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ウサ琴2(2)

USA2_02.txt
斗酒庵 ふたたびウサ琴作り の巻ウサ琴2(2)

STEP2 胴体を作る

エコウッド
  作る,といってもまあ,材料がもとから丸くなってますから。

  これをつなげるとできあがるわけで。

胴体接合部(1)
  できれば単純に両端を接着するだけにしたいのですが,素材自体が完全な円形ではないため,そのままではやはり上手くいきません。
  端と端をつなぐ中間材として,今回は接着のいい桐板の端材でスキマを埋めてみました。


胴体(2)
  この接合部のあるほうが楽器の「地」の方向,お尻のがわになります。
  まずはこことその反対側,棹の入る天の部分の裏側に,補強のブロックを接着します。

  天の側のはみんな同じカタチのものにしましたが,お尻のほうのブロックは二種類用意しました。
  天側とおなじ台形のものと,前回のウサ琴1号と同様,薄い板状のものです。
  強度的には前者の方が安心なんですが,仕込む響き線によっては,ここが出っ張ってると困るものがありますので。



胴体(3)
  ブロックが接着されたら天の側に,棹を挿しこむための孔をあけます。

  最初四隅に小さな孔をあけ,つぎにもう少し内側に糸ノコの刃が通るくらいのをあけて切り抜き,ヤスリやノミで調整します。上下の余裕が5mm くらいなんで,エコウッドや補強のブロックが割れないように,ちょいと優しくゴリゴリします。

  今回は4本の棹でとっかえひっかえ実験してみたいので,どの棹もつけられるように,多少大きめ,ユルめにあけときましょう。
胴体(4)


胴体(5)
  反対側の地のほうには,接合部の補強と尻隠しを兼ねて,ツキ板でもはりましょう。

  同じスプルースのが良かったんですが手に入らなかったので,とりあえずブナで。

  だいたいの大きさに切ったツキ板を,ニカワを湯煎する鍋でいっしょに茹でて貼り付けます。
  マスキングテープでおさえつけ,さらに両端が浮かないように輪ゴムをかけます。

  このまま一晩放置。

胴体(6)
  乾いたら余計な部分を切り取ってヤスリをかけ,上から塗ったら分かんなくなるくらい,滑らかにしてしまいます。

  工作が悪くてちょっと凹ができてしまってるようなところには,その上から小切れを一二枚,焼き鏝あてて貼り付けましょか――似たような凹隠しの作業は2号月琴の修理でもやりましたね。



内部構造(1)
  内部構造を作ります。

  ホンモノの月琴ですと側板が1cmくらいはあるのでそういう心配はないのですが,ウサ琴の側板は厚さ約5mm。この材質この薄さだと,強度的な心配もさることながら,胴全体の歪みや変形に対処する必要があります。
  そうした楽器の変形を少なくするため,また補強も兼ねて,円形箱の胴体の内部に,入れ子のようにもうひとつ箱状の構造を仕込む――このニ重箱構造がウサ琴の特徴にして,「月琴ならざる」楽器たる所以でございます。

内部構造(2)
  左右内壁のちょうど中央,内部のアールに沿うように板を切り出し,その板(竜骨)に上下の桁を噛ませて繋ぎ,内桁そのものを箱状の構造の一部にしてしまいます。

  桁はヒノキ。前回より薄く厚9mm。
  竜骨はスギで厚さ6mm。竜骨の中央のあたりは余計な部分を切り払い,5~6mmくらいの幅にしておきます。


  この構造にはほかにも利点がいろいろとあります。

  まずウサ琴は側板が薄いんで,桁もミゾを切ってハメこむようなわけにいきません。
  内壁に直接接着するほかないのですが,それだと左右から力のかかったときなど,衝撃や楽器の変形でニカワが割れ,簡単にズレたりハガれてしまったりするかもしれません。
  また響き線も,ホンモノの月琴だと桁と同じようにホゾにはめこんだブロックか,内壁に孔をあけて直接取り付けられていますが,それもできないわけです。

  内桁のハガれは楽器としては致命的,響き線は月琴の音のイノチです。

  この2つの問題を解決するのも竜骨構造。
  響き線のブロックや桁をこれに噛ませれば容易にズレませんし,もちろん強度は格段あがります。

  ただしこういう構造を楽器の内部に仕込んだ時,音響的にどういう影響が出るのかが専門家でないんでちょっと分からない。
  そのへんが少し不安ですね。

内部構造(3)
内部構造(4)

  この時点でどの胴に,どういう響き線を仕込むかを決めておきます。
  響き線のタイプによって,上下桁の間隔とか,板にあける音孔のカタチとかが違ってきますので。


イ号胴   ■イ号胴:(裏面から見て)左肩から半周する曲がった響き線をもつ(=松音齋,彼氏月琴)。上桁左の孔は右よりやや大きく,下桁の孔は通しの一つ孔。鋼線。
ロ号胴   ■ロ号胴:鶴壽堂の内部構造を再現。中と下の空間に,左右互い違いの響き線をもつ。真鍮線。下の空間をやや広くとっている。
ハ号胴   ■ハ号胴:赤いヒヨコ月琴の内部構造を参考。真鍮線。ただし桁は2本に。下空間に例のフシギな構造の響き線を仕込むため,桁の配置はロ号と同様。
ニ号胴   ■ニ号胴体:鋼線,直一本の響き線。1号月琴と同じ最も単純な構造だが,響き線の加工と調整次第ではおそらくいちばん月琴らしい音が出るだろう。



STEP3 面板を作る

  赤いヒヨコ月琴の(5)で述べたように,月琴の面板はおそらく,桐の角材か厚板のような材料を積み上げて接着し,そこから切り出したものと考えられます。

  まあ,いつかはそうしてみたいものだけれど,斗酒庵工房,せまいものでそういう大物を扱う作業スペースがとれません。今回も面板は薄板横継ぎでまいります。こちらも材料は同じ¥100屋さんの「焼桐板」,15×60cm,厚さ約6mm。

面板(1)
  板の下ごしらえに,アラカンや荒ペーパーをかけて,表面の茶色い部分を剥いでおきます。
  木目の良いほうを表に使って丁寧に,そうじゃないほうは見えない内側に回しちゃえばいいんで,かなりテキトーでもいいでしょう。


  おおきな材を積層して板を切り出すやりかたならば,接着面も大きく,かなり強い圧をかけることもできましょうから,切り出される板は薄くてもしっかりくっついているワケですが,もともと薄い板を横に継いで大きな板にするというのは,けっこう繊細で難しい,神経を使う作業となります。

  前回はなるべくその厄介な回数を減らそうと,通称フンドシ――真ん中に幅広の一枚,左右に同じ幅のがそれぞれ一枚づつ――の3枚継ぎでやったのですが,この継ぎかただと板を余計に食います。

