« 2007年10月 | トップページ | 2007年12月 »

ウサこ大破!2

USA1_EX2.txt
帰ってきたら死んでいた2 の巻ウサ琴1(特別増刊号3)

修理開始!

  庵主は古物の月琴の糸倉が割れている場合にはなるべく,オリジナルの部材をそのまま継いで再生するようにしています。
  これは材を変えたり異物を噛ませたりすることで,その楽器のもともとの音を損なってしまいたくないからですが,もちろんその修理方では「強度的に以前と同じ」,というわけにはいきません。

  通常の使用に問題はないものの,楽器としては,やはり「無理のできない身体」になってしまっていることにかわりはないのです。

  ウサ初はふだんわたしが修理しているような古渡り,百年を経て伝えられたような楽器ではありません。
  まだこないだ出来たばっかりの,若い,いやごくごく幼い楽器です。

  これから塗装やニカワが乾くにつれ音が変って「育って」ゆき,やがてこの楽器特有の音色が出るようになってゆくはずでした。

  試作第一号ですから,そうした音色などの経年変化もこの楽器のお仕事だったのですが,この破損で――実験パー,リセット,やり直しですわ。

  ともあれ,ウサ初にはまだ守るべき固有の音色もないわけです。

  破損した部材の状態から言って,ふだんと同じように継いで直すこともじゅうぶんに可能ですし,おそらくそのほうが修理を短期間で終えることができましょう。しかし,この生まれたばかりの赤ちゃん楽器の将来や可能性にいきなり枷を嵌めてしまうことは,産みの親ともなん製作者として忍びないので,今回は音色の再現よりも,強度重視の修理法でゆくこととします。

  「修理(リペア)」というよりは「再製作(リビルト)」に近い作業となることでしょう。

破損糸倉の除去(1) 破損糸倉の除去(2) 破損糸倉の除去(3)
  ■ まずは破損した糸倉を,根元の部分から取り除きます。

  本物の月琴では,糸倉は棹と一体の一木彫貫きですが,ウサ琴では材料と費用の関係から板材を組み合わせて作られています。弦池のところからと,ウケの部分にピラニア鋸を入れ,残りをノミや彫刻刀でこそぎ落とします。

  糸倉にかなり強い衝撃がかかったわりにはこの部分,よく無事でしたね。表面の塗膜にわずかなヒビは入っているものの,接着はほとんど剥がれていませんでした。

糸倉再製作(1) 糸倉再製作(2) 糸倉再製作(3)
  糸倉の部材をあらたに切り出します。

  前の糸倉は棹部分と同じくカツラでしたが,今回はブラックウォルナットを使います。カツラより少し重めですが,丈夫さはずっと上,軸の噛み具合も音も悪くはない。カメ琴ですでにお試し済みの素材です。

  ところが,旧糸倉を取り除いた棹と組み合わせてみると,板の厚みが若干足りないことが分かったので,棹の側にブナの突き板を数枚貼り合せて調整することにしました。

  ブナのスペーサーが乾いたところで,接着面を調整してから左右の板を接着します。

糸倉整形(1)
  ■ クランプをしたまま二三日乾燥させ,しっかり接着したらお次は整形です。

  まず糸倉の「首」のところに丸棒ヤスリでくぼみを彫りこみ,木工ヤスリの荒目の半丸や平で,棹のほうへかけてなだらかに均してゆきます。
  ここの曲線・曲面が棹の美しさ,ひいては月琴の楽器としての美しさの要ですね。
  部材保護のためそのままにしておいた塗装も,ここで一緒にガリガリとハガしてしまいます。
  かたちが整ったら,スポンジに空砥ぎペーパーを巻きつけたもので磨いてゆきます。
糸倉整形(2)
糸倉整形(3)
糸倉整形(4)

糸倉整形(5) 糸倉再整形(6) 糸倉再整形(7)

糸倉再整形(8)
  ■ 継ぎ目のスキマは突き板を噛ませたり,パテで埋めたりしてふさいでしまいます。

  色が濃いので糸倉部分が目立ちますね。
  今回の新しい糸倉は,ミウさん所有の「彼氏月琴」の糸倉を参考に,サイズを多少縮めたもの。
  ウサイザー3と同じ型紙です。
  前よりも少し短く,先太りですが,バランスがよくてキレイです。


