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「代用月琴」あらため「ウサ琴」(1)

USAKIN01.txt
斗酒庵 代用月琴を作る「代用月琴」あらため「ウサ琴」(1)


  新楽器命名:「兎琴」(ときん/うさぎのこと/うさぎごと),略称「ウサ琴」(ウサキン)。

  月琴ヲモトトスルモ,ナヲ月琴ニアラズ。音色未ダ明カナラザルモ,体月ノ琴ヨリ小シ。
  小キモノ,兎ハ月ニアラザルモ,月ノ縁者ナルヲ以テ名ヅク。


――とか。
  作業はナマケモノ憑きの庵主としては,ちょっと異常なペースで進んでますよぉ。



STEP4 表面板の工作
表面板(1)
  表面板を作ります。

  材料は阮咸と同じく¥100屋の「焼桐板」の表面を剥いだもの。
  阮咸と同じく3枚継ぎにしたんですが,これだと¥100板とはいえ経済性が悪いですね。
  大きな板から円形の部品を切り出すと,板をけっこう食う上に,端材がほかに使えないようなカタチになってしまいます。かえって5枚継ぎくらいにしたほうが,手間は増えますが,よりムダなく板を使えるようです。


表面板(2)
  横継ぎの終わった表面板は余計な部分をざっと切り落とし,胴体に貼り付ける前に,半月を取付けておきます。
  べつに後でもいいのでしょうが,箱になってからより,板の状態の今のうちのほうが,がっちり取り付けることができます。
  面板でいちばん力のかかるところなんで,しっかりと付いててほしいですもんね。

  半月の付いた板を,胴体に接着。
  ハミ出た部分を切って削ってできあがりです。



STEP5 PU関連の補強

PU(1)   今回の楽器はPU付き,エレキ楽器であります。

  PUの材料は秋葉原で買い集めた 圧電素子とボリューム端子(500KΩ)に6.3mmジャック。
  同じようなものを楽器店で買うと\2000以上はしますが,これだといやあ,安いですね。
  1セット\500しません。

  3つの部品をシールド線でハンダ接続したらできあがり,工作はものの10分ほどです。

  楽器のエレキ化にともなう補強,まずはジャックの取付部。抜き差しするところなので,ちゃんと補強しておかないとコワれてしまいます。

  表側はジャック穴の周囲をすこし彫り下げて,黒檀の薄板を埋め込むことにしました。
  黒檀の板の木目は側板のものと交差するように作ってあります。

  内側も同様に彫り下げ,こちらにはチークの端材で作った補強ブロックを付けます。
  側板自体は薄くなったわけですが,内外から堅い材でサンドイッチして強化してやろうというワケです。
PU(2)
PU(3)


  表板が付いたら,こちらにはボリューム端子の穴をあけます。

  ツマミのなかごがやや短いタイプを買ってきたので,そのままでは板が厚すぎて,ツマミが外に出てくれませんので,穴の周囲を部品のカタチに彫り下げ,ラックニスで固めます。

  表の補強は,このウサギさんの目摂。
  鼻先の円い部分にボリュームのツマミのところがハマります。

  回路の実験(ホントにこんな¥500もしないモノで音が出るのかな~?)をするため,ちょいと付けてみました。真ん中下,半月のま裏あたりにある四角いのが,音を拾う圧電素子です。

PU(4)
PU(5)


半月(1)
  回路を取付け,まずは弦ナシで面板を叩いてみました。
  とんとん…アンプから音が出ます。響き線がチャラチャラ鳴る音も拾ってくれてます。
  次は弦の音をちゃんと拾ってくれるかどうかですね。