  一枚の板で一面の2/3しかふさげない。

  しかも余った板は,けっこう大きなワリには次に使えない,中途半端なカタチとサイズになってしまうんですね。

  今回は数も多いことですし,板をムダなく使えるように材取りをしたいところです。

  切り出す板の幅をせまくして,継ぎを多くしたほうが,よりムダなく板を使えるのですが,継ぎの回数を多くすると――1)加工がタイヘンになる,2)板が弱くなる,3)木目をそろえるのが難しくなって出来上がりが汚くなる――といった欠点があるんで,むやみに増やすわけにもいきません。

  今回は1枚だけ増やし,4枚継ぎとすることとしました。

材取り
  板の組み合わせと,材取りは図のようなカンジ。

  板幅 15cm のままのいちばん広い板を真ん中にもってくるのは前回と同じですが,右もしくは左のはじに,長 20cm ほど,幅5~6cm の小板を一枚足します。
  これくらいのサイズなら別にこれ用の板を用意しなくても,いままでの製作で出た余り板で8枚じゅうぶん作れます。
  この細い板を一枚噛ませただけで,板をほとんどムダなく使えるようになりました。


  切り出して,木端口をニカワで横に継ぎます。

  言うとそれだけのコトなんですが,6mm 厚の板の横っちょをカンナやヤスリで削って,ぴったりくっつくように擦り合わせるのはタイヘンなんですよ~。


面板(2)
  ふつうはハタガネとかで固定して,一枚一枚圧着するんですが,今回は一度に8枚も作るわけで,多少出来に問題があってもいいので,一度に数こなせる方法を考えましょう。

  大き目の作業板の片方に,角材で作ったストッパーをクランプで固定します。

  ストッパーがわにおしつけるようにしながら,ニカワを塗った面板の部品をここに並べ,くっつかないように間にラップを敷いて重ねていきます。

  8枚分の材料が重なったら,ストッパーと反対の方も角材で固定してしまいましょう。

  ただし部材の切り方とか,木端口の擦り合わせ作業とかのせいで,板のサイズはピッタリ同じなわけではなくこっちの端は凸凹になってますんで,木切れやスポンジを詰め込んでスキマを埋め,なるべく均等に圧がかかるようにます――これで左右方向に圧をかけ,ハタガネのかわりにしようというワケ。

  最後に上から重しの板をのせて,Fクランプで一気にぎゅぎゅーっと。

  うまくできてれば御の字だったんですが,結果は8枚中,そのまま使用可能なもの4枚,完全やり直し2枚,一部やりなおし2枚――まあ,こんなもんでしょう。
  世の中すべてがうまくいくもんじゃありませんよぅ。

面板(3)
  出来上がった板はホームベーズみたいなカタチ。
  スキマが見えちゃうようなところはパテを盛って,表面を軽く均しておきましょう。
  このへんはヴァイオリンやギターの板ほど精密じゃなくていいんで助かりますぅ。


ウサ琴2(1)

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斗酒庵 ふたたびウサ琴作り の巻ウサ琴2(1)

  今年の前半だけでも――

  去年の暮れに,自分でしょいこんだ2面のほか,さらに2面の修理が舞い込むなか,阮咸さんを仕上げウサ琴を試作し,サイレント月琴・カメ琴まで作ったわけで。
  いや,読み返して見るとけっこうやっとるなー,と。

  さて,しかれども貧乏人に休みはない。
  かといってべつだんコレで稼いでるわけでもないので,ムシロ働くほどに貧乏になってゆく今日この頃ではありますが。

  明清楽月琴代用楽器・兎琴,通称「ウサ琴」。

  第二弾に参ります。

  今回は4面同時製作に挑みます。
  目的は二つ。

  一つは響き線の形状や棹の材質の違いによる,効果,音質の変化の比較。

  もう一つは,あるていどの数を同時に作ることで,月琴の工程や加工のまだ分かっていない部分を解決すること。

  月琴は大流行した楽器です。

  そうした当時はどの職人も,ある程度の数をまとめて製作していたはず。
  楽器に限らず,モノを一個だけじっくり作ってゆくときと,あるていどの時間制限の中,何個かまとめて作るときでは,おのずと使われる技術・技法が違ってくるものです。

  そのへんから何か糸口がつかめればと。



エコウッド
  胴体は前回と同じくプログレスさん謹製,エコウッド円形(30cm 径)。
  5cm 幅のものを半分に切って使います。

棹材(オンコ)
  棹の材料はとりあえず3種類用意しました。
  ほんとは四本,ぜんぶ違う材でやりたかったんですが…ちと資金難でして。
  いつもののほか,イチイとチーク。桂とチークはすでにウサ・カメと試し済みですが,イチイは今回がはじめて。わたしの故郷では「オンコ」って言いますね。

  よく旧家の庭先に古い樹をみかけます。中は腐れてすっかり空洞,外から見ても枯れ果てたような灰色で,壊れたバネのようにくねった,スケスケの皮だけみたいな樹が,春になるとちゃんと新しい緑の葉を茂らせる――厳寒に耐える丈夫で長生きな樹です。
  夏になると赤くなる実は甘く,こどものころよく食べましたね。
  ギターのブレーシングなんかに使っている人もいましたが,たしかアイヌの「トンコリ」はこれを使っていたのではなかったかと記憶しております。

  ちょっと期待大。

  糸倉も前作と同じく桂の版画用板(1cm 厚)。前回の製作の時,半月といっしょに切り出しておいたものを,とうとう使用いたします。

  さァ,出番だぜ!



STEP1 棹を作る

  工程は前と同じ。

  ただし前回は棹だけ先に試作しちゃってたんで,そのあたり,ちょっと記録が間に合いませんでした。
  今回はちゃんとイチから書いてきましょう。

  まずは糸倉を作ります。
  本物の月琴の糸倉は棹と一体で彫りぬきの一木作り(天のところに間木を埋めることが多い)ですが,作業スペースと資金の関係で当工房では寄木で作っています。工程は,写真左から――

糸倉工程
  1)板から糸倉の左右を糸ノコで切り出す。

  2)両面テープで二枚を貼り合わせ,左右そろうように木口を整形。

  3)はがして棹と合わせる。


糸倉工程(2)   2)の時は,削るたびに木口のところに,布でラックニスを染みこませます。
  乾燥してから次の削り。仕上がりまでちょいと削ったら,ニスをしませのくりかえし。写真左はその加工中,表面はまだボサボサしてますが,木口にニスが染みてるのが分かりましょうか? 右は磨いたものです。木目が見えてきてますね。