軸穴あけ(1) 軸穴あけ(2)
  ■ 軸穴をあけます。

  まずは小さく下穴をあけ,竹串や細い棒を通して,位置や角度を確認してからリーマーで広げてゆきます。
  いつもだと軸はあとから作るんですが,今回は軸がすでにあるんで,これをそのまま使います。
  軸を挿して噛み具合を確認しながら,軸先が6~7分目くらいまではまるていどのところまできたら,焼いた鉄棒を指して,穴の内がわを焼き固め。リーマーに紙ヤスリを巻いたもので擦って,8分目くらいまでささるところで止めておきます。
  塗装のあと,最後の調整をして100%はまるようにするんで,この時点ではまだそのくらいで良いのです。

  カタチの作業はここまで。
  あとはひたすら塗装,ですね



嵐の塗装作業!
下塗り(1) 下塗り(2)
  ■まずは全体を磨き,ラックニスを染ませて,木固めをかねた下塗りをしてゆきます。

  ハケではなく,ウェスに塗料をつけて擦りこみ――必殺,雑巾ポリッシュ!ですね。

カシュー塗り(1) カシュー塗り(2) カシュー塗り(3)
  ■ ラックニスがじゅうぶんに染み込んだら,指板をマスキングして,カシューで上塗りをしてゆきましょう。
  今回も前と同じく,紅溜めに黒を少し混ぜたもの――これすっかりウサ琴カラーですね。
  シャブシャブに薄めた塗料を,棹にかけ流すようにして塗り重ねてゆきます。
  カシューの塗膜は丈夫ですが,乾くのが遅くて,作業は一日一塗り。
  三~四回重ねて,塗膜があるていど厚くなったら,#2000の耐水ペーパーに石鹸水をつけて表面を砥ぎ均します。たいていのホコリは塗膜の厚みより大きいので,乾燥中についちゃったゴミなども,だいたいこのときにこそげ落ちてしまいます。


失敗!(1)
  だいたい7回ほど重ねて色が濃くなったら,一週間ほど乾燥させ,最後の磨き――なのですが。
  ここで痛恨の大失敗!

  ■ 最後の最後で,指板付近の塗膜をハガしてしまいました。

  長さ2cm,幅2mm ほどですが,目立ちます。
  ウサ琴はラックニスで中塗りまでしっかりやってるので,正直カシューの塗膜は色付けにのっかってるだけ。半年ほどして下塗りが木部に浸透してゆくと,塗膜が締まって簡単にはハガれなくなってゆくんですが…。
  はがれたところに薄くカシューを刷いて,ハガれた塗膜をのせて上塗りしました。
  乾くまで手が出せません。
  このせいで,完成が一週間ほど延びてしまいましたわ――トホホ。

再組立て(1) 再組立て(2)
  今度こそ最後。補修部の乾燥の終わった棹に耐水ペーパーで最後の砥ぎをかけ,布に研磨剤と亜麻仁油をつけて磨き上げます。

  磨き終わった棹を,胴体に戻します。生き別れの首と胴体が,約1ヶ月ぶりのご再会。
  油砥ぎ直後は塗膜がやわらかくなっているので,棹は布でくるんで持ちましょう。


  ■ 山口と蓮頭を接着。

  ここまでくると早く糸を張って仕上げてしまいたいところなんですが,ナットはしっかり付いてて欲しいので,ニカワづけのあと一日二日はほおっておきましょう。
  蓮頭は壊れやすい透かし彫り細工だったんですが,今回の事故でも無傷でした。もともと取れやすい部品なのが,かえって幸いしたのかもしれません。

再組立て(3) 再組立て(4)
  ■ 柱を接着。

  フレットを立てます。
  糸を張って,チューナーで音の位置を確かめながら棹上のフレットを接着してゆきます。
  糸倉を破壊した衝撃は,けっきょく棹にはほとんど影響を与えていなかったようで,半月の側から見た糸の張りの左右のバランスも正常でしたし,前のフレットをそのまま貼り付けても,狂いやビビりはありませんでした。

