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ウサ琴2(4)

USA2_04.txt
斗酒庵 ふたたびウサ琴作り の巻ウサ琴2(4)

STEP8 響き線の取付

  さて,棹も出来た,表面板も貼りついて半月もへっつけた。

  このまま裏板を貼れば胴体は箱状になって,糸を張ってはじけば,まあ音は出るのですが。

1号内部
  月琴の胴体は木の箱です。

  厚みはたった3cm ほど,音を響かせる空間はあまりに小さく,バイオリンのようなF孔もなければ,ギターのように音を前に出すための円いサウンドホールもありません。
  そんな閉鎖的な木箱に絹糸を張って弾くのですから,本来は余韻も何もないペンペンペコペコという音が出るだけのはず。それを古人いわく「玲瓏(玉やガラスの触れ合う音)」と評した,明清楽の月琴独特の音色たらしめている仕掛け。

  それが「響き線」です。

  この構造を取付けることで,ただの木の箱が「鳴り胴」と呼ばれる,特殊な胴体構造になるのです。

  「響き線」は演奏による楽器の振動を拾って揺れることで,弦音の余韻に金属音めいた効果を加えるもの。

4号響き線
  「振動を拾う」とはいっても,必ずしも弦音に「共鳴」して動作しているわけではなく,むしろ「勝手に揺れている」だけ,といったほうがいいでしょう。つまりは「音によって揺れる」のではなく,この線が「勝手に揺れている」ところに音がやってきて,効果が発生するわけです。

  密閉された胴体内にあり,基本的には「コントロール不能」な構造で,弦音だけでなく演奏者の姿勢の変化による楽器の「揺れ」に対しても反応するため,時には演奏中のノイズの原因ともなります――そこらへんがシタールなんかの「共鳴弦」とかとは違うところ。
  また効果として得られる音は,琵琶や三味線の「サワリ」に似てはいますが,胴体内にあり弦の振動と効果が,かならずしも直結していないところが,構造・発想的に異なります。

3号響き線
  「響き線」というと月琴が有名で,ある方面ではこの楽器固有の構造のように書かれている場合もあるのですが,じつは明清楽の楽器の多くに,同じような構造が取り入れられており,じっさい,阮咸はもちろん,三線,清琵琶,洋琴(短い琴の形で撥で弾奏する)などでも胴体に同じ構造を持つ例を見た事があります。
  しかしこれは,そうしたすべての楽器が,もとからそういう構造をもっていたということではなく,明清楽の流伝・流行したある時期,音楽的に「金属っぽい余韻」が求められたことがあったため,と庵主は考えています。
  現代の中国月琴もそうですが,この構造が廃れたのはおそらく,金属弦の登場によるものでしょうね。


  たとえば波多野先生の『月琴音楽史略』にも「…この月琴の中の構造を作る技術は,今は亡んでしまって居るとか。」と書いてあったりしますね。この「鳴り胴」の構造を,多くの本では何やら難しい「匠のワザ」みたいな仕組みのように書いていますが,実際は何てことはありません。

  基本的には胴体内部にハリガネを挿してあるだけのことです。

  線の取付方法はだいたい二種類。
  胴体の内部に穴をあけて直接挿すか,これを挿したブロックを取り付けるか。

2号響き線
  2号月琴のような渦巻き線の場合だけ,上桁に取付けられてますが,これらは実例としてはそれほど多くありません。
  また,古い中国月琴では,中央の一本桁に線をとりつけ,楽器の下半円に向けて半円形に線が取り付けられているようです。一本桁の構造は明清楽の月琴でも見ますが,これと同様の響き線には,まだお目にかかったことがありません。


  ウサ琴は側板が薄いのと竜骨構造があるので,線を「胴体に直接挿す」ということはできません。
  なもので,前作のような渦巻き線のとき以外,すべてブロック付きの構造となります。
  んでは4面の取り付けを通して,それぞれの線の工法上の特徴など見ていきましょう。



イ号内部(1)
  まずはイ号胴。

  鋼の曲一本線,楽器裏側から見て左肩から胴内を半周する長い響き線を持ちます。
  この構造は松音齋,彼氏月琴とほぼ同様。
  また,ある楽器の解説書に月琴のX線写真が載っていたのですが,それもこの構造になってましたね。
  もし月琴製造の教科書があったなら,たぶん載っているくらいポピュラーな内部構造の一つでしょう。

