ウサ琴2(6)
![]() STEP11 塗装 ![]() ウサ琴4面,楽器としての機能を担う部分はもうだいたい完成。 あとは塗装を残すのみ。 いつものことながら,この工程に入りますと,書くことがなくなります。 なんせ塗って,乾かし,磨いて塗って…てなもんで。 棹や糸倉には製作中の木固めとして,すでにけっこうな量のラックニスが染みこませてありますが,上塗りに入るまえに,もう1~2度,表面をまんべんなく雑巾ポリッシュしておきます。 胴側板も同様に,ただし木口に染みが出来ないよう,軽く軽く。 ラックニスが乾いたら,棹の指板部分と,裏表面板のぐるりをマスキングして,さあ,上塗りです! ![]() カシューの紅溜に黒を少し落として色を濃くしたものを,うすめ液でシャブシャブの濃度に溶き,ステンレスの蓋付き容器に作り置いておきます。 4面同時ですから,けっこうな量が必要です。 側板はふつうにハケで重ね塗りするだけですが,棹は糸倉のほうを下にし,ハケで塗る,というより塗料を表面にまんべんなくかけ流すカンジで。もっとお金があったら,いッそバケツみたいな容器に塗料をはってドブン,と漬け塗りしてしまいたいところですね。 糸倉のほうをやや塗膜厚めにしたいので,乾かす時には糸倉のほうを下にして吊るします。 重力により塗料は乾きながら下に向かうので,自然,糸倉のほうが厚めになるわけ。 塗料溜とかできないように塗料の粘度を低くしてるんで,下に敷いた新聞紙にポタポタリ――今回は数が多いんで,棹茎の先っぽに小さな孔をあけて,ハリガネの輪っかを通して吊るしましたが,ふだんは紙止めクリップの巨大なやつなんかでやってますね。 ![]() 何度か塗り重ねたら,耐水ペーパーで表面を均します。 カシューは乾燥が遅いので,部屋の中で作業をするかぎり,どんなに注意しててもホコリが付いてしまいますが,この作業でだいたい取れてしまいますね。 重ねては磨き,また重ねるうに,木部表面に残ったこまかい凸凹も埋まって,なめらかな,表面ツルツルの漆塗り状態に。 ちょうどいい色ぐあいになったところ。 最後の一塗りの直前くらいで,一度,糸倉の先端と内側や軸穴,山口の接着箇所と棹基部,そして胴体の棹をさしこむ孔などにできた塗料溜を,ヤスリでこそいでキレイにしておきます。 いづれもあとで部品を接着したり差し込んだりするところなので,塗料溜で凸凹があるとその後の作業に支障が出ますので。 しまいに全体をもう一二度塗って,キレイにした上から薄い塗膜をかぶせ,一週間ほど乾燥させます。 ![]() 最後に#2000の耐水ペーパーに石鹸水をつけて,表面をムラなく均します。塗装したところがまんべんなくツヤ消しになったら,固く絞った布でこすって石鹸分をキレイに拭い去り,また一~二日乾燥。 仕上げに,亜麻仁油に白棒を粉にしたものを加えたものを少量,布につけて磨きまくります。 あんまり強くこするとカシューが溶けちゃうし,油をつけすぎると面板の端とかに染みができちゃいますのでご注意。 今回,棹はピカピカに磨き上げましたが,胴体の方はかるく擦り痕が残る程度,ややぞんざいに仕上げてあります。使われて,磨かれているうちにキレイになってゆくことでしょう。 STEP12 お飾り製作 ![]() 塗装は一日一回~二回,その間はドンタッチボーイ。 この間に,蓮頭や軸の仕上げなどと平行してお飾りなんかも作ってゆきます。 ウサ琴はふつうの月琴よりフレットを二本増やしてる関係で,扇飾りがつけにくい。 今回は数も多いことですから,左右の目摂だけでごカンベンを… 例によってアガチスの薄板を刻みます。 意匠は4種類。 ![]() 牡丹とツユクサ(オオトキワツユクサ,ですが),ザクロに菊。 塗装は前回の「彼氏月琴」でもやった「オハグロべんがら」を使って黒っぽく。 まずはたっぷり塗って,乾いたら布でこすり,余計な塗料は落としてしまいましょう。 最後にラックニスを布に染ませたもので,上からたたくように塗って色どめ。 テカテカでなく,しっとり半つや消しくらいに仕上げます。 