  弦を張るため,棹に山口を取付け,半月には糸孔をあけます。

  穴の位置は,糸を張って位置を確かめながら決めたんですが,外絃間 32mm,内絃間 24mm 。
  1号月琴とほぼ同じ間隔となりました。

  半月は材料が柔らかめのカツラなので一工夫。
  糸孔の周りをドリルの先で少しエグって,ピックの材料にしている牛のヒヅメの薄板を埋め込んでみました。

  ホンモノ月琴ではよく,象牙や骨の円板が用いられているので,庵主も最初は象牙で作ってみたんですが,これがまた,夜店のカタヌキみたいに,完成直前になると欠けるわ割れるはとびちるわ…6枚ばかり失敗した後,手慣れた素材にチェンジ!
  実物にも水牛角を使った例がありますから,まあまんざらヘンなものでもないでしょう。
半月(2)
** せっかくキレイに塗ってあるので,表面を保護しようと半紙など貼ってみたんですが,けっきょく2ヶ所ばかり削っちゃいました…あとで塗りなおしですね~。

  回路を付けたままで,外絃二本を張り,試奏してみました。
  単弦だし裏板もついていないんで,アコースティック楽器としての音色は分かりませんが,PUをアンプにつなぐとアラ,ビックリ!

  スゴいな~,ほんとにちゃんと月琴ぽい音出てるよ~。

  響き線の効果による余韻も,あんがい採ってくれてますね。
  ただピエゾと同じく,アンプに近づけるととたんゲキレツにハウリング。

  これが欠点かな?



STEP6 裏板の工作

裏板(1)
  作り方は表板と同じなんですが,PU取付けの関係で裏板には取付け/メンテ用の穴があきます。

  穴を覆うフタもいりますねえ。

  まず材料は今までの作業で出た桐板の端材,5枚継ぎです。
  桐板がひっついたら,穴をあけます。PUのメンテができる,必要最小限の大きさ。
  穴の周囲に,裏ブタをとめるためのネジ穴をあけ,その周囲をエグって四角ナットを埋め込むためのクボミを作り,ラックニスで固めておきます。
裏板(2)


  裏ブタはいろいろ試行錯誤の結果,軽くて薄い樹脂板に。

  材質はABS。\100屋さんで買ったクリップボードを切り刻み,ツルツルの表面を粗いペーパーで荒らしてつや消しに仕立てます。

  クボミのラックニスが乾いて固まったら,エポキシボンドでナットを固定します。
  このナットの付いてるほうが,内側になります。
  この裏板を胴体に接着。
  一晩置いて,表板のときと同じくハミ出た部分を切り落とし,削り均して完成です。

  裏ブタを取付けてみたら,一箇所浮いちゃうところがあったので,表面側に一個,ナットを追加。
  また最初につけた四角ナットが二箇所,なんど付け直しても取れちゃうんで,チークを細い棒状に切ったのを楽器の中に立てて,ナットをはさみこみ,固定してみました。
裏板(3)
裏板(4)
裏板(5)



STEP7 仮組み・フレットたて

  さて,胴体も箱になったことだし,塗装はまだですが棹を挿せば構造体としては完成しておるわけです。
  めでたやめでたや。
仮組み(1)
  塗装の前に糸を張って,フレット位置の確認と加工をしておきます。
  今回のフレットは,コウモリさんと同じ竹製です。カタチを作る加工はラクですが,仕上げに手間かかってタイヘンなシロモノです。

  まずは前に実験したときと同じく,外弦2本だけで,フレットの位置と高さを決めてゆきます。

  明清楽月琴のフレットは本来8本ですが,今回はより色んな楽器と合わせやすいように,とBの2本を足して,10本たてることにしました。
  これで音域は全音で完全2オクターブとなります。

  下にゆくにしたがって長くなる,この裙広がりのデザインは「ナゾの中国月琴」を参考にしたもの。
  わたしはまだお目にかかったことはないのですが,日本の明清楽月琴にも同様のデザインのものがあるそうです。

仮組み(2)
  胴体は小さいですが,スケールはほぼコウモリ月琴と同じ約41cm。
  棹のモデルが1号なので,第4フレットは棹の上,胴体から約7mm ばかり上となりました。

  内弦の糸溝を切ってさらに実験。
  実験用の軸が1本折れちゃってるので,低音単弦,高音複弦で弾いてみます。

  操作感は悪くないですね。

  ただCのところがやや押えにくいのと,フレットを増やした影響で最高音のあたりの間隔がせまく,ちょっと音が出しにくいようです。



赤いヒヨコ月琴(2)

