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赤いヒヨコ月琴(5)

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斗酒庵 太清堂の月琴を直す 之巻赤いヒヨコ月琴(5)


太清堂表板
  閑話休題。

  ふだんは継ぎ目の分からない月琴の面板ですが,クリ-ニングやヤシャ染めで濡らすと,継ぎ目が少し浮き上がって数えやすくなります。

  太清堂月琴の表板は,なんと目視できる限りで12枚継ぎであります!

  裏板では数多く継いでるのもないではない(もっとも,「松音齋」で裏板を9枚継ぎにしてたので驚いたぐらいですが)のですが,表板は比較的品質のいいものを,通常で4~5枚,多くても5~6枚継ぎといったところがまあふつうですね。

  新記録です。

  左から(単位は mm)

15311918.524332734.519535422

  左(低音側)が細かいのが多く,右(高音側)に幅広なのが多い。
  はじめは何か音色的な効果を狙ったものかとも考えたのですが,どうにも違うようです。
  (面板の製作工程は前々回の記事を参照)

  木目を合わせるほうが主で,工作自体にそのほかの作意が感じられません。



  お飾りはまだですが,演奏は可能な状態になっています。
  とりあえずは,こんな音,ってとこをどうそ。

  「"バカ鳴り" 言うてたワリに音が小さいやんけ!」という方もおられましょうが。
  この楽器をマジ音で弾いたら騒音おばさんなみに,ご近所からナニ言われるか知れたもンじゃないので音量かなりおさえ気味に弾いております。ご了承のホドを。


   赤いヒヨコ(太清堂)月琴音源集(MP3)



  最近,spwave というフリーソフトを使って,月琴の音を波形で見てみたりしてます。
  そっち方面の知識がナイんで,見たところで「あ~カタチが違うなあ」くらいのもんなんですが。

  これでちと,バカ鳴りの太清堂と,明清楽の月琴として平均的なサイズとスペックのコウモリ月琴さんの音の波形をちとくらべてみましょか。読み方はわかりませんが面白い,いやあこんなに違うもんなんですねえ(カタチが…)
  上が低音と高音の弾き比べ,右が太清堂,左がコウモリさん。
  下がおのおのの高音部分(約1秒)の波形を引き伸ばしたものです。


コウモリ 太清堂
コウモリ 太清堂


赤いヒヨコ月琴(4)

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斗酒庵 太清堂の月琴を直す 之巻赤いヒヨコ月琴(4)


  赤いヒヨコ月琴,続きです。

  胴体の修理は終わり,軸もそろいました。
  これであとは面板の再塗装と,細かいモロモロの製作です。


STEP7 山口を作る

山口(オリジナル)
  まずは小ッちゃいものその1。

  山口(さんこう)――わたしは「ヤマグチさん」とか「ヤマさん」と呼んでますが。

  ギターで言うところのナットに当たる部品で,これがないと糸を張っても音が出ません。

  この月琴オリジナルの山口さんは,豪華に象牙のカタマリでした。
  かすかなキズがちょこっとあるだけ,ツルンとキレイなもんです――つまり,使われてない新品の状態そのままなんですね。

  ときどきこういうお飾り月琴を骨董で買って使っている人が,買った状態そのままで弾いて,チューニングが合わないとか,すぐ狂うとか言ってますが,よくある原因がコレ。

  ちゃんと使われ,弾かれたことのある月琴の山口には,かならず「糸溝」が切ってあります。

コウモリ月琴山口(オリジナル) 信楽寺月琴山口(オリジナル)

  複弦の間隔やコース間の幅は,弾く人によって微妙な好みがあるので,楽器屋にやってもらうような場合もあったかもしれませんが,ほとんどの場合は購入者が自分で切ったりしていたのではないかと思われます。

  お飾り月琴の場合は飾り物,糸が張ってあればそれでいいので,わざわざキレイな「新品」にキズを付けることもない,というわけですが,演奏するとなるとハナシは別。
  なにせ「同音」の複弦,2本の糸を同時に押さえるんですから,糸は一定の位置に,つねに固定されててくれないと困ります。おさえるたびに糸の位置がズレるんでは弾きにくいし,すぐ音が狂ってしまいます。

  トレモロなんかしようもんなら,も~一発ですね。



  さて,古い月琴の山口さんはだいたいムクの材料で作られてますが,斗酒庵工房のは硬木と象牙のコンパチです。これは工房庵主個人的な伝統で,古例にはありません。

  最初に修理した月琴(1号)は,山口さんがなくなってました。

  当時はまだ明清楽の月琴の実物もあんまり目にした事がなかったので,家にあった中国月琴を参考にしたのですが,その楽器の山口は,黒檀のカタマリにプラスチックの白い板を貼ったものでした。
  現代の中国月琴の弦は鋼線なんで,木だけだと糸溝の端が擦れて広くなってしまう,その防止策としてそうしたものを付けてるんですね。

  まあ,さすがにプラスチックはなかろうということで,ギターに付いていた牛骨を削ってハメこんだんですが,考えてみますれば,明清楽月琴の弦は絹糸。減りは鋼線ほどありません。
  音的にはさして意味もなく,まあやらなくてもイイとは思うんですが…キレイですんでなんとなく。


  オリジナルは象牙細工としてはやや雑な仕事なものの,新品同然なんですから,そのまま使っちゃってもちろんいいわけなんですが。材料が材料だし。これは未来へと残してあげたい――で,今回も工房の伝統を守ります。

山口比較
  左が太清堂オリジナル。

  やたら先端の切り立ったカタチになってますね。
  高さもけっこうあります。

  ほかの月琴に付いていた古い山口さんと比べてみましょう。
  角度の違いがわかりますでしょうか?

新作山口
  このまんま作ったら,糸を貼ったときプツンと切れちゃいそうですが,とりあえずはオリジナルそっくりに削ります。
  木はローズウッド。濃い紫色と象牙の白のコントラストがステキです。


  取り付けます。

  今回の月琴は山口の前で指板が切れて段差になっているタイプ。
  指板のないものや,山口の下まで指板で覆われているタイプに比べると,取り付け位置が分かりやすくていいですね。
  棹と山口両方の取付け面をお湯で軽く濡らしてから,やや濃い目に溶いたニカワでしっかり,確実に接着します。つけたらなるべく動かさない,触らないようにして2日くらい養生させます。いちばん力のかかるところなんで,ちゃんと付いていてくれないと困るのですが,場所柄クランプの類がかけにくいため,時間と大自然サマのチカラを借りることにしています。

  この楽器はここの工作が良かったのでこれでいいのですが,指板の端がちゃんと真っすぐになってなかったり,取付け面が凸凹になっているような場合は,圧着のためゴム輪をかけたりヒモでふんじばったり,けっこうタイヘンなのですよ。



STEP8 表面板の再塗装

  保存状態,ほぼ新品まンまの太清堂月琴。

  表板もキセキといっていいくらいキレイでしたが,お飾りやフレットの痕,ヒビ,虫食いの補修痕など出来ちゃいましたんで,そのまンまというワケにもいかない。また虫食い痕の発見された一次クリーニングから半月以上あいだがあいてしまったので,その間吸い込んだ工房内の垢,ホコリ,油分などを,まずは軽く布にエタノールをつけて拭い取ります。

ヤシャ染め1回目
  カメ琴やウサ琴で消費しちゃったんで,今回使用するヤシャ液は抽出したての新物であります。
  ガラス鍋に砥粉とヤシャ液,少しの水を入れ,沸騰しない程度にまで温めます。
  何にせよ自然系の染料は,ちょっと温めてからの方が染まりがいいですよね。

  まず全体に塗ってから一度乾燥させ,表板の様子を見てから二度目を塗ります。
  もともとの板の染まりぐあいが良かったので,軽く二度で終えました。
  板を濡らすのですから,これはなるべく回数が少ないほうがいい。

  乾燥後,こんどは砥粉を混ぜず,鍋にヤシャ液だけを入れて温めます。
  粉にした研磨剤といっしょに布に付け――

表板磨き(1) 表板磨き(2)

  磨く磨く磨く磨く磨く磨くっ!