  やや細め,0.75mm のピアノ線を使用しています。
  胴内の形に合わせてあらかじめ曲げておいた線をブロックに挿して,ニカワを塗った竹釘で留めます。
  わたしは下桁の穴を大きな一つ穴にして,線の動きをより自由にするとともに,ひっかかりにくくしましたが,松音齋では曲がりの頂点が下桁の上にあり,彼氏の場合は左右の穴をくぐらせてますね。

イ号内部(2)
  線の加工自体は難しくありません。
  曲げの角度をどうするかのほかは,焼入れも適当でいいし,取り付けも同様。

  ただし取付後の調整がちょいと難しい。

  響き線の理想は,楽器が演奏姿勢になった時に,線がどこにも触れず完全に宙に浮いたような状態になっていることなんですが,この型の線の場合,長いわ曲がってるわのせいで,ほんのわずかな微調整が,線全体に大きな影響が出てしまいます。
  具体的に言うと,根元の部分をちょっとペンチでつまんだだけで,線の先が下桁に触れたり,頂点部分が穴のへりにくっついてしまったり。ちょうどいいな,というくらいに調整しても,あらためて演奏姿勢で持ってみると,線自体の重みで変形してやっぱりどっかに触れてしまったりと,けっこうタイヘンです。。

  しかしながら,この型の線は音と振動に対する感性が強く,かなり響きがよろしい。

  出る音はいかにも「月琴らしい」余韻をもった,比較的素直で明るめの音色です。
  欠点としては,感性が強いぶん楽器の揺れによるノイズもまた出やすいというところでしょうか。
  しかし,この響き線が触れて出るガランガランという胴鳴りもまた,月琴という楽器の「特色」のひとつとされてますから,これはこれで良いのかもしれません。

  この構造が普及したのは,効果が強いということと,線自体の加工や取り付けが比較的楽なこと。また本気で理想を追えば調整が難しいところが難点ですが,線が長いので,多少加工や調整が雑で,線が胴内のどこかにひっかかっていても,いちおうの効果が得られるというところもその一因でしょうか。



ニ号内部(1)
  つぎに取り付けたのはニ号。


  四面中もっとも単純な鋼の直一本線の構造です。
  ブログにある中では,1号月琴,おりょうさんの月琴などがそうですね。
  曲り線ではありますが,曲がりが浅く,中央に位置し単線である,という意味では,4号やコウモリさんも,これとあまり変らない構造と言えるかも知れません。

  ナニ,真っすぐなハリガネを挿しゃあイイだけじゃねーか。

  何て考えてるなら大間違いです。
  何事も,単純なるものがもっとも難しい,
  それが意外にシンジツ。

おりょうさん響き線
  「おりょうさん」に内蔵されていた線は,ベコベコなうえ見事に銀色で焼入れもしていない状態でした。
  当然,弾いても「ボヨンボヨン」というだけで,音に対する効果もほとんど期待できません。
  同じ構造ですが1号の線は表面が焼入れで青黒くなっており。指で弾くと「きーんかーん」と見事に響きます。
  ピアノ線は買ってきた段階では上の「ボヨンボヨン」状態で,適度な熱処理をしてはじめて硬いバネの状態になります。焼きがすぎると「焼きなまし」状態になって,かえって柔らかくなったり,ただただモロくなってしまいます。

  イ号胴のような細い曲がり線の場合は,その長さ・形状による感性の強さも手伝って,焼入れ加工の成否自体はさほど問題にならないのですが,直線の場合は胴径によって長さに制限があること,またやや太目の線が使われることもあって,この焼き入れ加工が音質にかなりの差を生むことが,今までの修理の経験から分かっていました。

ニ号線焼き入れ
  線は太め1mm のピアノ線。これは1号とほぼ同じサイズのものです。

  さて,コンロであぶって水で急冷するんですが,30cm 近い線をジュッと浸すような大きな入れ物がありません。そこで考えた――ヨコに出来なきゃタテにすりゃあいいんですね。
  五合瓶に水を入れてコンロの横に置きます。
  これに突っ込んでジュッ!とな。

