« ゴッタン阮咸(2) | トップページ | 楓溪さんの月琴(3) »

コウモリ月琴(5)

MOONH17.txt
斗酒庵 コウモリ月琴を直す 之巻(5)2006 11月~ 明清楽の月琴(コウモリ月琴)


   STEP6 クギ穴埋め
クギ穴埋め(1)
■ 表板接着の際,お世話になったクギ穴クレーターを埋めます。

  エグれた箇所に薄い紙をあててエンピツでこすり,大体の輪郭をなぞりとったら,以前の修理で出た桐の古材に写し。だいたいのカタチに切った板を,クボミにあててはピッタリはまるようにリューターで削ってゆくんですが。桐は柔らかくて,材同士の接着も良いので,いちばんデっぱってるところとヘコんでるところがきちんとハマるようならもう結構。細かくてギザギザなところは,てげてげに合わせたら,アートナイフの刃を浅くテキトウに入れてザクザクにしておけばつきます。
  最後に埋め板とクボミをお湯ですこし濡らし,ニカワを塗って――ギュッ!
  ハミ出したニカワを布で拭って一晩ほど乾かしたら,とび出た部分を糸ノコやカッターや落とし,ヤスリを軽くかけてできあがり。

  今回は庵主サマ的には上手くいったほーですが…こういう仕事,本当のプロがやると木目もしっかり合わせて,まず見破れないでしょうね



   STEP7 再塗装
柿渋・シェラック塗り後
  さて,側板の再塗装。
  #600で磨き上げた側板に,まずは柿渋を塗ります。
  塗ると少し表面がケバだちますので,乾いてから#1000くらいのペーパーで均してあげましょう。
  二度塗りです。

  この下塗りの柿渋には板の下色づけだけでなく,部材表面の硬化(磨きやすくなる)とか,接着部のニカワと結合して強化してくれるといった効能があります。

  柿渋を塗って2~3日乾かしたら,つぎにラックニスを塗ります。
  使うのは例により日本リノキシンさん謹製のシェラック・リノキシン・ヴァーニッシュ。
  今回はちょっと色が濃い目のブロンズ・ラックのを使ってみました。
  すこしだけ薄めて,これも2度塗り。
  柿渋とニスで木地の色が出て,チギリのコウモリさんがくっきりと浮かび上がっています。

  1日~2日ほど乾かしたら,いったん全体を磨きます。
  今回,ラックニスは下地なんで,塗膜が見えるほどの厚塗りはしてません。

カシュー上塗り開始
  上塗りはカシューの透。

  シャバシャバに溶いた塗料で1~2度重ね,全体が薄くコートされたら,表裏の桐板の木口をマスキングして,最終的な上塗りに入ります。そのまんまだと木口からカシューが余計に滲んで,表板の縁に染みができてしまうのと,木口も一緒くたに塗装してしまったのでは,側部のサンドイッチ構造が分からなくなってイマイチ美しくないんですよ。


棹・再塗装前
  棹は「木地紅溜塗り」といった感じの濃い目の塗りがされていたようです。

  糸倉と基部のあたりにはオリジナルの色が残っていますが,中央部分は擦れて落ちてしまったらしく,木地が出ています。

  こちらにはカシューの紅溜を塗っていきます。
  まずはオリジナルの塗装を落とさないように注意しながら,色が落ちてしまっているところを中心に,刷毛で塗っては布で擦りこんでゆきます。
  いわゆる「擦り漆」の技法ですね。

本塗り中
  全体が同じような色になるように様子を見ながら,塗膜をゆっくり重ねてゆきます。
  途中何度か色合わせのために,紅溜に黒を少し混ぜたものを刷きます。

  本塗りは棹も側板も1日1塗り。
  たまに間をとって乾燥させては,#1500~2000くらいの耐水ペーパーに石鹸水をつけて磨いて塗面を均します――今回はだいたい10日間くらいかかりましたね~。

  最後に何日か乾かしてから仕上げます。



   STEP8 表面板の清掃
表面板清掃・1回目
  さて,仕上げ磨きの前にしとかなきゃならないことが一つ。

  カシュー塗りが終った今の段階なら,ちッとやそッとのことで側板にヘンな染みとかつく心配もありません。表板をキレいにしておきましょう。

  工程はいつものとおり。

  エタノールを垂らしては耐水ペーパーで擦りあげます。板に負担のかからないよう,全体を一気にではなくあちらからこちらからチマチマと。

表面板清掃・3回目
  意外にも見た目ほどヨゴれはヒドくなく,3度目くらいの研磨でだいたい全体キレイになりました。
  例によって楽器の板というわりには板目だわ,節はあるわというそんなに上等ではない桐板。

