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ゴッタン阮咸(終)

RUANHAN03.txt
斗酒庵 明清楽阮咸をデッチあげる 之巻(終)2006 12月~ ゴッタン阮咸(終)


STEP8 お飾りを作りまSHOW!

  表面板が仕上がるまですることがないんで,お飾りを作りましょう。

  阮咸につく装飾は2箇所3つ。
  一つは糸倉のてっぺんにつく海老尾飾り。もう一つは胴体左右の目摂。
  海老尾のほうはイマイチ何の意匠だか分からないんですが,目摂のほうは『明清楽之栞』の絵図ではコウモリになっています。
海老尾(1)
  まずは海老尾飾り。
  本当は棹と同材か何かで作るんでしょうが,今回は表面板の切れ端,桐でサクサクっと作ります(手ヌキです)。
  も~切れる削れるラクでイイんですが,これだけだとさすがに強度が心配なので,裏にアガチスの薄い板を貼って補強してあります。
  表裏で木目を交差させてるんで,ちょっとの衝撃でパキとかいうことはないでしょう。


海老尾(2)
  付けてみるとこんな感じ(→上)。

  よさげだったんですが,実は糸倉の取付がわのほうの角度を間違っちゃってまして,楽器をまっすぐに立てると,お飾りがやたら前に突き出しちゃうカタチになって,カッコが悪いので改修(下)。

  一見,糸倉に取付けるためのカバーみたいですが,中に足りない角度の分,ゲタを履かせてあります。
  ま,シークレットブーツみたいなもんですね~。

  あとは上からカシューでこってり塗り重ね,素材や構造をごまかしましょう。

コウモリ飾り
  目摂のコウモリさんは,コウモリ月琴のをコピー。
  もう一個彫った後なので,手が覚えてます。

  だんだん出来がオリジナルに近づく~っ!,か?

  彫り終わったら布でベンガラをなすりつけ,柿渋に漬け込み。
  乾かしてからカシューの黒と紅溜を混ぜたもので上塗り。
  最後に古び粉(茶ベンガラ+木炭粉+砥粉)をはたいて,磨いて仕上げます。



STEP9 胴体完成!
表面板補強
  面板接着の前に,表面板の棹元を受けるところに,ちょっと補強を。
  黒檀の薄板をへっつけます。
  棹は長いし,桐で弱いから――というもっともな理由のほかに,さすがは安板…。
  板を磨いてるうち,ちょうどこのへんに割れ目をハケン。
  板のヒビが入ったとこを,緑色っぽいボンドで継いだモヨウ。
  よりによって力のかかる箇所ですし,さすがに心配になりましての作業です。

胴体組上げ(1)
  表面板と同じ調子で裏板をこさえます。こちらも三枚継ぎです。
  表裏の板が出来たら,さあ,いよいよ胴体の組上げ,最終局面!

  すでに組みあがっている胴体に,はじめは表裏いっしょ,一度で接着!とか考えたんですが,ニンゲン慣れないことをするとロクな目にあいません。

胴体組上げ(2)
  まず表面板を接着。半月も付いてますし,音が出る面です。
  しんちょうに,カクジツにへっつけましょう。
  まン丸い月琴と違い,角があるから少しかラクかと思いきや,けっきょくCクランプ総動員。 重しに辞書などのせて一晩。翌日,同じ調子で裏板をへっつけまた一晩。

  クランプはずして,ハミ出た板を切り取り,あっちゃこっちゃパテ埋めするとホラ――胴体の完成です!



STEP10 仕上げ

  棹が仕上がり,胴体が出来。
  あとは色を塗って,お飾りつけて,フレットを立てればおしまいですね。

左・下地/右上塗り
  塗装はまず,雑巾にラックニスを薄めたものをつけて,棹と側板に何度もなすりつけます。

  ギターなどの高級仕上げに,布タンポでラックニスを板に染ませてゆく「フレンチポリッシュ」てのがありますが,こちらは材料が材料ですし,高級でもなければ繊細な作業でもなし――力任せにご~しごし。

  名づけて「雑巾ポリッシュ」。

  塗装というよりは,漆塗りの「木固め」の段階を,乾きの早いアルコールニスでやっちゃおう,というところです。漆やカシューだと,次の作業に移れるまで時間がかかりますが,ラックニスなら30分もすれば表面はカッチリ,磨いてサラリ。

  下塗り兼下地の表面処理が終わったら,上塗りはカシュー。
  棹は紅溜。糸倉と棹元のところを色濃く塗って,中央部分を薄くします。
塗装中
  「ちょっと見サンバースト」てとこでしょうか?

  側板は表裏の桐板のふちをぐるりとマスキングしてから塗ります。

  はじめ胴体はカシューの透で塗っていたんですが,棹の色が目立ちすぎるので,上から紅溜を二三度重ねて調整しました。
  どちらも紅溜だけだとキレイ過ぎるので,すこし黒を混ぜて色を濁してあります。

新フレット
  フレットは当初,月琴のを巨大化させた板状のものを付けてみたんですが。
  この楽器,絃高が高いので薄い板状のモノだと,どうも操作に安定感がありません。
  弾いてるうちにポロリととれてしまいそうで,どうにも不安になり,糸をしっかり押えられないんですね。

  そこで底部のどっしりした,より分厚いフレットに替えてみました。

  竹板を二枚合わせて,弦に当たる部分には象牙の棒(月琴のフレットに使ったものの端材)を噛ませ,横から見ると,裙広がりの三角形になってます。

  このカタチのほうが何か安定感があって,安心して操作できますね。



STEP00 ナミダの半月付け直し!

  三角フレットに替えて,イザ!と立てはじめたのはいいのですが…6フレット目になっても,なぜかフレットの高さが変りません。
  ふつうの弦楽器ならおそらく,フレットは月琴と同じように,徐々に低くなってゆくはずなのですが――と,ふとその絃高を測ってみて気がついた……半月が高すぎました。

  さらに山口(ナット)を調整のため少し削ってしまったものですから,頭よりお尻のほうが高くなってしまっているわけです(^_^;)。

  最も簡単な処置方法としては「山口をより背の高いものに作り直す」というのがありますが,この楽器の絃高は現状でもかなり高く,手の小さいわたしとしては今でもかなり操作しにくいので,これ以上高くなると楽器として演奏できない可能性もあります。
  せっかく作っても弾けなきゃ意味ないしねー。

  また現代に残る親類の中国楽器「雙清」や「秦琴」の資料を見る限り,あちらの半月はもっともっと低いものになっています。
半月修正
  ココは果敢に修正してやりましょう。

  ただ半月の材は「鉄の木」の異名を持つタガヤサン。

  しかも接着のいい桐板にニカワでガッチリへっついちゃってます。
  ただ周囲を筆で水刷いて濡らしたくらいじゃ,一晩たってもビクともしません。
  濡らしてドライヤーで温めてもみましたが。この木,熱の通りが悪いようで,時間ばかりかかるうえに面板のほうが先にハガれちゃいそうになったので中止。

  お前の接着方法と技術の正しかったことが証明されたのだ!

――とか,ナミダしながら自分をナグさめたりもしましたが,埒が明かないので「野生の手段」を取る事に。

  ノコギリでぶった切ります,ガオ~ッ!!!。
  どうせ「背を低く」するのですから,ガオ~ッ!!!


  切り取った半月をさらに削って,背丈を 12mm に調整。
  糸は半月の高さより約 1.5~2mm 下から出るんで,これで山口との落差は約 4mm ほどとなります。

  面板のほうに残ったタガヤサンのカスをほじくりだし,ノコギリでキズした部分もキレイにして再接着です。




軸
  軸は当初,同時に作り始めた「ウサ琴」のため作った,桂に塗りをしたものでしたが,テストしているうちに一本折れてしまったため,別途チークでこさえました。
  写真ではまだ二本,桂のがささってますが,今は四本ともチーク製。

  ――これ,いいですね。

  削りやすさは桂とかわらないくらいなんですが,堅くて美しい。
  何よりカタチができたら磨いて,あとはオイル仕上げのみ――いちばん時間のかかる塗装の手間がナイのがいい。

  欠点は木自体に油分があるんで,細かく切ったり削ったりする時,ちょいとスベりやすいってことくらいでしょうか?――うん,うちで製作する楽器の軸は,今度からコレでいきましょう

お尻金具
  最後に楽器のお尻,棹のナカゴの先を丸く落としてカバンに使う金具と環を付けてあります。

  絵図では月琴で糸倉に結ぶような飾り紐が,ここに結われているのですが,長い楽器なので立って弾く時などはストラップも付けたと思いますね。

  さて,最後にちょいともたつきましたが。
  1月28日,「ゴッタン阮咸」完成です!