  桂はそれほど堅くない木ですし,もともと板の木口の部分は弱いので,こうして木固めをしながら作業をしないと,余計なところを欠いてしまったり,削りすぎたり,なめらかに削れず仕上がりが凸凹になったりしてしまいます。



  棹の方は3cm角ほどの角材,長さおよそ20cm。

  指板の貼られる部分は 15cm ,山口(ナット)をおくスペースに1cm,胴体にさしこむホゾの部分に3cm ほど使いますが,そのほかこの後の作業でしくじったりしたとき修正できるように,少し長めにとっておいたほうが良いですね。

棹工程
  1)片方の先から左右を,長さ6cm,幅1cm 切り落として頭を「凸」のカタチにする。

  2)この 凸 の左右を内側に1cm ほど切り下げて,糸倉をハメこむ「ウケ」を作る。


  糸倉の板とウケの角度がピッタリで,ハメただけでビクともしない――てのが理想ですが,現実はそれほどチョコレートパフェ。
  これを正確に擦り合わせるのは,けっこうタイヘンです。

  わたしは糸倉のほうを先に削っておいて,あとはとにかく棹の「ウケ」のほうを合わせるようしています。先にも書いたように,棹の方には「しくじった」時用の余裕をつけてありますから,思いっきりしくじって,ウケを切りなおすことになっても(1回だけですが…)大丈夫。
  一方,糸倉のほうは削って短くしちゃうと,左右が合わなくなってイチから作り直しですもん。

  桂のと,チークのが,ちょっと短くなってしまいました。
  うう…棹ホゾにまわす分がギリギリだよぉ。


  イチイという材を削るのははじめてだったんですが。
  持った感じはそれほど重くないんですが,じゅうぶんに堅く,また針葉樹とは思えないぐらい粘りのある材でした。拍子木みたいに叩いてみると,乾いたいい音がします。

  これはやっぱり,イケるかもしれませんね。



棹工程(2)
  糸倉と棹のウケの擦り合わせができたら,棹と糸倉を接着します。
  ニカワを塗る前に,両方の接着面にあらかじめお湯を少し含ませておきましょう。

  同時に糸倉の先端と,背の根元のところに木片をはさみこみます。
  幅は糸倉の内側,棹の凸の部分の幅同じ。
  どちらもあとで整形しやすいよう,幅以外はちょっと長め,大きめのほうがよろしい。

  すべての部品にニカワを塗ったら,クランプで固定します。
  二日ほどそのままにしたら,いったんクランプをはずし,指板を接着。

  ニカワを塗る前には,接着面にハミ出た乾いたニカワや表面の凸凹を均しておきましょう。

  指板は今回も新木場でもらってきたギリギリ黒檀。
  「銘木」的には多少問題がありますが,とにかく黒檀。
  材質・強度的には何ら問題はありませぬ。

  厚みも4~5mm ほどあるんで,棹材の方が多少ナニでも,絹弦のテンションくらいならじゅうぶんに持ちこたえてくれましょう。

  またまた,クランプでしめつけ,一~二晩ほど。
  ニカワ派なもので,このあたりに時間がかかるのはどうにもなりません。



棹工程(3)
  二日ほどのち――この時点で作り始めてから四日ぐらいたってるワケですが。

  クランプをはずすと,チョコがけお菓子みたいな四角い物体が出来上がっています。

  工房製の糸巻きを見た人によく「こんなふうに六角形にするのはタイヘンだったでしょ?」なんて言われることがありますが。じつは六角形に削るの自体は,タイヘンに「楽しい」作業なのです。
  ツラいのはその前。
  四角い角材の四面を斜めに落として,頭の平らな四角錐にする作業――これがイチバン「タイヘン」。
  六角形のものを作るために,延々と四角錐を切り出し続ける…一本で四回,一面分の糸巻きのために16回もそれをくりかえすんです。

  それに比べたら,正確な六角形を削りだすことの,なんと挑戦的で甘美なことか!
  こうした素体作り,下ごしらえのツラい作業をワタシは「四角い作業」と呼んでおります。


  棹作りもここまでは「四角い作業」。
  時間ばっかりかかって,面白くもなんともありませんが,ここからが暫時の至福。

  この四角い物体を,美しい曲面で構成された,楽器の「棹」に仕上げましょう。

棹工程(4)
  まずは棹の根元に,胴体にさしこむ 凸ホゾ を刻みます。
  このホゾは棹と胴体をつなぐ大事な部分なので,ピラニア鋸などを使って,なるべく正確に挽きましょう。

  つぎにふつうのノコギリや糸ノコを使って,粗削りをします。
  あとで削るから,これはほんとだいたいでイイですね。

  あとは木工ヤスリの出番。
  わたしはノミやカンナといった刃物の類で削ってゆくより,ヤスリでゴリゴリやってゆくほうが好きだし,得意ですね。ただの角材みたいだったシロモノが,一ゴリゴリごとに「楽器の棹」に仕上がってゆくのは何とも楽しいですよ。

糸倉削り出し工程

  糸倉部分のだいたいの作業手順をGIFにしてみました。

  1)棹の背のところをノコギリで削ぎとる。

  2)糸倉の背中に残った 凸 を糸ノコ・ヤスリで削り取る。

  3)指板の端から5mm くらいのところの左右を丸棒ヤスリでエグる。

  4)棹の左右をヤスリで削ぎとり,テーバーをつける。

  5)仕上げ。糸倉の根元,棹の背をヤスリでなめらかにする。


  最後の5)で,糸倉の根元から棹にかけての部分(色の濃いあたり)を,なだらかでなめらかな曲面で仕上げるのが,やはりいちばんムズかしい箇所でしょうか。

  ここの作業ばっかりはちょいと感覚的で,コトバでも図でも伝えきれないですね。
  木口のもっとも削りにくい部分にあたっていることもあるんですが,この部分の微妙な曲面の姿と仕上げ一つで,棹全体がウツクしくなったりミニクくなったりするというのは,いままでの修理で知りえたところであります。


  棹の背の部分は,何度も弾くときみたいに握ってみては削ってゆきます――まあ,あんまり握って弾く楽器じゃないんですが。

  すごいですよね,ニンゲンの手先・指先の感覚って。

棹工程(5)
  もう最後の方になると,凸も凹も目なんかじゃあ分からないレベルになってきます。
  それを,目をつむって指先でなぞる。
  丸棒ヤスリで一こすり二こすり。
  またなぞる――紙やすりで一拭き,二拭き。

  材質によって,ヤスリのかかり具合が違って面白いですね。
  イチイはカリカリ,チークはモロモロ,桂はサクサク。
  桂のがちょっと細めになったほかは,だいたいカタチは揃ったかと。


  4本削り終えるまでの所要時間はおよそ3時間。
  準備にかかった時間と比べると,至福の時間は,短い。

  ※ ひさしぶりに作ったんで,GIFアニ熱ちょっと再燃しちゃいました。
    「棹作り物語」GIF版,どぞ~。

棹作り物語




  いつもナゼカ忘れてしまうんですが。

  今回もあやうく後回しにするところでした(汗)。

  糸倉に軸穴をあけます。
  ――小町の糸倉じゃあ楽器にはなンめえ。

軸穴あけ(1)
  と,そこで問題が発生。
  考えてみますれば,前回のウサ琴の棹は1号月琴のフルコピーでしたんで,穴の位置なんかも1号のを測って丸写しすればよかったんですが,今回の棹は糸倉も含めてオリジナルの寸法,デザインであります。

  どこにどう穴あければカッコが良いのやら?

