赤いヒヨコ月琴(1)
![]() ![]() 去年暮れから2本同時修理に,おまけでゴッタン阮咸一本,楽器初製作,と目まぐるしい毎日が終わり,ホッと一息――つく間もなく,修理の依頼が舞いこんでまいりました。 裏板に「太清堂」(おそらくは「たいしんどう」)というラベルが貼ってありますから,正式名称は「太清堂月琴」ナレドモ。面板上の赤いお飾り,とくに鳥のカタチのふたあつが何より目をひきます。 水鳥が二匹。おそらくは「鴛鴦(えんおう)」。つまりオシドリだと思います。 下に太湖石のお飾りもありますから,月琴の面板を池か湖に見立てての意匠なのかもしれませんね。 風流な見立てではありますが,カンジンの彫がちょっとアレでナニなため,「赤いヒヨコ」にしか見えません――だもので… 命名:「赤いヒヨコ月琴」。
軸が一本折れ,あちこちヒビたりはしていますが保存状態はとてもよろしい。 ちょっと見だと,もう「新品同様」てとこで。 保存状態が良すぎてイマイチ時代が分かりにくいんですが,軸が細い,棹が長い,面板がやや大ぶりなどの特徴からして,月琴としては比較的新しい時代に作られたものかと思います。 アールのキツい棹といい,指板の上となく,面板となくついたぶ厚い装飾といい,いわゆる「お飾り月琴」の類で,楽器としてはどれだけのものかは分かりません。 とはいえ,これだけの保存状態でこの時代まで生き延びてきた貴重品。 某少佐のザクみたいに,「ふつうの月琴の3倍」はムリとしても,まずまずはちゃんと弾けるように,ベストを尽くして修理いたしましょう! 太清堂月琴(別名・赤いヒヨコ月琴)・修理前所見 ![]() 全長:640mm(蓮頭を含む) 胴径:353mm 厚・36mm 棹長:276mm 糸倉:長・152mm/幅・28.5mm/高・62mm 棹元:長・155mm/幅・28.5mm/厚:14mm 指板:長・133mm/厚・1.8mm 有効絃長:424mm 半月:長・40mm/幅・101mm/最高・10mm
表面板:4枚継ぎ?不明。 ** 左から3枚か4枚目の板がみょ~に色が違う。正面からの光線では分からないが,ちょっと斜めになると判然。目理は密ではないが,やや柾目の板が使用されている。 裏板:8枚継ぎ。 側板:4枚継ぎ,単純な木口合わせによる接合。各接合部は一見健全。工作は良い。 ![]()
外側から見て分かった,主な要修理箇所は以下の通り―― 1)蓮頭が天地逆。 (如意は「孫の手」なので,「爪」がアールの内側を向いていないとイケません。) 2)ヒビ・ウキ・ハガレ各所にあり。 A:表面板左,目摂のすぐ左,上下完ワレ。255mm。 B:裏面中央やや左,ラベル右上下完ワレ。表面のヒビは上下端それぞれから伸び,中央のあたりでわずかに食い違う。真ん中に虫孔あり,原因か? C:同左2枚目と3枚目の継ぎ部分にヒビ。長200mmほど。 D:同中央下端にかなり大きな虫孔。Bに関係ありや? E:表面板半月下にハガレ,地の側板の右端まで。同じ左端,面板にヒビの入るところから約3cm,木口にニカワ痕,修繕した痕跡。 3)軸が1本破損。 4)棹元ややユルし。 また,修理するまでもないが少し気になるキズとしては,このほか―― A:表面板右端中央やや下に打ちキズ。 B:半月左下の側板上にヘコミ。 C:糸倉天の間木にややハガレか? D:表板下半分にタルみ,半月のあたりを押すとややブカブカする。内部構造のせいか? ――というあたりがありますか。 ![]() 前回の楓渓さんは,汚れは多少ありましたが保存状態が良かったのでオープン修理はしませんでした。今回の楽器も,一見した保存状態は楓渓さんより良いくらいなのですが,表板のヒビやハガレ,またなにより裏板の虫害が気になりますので,あけてみることとします。 鶴壽堂の裏板などもそうだったんですが,虫食いってやつは,表からでは被害状況が分からないのです。穴は小さくても,板がスカスカになるくらい,縦横無尽に食い荒らされてしまっている場合もあります。 ![]() 月琴は,あけてビックリ玉手箱。 さてさて,ナニが出ますやら… |