  調弦は月琴をひっくりかえしたG/C。4弦2コースの複弦。

  資料によると,撥・義甲の類は使わず,手指で弾くそうですが,拾い物の材料の寸法に合せて作った関係で棹が細く,そのせいで2コースの間が狭いので,指だとちょいと弾きにくいので,月琴のピックで弾いてます。

  棹が軽い材料なせいもあるんでしょうが,音質は柔らかめ。
  なにやら「ハチの羽音」に似た余韻,響きがします。

  低音部はフレットが高いので,フレット間の中心に指を置き,ちょっと握りこむと容易にビブラートがかかります。
  これが "Bebung 効果" ってやつですね。

自作PU
  今回の録音は,秋葉原で買ってきたパーツで組んだ自作PU(圧電素子+ボリューム+ジャック。材料費:遠足のおやつ代くらい。)を,テストをかねて使ってみました。

  うん,けっこうちゃんと音拾いますね。



四面図 『明清楽之栞』阮咸の図


   ゴッタン阮咸音源集(MP3)



  資料には「阮咸調」というこの楽器のためのような曲も見えますが,まだMIDIも組んでませんし,今のところこの楽器でナニを弾けばいいのかがちょいと不明のため,今回は漫奏のみでご勘弁を。


代用月琴1号(仮)1

MMOON01.txt
斗酒庵 代用月琴を作る代用月琴(仮)1


  さて,明清楽の月琴とその工程にはまだまだナゾが多く,「昔のままに楽器を復元・製作出来るぞい!」――という域には,庵主,いまだ至っておりません。
  しかしながら修理も10本を越え,さすがにサル程度の技能や知識は何とか蓄積されております。ですので明清楽月琴そのものではなくても,その「代わりになる」楽器程度のものは,なんとかデッチあげることが出来ましょう。

  条件は――

● 外見・音色が近いこと。
● 共通の部品(軸・フレットなど)を用いる。
● スケールがほぼ同じで,操作感が近いこと。
● 素材・構造・工法は問わない。

  さらに,年収100万円に遠くおよばないド貧乏ビルダーの庵主にとって,重大かつ最重要条件としまして――

¥¥¥¥ ● 比較的安価に作れること。 ¥¥¥¥

――が付帯いたしましょうか。
  現在腹算用にある材料・設計から考えると,できあがる楽器は外見的にはただの「小型月琴」となりましょう。
  しかしながら,今回作る楽器はあくまでも「代用」楽器なので,「これも月琴じゃ!」などと軽々に放言するにはイササカ抵抗があります。
  とはいえ「代用月琴」とか「まがい月琴」とか言い続けるのも何かシャクですね……ま,いずれナニヤラ考えましょう。



STEP1 棹作り

  月琴という楽器の製作を考えた時,まん丸なボディと共に,この棹,特にアールのついた糸倉の部分をどう作るかということが問題になります。
糸倉(参考・4号月琴)
  本物の明清楽月琴の棹は,糸倉までまるまるの削り出しか,糸倉の左右の部分までを一木から削り出し,音叉のような形にしたてっぺんに間木を挟めるかのどちらかです。

  棹を糸倉ごと切り出せるような,大きないい材料がふつうに手に入った昔はともかく,現在ではそんなことをしたらけっこう高くつきますし,そんな大きな材を切り刻むには,それそこの道具と作業スペースが必要。

  お金もないし,四畳半一間,住居兼書斎兼工房のわが家ではとてもムズかしいので,角材と板切れを組み合わせて,寄木細工のようにカタチを作ることといたします。


棹作り(1)
  まるまるの削り出しに比べると,工程は多少増えますし,強度的な心配もありますが,とりあえずは試作してみましょう。

  棹本体には 3cm 角の桂,糸倉にはDIYなどで「版画用」として売られている 1cm 厚の桂の板を使います。
  まずは板から,糸倉の左右の部分になる部品を二枚切り出します。
  アールのついた糸倉の部分から,棹とつなげるホゾ(長・3cm ほど)になるところまで。ホゾの部分のはじっこは,糸倉の内側に向かって斜めに切り落としておきます。
  つぎに棹の角材の先端を凸型に刻んで,左右の肩をこれも内側に向かって斜めに切り込み,糸倉のホゾを組み込む「受け」を作ります。
  三つの部品がぴったり合うように接合部をすり合わせ,ニカワで接着しましょう。

  ついでに,糸倉の裏の付け根のところと,天のところのスキマに,ニカワを塗って小さな木片をはさみこんでおきます。いづれも糸倉や棹を刻んだときに出た端材を刻んだのでじゅうぶんです。

  クランプで固定して,三日ばかりおきます。

棹作り(2)
  左右がくっついたら,お次はこれに指板を貼りつけます。

  棹材自体がそれほど強くないですから,ここは黒檀とか紫檀とか,堅くて丈夫な木がいいでしょう――棹の指板を貼り付ける面は,かなり神経質に水平リーベぼくの船に均しておきましょう。

  こんどもまた,クランプでがっちり固定。
  ちゃんとくっつくまで,また二三日置いておきましょう。

棹作り(3)
  クランプをはずすと,四角ばった「棹みたいなモノ」が出来ました。

  何やらチョコレートのかかったお菓子みたいですね。
  ちょっと美味しそう。



棹作り(4)
  さて,「棹みたいなモノ」を,だんだんちゃんとした「棹」にしてゆきましょうか。

  まずは胴体にさしこむホゾの部分を刻みます。

  この部分にはあとでV字を横にしたカタチに切込みを入れて,胴体の中に入れる延長材を継ぐんですが,この時点でやってしまうとジャマだし,切れ込みを入れるとホゾのところが弱くなって作業がやりにくいので,この時点ではまだ挿さないでおきます。

  あとは全体をミニカンナや切り出し・ヤスリでヒタスラ削る削る削る!

  ――2時間ほどで,だいたいのカタチになりやした。

棹作り(5)
  糸倉の表裏に木目の関係で加工しにくいところ,削るとボサボサになっちゃうようなところがありますが,そういう箇所は薄く溶いたニカワか,ラックニスを染ませてから作業をすると,キレイに仕上がります。

  ニカワ接着にちと時間を食いますが,うむ,できるもんだ。

  少々継ぎ目がみっともないですが,このへんは塗りである程度ごまかせましょう。
棹作り(6)


  次に軸穴をあけます。

  今回のモデルにしたのは1号月琴。ほかの月琴より糸倉が長いだけでなく,軸に少し角度がついてます。それも「左右に末広がり,やや前かがみ」という3D構造なもんで,2Dな庵主のアタマ,ちょいとついて行けません――こういう時は,ヘタにアタマで考えず,実際の作業で確かめながらやってゆきましょう。

1)まずは失敗じっても取り返しのつくくらい小さな下穴をキリであけます。
2)つぎにその穴に竹串をさして角度方向を確かめましょう。
3)イマイチなら下穴をあけ直したり,削ったりしてもう一度。
4)「これだっ!」というバチリな角度になったら,クランクドリルや棒ヤスリ,リーマーで穴のサイズを広げます。


  このとき,希望のサイズ一歩手前,ぐらいで止めて,仕上げにもう一作業やっておきましょう。

軸穴あけ(1)
  写真でキリのむこうにある銀色の棒が今回の新兵器です。

  これは釘の頭を埋め込むときとかに使う「釘シメ」という道具の先端を,軸先の寸法(3cm で直径 7-9mm )になるようシコシコ削って尖らせたモノ。
  これをコンロでがーっ!と熱して下穴につっこみ,軸穴を焼き広げるのです。

