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赤いヒヨコ月琴(4)

MOONH24.txt
斗酒庵 太清堂の月琴を直す 之巻赤いヒヨコ月琴(4)


  赤いヒヨコ月琴,続きです。

  胴体の修理は終わり,軸もそろいました。
  これであとは面板の再塗装と,細かいモロモロの製作です。


STEP7 山口を作る

山口(オリジナル)
  まずは小ッちゃいものその1。

  山口(さんこう)――わたしは「ヤマグチさん」とか「ヤマさん」と呼んでますが。

  ギターで言うところのナットに当たる部品で,これがないと糸を張っても音が出ません。

  この月琴オリジナルの山口さんは,豪華に象牙のカタマリでした。
  かすかなキズがちょこっとあるだけ,ツルンとキレイなもんです――つまり,使われてない新品の状態そのままなんですね。

  ときどきこういうお飾り月琴を骨董で買って使っている人が,買った状態そのままで弾いて,チューニングが合わないとか,すぐ狂うとか言ってますが,よくある原因がコレ。

  ちゃんと使われ,弾かれたことのある月琴の山口には,かならず「糸溝」が切ってあります。

コウモリ月琴山口(オリジナル) 信楽寺月琴山口(オリジナル)

  複弦の間隔やコース間の幅は,弾く人によって微妙な好みがあるので,楽器屋にやってもらうような場合もあったかもしれませんが,ほとんどの場合は購入者が自分で切ったりしていたのではないかと思われます。

  お飾り月琴の場合は飾り物,糸が張ってあればそれでいいので,わざわざキレイな「新品」にキズを付けることもない,というわけですが,演奏するとなるとハナシは別。
  なにせ「同音」の複弦,2本の糸を同時に押さえるんですから,糸は一定の位置に,つねに固定されててくれないと困ります。おさえるたびに糸の位置がズレるんでは弾きにくいし,すぐ音が狂ってしまいます。

  トレモロなんかしようもんなら,も~一発ですね。



  さて,古い月琴の山口さんはだいたいムクの材料で作られてますが,斗酒庵工房のは硬木と象牙のコンパチです。これは工房庵主個人的な伝統で,古例にはありません。

  最初に修理した月琴(1号)は,山口さんがなくなってました。

  当時はまだ明清楽の月琴の実物もあんまり目にした事がなかったので,家にあった中国月琴を参考にしたのですが,その楽器の山口は,黒檀のカタマリにプラスチックの白い板を貼ったものでした。
  現代の中国月琴の弦は鋼線なんで,木だけだと糸溝の端が擦れて広くなってしまう,その防止策としてそうしたものを付けてるんですね。

  まあ,さすがにプラスチックはなかろうということで,ギターに付いていた牛骨を削ってハメこんだんですが,考えてみますれば,明清楽月琴の弦は絹糸。減りは鋼線ほどありません。
  音的にはさして意味もなく,まあやらなくてもイイとは思うんですが…キレイですんでなんとなく。


  オリジナルは象牙細工としてはやや雑な仕事なものの,新品同然なんですから,そのまま使っちゃってもちろんいいわけなんですが。材料が材料だし。これは未来へと残してあげたい――で,今回も工房の伝統を守ります。

山口比較
  左が太清堂オリジナル。

  やたら先端の切り立ったカタチになってますね。
  高さもけっこうあります。

  ほかの月琴に付いていた古い山口さんと比べてみましょう。
  角度の違いがわかりますでしょうか?

新作山口
  このまんま作ったら,糸を貼ったときプツンと切れちゃいそうですが,とりあえずはオリジナルそっくりに削ります。
  木はローズウッド。濃い紫色と象牙の白のコントラストがステキです。


  取り付けます。

  今回の月琴は山口の前で指板が切れて段差になっているタイプ。
  指板のないものや,山口の下まで指板で覆われているタイプに比べると,取り付け位置が分かりやすくていいですね。
  棹と山口両方の取付け面をお湯で軽く濡らしてから,やや濃い目に溶いたニカワでしっかり,確実に接着します。つけたらなるべく動かさない,触らないようにして2日くらい養生させます。いちばん力のかかるところなんで,ちゃんと付いていてくれないと困るのですが,場所柄クランプの類がかけにくいため,時間と大自然サマのチカラを借りることにしています。

  この楽器はここの工作が良かったのでこれでいいのですが,指板の端がちゃんと真っすぐになってなかったり,取付け面が凸凹になっているような場合は,圧着のためゴム輪をかけたりヒモでふんじばったり,けっこうタイヘンなのですよ。



STEP8 表面板の再塗装

  保存状態,ほぼ新品まンまの太清堂月琴。

  表板もキセキといっていいくらいキレイでしたが,お飾りやフレットの痕,ヒビ,虫食いの補修痕など出来ちゃいましたんで,そのまンまというワケにもいかない。また虫食い痕の発見された一次クリーニングから半月以上あいだがあいてしまったので,その間吸い込んだ工房内の垢,ホコリ,油分などを,まずは軽く布にエタノールをつけて拭い取ります。

ヤシャ染め1回目
  カメ琴やウサ琴で消費しちゃったんで,今回使用するヤシャ液は抽出したての新物であります。
  ガラス鍋に砥粉とヤシャ液,少しの水を入れ,沸騰しない程度にまで温めます。
  何にせよ自然系の染料は,ちょっと温めてからの方が染まりがいいですよね。

  まず全体に塗ってから一度乾燥させ,表板の様子を見てから二度目を塗ります。
  もともとの板の染まりぐあいが良かったので,軽く二度で終えました。
  板を濡らすのですから,これはなるべく回数が少ないほうがいい。

  乾燥後,こんどは砥粉を混ぜず,鍋にヤシャ液だけを入れて温めます。
  粉にした研磨剤といっしょに布に付け――

表板磨き(1) 表板磨き(2)

  磨く磨く磨く磨く磨く磨くっ!