  4号やコウモリ月琴のように,軸が横にまっすぐ突き出るタイプならば,軸同士の間隔だけを決めれば良いので比較的ラクなんでしょうが。わたしは個人的に1号月琴の糸倉のように,やや末広がりになった配置が好きであります。
  三味線に近くて,操作性に慣れがあるのと,真っすぐなタイプより軸先の摩擦面が大きいので,糸がユルみにくいのです。

軸比較
  とりあえずは手持ちの月琴の軸穴の位置や間隔を測りまくり,今回新作の糸倉のサイズにあてはめてみて,だいたいの理想の位置ってぇモンを割り出してみました――しかしながら結局のところ。
  

  「とりあえず一本,"棹身御供","棹柱" になってもらいやしょ。」

  ということに――いや,やっぱり数学のテストで「3点」(式の「一部が」合っていた,らしい)という赤点をなしたことのある庵主。
  数字では分かりません。

  右が計算の結果の,理想形の数値を参考にあけてみた試作品。
  左はそれをもとに修正したもの。
  「修正」といっても,ほんの1~2ミリのハナシなんですが,まあ姿の変ること。

  試作品も穴あけなおすのタイヘンだし,これはこれでこのままイキましょ。

軸穴あけ(2)
  リーマーで穴を広げ,仕上げに焼き棒をつっこんで,軸穴の内面を焦がしてから,最後の擦り合わせをします。


  これにて棹本体は,ほぼ完成であります。

彼氏月琴(終)

KARE03.txt
斗酒庵 彼氏月琴怒りの修理! の巻彼氏月琴(終)

STEP5 胴体の塗装

  胴体および棹の基礎工事は終わりました。

  というより,これ以上のことをしてあげられません。

  いちばんは体内に残るクギをぜんぶ抜いてやりたいのだけれど,前回述べたような理由で抜くことが出来ない。
  今回の作業は「修理」というより「延命処置」ですね。

  より長く音を奏でていられるように,より長く弾いてもらえるように,少しでも楽器が長持ちするように手立てをするだけ――もとは無限に近いイノチを持ってたのにね。


  オリジナルの木部には擦り漆程度の薄い塗装がなされていたようです。

胴体の塗装(1)
  本来この楽器はその程度の塗装で良い。
  もっとも,今回はその上から前々修理者か骨董屋が,オイルステンか水性ニス様を塗ってくださいやがっているようです。

  まずはそいつをハガして,内部のクギに湿気の影響などがおよびにくいよう,また補修箇所の補強のために,あらためてこってりと塗りこめることにしましょう(苦笑)。


胴体の塗装(2)
  今回も下地~中塗りは日本リノキシンさん謹製,シェラックコーパルヴァーニッシュを使用。

  下塗り段階でもう,けっこういい木の色が出てたんで,カシューによる上塗りも4度ほどで済みました。


胴体の塗装(3)
  最後の塗りから一週間ほど乾かして,塗装終了!

  さあ,あとは仕上げを待つばかりです。



STEP6 お飾りを作る

お飾り(1)
  乾燥待ちの間に,お飾りを作っておきましょう。

  オリジナルは右のがほぼ完全なものの,左はかなり欠損してしまっています。
  はじめは欠けた部分を継ぎ足していこう!と思ったんですが――いや,新しくこさえたほうが早いわ,こりゃ。欠損部分が多すぎます。


  ちなみにこのお花,何だと思います?
  某SNSのコミュニティでも質問したんですが,草花に詳しい方々でもよう分からんとのことでした。

  花の形がかなり意匠化されてしまっているので,ちょっと判別に難いところはあるんですが,どうやらこれは「ツユクサ」の類のようです。

オオトキワツユクサ
  いちばん雰囲気が似ているのは「オオトキワツユクサ(→)」なんですが…これは昭和初期に入ってきた帰化植物とのこと。この楽器の製作年代は,おそらくそれよりちょいと古いのが難。

  ツユクサの古名に「月草」というのがあるそうです。
  万葉集にある歌が典拠といわれています。

  「月の草」なら「月の琴」に付いていて,何らフシギはござんせんでしょ?

  もっとも,その万葉集の歌に出てくる「月草」というものは,じつのところ正体不詳の植物で。
  この「ツユクサ=月草」というのも,江戸時代にはじまったいわゆる「学間の巷説」みたいなものなのですが,巷説だけにかえって広く浸透してしまったようで――月琴を弾くような風流人だと知っていたはずです。


お飾り(2)
  まず全体のフォルムは欠けの少ない右のお飾りを参考にし,左右ともに欠けている部分については,似たようなお飾りの例から推測します。

  材はいつものアガチス。

お飾り(3)
  だいたいのカタチができたら,両面テープで木片にはりつけて,2/3程度の厚さまで裏を削って薄くします。


お飾り(4)
  仕上げ彫りを済ませたら塗装。
  細かい彫りをする前に,あらかじめ裏に和紙を貼っておくとラクですよ。

  今回は「オハグロ」――ヤシャブシと反応させて真っ黒にしたベンガラとその溶液――で黒く染めます。


お飾り(5)
  染め終わったお飾りは,ウェスにラックニスを含ませたもので表面をたたくようにして仕上げます。
  何度かニス塗りをしたら,木目方向に歯ブラシで擦ってやりましょう。
  表面の糸屑とかもとれるし,いい風合いが出ます。

  この塗装はオハグロ・ベンガラをとめる程度のものなんで,テカテカになるまでやることはありません。
  まだちょっとつや消し状態でやめときましょうね。


お飾り(6)
  左右の目摂は残ってましたが,扇飾りはなくなってしまったようなので,こちらはイチから新作せにゃなりません。

  ――まあ,無難なところで,定番のコウモリさんでいきましょう。



STEP8 仕上げ~完成

  まずはマスキングをはずし,#2000のペーパーに石鹸水をつけて,塗装面の磨きあげをします。
  今回はカシューの層が薄めですから,やさしくやさしく。

  カシューは乾きが遅いので,どんなに注意しても表面に細かいゴミやチリがついてしまったりしますが,こうやって磨いてるうちに,だいたいはとれてしまいます。
  表面が平らになり,一様に白っぽく曇ったら磨きは終了。

