おりょうさんの月琴
![]() さても
今年は坂本龍馬の奥さん,おりょうさんの没後百年にあたるという。
去る1月14日,「よこすか龍馬会」の皆さんの主催で,おりょうさん慰霊祭が,女史墓所のある横須賀は大津の「信樂寺(しんぎょうじ)」さんにて行われた。 同寺では現在,龍馬とおりょうさんの仲睦まじい姿を再現した,等身大の木像を安置する「龍馬の部屋」を計画中とか,おりょうさんのいる部屋なら,月琴がそこに掛かっていても良いわけで。どうせあるなら,その楽器は,実際にちゃんと弾けるようになっていた方が良いと思う。 ![]() おりょうさんがあちらからふと来た時に「おや,月琴があるじゃないかい。」と手にとって奏でられるように―― というわけで,住職さんおよび龍馬会会長さんに直訴のうえ,寺宝として展示されていた月琴を,不肖,斗酒庵め,修理させていただくこととなった。 この月琴自体は,龍馬会の会長さんが古物市で購入,信樂寺に奉納なされたもので,ほんとに「おりょうさんが弾いていた」月琴,というわけではないが,個人的にもう決めちゃったので,以下名称「おりょうさんの月琴」で通させていただく。 会長さんによれば,購入後三味線屋さんに「直して」もらったそうだが… | ||
STEP1. 修理前所見 1.全体の採寸ならびに損傷箇所簡見
■ ヨゴレ中度。前修理者が磨いたためか,全体にさほど汚くはない。 ■ 木部,かなり濃い目の茶ベンガラで塗られていたか? 各所に塗装痕が点残。剥がしたときについたと思われるヤスリ痕も残る。 ■ 側板接合部,数箇所にやや大きなスキマ。 ■ 表面右,縦にヒビ貫通。すでに補修済み。 ■ 中央上フレット下,および半月左上にやや大きな虫食い孔。 2.細部ならびに各部品・所感 ![]() ◎ 蓮頭:後補部品。 ** 今回のなんじゃコリャ?PART1…おそらく三味線の胴の余り木片(花梨?)で作ったものか。3枚の木片を横に継いで,角を落としただけのモノ。真ん中になぜか象牙の板(おそらく三味線の撥の破片)が貼り付けてある――意図不明。 (ふつうはどんなかは コチラ) ◎ 糸倉:天までムクの彫り出し。損傷なし。 ◎ 軸:後補部品。 ** 修理で出た古い音締めを削ったもの。工作悪く,噛み合わせに難あり。 ◎ 山口:オリジナル。小型月琴でよく見る富士山型。 ** 指板はこの山口の手前でとまり,山口は指板の上ではなく,棹材に直接貼り付けられている。写真では見たことがあるが,実際にこの取り付けを見たのははじめてである。 ◎ 指板:オリジナル。長 140mm,厚 2.5mm。 ** エタノールで拭いても脱色しないので,紫檀の板と思われる。 ![]() ◎ 側板接合部:単純な彫り組み。 ** この形式もいままで写真でしか見たことがない。しかし,まったく直線的に凸凹を組み合わせただけなので(ふつうは台形に刻む),木口同士で接合する通常の場合と比しても,さほど強度が上であるとは思えない。 接合部付近に黒っぽく残っているのは,製作当初に塗られていた茶ベンガラ。 同様の残滓が棹にも見られることから見て,この月琴の木部にはもと,かなり厚めにベンガラが塗られていたものと思われる。 ![]() ◎ 柱:ぜんぶ後補部品。 ** なんじゃコリャ?PART2。加工がどうのこうのではなく,蓮頭と同じ材を棒状に削ってテキトウに貼り付けただけのシロモノ。おそらく現代の中国月琴の写真か何かを参考にしたのだろうが,数も位置もムチャクチャなうえ,上から下まで高さが同じ,もちろんこれで演奏は不可能。 ![]() ◎ 目摂:オリジナル。 ** 意匠は菊。右ほぼ完品。左カケ有。全体に白っぽく見えるのは,塗装の劣化と,前修理者が液体ワックスを使用したらしく,その拭き残しが彫刻の木目や微細なモールドに入り込んでしまっているため。 ![]() ◎ 半月:オリジナル。半円型,曲面構成。 ** ここはキレイ。塗りか唐木か不明。 | ||