  一度に広い範囲をすると色むらができたりするので,5cm 幅ぐらい,少しづつ磨いてゆきます。
  このとき修理した周辺など,色の薄くなったところは,重ねて作業をして,ヤシャ液を余計に染ませることで修正します。

ヒビ再補修
  何度も濡らしたので,左側のヒビの補修痕がちょっと浮いてきちゃいました。
  まあ乾けば元に戻るくらいなんですが,何かイヤなので補修しておきます。

  少し開いたヒビに,筆で薄めたニカワを含ませます。
  表板にあふれたニカワ水をしっかり拭いさりながら,指でヒビ周辺を押して,ニカワをヒビのより深くまで浸透させます。

虫食い痕ゴマカシ中
  あとは例の虫食いの補修痕ですね。

  新しく板で埋めたんで,これはどうしても目立っちゃいます。
  何度も筆でヤシャ液を含ませたんですが,まだちょっと。
  「節かな?」ていどにまでしかゴマカせませんでしたね。ちとザンネン。



STEP9 フレット立て

棹補修
  まずは棹をハメこみます。

  内側からも補修はしてあるんですが,新品同様のクセにここだけユルユルなんで,さらに棹元に和紙を貼り付けて調整しました。

  外弦2本を結んで,軸で巻取り,まずは外弦のポジションを定めます。
  楽器それぞれのネックの形状や工作,また弾き手の好みにより微妙に違ってきますが,弦間はだいたい 16~17mm ほどです。

  位置が決まったら糸溝を切ります。
  最初にまず,象牙のあたりだけ浅く切っておいてから,糸が山口にどこまで触れてるかを確認して,それよりちょっとだけ長めに切ります。これをちゃんとしておかないと,微妙なビビリやノイズが出ることがあります。

外弦張り終え
  糸をさらにしめあげてC/Gに調弦。

  さあ,音を出してみましょう。

  もしかするとこの月琴,「楽器として」鳴らされるのはこれがはじめてなのかもしれませんね。
  ちょっと感動です。

  音量はかなり大きく,どちらかというと男性的なクッキリとした音色です。
  胴体が大きめなことと,例の内部構造の効果でしょうか。まだ単弦でしかないのに,複弦で弾いているような重なった余韻があります。

  お飾り月琴は外見は良くてもぜんぜん鳴らないことがあります。

  でも太清堂,ちょっと鳴りすぎるくらいです。

  これだけメリハリの利いた音だと,弾き間違ったときとか,ほにゃほにゃッと弾いてゴマカすことができない,というのが欠点になるかどうか(笑)分かりませんが,楽器としてはとりあえず十二分に合格ですね!

フレット(オリジナル)
  オリジナルのフレットは象牙でしたが,工作も悪いし,何より演奏用にはもったいない。
  月琴でいちばん使われているで作り直します。

  コウモリ月琴さん以来,工作次第でかなり良いものができることが分かったので,竹製のフレットを付けることが多くなりました。
  従来やっていた黒檀・紫檀と象牙のツーピースにも利点はあるのですが,工作が複雑になることと,材料の入手が竹より難しいので,とれたり壊れてしまったとき容易に替えがきかない,再作成に技術が必要という欠点があります。

  竹なら手に入りやすいですし,応急の代替品くらいのものならシロウトさんでも作れましょう。

フレット仮付け中
  もっとも斗酒庵工房純正品は,ちくと手間かけてますがね。

  ¥100屋で買った竹のフェンスをバラしたやつを削り,途中まで整形しては,位置を決め,高さを調整しながらたててゆきます。位置・高さが決まったものから,両面を削って三角形の断面にし,軽く磨いておきます。
  加工がラクなので8本すべてそろうのに,3時間くらいしかかかりません。


  山口がやや高めなためか,フレットが高いですね。
  最高音第8フレットでも8mm 近くあります。

  コウモリさんなども最初はこのくらいでした。
  フレットが高いと単音で弾いた時の音はキレイなんですが,トレモロのとき糸がアバれやすくなったり,高音域が出しにくいなど操作性がやや悪くなるので,あとで絃高を下げるなどの調整をしましました。
  調整後の第8フレットの高さは6mm くらい。

フレット夜叉煮中
  とりあえずはオリジナルに近いサイズで作っておきます
  弾きぐあいが悪いような対処しましょう。

  8本そろったフレットは,油抜きがてらヤシャ液で煮て少し色をつけ,乾燥後何度か磨きをかけて,ラックニスで仕上げます。

  この加工・整形後の工程があるんで,けっきょく時間的には檀木のツーピースよりかかってしまうんですね。


赤いヒヨコ月琴(3)

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斗酒庵 太清堂の月琴を直す 之巻赤いヒヨコ月琴(3)


  このところ自作楽器やら四方山やらで,エラく放置してしまいました。
  さて本筋の「修理報告」であります。


STEP4 裏板再接着

前回まで
  懸案の表板の補強は,けっきょくそのまま。棹側の空間に補強板は入れないことにしました。

  強度的にはやや不安が残りますが,現在半分がた面板から浮いてしまってる内桁をしっかり再接着すれば,先の補強とあわせて問題ないでしょう。


裏板(1) 裏板(2)

  さて,ハガした裏板の手入れにかかります。

  はがすときにほぼ真ん中からパックリ二つに割れてしまったのですが,それも当然で,板の中央あたりまで,細長~く虫が食ってスカスカになってしまっていました。ありがたいことに(?)真面目な虫で,わき道もほとんどつくらず,継ぎ目にそってほぼまっすぐ食ってますね。

裏板(3) 裏板(4)

  まず縦に走る長い虫食い痕は,表板を皮一枚残して埋めやすいように整形。

  板を継ぐ時ついでに,過去の修理で出た古い桐板を細長く刻んで,虫食いに反って埋め木をしておきます。
  地の側板に接着されてたあたりも,迷路みたいに複雑に食いまわされてますのでパテで埋めておきましょう。

  ヒビのすぐそばに大切な「太清堂」のラベルがあるので,ちょっと慎重に作業します。


裏板(5)
おまけ 月琴面板の工程について

  さて,これ(←)が裏板の内側の状態。

  緑は虫食い痕ですが,ピンクは製材の時についた痕,そのままになってます。

  板に対して水平方向に,細い三角形のミゾがいくつもついてますよね。

  ほかの月琴の板でも良く見るキズで,時としてミゾの中に竹釘の断片が残っていることがあります。
  最初は古箪笥か何かをバラして板を作ったために,使われていた竹釘がそのまま残ったのだろう,とか考えていたんですが――これはどうやら桐板そのものを作る工程と関係あるようですね。

  わたしはずっと,この楽器の表裏板は桐箱やそれこそ桐箪笥の職人さんとかから,ちょうどいい薄板を分けてもらって,それを継いで使ってるじゃないかと考えていましたが,どうやら昔の月琴職人さんたちは思いのほかマメなようで,この2~5mmほどの薄い板も,はじめから月琴のサイズに合わせて自分たちで作っていたようです。

裏板(6)
  現在推測される工程は図(←)のようなもの,ピンク色に塗ってあるほうが木口ですね。

 1) まずは桐の厚い板か角材を買ってきて,接着する面を平らにします。

 2) 次にこれを重ねます。接着面にはニカワを塗って,竹クギか竹のクサビのようなものを等間隔にうちこんで固定します。

 3) そして重しをかけたか縄でふン縛ったか,なにか巨大なハタガネのような道具を使ったか…そのへんのところは定かではありませんが,とにかく圧をかけて大きな四角い集成材を作り,これを大ノコで挽く。

  竹釘が埋め込まれているところで,ちょうどノコギリが釘を真っ二つに切るように正確に挽かなきゃならないはずですから,集成材にはなんらかの目印などついていたと思われます。

  おそらくこんなところではなかったかと思われます。

  この月琴の板の加工なんかもそうですが,時おり右端と左端で厚みがエラく違っていたり,竹釘が表面にちょっとだけ顔をのぞかせてたりすることなんかがあるのも,そうした自家製の板だとしたならうなづけますね。



裏板(7)
  おっとっと。ハナシが逸れた。
  修理に戻りましょう。

  一枚の板にもどった裏板は,まず虫食い痕の補修箇所を整形し,上に書いたようなノコ痕などのヒドイものもパテで埋めてしまいます。次に,もうヒビたり割れたりしないよう,補強材を貼り付けます。

  表板では躊躇しましたが,裏板は音にそれほど影響がないので,とにかく丈夫にしときましょう。

  ヒノキの薄板を削り,板の水平方向に上下2本,ニカワで貼り付けます。

裏板(8)
  楽器にへっついたままの状態で作業しなきゃならなかった表板と違って,こっちはただの板の状態なので作業はラク。

  自作楽器の指板用に切り出した黒檀やらタガヤサンの板を縦横に渡して,クランプで固定します。


裏板(9)
  そのまま二三日置いて,確実に接着させます。
  補強板の入るのはなにせ楽器の内側なんで,あとでポロ,とか取れてしまうと始末に困ります。

  左右のはみだした部分を切り取り,胴体の内側にキッチリはまるように整形して裏板の補修はできあがり。

  補修の終わった裏板は,無事,再び胴体に接着されました。

  まずはめでたしめでたし。



STEP5 表板のクリーニング

  さあ,楽器の胴体がふたたび箱の状態にもどりました。

  今回の修理では,棹や側板の塗装作業がないので,胴体ができあがれば,こっから先はもう仕上げみたいなもんですね――。

表板虫食い(1)
  もっとも,棹や側板は軽くクリーニングしてあげればいいくらいですが,板はそうはいきません。
  汚れは薄いものの,お飾りをへっぱがしたときのキズもあるし割レありヒビあり虫食いありで,補修痕がいろいろ…ヤシャブシ染めの再塗装の前にまずはキレイにしときましょう。

  いつものように#240の耐水ペーパーでエタノールをたらしながらコスコスコス…おや?
  半月の斜め上,絃停の貼ってあったとこのすぐ横あたりに,濡らすとみょーに色が濃くなる場所があります。
  よくみると板が,薄皮一枚…ペラペラ,ちょっとツツいたら穴が…。

  うぎゃ~っ!!虫食いですぅ!