  …難しいです。コンロの火口は小さく,線は長いんでなかなか均等に火が回りません。
  10本くらい失敗じりました――おもに焼きすぎでモロくなって次から次へポキポッキン!
  ようやく一本だけ,なんとかテンパーブルーに焼き上がり,軟くもなくモロくもなく,ペンチで根元をつまんで指で弾くと,「カーン」と澄んだ響きで応えてくれるようになりました。
  ただしあちこち歪んで,ちょいとベコベコ気味。
  理想を言うなら,真っすぐでないと音の伝わりが完全ではないのですが,材料が尽きました(笑)。

  これでいきま~す。

ニ号内部(3)

  失敗し続けの中,イ号に使った0.75mm の細い線でも一本作ってみたのですが,仮に組み込んで比べてみると音色がまったく違います。この太さで直線だと,振動や音に対する感性は強いのですが,「響き線」としての効果がほとんど出ません。胴体を叩いてみると,響き線はいっしょうけんめいブルブルふるえているのに,太い線のときにはしていたような金属の音が全然聞こえてこないのですね。
  じっさいに弦を張って弾いてみると,太線のときにくらべて,余韻も音量もさらに小さく,ごくごく頼りない音しか返ってきません。
  響き線はただふるえてるだけ,ついでに振れ幅が大きくて,ノイズばかりが出ます。
  よくふるえているほうが効果がありそうなものなんですが,どういう理屈なんでしょうね(誰か教えてくださいな)。

  もう一つ分からないことがあります。

  はじめ裏板のないオープンバックの状態で試奏していた時には,このニ号は四面のなかでいちばん音量もなく,余韻もほとんど聞こえず,やはり失敗かと思っていたんですが,仮の裏板をつけて胴を密閉状態にしたとたんバケたかのように,大きな音,深い余韻を発するようになりました――なんででしょうねえ。

ニ号内部(2)
  単純な一本線でありますので,取付,調整に関してはまったく難がありません。
  演奏姿勢になったとき,先端が胴内に触れない程度の位置で固定すればよいだけです。
  ただ,線の焼き入れ加工の難度が高く,その成否が楽器の音色を大きく左右するようです。

  より間違いのない焼入れの方法を含めて,もっとも単純な構造ながら,多くのナゾの残ったニ号響き線でした。



ロ号内部(2)
  鋼線の場合と違って,真鍮線は焼入れの必要がありません。
  太い線でも細い線でも自在に曲がるので加工もラクですが,真鍮の響き線をもつ月琴の音色や余韻は,鋼線の場合にくらべるとやや繊細で優しげな感じがします。そこのところは少し好みが分かれるかもしれません。

  ちなみに庵主サマは基本的には鋼線の音のほうが好きですね。

  真鍮線使用のいちばんめはロ号胴。
  上下に一本づつ,左右から響き線がつきだしています。

鶴壽堂内部   これは鶴壽堂月琴のコピー。

  オリジナルの線は胴内に直接挿しています。
  釘止めもなく,ほんとにただ,ピッタリの穴をあけて挿し込んであるだけなんですね。
  鶴壽堂月琴は,真鍮線の割には音も大きく明るめの音色で,優秀な楽器でした。

  最初に述べたとおり,ウサ琴では「胴内直挿し」ができませんので,左右の竜骨にブロックを噛ませて固定します。さすがに「穴だけピッタリ」なんて巧みのワザは持ち合わせてませんので,竹釘で固定。
  弾いてるうちにはずれたらヤだもんね~。

  単純な直線なので取付,調整には難がありません。

  使用した真鍮線は径 0.9mm のもの。

鶴壽堂内部(2)

  はじめ付けた線の長さは,鶴壽堂の寸法から上下の線の胴径に対する割合を出して,それをウサ琴のサイズに合わせてハジきだしたんですが,いざ弾いてみますと何とも物足りない音…オープンバックの状態でも,仮裏板を貼った状態でも,オリジナルの鶴壽堂には遠く及ばないレベルのシロモノ。

  音量も出ない,余韻も浅い,そっけない音です。

  はじめは凝った構造の割りに,期待のほうが大きすぎたのではないか?とも考えましたが,SPwave などで音を視覚化して比較してみると,やっぱりほかより低い結果が出てます。

