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ゴッタン阮咸(1)

RUANHAN01.txt
斗酒庵 明清楽阮咸をデッチあげる 之巻(1)2006 12月~ 明清楽の阮咸


   ゴッタンがほったん

  さて,楽器の修理も十本以上やると,一本ぐらいは何か自分で作ってみたくなりますなあ。

  月琴弾きなんですから「月琴を作る」てのがスジというものなんでしょうが,そこはそれ,性根がネジ曲がってますのでそうはいかない――というより,月琴の工程にまだいくつかナゾの点があるので,ある程度ちゃんとしたものが作れる自信がまだありません。

  九州に「ゴッタン」という楽器があります。
  四角い箱胴に直棹のネック。
  全部木製の三味線みたいなもので,家を新築したときなどに大工さんが建材の余りで作ってくれたりする。
  もちろん演奏もちゃんとできますが,縁起物の楽器でもあります。

  現在は伝承楽器として専門に作っているところもあるようですが,本来はあくまで「建材の余り」で作るようなもんなんで,棹も胴体もそこらの木。杉だったり檜だったり,正体不明の板だったり。

  手元にある,修理で使って余ったり何となく拾ってきたりした板やら角材やらを並べてみて出来そうなものを考えた時,まず思い浮かんだのがこの「ゴッタン」。
  庵主,お三味もいちおう弾けますから,作って弾くにも問題はない――でも待てよ。たしか明清楽の楽器にも似たのがあったよな。直棹で箱胴で……。

阮咸図面   左図面は『明清楽之栞』(百足登)から。

  明清楽では「阮咸」と呼ばれているこの楽器。
  「明楽」ではこの楽器を「月琴」と呼んでいたそうで,「明清楽」のなかでもそうした古い明楽の曲を弾くときなどに使われていたようです。

  また八角形の胴体,4弦2コースなど,楽器の形態や奏法からすると,楽器としてはいま中国で弾かれている「阮」や,正倉院にあるような古式の「阮咸」ではなく,「雙清」というものにあたるとか(参考・伊福部明「明清楽器分疏」)

  月琴ほどメジャーではなかったようですが,明清楽譜の口絵の楽器紹介にはよく描かれてるし,「阮咸調」なんていう,いかにもこの楽器で演れ!という気な曲名も見たことがあります。

  しかしながら,じつは庵主。
  これの実物にはまだ二回くらいしかお目にかかったことがありません。

  そのうち一度は,古物屋さんの店の奥で見たもので。
  軸も飾りもなく真っ黒け。明清楽の「阮咸」だな,とはすぐ分かったものの,月琴じゃないもので,それほどの興味もなく。たまたま面板が割れてたので,中をのぞいて「ふ~ん,月琴と同じ構造かあ」とか思った程度。
  まして実際に演奏されてるところとか,音なぞ聞いたこともありません。


  ポイント1はココ。「どんな音」がする「どんな楽器」なのかに興味がありますね。
  ホント,知らないんですから。
  ポイント2は,胴体が月琴と違って角ばった箱胴なこと。
  まン丸い胴体を作るのはホネですが(月琴を修理しててもそう思う),平面構成の箱胴ならばさほどの苦労はありません。

  ちょうど月琴修理も塗装に入り,朝塗りこむとほか何もできません。小人閑居して不善を為すとやら。
  「そこらの材料で作るゴッタン阮咸」,製作を開始いたしましょう。


STEP1 棹を作る。

  本来は何か堅い木で作るべきでしょうが,ちょうどいい角材がない――というか,カツラとかサクラの角材はあるんですが,なんかモッタイナくて…月琴のほうに使いたいからね。

  そこでどこかから拾ってきた針葉樹(たぶん米栂ではないかと)の角材がちょうどいい長さでしたんで,これを使うことといたしました。
  強度的には多少心配がありますが,まあゴッタンの棹は杉とかでしょうし,カンカラ三線でも松か何か使ったのを見たことありますからね。
  また,幅が2.5cmとやや細い(本物の棹は3cmくらいある)ですが,わたしゃ手が小さいのでこれもヨシ。
  何か言われたら,こりゃ「細棹」の阮咸だ,と言い切ればヨロシイ。

糸倉(完成)
  棹はテキトウ針葉樹ですが,この(→)糸倉部分はカツラで作ります。
  材料は版画用として売っている1cm厚のもの,\300くらい。
  手前に反ってくるのじゃなく,背面側にカーブしてゆくカタチ。
  ちょうど月琴の糸倉をひっくりかえしたようなものですね。