修理開始! んだば,さっそく修理をば始めやしょう。 まず持ち帰ったその日のうちに,蓮頭(?)や柱など,後補の部品はすべてとっぱらいましたが,その辺については思い出してもハラがたつのでイチイチ書きたくない(なんじゃぁこりゃ !( ゚Д゚)!とか,木工ボンドかよ!( ゚Д゚)!とか)。 ここからがホントの「修理」ですねー。 ――そして,恒例の裏板はがし!こんどはこんどは,ど~んなか~な♪ 内部観察 ![]() ◎側板 最大厚 13mm 最小 8mm。 ** 中央が厚くなっている。削りだしは各部材おおむね一定しているが,接合部分にかなりのスキマが見える。これらは経年による材の収縮の結果ではなく,単に製作者のウデの問題。ニカワの脱落のせいもあるが,凸凹組みはしていても,現状しっかりとした接合はされていない。 ◎桁 2本桁。長 300mm。 ** ホゾを組まず,胴内壁に直接ニカワ着けされている。音孔は上下二本とも同じく,四角い穴が中央に一つ。 柾目のヒノキで,材質は良いが,取り付けの工作はやや雑で,側面,表板どちらの接着もきわめてゆるく,しごく簡単にはずれる。 ![]() ![]() ◎響き線(←) 健在,鋼線,横一本。 ** 先を曲げる。左側面の内側に直接,鉄釘で止めてある。 サビはわずか。ただし色や音,また自由に曲げられることなどからして,ちゃんと焼きが入れられていないようだ。鉄釘は断面四角で先がわずかに曲がった,狗釘という形のもの。 ◎棹取り付け基部(→) ** これもある意味「なんじゃコリャ?」――ただし前修理者に向けてじゃなく,作者あて。 棹の根元を 27×37×15mm ほどのブロック状に削りだし,中心に竹の目釘を打って,固定してある。 いままでの例から考えると,なんだか非常にアブなそうな構造だが,もちろん元からこれだけだったわけではなく,胴側板との接合部で,ニカワによってより堅固に接着されていたようだ。削り出し部分,およびほぞ孔の寸法はともにほぼ正確で工作は良い。 所見結果 たぶん明治中期以降の月琴(普及品)。 工作の技量はやや稚拙だが,全体にややがっしりとした造りで,本体に重大な損傷箇所もないため,前修理者の修理箇所の修正と,通常の補強,補修で演奏可能な状態に戻せるものと思われる。 | ||
STEP1.接合部・内部構造の補強 ![]() でわ,いよいよ本格的に修理作業とまいります。まずは―― ■ 接合部の補強。 かなり雑なる凸凹接合のスキマには,内側から桐の薄板にニカワをつけて挿しこみ,埋めてしまいます。もちろん見栄えが良くなるだけでなく,板が接着剤がわりになるんで強度はうp。接合部の内側には例によって和紙を二重貼り,柿渋で固めます。 ![]() 最初に見た段階ですでに,表板になんとかくっついていただけで,左右はぜんぜんくっついてませんでした(木部の収縮とかでそうなったのではなく,最初からそんなだったふう)。 真ん中をつまんでぐらぐらと揺らしたら,とれちゃいました。 古いニカワをこそげてから,胴内側にぴったりハマるよう,左右の木口を少し調整したあと,ニカワで貼りなおします。 | ||
STEP2.表板・木部のクリーニング ![]() ■ 表板のクリーニング。 余計なものをぜんぶはがしてから,エタノールを垂らしながら,耐水ベーパーでこする。 右側のヒビ補修のスキマや,各所に点在する虫食い痕は,例のパテでちょちょっと埋めてから,ヤシャブシの煮汁でちょっと色をつけておきます。 すでにヒビは入っているものの,この楽器の表板は比較的状態が良く,キレイなもんでした。 すでに書いたように,この月琴の木部はもと,かなり濃い目のベンガラで茶色に塗装されていたとおぼしい。そこまでまっ茶色にする気はありませんが,ベンガラ塗装はもちろんしてあげたい。 