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アルファさんの月琴(3)

A1_03.txt
斗酒庵 アルヨコハマ買い出し月琴(3)


8)フレッティング

フレッティング(1)
  いつもだと本体が完全に出来上がってからすることなんですが,今回は塗りと平行して,フレッティングの作業もやっています。

  いちおう,事前に計算めいたことをやって,原作の楽器のフレット位置に近くなるよう予測をたててはいるのですが,前にも言ったとおり,明清楽月琴やウサ琴とスケールが違うので,現実にフレットを並べたとき,予測どおりの位置になるかどうかには不安があります。
  あんまりにも違ってくるようなら,今のうちに棹を切り詰めるなりして,スケールを調整して対処したいわけですね。

  フレットは山口と同じく竹製。

  最大厚8mm と,ふだん庵主が削ってるフレットの2倍近い厚さですが,少数民族の月琴はだいたいこれくらいの厚さの大ぶりなものが多いようです。
  明清楽の月琴の竹製フレットは,最大厚3~4mm ほどのものが多いのですが,1cm くらいの厚さのある黒檀や象牙製のフレットが付いているものも見たことがあります。ただしそうしたものは主として装飾用に作られた,いわゆる「お飾り月琴」の感の強いものが多いですね。

  とはいえ,楽器的にはべつだん厚くてもそれほどの問題はありません。
  操作上の嗜好もありますが,薄い方が音階を精確に出しやすく,レスポンスもいい反面,指遣いに敏感すぎて嫌うムキもあります。多少音階が甘くなることはありますが,トレモロをかけず単音で弾くような場合は,安定のいい厚めのほうがよい場合もありますね――一長一短てとこです。

フレッティング(2)
  アルファさんがどのような調弦で弾いているのかはもちろん分かりませんが,とりあえずはふだんの月琴と同じく,開放弦C/Gで糸を張ってみました。

  まずは棹の上のフレットを並べます。

  第一関門は棹上最終,第6フレット……ビンゴ~ッ!


  原作とほぼ同じ位置,棹と胴体の継ぎ目手前に,みごとぴったりとハマりました。音階はC#1/F1,西洋音階で完全2オクターブのウサ琴にはありますが,明清楽の月琴にはないフレットですね。


フレッティング(3)
  つづいて第2関門,面板上二番目の第8フレット。

  これは面板の上の同心円状の飾りの通るところにハマれば成功。
  コミックスから寸法を割り出して,この飾りは直径約 20cm としています。

  とりあえず桐の板で作った試作品のお飾りをのせてみて,フレット位置を探ってゆくと……残念……5mm以上ズレてしまいました。

  試作とはいえせっかく作ったお飾りなので,できれば半月みたいにそのまま使いたかったのですが,対策としてフレットをもっと太いものに作り直すとか,お飾りを上にズラすとか,ラクな手もないではありませんが,どちらも見栄え的にあまりうれしい結果になりそうもないので,あきらめて地道に,お飾りのほうをもう一度,少し大きめに作り直すことにします。


9)軸そのほか

  さて,楽器本体の方はほぼ完成,と言っていい状況。
  製作もほぼ終盤です。
  ここらでこまごまとした小物類を用意しておきましょう。

  まずは軸。糸巻きのことですね。
  フレッティングまでは作業用の軸を使っていましたが,そろそろちゃんとした軸を削ってやりましょう。

中国月琴の軸
  現在一般的な中国月琴の軸は,握りのところが工具のドライバーのそれみたいなカタチで,縦筋が細かく入っているものが多いようですが,原作を見るとこの楽器の軸は,握りの先のほうに向かって開いたラッパ型円錐状になっていますね。

  これも少数民族の月琴でよく見られる型の一つで,アルファさんの月琴の外見上の特徴の一つ…なんですが。

  ふだん角のある軸で慣れてますと,この手の円い軸はどうにも使いにくくって……ここは演奏上の理由から,明清楽の月琴でよく見られる六角形の軸にさせてもらいます。

  近くで見ると角ばってますが,遠目にはまあ,同じラッパ型に見えますしね。

  最大径 2.8cm,長さは 10.5cm 。
  太さは同じですが,長さをふだん作ってるものより1cm ほど短くします。

軸(1) 軸(2)

