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赤いヒヨコ月琴(終)

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斗酒庵 太清堂の月琴を直す 之巻赤いヒヨコ月琴(終)


  さて,何度も言っているように,今回の月琴は塗装の要がないので気がラクです。

  もっとも,保存状態が良いとはいえ長期放置されてたせいで,棹や側板はくすんでツヤ無し状態です。
  オリジナルは木地の色もほとんど変らない程度に,拭き漆のナチュラルな塗装がされているようですんで,ヘタに研磨剤とかでゴシゴシやると落ちちゃいそう。薄めたラックニスで,表面の掃除がてら拭いてやりましょう。

  少し色が濃くなりますが,自然なツヤが甦ってきます。


STEP10 お飾り製作

修理前・お飾り全景
  「修理の本筋」からしますと,一部なくなってるとはいえオリジナルのお飾りが健在なわけですから,これを戻すのがスジというもンでしょうが――ですが,オリジナルのお飾りは,どれも歴史的・資料的な価値がそれなりにありますから,象牙の山口・フレット等とともに保存・伝承していただきましょう。

  今回の修理は,「お飾り」だった月琴を「弾ける」楽器に再生するのがメインですので。

――と言ったところがアクマで建前で…正直なところ,こんなヘンテコな飾りの付いた月琴,わたしなら弾きたくない。練物の真っ赤なトリに,ミミズみたいな太湖石…天が許してもワタシ個人のビイシキとかいうものが許してくれません。
  飾り刀の金銀キラキラな拵えを,実用本位の黒糸巻柄・呂色鞘にしたようなもん(分からんか…)だとでも思ってください。

  「実用月琴」にふさわしい,も少し趣味のいい(?)新たなお飾りを,琴士・斗酒庵,あつらえさせていただきます。


  左右の目摂(仏手柑)のみは,ややサイズがナニなものの,姿も状態も悪くないので残しましょう。
  また,指板の紫檀材があまりに美しくて,余計な飾りで隠すのがもったいナイので,棹上にはお飾りはつけないことにします。

  作るのは中央の円形飾り,扇飾りなど胴上柱間,つごう5つ。
  まずは中央の飾りから行きまっしょい。

桃・石榴
  絵柄は中国で伝統的に描かれる吉祥図に沿って決めてゆきます。

  桃を「多汁(=多什=物持ち)」,石榴は「多子(実が多い=子供が多い)」,仏手柑を「多宝(さて?理由不明)」として,このお目出度い三種類の果実をまとめて「三多」と言います。

  このうち「仏手柑」はもうありますので,あとは「桃と石榴」を足してやればいいだけ。
  まずはこれで「三多」の図,の完成です。

連年有余
  つぎは扇飾り。
  よくある「萬代(唐草模様みたいに絡まった帯の図柄)」も「蝙蝠」も,ちょいとほかのところに使いたい腹づもりがあるので,ぜんぜん別の絵柄にします。

  オリジナルでは「ウナギ」みたいなのがのたくってました(たぶん「如意笊」の成れの果て…)から,お魚系がよろしかろう。
  ということで図案集を紐解き,選んだのはこちら。
  魚(鯉)が口に蓮の花をくわえています。
  これは「連年有余(いつでも余裕!)」という図柄。
  「連=蓮」「魚=余」が同じ音なんですね。

鶴
  もうはずしちゃいましたが,この月琴にはアダ名のもとになった「赤いヒヨコ(たぶんオシドリ)のほか,幾種類も鳥の飾りがついていました――せめて「鳥」さんが一匹くらい,戻ってきて欲しいところですね。

  というわけで扇飾りの上には「鶴」がつきます。
  ――コウノトリ? いえ!ツルですよっ,ツル! ちょっと彫りがナニなだけだってば!