  おまけに左右の板の色もかなり違ってますね。右は黄色味があって目が詰まったそこそこの板ですが,左には,やや目の粗いくすんだ灰色っぽい板が継がれています。

表面板のキズ
  この作業やってると,前の所有者がどんな扱いをしてたのかよく分かります。

  使用のキズはまず,絃停(ピックガード)の周囲に左上から右下方向にやや弧を描くようについてます。これはおそらく義甲でついた「月琴弾きのつけたキズ」ですが,そのほかに,三味線のバチ先がこすった痕らしいのも,上の方の右肩あたりにけっこうな数残っていました。

  同じ人の付けたキズなのか,何人かの手に渡ったからなのかは分かりませんが,いづれのキズも浅く,それほど無茶したような感じはありません。
  棹元バッキリいくまでは,けっこう大切に使われてきた楽器のようですね。

  今回は貼り直した表板です。
  エタノで湿らせたので,二三日乾燥させ,ようすをみてから次の作業に入ることとしましょう。



   STEP9 塗装の仕上げ

仕上げ前
  カシューを塗り終えた棹と側板。

  まずは#2000のペーパーに石鹸水で塗った部分をくまなく擦りあげます。
  力はいれず,表面を滑らせる程度で。全体が均一に白く曇ったら,研磨剤をなすりつけたウェスに,ほんのちょっとだけ亜麻仁油をつけて,優しく磨きあげると,しっとりすべすべ魔平ら。

仕上げ後
  塗りっぱなしのままだと,何だかお土産の工芸品といったところですが,こうして研磨すると全体がしまった感じになって,実用品の「楽器」らしい姿になりますね。


  おつぎは表面板のヤシャブシ染め。
  ヤシャブシ+黄砥粉の溶液を,時間を置いて二度ほど塗っては落とし,最後にヤシャ液だけと蜜ロウの粉をつけた布で磨き上げます。
  もとの板にムラがあるもんで,色を合わせるのにちょいと苦労しましたが,まあ全体いー感じの黄金色になったと思います。

ヤシャ染め(1) ヤシャ染め(2)



   STEP10 組み立て

  塗装の終わった胴体に,棹を組み付けます。
  天の側板をイジったんで,棹の基部と胴体の間にわずかにスキマができてました。
  そのままでも,まあ,さほどシンパイするほどのスキマではありませんが,ノミとヤスリですこしエグって,ぴったりハマるように調整――削りすぎるとスケールが狂っちゃったり,棹が曲がったりするんで慎重にやります。

  月琴の棹はギターのネックとかと違い,単にさしこんであるだけなので後はさして手間ナシ。
  ここからブッ壊れてたわりには,取り付けもユルくなく(古物の月琴はよく,弦張らないで下を向けると棹がすっぽ抜けるくらいユルユルになっている),スッと抜けて,スルッと入る…いい感じですね。

組み立て/音出し
  棹と一緒に磨いておいた軸と山口(ナット)を装着。
  美しく…キズ一つなく塗りあがった棹ですが…山口をつけるあたりの塗膜は紙ヤスリで剥がしておきましょう(4号のときコレを忘れて取り付けたら,ある雨上がりの日に,下の塗膜ごとズルリとひん剥けひん曲がってしまったことがあります)。

  組みあがった月琴に一度糸を張って,最終確認をします。
  音締めをしめてゆくと,まだ糸溝も切っていないのに,糸が自然と定位置におさまりました。
  オリジナルのナットを出してみて比べたら,もとの糸溝の場所とほとんど誤差がありません。

  楽器が覚えてるんですね,自分のあるべき姿を。

  糸を張っても,棹元にスキマができないか,楽器の中心線はズレていないか,山口と半月の高さは合っているか,大体の確認が終わったら。
  糸溝をちゃんと切って糸をさらに緊張させる。

  さあ,音出しです。

  この楽器にとっては何年…いや何十年ぶりのことなんでしょうね。

  ――優しげな音です。
  温かく,包容力のある余韻。
  わたしの音に関する感想は,いつも分かりにくいと言われるんですがあえて言うと――

  「お粥ふぅふぅ」

  という感じか。シチュは諸人想像におまかせします。

  「優しい」とか言っても,べつに音量が小さいとかいうわけではありません。
  実際,胴体も厚めですから,明清月琴としてはかなり大きな音が出ますね。

  使いこまれた,男性的な外観からすると,ちょっと予想はハズれました。
  もっとハードボイルドな音かと思ってましたが。



   STEP11 フレット地獄!