ロ号改修
  いろいろと考えた結果,改修することにケテイ。
  といっても,大したことじゃありません。
  何せ響き線のことが分からないんでこうして実験をしているくらいで,効果があるかどうか分からないのですが。

  線を長いのに換えてみました。

  上線はでべろーんと長く,胴内ギリギリに。下線にはもとの上線を使ってこれもかなりギリギリの長さにしてみました。

ロ号比較
  結果は以下グラフの通り。下が改修前,上が改修後。
  音量,音色がいくらか向上。
  「劇的」とかいうほどではありませんが,じっさいに糸を張って聞こえてくる音もかなり良くなったように感じます。

  響き線の長さにも,胴径や構造によって,最適の寸法というのがあるのだと思われます。
  それが分かっただけでもミッケもの。



ハ号内部(1)
  最後になったハ号の内部構造は,先日修理を終えた「赤いヒヨコ月琴」のちょいとフシギな内部構造を再現してみました。


赤いヒヨコ内部
  上線は太めの真鍮線,直一本。これは普通。下の空間に広がるフシギワールド。

  誰が考えたんでしょうね? ホント。

  バネ状になった輪っかの真ん中に,直線を一本仕込む――今のところこれに類する構造を持つ例は,ほかに知りません。


ハ号内部(2)
  ハ号では下線には0.65mm の細い線を使用。
  真鍮なんで作るのはラクです。直線とバネ状線の間隔は6mm。これはオリジナルとほぼ同じ。
  オリジナルは胴体直付けですが,こちらは接合部裏の地のブロックに穴をあけて差込み,竹釘でとめてみました。

  上線は中央からまっすぐではなく,やや斜め下に向けて取り付けられています。
  こちらにはロ号にも使った 0.9mm の太めな真鍮線を使いました。

響き線実験
  さて,当初やるつもりだった実験に「響き線取付前と後でそれぞれ録音して,響き線の音に対する効果を調べる」というのがあったのですが,机の上のメモとともにうっかり忘れられ,気がついたときには,裏板を貼ってないのはこのハ号胴だけになっていました。

  響き線はすでに取り付けられた状態だったので,完全な結果は得られませんが,このハ号でテープ等をまきつけ,動かなくした状態と,これを解放した場合のデーターを比べてみましょう。

  上が響き線を殺した状態,下が解放したもの。

  音のなかばくらいにふくらみが出来,余韻もわずかに長くなっています。

  わたしは「響き線」をたんなる余韻の「効果構造」と考えていましたが,わずかではありますがリゾネイター,増幅器としての機能も有しているようですね。




ウサ琴2(3)

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斗酒庵 ふたたびウサ琴作り の巻ウサ琴2(3)


STEP4 棹のホゾ継ぎ

  棹と胴体をつなぐ延長材を棹のホゾに継ぎます。

ホゾ継ぎ(1)
  まずは棹ホゾにV字の切れ込みを入れる。

  つぎにそこらにある松やら杉やら檜やら(とくにこだわりはないなあ)の,サイズの合いそうな角材をひっぱりだし,15cmくらいの長さに切ってハメこみます。

  作業手順は簡単ですが,これが曲がってたり簡単にハズれてしまったりしては後で困るので,慎重に削って擦り合わせます。


  うちの1号なんかもそうですが,この延長材の部分まで「一木作り」になっている棹もときどき見かけます。
  音のためにはそっちのほうが良いような気はしますが,そうでないほうが多いのは,この楽器が流行して「ある程度の数」を作らなきゃならなくなったからだと思います。
  なにせ一木だと,一度削りすぎちゃったりしたら,直しキきませんからね。

ホゾ継ぎ(2)
  延長材を継ぐほうにすると,音や強度の面で不安は出るけど,あとでの修正や調整がはるかにラク。

  何より作る側の気がラクになる。
  これは重要。



  一日二日放置して,ニカワを乾燥させ,しっかり接着します。
  接着後,先のほうを内桁のホゾ孔にあわせて削りって調整。
  理想としては,「一発工作,穴にスルピタ」なのがいちばんいいんですが。
  あとでスキマに木っ端などを接着して精密に調整すればいいので,この時点では多少削りすぎてユルくなってしまってもかまいません。