MOONH22.txt
斗酒庵 太清堂の月琴を直す 之巻赤いヒヨコ月琴(2)


STEP1 お飾りをはずす

お飾り撤去(1)
  まずはいつものとおり,面板や棹の修理にじゃまなんで柱や装飾の類をとりはらいます。

  楓渓さんの月琴では,この接着がオソロシク強固だったのでちと苦労しましたが,さて「赤いヒヨコ」はどうでしょう? お湯を筆にふくませて,ちょいちょいちょい…

  とれるとれる――

  接着が妙に甘いです。
  接着剤の量も少なめなようす。

  ほとんどの柱もお飾りも,周囲にお湯を含ませ指で揺すっただけで,カンタンにはずれてしまいました。
  ホントにこんなヤワな接着でよくいままで…お飾り2つなくなっただけで済んだものです。
お飾り撤去(2)

お飾り撤去(3)
  とれないのは後で誰かが「修理」しやがった部分。

  蓮頭と第2フレットは,最近,一度脱落したのを木工ボンドでくっつけたようです。
  しかも蓮頭は上下が逆。

  道具屋のシワザだと思いますが,今度やったら木工ボンド部にたたきこんで,ドクロちゃんに脳髄ツクネになるまで撲殺してもらいますよ。

お飾り撤去(4)
  ほかの部品はすべてほんの十分ほどの間に撤去されたんですが,蓮頭の再接着が頑強で。 濡らして蒸らして,焼き鏝あてて,つごう30分くらいかかりました。

  間木ごと取れてきましたが,よく見るとこの間木,左右にニカワを塗ったあとがありません。
  もともと接着が甘そうで,左右の糸倉とのあいだにスキマも見えてたんですが。
  もしかするとはじめから,写真のように糸倉にじゃなく,蓮頭のほうに接着されていたのかもしれません。


お飾り撤去(5)
  柱と山口の接着はニカワですが,お飾り類はソクイのものとニカワのもの,両方混じってますね。絃停はフノリのようです。
  扇飾りと象牙製の太湖石の裏面には,前にも述べたように,加工時に補強のため貼られた和紙がはりついていました。

  今回のこの作業はラクでしたが,ゴメソ,左の目摂ちょっと欠いちゃった。
  あとでちゃんと直しま~す。



STEP2 裏板ハガシ

裏板ハガシ(1)   ハガレがあるのは表面板,裏板の接着にはユルみはないんですが。
  前々から書いているように,音に直接影響の出る表板をひっぺがすのは忍者戦隊の拳銃くらい「最後の手段」にしときたいんで,裏板をひっぺがします。

  まずは桐板の木口と,周縁部にお湯を含ませます。けっこうしつこく10分くらい。

  次に,胴体をくるっと回してみて,すこしでもスキマがあったら,お湯に浸したウェスをしぼってそこにかけ,焼き鏝をあてます。
  ビルダーの方々はスチームアイロンをお使いになるようですが,なにせナイもんで。
  ちょいとコツと時間がいりますが,効果は同じ。
  蒸らされ,熱されて,接着が甘くなったころあいに刃物をつっこんでコジあけます。

  お飾り同様,こちらもけっこうカンタンにハガれてしまいました。

  さて,月琴はあけてビックリ…

  なぁんじゃこりゃあ~っ!!!!!!!!

  …フシギな構造が出現いたしました。

裏板ハガシ(2)
裏板ハガシ(3)


内部観察
内部構造(1)
◎桁 一本桁。 左右長333mm,板厚8mm 幅29mm。
  中央ではなく楽器やや上部に渡る。位置は天の側板内側から136mm,地同より183mm。
  中央に棹ほぞの穴。墨で下書き線あり。
  材はスギかヒノキと思われる。

** 修理前より表面板下部などを押すと,やたらとふわふわした感触が返ってくるので不審に思ってたんですが,この構造のせいだったんですね~。

◎側板 最大厚 14mm 最小 8mm。
  内面はノコ目ごく薄く,なめらかで,細かめなヤスリ目が斜めにはいっている。加工は4枚とも比較的均等で丁寧。
  材はやや緑がかった密なもの,木目は目立たない。クワかクリの類ではないかと思う。

