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ウサこ大破!2

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帰ってきたら死んでいた2 の巻ウサ琴1(特別増刊号3)

修理開始!

  庵主は古物の月琴の糸倉が割れている場合にはなるべく,オリジナルの部材をそのまま継いで再生するようにしています。
  これは材を変えたり異物を噛ませたりすることで,その楽器のもともとの音を損なってしまいたくないからですが,もちろんその修理方では「強度的に以前と同じ」,というわけにはいきません。

  通常の使用に問題はないものの,楽器としては,やはり「無理のできない身体」になってしまっていることにかわりはないのです。

  ウサ初はふだんわたしが修理しているような古渡り,百年を経て伝えられたような楽器ではありません。
  まだこないだ出来たばっかりの,若い,いやごくごく幼い楽器です。

  これから塗装やニカワが乾くにつれ音が変って「育って」ゆき,やがてこの楽器特有の音色が出るようになってゆくはずでした。

  試作第一号ですから,そうした音色などの経年変化もこの楽器のお仕事だったのですが,この破損で――実験パー,リセット,やり直しですわ。

  ともあれ,ウサ初にはまだ守るべき固有の音色もないわけです。

  破損した部材の状態から言って,ふだんと同じように継いで直すこともじゅうぶんに可能ですし,おそらくそのほうが修理を短期間で終えることができましょう。しかし,この生まれたばかりの赤ちゃん楽器の将来や可能性にいきなり枷を嵌めてしまうことは,産みの親ともなん製作者として忍びないので,今回は音色の再現よりも,強度重視の修理法でゆくこととします。

  「修理(リペア)」というよりは「再製作(リビルト)」に近い作業となることでしょう。

破損糸倉の除去(1) 破損糸倉の除去(2) 破損糸倉の除去(3)
  ■ まずは破損した糸倉を,根元の部分から取り除きます。

  本物の月琴では,糸倉は棹と一体の一木彫貫きですが,ウサ琴では材料と費用の関係から板材を組み合わせて作られています。弦池のところからと,ウケの部分にピラニア鋸を入れ,残りをノミや彫刻刀でこそぎ落とします。

  糸倉にかなり強い衝撃がかかったわりにはこの部分,よく無事でしたね。表面の塗膜にわずかなヒビは入っているものの,接着はほとんど剥がれていませんでした。

糸倉再製作(1) 糸倉再製作(2) 糸倉再製作(3)
  糸倉の部材をあらたに切り出します。

  前の糸倉は棹部分と同じくカツラでしたが,今回はブラックウォルナットを使います。カツラより少し重めですが,丈夫さはずっと上,軸の噛み具合も音も悪くはない。カメ琴ですでにお試し済みの素材です。

  ところが,旧糸倉を取り除いた棹と組み合わせてみると,板の厚みが若干足りないことが分かったので,棹の側にブナの突き板を数枚貼り合せて調整することにしました。

  ブナのスペーサーが乾いたところで,接着面を調整してから左右の板を接着します。

糸倉整形(1)
  ■ クランプをしたまま二三日乾燥させ,しっかり接着したらお次は整形です。

  まず糸倉の「首」のところに丸棒ヤスリでくぼみを彫りこみ,木工ヤスリの荒目の半丸や平で,棹のほうへかけてなだらかに均してゆきます。
  ここの曲線・曲面が棹の美しさ,ひいては月琴の楽器としての美しさの要ですね。
  部材保護のためそのままにしておいた塗装も,ここで一緒にガリガリとハガしてしまいます。
  かたちが整ったら,スポンジに空砥ぎペーパーを巻きつけたもので磨いてゆきます。
糸倉整形(2)
糸倉整形(3)
糸倉整形(4)

糸倉整形(5) 糸倉再整形(6) 糸倉再整形(7)

糸倉再整形(8)
  ■ 継ぎ目のスキマは突き板を噛ませたり,パテで埋めたりしてふさいでしまいます。

  色が濃いので糸倉部分が目立ちますね。
  今回の新しい糸倉は,ミウさん所有の「彼氏月琴」の糸倉を参考に,サイズを多少縮めたもの。
  ウサイザー3と同じ型紙です。
  前よりも少し短く,先太りですが,バランスがよくてキレイです。


軸穴あけ(1) 軸穴あけ(2)
  ■ 軸穴をあけます。

  まずは小さく下穴をあけ,竹串や細い棒を通して,位置や角度を確認してからリーマーで広げてゆきます。
  いつもだと軸はあとから作るんですが,今回は軸がすでにあるんで,これをそのまま使います。
  軸を挿して噛み具合を確認しながら,軸先が6~7分目くらいまではまるていどのところまできたら,焼いた鉄棒を指して,穴の内がわを焼き固め。リーマーに紙ヤスリを巻いたもので擦って,8分目くらいまでささるところで止めておきます。
  塗装のあと,最後の調整をして100%はまるようにするんで,この時点ではまだそのくらいで良いのです。