表板虫食い(2) 表板虫食い(3)

  板の裏にまで貫通してなかったんで気がつかなかったんですね。
  ほじくってみるとけっこう大きい。長さ5cm 幅3~4mm くらいでしょうか。
  トンネルみたい…もののみごとに板の厚みの真ん中だけを食い荒らしてますね。

  薄皮だけになってる部分と中のモロモロを除去し,軽く整形してから桐の板を削って埋め木で補修。
  場所が場所なんで,ちょっと目立っちゃうかなあ。
  でも大きいし,皮一枚なんで,場所も場所なんでそのままにしとくわけにもいきませんでした。
  演奏中にピックがボディにズボッ!なんてのは笑えませんからね。



STEP6 指板磨き・軸作り

  へんなお飾りに隠れてましたが,この月琴の指板はおそらく本紫檀。

指板磨き
  いい材ですね。

  表面の汚れをエタノで拭い取り,軽くラックニスで磨いて,乾燥後仕上げに研磨剤で布磨き。
  キョーアクなくらいピカピカ。ラックニスで木目が浮き上がってキレイです。

  これなら指板上にはお飾りつけないで,このままのほうがいいなあ。
  せっかくの木目がもったいない。


  お次は一本折れてしまっている軸を作ります。

  オリジナルと同じに黒檀を削る根性と資金がないので,材料はいつものチーク。
  やや長めのスマートな形に削って,各面に三本線を彫り込みます。

  もっとも,このまんまじゃさすがに色が…でわでわ,塗ってゴマかしましょう!
  材質・強度的には問題ありませんし,自称・胡麻河岸魔王の庵主――ちょっと目には分かりませんて?

  さあて,右の写真は4本そろった軸を写したもの。どれが新作でしょう?

軸新作(1) 軸新作(2)


彼氏月琴(1)

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斗酒庵 彼氏月琴怒りの修理! の巻(1)彼氏月琴(1)

彼氏月琴・全形
  今回の月琴は某SNSサイトでマイミクの(隠してない!)法悦系パフォーマー,語り部のミウさんよりの依頼,どのようなご縁の楽器なのかはミウさんのサイト(こちら)にてご覧ください。
  ちなみにミウさんはうちのウサ琴試作機のモニターさん(モルモット?)もやってくれとります。

  大事な彼氏を預かったもんで責任重大ですが,まずこれだけは最初に声を大にして言っておきたい。ア,ソレ――

  これを「修理」とホザく奴,地獄へ落ちろ!!


――ああ,すっきりした。

  依頼主によれば,購入の際,骨董屋が知り合いに頼んで「直して」もらったそうだが,これがヒドい…こんなヒドいものは初めて見た。楽器の状態?…いや,それにも増してその「修理」がヒドいっ!!

  この楽器が骨董屋の店先に並ぶ以前,すでに壊れていたことは間違いない。
  さらに最初に「修理」しようとしたものが,シロウトさんだったことも確かだろう。シロウトさんにとって木モノの「修理」といえば「クギ」である。はたしてハガれた板といわず,割れた糸倉といわず,めったやたらと鉄クギが打ちこまれたようだ。
  ただ打ち込まれている釘は細く一定の大きさの新品で,2号やコウモリさんに打ち込まれていたような,サイズも材質もバラバラの,土蔵の床に転がっていたような錆びクギとかじゃないところはエラい(…かぁ?)。

彼氏月琴・全形(裏)
  次の修理者は骨董屋によれば,家具か何かしらないものの,いちおうは木工の「修理」の経験やらあるヒトらしい――にしても最低の腕前だ。「楽器の修理」に慣れてないとか,そんなことやったことがナイとかいうことがあったとして,その分さッぴいても,野ツボ一杯分くらいのおつりが来る。
  もとの破損状態というのも,たしかにかなりヒドいものだったようだが,さらにこのヒトが「修理」さえしないでいてくれたら,庵主の苦労は100分の1もなかったろう。



「彼氏月琴」採寸

全長: 618mm

胴体:径 347mm 厚 38mm
  (うち表面板/裏面板ともに3.5~4mm)

棹:長 273mm
 (蓮頭をのぞく・うち糸倉 150mm/
  指板部分(山口-基部)130mm )

有効絃長(山口-半月) 406mm

蓮頭(表) 蓮頭(裏)
  備考

棹・胴体:ともに材はサクラと思われる。
蓮頭:残。オリジナル。損傷ナシ。意匠は4号,コウモリ月琴などと同じ(宝珠?)。

軸:長 125mm 最大径 30mm 先端径 6.5mm。4本ともに残。おそらくオリジナル。使用痕あり。

山口(ナット):残。おそらくオリジナル。カリン?使用痕,擦りキズあり。現糸溝は依頼主か?。

軸
指板:本タガヤサン。厚 0.6mm ほど。

(フレット):7本残。竹製,表皮側に塗り。おそらくオリジナルだと思われるが高さの変化が少ないなど,ややギモン点もあり。第4フレット欠,現在付いているものはミウさんが工房見学の折,庵主が応急処置で製作したもの。

絃停:110×80,ニシキヘビの皮。劣化,損傷ヒドし。右下に木工ボンドかセメダインと思われる補修痕。




  主な破損箇所は以下――


糸倉に割レ:左三箇所,右1~2箇所。4~5つの欠片に分かれる。
  1)クギによる修理痕。 2)左右一番下の軸穴を中心に二枚づつ薄板埋め込み。
  3)表裏に木工パテ
最下軸穴:糸倉の割レにより破損。
  1)木工パテによる補修。 2)内面保護(?)のため和紙を貼る。

表裏面板:表左に上下貫く割レ,右下にヒビ。汚れヒドし。
  1)周囲ぐるりと中央部(おそらく桁上)数箇所にクギ痕。木工パテで埋める。
  2)木工ボンドによる割れ・ハガレの補修痕。

半月:修理により歪んで取り付けられている。
  1)面板から周縁浮き,ほとんどハガれかけている。
  2)左右と中央下部に釘。左右のものはクギは残らず穴のみ。

側板:
  1)天の側板,棹ホゾ上左右に割レ。真ん中でさらに二つに割れている模様。補修接着済み。棹取り付けややユルし。
  2)左肩接合部凸凹継ぎのスキマをヒノキ薄板で埋める。左下接合部に割レ(補修済み)
  3)各接合部スキマに透明な物質充填。ニカワにあらず。おそらく木工ボンドならん

左右目摂:右一箇所損傷,左損傷激しく1/4程度が欠損。
扇飾り:欠落。

  ほかにも木工ボンドで適当に接着したような箇所がたくさんあったのだけれど,怒りにまかせてひっぱがしたところが多いもンだから,今回は記録もちゃんととってない。


  もっともサイテーなことは。


  最初の修理者が打ちまくった釘のアタマを,(おそらく前修理者が)切り取りまくってくれやがったことであるッ(超怒)!

  表板などに点々と見える,釘穴かくしのパテ埋め痕の大きさから見ると,明らかに以前はここにクギのアタマが突き出ていたことは間違いない。クギのアタマが残っていれば,引っこ抜いて「修理」が出来るのだが,これを切られてしまっては容易に抜くことができない。
  一部だけ,とかいうならばそれも何とかなるのだが,打たれたクギほぼことごとくであるから始末が悪い。
側板
  まして今回の楽器の側板などは,とくに薄くて最大のところでも8mmあるかどうかなので,1本1本ほじくって抜くわけにもいかない。そんなことしたら「修理」の前に楽器がバラバラになってしまう。
  コンバトラーVが合体できるぐらいの,超強力な超電磁石でもあるならハナシはべつだが…いまのこの楽器の状態とわたしの腕前では,抜きたくても抜けない。このままの状態で修理するほかがないのである。

  楽器というものはもともと壊れやすい構造物である。
  たとえ歩き出したばかりの赤ん坊でも,ストラディヴァリウスを完全破壊することぐらいは可能だろう。
  楽器は家でも家具でも食器でもなく,「音」を出すための器である。
  見えないかすかな音のために,ギセイにしている箇所は多い。

  しかしたいていの楽器は,壊れても適切に修理することによって何度でも蘇り,百年,二百年と生きながらえる。では修理が「適切」じゃない場合は,どうなるのか?――永遠のはずの生命に「寿命」がデキるのである。

  月琴はヴァイオリンほど繊細な構造はしていない。
  またよほどカコクな環境にさらされ続けない限り,一年二年でどうにかなるということはないだろうが,十年,二十年――あたかもかつて少女を守ろうとして爆発にまきこまれ,その時の破片が身体中に残っていて,いつそれが心臓に突き刺さって終わるかもしれない,というドラマの元従軍記者のように(長っ!)――いづれ内部に埋め込まれたこのクギがサビ,膨張して木部を破壊するだろう。


半月
  もともと部品の欠落が少なかったことと,骨董屋の外見的な「修理」によって,一見遠目にはマトモそうに見えるのですが,近くば寄って目にもみると,はっきり言ってその実は「修理不能」に限りなく近い状態にあります。楽器のシアワセを考えるなら,もうこのままただのオブジェにして有限の余生を穏やかに過ごしてもらうか,いっそゴミとして燃やして昇天させてしまったほうがいいのかもしれません。