軸(3)
  明清楽の月琴では,ほぼ左右にまっすぐ水平に突き出ているものもあるのですが,庵主はやや外側に向かって末広がりに,さらに楽器の表面に向けて少しだけ傾いでいるように配置します。

  斜めにしたほうが軸先と軸穴との摩擦面が増して軸がしっかりと停まるのと,演奏中の調弦がまっすぐのものよりしやすいからですね。

  ただし孔をあけるときに3Dで考えなきゃならないので,算数のニガテな庵主にはいつもちょっと大変です(笑)。



  小物二つ目は,面板に貼り付ける円状の飾り。

  少数民族の月琴風にするならただのペイントでも悪くはないのですが,コミックスを見ると,この部分,どうやら少し面板から盛り上がってるようです。
  絵によって多少サイズや半月との関係位置が異なるのですが,円周の頂上に第8フレットがあり,その反対側は半月の先端,糸孔の下あたりを通過していると想定されます。

  最初の試作ではまず,そうした推定から割り出した寸法どおりに型紙を切って,それをもとに作ってみたのですが,フレッティングのところで触れたように,第8フレットと重ねるには,ちょっとだけ大きさが足りなかったようです。

  本番の第二作も,材質は同じ桐の端材板。
  直径をほんの数 mm 広げた型紙をもとに部材を切り出し,同心円を描いた紙にはりつけて,円形に組上げてゆきます。
  各部品の両端は,接着面が広くなるように斜めに切っておきましょう。
  桐は接着がいいので,接着面がうまく平らなら,こんな細かい部品でもけっこう丈夫にくっつきます。

円飾り(1) 円飾り(2) 円飾り(3)

  うまく円形になったら,接着面にニカワを塗り,二枚の板ではさみこんで接着。
  できあがったものをヤスリで削って薄くしてゆきます。

  先に述べたように,この飾りは下のほうが半月の糸孔の下あたりを通過します。

  その部分の空間の高さは4mm ほどしかありませんから,そこに凸があると糸を通す時にジャマになります。高くても2mm,できれば 1.5mm くらいの厚さが望ましい。力のかかる部品ではないので,そんな薄さでもへいちゃらです――ただ作るのが難しくなるだけで。

  桐板が余っていたので庵主はこんなふうに作りましたが,ツキ板の類を積層して作ってもいいと思いますよ。

  整形したお飾りにベンガラを塗って,指板と同じような色に染め,ラックニスでがっちり固め塗りします。こういう繊細な部品のとき,細かい整形などは,塗装が固まってからのほうがラクですね。

円飾り(4) 円飾り(5) 円飾り(6)

  小物三つ目はピック。

ピック
  これも材質はいつものとおり,ペットショップで買ってきたワンちゃんのおやつ「牛のヒヅメ」を加工したものですが,カタチと大きさがやや異なります。
  色違いで二種類作りましたが,どちらも材質は同じです。

  原作では握ってるときに先っぽとか,半月に挿してあるお尻の部分が見えてる程度で,このピックの全体がはっきりと描かれている回はほとんどなく,全体の寸法や先端のカタチは想像するしかありませんが,絵からの採寸などからすると,およそこんなカンジではないかと。

  長さは 5.5cm ほど,ふだん庵主の使っているピックより2cm ほど短いのですが,同じような大きさとカタチをした例もないではありません。

明清楽月琴の義甲

  アルファさん月琴のピックにはヒモが結びつけられていて,その先はお尻の板の穴の輪っかにつながっています。

  古い写真などから見ると,明清楽の月琴ではこの義甲の孔に,長い飾り紐を付けたりして弾いていたようです。
  花結びや梅結びで飾られ,時に玉などが嵌め込まれていることもありますが,これなどは演奏中のぷらぷらひらひらさせるだけの純粋に視覚的・装飾的なもので,演奏上の意義はさしてありません。
プイ族の月琴・ピックに紐
  一方,古い中国月琴や,少数民族の月琴ではもっと実用的に,同様の孔にピックをなくさないようにするための留め紐がつけられ,棹尻か半月のところに結ばれている例をよく見ます。

