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彼氏月琴(2)

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斗酒庵 彼氏月琴怒りの修理! の巻彼氏月琴(2)

  さて,棹の方はだいたいカタがついたようなので,胴体にまいりましょう。
  ここもまたヒドいといえばヒドいが,もうどうにでもなれです。

  表板はヒサンそのもの。
  ヒビに割れ,汚れに釘痕,木工ボンドとパテの痕。

  裏板もけっして「良い状態」ではありませんが,楽器再生の上で支障になるような箇所はないので,ハガすに及ばず――全面にほどこされた表板同様の過去の悪行を後世に伝えるため,そのままとしておきます。

  まずは板をひっぱがして,内部構造を見てみましょうか。


内部観察

彼氏月琴内部(全景)

彼氏内部(1)
◎桁 二本桁。

  取付の角度は平行。配置。工作等は4号月琴に似る。上下ともに音孔は左右2つ。

  上桁は左右側板の内側に浅くホゾを彫り,ハメこみ。ほぼオリジナルのままと思われる。
  下桁は左右端を斜めにそぎ落とし,直接ハリつけ。
  接合部に木工ボンドで付け直した痕があるため,この下桁の原位置に関してはやや疑問があるが,半月のほぼ真下に位置している。

  上下ともクギを打ちつけた穴が面板との接着面に残るが,クギ自体は木部に残っていない。

◎側板 最大厚 8.5mm 最小 5.5mm。

  4枚凸凹継ぎ。薄い。ここまで薄い側板ははじめてである。
  加工はほぼ均等。ウデは良い。

  面板との縁周接合面にアタマのないクギ多数,表面板がわだけで15~6本を確認。

◎響き線 1本。

  左肩口から上桁にあけられた大きめ穴を通り,弧を描きながら下桁左右の音孔をギリギリ抜いて,胴内をほぼ半周,取付部の対角線あたりまで延びる。基部が側板に直接でないところは異なるが,形状は松音齋月琴と同様のタイプ。
  鋼線はやや細めで径およそ0.6mm。錆びはわずかにあるが,状態は良い。
  基部のブロックは側板にホゾを彫り接着固定。響き線の端をU字型に曲げて穴に押し込んだあと,クギを打ち付けて固定したもののようだ。

彼氏内部(2)
響き線(1)
響き線(3)

墨書
◎墨書数箇所。

  いづれも作業用の指示。

  ○表板内面に「二上」。
  ○側板接合部左右に一~四までの漢数字(一部下桁の接着部分に隠れて見えず)。
  ○側板天地および面板内面に中心線。
  ○桁中心に目安線。
  ○上桁地側の面板上,中心線上に小さな「×」。
  ○下桁の地側と,接する面板の中心線上に小さな「○」。


表板内面
◎そのほか。

  内部の状態は思ったほど(外側の状況ほど)酷くはない。
  あちこちに木工ボンドによる再接着痕が見えるほか,とくに側板の接合部裏には,コレデモか!とばかりにコッテリ,パテか何かのように木工ボンドが盛られているが,これはこれでしっかりとくっついてるし,いちおう補強になってるのでハガす必要はないだろう。ただし二度と直せない状態である。

  表面板向かって左右のヒビ。
  左のものは通常の板割れだったが,右下のものは内側か見て虫害によるものと分かった
  内面,半月の裏につきだしたクギの横に虫食いが見えるがそれほど深くも大きくはない。
  絃停の皮か接着に使ったフノリを狙って,表がわから侵入したものと思われる。



STEP2 表面板の修理

表面板(1)
  まずはここからはじめましょう。

  ベリリとハガした表板。
  お飾り,フレット類はもちろん半月もハズしてしまいます。

  いづれも木工ボンドで再接着されてるんですが,有難いことに作業が雑なので比較的はずしやすかったですね――ただし,その接着痕をキレイにするのがタイヘンです。
  ニカワなら熱湯を含ませた布でさッと拭いてやれば数回でキレイになりますが,木工ボンドは何度もお湯を含ませ白っぽくふやかしてから刃物でこそげるしかありません。

  リムーバーの類の薬品を使うのも手ですが,それもそれで板への負担があります。
  だいいいち余分な金がかかる。

  だから安易に使うな!と常々言っておるのです…呪われマスよぉ,後々の修理者の方々に。

  ヘコみやキズにはとりあえずパテを盛大に盛っておきましょう。
  前修理者の家庭用木工パテ(ぼやけた赤茶色をしているやつ)は,主成分がアクリルとかエポキシですが,こちらはいちおう木の粉。
  使わない方がイイとはいえ,まだマシ。
  裏面の虫食いも埋め木するほどではないのでこれで埋めちゃいます。

  ヒビ・割れは薄く溶いたニカワで継いで,裏から和紙をあてて固定しておきましょう。
表面板(2)
表面板(3)