  しかしながら楽器は出会い,楽器は縁――たとえ死にかけの楽器でも,依頼主が「彼と生きてゆきたい」と言っている。多少見栄えは悪くなっても「この楽器を弾きたい」と願ってます。

  本来,古楽器の修理は原状回復。オリジナル部分はなるべくイジらないようにする,というのをムネとしますが,これではそうも言っていられません。
  修理はしましょう。しかし修理不能状態のものを,「演奏可能」なところにまでもってゆくのですから,そうとうなオキテ破りは覚悟しなければなりません。
  しかし,どのように直しても,今回の楽器は「寿命つき」でしか蘇らない――それはわたしにとってはいちばんツラく,カナしいことです。

  今回の作業は「修理」の本筋からはハズれた,かなりキビしいものになるでしょう。



STEP1 糸倉の修理

糸倉(修理前)
  まずは糸倉のアップ。
  これが前修理者の仕業である。わたしにとっては怪奇心霊写真よりもオソロしい絵だ。

  上にも触れたように,糸倉は一番下の軸穴を中心に,4~5つに割れてしまっている。
  細釘を縦横に打つことで継ごうとしたのは最初の修理者だと思うが,これはまったく効果がなかったろう。糸倉,とくに軸穴周辺は力のかかるところだから,クギで継いだ程度では軸を挿しただけで割れ目が開いてしまう。

  次の修理者はこれらのクギそのままに(2~3本は抜いてみたかもしれない,クギがなく,ほじったような穴の痕があった),まずは前修理者の「修理」によるキズ痕を,家庭用の木工パテで埋め込んで誤魔化したものである。

糸倉(側面)
  つぎに側部に二本づつ溝を彫り,ヒノキかなにかの薄板をはめこんで接着。
  埋め込まれた板は白いので,仕上げに「目立たないように」(イヤ,近くで見ると相当メダってますが!)おそらく水性の赤サインペンで塗ったくってある――ナンテコッタ…orz.......。

  割れ目に対し垂直方向に板を埋めて上下を継ごう,という考えだったようだが,現実にはまあ糸倉がバラバラになるのをかろうじて止めている,といった程度である。
  もしこの方法をとるならば,せめて板の左右中央を刻んで「チギリ」のようにしたほうが,まだ効果があっただろう。さらにこの板は左右の表側にしか埋め込まれていない。「ヒビ」の補修ならばそれでもアリとは思うが,パックリ完全に割れているので,しっかり確実に継ぐなら同じものを内側にも(角度をやや変えて)埋め込む必要がある――もっとも,この糸倉の「内側」の適当な場所に溝を彫りこむ,なんて作業はエラくタイヘンだろう。

  割レのいくつかは一番下の軸穴を貫き,二番目の穴にもわずかにかかっている。
  前修理者はこの軸穴の補修にも木工パテを使用。ガタガタになった穴の内部をパテで○っぽく整形。
  パテはごくモロいので軸を挿すと割れたり砕けたりする。
  で,ここに和紙を貼り付けた。
――それもまあなんという工作か…余った紙は同じく赤サインペンで塗ったくったようだ。

  このヒト,よほど赤サインペンがお好きらしい,

  割れ自体が木目に沿った自然なものであったことと,接着に木工ボンドの類が用いられていなかったことが,なんとか不幸中の最悪を免れたところかと。


  今回の作業は,まずここからはじめます。
  この修理報告で何度も書いているとおり,「弦楽器にとって,糸倉はイノチ。ここがやられると楽器はたいていもうダメです。」てか,この状態…これはふつうに考えれば,もう完全に死んでます!棹ごと新しいものに取り替えてしまった方がイイかもしれない。

  そいでも修理するのだ。

  まずはゴテゴテと塗ったくられた木工パテごと,糸倉部分の塗装をハガします。

  木工パテのほとんどは表面に「なすりつけた」程度の仕事で,ちょっとペーパーでこすると,ぜんぜん埋まっていない暗黒の穴やらミゾやらが顔をのぞかせましたので,いつも使っている木粉ベースの新素材パテにて,こんどは完全に充填します。

糸倉修理(1 側面から)
  上にも書いたとおり,割レは実質ぜんぜん継がれてないんで,この作業中に早くも一度バラバラになりましたよ(脱力~)。

  割れ目部分をキレイにしてから,あらためてニカワを塗り,接着。
  いつものように,細い竹釘にニカワを塗ったのをピンバイスで穴をあけては打ち込む。竹釘はなるべく多いほどいいのだが,最初の修理者がすでにこれでもかというくらい鉄クギを打ち込みまくっているので,場所があまりない。それでも4~5本は打ったか。
  報告内で前にも言ったように,この竹釘は鉄クギとは意味合いが違ったもので,割れ目に対して垂直方向に丈夫な繊維を通すのが目的。釘自体の強度はそれほど必要ないが,ピンバイスであけた穴のなるべく深く,できれば底まできちんと押し込むのが肝心である。

  おまけに糸倉の内側にニカワで薄い和紙を二枚,目が交差するように貼り付けておきます。

  次に側部のぐるりにヤスリで浅く溝を彫り込み,籐を巻きます。
  今回,籐はガラス質の表皮を剥いて,なるべく細く,薄く削りました。
  巻いた上から焼きゴテをあてて平らにします。

糸倉修理(2 上面から)

  一番下の軸穴ははじめにも書いたとおり,穴自体が欠けてガタガタになったところを,木工パテでいちおう「丸く」なるように補填してあります。
  力のかかるところですから,はじめからその程度の工作で済むようなものではありませんし,上に貼った和紙は補強にも問題にもなりません(邪魔にはなった)。

  ここは木片をハメこんで埋めてしまってから,あらためて開けなおします。

  本来は,補填されている木工パテをすべてこそいでしまってから,同材(たぶんサクラ)の木片を,ガタガタになった穴のそのカタチに削り,埋め込む,というのがスジなんですが,細かな凸凹にまで入り込んでしまっているので,マトモにやるとなりタイヘンです。
糸倉(修理中3)
  そこでパテを削り取りがてら,一度穴をやや大きめにエグってから,その内側を割レへの影響が少ない柔らかめの材で埋めることにします。ちょうど以前,阮咸さんの製作時に失敗した軸がありました。柔らかいシナか白楊なのでこの作業にはちょうどいいでしょう。

  あけなおした穴。
  内側に薄い木のチューブを埋め込んだようなものです。
  埋め木の材質自体は弱いものですが,焼き鉄棒で内側を焦がし,ラックニスを染みこませるなどするとかなり強化されます。


糸倉(修理中4)
  んで,上からこってりとカシューで塗りこめてしまいます。

  オリジナルはしっとりとした刷り漆っぽい仕上げだったのでザンネンなのですが,この糸倉の割れ目と根元のところにも,アタマを切られた細クギが何本も埋め込まれたままです。補修部分の保護・強化のためと,少しでも楽器を長持ちさせるためには,湿気の影響を少なくする必要もあるので,あえてオリジナルと異なるツルツル塗装にします。

工尺譜の読み方

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工尺譜の読み解き方(1)工尺譜の読み解き方(1)

  ずっとギモンに思っていたようなことが,ある日,ふとした拍子に,何かキッカケがあったわけでなく解けてしまうことがある。

  文字譜である工尺譜の音階を表にすると,

11111112222222
仩伬仜

(伍)

  となります。

※ 本によって「一」がなかったり,G2,A2あたりが違ってたりします。


  月琴は最低音が上(C)なので,合・六(G/G1)四・五(A/A1)はともにG1,A1で弾く。
  つまり楽譜上どっちの記号が書いてあっても出す音は同じ。じゃあ月琴の譜面では,この「合・六」「四・五」は,どっちかに統一されててもいいんじゃない?――と思うんですが,実際には混じって使われています。

久聞歌(『明清楽之栞』より)
  ちょっと「久聞歌」という曲の工尺譜を見てましょうね。
  ――ほら,アタマから「五上尺」てのがあるかと思うと「合合四」もある。

  月琴の譜面は,実際にはほかの楽器との合奏も考えて書かれている――というのは以前から分かってたのだけれど,上の青字,赤字のあたりの読み解きかたがイマイチ納得がゆかないまま,はずかしながら今日まできてましたのよ。

  まずこれを月琴で弾いてみましょう。 ♪ コチラ

  さっきも言ったとおり「合・六」「四・五」は同じ音で弾いてますね。
  さて,ではここに,月琴よりも音域のある,ほかの楽器を合わせるとします。たとえば阮咸。
  明清楽の阮咸は調弦がG/C1。月琴では「六」・「五」と同じになってた低音,「合」(G)「四」(A)がふつうに出せます。

  だもので実際にこれを「譜面どおり」の音階で,演奏してみると―― ♪ コチラ

――となってしまいます。何かヘンですね…特に赤字の部分が。
  GGA C2AC2 ではオクターブがあがりすぎてバランスが悪く,これで合奏させてみてもうまく合いません。

