赤いヒヨコ月琴(2)
![]() STEP1 お飾りをはずす
![]() とれないのは後で誰かが「修理」しやがった部分。 蓮頭と第2フレットは,最近,一度脱落したのを木工ボンドでくっつけたようです。 しかも蓮頭は上下が逆。 道具屋のシワザだと思いますが,今度やったら木工ボンド部にたたきこんで,ドクロちゃんに脳髄ツクネになるまで撲殺してもらいますよ。 ![]() ほかの部品はすべてほんの十分ほどの間に撤去されたんですが,蓮頭の再接着が頑強で。 濡らして蒸らして,焼き鏝あてて,つごう30分くらいかかりました。 間木ごと取れてきましたが,よく見るとこの間木,左右にニカワを塗ったあとがありません。 もともと接着が甘そうで,左右の糸倉とのあいだにスキマも見えてたんですが。 もしかするとはじめから,写真のように糸倉にじゃなく,蓮頭のほうに接着されていたのかもしれません。 ![]() 柱と山口の接着はニカワですが,お飾り類はソクイのものとニカワのもの,両方混じってますね。絃停はフノリのようです。 扇飾りと象牙製の太湖石の裏面には,前にも述べたように,加工時に補強のため貼られた和紙がはりついていました。 今回のこの作業はラクでしたが,ゴメソ,左の目摂ちょっと欠いちゃった。 あとでちゃんと直しま~す。 STEP2 裏板ハガシ
内部観察 ![]() ◎桁 一本桁。 左右長333mm,板厚8mm 幅29mm。 中央ではなく楽器やや上部に渡る。位置は天の側板内側から136mm,地同より183mm。 中央に棹ほぞの穴。墨で下書き線あり。 材はスギかヒノキと思われる。 ** 修理前より表面板下部などを押すと,やたらとふわふわした感触が返ってくるので不審に思ってたんですが,この構造のせいだったんですね~。 ◎側板 最大厚 14mm 最小 8mm。 内面はノコ目ごく薄く,なめらかで,細かめなヤスリ目が斜めにはいっている。加工は4枚とも比較的均等で丁寧。 材はやや緑がかった密なもの,木目は目立たない。クワかクリの類ではないかと思う。 側板内面左上に墨書,「五」の上一辺なきもの。棹ホゾ上にあるものと同じ記号。 地の側板内面右,第二の響き線の横に「↑」墨書。 ![]() 接合部の裏面に四角い小木片を接着。 補強材と思われる。17×22mm,厚9mm ほど。材はキリ。 下部の二枚は表面が塗装されている。おそらくベンガラ 右上の接合部のみややハガレてスキマが見えるものの。ほかはほぼ健全。 ◎響き線 2組(?)。 いづれも真鍮線,桁直下のものは長 314mm 径 1.2mm 以上,やや太目の直線。 ![]() そしてもう一組が,問題のフシギさん。 庵主もけっこう色んなの見てきたんですが,こんな構造,ちょっと見たことも聞いたこともありません。 地の側板のほぼ中央から,真鍮線が二本,右斜め方向に平行につきささってます。 線の間隔はおよそ6mm。径 0.8mm ていどの,やや細めな真鍮線。左の線の先端が巻かれており,右の直線をコイル状に4巻きほど囲んでます。 まっすぐな線の振動を,このコイル状の構造で増幅しようって考えでしょうか? 表板を叩いてどんなふうに揺れるのか見てみたりしたんですが,どうにもその効果のほどは分かりません。どっちかっていうと,ただジャラジャラと鳴ってるだけのような気も……… 修理が終わって弾けば分かる!――たぶん。 ![]() この楽器の作者はソクイが好きなようで,裏板を剥がす時,何か刃物の感触が違うな~とは思っていたんですが,面板も桁も,またニカワではなくソクイで接着されているようです。 側板の内側に何個か,→ なものがへっついてます。 ご飯粒,ですね。 表具屋さんや鞘師が使うノリなんかは,徹底的に擦られて練られて寝かされるうち,ほとんどさらさらのペースト状になってますが,こりゃあんまり質がよくないな~。 