  現在,中国月琴用のピック(今はギターのピックを使うのが一般的になってますが)として売られているものには,こうした孔は見られません。細長く,どちらの端も使える――両頭になってるからですね。
  おそらく明清楽の月琴の飾り紐も,もともとはこのような実用的なところにルーツがあったと思いますが,どうした理由でこんなふうに装飾過多なものになったのかはいまのところ不明です。


  アルファさんの月琴のピックの紐は,言うまでもなく後者の用途にあたるもの。荷物紐だったりビニールテープだったり,ワイヤーだったりと,そこらにある糸類がまあテキトウに使われているようですが,今回庵主が用意したこのヒモ,材質はたかがタコ糸なれど,ちょっと凝ってまして。

  ベンガラとヤシャブシの汁で作った黒い染料――江戸時代に使われてた「オハグロ」の液と同じものですね――に漬け込むこと三日。洗って干して媒染して二日。ただの糸屑に五日もかけてます(ムダ?)
  一見ただの黒っぽい糸ですが,陽に当たると独特の金属っぽい光沢があって,ちょっとイカすんですよ。


ストラップ材料
  小物三つ目,ストラップ。

  さてここでのいちばんの問題は,このストラップの布地です。

  カラーイラストを見ると,水色から藤色っぽい色で,幅は5~10cmくらいでしょうか。
  もちろんこれがどんな材質の布なのか,マンガのどこをみても書いていませんから庵主の勝手なイメージの世界なんですが――薄手のちょっとさらさらした感じの布,しかもリボンとかサテンほどのツルツルじゃない。

  そんな布が欲しくて,日暮里は繊維街へ。
  月琴の絃停とか飾り紐を買うため,ここにはしょっちゅう行ってますが庵主,布地のことは正直あんまり知らないんで,触感と見た目で布を探します。

  あちこちの生地屋に入っては,ながめて,触って…なんとか「それらしい」布にたどりつくまで,3時間以上も彷徨いましたで。

  それでも買った布はイメージにある色より,少しだけ鮮やかで濃かったため,漂白剤でわざとムラムラに脱色し,落ち着いた秋の空の色にしました。
  また,それをただ細長く切っただけでも良かったのでしょうが,幅 10cm に切ったものを半分に折り,いちおう袋帯みたいに縫いあげてます。
  単純な送り針でしか塗ってませんが,さすがに長さが2m――疲れました~。

ストラップ上端・糸倉のところ ストラップ下端

  庵主のカメ琴のストラップなんかは,首にひっかけてるだけなんですが,アルファさんの月琴はエレキギターやベースとかと同じく,肩から提げてますね。ストラップの布はまず,糸倉の,例の第二軸があったはずの場所に結び付けられ,左肩から背中を回って右脇へ,腰のちょっと上のあたりで,もう一方の端を片結びにして,そこに細めの紐が結わえられています。

  ストラップの長さはおそらく,この部分で調節するのでしょう。

  この紐のもう一端は小さい輪環に結わえられ,さきほど述べたピックと同じく,お尻の板の穴につけられた輪っかにぶらさげられています。

  このへんは3巻17話の絵から推測――ココネさんと歌合せする回ですね。

  ストラップを結ぶ紐は柔らかい麻糸の編み紐(2mm 太),ピックの結わえ紐と同じようにオハグロ液で軽く染めて色を落ち着かせます。

小物
  これらを結びつける金具類も,同じく日暮里で購入してきました。
  お尻の板にさげる大きな金輪(3cm 径),そこにナシ環(→ピックへ)と小さい金輪(1.5cm 径→ストラップへ)が一つづつぶらさがります。