  ここでふと,気がついたんですね。
  「合・六」「四・五」が混在してる理由と,その法則に。

  月琴より音域の広い楽器を用いて工尺譜を合奏譜として読む時,「六・五」の後の高音はそのまま,わざわざ低い方の音の記号で書いてある「合・四」の後,あるいは間の高音は,「合・四」に合わせて1オクターブ下げて読むのでわなかろうか。

  つまり「五仩六―」は譜面どおり A1C2G1 で弾くが,月琴にはない低音の「合」「四」に囲まれてる「合―合四,仩―四仩の部分では GGA C2AC2 じゃなく高音をあらわす記号である「イ」を無視して GGA C1AC1 と読み解いて弾くわけですね。

  じゃあその手で,演奏したのを聞いてみましょう。 ♪ コチラ

  つぎにこれを合奏させてみる,と。 ♪ コチラ

  うむ,これなら違和感ありませんね。

  分かってみればなぁんだという,カンタンなことなんですが。   明清楽の独習本は音階までは書いてあるくせに,このへんのことをイガイと書いといてくれていない。
  なんせ教えてくれる人もいないもんで,本が頼り。このくらいの基礎のことさえ,なかなか分かりませんでした――独学のカナシサであります。


月琴の弾き方(1)

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斗酒庵流 明清楽月琴演奏法月琴の弾き方(1)

  「月琴の弾き方」つーても,明清楽の月琴のハナシですんで。
  現在主流の中国月琴の方々には役立ちません…あしからず。
  本拠HPのほうにも書いてあるんですが,こちらにも書いときましょう。

  なんせブログの方が写真いっぱい載せれるんで,解説がラク。



STEP1 月琴の持ち方
持ち方
  まず持ち方ですが,明清楽の月琴は中国月琴よりも立てて弾きます。

  棹は持たず握らず――親指の腹のあたりを背面に当てている程度。
  あとは胴体が胸にちょっと当たってるのと,膝の上にのっかってるだけ。支点三箇所ってとこで,とくに身体に密着させるようなことはしてません。
  軽い楽器ですので,慣れれば親指一本でバランスをとり,かなり自由に動かせるようになりますよ。

弦のおさえかた
  つぎに弦をおさえてみましょう。

  通常,指は「フレットの上」ではなく,フレットとフレットのちょうど真ん中あたりをおさえます。

  ただ,高音域で早弾するときや,トレモロを主体とした演奏のさいには,こころもちフレットに近いあたりをおさえた方が弾きやすいですね。

  複弦楽器ですんで,2本いっしょにおさえます。

  柔らかな絹弦ですし,フレット高もあるんでおさえるのに力はいりませんが,ほぼ糸の真上から,そのまま指をおろしたような感じで。指の腹のところに2本の糸の間が気持ち喰い込んだかなあ,てトコロがベスト。

  力を入れすぎると糸が沈んで音程が上がってしまいますし,斜めから指を下ろしたりすると糸がズレて,やっぱり正確な音が出せません。

 ※ もっとも,逆にそれを利用するコトもできるワケですね――ハンマリング,プリングオフ,チョーキングなど,ギターのテクはだいたい応用できます。




STEP2 ピッキング
ピックの持ち方
  ――といってもドロボウの仕方でわない。

  で,これが良く聞かれるピックの持ち方。
  基本は影絵の「キツネ」さんです。

  まずは指でキツネさんを作って,その「お口」(中指と親指)に,ピックの先端の方をくわえさせます。
  次に「お耳」(人差し指)の付け根のあたりにピックのお尻をつけます。


  そのまま,親指だけをピックの真ん中あたりまでちょっとズラして,ぐっと押さえる――とまあ,コトバよりも写真で見てもらったほうが早いかな?


  ピックを持つ手は,ギターのように手の平を胴体に向けるのではなく,楽器の下部,半月のあたりに置いて棹のほうを向け,下から弦をすくいあげるような形にします。

  もっとも,ピンカラ弾きの場合は,ギターのようなスタイルでふつうにはじいて弾いても構いません。
  トレモロ演奏のときがちょっと難しい。

  わたしは写真のように小指,もしくは手を半月の上に置いて固定してしまいます。

  マンドリンとかのトレモロ演奏と違って,ピッキングには手首は使わず,先ほどの三本の指(親指・人差し指・中指)だけを動かして,糸のごく表面をタッチアンドゴー。擦るように弾きます。
  2コースしかないですし,ピックも長いので,手首の動きがなくてもじゅうぶんに糸を捉えられるんですね。

ピックの持ち方(2) ピックの持ち方(3)

  今残っている月琴演奏の音源などを聞くと,わたしが言うところの「ピンカラ弾き」,つまりは三味線のお稽古のように,単音でチントンシャンと弾くのが主流のようで,トレモロによる装飾も少なく,あっても曲の最後で「おまけ」のように付けられるていど。それもタララララ…でなくツタタタタと「音を揺らす」というより,ただ数多く連続して弦をはじく,というような演奏がされてます。
  わたしは基本的には「その楽器が出来るコト」なら,伝統技法に関係なく何でもするつもりでいまして,演奏スタイルはトレモロ主体,三線のように低音絃をからませて弾きますし,二弦でできるていどのかんたんなコードも押えます。伝統的な奏法には無いことかもしれませんが,まあ独学ですんで――めざせ!月琴でジミヘン!!!



   最近の演奏(MP3 PLAYIN' BY カメ琴)


斗酒庵流 月琴ピック製作記(2)

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斗酒庵流 月琴ピック製作記(2)月琴ピックの作り方

  月琴をはじめたころは,この楽器を演奏するのにどんなピックが使われていたのかなんて全然分からなかったもので。
改造サムピック
  とりあえず,いちばん最初は中国屋楽器店さんで中国月琴のピック(前記事参照)を買って使っていました。が,この中国製ピック,薄くペラペラなのと,材質のせいか滑りやすく,とくに細かいトレモロ演奏とかしてると,よくスッポンと指から逃げてしまいます。
  そんで次には,左(←)のようなものを使っておりました。

  これはギターのサムピック(親指にはめて使う指輪形のピック)をお湯でゆでて,延ばしたもの。
  やや短いことをのぞけば,厚みもそこそこあってつまみやすく,弾力やカタチなども悪くはありませんでした。

  まあでもニンゲンの欲というものは際限のないもので。
  弾きこんでいるうちにもっと「本物」っぽいもんが欲しくなってきます――とはいえ,本物の「明清楽月琴用のピック」なんてものがどこぞに売ってるわけもありません。

  じゃ作っちゃえ~~~っ!!!

――てのは貧乏なればこそ多能なる,庵主いつもの思考パターン。

  さてやがて,資料が集まり実物も何度か目にして,「明清楽月琴のピック」というもののサイズやらカタチも分ってきましたが,次に立ちはだかってきたのが「材料」というカベであります。

  …なんせ前の記事で書いたとおり,「象牙や水牛の角,ベッコウ」ですからね。

  二つは高価なうえ,ものの見事にワシントン条約に引っかかり,のこり一つは比較的安価で簡単に手に入るのだけれど,ものごつカタくて当時持っていた工具では削ることもできなんだ。
  もちろんカタチだけ真似して,アクリルやプラスチックの板で作るとか,竹を削るなんてこともやってみたんですが,どれも感触がイマイチでありました。

  そんな試行錯誤のある日,ふと「牛の骨」を使うことを思いつきまして。
  牛骨ならギターのナットなんかにも使ってるくらいですから,材質や加工性も問題ないでしょうし,そこらのペットショップで売ってるはず。

  さあいざ,ペットショップへ!!

――と,意気込んで行きましたら,ちょうどその時分,BSE問題真っ盛りのころでして,「牛の骨」なんてどこにも置いてありません(^_^;)。

  「てやんで~!おイヌ様が骨食っておかしくなるんなら,狂牛病じゃなくって狂犬病だァ!」

  なんて,やさぐれながら店内を見渡した時,ふと目に付いたのがこの素材。
牛のヒヅメ
  ワンちゃんのおやつ「牛のヒヅメ」¥200。

  骨はダメでもツメは良いものらしいですね。
  モノは験しと一つ二つ買って帰り,削ってみますと,これがイイ!
  何せモトが「ツメ」ですからね,弦を弾く感触が指先で爪弾くときのそれに非常に近い。象牙やベッコウにくらべるとやや柔らかですが,絹の三味線弦程度ではそんなに削れません。

  以来,斗酒庵工房製,月琴ピックの素材は,ほぼこれ一筋でやっております。
  まあ「月琴のピックをイチから作ろう」という人も,そうはおりますまいが,同じ材料と工程で,ギターやウクレレのピックも作れますのでとりあえずはご覧を。

  さて,お待たせしました。では斗酒庵流ピックの作り方を紹介紹介~。


○ 「牛のヒヅメ」は大手のペット・ショップなどで売っています。骨型クッキーとかガムとかのコーナーに,一緒に置いてあることが多いですね。通販などでも手に入りますが,もとが生物。カタチや厚さが一つ一つ違ってますんで,実際に手にとって加工しやすそうなのを選んだほうがいいでしょう。
○ 乾燥させただけのタイプのほか「燻製」にしたのもあります。ピックにするならもちろん,生に近い乾燥タイプのほうを買ってくださいね。



STEP1 切り分ける

  まず,牛のヒヅメは一晩ほど水に漬けておきます。乾燥した状態ではかなりカタく,そのままでは切るのも手ごわいモノですが,水に浸すと糸ノコなどでサクサクと切れるようになります。
切り分け
  切り分け方は左のとおり,月琴のピックには真ん中のヒヅメの「底」の部分を使います。
  左の横っ面の部分は,ギターやマンドリンのピックなど作るのに良いでしょう。
  右の内側部分は薄かったり小さかったりでまず使えませんが,マンドリンのピックくらいなら作れそうですよ。

  切り終わったら,周縁のでっぱりやもろもろとした弱そうな部分は,小刀でちょちょッと削っておきましょう。


○ 底の部分は筋が縦に長く通っており,加工後の反りや曲がりも少ないので,比較的長いもの大きいものが作れます。ただし厚いので,ピックの厚さにまで削るのがタイヘン。また側面にくらべるとちょっとだけ柔らかいかな?