  一度に広い範囲をすると色むらができたりするので,5cm 幅ぐらい,少しづつ磨いてゆきます。
  このとき修理した周辺など,色の薄くなったところは,重ねて作業をして,ヤシャ液を余計に染ませることで修正します。

ヒビ再補修
  何度も濡らしたので,左側のヒビの補修痕がちょっと浮いてきちゃいました。
  まあ乾けば元に戻るくらいなんですが,何かイヤなので補修しておきます。

  少し開いたヒビに,筆で薄めたニカワを含ませます。
  表板にあふれたニカワ水をしっかり拭いさりながら,指でヒビ周辺を押して,ニカワをヒビのより深くまで浸透させます。

虫食い痕ゴマカシ中
  あとは例の虫食いの補修痕ですね。

  新しく板で埋めたんで,これはどうしても目立っちゃいます。
  何度も筆でヤシャ液を含ませたんですが,まだちょっと。
  「節かな?」ていどにまでしかゴマカせませんでしたね。ちとザンネン。



STEP9 フレット立て

棹補修
  まずは棹をハメこみます。

  内側からも補修はしてあるんですが,新品同様のクセにここだけユルユルなんで,さらに棹元に和紙を貼り付けて調整しました。

  外弦2本を結んで,軸で巻取り,まずは外弦のポジションを定めます。
  楽器それぞれのネックの形状や工作,また弾き手の好みにより微妙に違ってきますが,弦間はだいたい 16~17mm ほどです。

  位置が決まったら糸溝を切ります。
  最初にまず,象牙のあたりだけ浅く切っておいてから,糸が山口にどこまで触れてるかを確認して,それよりちょっとだけ長めに切ります。これをちゃんとしておかないと,微妙なビビリやノイズが出ることがあります。

外弦張り終え
  糸をさらにしめあげてC/Gに調弦。

  さあ,音を出してみましょう。

  もしかするとこの月琴,「楽器として」鳴らされるのはこれがはじめてなのかもしれませんね。
  ちょっと感動です。

  音量はかなり大きく,どちらかというと男性的なクッキリとした音色です。
  胴体が大きめなことと,例の内部構造の効果でしょうか。まだ単弦でしかないのに,複弦で弾いているような重なった余韻があります。

  お飾り月琴は外見は良くてもぜんぜん鳴らないことがあります。

  でも太清堂,ちょっと鳴りすぎるくらいです。

  これだけメリハリの利いた音だと,弾き間違ったときとか,ほにゃほにゃッと弾いてゴマカすことができない,というのが欠点になるかどうか(笑)分かりませんが,楽器としてはとりあえず十二分に合格ですね!

フレット(オリジナル)
  オリジナルのフレットは象牙でしたが,工作も悪いし,何より演奏用にはもったいない。
  月琴でいちばん使われているで作り直します。

  コウモリ月琴さん以来,工作次第でかなり良いものができることが分かったので,竹製のフレットを付けることが多くなりました。
  従来やっていた黒檀・紫檀と象牙のツーピースにも利点はあるのですが,工作が複雑になることと,材料の入手が竹より難しいので,とれたり壊れてしまったとき容易に替えがきかない,再作成に技術が必要という欠点があります。

  竹なら手に入りやすいですし,応急の代替品くらいのものならシロウトさんでも作れましょう。

フレット仮付け中
  もっとも斗酒庵工房純正品は,ちくと手間かけてますがね。

  ¥100屋で買った竹のフェンスをバラしたやつを削り,途中まで整形しては,位置を決め,高さを調整しながらたててゆきます。位置・高さが決まったものから,両面を削って三角形の断面にし,軽く磨いておきます。
  加工がラクなので8本すべてそろうのに,3時間くらいしかかかりません。


  山口がやや高めなためか,フレットが高いですね。
  最高音第8フレットでも8mm 近くあります。

  コウモリさんなども最初はこのくらいでした。
  フレットが高いと単音で弾いた時の音はキレイなんですが,トレモロのとき糸がアバれやすくなったり,高音域が出しにくいなど操作性がやや悪くなるので,あとで絃高を下げるなどの調整をしましました。
  調整後の第8フレットの高さは6mm くらい。

フレット夜叉煮中
  とりあえずはオリジナルに近いサイズで作っておきます
  弾きぐあいが悪いような対処しましょう。

  8本そろったフレットは,油抜きがてらヤシャ液で煮て少し色をつけ,乾燥後何度か磨きをかけて,ラックニスで仕上げます。

  この加工・整形後の工程があるんで,けっきょく時間的には檀木のツーピースよりかかってしまうんですね。



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