軸穴あけ(2)
  これは三味線なんかでよくやる加工で,この方法で仕上げると,ドリルやリーマーだけでやった場合より強くて,ペグ穴からのヒビ割れ等も発生しにくいそうです。
  ただし,うまくやらないと,糸倉がただコゲちゃうからご注意。

  いままで修理した月琴では,この軸穴内部を焦がした状態そのままにしてある場合と,さらに上から漆などで固めている場合の二通りがありました。


  さて,こうして棹のカタチはできましたが,問題は実際の使用に耐えられるかどうか。
  そのへんは,まだまだ,分かりません。



STEP2 半月を作る
半月(1)
  糸倉を切り出すのに使った 150×250 の板からは,糸倉の部品になる板が3枚と,半月が2枚切り出せます。

  今回の楽器ではスケールはなるべくフルサイズの月琴に近づけたいのですが,操作感が変化しないように,棹の長さはオリジナルの月琴と同じにしてあります。

  山口(ナット)から半月まで,有効絃長は 41cm――胴体が小さいのに棹が延ばせないとなると,まず半月の取付位置を地ギリギリのところまでぐっと下げなきゃなりません。

  それでも足りなくて,半月自体の縦の寸法を削ったたため,「半月」というよりは,木の葉を縦半分に切ったような,ちょっと横長のカタチになってしまいましたが,まあそれはさておき――

半月(2)
  まずは側面の木口の荒肌を均しながら,天方向から見て台形になるように,斜めにそぎ落とします。
  つぎに,面板に貼り付けたときポケットみたいになるように,真ん中の裏側をエグります。
  糸孔のあくあたりは薄く,奥は厚くなるように。

  まれにま四角く凹状に彫り込んだものもありますが,だいたいはこれと同じく,奥の方ですぼまるように削りこんだだけのものが多いですね。

  #240のペーパーでざっと表面の凸凹を均し,#600で表面を処理したら,お茶で溶いた茶ベンガラをすりこみましょう。

半月(3)
  以前は柿渋で溶いたベンガラを塗りつけてたんですが,その方法だと濃すぎで木目が見えなくなっちゃうので,このごろはまずこうしてベンガラを刷り込んでから,柿渋を上塗りするやりかたで木を染めています。
  直接塗りつけた場合より,木地への色の染みこみもいいですね。
  上からカシューの透を刷いた場合,最初に赤ベンガラを刷り込むと紫檀っぽく,茶ベンガラだと黒檀っぽくなります。
  両方合わせてマダラにすると,さらにソレっぽくなりますよ。



STEP3 胴体を作る
胴体参考(2号)
  通常,月琴の胴体は,円周を4等分した形に厚板や角材から切り出された四枚の木片を組み合わせてできています。部材同士の接合は,多くは両端の木口同士を接着しただけ,良くても単純な凸凹組みですが,まれに複雑な組み方でがっちりと接合しているものもあります。

  板木口同士の接着は,擦り合わせが良く,ニカワが健在な場合はもっとも素直に振動を全体に伝えることが出来ますが,ニカワが劣化したり虫損などして接着部が弱ると,強度だけではなく音の面でも質の低下が顕著になります。

  一方,凸凹組みは誰もが考える接合法だと思いますが,実はこの組み方,単純で,かつ丈夫ではあるものの,曲面構成のこの側板で,ピッタリはまるように工作するには意外にウデが必要です。

  事実,今まで修理した凸凹組み月琴の接合部には,1mm から最大で2mm 以上にもなるスキマが開いているようなことが多々ありました。
  たいていはスキマに木片を詰め込んだり,ニカワを流し込むなどして埋めていますが,そうすると振動の伝わりにムラができたり,埋め切れなかったスキマのせいで一種の胴鳴りのような現象が起きたりしてしまいます。


  さて楽器について書かれた一部の資料には,この月琴の胴体を「蒸気で撓めた板」で出来ている,と書いてあるものもありますが,事実は上に述べたように否。

  ギターやヴァイオリンの側部と違い,月琴の胴体は1cm はある厚い板。
  杉やヒノキの突き板ならいざしらず,この厚さの木材を自在に曲げることのできるような設備が,町の楽器職人さんの各工房にあったとは考えにくいですわな。
  またじつは,そういう木材の加工技術が出来たのは,つい近年になってからのことで,月琴が作られていた時代にはまだ,そういう厚い木材をこんな円になるまで「蒸気で撓め」ることは難しかったのです。

  たんなる外見と思い込みから来た間違いなのですが――現実に,そうしたものでこれを作ってみたらどうなるだろう?

  第一次世界大戦中に飛行機が,それまでの木骨羽布張りからモノコック・ボディになったように,月琴の流行があともうすこし続いていたなら,そうした技術革新もありえたのではないか?

  そんな思いが,以前からあったのですが,ふつう入手できるそうした材料といえば,曲げワッパの弁当箱か,蒸籠の枠くらいなものです。いづれもサイズが小さかったり,薄すぎたり,円形を保つためにタガのようなものが必要だったりで,今ひとつ使えそうにナイ。

胴体(1)
  そこでいろいろと探しているうち,こういうモノを見つけました。
  埼玉県入間市「プログレス」さん加工の「エコウッド」。

  家具や室内装飾に使う素材で,材質はスプルース。なんでも水だけで曲げる最新工法で作られたものだそうです。
  丸いし,厚さも6mm ほどあります。

  月琴の胴体としては多少柔らかいし薄いのですが,先にやった阮咸さんの製作で,針葉樹の薄板でも,この手の楽器の胴体らしいものは作れることが分かってます。

  また,あえて失敗するつもりはありませんが,一本¥500くらいと安価なうえ,外径 31cm,幅 50ミリのやつを半分幅に切って使う――1本で2面分の胴材がとれるわけで――まずは果敢にチャレンジ,チャレンジ!

胴体(3)
  まずは作業用に,外枠を作ります。

  ギターとかウクレレのビルダーさんたちが使う「型」というほど精度のあるものではなく,作業中に円形を保ってくれりゃイイ,という程度のシロモノであります。
  DIYでテキトウに買ってきた正体不明の端材,なんかやたらサクサクと切れる厚板と,12×20mm 角の松材で出来てます。半月を切り抜いた板に松材を両面テープでとめて,ボルトでしめこんだだけ。

  これに継ぎ目を加工したエコウッドをハメこんで,接合部にニカワを塗ってつなげて,円形にします。
  胴体の継ぎ目はこの一箇所だけ――うほほ,ほんとにほとんどモノコックボディですね~。

胴体(4)
  最初から丸いのはいいんですが,材質がスプルース,厚さはあっても柔らかいんで,内側にいろいろと工夫こいておきましょう。

  棹を挿す,天の部分の補強の仕方は,コウモリさんと阮咸さんで実験・経験済みです。
  地のほうに板の継ぎ目をもってきたので,こちらにも裏にブロックを貼って補強しておきましょう。

  分厚い板や角材から,うんしょうんしょと切り出すこともなく。
  まぁるい胴体ができました!