  カタチの作業はここまで。
  あとはひたすら塗装,ですね



嵐の塗装作業!
下塗り(1) 下塗り(2)
  ■まずは全体を磨き,ラックニスを染ませて,木固めをかねた下塗りをしてゆきます。

  ハケではなく,ウェスに塗料をつけて擦りこみ――必殺,雑巾ポリッシュ!ですね。

カシュー塗り(1) カシュー塗り(2) カシュー塗り(3)
  ■ ラックニスがじゅうぶんに染み込んだら,指板をマスキングして,カシューで上塗りをしてゆきましょう。
  今回も前と同じく,紅溜めに黒を少し混ぜたもの――これすっかりウサ琴カラーですね。
  シャブシャブに薄めた塗料を,棹にかけ流すようにして塗り重ねてゆきます。
  カシューの塗膜は丈夫ですが,乾くのが遅くて,作業は一日一塗り。
  三~四回重ねて,塗膜があるていど厚くなったら,#2000の耐水ペーパーに石鹸水をつけて表面を砥ぎ均します。たいていのホコリは塗膜の厚みより大きいので,乾燥中についちゃったゴミなども,だいたいこのときにこそげ落ちてしまいます。


失敗!(1)
  だいたい7回ほど重ねて色が濃くなったら,一週間ほど乾燥させ,最後の磨き――なのですが。
  ここで痛恨の大失敗!

  ■ 最後の最後で,指板付近の塗膜をハガしてしまいました。

  長さ2cm,幅2mm ほどですが,目立ちます。
  ウサ琴はラックニスで中塗りまでしっかりやってるので,正直カシューの塗膜は色付けにのっかってるだけ。半年ほどして下塗りが木部に浸透してゆくと,塗膜が締まって簡単にはハガれなくなってゆくんですが…。
  はがれたところに薄くカシューを刷いて,ハガれた塗膜をのせて上塗りしました。
  乾くまで手が出せません。
  このせいで,完成が一週間ほど延びてしまいましたわ――トホホ。

再組立て(1) 再組立て(2)
  今度こそ最後。補修部の乾燥の終わった棹に耐水ペーパーで最後の砥ぎをかけ,布に研磨剤と亜麻仁油をつけて磨き上げます。

  磨き終わった棹を,胴体に戻します。生き別れの首と胴体が,約1ヶ月ぶりのご再会。
  油砥ぎ直後は塗膜がやわらかくなっているので,棹は布でくるんで持ちましょう。


  ■ 山口と蓮頭を接着。

  ここまでくると早く糸を張って仕上げてしまいたいところなんですが,ナットはしっかり付いてて欲しいので,ニカワづけのあと一日二日はほおっておきましょう。
  蓮頭は壊れやすい透かし彫り細工だったんですが,今回の事故でも無傷でした。もともと取れやすい部品なのが,かえって幸いしたのかもしれません。

再組立て(3) 再組立て(4)
  ■ 柱を接着。

  フレットを立てます。
  糸を張って,チューナーで音の位置を確かめながら棹上のフレットを接着してゆきます。
  糸倉を破壊した衝撃は,けっきょく棹にはほとんど影響を与えていなかったようで,半月の側から見た糸の張りの左右のバランスも正常でしたし,前のフレットをそのまま貼り付けても,狂いやビビりはありませんでした。

  ここばかりは,あれありがたや。



修理完了!
完了(1) 完了(2)
  作業開始が10月13日,終了したのが11月17日。

  やれやれ…もとはといえば,たかだかフレット1ヶの再製作だけだったのに…とんだ大修理となったもんです。

  事故状況を教えてもらえなかったので,予備調査に多少時間をかけたのと,最後の失敗で少しばかり延びてしまいました。ふだん使いの楽器でしたから,その間,ライブとか大変だったでしょうね――おわびをばごめんちゃい。

  今度の糸倉は大丈夫。たとえまた同じような目にあったとしても,まずまず壊れますまい。

  ただ,材が重いので楽器の重心がやや棹よりに変ったのと,以前はもうちょっと甘ったれた柔らかめな音だったんですが,かなり硬質な音になったような気がします。

  しばらくの間は,ちょっと違和感があるかもしれません。

  経年変化の実験はパーになりましたが,「糸倉のリビルト」というのは,修理者としてはよい経験になりましたね。糸倉が彼氏月琴以上に壊れてた場合,あるいはサイアク,首ナシ月琴みたいなものでも,この応用であるていど直せるわけですよ――なるべくなら…したくはありませんが(汗)。



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