに,すこし穴を広げたので,その部分には竹釘を削って差し込み,よりしっかりと固定しております。
  直接ハジくと微妙に左右の音色が違いますが,表板を軽く叩いてみて返ってくる響きは,なかなかいー感じです。

* 組み込んでみて,はじめて分かったんですが,このグルグル巻き型の響き線は,一本線のものにくらべて震動に対する感性が高いわりに揺れ幅が小さく,胴体の中でぶつかりにくいようです。
  カタチ自体にはあまり意味がないと思ってたんですが,つまりコレは楽器が揺れても余計な音が出にくく,この金属の震動を絃音の共鳴のため,より効果的に使うための工夫だったんですねえ…誰が思いついたか知らないけれど,感服。



STEP6 第四段階

 (修理その1)
  裏板を貼ります。桐の板,四枚を横継ぎ。材料の板は,厚さ4mm となるとふつうのDIY屋さんなどでは売っていないため,木場の「木よう大工」さんにお願いして作ってもらいました。

  1号の修理での経験を生かし,いきなり四枚を貼るのではなく,真ん中,右,左…と一枚づつやっていきます。

* 「なにもそんなことせんで,一枚板を円く切って貼りゃいいじゃん?」 と思うでしょう? 実際やってみると分かるのですが,カドのない円形の胴体で,こういう板をピッタリ貼り付けるのはとてもタイヘン。クランプでアッチを締めるとコッチ浮き,両方締めると中が浮くというぐあいで,キリがありません。やはり小分けにして,すこしづつ貼ってゆくのがベストのようです。板の横幅なぞは均等でなくても構わないようで,古い月琴では,良く見ると6枚も7枚も継いでるものがあります。
  板を交換する場合や,内部の修理のためはがすときのことを考えても,単板より横継ぎのほうがムダが少ないようです。

  板を貼り終わったところで,はみだした部分をカッターで切りとり,ヤスリがけしたあと,木口に薄いニカワで練った砥の粉を刷り込みます。これは小さいスキマやちょいカケしてるところのアラ隠し,もう一つにはこの木口のところを固くして保護するためです。

 (修理その2)
  黒檀の化粧板の欠けてたところを埋めます。
  今回は他の部品を再製作してるときに出た,黒檀のノコ屑をニカワで練ったもので充填しました。 いやあ,何でも取っておくものですねえ。
  表裏の板と化粧板の間にできたスキマは,砥の粉をニカワで練ったパテで充填。
  乾燥後,小刀と荒目の紙やすりでこそげ落とし,仕上げに側板全体に拭き漆をして,表面を保護しました。

フレット
 (修理その3)
  フレットを再製作。
  オリジナルはマグロ(黒檀の高級品,まっくろ)のムクでした。どんなもので作ろうかと,いろいろと悩んだ結果,台をマグロにして,糸と擦れるところに象牙の薄板を貼った合成型となりました。
  多少加工に手間はかかりましたが,これだと黒い指板の上でも見やすいし,すべりもいい。材料はどちらも稀少なものですが,ムクならともかく,この方式なら,ほんのカケラでもあれば再修理できるというのもメリット。

  前の月琴に比べるとフレットが低いぶん,フレット間の高低差が小さいので,ヤスリ一目の高さ調節で,音がちゃんと出たり出なかったり。微調整がちとしんどかったす。


STEP7 仕上げ



  表板の虫食い穴や,キズの大きなものは,砥の粉+ニカワのパテで埋め,磨きあげました。

  面板の最終仕上げに1500番の水ペーパーに蜜蝋をなすりつけたので磨き上げます。テカテカせず,しっとりとした仕上がりで,アラ隠しにもよろしいかと。
  軸をとりつけ,山口に糸を乗せる筋を切り。

   2月3日,修理完了です!

○ 古い楽器,しかも長年弾かれてなかったわけですから。 修理後半年くらいは,新しく塗ったニカワの収縮とか,温度湿度の変化とかで,板がとつぜん「びしっ!」とかヒビたりすることがあります。 演奏には関係ないですし,そういう細かい修理の時,たびたびジャマになるので,飾り(目摂)はしばらく取り付けず,こういうスッピン状態で弾こうと思っております。

明清楽の月琴(2号)
  ほとんど同時に入手したのですが,先にやった中国月琴の修理がさほどタイヘンでなかったため,けっこうナメてかかったところ…意外に重傷でした。
  「響き線」をはじめ,加工の手順もわからないような作業ばかりでしたが,得たものは多かった――たぶん「ニカワ付け」の技術だけは,オリジナルの職人さんに勝った,と思います(^_^;)。

今回の修理で分かったこと

1 山口と半月の高低差
  1号月琴では,当時,アーバスさんからのアドバイスにより,山口(ナット)の方を半月(テールピース)より1~2mm 高く作りました。このため1号月琴では横から見ると,糸は山口の方から半月に向かって,わずかに傾斜しています。
  ところが今回の月琴で見ると,オリジナルの部品では,逆に山口の方が半月より2mm ほど低くなっています。
  実際に糸を張ってみると,この設定により糸が面板とほぼ平行になることが判明。
  フレット高が低くなったので,多少工作が難しくなったものの,操作性はこちらのほうがよろしいようです。

2 軸について

軸取り付け比較軸取り付け比較

  2号月琴の軸(糸巻き)は,四本とも棹に対して,ほぼ直角に差し込まれています。
  琵琶や三味線など東洋の弦楽器では,軸は棹に対してややハの字型になるよう,少し角度をつけて取り付けられることが多い。これは斜めに穴を通したほうが,軸穴内部の摩擦面が大きくなるので,軸がすべらず,糸がゆるみにくいからです。
  右写真で比較していただければ分かりますが,1号月琴は斜めになっています。これほどではありませんが,中国月琴では現在も,軸はわずかながら同じような角度をもって取り付けられています。

* 明治の風俗写真や,むかしの挿絵などで見る月琴では,どちらかというと2号の形が多いようですが,構造からいうと,先に述べたことからも判るように構造的に不利な点があるわけで,わたしはこちらの形のほうを,より後期に製作されたものと推理しています。

3 フレットの取り付け位置について

修理前のフレットの位置修理後のフレットの位置

  第2柱は,購入時にはすでに欠損していましたが,指板にその工作痕が残っていたため,オリジナルでフレットの立っていた位置は,だいたい分かっていました。ところが,チューナーで音を確かめながら探ってゆくと,ほかの柱はオリジナルの位置から大きくても柱の幅1本分,5mm 前後のズレの範囲におさまるのですが,この第2柱(音はB)だけは,オリジナルより 1.5cm ほども下になってしまいました。
  音で言うと,ちょうど半音分ぐらい違うわけで。

  これが月琴もしくは明清楽の古い音階に合わせたものだったのか,単なる工作・調整の甘さからきたものなのかは,不勉強でちょっと不明。
  とりあえず現代に生きるわたしは,西洋音階に近いところに合わせなおしておきました。そのままだとフォークソング弾けないもんね。


  あと第7柱と8柱が,当初(左)は入れ代わって取り付けられていましたが,これはたぶん後で誰かがテキトウにへっつけたもののと思われます。







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