STEP5 半月を作る

半月(1)
  半月は前作と同じ桂の板(1cm 厚)。
  糸倉といっしょに切り出したもの。


  幅9cm 奥行き 3.5cm の扁平な半月形――ホンモノの半月はもう少し丸っこいものが多いのですが,有効絃長をホンモノとほぼ同じにするため,奥幅を縮めた結果,こういうカタチになってます。

半月(2)
  まずは板の裏側(木目はどっちが表でも可)中央を,幅4cm 深さ5mm ほどエグります。
  わたしはポケットみたいに,奥がやや丸天井になるようなカタチにしますが,べつだん斜めに削ぐようにエグっただけでもかまいません。


  前回と違うのはここ。
  糸擦れ防止の円形板の加工。


  厚さ0.5~0.8mm,直径5mmほどの小さな部品で,糸の摩擦で糸孔が広がったり溝がついたりするのをふせぐ目的で埋め込まれるものです。

  ホンモノの月琴では象牙や水牛の角をうすーく砥いで作っているようですが,そうした素材は硬くて加工がタイヘンなうえ,よく完成直前に割れヨったりします。
  いくつもいくつも失敗じった結果,庵主はピックの材料で加工の手馴れてる「牛のヒヅメ」を使うことにしました。

  前回は一面のみの製作でしたので,ピックの端材から小さな四角い板を切り出して,削って砥いで丸くして,なんとかかんとかこさえましたが,四面同時となるとそんな悠長な細工はしていられません。
  なんせ一面に4つ必要なわけですから,かける4で16枚…イチイチそんな細かい作業していたら,まちがいなく指が攣ります。

  で,この円盤の部品を比較的カンタンに,あるていど大量に生産できるワザを考えなければなりません。
  んでわまいりましょう――


半月(3)
  1)まずはピックの作りそこねの牛ヒヅメの板(材料の製作過程は過去記事参照)を,ピラニア鋸で半分の厚さに削ぐ。

  2)これを一晩水に漬けて柔らかくする。

  3)切り出しやヤスリで表面の凸凹をこそいで均し,ペラペラに削る。

  4)また少し水に漬けてから,5mmのポンチでヌク。



――♪ あーすっぽんすっぽん,すっぽんぽん,とな。

  前回,あんなに苦労したのがウソのよう。
  20枚近い円盤が,たちまちのうちに出来ました。
  ヒヅメ板も厚さ1mm ほどまで削って水に漬けると,固さはほとんど皮革くらいになりますね。
  またこのくらいのサイズだと,乾いてから反るとか曲がるとか縮むとか考えなくてもいいようです。

  乾いて硬くなってからだと割れちゃうことがありますので,まだ湿って柔らかいうちに,ピンバイスで中央に孔をあけておきましょう。


半月(3)
  半月本体にピンバイスで下孔をあけます。

  孔の配置は,外弦が前端から7mm,左右間は 32mm。
  内弦はそこから後ろへ6mm,内側へ3mm。


  この配置は1号月琴を参考にしています。
  低音絃の孔間を心地広くしているような例もありましたが,左右等間隔でもさほど難はありません。

  糸を通しやすいように,糸孔はかならず「斜め前」に抜けるようにあけます。
  お飾り月琴などで,まっすぐ下に抜けた糸孔のものがありますが,こんなくらいのことでも,ずいぶん糸が通しにくくなります。

  下孔の周囲を5mmのドリル先でちょっとだけエグり,リューターで周縁を整形して,角の立った凹形にします。
  ニカワをたらして円盤をハメこみます。


半月(4)
  塗装はオハグロ液で軽く染めたあと,茶ベンガラ+柿渋で塗装。ラックニスで色止めをしつつ下塗りとします。
  色合い的にはラックニスだけのほうが艶消しっぽくていいのですが,トレモロのときなど,ここに手を置いて演奏するので,ラックニスだけだと汗で塗装がはがれてしまいます。