  次に問題になるのが,内部構造です。
  ホンモノの月琴の場合は,外側が丈夫ですから内部桁は添え物みたいなものですが,今回の楽器は外側が柔らかい。横ざまに抱きしめたら,たちまちコワれちゃいそうです。

  横に桁を渡して補強するのは当然のことですが,また,その桁の固定のしかたも問題。
  ただ両端をニカワで胴体内面に接着しただけだと,横からの衝撃で定位置からたやすくハズれて,ズレてしまうでしょう。かといってハズれないように,はめこむための溝やホゾを切るには,胴体の材が薄くて弱い。

胴体(5)
  そこでこういう方法を考えました。

  ――箱の中に,もう一つ箱を。

  この場合,補強のために入れる箱は,さほど丈夫なものでなくてもイイ。

  楽器中央の側面に,船の龍骨(キール)のような板を渡し,上下二本の横桁をつないで,内部構造をあらかじめ箱のような構造に組んでしまいます。さらに竜骨の真ん中にクボミを彫って,胴体内に貼り付けたガイドに噛ませれば,容易なことではズレたりハズれたりしないでしょう。

胴体(6)
  横桁はヒノキです。上桁には真ん中に棹をさしこむ穴と,左右に音が通る孔。
  下桁にも大きな音孔を二つ。最初は左右ぶっ通して一つの大きな孔にしようと思ってたんですが,強度が気になり,くじけました。

  2号月琴のように,黒檀や紫檀など堅い材の突き板で,円周ぐるりを覆ってしまう。
  ――箱の外に,も一つ箱を。
  というのも,同じように弱い箱構造のものを補強するためには有効な手段でしょう。

  でも,そういう板は手持ちにナイし,モノがツキ板だけに,高くツキますものね。


楓渓月琴・臨時増刊号

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斗酒庵 楓溪さんの月琴を直す 臨時増刊号楓溪さんの月琴・臨時増刊号

楓渓さんの月琴・修理完了
  1月21日。「楓渓さんの月琴」,とりあえず修理完了!
  工程の詳細はのちほどまとめて。

  柱間の細かいお飾り類は,後々のメンテを考えて,剥がしやすい貝板の類で作り直そうと思っていますが,今ちょっと予算がないんで,後に回します。
  フレットは黒檀+象牙のツーピース。絃停を貼って,左右の目摂と5・6柱間のお飾り。
  さらにコウモリさんで出番のなかったウサギさんを,真ん中に貼ってみました。

  まずは演奏可能な状態にして,試奏。

  フレットが低いです。一番高い第一柱でも1cmありません。
  そのためもあって,まだ一部にビビリ。あとで微調整しますね。
  フレット立てのため,高低一本づつ張って鳴らしていた時には,あまりカンシンしない,今ひとつ特徴のない音に思えたんですが,二本づつちゃんと張ってみるとこれが響く響く!

  響き線の感度がかなりいいですね。

  音量の方は多少限界があるようですが,フランジャーというかディストーションといおうか,はたまたオーバードライブ目一杯,て感じの,振幅の激しいうねるような余韻――「唸る」月琴です。
  ちょっと民謡三味線の響きに似てますね,津軽とか。
  弾きつづけてると,棹近くにある左耳が痛くなるくらい。
  意外とパワフルな音がしますです,ハイ。



   楓渓さんの月琴音源集(MP3)


  「小九連環」は中国の曲,「水仙」は「茉莉花」を元にした長崎の俗曲。
  「夏門流水」の「夏門」は「厦門(アモイ)」。
  「中山流水」は,聞いたら分かると思いますが,みんな知ってるある歌の元になった曲です。


楓溪さんの月琴(3)

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斗酒庵 楓溪さんの月琴を直す 之巻(3)2006 11月~ 明清楽の月琴(楓溪さんの月琴)



  ――つらつら読み返すに。
  1ヶ月も放置してたんだなァ,と。

  その間,してあげたことといえばヒビ補修の籐巻を塗装したくらいかな?

  新しく修理の月琴も来たんで,作業スペース確保のためにも,またさっさと終わらせて,これ以上布団のまわりをぐるッと目玉の親父に囲まれてる夢を見ないで済むように(現在7つの大目玉にかこまれて暮らしております),楓渓さんの月琴,修理再開いたします。


表板清掃(1)
■ まずは表面板の清掃。
  ヨゴレの層は薄いんですが,これがなかなかにシツこい。
  ちょっと油っぽい気もします。たぶんお香じゃないかなあ。

  今日は3度ほどあちこちかけましたが,今ひとつ,まだ少し,という感じで。

表板清掃(2)
  このままヤシャ染めにいっちゃってもいいんですが,一晩様子を見て,明日また1~2度。

  材が上等の,目のつんだ柾目の桐板なんですが,そのぶんヨゴレが細かく木目に染みちゃってるのかもしれませんね。



半月磨き
■ ついではこの楽器のカタいところ,棹と胴体側部,半月を磨きます。

  半月は表面にちょっと固まったヨゴレがあったので,ちょっと油を刷いて,しばらくしてから耐水ペーパーで軽くなぞり,最後に研磨剤をなすったウェスで磨き上げました。

  一見,黒檀とか紫檀のよーですが,ダマされてわイケません。塗りです。
  材自体はかなり硬い木ですが,たぶんカリンではなかろうかと。

  ホコリがとろけて塗装と同化しちゃってるとこと,オリジナルの下地の処理が悪くてヘンなヤスリ目の目立つとこだけ,#1000のペーパーに研磨剤と油なすってちょいと均し,ほかはウェスに研磨剤と亜麻仁油少しでごしごしごし…しごく単純な作業ですが,何度やってもけっこうな重労働です~。

胴体アップ
  胴側部には濃い色の,ちょっと正体不明な塗料がなすりつけられています。
  ウルシの類ではなく,オイルニスの一種だとは思いますが,けっこう塗りがムラムラ。

  塗るときに,わたしがふだんやってるのと同じように桐板の木口をマスキングしたらしいんですが,それが少しだけ胴材のほうにハミでちゃってたらしく,塗りと桐板の間にほそ~く線になって,元の色のままの胴材が見えてます。
  あんまりくっきりしてるんで,一瞬面板と胴材の間に,何かほかの薄い板をはさんであるのか?とか思ってしまいました。

  うむ,意外に仕上げの仕事が荒いぞオリジナル!

磨き終了
  棹は軽く透ウルシ。
  指板も同じ,この指板はたぶん半月と同じ材ですね。
  半月が濃く色を塗っているのに,ここは素材の色のままというのも,ちょっと変った意匠かも。ここだけは高価な檀材を使ったり,黒檀か紫檀に似せて濃い色に染めてある例が多いですね。

  棹は塗装の状態も良いので,とにかく磨くだけ。
  えっさえっさかえっさほいさっさ!



山口の歪み(1)
  この月琴,棹~糸倉にかけての造りが,全体わずかーに歪んでいて。それに合わせたせいで山口も(正面から見て)わずかに右に歪んで取り付けられていました。

  写真は山口をはずしたところ。青線が正確な楽器の垂直線。

  高音側に傾斜てのはギターのブリッジとかだとナットクできるんですが,月琴の場合意味がない――4本しかなくて,2本づつ複弦ですから,同音のチューニングにくっきり差があると困るんです。わずか~にズレてる,ぐらいだと音の深みになるんですがね。

  たんに山口を正しく垂直に付け直すだけでもいいんですが,多少見苦しいので,

■ 指板と山口のスキマに黒檀の薄板をはさめて調整しました。

山口の歪み(2)



棹元補修(1)
■ 棹の取り付け部を補修します。

  使ってるうちに,じゃなく当初かららしいんですが,棹ホゾがユルユルで,さかさにすると胴からすっぽ抜けてしまうくらいです。

  延長材の先っぽと根元のところに和紙をニカワ貼り。   乾いたら,紙ヤスリで慎重に削って,調整します。   わずか薄紙1枚ですが,これではキツすぎ。削りすぎるとやりなおしなので,そっとそっと。   目指せスルピタ!