しかしながら,ここに一つ問題が。 前修理者が液体ワックスで,塗装の残滓も打ち傷もスリ傷も見ないフリして,てーねーにゴシゴシしやがってくれたおかげで,そのままだとぜんぜん塗装がのりません。 ■ 塗装下地加工。 木部を一度紙ヤスリで磨きなおします。塗装の残りやキズの類はあらかた消えまして,ちょっと新品っぽくなりました。磨き終わったらエタノールで,残ったヨゴレやホコリを,てってーてきに拭いとっておきましょう。 紙ヤスリはさほど荒目のものを使っていないので,最後にこの作業をすると,ヤスリ目なんかもほとんど見えなくなります。 | ||
STEP3.糸巻き地獄 さて,今回の修理の,ある意味最大の難関――かなあ? ■ 糸巻き(軸)製作。 もとは前修理者がつっこんだとおぼしい,三味線の糸巻きをぶった切ったシロモノが付いていました。 加工が悪くて軸孔とまるで噛み合ってはいないものの,ちゃんと削り直せば,まあ使える――のですが。 何しろ今回は「おりょうさんの月琴」であります。 ちょっとリキ入れて,ちゃんとした「月琴の」糸巻きをこさえてあげるといたしやしょう。 糸巻き自体は3号月琴の修理の際にも作ったことがあり,2時間ほどでカタチはできましたが,けっこうタイヘンだったキオクが…
![]() 作業は左写真の通り。 角材を切って,ミニカンナで断面を正六角形に削り,ヤスリで削って側面のアールをつけ,先っぽをはめては削ってまたはめて,だいたいぴったりになるまで調整してゆきます。 ![]() (→)が二日目の状況。前の日に作ったぶんには,線を掘り込んだあと,柿渋を塗ってあるので,ちょっと色が付いています。 (06.01.18) | ||
STEP4.組上げ 各所補修・修理も済み進み,いよいよ組上げです。 これが終われば修理の作業自体は8割がた完了。ただし,この後がただただ長いんだよね。塗装の乾燥待ちとか,仕上げとか。 ■ 棹の組み付け。 まずは棹をちゃんと組み付けます。 胴体との接合面に塗ったくってあった(しかもぜんぜん着いてなかった)木工ボンドの痕をキレイに取り除き,そこと基部の一部にニカワを塗り,押し込む――ハナシはそれだけのことなれど,この作業,一発で決めないと棹が曲がったまま固定されたりして,後で直すのがタイヘン。けっこう緊張しました。 ![]() 作業はいつもの通り。今回はひっぺがすときに3つに割れてくれたおかげで,いつもの作業にくらべるとかえってラクです。割れ目も,もともと桐板の継ぎ目だった所なので,なあに継ぎなおせばイイサ――てくらいに考えてたんですが。 割れるには割れるナリの理由が(((( ゚Д゚))))。 表からはほとんど分からなかったんですが。継ぎ目のニカワが狙われたのか,この部分,虫食いでボロボロ。周縁部も良く見るとかなりな虫食いが数箇所あり,右端のあたりなぞ,スカスカになっていました。 周縁部は裏からパテを穴に充填して,補強してからの作業。じゃないと圧着するときに潰れてしまいそうです。 継ぎ目のところは,しょうがない,多少見栄えは悪くなりますが埋め木でいきましょう。食われているところを中心にV字状に溝を彫り,桐の薄板を削って埋め込みます。直線的だからまあ作業はラク。 | ||
STEP5.平和なる日々 ![]() ■ 目摂の補修。 面板の左右に付くお飾りです。 右の板に大きなカケがありましたので,左のを参考に見ながら,アガチスの板切れを,切って削ってはめこみます。そのあと表面を刻んで,ベンガラ柿渋で色づけ――ま,こんなもんかな。こういう細かいものをやるときは,裏面に薄い和紙を貼っておくと作業がしやすいです。 ![]() オリジナルの山口(ナット)の状態は,悪くはないのですが,ヘンに汚れがこびりついているのと,何か軽いので,再製作。ローズウッドに,絃を乗せるところが減らないように象牙を噛まして,表面を柿渋とウルシで〆ました。なにやらイロっぽい色に。 ごらんのとおりオリジナルとほぼぴったり同じサイズ。 | ||
