彼氏月琴(2)
![]() さて,棹の方はだいたいカタがついたようなので,胴体にまいりましょう。 ここもまたヒドいといえばヒドいが,もうどうにでもなれです。 表板はヒサンそのもの。 ヒビに割れ,汚れに釘痕,木工ボンドとパテの痕。 裏板もけっして「良い状態」ではありませんが,楽器再生の上で支障になるような箇所はないので,ハガすに及ばず――全面にほどこされた表板同様の過去の悪行を後世に伝えるため,そのままとしておきます。 まずは板をひっぱがして,内部構造を見てみましょうか。 内部観察 ![]()
![]() ◎墨書数箇所。 いづれも作業用の指示。 ○表板内面に「二上」。 ○側板接合部左右に一~四までの漢数字(一部下桁の接着部分に隠れて見えず)。 ○側板天地および面板内面に中心線。 ○桁中心に目安線。 ○上桁地側の面板上,中心線上に小さな「×」。 ○下桁の地側と,接する面板の中心線上に小さな「○」。 ![]() ◎そのほか。 内部の状態は思ったほど(外側の状況ほど)酷くはない。 あちこちに木工ボンドによる再接着痕が見えるほか,とくに側板の接合部裏には,コレデモか!とばかりにコッテリ,パテか何かのように木工ボンドが盛られているが,これはこれでしっかりとくっついてるし,いちおう補強になってるのでハガす必要はないだろう。ただし二度と直せない状態である。 表面板向かって左右のヒビ。 左のものは通常の板割れだったが,右下のものは内側か見て虫害によるものと分かった 内面,半月の裏につきだしたクギの横に虫食いが見えるがそれほど深くも大きくはない。 絃停の皮か接着に使ったフノリを狙って,表がわから侵入したものと思われる。 STEP2 表面板の修理
STEP3 半月の再接着 ![]() 表板がまあキレイに(?)なったので,とりはずした半月を修理して戻します。 依頼者が「天候によってよく音が狂う」と言ってましたが…そうでしょうそうでしょう。 糸倉のほうもイカれてましたが,その反対側もイカれポンチです。 なんせこの半月,表板にちゃんとへっついてませんでした。 ポロリととれたのを木工ボンドで着けようとしたみたいですが,オリジナルのニカワを紙ヤスリでテキトウ削り取ったさい,裏面が平らじゃなくなってしまったらしく。ボンドでついてるのは真ん中と左右のほんの一部だけ。端っこのほうは浮いていて,板にもボンドがまったくついていません。 いわば真ん中にささってるクギでもって,なんとか板にへばりついてた状態で。 そのクギとて,もともとテキトウに打ち込んだもの。 クギの先の板の下は何にもない場所なんですから,まさに「屁のつっぱりにもならん」ですよ。 抜け落ちはしないものの,弦を張るとその張力で,半月がこのクギを支点に左右にわずかに傾くわけですな。 これで音が狂わないほうがオカシイ。 ![]() まず裏面を平らにします。 紙ヤスリを板に固定した上でこすこすこす。 あんまり均すと低くなりすぎて楽器のバランスが狂うことも考えられるので,めくりあがってしまった端の一部はそのままに,狭い接着面をできるだけ広げる程度にします。 オイルステンか何か塗ったな~? 変な茶色の染みがこの裏面にもついてますね。 ![]() この正体不明の塗装をはがしてから,三つあいたクギ穴には埋め木とパテを盛り,ラックニスで拭き,カシューで拭き漆風に仕上げます。 作業中にパテが痩せて,クギ穴痕がちょっと残っちゃいましたが,まあこんなもんでいいでしょう。 ![]() 塗装の終わった半月を表板に圧着します。 桐板の接着面は,少し荒めのペーパーをかるくかけて表面を荒らし,お湯を少し含ませておきます。 双方の面にニカワをまんべんなく塗り,取付位置がズレないように横板を噛ませてから,Fクランプで上からぎゅぎゅ~っと。 締めすぎると板が割れちゃいますんで,半月の周縁から余分なニカワがじゅるっ,とハミ出てきたあたりでやめておきましょう。 ハミ出たニカワは固めの筆にお湯を含ませたもので拭っておくと,後の作業がラクですね。
STEP4 棹穴の補強 ![]() 棹穴を中心に側板の表板側が左右に割れています。 このへんもコウモリさんと似てますね。 棹ホゾの穴の周囲はだいたい,表板側が細く裏板側が太くなってるのですが,この細い方がよく割れるようですね。 これは友人の推測なんですが,たぶん楽器を床に置いていて,棹を足で踏んづけたりするとこういうことになるかと…。 みなさん,くれぐれも楽器は床にほおり置かないように。 弾きおわったらちゃんとしまうか,かならず壁等に立てかけるようにしましょうね! ![]() ここは意外と結構ちゃんと継いであってビクともしません。 作業痕は丁寧で,残った割れ目もごく細く,もしかするとここだけは専門職の仕業かなあと思います。 でもいちおう,さらに補強をしておきましょう。 コウモリさんと同じく,穴の内側に補強ブロックを圧着します。 桂の板材を内側の曲面に合わせて削り,ニカワではりつけます。 ![]() このオリジナルの修理痕なんですが…真ん中に切れ目(貫通しておらず)があるのと,その左右にある穴がナゾですねえ。 対応するような穴が,棹のホゾの指板側にも残ってます。 たぶんカスガイのようなものでどうにか(オイッ!)したんじゃないかと思うんですが,ちょっと分かりません。 どんな加工だったんだろう? |