  う~む,困った。ここにきて迷うぞ~。

  胴体はやや薄めの透色,棹が濃い紅溜色。
  オリジナルの色合いをちゃんと再現したのですが,楽器がかなりくっきりとしたツートンカラーになってしまったもので,フレットがいつものような黒檀や紫檀と象牙のツーピースだと,あまりにクド過ぎたり,逆に楽器の色に食われてしまって面白くない。

  薄い色の材がいいなあ,とアレコレ考えた結果。 オリジナルと同じ「竹」のフレットに決める。

  上物の月琴やお飾り月琴には,よく象牙や黒檀が使われてますが,じつは竹のほうがこの楽器のフレット材としてはポピュラーです。なのにナゼいつもやらなかったかというと,従来見てきた竹のフレットにはいくつか欠点があったからです。

フレット・図解
  図をご覧アレ。

  左は今の中国楽器などでよく見る竹のフレットの材取り。

  いちばん丈夫な表皮の部分を,弦にあたる側に向けています。ごく実用的ではありますが,弦高に合うくらい厚めの(太い)竹材が必要なことと,本体のほとんどが竹の柔らかい肉の部分で出来ていること,またそのため表面がちとザラザラして美しくない。

  中国月琴と同じタイプのものもありますが,右が明清楽の月琴で良く見られる竹のフレットです。
  楽器の天,糸倉の方を向いている面が表皮の部分になっていることが多い。
  このタイプだと,庭に生えてるような比較的細い竹でも作れますし,加工はラクです(底と裏,二面を削げばいいだけ)。もともとピカピカの表皮の部分は,たいてい茶色く塗装してあり見栄えも悪くはありません。

  しかしながら,意外と耐久性に劣ります。

  原因は竹の表皮は硬い反面,モロいためです。弦に当たる部分が鋭角なほうが音は出やすいんですが,そうすると案外かんたんに削れてしまうのです。
  実際,オリジナルの竹フレットにはかなりエグれたものがありますね。


フレット(1)
  今回の材料は¥100屋で買ってきた「和風竹フェンス」
  乾燥も悪くない分厚い竹の板が,けっこうな量ついてます。
  これをバラして使いましょう。

  全体のフォルムは横から見て台形の中国型にします。
  材取りは明清楽月琴。ただし竹材の厚さを最大限に利用して,片面全面から弦に触れる頭の部分までが,丈夫で硬い竹の皮部分になるように,明清楽月琴のフレットよりかは少しだけ斜めに切り出します。

  さらに手間をかけましょう――

フレット(2 表皮削る前)
1)うでる。
  竹の油分を抜きます。
  これしないと竹は塗料や染料が染み込みません。

2)乾かして荒磨き,一晩ラックニスに漬け込む。

3)乾かして,表皮のガラス質の部分を削り去る。

  丈夫ですがモロい,ここは今回要りません。
  小さな部品なんで,削るんなら一度ニスにつけこんで固めてからじゃないと,ヘンな箇所がいっしょにボロっとハガれてしまったりします。
  ただし,この白っぽい「皮」のスグ下が,いちばん「目」の詰まった丈夫でキレイな「美味しい」層。鉄ヤスリで一気にゴリゴリというわけにもゆかないので,表面の様子を見ながら,ペーパーでしこしこ――上にも書いたとおり,ここが竹のイチバン硬いとこなんで,けっこうタイヘンです。

フレット(3 表皮削り後)
4)も一度ニスに漬ける。一晩。
  こんどは表皮に守られていた皮下の部分にもニスを染ませます。

5)乾燥,磨き。

6)最後にカシューの透に一晩漬け込み。ちょっと色を濃くします。

7)二日ばかり乾燥させてから仕上げ磨き。

フレット(4 完成!)
  やってみるとじつに,黒檀・紫檀のツーピースの2倍以上の手間です!
  いつもだと二晩もあればなんとか終わってるとこが,ナントあしかけ5日以上。
  考えてみれば,あちらは切り出しに少々力がいりますが,整形と同時に仕上げの磨きとかしちゃえますもんね。

  とはいえ手間をかけた甲斐はあったと思います。
  出来上がったフレットは,かっちりと硬く,美しい黄金色。
  今回の月琴にも合った色あいになりました。


  フレットを取り付け,お飾りと,絃停(ピックガード)を貼ります。

  2007年1月7日。コウモリ月琴,修理完了いたしました!



20070107・完成)

  コウモリ飾りと扇飾りに絃停をつけたら,「もう何も要らないよ!」て感じに見えて――せっかく作ったものの,ウサギさんは付けられませんでしたね。
  右がオリジナルのコウモリさん,左がわたしの作った新相棒。直接型を写し取ったもんなんでフォルムは同じですが,やっぱり彫りが違うので,近づくと分かっちゃいます。

  おかえりなさい――ですね。どうかこれからも,この月琴を守ってやってください。

  表面板が乾き,音がすこし堅めになりましたが,あの包み込むような余韻はそのまま。
  ビビりもなく,だいたいの音域がくっきりと出てます。
  絃高がやや高めなのですが,竹のフレットも滑りがよく,操作性は良いほう――ただ手の小さなわたしの場合,棹が太く胴が厚めなので,面板上の最高音あたりを押える時に,ちょっと指が足りないかな?というところがあります。


   コウモリ月琴音源集(MP3)


« ゴッタン阮咸(2) | トップページ | 楓溪さんの月琴(3) »