  この段階で表板の再塗装もしてしまいましょう。

  表板の塗装で砥粉がついちゃったりしますからね,最後にカシューで塗装した部分を掃除がてら,亜麻仁油をちょっとつけた布に研磨剤(白棒)を粉にしたものをつけて軽く磨いてやりましょう。
  これがほんとの仕上げ。へんにテカらず,しっとりと落ち着いたツヤで仕上がります。

  ただ磨き終わったら,油が乾くまで一晩ぐらいは触らないようにしてやりましょうね。
  指紋とかがついちゃうことがありますので。


フレット
  このオリジナルのフレットは竹製。

  ほとんどオリジナルのまま残っていたようですが,第4フレットのみ欠損。
  写真にあるのは前にミウさんが来室した時,庵主が応急に作ったローズウッド製のものです。   一見,煤竹とかのようですがこの茶色い部分は塗りです。

  新作のフレットはこのところの工房定番,やっぱり竹のフレットです。

フレット(2)
  削って,たてて,位置と高さを調整して(ここまでは早い!)。
  両角落として,両面磨いて,お湯で下茹で。
  ついでヤシャ液+柿渋+二鍋頭(北京の焼酎)の溶液で煮込んで,一晩漬け込み。(だんだん)
  翌日乾燥後,ラックニスを塗ってさらに一晩。(遅くなって…)

  乾いたところを磨きまくります。
  竹をツヤツヤに磨き上げようとするのはけっこうタイヘンなもので,8本仕上げるのに約3時間もかかってんですよ!
  はじめは早いんですが,手間は前のツーピースと同じくらい…多いぐらいですかね。

  さてここまできて,細かい仕事が2点発生。


  半月の取付位置が,左にわずかにズレてしまったようです。

  オリジナルの取付痕どおりに接着したんですが…表板の接着でズレたのか,もともとこうだったのか?
スペーサー接着中
  それだけならまあ,誤差の範囲内程度のものなので,演奏上さしたる問題もないのですが。

  山口の手前の指板の切れ目がちゃんと真っすぐになっていなかったため,山口をそのまま取り付けると,半月のズレと相まって,糸が誤差の範囲外に飛び出しちゃうので,手直しせにゃなりません。

  まずは指板の端をちょっと切りなおして,黒檀の板を細く切ってスペーサーを作ります。
  つぎに外弦を張り,弦の左右のバランスを見ながら,山口との間に噛ませたスペーサーを削って調整。
  半月から山口まで,弦が左右バランスよく通るようになったところで,スペーサーを接着します。
  小さな部品ですが,ナットのそばなんでしっかりくっつけましょ。

  板切れを2枚組み合わせて,糸倉の背にはコルクをはさみ,輪ゴムでとめてみました。


ヒビ(1)
  つぎに表面板の塗装後,板の右下にヒビが再発。

  ヤシャ染めで濡らしたからですね。板も傷んでいるのでこれくらいはしょうがない。

  もっとも,この手の修理は手馴れたもの。
  こんくらいのヒビじゃもう,ビビりもしませんわ。

  まずは周辺を少し濡らしてから,薄めたニカワを筆でヒビにたらしこみます。


ヒビ(2)
  ニカワが固まらないうちに,ヒビに沿って両側を指でウニウニっとマッサージするようにしてやって,ヒビ全体にニカワを行き渡らせ。
  仕上げはヒビの左右のポイントにだけ圧がかかるように板辺をおいてクランプ。

  押せば見えなくなるくらいのヒビなら,翌日にはピッタリくっついてます。

  クランプするまえに,ヒビの上に和紙をかけとくと,ニカワが板にくっつかなくっていいですよ。




  そんなこんなも乗り越えて,フレットをたてて,お飾りを付けて。

  2007年5月16日――「彼氏月琴」半壊の淵より帰還す!!


彼氏月琴4面



修理後所感

蓮頭側から
  胴径からいうとやや小型の月琴ですが,器体のバランスはよく,フレットも低いのですごく弾きやすい楽器です。

  オリジナル加工がいいのですね。
  これだけ修理を重ねているのに,そのあたりは変りません。

  あらためて眺めると棹なんかも,糸倉のアールがやや深く,蓮頭の位置も山口から見てかなり下のほうになってます。本タガヤの指板,わずか末広がりに配置されたやや長めの軸とあいまって,小ぶりながらじつによくまとまった美しいデザインになってます。

糸倉側面
  胴体の各所に残る加工痕を見たり,お飾りを複製するのにその刀跡をなぞってみたりしてても感じられたんですが。この楽器の作者は,ほんとうにウデのいい職人さんですよ。


  音は大きくもなく派手でもなく,「ふつうの月琴」の音色です――イヤ,このところ「赤いヒヨコ」とか「楓渓さん」みたいな「月琴らしからぬ」巨音月琴が続いたんで,なんだか落ち着くなあ。

  正統派癒し系楽器の音色ですね。

  コウモリさんとおなじく,さすがに使いこまれた楽器だけあって「枯れた」味わいの音。
  コウモリさんとくらべると,やや軽やかかな?




   彼氏月琴音源集(MP3)

月琴の内部構造について

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月琴の内部構造について月琴の内部構造について


  さて,ウサ琴の製作は,この月琴という楽器の構造について知るための実験でもあります。
  今回は,阮咸さんと前回のウサ琴でやった,2本桁渦巻き線の構造をのぞいて,4種類の内部構造を再現し,それぞれの特性や効果について調べてみたいところ。

  材質の関係で桁の方を真ん中1本にする,というわけにはいきませんが,いまのところ再現する予定なのは,もっとも単純な響き線が直線1本(1号・信樂寺)のタイプと,左肩から半周する曲がった響き線を持ったもの(松音齋・彼氏月琴),上下に直線2本(鶴壽堂)と赤いヒヨコ(太清堂)のフシギ構造

  勢作に際して考えていると,とうぜんのごとく。
  上下の桁の間隔とかどうすればいいだろか?――などイロイロとギモンが湧き出てきます。

  まあ外見のサイズはともかく,この内部構造に関する限り「定番」とか「規格」といった概念がほとんど見当たらない楽器なのではありますが。
  とりあえずは中国月琴と楓渓さんをのぞく,工房でオープン修理を行った月琴,ほぼすべての内部構造をならべて,比較をしてみることといたしましょう。