STEP6.修理再開! ![]() ちょいと試行錯誤…というか,余計な遠回りをしてしまい。修理の修理で作業が遅れちまいやがりました。 この春めいた4~5月は,わがデカンショ生活の仕事ナシ期間であります。 ぞんぶんに修理しまくりましょう。 ■ 棹と側板の塗装。 今回は日本リノキシンさんのシェラックニスを使用しました。 塗装の失敗で何度もへっぱがしたため,下地は却って磨かれ,つるつるになってましたから,塗装はラク。製造元から教えてもらったとおり,下地塗りを2回ほどしてから,コーパルニスで仕上げ塗装。 塗りっぱなしの間は,なんかテラテラしてて 「あちゃ~,またしくじったかな?」 とか思ってたんですが,乾燥後,#2000の耐水ペーパーで全体に磨きをかけたら,ジツにしっとりとしたイー感じになりました。 はじめて使うニスですが,艶が自然ぽいし,塗膜はけっこう頑丈ですね。言われたよりも,けっこう力いっぱいゴシゴシ磨いてしまったんですが,ビクともしとりません。 塗装が乾いたら,次の作業。 ![]() ■ 軸長の調整。 取り付けてみるたび,なにか長すぎるような,バランスの悪いカンジがするので,付けては削り,削っては詰めて,もう最初に作った時からすると 1.5cm ばかり短くなってますが,これが最後の詰め。糸倉とのバランスがようやくマトモになりました。 これは当初,3号月琴を参考に軸のサイズを決めたせいですね。3号の軸は太くて長く,今の中国月琴と同じような丈夫げなものになっています。最近修理した「松音齋」「鶴壽堂」や4号なんかの軸先は,三味線の中棹なんかとほとんど変わらないくらい細い。 「おりょうさん」の軸はそこまで細くはありませんが,時代としては「松音齋」「鶴壽堂」などと同じ頃の作でしょうから,軸の長さや糸倉とのバランスも同じようなタイプと考えて良いでしょう。 長さを詰めたときに,全体削りなおしてしまったんで,またイチから塗装しなおし。 今回は茶ベンガラに少量の赤ベンガラを混ぜたので,ちょっと艶っぽい色になりました。 握る部分にはあとでニスを塗って,表面の保護とベンガラ留めをしとこうようと思っております。 さて,HPでは初公開の蓮頭。デザインは河からのぼってくる不思議な馬(?)。5・6フレット間に付く扇飾りと対になって,あるメッタに使わない四字熟語を表します(漢文レベル9以上かな?) ![]() この月琴の桐板はもともとかなり赤みをおびた濃い色をしていたようなので,エタノールでクリーニングしたあとも,ちょっと赤っぽく見えます。うまく黄金色に染めあげられるかどうか… まずは砥粉をヤシャ汁で溶いたものを全体にハケ塗り(上),半乾きのときに布でこすって,木目をちょっと埋めてしまいます。 乾いたら白っぽくなりますんで(中),これに今度はヤシャ汁だけを塗ります。 ![]() ■ フレット製作(→) フレットはローズウッド+象牙。 わたしはニカワを湯煎する小鍋でいっしょに茹でてからひっつけてます。そんなに大きなものではないんで,洗濯ばさみとか,クリップがクランプの代わり。くっついたら,まずは楽器に立ててみて高さを調整,糸にも触れず,前のフレットを押さえてもビビらない,ちょうどいい高さになったところで,両面を削って台形にし,柿渋を塗って強化しておきます。
フレットの調整のために,山口に糸溝を切って糸を張り,鳴らしてみました。 ――ああ,この楽器は何十年ぶりに音を出したんでしょうね…。 そう考えると何やらカンドーしますが,カンジンの音はというと…これがそれほどカンシンしません。 いや,あの手ヌキの内部構造のわりには,けっこういー音で響いてるとは思いますヨ。 しかしながら響き線がやたらとガンガラガンガラ鳴るわりには,さほどの余韻が出ない。 工作から見て,この楽器は大流行した時期に,工房のようなところで複数人の手を経て作られたものと考えられます。ですんで,同じような構造をしていても,「松音齋」のような「銘入り」の職人モノとくらべるのはちょっとコクかもしれませんが…。 まあ,でもどちらかといえば明るい,素直な音が出てます。 弾き方によっては万人好みかな? | ||