  ここばかりは,あれありがたや。



修理完了!
完了(1) 完了(2)
  作業開始が10月13日,終了したのが11月17日。

  やれやれ…もとはといえば,たかだかフレット1ヶの再製作だけだったのに…とんだ大修理となったもんです。

  事故状況を教えてもらえなかったので,予備調査に多少時間をかけたのと,最後の失敗で少しばかり延びてしまいました。ふだん使いの楽器でしたから,その間,ライブとか大変だったでしょうね――おわびをばごめんちゃい。

  今度の糸倉は大丈夫。たとえまた同じような目にあったとしても,まずまず壊れますまい。

  ただ,材が重いので楽器の重心がやや棹よりに変ったのと,以前はもうちょっと甘ったれた柔らかめな音だったんですが,かなり硬質な音になったような気がします。

  しばらくの間は,ちょっと違和感があるかもしれません。

  経年変化の実験はパーになりましたが,「糸倉のリビルト」というのは,修理者としてはよい経験になりましたね。糸倉が彼氏月琴以上に壊れてた場合,あるいはサイアク,首ナシ月琴みたいなものでも,この応用であるていど直せるわけですよ――なるべくなら…したくはありませんが(汗)。



ウサ琴3(1)

USA3_01.txt
斗酒庵 みたびウサ琴作り の巻ウサ琴3(1)


  思いがけず,ウサ琴初号機の大修理などという作業が入ってしまって遅れましたが。

  最近になってようやくその修理の目途もたち(後日うpします),塗装に入ったので,本来は夏の帰省から帰ったらすぐ始めるはずだった,ウサ琴3(コードネーム:ウサイザー3)の製作にとりかかりました。

  またまた4面ほど同時に作ってゆきますが,前回の製作で4面3ヶ月で「完全同時」製作ってのは,たしかに資材的にもムダが少なく,経済的でいいものの。肉体的・精神的にはかなりキツくて,HP,MPの消耗がハンパねぇ~――ということが分かったので,今回は工作期間も気長に,工程は多少バラけてもいいから,完成までまったりゆったりと作ってゆこうかと思います。


  糸倉はサクラ。

  いつもお世話になってる,新木場はウッディ・プラザさんで,厚さ1cm,幅9cmほどの板を見つけました。
  サクラはホンモノの月琴でも,よく棹や胴体に使われる材。
  強度的にはモチロン申し分なく,よりホンモノに近づけるためにも理想的な材料なんですが,画材店やハンズとかだと1.5cm厚のしかおいてなくて,ちょっと手を出しかねていました。

  が,今回は目の前に誂えたかのようにおあつらえむきなサイズの板が2枚――価格も安い!

  即ゲットでした。

  月琴の糸倉を切り出すには,もうちょっと幅が欲しいところですが,色もいいし,ほとんど柾目。
  いい糸倉ができそうです。

型紙
  さて,上にも書いたように,深いアールのついた糸倉を数多く切り出すには,ちょっと板の幅が足りません。

  そこで今回は糸倉のデザインを再考して,アールが浅めの型紙を用意。

  参考にしたのは「彼氏月琴」の糸倉。
  破壊され尽くしてはいましたが,あれは美しい曲線でした。
  彼氏月琴からとった型紙をもとに,糸倉のカーブを1cm ばかり浅くして,コンパクトながら奥行きを感じさせるデザインにまとめてみました。

  写真で3枚ならんだ一番上が今回作った型紙。
  前作ウサ2(真ん中,4号月琴の糸倉を元にしています)にくらべると,やや末広がりで太めになっています。
  ちなみに一番下の長いのは1号の糸倉からとった型紙。ウサ初(改修前)はこれを使っています。

