斗酒庵流 月琴ピック製作記(1)
![]() 今回はちょいと趣向を変えまして,楽器本体ではなく付属品についてお話ししましょう。 月琴や琵琶,ギターのように糸を弾いて鳴らす楽器のことを「撥弦楽器」といいます。 指で弾くものも多いですが,三味線や琵琶のように「バチ」を使ったり,お琴のようにツメを指にはめて弾くものもあります。またさまざまな形をした板状の「プレクトラム」もしくは「ピック」というよーなものを使って弾くものもあります。マンドリンや月琴はこの類ですね。 ピックの作り方を紹介する前に,まずまずは。 明清楽で使われていた「月琴の義甲(ピック)」なるものが,どんなものであったのか。 少し解説しておきましょう。 月琴そのものはいっとき大流行したのですから,かつては明清楽の月琴のピックなんてものもそこらで売られていたと思いますよ。しかし楽器本体はけっこう残っていて,町の博物館や郷土資料館などでも,収蔵庫の奥に一台くらいしまってあったりしますが,このピックというモノはもともと消耗品だったこともあり,また材質のせいもあって,これが完全な形でいっしょに保存されていることはとても稀であります。 ![]() 現在,中国月琴では多くギターのピックが使われてますが,いちおう「月琴のピック」というものも売られております(←)。プラスチックやアクリルの細長い板の両端を丸く削ったもので,そんなに高価なものではありません。 楽器辞典や古い資料の記述を見ると,日本の明清楽の月琴もこれにちょっと似た,先端が剣先のように尖った細長い三角形の義甲が広く使われていたようです。材質は象牙や水牛の角,ベッコウであったようです。 ![]() わたしが現在自作して使っている型(→)もその類で,カタチは以前ある博物館の展示で偶然見かけた象牙製のピックを真似したものですが,月琴の義甲には,このほかにもいくつか型があったようです。 ![]() まず『明清楽之栞』(百足登)に載っている月琴の義甲の図。 この本の絵はかなり正確なので,いっしょに載っている月琴の絵と比較してだいたいの寸法を割り出すと,ピック本体の長さは7~8cm, 幅は 1.2cm ほどとなります。 ![]() これを復元してみたのが(→)。 同じように先端が四角い短冊状のピックは,中国の中阮なんかでも使われてますね。 またMFAのWebミュージアムで見られる日本製とおぼしき月琴に付いてるピックも,ベッコウ製で同様に四角いようですが,これは先が折れたものかもしれません。 この『明清楽之栞』タイプのピックを実際に使用してみますと,月琴の演奏スタイルで操作した(絃停のあたりで弦をはじく)場合は,角の部分が糸にかかりすぎ,いささか弾きにくさを感じます。 三味線の撥のように,楽器と平行に持って,捻るようにしながら左右に動かすと,糸との触れ方がちょうどいいようですね。 現在も博物館の展示などで月琴が出されるとき,三味線や筑前琵琶の撥が(この楽器の撥として)添えられていることがよくあります。 実際,月琴が流行っていたころもこの楽器を奏でるのは,「月琴専門,これ一筋」という人より,もともと三味線も弾いていたような人が多かったようで,修理なぞしていると,月琴の面板の上に月琴の義甲ではつきようのないようなキズをよく見かけます。 その多くはキズの深さや軌跡からみて,三味線の撥によるものと思われます。専用の義甲ではなく,そうした三味線の撥や小撥が使われることも本当に多かったようですね。 ですのでこの『明清楽之栞』の型なぞも,三味線の撥の使用感に合わせて,こういう形になったものなのじゃないかと,わたしは考えています。 ![]() こんなカタチのピック(写真左から2本目)が使われたこともあったようです。 じつは今まであまり見たことがない型だったのですが,これは先年,横須賀で行われた「おりょうさん祭り」の特別展示にあった,「おりょうさんが実際に使用した月琴」に付いていたピックを復元製作したもの。 本物はベッコウ製で長さ6cmばかり,幅7~8mm。 この復元品は,材質は異なりますが,寸法や強度はまず同じくらいに作ってあります。 弾いてみると――いかにも細くって,かなり頼りないですね。 ツマヨウジで弾いてるみたいなカンジ。指先にちょっと力を入れただけで折れてしまいそうです(じっさい,試してみて折れてしまったのが右端の短いやつ)。 単音でゆっくりしとやかに,ピンカラツンと奏でるのには良いのですが,大きな音は出しにくい。 かなり先っぽの部分をつまんで,指先からわずかに頭を出すようにして弾けば,トレモロも含めてかなりいろいろな奏法が可能ですが,幅広のものとくらべると扱いが繊細で,自在に弾くのはかなり難しいです。 |