  ちょうどよい具合,ちょっとユルいかな~という所でやめて,上にさッとニスを刷いておきましょう。
  もちろん,本来はそんなに抜いたり挿したりするモノではないので,極限まで究めてそのままでもいいです。
棹元補修(2)



コウモリ月琴(5)

MOONH17.txt
斗酒庵 コウモリ月琴を直す 之巻(5)2006 11月~ 明清楽の月琴(コウモリ月琴)


   STEP6 クギ穴埋め
クギ穴埋め(1)
■ 表板接着の際,お世話になったクギ穴クレーターを埋めます。

  エグれた箇所に薄い紙をあててエンピツでこすり,大体の輪郭をなぞりとったら,以前の修理で出た桐の古材に写し。だいたいのカタチに切った板を,クボミにあててはピッタリはまるようにリューターで削ってゆくんですが。桐は柔らかくて,材同士の接着も良いので,いちばんデっぱってるところとヘコんでるところがきちんとハマるようならもう結構。細かくてギザギザなところは,てげてげに合わせたら,アートナイフの刃を浅くテキトウに入れてザクザクにしておけばつきます。
  最後に埋め板とクボミをお湯ですこし濡らし,ニカワを塗って――ギュッ!
  ハミ出したニカワを布で拭って一晩ほど乾かしたら,とび出た部分を糸ノコやカッターや落とし,ヤスリを軽くかけてできあがり。

  今回は庵主サマ的には上手くいったほーですが…こういう仕事,本当のプロがやると木目もしっかり合わせて,まず見破れないでしょうね



   STEP7 再塗装
柿渋・シェラック塗り後
  さて,側板の再塗装。
  #600で磨き上げた側板に,まずは柿渋を塗ります。
  塗ると少し表面がケバだちますので,乾いてから#1000くらいのペーパーで均してあげましょう。
  二度塗りです。

  この下塗りの柿渋には板の下色づけだけでなく,部材表面の硬化(磨きやすくなる)とか,接着部のニカワと結合して強化してくれるといった効能があります。

  柿渋を塗って2~3日乾かしたら,つぎにラックニスを塗ります。
  使うのは例により日本リノキシンさん謹製のシェラック・リノキシン・ヴァーニッシュ。
  今回はちょっと色が濃い目のブロンズ・ラックのを使ってみました。
  すこしだけ薄めて,これも2度塗り。
  柿渋とニスで木地の色が出て,チギリのコウモリさんがくっきりと浮かび上がっています。

  1日~2日ほど乾かしたら,いったん全体を磨きます。
  今回,ラックニスは下地なんで,塗膜が見えるほどの厚塗りはしてません。

カシュー上塗り開始
  上塗りはカシューの透。

  シャバシャバに溶いた塗料で1~2度重ね,全体が薄くコートされたら,表裏の桐板の木口をマスキングして,最終的な上塗りに入ります。そのまんまだと木口からカシューが余計に滲んで,表板の縁に染みができてしまうのと,木口も一緒くたに塗装してしまったのでは,側部のサンドイッチ構造が分からなくなってイマイチ美しくないんですよ。


棹・再塗装前
  棹は「木地紅溜塗り」といった感じの濃い目の塗りがされていたようです。

  糸倉と基部のあたりにはオリジナルの色が残っていますが,中央部分は擦れて落ちてしまったらしく,木地が出ています。

  こちらにはカシューの紅溜を塗っていきます。
  まずはオリジナルの塗装を落とさないように注意しながら,色が落ちてしまっているところを中心に,刷毛で塗っては布で擦りこんでゆきます。
  いわゆる「擦り漆」の技法ですね。

本塗り中
  全体が同じような色になるように様子を見ながら,塗膜をゆっくり重ねてゆきます。
  途中何度か色合わせのために,紅溜に黒を少し混ぜたものを刷きます。

  本塗りは棹も側板も1日1塗り。
  たまに間をとって乾燥させては,#1500~2000くらいの耐水ペーパーに石鹸水をつけて磨いて塗面を均します――今回はだいたい10日間くらいかかりましたね~。

  最後に何日か乾かしてから仕上げます。



   STEP8 表面板の清掃
表面板清掃・1回目
  さて,仕上げ磨きの前にしとかなきゃならないことが一つ。

  カシュー塗りが終った今の段階なら,ちッとやそッとのことで側板にヘンな染みとかつく心配もありません。表板をキレいにしておきましょう。

  工程はいつものとおり。

  エタノールを垂らしては耐水ペーパーで擦りあげます。板に負担のかからないよう,全体を一気にではなくあちらからこちらからチマチマと。

表面板清掃・3回目
  意外にも見た目ほどヨゴれはヒドくなく,3度目くらいの研磨でだいたい全体キレイになりました。
  例によって楽器の板というわりには板目だわ,節はあるわというそんなに上等ではない桐板。

  おまけに左右の板の色もかなり違ってますね。右は黄色味があって目が詰まったそこそこの板ですが,左には,やや目の粗いくすんだ灰色っぽい板が継がれています。

表面板のキズ
  この作業やってると,前の所有者がどんな扱いをしてたのかよく分かります。

  使用のキズはまず,絃停(ピックガード)の周囲に左上から右下方向にやや弧を描くようについてます。これはおそらく義甲でついた「月琴弾きのつけたキズ」ですが,そのほかに,三味線のバチ先がこすった痕らしいのも,上の方の右肩あたりにけっこうな数残っていました。

  同じ人の付けたキズなのか,何人かの手に渡ったからなのかは分かりませんが,いづれのキズも浅く,それほど無茶したような感じはありません。
  棹元バッキリいくまでは,けっこう大切に使われてきた楽器のようですね。

  今回は貼り直した表板です。
  エタノで湿らせたので,二三日乾燥させ,ようすをみてから次の作業に入ることとしましょう。



   STEP9 塗装の仕上げ

仕上げ前
  カシューを塗り終えた棹と側板。

  まずは#2000のペーパーに石鹸水で塗った部分をくまなく擦りあげます。
  力はいれず,表面を滑らせる程度で。全体が均一に白く曇ったら,研磨剤をなすりつけたウェスに,ほんのちょっとだけ亜麻仁油をつけて,優しく磨きあげると,しっとりすべすべ魔平ら。

仕上げ後
  塗りっぱなしのままだと,何だかお土産の工芸品といったところですが,こうして研磨すると全体がしまった感じになって,実用品の「楽器」らしい姿になりますね。


  おつぎは表面板のヤシャブシ染め。
  ヤシャブシ+黄砥粉の溶液を,時間を置いて二度ほど塗っては落とし,最後にヤシャ液だけと蜜ロウの粉をつけた布で磨き上げます。
  もとの板にムラがあるもんで,色を合わせるのにちょいと苦労しましたが,まあ全体いー感じの黄金色になったと思います。

ヤシャ染め(1) ヤシャ染め(2)



   STEP10 組み立て

  塗装の終わった胴体に,棹を組み付けます。
  天の側板をイジったんで,棹の基部と胴体の間にわずかにスキマができてました。
  そのままでも,まあ,さほどシンパイするほどのスキマではありませんが,ノミとヤスリですこしエグって,ぴったりハマるように調整――削りすぎるとスケールが狂っちゃったり,棹が曲がったりするんで慎重にやります。

  月琴の棹はギターのネックとかと違い,単にさしこんであるだけなので後はさして手間ナシ。
  ここからブッ壊れてたわりには,取り付けもユルくなく(古物の月琴はよく,弦張らないで下を向けると棹がすっぽ抜けるくらいユルユルになっている),スッと抜けて,スルッと入る…いい感じですね。

組み立て/音出し
  棹と一緒に磨いておいた軸と山口(ナット)を装着。
  美しく…キズ一つなく塗りあがった棹ですが…山口をつけるあたりの塗膜は紙ヤスリで剥がしておきましょう(4号のときコレを忘れて取り付けたら,ある雨上がりの日に,下の塗膜ごとズルリとひん剥けひん曲がってしまったことがあります)。

  組みあがった月琴に一度糸を張って,最終確認をします。
  音締めをしめてゆくと,まだ糸溝も切っていないのに,糸が自然と定位置におさまりました。
  オリジナルのナットを出してみて比べたら,もとの糸溝の場所とほとんど誤差がありません。

  楽器が覚えてるんですね,自分のあるべき姿を。

  糸を張っても,棹元にスキマができないか,楽器の中心線はズレていないか,山口と半月の高さは合っているか,大体の確認が終わったら。
  糸溝をちゃんと切って糸をさらに緊張させる。

  さあ,音出しです。

  この楽器にとっては何年…いや何十年ぶりのことなんでしょうね。

  ――優しげな音です。
  温かく,包容力のある余韻。
  わたしの音に関する感想は,いつも分かりにくいと言われるんですがあえて言うと――

  「お粥ふぅふぅ」

  という感じか。シチュは諸人想像におまかせします。

  「優しい」とか言っても,べつに音量が小さいとかいうわけではありません。
  実際,胴体も厚めですから,明清月琴としてはかなり大きな音が出ますね。

  使いこまれた,男性的な外観からすると,ちょっと予想はハズれました。
  もっとハードボイルドな音かと思ってましたが。



   STEP11 フレット地獄!