  「鶴は千年,亀は万年」のコトバを引くまでもなく,長寿をことほぐ目出度い鳥であることは言うまでもありませんが,今回はそればかりではありません。

蝙蝠
  扇飾りの下は月琴のお飾りの定番中の定番。
  「蝙蝠(コウモリ)」です。

  これが今回は「鶴」サンの相方にょろ。

  先ほど揃えた「三多(桃・榴・柑)」とこの「鶴」「蝠」が組み合わさると,四字熟語のお目出度が二つも顕われてきます。すなわち「福寿三多(蝠鶴=福寿)」「三多接福」ですね。

芭蕉
  そして最後,最終フレットの上の空間には「芭蕉と盤常」を入れましょう。

  「芭蕉」は「八祥」と音が近いのと,長い葉がボロボロになっても千切れないことから,長寿,長久の象徴となっています。
  もう一つの「盤腸」というのは紐状の飾りで,「結びまんじ」なんて意匠の一種。メビウスの輪のように際限なくつながったところから,こちらも長命・長久の意匠。
  胴体の円形を「銭(=宝=富)」に見立てたとき,「長命富貴」というお目出度になります。


  月琴という楽器の意匠は,元来がこうした「お目出度尽くし」で出来ています。
  そのかたち自体が「円満如意(=胴体+棹)の意匠ですし,コウモリが飾りに多いのも「月=夜」という連想だけでなく,円形の胴体を昔の穴あき銭「眼銭」に見立てて「福在眼前(蝠+眼銭)の意味を持たせたものです。そのほか目摂の意匠としてよくある「菊」や「牡丹」も「富貴」を意味しています。

  この楽器に戻りますれば。

  オリジナルの蓮頭の意匠は「牡丹」ですよね。お飾りの意匠をバラバラにすれば,牡丹と石榴で「百子富貴」の意匠にもなりますね。蝙蝠と桃だと「福寿臨門」。蝙蝠に胴体の円と蓮で「福縁連至」,おなじく胴体を「銭」として扇飾りの「魚」と合わせて「金銀有余」――まだまだありますがくたびれた。


  こうした意匠のほとんどは,中国語での語呂合わせやシャレ言葉のようなものが元になっているので,楽器が日本で作られているうちに元来の意味を失って,ただの「よく付いてる」というくらいのお定まりのお飾りになったり。時としてはデザインが変ってしまったり,まったく別の,カッコばかりで意味のない意匠にすげかえられたりするようになりました。
  まあ,しょうがないですがね。



  ちなみに,今回のお飾り。

  木地の色のものは砥粉とラックニスですが,黒いのは「おはぐろ」の作り方を利用した液で染めてみました。

  もともとはCRANEさんのHPで,木ペグを「三度黒」で染めるという記事があって,あ~一回真似してみたいな~と思っていたんですが,ログウッドの染液やら媒染剤やらで,けっこう入費になります。
  ほかに似たような方法がないかいな~,とWebあちこち彷徨うなかでふと目に付いたのがこの「おはぐろ」でした。

  ふだん面板を黄色に染めるために使っている「ヤシャブシ」ですが,鉄と反応すると黒く発色するそうで。江戸時代,既婚女性が歯を黒く染めるのに使った「おはぐろ」は,古クギなどの鉄と酢と水を煮詰めた液と,五倍子やこのヤシャブシの粉を混ぜたものだったそうな。

おはぐろ
  うむ,酢は台所にあるしヤシャブシもある。鉄…ベンガラは酸化鉄だわな。

――で,ぜんぶをガラス鍋にぶちこんで煮詰め,数日放置したところ。

  ちゃんと黒い染料ができました。

  布を染める時などはこれを漉して使うんですが――木工の色づけですから。真っ黒い「ベンガラ塗料」として,ドロドロしたところも使います。
  合成染料とかでよくある「黒」ほど「真っ黒」過ぎない,自然な風合いの黒が出ますね。

  茶ベンガラの塗装と斑になるように合わせたり,ラックニスでポリッシュ風に仕上げると,ちょっと檀木風にもできます。以前は同じ事を茶ベンガラの上からカシューの重ね塗りでやっていたんですが,最初から真っ黒な分,こちらのほうが手間と時間がかかりません。

  表面塗料として使うときは,少し温めてからの方が良いようです。
  また,小さな部品なら湯煎するときにいっしょに煮〆てしまうと,けっこう染みこんで黒くなります。


  以上,貧乏は発明の母のコーナーでした。


上から
  左右の目摂はオリジナルの位置なんですが,ちょっと寄り目ちゃん気味かな?   最後に彫った芭蕉が,ちょっと大きすぎたかもしれませんが,お飾りがぜんぶモノトーンになったんで,全体にいっそう「実用楽器」っぽく見えるようになりましたね。

  最後に絃停を貼って,糸倉のところに紐飾りを結います。

  2007年5月3日。

  「赤いヒヨコ月琴」あらため「太清堂の月琴」,修理完了です!

全景



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