  色はアンティークなブラスに統一。

  ピックにつながるナシ環はちょっと大きめだったんで,ペンチで壊して縮めました。
  ぜんぶカバンの金具で,一個数十円ほどのもの。ここではこうした金具を一個売りからしてくれるお店もあるんで助かります。

反省点その1:お尻の突起について

イ族八角月琴(庫竹)
  アルファさんの月琴のお尻には,四角く板状の部品が突き出ています。
  真ん中あたりにひとつ孔があいていて,ストラップの紐やピックを結んでる糸は,ここに繋がれています。

  この部分は本来,胴を貫通している棹の延長材の先っぽ,もしくはそれに付けられた「留め木」か「飾り」のようなものとして捉えるのが正しいでしょう。

  イ族の八角月琴などでは同様に棹の延長材が突き出た例が見られますし,現代の中国月琴もここまで突き出てはいないものの棹の延長材は胴体を貫通し,お尻のところまで達しています。

  しかし今回の製作では,ここは別部品で作ったものを,お尻のブロックにさしこんであるだけです。

内部構造比較
  これは庵主が当初,この楽器にどんな「響き線」を仕込むか決めていなかったので,胴体内部のスペースをより自由に使える,いつものウサ琴と同じ構造――明清楽の月琴や中国南方の小型月琴と同じ形式,すなわち棹の延長材が胴の途中で止まってるカタチ――にしたところからきたものなのですが。

  けっきょくのところ決めた「渦巻き線」にするんだったら,大きさを調整すれば,本来の構造でもちゃんと響き線を仕込むことはできたわけで――つぎに作る方はぜひ上述の通り,棹貫通型でやってみてください。



10)完成!!!!!!

最終工程
  さてさて,塗装は思ったより早く仕上がり,細かい部品も出来上がり。

  最後の作業は,先に作った円状のお飾りの接着です。
  実際にのせ,あちこちズラしては眺めて位置を決め,エンピツで面板の上に4~5箇所目印を付けて。
  せっかく輪にしたんですが第8フレットの幅のぶん,一部を切り欠きます。

  裏にニカワを塗って接着。染めに使ったベンガラが面板ににじむとイヤなので,一発でキめなきゃなりません~,キンチョーするなあ…面板の上にそっとすべりこませて,すかさずそこらのものを上に乗っけて重しにします。

  う~む,遠目に見ると(近くで見ても),これが楽器の最終工程とはとても……

  6時間ほどで接着完了。

  2008年1月22日。
  「アルファさんの月琴」,完成いたしました。




α-1四面
α-1横アップ
  [DATA]
  コードネーム:α-1/銘:Luna Herbière
  全長:70cm。
  棹長:37cm,指板:20cm。

  胴幅:31.5cm,胴厚:3.5cm。
  有効絃長:43cm,

  フレットは9本。
  低音複弦,高音単弦。
  調弦C/Gのとき,音域はC~C2
  B2を除いて2オクターブ。



  調弦は三味線の糸の時にはC/G,三線の糸などを使う場合にはF#/Cくらいがいいみたいです。

  1月29日現在,庵主は低音に三味線の二の糸,高音に奄美三線の中弦(なかじる)を張っています。

楽器地方向から
  最初はいつもと同じようにぜんぶ三味線の糸にしていたんですが,わずかなスケールの差でも弦のテンションがユルめになっていること,そして高音弦が単弦なせいで,高音弦の低音域でいらない bebung 効果(背の高いフレットの楽器で使われる効果,弦を強く押すことによってビブラートをかける)がかかってしまい,妙に音がうねうねとしてしまいました。
  bebung 効果が出ないようにと,指の力を弱めすぎると,こんどは音がミュートしたりノイズが出たりするので,ちょっと弾きにくくなる。三味線の絹糸は柔らかな優しい音色が魅力ですが,背の高いフレットの楽器で単弦だと,やや柔らかすぎて扱いにくいのです。