マジご飯練っただけじゃないだろうな~? しかしながら,ニカワは年月とともに劣化し,細かい粉状になって,いつのまにか落ちてしまうものなんですが,この米デンプン接着剤はそうした経年の劣化には強いようで,水分を含ませるといったん白っぽくはなりますが,そのまま圧着するとふたたびくっつきます。 ただニカワにくらべると接着力自体が弱いのと,圧着・乾燥にかなり時間がかかるのが欠点のようです。 STEP3 表面板の補修 あ~ビックリした。 とんでもない内部構造でした。 ――おおぅ,いつまでも呆けてはいられん。修理修理。 ![]() 表面板を裏側から観察したところ,裏板ほどの虫の食害もなく,とりあえずは一安心。 ■ まずは楽器下部の,側板からハガれてしまっているところをくっつけます。 スキマに刃物を入れ,広げたところに筆でニカワを塗り,クランプで固定。 すこしばかり虫食いが走っていましたが,大して深くはないのでそのまま接着してしまいます。 ![]() ■ お次は表から見て左側,面板上下に走っているヒビ。 ぱっくりキレいに割れてるのはいいんですが,ヒビに沿って板がわずかに,盛り上がるように反り返ってしまっていますので,そのままではくっつけることができません。 表からヒビの周辺にお湯を含ませます。 裏も同じようにして,板を柔らかくしたら,つぎに薄く溶いたニカワをヒビ面の木口と周囲に,これは裏面から何度も染ませ,和紙を貼りつけ,うづくりで軽く叩いて馴染ませます。 表面にも和紙をあてたら,表には板を渡し,裏には当て木をして上下からしめつけ,平らにすると同時に接着してしまうといたしましょう。 ![]() 作戦成功。見事にひっつき,平らになりました。 それでも残ったスキマをパテで埋めてしまいましょう。ごく細いものなんで,このくらいの幅ならば,最後のヤシャ染めでほとんど目立たなくなってしまうはずです。 ■ このヒビのところから楽器の中心まで,面板が桁からハガれてしまっているのも直しておきましょう。 ここもまた,ソクイで接着されていたようで,接着箇所をキレイにしようとお湯を含ませてこそいだら,白いヌルヌルが出てきました。 ニカワを筆で塗り,ふたたび表裏に板を渡してクランプで固定,構造的には重要な箇所なんで,一~二晩置いて完全に接着させます。 ![]() この月琴,面板をたたくとボヨンボヨンという妙にユルい板の音がします。ふつうはもっと,皮のピンと張った太鼓のような,堅い音がするもんなんですが…。 同じ一本桁の構造でも,3号の場合は胴体が小さく面板がやや厚め(5mm以上)でしたし,桁が楽器のほぼ中央部に渡っていたため,このようなことはありませんでした。 ヒヨコ月琴の胴体は1号月琴よりも大きい直径 355mm。 このサイズでこの構造,しかも面板がかなり薄めなので,弦を張った状態で板に力がかかると,かなり歪んでしまうはずです。なにせ現状でも,絃停の貼ってあったあたりを指で押すと,少しだけヘコんでしまったりするぐらいですから。 お飾り程度の使用なら問題ないでしょうが,楽器としてつねに弦が張られるとなると多少不安な構造です。 ■ オリジナルの構造にはなるべく手を加えたくはないのですが,未来のために補強をしておきましょう。 ![]() いちばんいい方法は,適当な場所にもう一本桁を増やしてやることなんですが,そのいちばん良い位置に,例の「響き線」が斜めに渡っているので,どうにもイケません。 そこで今回はフルサイズの桁を入れるのはあきらめ,ヒノキの板を貼り付けることにしました。 これだけでも,板の歪みはかなり小さくなるはずですし,横方向をつなぐ構造が増えるんで,ヒビもはいりにくくなると思いますよ。 これで楽器の下半分は,叩くとやや堅めの音が出るようになったんですが,桁から上の部分はまだボヨンボヨンなまま。 こちらにも補強板を渡すかどうか,思案中です。 |