  側板内面左上に墨書,「五」の上一辺なきもの。棹ホゾ上にあるものと同じ記号。
  地の側板内面右,第二の響き線の横に「↑」墨書。

内部構造(2)
  接合部の裏面に四角い小木片を接着。
  補強材と思われる。17×22mm,厚9mm ほど。材はキリ。
  下部の二枚は表面が塗装されている。おそらくベンガラ
  右上の接合部のみややハガレてスキマが見えるものの。ほかはほぼ健全。

◎響き線 2組(?)。
  いづれも真鍮線,桁直下のものは長 314mm 径 1.2mm 以上,やや太目の直線。


内部構造(3)
  そしてもう一組が,問題のフシギさん。

  庵主もけっこう色んなの見てきたんですが,こんな構造,ちょっと見たことも聞いたこともありません。

  地の側板のほぼ中央から,真鍮線が二本,右斜め方向に平行につきささってます。
  線の間隔はおよそ6mm。径 0.8mm ていどの,やや細めな真鍮線。左の線の先端が巻かれており,右の直線をコイル状に4巻きほど囲んでます。

  まっすぐな線の振動を,このコイル状の構造で増幅しようって考えでしょうか?

  表板を叩いてどんなふうに揺れるのか見てみたりしたんですが,どうにもその効果のほどは分かりません。どっちかっていうと,ただジャラジャラと鳴ってるだけのような気も………

  修理が終わって弾けば分かる!――たぶん。


内部構造(4)
  この楽器の作者はソクイが好きなようで,裏板を剥がす時,何か刃物の感触が違うな~とは思っていたんですが,面板も桁も,またニカワではなくソクイで接着されているようです。
  側板の内側に何個か,→ なものがへっついてます。

  ご飯粒,ですね。

  表具屋さんや鞘師が使うノリなんかは,徹底的に擦られて練られて寝かされるうち,ほとんどさらさらのペースト状になってますが,こりゃあんまり質がよくないな~。 マジご飯練っただけじゃないだろうな~?

  しかしながら,ニカワは年月とともに劣化し,細かい粉状になって,いつのまにか落ちてしまうものなんですが,この米デンプン接着剤はそうした経年の劣化には強いようで,水分を含ませるといったん白っぽくはなりますが,そのまま圧着するとふたたびくっつきます。
  ただニカワにくらべると接着力自体が弱いのと,圧着・乾燥にかなり時間がかかるのが欠点のようです。



STEP3 表面板の補修

  あ~ビックリした。
  とんでもない内部構造でした。

  ――おおぅ,いつまでも呆けてはいられん。修理修理。


側板ハガレ
  表面板を裏側から観察したところ,裏板ほどの虫の食害もなく,とりあえずは一安心。

■ まずは楽器下部の,側板からハガれてしまっているところをくっつけます。
  スキマに刃物を入れ,広げたところに筆でニカワを塗り,クランプで固定。
  すこしばかり虫食いが走っていましたが,大して深くはないのでそのまま接着してしまいます。

表板ヒビ(1)
■ お次は表から見て左側,面板上下に走っているヒビ。
  ぱっくりキレいに割れてるのはいいんですが,ヒビに沿って板がわずかに,盛り上がるように反り返ってしまっていますので,そのままではくっつけることができません。

  表からヒビの周辺にお湯を含ませます。
  裏も同じようにして,板を柔らかくしたら,つぎに薄く溶いたニカワをヒビ面の木口と周囲に,これは裏面から何度も染ませ,和紙を貼りつけ,うづくりで軽く叩いて馴染ませます。
  表面にも和紙をあてたら,表には板を渡し,裏には当て木をして上下からしめつけ,平らにすると同時に接着してしまうといたしましょう。
表板ヒビ(2)
  作戦成功。見事にひっつき,平らになりました。
  それでも残ったスキマをパテで埋めてしまいましょう。ごく細いものなんで,このくらいの幅ならば,最後のヤシャ染めでほとんど目立たなくなってしまうはずです。