○ 横の部分は底よりは薄くて加工しやすいのですが,筋が斜めに入っているので,作れるピックの大きさに制限があります。ギターのピック程度の大きさでは,どの方向に筋が向いていてもさほど問題ありませんが,月琴のピックを作るとなると,筋の向きによっては後々大きく変形してしまうことがありますので,あまり長モノには向きません。


STEP2 ヤキを入れる
焼き入れ
  初めの頃は,切り分けた牛のヒヅメをそのまま削ってカタチにしていたんですが,いちおう板になってるとはいえ,けっこう歪んでるし凸凹も多くて意外と工作がしにくい。
  これをどうにかして,もうすこし平らかにしようと思ったのがこの工程のはじまりでして。

  また,牛のヒヅメは生の状態だと湿気や温度に弱くて,ちょっと長い時間演奏していると,体温や手の湿り気で,すぐに変形してしまってましたが,この作業をすると,生のときより温度湿度に強くなり,変形が小さいし,材がぎゅっと焼き締まって堅くなるので,弾きごこちもより良くなります。

  まずは鉄板にはさんで,¥100屋のクランプでぎゅうっとしめつけます。

  鉄板には軽く油を塗っておくと,焦げたヒヅメがひっつかないのでいいですよ。わたしは工作に使う荏油とか亜麻仁油を使ってますが,燃えあがっちゃうようなものでなければ,ゴマ油やサラダ油,何でも良いでしょう。
焼き入れ(2)ひっくりかえす
  底の部分は比較的平らかなので,それほど大変なことはありませんが,側面部分は弓なりに曲がっているので,クランプであっちこっちと締めながら,均等に平らかになるようにします。
  あまり力任せで一気にやると,平らになる前にヒビが入ったり割れたりしてしまいますので,のんびりね。

  つぎにこれをコンロにかけます。火はごく弱火。

  火を使うのときはいろいろと気をつけてくださいね。
  コンロの前に陣取って,耳をすましながら,気長にやりましょう。

  水分が蒸発する,じゅうじゅういう音がしなくなったら,いったん火を止めて,クランプをはずしてひっくりかえし,ウラオモテまんべんなく熱を通します。
  裏表焼いて,なお焼きが足りないと思ったら,ヒヅメを一回水にくぐらせてから,もう一度焼きましょう。側面部分は比較的薄いのですぐ焼けますが,底の部分は分厚いので,けっこう時間がかかりますね。

焼き入れ(3)
  焼き入れが終わって板状に熨されたのがこちら(→)。


焼き入れ(4)
  焼き具合は…こりゃ伝えにくいんですが。

  まあ,焼きが足りないと,明かりにむけて透かしたとき,白っぽくて透明感がない。削ってみると柔らかすぎ,ピックにすると先がやたらと減ったり,体温や指の湿度ていどで,反ったり曲がったりしやすくなります。
  焼きすぎると透明になるかわり,繊維の筋が見えなくなって,内部に気泡が浮きます。これでピックをつくるとかっちり硬いけどモロいものができてしまいます。そうしたピックはまた使用に関係なく,時間がたつと自然に変形してしまいます。

  繊維の筋がくっきり見えてるくらいでありながら,全体が均一に透明で,心もちもとより黄色っぽい。

――ってぐらいがベストなんですが,コレがなかなか難しい。
  わたしもまだ時々失敗してますなァ。
  焦がしちゃったり,生っポすぎたり。

  うまく焼きあがったら,最低でも1~2週間。できれば2~3ヶ月ほど乾燥させてから次の工程に入ります。
  乾燥期間の目安に,焼入れした日を,マジックか何かで板に書きこんでおきましょう。
  水に一晩漬けたうえに鉄板で蒸し焼きしたんですから,芯のところに水分が残ってるんですね。
  ゆっくり水分を飛ばしましょう。
  このまま加工に入ると,できあがってからピックが変形しちゃったりします。

○ 乾燥をしているうち,せっかく平らにした板がまたちょっと反ったり曲がったりしてしまうかもしれません――でも放っておいてください。その曲がりや反りは,その素材本来の性質とかクセのようなものですので,あるていどピックのかたちにしてから削って修正するなり,火熨しするなりしたほうが,より変形の少ない,まっすぐなものが作れます。


STEP3 ピックに削る
削り(1)
  さあ,ここまでは素材作り。
  ようやくピック作りの開始です。
  以下は月琴のピックの作り方になりますが,ギターやマンドリンのピックも,工作自体は同じようなものです。

  まずは乾燥したヒヅメを,細長く切り分けます。

  つまさきのところが一番硬いので,弦を弾いた時,感触が良い。まずはそこらが先端になるように材取りをします。
  あとで削り込むうちに小さくなりますから,ちょっと大きめ長めに取りましょう。


削り(2)
  短冊状に切ったものを,切り出しやヤスリで削ってゆきます。
  白いオガクズ状のゴミがいっぱい出て,ちょっとヤなニオイもします。
  なんせ動物性,しかもツメですからね。ほら,髪の毛とか焼いた時みたいなニオイですよ。

  幅はいちばん太いところで1.2~5cmくらい。
  厚さはいちばん厚いところで 1.5mm 程度かな。

  糸をはじく先端部分を削るときがやっぱり,いちばん神経を使いますね。
  鋭角にしすぎるといらないところで糸にひっかかるようになるし,鈍角すぎると今度は糸を正確に捉えりにくい。
  薄すぎると刃物のようになって糸が痛むし,厚すぎると糸を弾いた時のレスポンスが悪くなります。

  堅さや弾力は素材の質によっても違ってきますんで,演奏をするときのように持ってみたり,指先で曲げて弾力を確かめたりしながら,自分の使いやすいカタチや厚みを追求してください。

削り(3)


STEP4 油に漬ける
油漬け
  表面を#250~400くらいの耐水ペーパーで荒磨きしたら,2~3日油に漬けます。
  油はまあ,ゴマ油とかサラダ油でも良いんですが,やはり乾性油の類がいいでしょう。
  わたしはテレピン油に荏油か亜麻仁油を混ぜたものを使っていますが,これもたまたま部屋にあったからで。乾性油の類なら,さほど何がヨロしい何がダメということはありません。

  漬け込みが終わったら,表面の油をよく拭いて,2日くらい陰干しします。
油漬け(2)
  写真は油からあげた直後のピック。
  月琴のじゃなく,側面で作ったギターやマンドリン用のものですね。

  もとが生モノなんで,乾燥しすぎるとヘンに曲がったり,ヒビ割れたりします。この油漬けはその対策なんですが,わたしは出来上がってからも鼻のアタマやおツムをしょっちゅう擦って,ピックに油分を補給してやっています。
  三味線の人なんかも良くやってますよね。
  ちょいとキタないですが,そのほうがより長持ちするみたいですよ。


STEP5 磨く

  ここまでくれば出来たようなものですが,この仕上げがけっこうタイヘンなんです。

  まずは#400の耐水ペーパーで,表面に残った加工痕やキズなどを均します。
  番手をあげて,次に#600でなめらか~にし,最後は研磨剤をつけて#1200くらいでこすると,かなりツヤツヤピカピカになります。

磨き(1)
  最後の仕上げはリューターにパフの類のビットをつけてやってもヨロシ。

  いづれにせよモノが小さいので,固定がしにくいのが苦労ですね。

  磨き終わったピックのお肌のアップはこちら(←)。
  ここまでにするのに,けっこう汗かきますよ!