  う~む,困った。ここにきて迷うぞ~。

  胴体はやや薄めの透色,棹が濃い紅溜色。
  オリジナルの色合いをちゃんと再現したのですが,楽器がかなりくっきりとしたツートンカラーになってしまったもので,フレットがいつものような黒檀や紫檀と象牙のツーピースだと,あまりにクド過ぎたり,逆に楽器の色に食われてしまって面白くない。

  薄い色の材がいいなあ,とアレコレ考えた結果。 オリジナルと同じ「竹」のフレットに決める。

  上物の月琴やお飾り月琴には,よく象牙や黒檀が使われてますが,じつは竹のほうがこの楽器のフレット材としてはポピュラーです。なのにナゼいつもやらなかったかというと,従来見てきた竹のフレットにはいくつか欠点があったからです。

フレット・図解
  図をご覧アレ。

  左は今の中国楽器などでよく見る竹のフレットの材取り。

  いちばん丈夫な表皮の部分を,弦にあたる側に向けています。ごく実用的ではありますが,弦高に合うくらい厚めの(太い)竹材が必要なことと,本体のほとんどが竹の柔らかい肉の部分で出来ていること,またそのため表面がちとザラザラして美しくない。

  中国月琴と同じタイプのものもありますが,右が明清楽の月琴で良く見られる竹のフレットです。
  楽器の天,糸倉の方を向いている面が表皮の部分になっていることが多い。
  このタイプだと,庭に生えてるような比較的細い竹でも作れますし,加工はラクです(底と裏,二面を削げばいいだけ)。もともとピカピカの表皮の部分は,たいてい茶色く塗装してあり見栄えも悪くはありません。

  しかしながら,意外と耐久性に劣ります。

  原因は竹の表皮は硬い反面,モロいためです。弦に当たる部分が鋭角なほうが音は出やすいんですが,そうすると案外かんたんに削れてしまうのです。
  実際,オリジナルの竹フレットにはかなりエグれたものがありますね。


フレット(1)
  今回の材料は¥100屋で買ってきた「和風竹フェンス」
  乾燥も悪くない分厚い竹の板が,けっこうな量ついてます。
  これをバラして使いましょう。

  全体のフォルムは横から見て台形の中国型にします。
  材取りは明清楽月琴。ただし竹材の厚さを最大限に利用して,片面全面から弦に触れる頭の部分までが,丈夫で硬い竹の皮部分になるように,明清楽月琴のフレットよりかは少しだけ斜めに切り出します。

  さらに手間をかけましょう――

フレット(2 表皮削る前)
1)うでる。
  竹の油分を抜きます。
  これしないと竹は塗料や染料が染み込みません。

2)乾かして荒磨き,一晩ラックニスに漬け込む。

3)乾かして,表皮のガラス質の部分を削り去る。

  丈夫ですがモロい,ここは今回要りません。
  小さな部品なんで,削るんなら一度ニスにつけこんで固めてからじゃないと,ヘンな箇所がいっしょにボロっとハガれてしまったりします。
  ただし,この白っぽい「皮」のスグ下が,いちばん「目」の詰まった丈夫でキレイな「美味しい」層。鉄ヤスリで一気にゴリゴリというわけにもゆかないので,表面の様子を見ながら,ペーパーでしこしこ――上にも書いたとおり,ここが竹のイチバン硬いとこなんで,けっこうタイヘンです。

フレット(3 表皮削り後)
4)も一度ニスに漬ける。一晩。
  こんどは表皮に守られていた皮下の部分にもニスを染ませます。

5)乾燥,磨き。

6)最後にカシューの透に一晩漬け込み。ちょっと色を濃くします。

7)二日ばかり乾燥させてから仕上げ磨き。

フレット(4 完成!)
  やってみるとじつに,黒檀・紫檀のツーピースの2倍以上の手間です!
  いつもだと二晩もあればなんとか終わってるとこが,ナントあしかけ5日以上。
  考えてみれば,あちらは切り出しに少々力がいりますが,整形と同時に仕上げの磨きとかしちゃえますもんね。

  とはいえ手間をかけた甲斐はあったと思います。
  出来上がったフレットは,かっちりと硬く,美しい黄金色。
  今回の月琴にも合った色あいになりました。


  フレットを取り付け,お飾りと,絃停(ピックガード)を貼ります。

  2007年1月7日。コウモリ月琴,修理完了いたしました!



20070107・完成)

  コウモリ飾りと扇飾りに絃停をつけたら,「もう何も要らないよ!」て感じに見えて――せっかく作ったものの,ウサギさんは付けられませんでしたね。
  右がオリジナルのコウモリさん,左がわたしの作った新相棒。直接型を写し取ったもんなんでフォルムは同じですが,やっぱり彫りが違うので,近づくと分かっちゃいます。

  おかえりなさい――ですね。どうかこれからも,この月琴を守ってやってください。

  表面板が乾き,音がすこし堅めになりましたが,あの包み込むような余韻はそのまま。
  ビビりもなく,だいたいの音域がくっきりと出てます。
  絃高がやや高めなのですが,竹のフレットも滑りがよく,操作性は良いほう――ただ手の小さなわたしの場合,棹が太く胴が厚めなので,面板上の最高音あたりを押える時に,ちょっと指が足りないかな?というところがあります。


   コウモリ月琴音源集(MP3)


ゴッタン阮咸(2)

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斗酒庵 明清楽阮咸をデッチあげる 之巻(2)2006 12月~ ゴッタン阮咸(2)


STEP3 軸穴をあける。


  そういえば忘れてました(笑)。軸穴があいてないと弦楽器になれませんね。

  位置を決め下穴をあけたら,テーパーリーマーである程度まで広げておきます。
  太い方は径9mm,細い方が7mmくらいですね。

  べつだん糸倉に対して垂直でもいいんでしょうが,お三味や月琴と同じく「左右に末広がり,やや前に傾く」という,角度をつけます。
  角度が3Dなもんで,工作のとき少々おツムがついてこれなくなるものの,庵主はお三味で慣れてるのでこのカタチのほうが調音のときやりやすいんです。
軸穴(1) 軸穴(2)

軸穴(3)
  リーマーであけて,ヤスリで均した程度でもいいのでしょうがもう一工夫。

■ お望みの直径一歩手前くらいまでリーマーで広げた軸穴に,先の尖った鉄の棒をコンロで熱してつっこみ,穴を焼き広げます。

  これ,三味線なんかでやる工程で,こうするとドリルとかでただあけた時よりヒビ割れないとか,音締め(軸)の穴にハメる「覆輪」という金具を打ち込むときヒビが入らない,とか言われてますね。

  月琴も糸倉の内側はたいていこの工法か,この上に黒ウルシをさっと塗って仕上げられています。
  穴内部の仕上げ,強化としてはいい方法だと思いますが,もしやるんなら注意してくださ~い。

  焦がしすぎて糸倉が燃えちゃったり,穴が広がりすぎたらパーですからね!