■ このヒビのところから楽器の中心まで,面板が桁からハガれてしまっているのも直しておきましょう。
  ここもまた,ソクイで接着されていたようで,接着箇所をキレイにしようとお湯を含ませてこそいだら,白いヌルヌルが出てきました。
  ニカワを筆で塗り,ふたたび表裏に板を渡してクランプで固定,構造的には重要な箇所なんで,一~二晩置いて完全に接着させます。


表板補強(1)
  この月琴,面板をたたくとボヨンボヨンという妙にユルい板の音がします。ふつうはもっと,皮のピンと張った太鼓のような,堅い音がするもんなんですが…。
  同じ一本桁の構造でも,3号の場合は胴体が小さく面板がやや厚め(5mm以上)でしたし,桁が楽器のほぼ中央部に渡っていたため,このようなことはありませんでした。

  ヒヨコ月琴の胴体は1号月琴よりも大きい直径 355mm。
  このサイズでこの構造,しかも面板がかなり薄めなので,弦を張った状態で板に力がかかると,かなり歪んでしまうはずです。なにせ現状でも,絃停の貼ってあったあたりを指で押すと,少しだけヘコんでしまったりするぐらいですから。
  お飾り程度の使用なら問題ないでしょうが,楽器としてつねに弦が張られるとなると多少不安な構造です。

■ オリジナルの構造にはなるべく手を加えたくはないのですが,未来のために補強をしておきましょう。

表板補強(2)
  いちばんいい方法は,適当な場所にもう一本桁を増やしてやることなんですが,そのいちばん良い位置に,例の「響き線」が斜めに渡っているので,どうにもイケません。

  そこで今回はフルサイズの桁を入れるのはあきらめ,ヒノキの板を貼り付けることにしました。
  これだけでも,板の歪みはかなり小さくなるはずですし,横方向をつなぐ構造が増えるんで,ヒビもはいりにくくなると思いますよ。

  これで楽器の下半分は,叩くとやや堅めの音が出るようになったんですが,桁から上の部分はまだボヨンボヨンなまま。
  こちらにも補強板を渡すかどうか,思案中です。



赤いヒヨコ月琴(1)

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斗酒庵 太清堂の月琴を直す 之巻赤いヒヨコ月琴(1)

太清堂ラベル
  去年暮れから2本同時修理に,おまけでゴッタン阮咸一本,楽器初製作,と目まぐるしい毎日が終わり,ホッと一息――つく間もなく,修理の依頼が舞いこんでまいりました。

  裏板に「太清堂」(おそらくは「たいしんどう」)というラベルが貼ってありますから,正式名称は「太清堂月琴」ナレドモ。面板上の赤いお飾り,とくに鳥のカタチのふたあつが何より目をひきます。
  水鳥が二匹。おそらくは「鴛鴦(えんおう)」。つまりオシドリだと思います。
  下に太湖石のお飾りもありますから,月琴の面板を池か湖に見立てての意匠なのかもしれませんね。

  風流な見立てではありますが,カンジンの彫がちょっとアレでナニなため,「赤いヒヨコ」にしか見えません――だもので…

  命名:「赤いヒヨコ月琴」。

赤いヒヨコ(1) 赤いヒヨコ(2)

  軸が一本折れ,あちこちヒビたりはしていますが保存状態はとてもよろしい。
  ちょっと見だと,もう「新品同様」てとこで。

  保存状態が良すぎてイマイチ時代が分かりにくいんですが,軸が細い,棹が長い,面板がやや大ぶりなどの特徴からして,月琴としては比較的新しい時代に作られたものかと思います。
  アールのキツい棹といい,指板の上となく,面板となくついたぶ厚い装飾といい,いわゆる「お飾り月琴」の類で,楽器としてはどれだけのものかは分かりません。

  とはいえ,これだけの保存状態でこの時代まで生き延びてきた貴重品。

  某少佐のザクみたいに,「ふつうの月琴の3倍」はムリとしても,まずまずはちゃんと弾けるように,ベストを尽くして修理いたしましょう!