STEP6 飾る

  さあ,完成です。
  紐などつけてあげましょう。

  『明清楽之栞』の絵のものもそうでしたが,古い写真や錦絵などでは,飾り房のついたもっと長い紐を付けてあったりします。
  もっとも,この紐には実用的な意味はさほどなく,演奏上はなくても別段構いません。
  実際に使うのなら,このくらいの房でじゅうぶんでしょう。右のについているのはどちらも手製の赤房ですが,左のはリリアン製の既製品で,カッコいいのですが一個¥300くらいしますね。

  弾く時にはこの房部分は手の中に握りこむか,手の甲に垂らすかします。
  握りこむと連続でトレモロなんかするときには,ちょっと支点のようになってやりやすいことがあります。ピンカラ弾きの時は,甲に垂らしておくと,糸をはじくたびにほどよく揺れて,ちょっと見栄えがしますね。

作品(1) 作品(2)

斗酒庵流 月琴ピック製作記(1)

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斗酒庵流 月琴ピック製作記(1)月琴のピックについて

  今回はちょいと趣向を変えまして,楽器本体ではなく付属品についてお話ししましょう。
  月琴や琵琶,ギターのように糸を弾いて鳴らす楽器のことを「撥弦楽器」といいます。
  指で弾くものも多いですが,三味線や琵琶のように「バチ」を使ったり,お琴のようにツメを指にはめて弾くものもあります。またさまざまな形をした板状の「プレクトラム」もしくは「ピック」というよーなものを使って弾くものもあります。マンドリンや月琴はこの類ですね。

    ピックの作り方を紹介する前に,まずまずは。
  明清楽で使われていた「月琴の義甲(ピック)」なるものが,どんなものであったのか。
  少し解説しておきましょう。

  月琴そのものはいっとき大流行したのですから,かつては明清楽の月琴のピックなんてものもそこらで売られていたと思いますよ。しかし楽器本体はけっこう残っていて,町の博物館や郷土資料館などでも,収蔵庫の奥に一台くらいしまってあったりしますが,このピックというモノはもともと消耗品だったこともあり,また材質のせいもあって,これが完全な形でいっしょに保存されていることはとても稀であります。

中国月琴のピック
  現在,中国月琴では多くギターのピックが使われてますが,いちおう「月琴のピック」というものも売られております(←)。プラスチックやアクリルの細長い板の両端を丸く削ったもので,そんなに高価なものではありません。

  楽器辞典や古い資料の記述を見ると,日本の明清楽の月琴もこれにちょっと似た,先端が剣先のように尖った細長い三角形の義甲が広く使われていたようです。材質は象牙や水牛の角,ベッコウであったようです。
自作ピック
  わたしが現在自作して使っている型(→)もその類で,カタチは以前ある博物館の展示で偶然見かけた象牙製のピックを真似したものですが,月琴の義甲には,このほかにもいくつか型があったようです。



『明清楽之栞』

  まず『明清楽之栞』(百足登)に載っている月琴の義甲の図。
  この本の絵はかなり正確なので,いっしょに載っている月琴の絵と比較してだいたいの寸法を割り出すと,ピック本体の長さは7~8cm, 幅は 1.2cm ほどとなります。

自作ピック2
  これを復元してみたのが(→)。
  同じように先端が四角い短冊状のピックは,中国の中阮なんかでも使われてますね。
  またMFAのWebミュージアムで見られる日本製とおぼしき月琴に付いてるピックも,ベッコウ製で同様に四角いようですが,これは先が折れたものかもしれません。

  この『明清楽之栞』タイプのピックを実際に使用してみますと,月琴の演奏スタイルで操作した(絃停のあたりで弦をはじく)場合は,角の部分が糸にかかりすぎ,いささか弾きにくさを感じます。
  三味線の撥のように,楽器と平行に持って,捻るようにしながら左右に動かすと,糸との触れ方がちょうどいいようですね。

  現在も博物館の展示などで月琴が出されるとき,三味線や筑前琵琶の撥が(この楽器の撥として)添えられていることがよくあります。
  実際,月琴が流行っていたころもこの楽器を奏でるのは,「月琴専門,これ一筋」という人より,もともと三味線も弾いていたような人が多かったようで,修理なぞしていると,月琴の面板の上に月琴の義甲ではつきようのないようなキズをよく見かけます。
  その多くはキズの深さや軌跡からみて,三味線の撥によるものと思われます。専用の義甲ではなく,そうした三味線の撥や小撥が使われることも本当に多かったようですね。

  ですのでこの『明清楽之栞』の型なぞも,三味線の撥の使用感に合わせて,こういう形になったものなのじゃないかと,わたしは考えています。



おりょうさん型
  こんなカタチのピック(写真左から2本目)が使われたこともあったようです。

  じつは今まであまり見たことがない型だったのですが,これは先年,横須賀で行われた「おりょうさん祭り」の特別展示にあった,「おりょうさんが実際に使用した月琴」に付いていたピックを復元製作したもの。
  本物はベッコウ製で長さ6cmばかり,幅7~8mm。
  この復元品は,材質は異なりますが,寸法や強度はまず同じくらいに作ってあります。

  弾いてみると――いかにも細くって,かなり頼りないですね。
  ツマヨウジで弾いてるみたいなカンジ。指先にちょっと力を入れただけで折れてしまいそうです(じっさい,試してみて折れてしまったのが右端の短いやつ)。
  単音でゆっくりしとやかに,ピンカラツンと奏でるのには良いのですが,大きな音は出しにくい。
  かなり先っぽの部分をつまんで,指先からわずかに頭を出すようにして弾けば,トレモロも含めてかなりいろいろな奏法が可能ですが,幅広のものとくらべると扱いが繊細で,自在に弾くのはかなり難しいです。

カメ琴(2)

KAME02.txt
斗酒庵 サイレント月琴を作るカメ琴(2)

カメ琴(1)
  「カメ琴」完成!

  外枠の色がイマイチ決まらなかったのと,完成直前になってそれまでつけていた軸が1本,ポッキリ折れてしまったために,思ったより時間がかかりました。



  外枠ははじめ,カシューで黒く塗ったり茶色に塗ったり,はたまたマダラにしてみたり,――と,イロイロやってみたんですが,どうもしっくりこない。

  どれもやたらと派手になってしまって…目立ち過ぎるんですね。

  フォルムが単純なだけに,色の組み合わせが難しい。漫画や絵でもそうなんですが,モトが版画派なもので,ワタシどうもカラーセンスがない。ニガテなんですよ~色はね~。

  試行錯誤…というか,完全なる失敗を繰り返した結果。
カメ琴(2)
■ ヤシャブシで染めてラックニス仕上げ。

――このシンプルで(いつもやってる)ナチュラルな塗装が,意外といちばんハマりました。
  どうも「側板は(カシューとかで)こってり塗るもの」みたいな観念に捉われてたみたいですね,反省。

  表板よりすこし濃い目にしたヤシャ液に砥粉を溶いて,鍋で温めたのを二度塗り。
  スプルースは桐よりも染まりがいいかも? けっこう色濃く染みました。

  乾いてから軽く表面をペーパーで均して,ラックニスを重ね塗り。
  おお,みごとな黄金色。
  本体がチークで同色だから一体感が出て,変に違う色に塗るよりずっと良いですね~。


カメ琴(3)
■ 軸を作成。

  はじめ付けていた軸(←)は,以前阮咸さんの時,テスト用に削ったセットで,そのテスト中に1本,先が折れてしまったのを切り縮めて再利用しようと思ったんですが,その一度折れた軸がまたまた折れてしまいました。もとから材質が悪かったせいか,木目のせいか…。

カメ琴(5)
  しょうがないのでチークで新しく作り直しました。
  ――やっぱりペグは弦楽器のイノチ。
  手抜きはイケないってことですかね?

  今度は月琴フルサイズ。ややスリムな感じに削りました。
  全体がシンプルなので溝は彫りません。軸尻もヤスリ目を残して,少しワイルドな感じに。
  亜麻仁油で磨き,握りの部分にだけラックニスを刷いて仕上げ。


カメ琴(6)
■ 蓮頭を作ります。

  明清楽の月琴をモトにしてる,とはいってもしょせんは「サイレント月琴」。まったくの新楽器みたいなもんですから,ちょいと遊びましょう。

  ボディーのフォルムのもとになったインドネシアの楽器,「カチャピー」では,棹のトップと楽器のお尻のところに人形の彫刻が付いてました。その系を引いて,いっちょう「顔」をつけることにしましょう。

  なんかアルカイックというかインカの彫刻みたいですが,いちおう中国の伝統的な意匠。
  音楽への想いをこめて――貪婪に!反抗的に!(いや根がパンクなんで)――上古の伝説に出てくる,ある怪物ですね。

  例によってラクしたいので,素材は桐板+アガチス。
  外枠同様,ヤシャブシで染めてラックニスを塗りました。

  蓮頭をニカワでへっつけ,これにて完成です!!