STEP4 響き線の組み付け

  胴体の部品はできてますから,あとは組み立てなんですが,その前にこれをつけておきましょう。
  「響き線」というやつです。

  メイン楽器の月琴をはじめ,中国琵琶の「清琵琶」,ハンマーダルシマーの類「楊琴」,明清楽の撥弦楽器にはたいてい,これが仕込まれていますが――うむ,この部品を何と表現していいのかは悩みますね。
  「共鳴弦」というほどには弦の振動に共鳴しているワケではないし,「リゾネーター」というほど増幅もしてくれない。
  「効果線」とでもいいましょうか。
  木の箱に絹の糸,しかも共鳴箱が小さいですから,ペコペコした音しか出ないわけですが,胴体の中でこの線が揺れることで,音に金属的なサスティンがかかるわけです。

  ただしほとんど勝手に揺れているだけなので,その効果のほどは,ほぼコントロール不能。おまけに,うまくホドよく静かに振れてくれているうちは良いんですが,楽器を傾けたかの拍子にせまい胴内で大暴れしはじめ,癒しの演奏をノイズ音楽にしてくれやがったりもしてしまいます。
  
  色んなカタチがありますが,今回は胴体の真ん中に棹の延長材が通るので,渦巻き状のを左右に二個ぶらさげることにします。斗酒庵工房で修理した2号月琴のと同じタイプですね。

  0.9mmのピアノ線を蚊取り線香みたいに巻き,コンロであぶって焼きを入れます。

  このとき注意してください。あとで取り付ける関係上,根元の部分に焼きが入ってしまうと曲げられなくなっちゃいますからね。
  ペンチで渦巻きのすぐ手前くらいをつまんでコンロにかざし,渦巻き部分が真っ赤になったらすかさず水でジュっ!
  殺し屋さんの鉄砲みたいなテンパーブルーが理想ですね~。

響き線(1)
  上桁にピンバイスで線が通るほどの小さな穴を,左右二つづつあけます。
  音穴に近いほうはキリか何かで,ちょと広げておいてください。あとで竹釘を打って,線を固定しますんで。

■ 線の根元を音穴がわの小穴から通して,先を下向きコの字に曲げたら,もう一方の穴にハメこみます。

  最初に通した穴の音穴がわのほうのスキマに,竹釘にニカワを塗ったのを指でギュッっと差込み,響き線を固定。取付が終わったら,表板と裏板にはさまれた空間の,ちょうど真ん中でぷるぷるするように調整しましょう。

  この竹釘を打ち終わると,響き線はきっちり固定されて,指で弾くと「キ~ン,カ~ン」と,まさしく「響き」はじめます。




STEP5 補強ブロックの組み付け
補強ブロック(1)
  内部構造の響き線も出来たので,いよいよ胴体骨格も完成間近…でもしかし!材料はアヤしい小板の集合体,こんな薄い板だけの箱構造では,いくらなんでもあの長い棹を支えきれますまい。

■ 棹元に近いところとお尻の内側に,補強のブロックを噛ませておきましょう。

補強ブロック(2)
  材料はカツラ,前に月琴の軸を作った時の余り材です。天の内側につくほうはカッコつけてカモメさんのようにエグってみましたが,さしてイミはございませぬ。

  棹をさしてみて,ちゃんと通るのを確かめたら,ニカワを塗ってクランプで固定。
  天地の板裏に密着させます。

  これでまあ,「糸を貼ったとたん胴体爆裂!」とかいうような事態は避けられましょう。


 STEP0 軸穴あけなおし(^_^;)
軸穴あけなおし(1)
  ここで「修正してやる!」パート1。
  ちょと角度が足らんかったようですね。
  最初は気がつかなかったんですが,仮に軸を挿してみて正面から見ると,末広がりどころかやや下向き加減に見えてどうにもカッコ悪い。
  月琴と同じに考えてたせいでしょうね――そういやカーブが逆でした。
  カツラの余り材を削って,いったん穴を埋め,再度チャレンジ!
  見栄えがちょいとナニになってしまいましたが,ナニ,塗装でなんとか誤魔化しましょう。


STEP6 表板を作る

表面板(1)
  表裏の面板,材料は¥100屋の「焼き桐」板でございます。

  幅15cm,厚さ6mmのヤツの黒く塗ってある表面(「焼桐」ではありますが,「焼いて」はいないようですね,ソレっぽい色を塗料か薬剤のようなもので出しているだけみたい)を,アラカンと#80くらいの布ペーパーでこそぎ落としました。

  「楽器」の板ではありますが,月琴のなんかは,よほど高級なものでもない限り「おっ,これは!」と思うような良材は使われてません(「おっ,コレわ!(^_^;)」というのは良く見かけるんですが)

  なもんでまあ,これでもじゅうぶん――というか表面を剥いでみると,思ってたよりは良い板でしたね。

  今回は真ん中に幅広の一枚,左右に一枚づつの三枚継ぎでイキます。

  さいしょにまあ,だいたいのカタチに上下左右を切り落としておきましょう。
  そして真ん中の板を胴の天地,補強ブロックの上あたりに両面テープを貼って仮止め。

  つぎに左右の板のワキをカンナとかペーパーで削って,なるたけスキマのないように調整。
  スキマがあまり目立たなくなったら,接着面をお湯でちょと濡らし,ニカワを塗ってこすりつけるようにしてくっつけます。

  桐は接着がいいんで,こうしてお湯を含ませて柔らかくしてから貼ると,多少スキマてても,けっこうぴったりひっつきますよ。

  継ぎ目からはニカワがハミ出てくるんで和紙でもかぶせておきましょう。
  下に平らな板を敷いたら,重しをかけて一晩くらいおくと,三枚の板が一枚になります。

  できた板をいったんはずし,もう一度裏から両面テープや布テープで仮止めしたら,胴体からハミ出た部分を切取りましょう。
  あとでちゃんと貼り付けてから仕上げるので,ここでもまだ「きっちり」じゃなく「だいたい」。ちょっと胴体からハミ出てるくらいがいいですよ。

表面板(2) 表面板(3)



STEP7 半月の製作・取付
半月(1)
  月琴でいうところの「半月」。テールピースですね。
  阮咸のは琵琶とかに近く,L字をひっくり返した形になっています。

  今回は奢ってタガヤサン。

  高級材ですが,ナニ,これもこないだ貰ってきた端材で。
  半分木腐れしているようなカタマリから切り出しました。
  とはいえ「鉄刀木」の漢名どおりの手ごわい材でありましたあ…幅7cm,高さ2cm のものを切り出すのに,ノコはすべるは手はマメるわ。
  欲を言えば木の目が90度違っていれば最高だったんですが――まあ材料費タダですし,強度的には問題ナシ。

  ご家庭で御製作のおりには(いるんか?)カツラやカバ・サクラ材なんかでも,べつにかまわないでしょう。ギターやウクレレのブリッジとかほどには力もかかりませんしね。

半月(2)
  この部品は,表面板を胴体につける前に,あらかじめ接着しておいてしまいます。

  位置をきめたらのっかるあたりの表面を,ヤスリでちょっと彫り下げるように荒らしておき,そこにお湯を含ませたら,すかさずニカワを塗って,半月をのせます。

半月(3)
  クランプで上からおさえつけて,しっかり固定。
  前にズレないように何か板材を渡しておくのと,逆L字ですんで,倒れないようスキマに板切れでもつめておきましょう。

  ここは確実にへっついて欲しいので,このまま二晩ばかり放置。

  今回の報告はここまで!