太清堂月琴(別名・赤いヒヨコ月琴)・修理前所見

太清堂・修理前全景

  全長:640mm(蓮頭を含む) 胴径:353mm 厚・36mm
  棹長:276mm 
  糸倉:長・152mm/幅・28.5mm/高・62mm
  棹元:長・155mm/幅・28.5mm/厚:14mm
  指板:長・133mm/厚・1.8mm
  有効絃長:424mm 
  半月:長・40mm/幅・101mm/最高・10mm

蓮頭
  蓮頭:意匠は牡丹。

  ** 一度脱落したものを付け直したようだが,惜しむらくは上下が逆。
    彫りはやや浅く稚拙。

糸倉
  糸倉:ヒビ等なく健全。

  ** それどころか使われた形跡がない。軸穴内部に擦れたあとがほとんどなく,糸倉内の穴の周縁には,軸穴をあけたときに出来た木のささくれがそのまま残っている。

軸
  軸:全存なれど1本破損。太さ最大26mm,長・123mm。

  ** 破損一本は軸先,糸孔のところから折れる。黒檀製と思われる。六角形,三本溝。やや細身で長い。これも使用痕が浅い。糸をかけた痕はあるが,軸先に使用による圧縮痕などがほとんど見られない。

柱
  山口:象牙製。
  ** 糸が擦れた痕はわずかに残るが,糸溝は切られておらず,演奏で使用された形跡はない。

  柱:象牙製。
  ** 真横から見て先の丸まった二等辺三角形。

  この楽器の柱は,今まで見た象牙の品の中ではもっとも薄く(最大で4mmほど),この点だけは実用的なんですが,いかんせんオリジナル製作者の加工が悪い。

  この部品は通常,楽器の天地方向から見て弦にあたる側がわずかにすぼまった台形にされることが多いのですが,この月琴ではほぼ四角い板状。しかも,左右の切断がかなりテキトウで,第2フレットはほぼ平行四辺形となってしまっているし,通常いちばん長い第6フレットも寸足らずなうえ,左上辺のみがでっぱってしまっています。

  いくつかの柱については,後で付け直された形跡がありますが,柱それぞれの取付位置・間隔はやや均一に過ぎ,いづれにせよ正しく音階・音程に沿ってたてられたものとは思えません。

  これもまた,この楽器が「お飾り」であった証拠であります。

  飾り類:

目摂
  左右目摂:意匠は「佛手柑」。扇飾りとともにやや厚め。
    一見黒檀,正体不明。


  棹部の装飾は2個脱落しており,痕のみ。
  現在残っているものは「蒿葉」「レンジャク」。いづれも貝板製。



飾り(1)

  胴面板上のものは,オリジナルのまますべて残っているものと思われる。

  扇飾り:意匠不明。

  これと同様の意匠は過去にも数例目にしたことがある。
  かなり簡略化されてはいるが,フォルム上のいくつかの共通点から,楓渓の扇飾り等と同類の意匠と思われる。確証はないが,吉祥図「裏八仙」の「如意笊(何仙姑の持ち物)」の意匠がモトになっているのではいかと考えている。

飾り(2) 飾り(3)

  4・5,7・8フレット間と8フレットの先にあるものは紅色で,一見サンゴのようだが,感触やサンゴ材独特の「目」が見えないことから,練物ではないかと思われる。

  各個の意匠は,上から「水鳥(オシドリ・オス?)」・扇飾り。「太湖石」・「水鳥(オシドリ・メス?)」・「太湖石」

  扇飾りの下の飾りの材は象牙のようである。多少彫りと細工に投げやりなところがあり,もともとこのために作ったものではなく,根付か何かの失敗作を再利用したかのようにも思われる。

  なお扇飾りとこの飾りの裏には,製作時に補強のために貼られる和紙がそのまま残っている。

半月   絃停:ニシキヘビ皮,107×93mm。
  ** 何度かハガレを直した痕跡アリ。あまり上手ではなく,右上にニカワ染み。下左右にハミ出た痕あり。さらに右上に比較的新しい修理痕,ニカワの類にあらずセメダインか瞬接の類と思われる。