カメ琴(7)

「カメ琴」データ

《採寸》
全長:610mm (蓮頭を含む)
胴幅:310mm 本体表板 最大100mm
棹長:277mm うち指板部分 160mm
有効絃長:416mm
絃高:(山口)10mm-7mm(半月)

音域:c1~c3
全音2oct.15音
《材質》
棹・胴体:チーク(28mm角)
糸倉:ブラックウォルナット(厚8mm)
円形枠:エコウッド(スプルース)
面板・裏板:桐(厚6mm)
半月:縞黒檀 裏に象牙板でゲタ
フレット:竹(ヤシャブシ染め,ラックニス仕上げ)
山口:黒檀+象牙
軸:チーク(胴体と同材)

圧電素子:2cm径×2
ボリューム端子:500kΩ
6.3mm径ピンジャック♀
シールド線

響き線:真鍮 赤いヒヨコ月琴型×2



  さて,カンジンの音ですが。

  「サイレント月琴」なんで,ナマではまったく鳴りません(笑)。

  もともとアンプにつなげて鳴らすのを前提として作ったわけですが,圧電素子をWにしたワリには,さして出力があがりませんでしたね~。
  PUで拾った音はかなりカン高くて,ややペコペコした音に,わずかにキィーンと金属音が混じる感じ。余韻もあまり拾ってないし――うむ,思ったほど面白くない。
  エフェクターかなにか噛ませて,ギャンギャンな音にすれば別でしょうが。
カメ琴(8)
  しかしながら,楽器に耳をつけて弾いたとき聴こえてくる生音は,けっこうイイ響きをしています(これをそのまんまPUが拾ってくれてればいいのに…)。
  そこで,月琴の演奏を録音するのにいつも使ってる,コンピューターのオマケのミニマイクで音を拾ってみますと,これがけっこう素敵。 PUを通した音よりずっと「月琴らしく」聞こえますねー(汗)。 音自体はごく小さいんですが,ボディと弦にかなり近いところで拾えるためか,クリアだし,響き線の余韻までちゃんと拾ってくれてます。

  まあ,PUつけたのは夜間の練習のためだから…いちおう音が出るだけヨシとしましょう。

  「音階1」はPUの音。「2」のほうはマイクで拾った生音。
  演奏の方もPUでなくマイクで拾ったものです。

  操作性はまずまず。
  ウサ琴も,ボディに対して棹が長めでしたが,カメさんはさらに長い!
  モノホン月琴だと棹と胴体の継ぎ目のあたりにくる第4フレットは,ボディから1.5cmくらい上になってしまいました――もう少し桿,短くてもよかったかな?
  演奏上は問題なし。この第4のところ,よくチョーキングを使うから,このほうがいいかも。
  半月にゲタ履かせて絃高を低くしたおかげで,音も出しやすくなりました。

  音にはやや不満が残りますが,練習用楽器としてはまあ合格,かな?




   カメ琴音源集(MP3)


カメ琴(1)

KAME01.txt
斗酒庵 サイレント月琴を作るカメ琴(1)


  「ウサ琴」でちょいと地震が憑いたので,さらに悪ノリしようと思います。

  前回の「ウサ琴」は,ミウさんがモニターというかモルモットに名乗りをあげてくれたのをいいことに,このワタシに月琴みたいな楽器が作れるんか?――というウデ試しと実験として作ったもんですが。

  今度はちょいと,自分の楽器がほすくなりました。

  どんな楽器がほすいかというと,アンプにつないで夜中でも演奏できる――「サイレント月琴」がほすい。いや,月琴はもともとそんなに大きな音の出ない楽器なんで,夜中弾いててもあんまり文句言われたことないスけどね。
  「ウサ琴」はアコースティック前提で,PUはオマケみたいなもんでしたが,次の一台はハナからPU前提。エレキギターと同じで,カタチとかあんまり考えなくてイイ。
カチャピー
  ふふふ…ぶんぞんにアバれさせてもらうとしましょう。

● まず名前は「ウサギ」のつぎなんで「カメ」だ!
● 操作上のコンセプトは「ウサ琴」と同じ,フレットはウサ琴と同じく10本。
● 本体部分は以前持っていたインドネシアのスティック系楽器,「カチャピー」(左)を参考にしましょう。
● 材料は例により,あるもの次第。廃物利用。

  さて,まいりましょか。




カメ琴(1)   今回の楽器は棹から胴体まで一体型。
  材料には,こないだ大量に仕込んできたチークの角材(28mm 角)を使います。

■ まずはこれに糸倉部分を接着。

  糸倉にはチークと同じときにウッディプラザさんで買った,ブラックウォルナットの板を使ってみました。
  アールをふつうの月琴より浅めにして,コンパクトな造りにしています。

  胴にあたる部分は左右を5mm ほど残して,真ん中を細長ーくくりぬきます。
  今回の共鳴箱はなんとこれだけ!――まあ,サイレント楽器ですから。


■ 糸倉の次は指板を接着。

  今回は棹が一体なのと,素材もチークで強度的には問題ないんで,指板はどちらかといえばお飾りですが,あるとキレイ。厚さ 0.8mm 程度の黒檀の薄い板を接着します。

  そのまんまだとただのスティック楽器だもんで,これに下のような表板をちょこっとのっけて,さらにウサ琴を作るとき,接合部の加工でシクじったエコウッドを使い,こんなふうに枠をめぐらせます。

  ま,これでなんとか外見上は「月琴みたいな」楽器になるかと。
カメ琴(2) カメ琴(3)

■ 裏板を付けます。

  裏板は桐。胴体をちょこっと削ってハメこみ,ニカワで接着。
  細いから固定は輪ゴムでいいし,丸くないから作業がラクだわ~。

カメ琴(4) カメ琴(5)

■ 軸穴を開けます。

  リーマーやヤスリで広げた後,焼き棒をつっこみ,内面を焦がします。
  油っぽい木なんで,ちょっと焦げすぎかなあ?

カメ琴(6) カメ琴(7)

カメ琴(8)
■ 響き線はこんなの。

  なにせ胴体が3cm 角ないわけですから,そんなせまい空間で機能しそうな構造,ということで「赤いヒヨコ月琴」のドッキリ構造を早速使ってみました――実験にもなりますしね。

  はじめは半月側にこれを,棹側に直線,とか,V字型二本線,とかいろいろやってみたんですが,どうも思ったほど効果がないんで,けっきょくヒヨコ型響き線をWで付けることに。
  棹に耳をあてて,胴体を叩いて響きを聞いてみると,これがいちばんキョーアクな音を醸し出してましたね。

  ハテサテ,実際の演奏ではどんな効果があるのやら。

カメ琴(9) カメ琴(10)

カメ琴(11)
カメ琴(12) カメ琴(13)

■ 響き線がWなら,PUもWです。

  棹側に一つ,半月の下あたりにもう一つ,圧電素子を埋めこむクボミを彫りこみます。

  棹側のは胴体の方を向けて胴材の響きを,半月がわのは表板のほうを向けて面板の振動を拾ってもらう…などとエラそうなことを考えたんですが,電工は不得手なのでちゃんとそうなるかどうかは不明。
カメ琴(10)

■ 面板をかぶせるとこんな感じ。

  ちなみにこの面板は二代目。はじめのほうが真ん中にデカい節目があってカッコ良かったんですが,当初胴材に直接接着する予定だった半月を,ふつうの月琴と同じく面板上に接着することにしたので,やむなく変更。

カメ琴(14) カメ琴(15)

カメ琴(16)
■ まずは面板を胴体に接着。

  面板はあらかじめヤシャブシ染めをしてあります。棹部分との接点付近には黒檀の薄板を埋め込んでみました。
  圧電素子が入ってるので,あんまりギュウギュウやると割れちゃいそう。
  いつもよりやさしげにへっつけました。


カメ琴(16)
■ つぎにボリュームとジャックを組み込んだボックスを,面板の下に接着。

  この箱が上手くできなくって…一週間もやってましたね。

  ジャック部分の板の加工をなぜか失敗しちゃうんです。

  一枚目はサイズが合わず,二枚目はつけてみたら上下が逆,三枚目は同じく裏表が逆,四枚目は削りすぎ,五枚目はエグりすぎ,6枚目は穴あけ中に割れ,7枚目は気に入らない。

  つごう8枚目にしてようやく。いやあ何でだろう?


カメ琴(17) カメ琴(18)

  山口は前に4号のために作ったのを流用。サイズがちょうどでした。

  糸を張って弾いてみると,上手い具合に響きません!(サイレント楽器ですからね,音が鳴っちゃこまります!)やた!つぎにアンプにつないでみます。W・PUの割には出力が低いですねー。音もちょっとカン高いですが,まあ,なんとか月琴の音の範囲内かと。
  PUを使わず,クリップマイクを面板に噛ませて音を拾うと,ほかの月琴に負けないくらいいいカンジで響きます(PU内蔵した意味ないじゃん)
  例のヘンテコ構造も,響き線としての効果はじゅうぶんに出しているようですね。
  ちょっとミュウミュウミンミンといった,フシギな響きではありますが。

カメ琴(19)
  ここでちょっとリビジョン。フレットを仮付けして弾いてみたところ,ちょっと絃高が高くて,高音域が押えにくかったで,絃高を下げたいと思います。

  とはいえ,阮咸さんのときみたいに,半月をはずして削り込むというのも大ゴトですんで,ほかの方策を考えました。

■ 半月の下に象牙の板を貼り付けます。

  これで半月の端の厚さを増して,糸の出位置を下げるのですね。
  ギターだとブリッジのサドルを削るところですが,月琴だと足すわけだ。

  あれ,阮咸さんもこの手でよかったかも....orz。


カメ琴(20)
  枠の塗装と蓮頭がまだですが,いちおう完成。

  演奏可能な状態にはなっております。


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