  サクラも今や貴重材ですからね,なるべくムダは出したくありません。
  この型紙で,一枚の板からちょうど4セットぶん,8枚の部材が切り出せました。

糸倉加工(1)
■ 板に型紙でカタチをなぞって,糸ノコで切り出し,2枚を一組にして両面テープで貼り合わせます。

  貼り合せたのを,ヤスリやナイフで同じ形に整えてゆきましょう。
  以前当て木に使ったホワイトアッシュの角材が,ちょうどいい作業台になりました。

  木口がカツラよりカッチリとしていて,磨くと年輪がキレイに出ますね。
  安かったんで,カバザクラだと思ってたんですが,削りカスのニオイはまさしく燻製用ウッドチップ…本サクラだったようです。
糸倉加工(2)


クスノキ(1)
■ つぎは棹です。

  一本目は,新木場の銘木店さんのゴミ置き場で端材を漁っていたとき見つけてきた角材。
  正体不明で材質は少し柔らかめですが,いー感じに乾燥はしていたし,すごい杢。

  いつものように切って,先端を凸に刻んで……

  うぉ!スゴいニオイですぅ!!!!

  拾ったときにも嗅いではみてるのですが(材によっては独特のニオイがあるため),屋外に放置されてたせいか,ほとんどニオイませんでした。それがまァ,新たにノコを入れたら…こういう切断の大作業は,おもに屋外,近所の公園のベンチでやってるんですが,これを切り出したところ。

  ヤブ蚊が逃げました。

  しかしおかげで正体判明。
  これほどではありませんでしたが,このニオイは以前にも嗅いだことがあります。

  「クスノキ」ですね。
クスノキ(2)

  以前,3号月琴の軸をハンズで買ってきた端材のクスノキで削ったことがありました。

  あれは柾目だったし,もっと白っぽかったなあ。
  ニオイもここまでモノ凄くはなかった。
  総杢だからでしょうか?

  ウサ琴3最初の一本,通称決定!
  「防虫月琴」であります!


棹(1)
  ほか3本は,ウッディさんで(ちゃんと)買ってきた,イチイとクルミとカツラ。


  バーズアイメイプルの角材で,ちょーどいい寸法のもあって…何度も手にとりながらも…断念!
  そんなに高価でもなかったんですが…貧乏とはツラいもんじゃ。


  部品が揃ったら,あとはいつもの工程。角材を3cm 角,長 20cm ほどに切って,一方の端を凸に切り取り,内側を斜めに切り込んでウケにします。
  貼り合せてた糸倉をはがして,棹側の形をウケに擦り合わせ,ニカワで接着。

  弦池(糸倉中央の開口部,糸を巻き取るところ)の天地に,糸倉と同材で間木をはさみこむのを忘れないようにね。
棹(2)
棹(3)

ウェンジ?

■ 指板にはタガヤサンやウェンジの類の板(約3mm 厚)を貼ります。

  いづれも新木場の銘木屋さんから貰ってきたもので,前回はギリギリ黒檀ばかり使い,こちらの類を使わなかったので,ちょっと材料がダブついてきました。端材とはいえせっかく貰ってきたモノ,使わなきゃもったいない。

端材の山&買い物

  貯材箱をかきまわして,ウェンジの類の黒白の縞のスゴいのと,本タガヤの縞目の詰まった板を選びました。これを3cm幅に切って,それぞれ2本づつ作りましょう。

  強度的には文句ないものの,黒檀にくらべるとややアバれる木だそうですが…大丈夫かな。



  今回の製作実験。
  胴体の方は4面すべて同じ構造にします。


  響き線も同じタイプのものを仕込んで,棹材の違いによって,どんなふうに音が違ってくるのかを調べるのが主眼です。

  ギターなんかでもよく,材はアレがいい,コレがいい,というコダワリが聞かれますよね。
  もっとも,シロウト耳には最上級のハカランダのも,ベニヤ板で作った白いギターのも,さほど違っては聞こえませんが。

  楽器としては,より単純かつワイルドな構造体である月琴。
  工作が均一だとどんな変化がアルのか,それともナイのか?

  違いがあるなら,理想の組み合わせを探すヒントになるでしょう。
  さほどの違いがないならないで,それもまたオモシろいでしょう?




« 2007年10月 | トップページ | 2007年12月 »