  次に,すべてを三線のナイロン弦に変えてみました。
  テンションは高くなり,bebung効果も気にならない程度に抑えられましたが,低音がやや野太く耳に障り,弾きこんでいるうちになんだかイメージと合わなくなってきました――月琴,というよりこりゃ,カンカラ三線の音みたいですね。
  ボンボンシャキシャキという感じのサウンドが欲しい時にはいいと思いますが。

斜めより
  奄美三線の弦は,三味線の弦と同じ黄色い色をしていて,沖縄三味線のそれよりやや細めです。材質は同じナイロンの編み弦なのでテンションは高め。
  クッキリとした音が出せ,指もへんに沈み込んだりしません。
  三味線の二の糸は,単弦対単弦なら,このナイロンの音に負けてしまうでしょうが,アルファさんの月琴では有難いことに複弦です。これを張ることで主張しすぎない柔らかな低音が得られます。

  いまのところ,演奏上はこれがベストの組み合わせですが,いやいや,まだまだ試してみないと。

  棹がにょろーと長いわりにはバランスのいい楽器に仕上がりましたね。
  なにせ横にして独りで立ちます。

半月付近
  振り回した感じも悪くない――ただ,演奏姿勢をとってるとそれほどでもないんですが,「線鳴り」がけっこうします。あおむけにするとそりゃもうがんがらと鳴り響く。
  内部の「響き線」の反応がいい証拠ではあるんですがね。
  最高音あたりだとイマイチかかりが悪いんですが,効果のほどはまあ合格ですね。
  そっと弾いてもリバーブがかかります,そりゃもううにょうにょと。

  ふだんの月琴とやや勝手の違うところもあり,まだ完全に調整も済んではいないので,外見はともかく,この楽器で本当に「アルファさんの月琴」らしいサウンドが出せるのか――そのへんはまだ断言できませんが。
  弾き込めばかなり面白い楽器にはなりそうです,ハイ。


 

アルファさんの月琴(2)

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斗酒庵 アルファさんの月琴を作る の巻ヨコハマ買い出し月琴(2)


5)半月の接着

半月接着(1)
  さて,続きです。

  裏板を張って,胴体を箱にする前に,まずは半月を接着します。
  コミックスを見たり,絵から寸法を割り出したりして,その下限位置は胴体の縁から1.5cm のところと決めました。

  これにより,この楽器の山口から半月までの弦の長さ,「有効絃長」は 43cm となります。

  明清楽の月琴で 38~42cm ですから,スケール的にはそれほどの違いではなさそうですが,棹が長いぶん操作感とかには大きな違いが出そうですね。

  接着をしっかりするため,半月をのせる前には面板の接着面をペーパーで荒らして,お湯をふくませてあります。大きさはふだんのウサ琴の2倍ですが,左右に空間があるぶん,接着面はかえってせまく,琵琶や阮咸さんのテールピースのようにほとんど「片持ち」で面板についてる,といった感じになりますから,部品自体のバランスもそれほど良くはありません。
  力のかかるところなので,慎重に,確実に貼り付けたいですね。

  面板の裏側にも角材を噛ませて,表裏からきっちり力をかけれるようにしてあります。

  それでもこの半月は全体が曲面なので,クランプをかけるの自体が難しい。
  そのうえ,ヘンなところに力がかかってしまうと,下に支えのない真ん中の部分が割れてしまいそうですから,その下に間木を噛ませたり,半月上にはコルクの薄板を並べて,なんとかクランプを定位置に落ち着かせました。

  三日ほどそのままにして,半月が着いたところで。

  まだ裏もとじてないし,フレットもない状態ですが,仮軸を挿し,糸を張ってみました。

  なにせイロイロと未知なところの多い製作ですからね,今回は。

  楽器としてちゃんと鳴るのか,構造的に無理はないのか,この時点で調べておきます。
  糸の高さも問題なし,とりあえず半月もハガれてこないし,棹の反りもなく,弦をピンと張っても折れません――このまま作っても大丈夫みたいですね(笑)。