  上からカシューで保護塗りしておきましょう。



STEP6 表面板の接着

  前回のウサ琴では,接着を強固にしたいという気持ちから,面板に半月を先に貼ってから胴体に取付けましたが,今回は表面板を貼るのが先,半月の取付けはその後にします。

  先に半月を取付ける方法は,たしかに胴体でいちばん力のかかるこの部品を,確実,強固に接着できる工法ではあるのですが,反面,表板を貼付けるときの工作がエラく難しくなってしまいます。
  半月は板にちゃんとくっついててくれなきゃならない部品であるのと同時に,ほんのわずかでもズレたり曲がったりしていてはこまる部品。でも,円形の胴体に表板を正確に貼り付ける,というのはけっこうムズかしいのですよ。

  また,表板の品質が一定でないため(なにせ¥100屋の板ですから…),節目や木目の関係で,時としては板の中心線から少しズラして貼りたいような場合もあります。
  半月を先に付ける方法だと,こうした自由もききません。


  本物の月琴では,半月は表板の取付け後,内部桁の取付け前の段階で付けられていたと推測されます。

彼氏月琴
  ひとつの証拠は彼氏月琴の修理で半月の付け直しをしたおり,半月の下になっていた部分が,板のほかの部分と同じようにヤシャブシで染められていたこと。
  どんな楽器でも塗装はどちらかというと最後の方になる作業。
  つまりこの半月が取付けられた段階で,表板の工作はかなり進んだ状態にあったと考えられます。


4号月琴
  つぎにこれまでの修理でも,上桁が側板にホゾ組みでしっかり固定されてるのに,下桁はぞんざいに内壁にニカワで接着しただけという例を何度か見た事があります。あらためて調べてみると,そうした場合の多くでは下桁が半月のほぼ真下に位置していました。

  半月の取付を「表板の接着後」とすると,この「桁が半月の真下」に位置する場合が問題になります。
  月琴の桁は半月接着の圧に耐えられるほど強くありませんし,これがあると半月の裏側に均等に圧をかけるのにジャマになります。
  しかしながら,この下桁を「半月の取付け作業を終えてから接着」されたものとすると,いくつかのナゾが同時に解けてしまうんですね。
  半月が取付けられ,側板の片面が表板ですでにふさがっている状態では,その裏にあらためてミゾを切るのは難しいでしょう。したがって下桁はニカワ付けだけになる。上桁は作業中の胴体の形の保持のために先に取り付けられる――というわけです。


  さて,じょうぶな側板を持ったホンモノと違って,ウサ琴の場合は内部構造の支えがないと作業しているうちに胴体が歪んだりしちゃうでしょうし,桁は竜骨で上も下も一体になってますので,表板の接着の前に,まずは胴体に内部構造を接着してしまいます。
  上下の桁の端と竜骨の横にニカワを塗って胴体に戻すだけですが,取り出す前に,棹を挿して仮組みして桁の位置を確認し,印をつけておきましょう。
  これはこれでズレるとやっかいです。

表板接着(1)
  つぎに表面板の接着。
  接着の前に,ホームベース型になった面板の角を少し落としておきます。あんまり角が出っ張ってると,クランプが均等にかかりませんからね。板も胴体も,ニカワの付く場所にはあらかじめ,筆でお湯を少し含ませておきましょう。

  接着の作業は修理の場合と違って気がラクです。
  ニカワを塗って,だいたいのところに置いて,Cクランプでぐるりのギュッ!
  はみ出てくるニカワは筆でぬぐっておくと,あとの作業がラクになりますよ。

  一晩ほどおいてくっついたら,ハミた板を糸ノコで縁周に沿って切り落とします。
  このとき「胴体ギリちょんで丸く抜いて一発でキメたろ!」――なんて,クレグレも考えないよう注意してください。

表板接着(2)
  胴体から1mm くらいの余裕を残して切り,残った部分はヤスリで慎重に削り落します。
  これがいちばんカクジツなやり方。

  上から見てまン丸っ!横から見て垂直ビシッ!――ってカンジに決まります。

  ちなみに,糸ノコだけで勝負しようとすると,ひょっとした力加減で刃が胴体に食い込んだり,板が斜めに削れちゃったりして後の修正がタイヘンです(ケイケン者が言うのだから,間違いはナイ)


表板接着(3)
  面板がついたら,ヤシャブシで黄色く染めます。

  ヤシャ液と黄色砥粉に少量の水を加えて,ガラス鍋で温めます。
  砥粉が沈むんで,ハケでかきまぜながら面板に塗りつけます。
  このときハケに汁を含ませすぎないよう注意してください。
  へっついたばかりの表板に余計な水分はキンモツ。手早くムラなく,サッサと刷きましょう。