STEP7.修理ついに完了! 第6フレットまでは一気だったんですが,最後の7・8フレット,最初に作ったのが低すぎ,かなり強く押さえないと音が出ないので,も一度作り直し。 なので,その間に5フレットまでの仕上げをしときます。#1200の耐水ペーパーで表面を磨いて,ニスを塗り,乾いたら#2000のペーパーで仕上げ研ぎをします。材質によってカラ磨きだったり,油磨きだったり,ロウ磨きだったりしますが,今回は荏油で磨いてしっとりしたカンジに。 ![]() 材質はアガチス。軸に塗ったのと同じ茶+赤ベンガラを塗って,素材感を消した後,ウルシ塗料の黒を薄めたのを何度か刷いて,ベンガラを留めるのとともに色を落ち着け,最後の塗装が乾くちょっと前に,砥粉とベンガラを混ぜた粉を布に付けて擦る――と,こんなふうに埃っぽく,古めいた質感が出るんですねえ~。下地もちょっと高級材っぽく見えるでしょ? 意匠は「川から出てきた不思議なカメさん」。すでに述べたよう,蓮頭と対の意匠です。 ![]() 糸を張ってみて,あらためて気がついたのですが。 半月にある外絃の孔が,縁からずいぶんと近くにあけられています。間隔は2mm ないほど。うちにあるほかの月琴で測ってみると,だいたい4~5mm が平均のようで,これはずいぶんと狭い。こんなに細いせいで,糸擦れによってけっこう深いミゾが刻まれてしまっています。 まあ,今日明日ブチ切れるというようなものではありませんが,操作上,音色の上でも何らメリットがなく,もちろん強度の点から言っても耐久性から言っても,よろしい工作ではない。おまけに糸輪が小さくなって見栄えも悪いなあ。 この月琴にはどうもこういう,アトサキ考えない工作が多いですね。 たとえそれがムダな加工であっても,何か信念とか誇りのようなものが見えてくる工作は好きなんですが… ![]() 今回はちょっと表板の色が濃い目になりましたが,古色めいてて悪くはない。テラテラだった軸も,磨いたらしっとり感が出ました。新しく作ったまん中の扇飾りも,それほど違和感がなくってグー。
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修理後所感 今回の修理,外見はまあカンペキだと思うんですが,楽器としては問題点がいくつか残りました。 1)響き線の感性不良。 オリジナルの線は焼入れが甘く,ほとんど生の「鉄線」といってもいいもの。 加工も悪く,胴体内で糸の音にうまく反応して「響いて」くれてません。 音に対する感性は良くないのですが「揺れ」に関しては敏感で,ちょっとポジションが悪いと,とたんにガランガランとよく「鳴り」だします。 2)高音3フレット目に原因不明のノイズ小。 ここを押さえた時,ビビリに似たへんな金属音の残響がすることがあります。楽器の構え方,押さえ方によっては鳴らない時もあり。内部構造からくる余計な共鳴現象だとは思うのですが,いまひとつ原因不明。まあちと耳障りなくらいで気にするほどでも。 いづれも音色の問題であり楽器の基本構造や,本来の工作に起因するものなので「修理」する身には多少どうしようもない部分はあります。 音色についてはすでに述べましたが,あまりよろしくない。 しかしこれを改良しようと思うと,この楽器を「別の月琴」に作り変えるくらいの加工が必要なので,現状ではここまで。 今回は必要最小限の修理・補修にとどめて,本体を製作当初の状態に近く再現し,次の世代に渡すことといたしましょう。 |