ゴッタン阮咸(終)
![]() STEP8 お飾りを作りまSHOW! 表面板が仕上がるまですることがないんで,お飾りを作りましょう。 阮咸につく装飾は2箇所3つ。 一つは糸倉のてっぺんにつく海老尾飾り。もう一つは胴体左右の目摂。 海老尾のほうはイマイチ何の意匠だか分からないんですが,目摂のほうは『明清楽之栞』の絵図ではコウモリになっています。 ![]() まずは海老尾飾り。 本当は棹と同材か何かで作るんでしょうが,今回は表面板の切れ端,桐でサクサクっと作ります(手ヌキです)。 も~切れる削れるラクでイイんですが,これだけだとさすがに強度が心配なので,裏にアガチスの薄い板を貼って補強してあります。 表裏で木目を交差させてるんで,ちょっとの衝撃でパキとかいうことはないでしょう。 ![]() 付けてみるとこんな感じ(→上)。 よさげだったんですが,実は糸倉の取付がわのほうの角度を間違っちゃってまして,楽器をまっすぐに立てると,お飾りがやたら前に突き出しちゃうカタチになって,カッコが悪いので改修(下)。 一見,糸倉に取付けるためのカバーみたいですが,中に足りない角度の分,ゲタを履かせてあります。 ま,シークレットブーツみたいなもんですね~。 あとは上からカシューでこってり塗り重ね,素材や構造をごまかしましょう。 ![]() 目摂のコウモリさんは,コウモリ月琴のをコピー。 もう一個彫った後なので,手が覚えてます。 だんだん出来がオリジナルに近づく~っ!,か? 彫り終わったら布でベンガラをなすりつけ,柿渋に漬け込み。 乾かしてからカシューの黒と紅溜を混ぜたもので上塗り。 最後に古び粉(茶ベンガラ+木炭粉+砥粉)をはたいて,磨いて仕上げます。 STEP9 胴体完成! ![]() 面板接着の前に,表面板の棹元を受けるところに,ちょっと補強を。 黒檀の薄板をへっつけます。 棹は長いし,桐で弱いから――というもっともな理由のほかに,さすがは安板…。 板を磨いてるうち,ちょうどこのへんに割れ目をハケン。 板のヒビが入ったとこを,緑色っぽいボンドで継いだモヨウ。 よりによって力のかかる箇所ですし,さすがに心配になりましての作業です。 ![]() 表面板と同じ調子で裏板をこさえます。こちらも三枚継ぎです。 表裏の板が出来たら,さあ,いよいよ胴体の組上げ,最終局面! すでに組みあがっている胴体に,はじめは表裏いっしょ,一度で接着!とか考えたんですが,ニンゲン慣れないことをするとロクな目にあいません。 ![]() まず表面板を接着。半月も付いてますし,音が出る面です。 しんちょうに,カクジツにへっつけましょう。 まン丸い月琴と違い,角があるから少しかラクかと思いきや,けっきょくCクランプ総動員。 重しに辞書などのせて一晩。翌日,同じ調子で裏板をへっつけまた一晩。 クランプはずして,ハミ出た板を切り取り,あっちゃこっちゃパテ埋めするとホラ――胴体の完成です! STEP10 仕上げ 棹が仕上がり,胴体が出来。 あとは色を塗って,お飾りつけて,フレットを立てればおしまいですね。 ![]() 塗装はまず,雑巾にラックニスを薄めたものをつけて,棹と側板に何度もなすりつけます。 ギターなどの高級仕上げに,布タンポでラックニスを板に染ませてゆく「フレンチポリッシュ」てのがありますが,こちらは材料が材料ですし,高級でもなければ繊細な作業でもなし――力任せにご~しごし。 名づけて「雑巾ポリッシュ」。 塗装というよりは,漆塗りの「木固め」の段階を,乾きの早いアルコールニスでやっちゃおう,というところです。漆やカシューだと,次の作業に移れるまで時間がかかりますが,ラックニスなら30分もすれば表面はカッチリ,磨いてサラリ。 下塗り兼下地の表面処理が終わったら,上塗りはカシュー。 棹は紅溜。糸倉と棹元のところを色濃く塗って,中央部分を薄くします。 ![]() 「ちょっと見サンバースト」てとこでしょうか? 側板は表裏の桐板のふちをぐるりとマスキングしてから塗ります。 はじめ胴体はカシューの透で塗っていたんですが,棹の色が目立ちすぎるので,上から紅溜を二三度重ねて調整しました。 どちらも紅溜だけだとキレイ過ぎるので,すこし黒を混ぜて色を濁してあります。 ![]() フレットは当初,月琴のを巨大化させた板状のものを付けてみたんですが。 この楽器,絃高が高いので薄い板状のモノだと,どうも操作に安定感がありません。 弾いてるうちにポロリととれてしまいそうで,どうにも不安になり,糸をしっかり押えられないんですね。 そこで底部のどっしりした,より分厚いフレットに替えてみました。 竹板を二枚合わせて,弦に当たる部分には象牙の棒(月琴のフレットに使ったものの端材)を噛ませ,横から見ると,裙広がりの三角形になってます。 このカタチのほうが何か安定感があって,安心して操作できますね。
![]() 軸は当初,同時に作り始めた「ウサ琴」のため作った,桂に塗りをしたものでしたが,テストしているうちに一本折れてしまったため,別途チークでこさえました。 写真ではまだ二本,桂のがささってますが,今は四本ともチーク製。 ――これ,いいですね。 削りやすさは桂とかわらないくらいなんですが,堅くて美しい。 何よりカタチができたら磨いて,あとはオイル仕上げのみ――いちばん時間のかかる塗装の手間がナイのがいい。 欠点は木自体に油分があるんで,細かく切ったり削ったりする時,ちょいとスベりやすいってことくらいでしょうか?――うん,うちで製作する楽器の軸は,今度からコレでいきましょう ![]() 最後に楽器のお尻,棹のナカゴの先を丸く落としてカバンに使う金具と環を付けてあります。 絵図では月琴で糸倉に結ぶような飾り紐が,ここに結われているのですが,長い楽器なので立って弾く時などはストラップも付けたと思いますね。 さて,最後にちょいともたつきましたが。 1月28日,「ゴッタン阮咸」完成です! 調弦は月琴をひっくりかえしたG/C。4弦2コースの複弦。 資料によると,撥・義甲の類は使わず,手指で弾くそうですが,拾い物の材料の寸法に合せて作った関係で棹が細く,そのせいで2コースの間が狭いので,指だとちょいと弾きにくいので,月琴のピックで弾いてます。 棹が軽い材料なせいもあるんでしょうが,音質は柔らかめ。 なにやら「ハチの羽音」に似た余韻,響きがします。 低音部はフレットが高いので,フレット間の中心に指を置き,ちょっと握りこむと容易にビブラートがかかります。 これが "Bebung 効果" ってやつですね。 ![]() 今回の録音は,秋葉原で買ってきたパーツで組んだ自作PU(圧電素子+ボリューム+ジャック。材料費:遠足のおやつ代くらい。)を,テストをかねて使ってみました。 うん,けっこうちゃんと音拾いますね。
ゴッタン阮咸音源集(MP3) 資料には「阮咸調」というこの楽器のためのような曲も見えますが,まだMIDIも組んでませんし,今のところこの楽器でナニを弾けばいいのかがちょいと不明のため,今回は漫奏のみでご勘弁を。 |