棹1
1)まず棹の先端を凸のカタチにして,両肩を斜めに切り込み,そこに糸倉のカタチに切り出した板を二枚,ニカワを塗ってハメこみます。

  もちろん本物は一木からの彫りだしでしょうが(ゴッタンでさえそう),ま,ココは工作のラクな方でまいります。

2)天の部分と糸倉基部の裏側がわに,余り板から切り出して小板をこれもニカワをつけてハメこんでおきます。
  あとで整形するのでどちらも多少大きめでよろしい。

棹2
  ぜんぶをハメたら,糸倉の左右をクランプでしめつけて一晩おきます。


  この楽器をただ作ってみようというムキには,ここまで充分とは思いますが。
  庵主の場合,いちおう弾きまくりたいので,さすがにこの材料,これだけだと強度的に心配なので
棹3
3)指板を貼って補強します。

  ちょうどありがたいことに,銘木店さんから貰ってきた「ギリギリ黒檀」の薄板(厚5mm)のデカいのがありましたので,これでイキます。

  色が薄かったり赤いところが混じってツートンカラーになってたりして,銘木店さん的には「黒檀」呼べるかなあ,というシロモノではありますが,材質としては間違いなく「黒檀」。
  見かけはともかく,強度的には問題ございません。
  同じ大きさのものを買うとなるとけっこう値がはりましょうが,なにせタダです。
  ひとつ豪勢に使うことといたしましょう。

  指板面の凸凹を均した棹に,大体の幅に切り出した黒檀の細板を,ニカワをまんべんなくたっぷりめに塗ってへっつけます――ずらりと並んだCクランプ。なんかケーキみたいですね。あ,ミルフィーユとか食べたくなってきた。

棹4
  こちらはちょっと慎重に二晩ばかりおいてしっかり接着。
  クランプをはずすと,長くて四角い物体ができあがりました。

  こんどはなにやらチョコレート菓子のようです。

棹5
4)糸倉の手前まで,黒檀の板のはみだしてるところをノコギリでギコって削ぎ落とし。

棹6
5)棹元の胴体にハメこむ部分を凸に刻んだら。

6)ミニカンナやヤスリや切り出しで糸倉を彫りだし,四角い物体を楽器の棹っぽく整形してゆきます。
棹7 棹1
棹8
  幅が細いので,糸倉がデカいのをのぞけば,まるきりお三味の棹ですね。

棹9
7)だいたいのカタチができて,表面をペーパーで均したら,棹元のデコにV字の刻みを入れます。

  ここにはあとで胴体を貫く延長材を差し込みます。

  この楽器,胴体は木箱みたいなもんですから,この棹さえなんとかなればあとはたいしたことがありません。ガンバレ!




STEP2 胴体を作る。

胴体1
  胴体の材料も正体不明の針葉樹(松,かな?)の薄板(厚5mm)です。
  たしか建材屋さんでもらってきた端材――うむ,ただしくゴッタンの系である。

  (本物はぜんぶ桐板だそうで,この時点ではまだ知りませんでした。
   知ってたら最初っから桐板で作っても良かったんですが。)


胴体2   まずは直径26cmほどの八角形の型紙を厚紙で作ります。
  庵主は設計図引くよりも,こうやって部分部分の型紙を作って製作してゆくほうが好きですね。

  型紙の上に,幅2.4~5,長さ11cmばかりの小板の両端を凸凹に刻んだのを並べ,凸の両肩と,凹の真ん中をヤスリで落として角度をつけながら,順ぐりハメこんでゆきます。
  スキマが多少できても,あとで埋め木でもパテでも修正できますから,それほど正確にキメ出さなくてもいいんですが,「スル,ピタ」のカイカンが欲しくて,けっこう熱中。
  小板3枚くらいダメ出ししましたねえ。


胴体3
  この八角形の真ん中に二本,横桁が渡るわけですね。

  だいぶ前に買ったヒノキの板(厚1cm)がありました。ちょうど角の内側にハマるように両端を削り落とし,真ん中に棹の延長材が通る穴,左右に音が通る穴をあけます。
  上桁には「響き線」をぶらさげるので,延長材の穴の左右,真ん中部分は,下桁にくらべるとやや幅広にとっておきます。

胴体4
  板の加工が終わったら組み立てましょう。
  
  ナニ,凸凹にニカワを塗ってハメこむだけです。
  らくちんらくちん。


  全部の接着が終わったら,輪ゴムや紐を巻いて固定
。   八角形がくずれないように,とりあえず内桁をハメときましょう。(桁にはまだ,「響き線」取付けの加工があるので接着はしてません)

  一晩たったら凸凹のハミ出た分をヤスリで落とし,とりあえず八角形の箱の外側は完成です!



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