  半月:彫りのある曲面構成。ポケット型。真ん中下に花を彫る。意匠不明。蓮か?
  ** 糸孔の周囲を二重円で装飾。通常は中央に擦れ防止の丸い象牙板が貼られるが,これは木のまま。
  ここにもまた,糸を張ったり取り替えた際にできたような使用痕はまったく見られない。


  表面板:4枚継ぎ?不明。

  ** 左から3枚か4枚目の板がみょ~に色が違う。正面からの光線では分からないが,ちょっと斜めになると判然。目理は密ではないが,やや柾目の板が使用されている。

  裏板:8枚継ぎ。

  側板:4枚継ぎ,単純な木口合わせによる接合。各接合部は一見健全。工作は良い。



棹(1 全景)

棹(2 糸倉尻)
  この月琴は,棹の工作に特徴があります。

  まず棹裏のアールがキツいこと。
  高さが棹元で 33mm あるのが,いちばん深いところでは 22mm にまですぼまります。
  見栄えはかっちょいいのですが,これだけ曲線が深いと,実際の演奏では多少操作性に難があるかと思われますね~。
  好みにもよるでしょうが,たぶん1号とかコウモリさんのように真っすぐなネックの方が,手を自然にすべらせやすく,使いやすいのではないでしょうか。

  またこのデザインの影響で,ほかの月琴とくらべて,糸倉のお尻のところがかなり長くて深くなってますね。


  棹元の差込はかなりユルユルで,カンタンに抜けますが,使用によってこうなったのではなく,もともとの工作のようです。
  ちょっと特徴的なことに,ホゾの部分の横に段差がなく,ナカゴもその幅のまま継がれています。
  延長材はヒノキ。その上に「五」の上の一辺のない記号が墨書。さらに金尺に○(カネマル)の焼印アリ。

  この棹を受ける胴体のホゾ穴の加工は精確そのもので,手の切れそうな四角孔が穿たれており,内部の裏板側には棹にあるのと同じ記号が墨書されています。

  この穴から内部をのぞくと,黄金色の響き線が見えます。

  おそらく真鍮線でしょう。
棹(3 ホゾ)
胴体側棹ホゾ



  外側から見て分かった,主な要修理箇所は以下の通り――

 1)蓮頭が天地逆。
   (如意は「孫の手」なので,「爪」がアールの内側を向いていないとイケません。)

 2)ヒビ・ウキ・ハガレ各所にあり。
   A:表面板左,目摂のすぐ左,上下完ワレ。255mm。
   B:裏面中央やや左,ラベル右上下完ワレ。表面のヒビは上下端それぞれから伸び,中央のあたりでわずかに食い違う。真ん中に虫孔あり,原因か?
   C:同左2枚目と3枚目の継ぎ部分にヒビ。長200mmほど。
   D:同中央下端にかなり大きな虫孔。Bに関係ありや?
   E:表面板半月下にハガレ,地の側板の右端まで。同じ左端,面板にヒビの入るところから約3cm,木口にニカワ痕,修繕した痕跡。
 
 3)軸が1本破損。

 4)棹元ややユルし。


  また,修理するまでもないが少し気になるキズとしては,このほか――

  A:表面板右端中央やや下に打ちキズ。
  B:半月左下の側板上にヘコミ。
  C:糸倉天の間木にややハガレか?
  D:表板下半分にタルみ,半月のあたりを押すとややブカブカする。内部構造のせいか?


――というあたりがありますか。
裏板虫食い(1)
  前回の楓渓さんは,汚れは多少ありましたが保存状態が良かったのでオープン修理はしませんでした。今回の楽器も,一見した保存状態は楓渓さんより良いくらいなのですが,表板のヒビやハガレ,またなにより裏板の虫害が気になりますので,あけてみることとします。

  鶴壽堂の裏板などもそうだったんですが,虫食いってやつは,表からでは被害状況が分からないのです。穴は小さくても,板がスカスカになるくらい,縦横無尽に食い荒らされてしまっている場合もあります。

裏板虫食い(2)   そんなふうに表面板が食われていないよう,祈りましょう。

  月琴は,あけてビックリ玉手箱。

  さてさて,ナニが出ますやら…



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