STEP13 仕上げ ![]() さあて,もうちょいだ。 フレットの作業は,本体の塗りが終わって,塗装面の均したあと,磨きに入る前にやります。 この作業中にニカワとかでちょっと汚れても,最後の磨きでいっしょにぬぐいとれちゃいますんで。 フレットは竹製。 例によって¥100屋の園芸用竹フェンスを材料とします。 切って刻んで,だいたいのカタチにしたものを,外絃だけ張った楽器に当てながら高さを調整。 弦も引っかからず,ビビリもしない,ギリギリの高さになったら,紙ヤスリで両面磨いて,ピラニア鋸やヤスリで両端を落として整形。 ![]() ――と…作業はカンタンですが,ウサ琴一面10本,4セットで40本ですからねえ。けっこうタイヘン。 すべてのフレットがそろったら,まずは各々の位置を楽器にケガいて記録しときます。 つぎに,ぜんぶのフレットをいったんはずし,まずはヤシャブシを塗って下地に色を加え,乾燥。
製作終わりて ![]() …いやあ,さすがに疲れました。 もともと今回の製作実験の主眼は,「複数面を同時に製作する」ということなのでカクゴはしていたものの,一度きに4面も作るってのは,やっぱりタイヘンでした。 いや,よく3ヶ月で出来たものです。 それでも今回の製作でまた,ほんものの月琴の工程の解明に少しづつ迫っていっているような気がします。 とくに分かって良かったことは,かんたんに言うと,複数の同じ楽器を同時に製作する場合「手を抜く」としたら,どういう箇所をどのように,ってことですね。 イヤイヤ…何もわたしがこれから手抜きをしたいからじゃないですよっ!! 月琴は大流行した楽器です。 その最盛期には,オーダーメイドの高級品はともかく,どこの工房でも中級以下のものはある程度の数を同時に作ってたはずです――そうじゃないと間尺に合いません。 そうした場合,一本一本をていねいに作ってゆくのにくらべると,自然,その材質にも工程・工作にもさまざまな制限が出来てきます。 「こうしたほうがイイ音」であることは分かっていても,手間を考えるとほかの方法をとらなきゃならない場合もあるでしょう。「この材料の方がいい」「こうしたほうが丈夫」であっても,利益を考えるとできない場合もあったでしょう。 「ここはハブける」「ここはこの材でいい」「ここの加工はこれでいい」。 一つの材料,一つの手間,一つの工程,それらを切り落としてなお,ちゃんと「鳴る」楽器を作る,それも安価に作ること――それらは「手抜き」とはまた別次元。それはそれでリッパな職人のワザであります。 「音という"美"を追求する」楽器製作者としての目ではなく,利益や手間も考えなきゃならない工房主としての観点から見ることによって,分かってくることもたくさんあるのですね。 月琴の音のイノチ,「響き線」についても,新たにかなりいろんな事が分かってきました。 線材の選び方,それぞれの加工の難易,工程の相違――なによりも,一面づつだと分からない響き線の効果の違い,音色に与える差違を,実際に耳で聞き比べて実感できたことは大きい。 やっぱり,ただ穴あけてハリガネをさしこめばいいわけじゃないんですわ。 最後に,ウサ琴イ~ニ号を演奏者として弾いてみたときの,各面に対する感評。 合わせて各データーを綴っておきましょう。 音源は音階と,音色を聞き比べてもらうため,4面でそれぞれ同じ曲を演奏してみたもの。 波形はフリーソフト・SPWave にて解析しました。左が低音・高音の順に二回鳴らしたものの波形で,右はその4番目(高音)のおよそ1秒間ぶんを拡大してみたものです。
なお,今回の実験機4面は,まとめて「よこすか龍馬会月琴部」の面々が引き取ってくださいました。 ただいま猛練習中のもよう。 いままでの中国月琴での練習に加えて,弦も音階も奏法も違う楽器をイキナリやるんですからタイヘンでしょうが,とにかくガンバッテください! 来年にはきっと,坂本龍馬はんの奥さん・おりょうさんのお墓のある横須賀のどこかで,おりょうさんのころの月琴に近いわがウサ琴たちの音色,その四重奏が聞けましょう♪ |