コウモリ月琴(4)
![]() STEP3(続2) 側板の割レ継ぎ 三歩進んで二歩退がる――とゆーよーな調子で修理は続きます。 例の割レ部分の補修は,平面(板)の修理としては悪くない。金属弦を張るわけでもないので,強度的にもあれでじゅうぶんだとは思いますが,立体的な構造として考えてみると,もう一手間欲しい。で―― ■ 側板裏に補強のブロックを入れます。 桂の端材を1cm厚ほどに刻んで,胴体内側の曲面にあてながらヤスリですり合わせ,ニカワで接着。 これを裏側に接着することで,垂直方向で割レを継ぎ,水平方向で棹元にかかる負担を分散しようというわけです。 まあこの部分の修理として考えれば,ここまですることもないとは思いますが,ここまでしておけば楽器の寿命は延びる。 せっかく百年以上の時を(何とか)生き延びてきたモノです。音を多少ギセイにしても,末永く丈夫であれかし。 クランプで固定して三日ほど放置。 心配性のお父さんも,これにて安心。では次のステップへ。 ![]() ![]() ![]() STEP4 面板の再接着 はじめにも書きましたが。表板の全面貼りなおしは今回初めての作業。 部分的なウキやハガレの補修は何度もやりましたが,ひっぺがしたのを元に戻すのはいままでやったことがありません。 作業自体はいつも裏板でやってるのと同じですが,裏板みたいにテキトウにへっつけるというわけにはまいりません。 ○ まず接着がきちんとできてないと,糸を張った力でハガれてしまいましょう。 ○ それになにせ半月(テールピース)は表板に付いたままなので,ズレが大きいと楽器の中心線が狂って,演奏に不具合が出ましょう――などなど,ヤバい注意点がいっぱいあります。 表板をとめていたクギ穴の痕がまだ残っていますので,これを有効利用といきましょう。 クギ穴に竹釘を押し込んで仮止めし,左右の位置ぎめの目安にします。二箇所目安があるだけでも,かなり違いまね。怒髪天を衝きながらのクギ抜きでしたが,こんなところで役にたつとわ思いませんで。 四方にゆるくクランプをかけて,より正確に位置合わせをしながら,しだいにクランプを増やしてゆきます。 ![]() やっぱり円形物の再接着は難しい。 写真のように,ほとんどワラジ虫か円形ムカデと言った状態でもなお,あちこち板が浮いてしまい,けっきょくいつもと同じく,クランプを一箇所に集中させドライヤーで強制接着,回しながらの作業となりました。 もっとも,クランプの数が増えたおかげで,一度の作業範囲が広くなったぶん時間は節約できましたが,それでも4時間近くの大作業となりました(;^_^A 。 作業前に工房内を整理,工具もきちんと並べ,準備万端意気込んではじめた大作業ながら。 作業に思いのほか時間がかかった原因には,ニカワ鍋に足をひっかけて撒きちらしたり,ほぼ同時に延長コードが切れて火花は散る――と,ふだんはないような怪奇現象(?)がサマザマ起こったせいも…古楽器扱ってると,一度はナニカあるね。ハライタマヘ。キヨメタマヘ(^_^;)。 ![]() ニカワは三日もすれば乾くのですが,今回は大事をとってもう一日おいてから次の作業へ。 ■ 最初に,クランプをはずして,接着した箇所の確認をします。 ハガレたり浮いたりしてる箇所はないようで,まずまず。 例によって段差は少々ありますが,0.3mm程度のもので,じゅうぶんに修正(ごまかし?)可能な範囲です。 ただコレ――上下がどちらもでっぱり,左右上部にヘコミってのは何なのでしょうねえ? 円に円を重ねたのですから,上下の「どちらかが」でっぱってると言うのなら,左右にヘコミが出来るのも分かるんですが…とすると,板が上下に伸びて,左右に縮んだということですかい? うむ,不思議だ。 ![]() ギターとかとくらべると,板はずっと厚いので作業は気楽。 ■ まずは木工用の鉄ヤスリでゴ~リゴリ!(ランボウだなあ…) 塗装がだいたい落ち,段差も目立たなくなったら,#100#240の布ペーパーでヤスリ目を消し,#600で粗く仕上げておきましょう。 側板はこのあと#2000くらいまで磨きこんでから。柿渋塗り,ラックニス下地で,色付けを兼ねカシューの透でコートの予定。
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STEP5 軸・お飾り類の再製作 小物を作るのは好きですねえ。なにせ音にあまり関係ないのが多いので気軽――おおっと,でもこれはそうでもないか。 ■ まずは2本足りなくなっている軸を作ります。