STEP3 半月の再接着

半月(1)
  表板がまあキレイに(?)なったので,とりはずした半月を修理して戻します。

  依頼者が「天候によってよく音が狂う」と言ってましたが…そうでしょうそうでしょう。
  糸倉のほうもイカれてましたが,その反対側もイカれポンチです。

  なんせこの半月,表板にちゃんとへっついてませんでした。

  ポロリととれたのを木工ボンドで着けようとしたみたいですが,オリジナルのニカワを紙ヤスリでテキトウ削り取ったさい,裏面が平らじゃなくなってしまったらしく。ボンドでついてるのは真ん中と左右のほんの一部だけ。端っこのほうは浮いていて,板にもボンドがまったくついていません。

  いわば真ん中にささってるクギでもって,なんとか板にへばりついてた状態で。
  そのクギとて,もともとテキトウに打ち込んだもの。
  クギの先の板の下は何にもない場所なんですから,まさに「屁のつっぱりにもならん」ですよ。
  抜け落ちはしないものの,弦を張るとその張力で,半月がこのクギを支点に左右にわずかに傾くわけですな。

  これで音が狂わないほうがオカシイ。

半月(2)
  まず裏面を平らにします。

  紙ヤスリを板に固定した上でこすこすこす。
  あんまり均すと低くなりすぎて楽器のバランスが狂うことも考えられるので,めくりあがってしまった端の一部はそのままに,狭い接着面をできるだけ広げる程度にします。

  オイルステンか何か塗ったな~?

  変な茶色の染みがこの裏面にもついてますね。

半月(3)
  この正体不明の塗装をはがしてから,三つあいたクギ穴には埋め木とパテを盛り,ラックニスで拭き,カシューで拭き漆風に仕上げます。

  作業中にパテが痩せて,クギ穴痕がちょっと残っちゃいましたが,まあこんなもんでいいでしょう。

半月(4)
  塗装の終わった半月を表板に圧着します。

  桐板の接着面は,少し荒めのペーパーをかるくかけて表面を荒らし,お湯を少し含ませておきます。
  双方の面にニカワをまんべんなく塗り,取付位置がズレないように横板を噛ませてから,Fクランプで上からぎゅぎゅ~っと。

  締めすぎると板が割れちゃいますんで,半月の周縁から余分なニカワがじゅるっ,とハミ出てきたあたりでやめておきましょう。
  ハミ出たニカワは固めの筆にお湯を含ませたもので拭っておくと,後の作業がラクですね。


おまけ:半月取付のナゾ

  月琴の場合,完成した状態の箱型になった胴体は,じゅうぶんに圧力をかけられるような構造ではありませんから,半月はこうしてあらかじめ表板に先に付けたか,まだ裏板をつけてない状態のときに,スペーサーを噛まして固定したものと考えています。

  前者の方法の場合,半月の取付作業自体はラクですが,表板を胴体に接着する時,かなり神経を使うことになるでしょう――板の取付がズレたらとうぜん半月もズレます。楽器の中心線がおかしくなったりしちゃいますもんね。

  後者の場合,そうした気遣いは少ないものの,たとえば半月の真下に下桁が位置している場合などはどうしたものか分かりません。月琴の桁はそうした圧力に耐えられるような素材,構造ではありませんから。

  この場合,あるいは下桁は半月取付後に接着される,とも考えられます。

  この月琴でもそうでしたが,上桁はホゾで固定されているのに,下桁は側板内面に接着してあるだけという例がいくつかありました。
  その理由はこれなのかもしれません。

  いづれにせよ。まだFクランプやブリッジクランプにあたるどんな工具があったのか,などいくつかナゾが残っているので,この半月固定の工程については現在いまだに確定されておりません。





STEP4 棹穴の補強

棹穴割レ(1)
  棹穴を中心に側板の表板側が左右に割れています。

  このへんもコウモリさんと似てますね。

  棹ホゾの穴の周囲はだいたい,表板側が細く裏板側が太くなってるのですが,この細い方がよく割れるようですね。

  これは友人の推測なんですが,たぶん楽器を床に置いていて,棹を足で踏んづけたりするとこういうことになるかと…。

  みなさん,くれぐれも楽器は床にほおり置かないように。
  弾きおわったらちゃんとしまうか,かならず壁等に立てかけるようにしましょうね!


棹穴割レ(2)
  ここは意外と結構ちゃんと継いであってビクともしません。
  作業痕は丁寧で,残った割れ目もごく細く,もしかするとここだけは専門職の仕業かなあと思います。

  でもいちおう,さらに補強をしておきましょう。

  コウモリさんと同じく,穴の内側に補強ブロックを圧着します。
  桂の板材を内側の曲面に合わせて削り,ニカワではりつけます。


棹穴割レ(3)
  このオリジナルの修理痕なんですが…真ん中に切れ目(貫通しておらず)があるのと,その左右にある穴がナゾですねえ。

  対応するような穴が,棹のホゾの指板側にも残ってます。
  たぶんカスガイのようなものでどうにか(オイッ!)したんじゃないかと思うんですが,ちょっと分かりません。

  どんな加工だったんだろう?



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