ゴッタン阮咸(1)

RUANHAN01.txt
斗酒庵 明清楽阮咸をデッチあげる 之巻(1)2006 12月~ 明清楽の阮咸


   ゴッタンがほったん

  さて,楽器の修理も十本以上やると,一本ぐらいは何か自分で作ってみたくなりますなあ。

  月琴弾きなんですから「月琴を作る」てのがスジというものなんでしょうが,そこはそれ,性根がネジ曲がってますのでそうはいかない――というより,月琴の工程にまだいくつかナゾの点があるので,ある程度ちゃんとしたものが作れる自信がまだありません。

  九州に「ゴッタン」という楽器があります。
  四角い箱胴に直棹のネック。
  全部木製の三味線みたいなもので,家を新築したときなどに大工さんが建材の余りで作ってくれたりする。
  もちろん演奏もちゃんとできますが,縁起物の楽器でもあります。

  現在は伝承楽器として専門に作っているところもあるようですが,本来はあくまで「建材の余り」で作るようなもんなんで,棹も胴体もそこらの木。杉だったり檜だったり,正体不明の板だったり。

  手元にある,修理で使って余ったり何となく拾ってきたりした板やら角材やらを並べてみて出来そうなものを考えた時,まず思い浮かんだのがこの「ゴッタン」。
  庵主,お三味もいちおう弾けますから,作って弾くにも問題はない――でも待てよ。たしか明清楽の楽器にも似たのがあったよな。直棹で箱胴で……。

阮咸図面   左図面は『明清楽之栞』(百足登)から。

  明清楽では「阮咸」と呼ばれているこの楽器。
  「明楽」ではこの楽器を「月琴」と呼んでいたそうで,「明清楽」のなかでもそうした古い明楽の曲を弾くときなどに使われていたようです。

  また八角形の胴体,4弦2コースなど,楽器の形態や奏法からすると,楽器としてはいま中国で弾かれている「阮」や,正倉院にあるような古式の「阮咸」ではなく,「雙清」というものにあたるとか(参考・伊福部明「明清楽器分疏」)

  月琴ほどメジャーではなかったようですが,明清楽譜の口絵の楽器紹介にはよく描かれてるし,「阮咸調」なんていう,いかにもこの楽器で演れ!という気な曲名も見たことがあります。

  しかしながら,じつは庵主。
  これの実物にはまだ二回くらいしかお目にかかったことがありません。

  そのうち一度は,古物屋さんの店の奥で見たもので。
  軸も飾りもなく真っ黒け。明清楽の「阮咸」だな,とはすぐ分かったものの,月琴じゃないもので,それほどの興味もなく。たまたま面板が割れてたので,中をのぞいて「ふ~ん,月琴と同じ構造かあ」とか思った程度。
  まして実際に演奏されてるところとか,音なぞ聞いたこともありません。


  ポイント1はココ。「どんな音」がする「どんな楽器」なのかに興味がありますね。
  ホント,知らないんですから。
  ポイント2は,胴体が月琴と違って角ばった箱胴なこと。
  まン丸い胴体を作るのはホネですが(月琴を修理しててもそう思う),平面構成の箱胴ならばさほどの苦労はありません。

  ちょうど月琴修理も塗装に入り,朝塗りこむとほか何もできません。小人閑居して不善を為すとやら。
  「そこらの材料で作るゴッタン阮咸」,製作を開始いたしましょう。


STEP1 棹を作る。

  本来は何か堅い木で作るべきでしょうが,ちょうどいい角材がない――というか,カツラとかサクラの角材はあるんですが,なんかモッタイナくて…月琴のほうに使いたいからね。

  そこでどこかから拾ってきた針葉樹(たぶん米栂ではないかと)の角材がちょうどいい長さでしたんで,これを使うことといたしました。
  強度的には多少心配がありますが,まあゴッタンの棹は杉とかでしょうし,カンカラ三線でも松か何か使ったのを見たことありますからね。
  また,幅が2.5cmとやや細い(本物の棹は3cmくらいある)ですが,わたしゃ手が小さいのでこれもヨシ。
  何か言われたら,こりゃ「細棹」の阮咸だ,と言い切ればヨロシイ。

糸倉(完成)
  棹はテキトウ針葉樹ですが,この(→)糸倉部分はカツラで作ります。
  材料は版画用として売っている1cm厚のもの,\300くらい。
  手前に反ってくるのじゃなく,背面側にカーブしてゆくカタチ。
  ちょうど月琴の糸倉をひっくりかえしたようなものですね。

棹1
1)まず棹の先端を凸のカタチにして,両肩を斜めに切り込み,そこに糸倉のカタチに切り出した板を二枚,ニカワを塗ってハメこみます。

  もちろん本物は一木からの彫りだしでしょうが(ゴッタンでさえそう),ま,ココは工作のラクな方でまいります。

2)天の部分と糸倉基部の裏側がわに,余り板から切り出して小板をこれもニカワをつけてハメこんでおきます。
  あとで整形するのでどちらも多少大きめでよろしい。

棹2
  ぜんぶをハメたら,糸倉の左右をクランプでしめつけて一晩おきます。


  この楽器をただ作ってみようというムキには,ここまで充分とは思いますが。
  庵主の場合,いちおう弾きまくりたいので,さすがにこの材料,これだけだと強度的に心配なので
棹3
3)指板を貼って補強します。

  ちょうどありがたいことに,銘木店さんから貰ってきた「ギリギリ黒檀」の薄板(厚5mm)のデカいのがありましたので,これでイキます。

  色が薄かったり赤いところが混じってツートンカラーになってたりして,銘木店さん的には「黒檀」呼べるかなあ,というシロモノではありますが,材質としては間違いなく「黒檀」。
  見かけはともかく,強度的には問題ございません。
  同じ大きさのものを買うとなるとけっこう値がはりましょうが,なにせタダです。
  ひとつ豪勢に使うことといたしましょう。

  指板面の凸凹を均した棹に,大体の幅に切り出した黒檀の細板を,ニカワをまんべんなくたっぷりめに塗ってへっつけます――ずらりと並んだCクランプ。なんかケーキみたいですね。あ,ミルフィーユとか食べたくなってきた。

棹4
  こちらはちょっと慎重に二晩ばかりおいてしっかり接着。
  クランプをはずすと,長くて四角い物体ができあがりました。

  こんどはなにやらチョコレート菓子のようです。

棹5
4)糸倉の手前まで,黒檀の板のはみだしてるところをノコギリでギコって削ぎ落とし。

棹6
5)棹元の胴体にハメこむ部分を凸に刻んだら。

6)ミニカンナやヤスリや切り出しで糸倉を彫りだし,四角い物体を楽器の棹っぽく整形してゆきます。
棹7 棹1
棹8
  幅が細いので,糸倉がデカいのをのぞけば,まるきりお三味の棹ですね。

棹9
7)だいたいのカタチができて,表面をペーパーで均したら,棹元のデコにV字の刻みを入れます。

  ここにはあとで胴体を貫く延長材を差し込みます。

  この楽器,胴体は木箱みたいなもんですから,この棹さえなんとかなればあとはたいしたことがありません。ガンバレ!




STEP2 胴体を作る。

胴体1
  胴体の材料も正体不明の針葉樹(松,かな?)の薄板(厚5mm)です。
  たしか建材屋さんでもらってきた端材――うむ,ただしくゴッタンの系である。

  (本物はぜんぶ桐板だそうで,この時点ではまだ知りませんでした。
   知ってたら最初っから桐板で作っても良かったんですが。)


胴体2   まずは直径26cmほどの八角形の型紙を厚紙で作ります。
  庵主は設計図引くよりも,こうやって部分部分の型紙を作って製作してゆくほうが好きですね。

  型紙の上に,幅2.4~5,長さ11cmばかりの小板の両端を凸凹に刻んだのを並べ,凸の両肩と,凹の真ん中をヤスリで落として角度をつけながら,順ぐりハメこんでゆきます。
  スキマが多少できても,あとで埋め木でもパテでも修正できますから,それほど正確にキメ出さなくてもいいんですが,「スル,ピタ」のカイカンが欲しくて,けっこう熱中。
  小板3枚くらいダメ出ししましたねえ。


胴体3
  この八角形の真ん中に二本,横桁が渡るわけですね。

  だいぶ前に買ったヒノキの板(厚1cm)がありました。ちょうど角の内側にハマるように両端を削り落とし,真ん中に棹の延長材が通る穴,左右に音が通る穴をあけます。
  上桁には「響き線」をぶらさげるので,延長材の穴の左右,真ん中部分は,下桁にくらべるとやや幅広にとっておきます。

胴体4
  板の加工が終わったら組み立てましょう。
  
  ナニ,凸凹にニカワを塗ってハメこむだけです。
  らくちんらくちん。


  全部の接着が終わったら,輪ゴムや紐を巻いて固定
。   八角形がくずれないように,とりあえず内桁をハメときましょう。(桁にはまだ,「響き線」取付けの加工があるので接着はしてません)

  一晩たったら凸凹のハミ出た分をヤスリで落とし,とりあえず八角形の箱の外側は完成です!




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