  乾いてからもう一度塗り,一晩置いたら軽くペーパーをかけて,ケバだった表面を均すのと,余計な砥粉を落としてしまいます。



STEP7 半月の接着

  面板に半月をのっけます。

半月接着(1)
  まずは位置決め。
  工作がけっして精密ではないので,一面一面びみょ~に角度が違ったりサイズが違ったりしてますので,一面やったらあとは同じ~てなわけにはまいりませんね。

  棹の山口が乗るところと,棹と胴体の接続部の幅の中心に目印をつけ,前者にガビョウを打ちます。
  そこに糸をゆわえて,まっすぐ引張って,楽器の中心線を出します。

  指板の端にメジャーをひっかけて,41cm のところに印をつけ,中心線と垂直に交わる線を引く。
  これが半月縦位置の上限。

  その線に沿って半月を置いたら,山口のガビョウに糸を二股にかけて左右の外弦の糸孔までひっぱってきます。接続部の中心の目印を目安に,左右の糸がバランスよくなったところが半月の位置。エンピツで輪郭をなぞっておきます。

  そうそう,ついでにポケットの位置の真ん中あたりに,空気穴もあけておきましょうね。

半月接着(2)
  接着の作業に入る前に,半月の上限線に沿ってストッパーに細い角材か板を渡しておきます。

  つぎにエンピツ線の内側を,粗めのペーパーで荒らしてます。半月の裏側も塗装のカスとかがついてたりするので,軽くペーパーをかけときましょう。

半月接着(3)
  両面に筆でお湯を含ませ,ニカワを塗って半月を置き,Fクランプで固定。

  半月の裏側には,角材を噛ませておきましょう。こうすれば,板の状態で圧着するのとさして変らないくらい,強い圧がかけられます。




ウサ琴2・臨時増刊

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斗酒庵 ふたたびウサ琴作り の巻ウサ琴2(臨時増刊号)

仮組みと初音出し

仮裏板
  本編記事のほうが追いついてませんが,

  ウサ琴2の製作は現在,表面板と半月の接着が終わったところまで進んでおります。

  この時点で糸を張って,棹が傾むいていないかとか,響き線がちゃんと機能しているかとか調べておきたい――なんせ裏板とじちゃったら,調整も修正もできませんゆえ。

  で,仮板をテープ止めして裏をふさぎ,塗装前の山口(今回は竹製です!)を棹にのっけて試験用の軸を挿し,外弦二本を張ってはじめての音だしをしてみました。

  調弦はC/G,ぱらぱらと連弾きしたあと,低音・高音の順に単弾きして余韻等をたしかめています。


  とりあえず,こんな音になりそうだよ~っ,てところ,蔵出しの味をどうぞ。
竹製山口



イ号表 イ号裏   イ号:♪
ロ号表 ロ号裏   ロ号:♪
ハ号表 ハ号裏   ハ号:♪
ニ号表 ニ号裏   ニ号:♪


  やっぱり音が微妙に違ってますね~。ま,違ってなきゃ困るんですが。
イ号響き線
  イ号がいい音だろう,というのは予想通り。教科書どおりの月琴の構造ですから。
  ただちょっと揺らしたり,演奏姿勢が崩れたりすると,中の響き線が景気良くガンガラガンガラ鳴り響きますね。その点はすごくセンシティブ。

  意外だったのは,オープンバックの状態ではあまり感心しない音しかしなかったニ号が,裏をふさいだとたん見事に鳴ったこと。4面中,もっとも単純な構造ですが,音のふくらみがいちばん大きい。
  響き線の効果も音全体にかかっています。

ハ号響き線(下)
  凝った構造にした割にはロ・ハ号がちょっと物足りないかな~と感じます。
  もっともウサ琴,月琴の音色としては申し分ないのですが。
  もうちょっとなんかあるかなあ――という期待が大きかったせいかも。

  ただハ号の音色にはかなり特徴があります。やはりあのフシギ構造が効いてますね。
  余韻に混じるうねるような効果。スプリング・リバーブっぽい感じです。



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