内部構造一覧

   *** 特記なき写真は裏面板がわから ***
   *** 単位はすべて mm *** 
   *** 「桁 ○ ○ ○」 は,桁の本数 響き線の位置 材質 本数 *** 
   *** 「上/下」 等は,桁間にある空間の最大間隔 *** 
1号 2号 ■1号月琴
桁2 中央 鋼 直1本
胴径 355
上 93/中 111/下 111

■2号月琴
桁2 中央左右 鋼 渦2本
胴径 350
上 84/中 140/下 72
3号 4号 ■3号月琴
桁1 下部 鋼 直2本
(斜下中央で交差)
胴径 347
上 152/下 152

■4号月琴
桁2 中央 鋼 曲1本
胴径 350
上 123/中 123/下 49
鶴壽堂 信樂寺 ■鶴壽堂
桁2 中央・下部 真鍮 直2本
(左右逆)
胴径 357
上 74/中 108/下 130

■信樂寺
桁2 中央 鉄 直1本
(先を曲げる)
胴径 347
上 73/中 130/下 90
松音齋 コウモリ月琴 ■松音齋
桁2 左上~右中央 鋼 曲1本
胴径 350
上 130/中 130/下 61
 ※ただし上桁 右傾約10度

■コウモリ
桁2 中央 鋼 曲1本
胴径 353
上 128/中 128/下 63
 ※写真は表面がわから
太清堂(赤いヒヨコ月琴) 彼氏月琴 ■太清堂
桁1 真鍮 中央直1 
最下中央より右傾して特殊構造1組

胴径 353
上 127/下 183

■彼氏月琴
桁2 左上~右下 鋼 曲1本
胴径 347
上 117/中 151/下 42
 ※写真は表面がわから



赤いヒヨコ月琴(終)

MOONH26.txt
斗酒庵 太清堂の月琴を直す 之巻赤いヒヨコ月琴(終)


  さて,何度も言っているように,今回の月琴は塗装の要がないので気がラクです。

  もっとも,保存状態が良いとはいえ長期放置されてたせいで,棹や側板はくすんでツヤ無し状態です。
  オリジナルは木地の色もほとんど変らない程度に,拭き漆のナチュラルな塗装がされているようですんで,ヘタに研磨剤とかでゴシゴシやると落ちちゃいそう。薄めたラックニスで,表面の掃除がてら拭いてやりましょう。

  少し色が濃くなりますが,自然なツヤが甦ってきます。


STEP10 お飾り製作

修理前・お飾り全景
  「修理の本筋」からしますと,一部なくなってるとはいえオリジナルのお飾りが健在なわけですから,これを戻すのがスジというもンでしょうが――ですが,オリジナルのお飾りは,どれも歴史的・資料的な価値がそれなりにありますから,象牙の山口・フレット等とともに保存・伝承していただきましょう。

  今回の修理は,「お飾り」だった月琴を「弾ける」楽器に再生するのがメインですので。

――と言ったところがアクマで建前で…正直なところ,こんなヘンテコな飾りの付いた月琴,わたしなら弾きたくない。練物の真っ赤なトリに,ミミズみたいな太湖石…天が許してもワタシ個人のビイシキとかいうものが許してくれません。
  飾り刀の金銀キラキラな拵えを,実用本位の黒糸巻柄・呂色鞘にしたようなもん(分からんか…)だとでも思ってください。

  「実用月琴」にふさわしい,も少し趣味のいい(?)新たなお飾りを,琴士・斗酒庵,あつらえさせていただきます。


  左右の目摂(仏手柑)のみは,ややサイズがナニなものの,姿も状態も悪くないので残しましょう。
  また,指板の紫檀材があまりに美しくて,余計な飾りで隠すのがもったいナイので,棹上にはお飾りはつけないことにします。

  作るのは中央の円形飾り,扇飾りなど胴上柱間,つごう5つ。
  まずは中央の飾りから行きまっしょい。

桃・石榴
  絵柄は中国で伝統的に描かれる吉祥図に沿って決めてゆきます。

  桃を「多汁(=多什=物持ち)」,石榴は「多子(実が多い=子供が多い)」,仏手柑を「多宝(さて?理由不明)」として,このお目出度い三種類の果実をまとめて「三多」と言います。

  このうち「仏手柑」はもうありますので,あとは「桃と石榴」を足してやればいいだけ。
  まずはこれで「三多」の図,の完成です。

連年有余
  つぎは扇飾り。
  よくある「萬代(唐草模様みたいに絡まった帯の図柄)」も「蝙蝠」も,ちょいとほかのところに使いたい腹づもりがあるので,ぜんぜん別の絵柄にします。

  オリジナルでは「ウナギ」みたいなのがのたくってました(たぶん「如意笊」の成れの果て…)から,お魚系がよろしかろう。
  ということで図案集を紐解き,選んだのはこちら。
  魚(鯉)が口に蓮の花をくわえています。
  これは「連年有余(いつでも余裕!)」という図柄。
  「連=蓮」「魚=余」が同じ音なんですね。

鶴
  もうはずしちゃいましたが,この月琴にはアダ名のもとになった「赤いヒヨコ(たぶんオシドリ)のほか,幾種類も鳥の飾りがついていました――せめて「鳥」さんが一匹くらい,戻ってきて欲しいところですね。

  というわけで扇飾りの上には「鶴」がつきます。
  ――コウノトリ? いえ!ツルですよっ,ツル! ちょっと彫りがナニなだけだってば!

  「鶴は千年,亀は万年」のコトバを引くまでもなく,長寿をことほぐ目出度い鳥であることは言うまでもありませんが,今回はそればかりではありません。

蝙蝠
  扇飾りの下は月琴のお飾りの定番中の定番。
  「蝙蝠(コウモリ)」です。

  これが今回は「鶴」サンの相方にょろ。

  先ほど揃えた「三多(桃・榴・柑)」とこの「鶴」「蝠」が組み合わさると,四字熟語のお目出度が二つも顕われてきます。すなわち「福寿三多(蝠鶴=福寿)」「三多接福」ですね。

芭蕉
  そして最後,最終フレットの上の空間には「芭蕉と盤常」を入れましょう。

  「芭蕉」は「八祥」と音が近いのと,長い葉がボロボロになっても千切れないことから,長寿,長久の象徴となっています。
  もう一つの「盤腸」というのは紐状の飾りで,「結びまんじ」なんて意匠の一種。メビウスの輪のように際限なくつながったところから,こちらも長命・長久の意匠。
  胴体の円形を「銭(=宝=富)」に見立てたとき,「長命富貴」というお目出度になります。


  月琴という楽器の意匠は,元来がこうした「お目出度尽くし」で出来ています。
  そのかたち自体が「円満如意(=胴体+棹)の意匠ですし,コウモリが飾りに多いのも「月=夜」という連想だけでなく,円形の胴体を昔の穴あき銭「眼銭」に見立てて「福在眼前(蝠+眼銭)の意味を持たせたものです。そのほか目摂の意匠としてよくある「菊」や「牡丹」も「富貴」を意味しています。