![]() 柿渋を塗ってはペーパーがけ,柿渋+茶ベンガラを塗ってはペーパーがけ――という具合に,染めと表面処理を同時にしてゆきます。何度も柿渋を染ませることになるので,木部自体の強度もあがりますね。 最終的にこの上からカシューの透を塗って,ちょうどいい色合い,てのがちと難しいです。 ■ いちばん右がオリジナルの軸。左二本が今回作った軸です。 くらべると,わたしの作ったもののほうがオリジナルより角ばっててシャープな感じになっています。オリジナルのほうは,軸の頭こそきっちり六角形ですが,そこからはすぐ,けっこう雑に丸っこく削ってあります。 ワタシ的には,角ばってるほうが音合わせの時カンがとりやすいのですがね――まあこれはこれで,よく見れば後補部品と分かるから,このままにしておくことといたしましょう。 軸がそろうと,楽器が本当に甦ってきたような感じがしますね。 はやく鳴りた~い!――というような声が聞こえるような気もします。 コウモリ月琴,オリジナルのお飾りの構成はナゾです。 左右のコウモリさんをのぞくと,明清楽月琴だとまず付いてないことはない扇飾りすら,もともとついていたかどうかわかりません。 たぶん飾りがとれてから放置されていた期間が長かったのでしょう。 汚れに覆われて,左のコウモリさんの痕跡がわずかに見えるほかは,ほとんど分からない状態であります。 あまりゴテゴテと付けるのは趣味じゃありませんが,コウモリさんだけというのもちょっとサミシイので,いくつか作ってみましょう。今回は扇飾りと,真ん中に円形のお飾り(名称不明)をつけようと思います。 明清楽月琴の胴体の真ん中には,よく円形のお飾りがついています。なんという名前なのかは分からないのですが,凍石や木で,ほかのお飾りにくらべるといくぶん凝った,細かな装飾であることが多いですね。 いつもは植物ですが,今回は左右が動物。 ちょっとクドいかもしれませんが,動物尽くしとまいりましょう。お月様関連で。 ![]() 「月」の琴に「ウサギ」。関係は言うまでもありませんね~。 お月さんでお餅(ほんとうは「薬」なんですが)を付いてるウサギさんは,名前を「玉兎」と言います。 「金烏西墜,玉兎東昇(日が落ちれば,月のぼる)」と。この「玉兎」という言葉自体,「月」の異名となっています。 「雲間玉兎」の図,ってとこでしょうか。たなびく薄雲をバックに跳ねるウサギ二匹。振り向いているのは,月を見上げているのです。 ![]() 蓮の花の下にカエル。「蓮下蟾蜍」の図ってとこかな? ウサギさんにくらべると,あまり有名ではないかもしれませんが。こちらも立派な月の住人です。 むかし「嫦娥」さんという奥さんが,旦那さんのとっておきのクスリ(不老不死の)をくすねて飲んでしまい。「そゆヒトは地上にいてはイケません」ということで,お月さんに飛ばされたうえ姿をカエルに変えられてしまったのだとか。 ちなみにそのとき抱いていたペットのウサギさんが,上の「玉兎」であるという話しもあり,絵にもよく描かれてます。 ――上にカエル,下にウサギ。 こうゆう関連であります,ハイ。 ![]() さて…おそらくはこの楽器が作られた当初から。 月琴音楽流行のなかでさかんに弾かれていた時も,廃れて壊れて見放されたあとも。 ただ片われだけとなってもなお,この楽器を見守ってきたコウモリさん。 三角の頭,くるりと曲がった左右のつばさ。 デザインは単純ですが,すばらしい出来です。 彫りに迷いがない。 先人に思いを馳せながら,この後もずっとこの楽器を守ってくれるようにと。 腕はおよばずながら,この斗酒庵。 ――未来へと連れて行ってもらう,相方をこさえさせていただきます。 ■ なくなってしまったコウモリ飾りを複製。 ![]() 材はアガチス。 オリジナルを板にあてて,ケガキで輪郭をなぞり,糸ノコで切り出して,左右対称となるようにひっくりかえします。 アガチスはそのままだと柔らかすぎて,細かいモールドがシャープに出ないんで,形が出来たら板に柿渋をたっぷり染み込ませて,乾燥させておきましょう。 柿渋しませておくと,刃をあてたときのサクサク感が増して,修正がしやすくなりますね あとはオリジナルを横に置いて,見ながらの作業。 輪郭はともかく,内側のモールドはだいたいカンで。 こういうのは完全な左右対称とか目指すと,かえってぶかっこうになります――ほら,ヒトの顔も左右非対称になってるでしょう?――とか,しくじったときの伏線をはっておきます。 表面板はクリーニング前,軸もお飾り類もまだ塗装中ですが,ちょっと並べてみました。 たまにこうやって遊んでやると,次の作業へ向かうテンションが高まりますね~。 やや太めの棹,胴体もやや厚めの男性的なフォルム。左右の目摂が小さめなことも相まって,質実素朴「職人の月琴」って顔つきです。 ![]() |