  この楽器に戻りますれば。

  オリジナルの蓮頭の意匠は「牡丹」ですよね。お飾りの意匠をバラバラにすれば,牡丹と石榴で「百子富貴」の意匠にもなりますね。蝙蝠と桃だと「福寿臨門」。蝙蝠に胴体の円と蓮で「福縁連至」,おなじく胴体を「銭」として扇飾りの「魚」と合わせて「金銀有余」――まだまだありますがくたびれた。


  こうした意匠のほとんどは,中国語での語呂合わせやシャレ言葉のようなものが元になっているので,楽器が日本で作られているうちに元来の意味を失って,ただの「よく付いてる」というくらいのお定まりのお飾りになったり。時としてはデザインが変ってしまったり,まったく別の,カッコばかりで意味のない意匠にすげかえられたりするようになりました。
  まあ,しょうがないですがね。



  ちなみに,今回のお飾り。

  木地の色のものは砥粉とラックニスですが,黒いのは「おはぐろ」の作り方を利用した液で染めてみました。

  もともとはCRANEさんのHPで,木ペグを「三度黒」で染めるという記事があって,あ~一回真似してみたいな~と思っていたんですが,ログウッドの染液やら媒染剤やらで,けっこう入費になります。
  ほかに似たような方法がないかいな~,とWebあちこち彷徨うなかでふと目に付いたのがこの「おはぐろ」でした。

  ふだん面板を黄色に染めるために使っている「ヤシャブシ」ですが,鉄と反応すると黒く発色するそうで。江戸時代,既婚女性が歯を黒く染めるのに使った「おはぐろ」は,古クギなどの鉄と酢と水を煮詰めた液と,五倍子やこのヤシャブシの粉を混ぜたものだったそうな。

おはぐろ
  うむ,酢は台所にあるしヤシャブシもある。鉄…ベンガラは酸化鉄だわな。

――で,ぜんぶをガラス鍋にぶちこんで煮詰め,数日放置したところ。

  ちゃんと黒い染料ができました。

  布を染める時などはこれを漉して使うんですが――木工の色づけですから。真っ黒い「ベンガラ塗料」として,ドロドロしたところも使います。
  合成染料とかでよくある「黒」ほど「真っ黒」過ぎない,自然な風合いの黒が出ますね。

  茶ベンガラの塗装と斑になるように合わせたり,ラックニスでポリッシュ風に仕上げると,ちょっと檀木風にもできます。以前は同じ事を茶ベンガラの上からカシューの重ね塗りでやっていたんですが,最初から真っ黒な分,こちらのほうが手間と時間がかかりません。

  表面塗料として使うときは,少し温めてからの方が良いようです。
  また,小さな部品なら湯煎するときにいっしょに煮〆てしまうと,けっこう染みこんで黒くなります。


  以上,貧乏は発明の母のコーナーでした。


上から
  左右の目摂はオリジナルの位置なんですが,ちょっと寄り目ちゃん気味かな?   最後に彫った芭蕉が,ちょっと大きすぎたかもしれませんが,お飾りがぜんぶモノトーンになったんで,全体にいっそう「実用楽器」っぽく見えるようになりましたね。

  最後に絃停を貼って,糸倉のところに紐飾りを結います。

  2007年5月3日。

  「赤いヒヨコ月琴」あらため「太清堂の月琴」,修理完了です!

全景



彼氏月琴(2)

KARE02.txt
斗酒庵 彼氏月琴怒りの修理! の巻彼氏月琴(2)

  さて,棹の方はだいたいカタがついたようなので,胴体にまいりましょう。
  ここもまたヒドいといえばヒドいが,もうどうにでもなれです。

  表板はヒサンそのもの。
  ヒビに割れ,汚れに釘痕,木工ボンドとパテの痕。

  裏板もけっして「良い状態」ではありませんが,楽器再生の上で支障になるような箇所はないので,ハガすに及ばず――全面にほどこされた表板同様の過去の悪行を後世に伝えるため,そのままとしておきます。

  まずは板をひっぱがして,内部構造を見てみましょうか。


内部観察

彼氏月琴内部(全景)

彼氏内部(1)
◎桁 二本桁。

  取付の角度は平行。配置。工作等は4号月琴に似る。上下ともに音孔は左右2つ。

  上桁は左右側板の内側に浅くホゾを彫り,ハメこみ。ほぼオリジナルのままと思われる。
  下桁は左右端を斜めにそぎ落とし,直接ハリつけ。
  接合部に木工ボンドで付け直した痕があるため,この下桁の原位置に関してはやや疑問があるが,半月のほぼ真下に位置している。

  上下ともクギを打ちつけた穴が面板との接着面に残るが,クギ自体は木部に残っていない。

◎側板 最大厚 8.5mm 最小 5.5mm。

  4枚凸凹継ぎ。薄い。ここまで薄い側板ははじめてである。
  加工はほぼ均等。ウデは良い。

  面板との縁周接合面にアタマのないクギ多数,表面板がわだけで15~6本を確認。

◎響き線 1本。

  左肩口から上桁にあけられた大きめ穴を通り,弧を描きながら下桁左右の音孔をギリギリ抜いて,胴内をほぼ半周,取付部の対角線あたりまで延びる。基部が側板に直接でないところは異なるが,形状は松音齋月琴と同様のタイプ。
  鋼線はやや細めで径およそ0.6mm。錆びはわずかにあるが,状態は良い。
  基部のブロックは側板にホゾを彫り接着固定。響き線の端をU字型に曲げて穴に押し込んだあと,クギを打ち付けて固定したもののようだ。

彼氏内部(2)
響き線(1)
響き線(3)

墨書
◎墨書数箇所。

  いづれも作業用の指示。

  ○表板内面に「二上」。
  ○側板接合部左右に一~四までの漢数字(一部下桁の接着部分に隠れて見えず)。
  ○側板天地および面板内面に中心線。
  ○桁中心に目安線。
  ○上桁地側の面板上,中心線上に小さな「×」。
  ○下桁の地側と,接する面板の中心線上に小さな「○」。


表板内面
◎そのほか。

  内部の状態は思ったほど(外側の状況ほど)酷くはない。
  あちこちに木工ボンドによる再接着痕が見えるほか,とくに側板の接合部裏には,コレデモか!とばかりにコッテリ,パテか何かのように木工ボンドが盛られているが,これはこれでしっかりとくっついてるし,いちおう補強になってるのでハガす必要はないだろう。ただし二度と直せない状態である。

  表面板向かって左右のヒビ。
  左のものは通常の板割れだったが,右下のものは内側か見て虫害によるものと分かった
  内面,半月の裏につきだしたクギの横に虫食いが見えるがそれほど深くも大きくはない。
  絃停の皮か接着に使ったフノリを狙って,表がわから侵入したものと思われる。



STEP2 表面板の修理

表面板(1)
  まずはここからはじめましょう。

  ベリリとハガした表板。
  お飾り,フレット類はもちろん半月もハズしてしまいます。

  いづれも木工ボンドで再接着されてるんですが,有難いことに作業が雑なので比較的はずしやすかったですね――ただし,その接着痕をキレイにするのがタイヘンです。
  ニカワなら熱湯を含ませた布でさッと拭いてやれば数回でキレイになりますが,木工ボンドは何度もお湯を含ませ白っぽくふやかしてから刃物でこそげるしかありません。

  リムーバーの類の薬品を使うのも手ですが,それもそれで板への負担があります。
  だいいいち余分な金がかかる。

  だから安易に使うな!と常々言っておるのです…呪われマスよぉ,後々の修理者の方々に。

  ヘコみやキズにはとりあえずパテを盛大に盛っておきましょう。
  前修理者の家庭用木工パテ(ぼやけた赤茶色をしているやつ)は,主成分がアクリルとかエポキシですが,こちらはいちおう木の粉。
  使わない方がイイとはいえ,まだマシ。
  裏面の虫食いも埋め木するほどではないのでこれで埋めちゃいます。

  ヒビ・割れは薄く溶いたニカワで継いで,裏から和紙をあてて固定しておきましょう。
表面板(2)
表面板(3)



STEP3 半月の再接着

半月(1)
  表板がまあキレイに(?)なったので,とりはずした半月を修理して戻します。

  依頼者が「天候によってよく音が狂う」と言ってましたが…そうでしょうそうでしょう。
  糸倉のほうもイカれてましたが,その反対側もイカれポンチです。

  なんせこの半月,表板にちゃんとへっついてませんでした。

  ポロリととれたのを木工ボンドで着けようとしたみたいですが,オリジナルのニカワを紙ヤスリでテキトウ削り取ったさい,裏面が平らじゃなくなってしまったらしく。ボンドでついてるのは真ん中と左右のほんの一部だけ。端っこのほうは浮いていて,板にもボンドがまったくついていません。

  いわば真ん中にささってるクギでもって,なんとか板にへばりついてた状態で。
  そのクギとて,もともとテキトウに打ち込んだもの。
  クギの先の板の下は何にもない場所なんですから,まさに「屁のつっぱりにもならん」ですよ。
  抜け落ちはしないものの,弦を張るとその張力で,半月がこのクギを支点に左右にわずかに傾くわけですな。

  これで音が狂わないほうがオカシイ。

半月(2)
  まず裏面を平らにします。

  紙ヤスリを板に固定した上でこすこすこす。
  あんまり均すと低くなりすぎて楽器のバランスが狂うことも考えられるので,めくりあがってしまった端の一部はそのままに,狭い接着面をできるだけ広げる程度にします。

  オイルステンか何か塗ったな~?

  変な茶色の染みがこの裏面にもついてますね。

半月(3)
  この正体不明の塗装をはがしてから,三つあいたクギ穴には埋め木とパテを盛り,ラックニスで拭き,カシューで拭き漆風に仕上げます。

  作業中にパテが痩せて,クギ穴痕がちょっと残っちゃいましたが,まあこんなもんでいいでしょう。

半月(4)
  塗装の終わった半月を表板に圧着します。

  桐板の接着面は,少し荒めのペーパーをかるくかけて表面を荒らし,お湯を少し含ませておきます。
  双方の面にニカワをまんべんなく塗り,取付位置がズレないように横板を噛ませてから,Fクランプで上からぎゅぎゅ~っと。

  締めすぎると板が割れちゃいますんで,半月の周縁から余分なニカワがじゅるっ,とハミ出てきたあたりでやめておきましょう。
  ハミ出たニカワは固めの筆にお湯を含ませたもので拭っておくと,後の作業がラクですね。


おまけ:半月取付のナゾ

  月琴の場合,完成した状態の箱型になった胴体は,じゅうぶんに圧力をかけられるような構造ではありませんから,半月はこうしてあらかじめ表板に先に付けたか,まだ裏板をつけてない状態のときに,スペーサーを噛まして固定したものと考えています。

  前者の方法の場合,半月の取付作業自体はラクですが,表板を胴体に接着する時,かなり神経を使うことになるでしょう――板の取付がズレたらとうぜん半月もズレます。楽器の中心線がおかしくなったりしちゃいますもんね。

  後者の場合,そうした気遣いは少ないものの,たとえば半月の真下に下桁が位置している場合などはどうしたものか分かりません。月琴の桁はそうした圧力に耐えられるような素材,構造ではありませんから。

  この場合,あるいは下桁は半月取付後に接着される,とも考えられます。

  この月琴でもそうでしたが,上桁はホゾで固定されているのに,下桁は側板内面に接着してあるだけという例がいくつかありました。
  その理由はこれなのかもしれません。

  いづれにせよ。まだFクランプやブリッジクランプにあたるどんな工具があったのか,などいくつかナゾが残っているので,この半月固定の工程については現在いまだに確定されておりません。





STEP4 棹穴の補強

棹穴割レ(1)
  棹穴を中心に側板の表板側が左右に割れています。

  このへんもコウモリさんと似てますね。

  棹ホゾの穴の周囲はだいたい,表板側が細く裏板側が太くなってるのですが,この細い方がよく割れるようですね。

  これは友人の推測なんですが,たぶん楽器を床に置いていて,棹を足で踏んづけたりするとこういうことになるかと…。

  みなさん,くれぐれも楽器は床にほおり置かないように。
  弾きおわったらちゃんとしまうか,かならず壁等に立てかけるようにしましょうね!


棹穴割レ(2)
  ここは意外と結構ちゃんと継いであってビクともしません。
  作業痕は丁寧で,残った割れ目もごく細く,もしかするとここだけは専門職の仕業かなあと思います。

  でもいちおう,さらに補強をしておきましょう。

  コウモリさんと同じく,穴の内側に補強ブロックを圧着します。
  桂の板材を内側の曲面に合わせて削り,ニカワではりつけます。


棹穴割レ(3)
  このオリジナルの修理痕なんですが…真ん中に切れ目(貫通しておらず)があるのと,その左右にある穴がナゾですねえ。

  対応するような穴が,棹のホゾの指板側にも残ってます。
  たぶんカスガイのようなものでどうにか(オイッ!)したんじゃないかと思うんですが,ちょっと分かりません。

  どんな加工だったんだろう?


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