半月接着(2) 半月接着(3) 半月接着(4)


6)響き線の追加

  ここでふと思いついて,響き線を追加することに。

  「赤いヒヨコ月琴」に付いてたフシギな構造――真鍮のバネみたいのと直線の組み合わせ。一見SFっぽい――を加えましょう。この構造,効果はそのものは小さいんですが,面白い残響が付きます。

  そこにちょっとロマンも追加。   赤い石――ここではガーネットですね。
  楽器のお守りというかパワーストーンみたいなもんで,音的には特に意味ありませんが。
  原作ファンなら,ははあん,でニヤッ,てとこでしょか。

追加線(1) 追加線(2) 追加線(3)


7)塗装

塗装(1)
  響き線も仕込み終わったので,裏板を貼って胴体を箱にして,塗装に入ります。

  棹はラックニスで下塗りをした上から,オイルニスを上塗りします。

  胴体側部も同じ塗装ですが,今回は表裏の面板をヤシャブシの汁で染めるついでに,側板もいっしょに黄色くしてあります。

  糸倉の先端しかり,半月しかりなんですが。この月琴のデザインのあちこちからは,大型の水鳥とか,船みたいなイメージが浮かんできます。

  今回,棹材の選択もそうなんですが,側板を黄色く染めたのも,ここをチークっぽくしたかったからです。
  チークは耐水性に優れているので,むかしから高級な船の材料としてよく使われていました。

  未来という時間の海を渡る楽器には,ふさわしい材質かな,と。

  これもまた,ほんのロマンに過ぎませんが。

塗装(2)
  胴体をオイルニスで塗装するのはこれが二度目です。

  楽器用のオイルニスは紫外線で硬化するものなので,塗装後は楽器を日干しにする必要があります。以前,4号月琴の修理で使ってみたのですが,初夏だったこともあり,塗料が固まる前にキョーレツな日差しで面板にヒビがビシッ!…なんて悲劇がありまして。この塗料,以来戸棚に封印されておりました。

  棹はもともと日干しにしても問題なしですが。

  さて,胴体はどうかなあ?…と多少不安はありましたが,うまいことに今回季節は冬。
  温度は低く,日差しだけをもらって乾きも早く,前回の苦労がウソのよう。
  お日様さえあれば,ふだん使ってるカシューよりもずっと乾くのが早かったですね。

  じつに快調な塗装作業でありました。

  塗り重ねられて薄く飴色がかった塗膜が,なんだかちょっと美味しそうです。


  ――次回,いよいよ完成です!

 

アルファさんの月琴(1)

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斗酒庵 アルファさんの月琴を作る の巻ヨコハマ買い出し月琴(1)


完成直前   「月琴」で Web 検索なさったことのある方なら,だいたいご存知かと思いますが。

  『ヨコハマ買い出し紀行』(芦奈野ひとし アフタヌーンKC 講談社)というマンガがあります。
  温暖化の影響か,あちこちの都市が水没した未来の世界――そう聞くとガチな長編SFなんですが――そこになぜか流れる,ほんわかゆったりとした日常をてろってろに描いた作品。一編数ページの短編でしたが全14巻,12年もに渡る長期連載で,いまもファンが多い名作マンガです。

  この作品で,主人公のアンドロイド,アルファさんが弾いている楽器が「月琴」だったのです。

  近年「月琴」という楽器が,一部でよく知られるようになったのも,ある意味,この作品のおかげだと言っていいですね――マンガを見て「月琴って何じゃいな?」と調べた人もいれば,通販で買った人もいるでしょう。

  本家HPのほうにも,小さいですがコーナー作ってるくらいで,月琴弾きの庵主も類にもれずこの作品のファンであります。

  ただしほかのファンとちょっと違うのは,庵主の場合「月琴」が先だったことくらいでしょうか?「月琴」で検索していると,あちこちでこのマンガの話が出てくるので,ナンジャラホイと読んでみて....ハマりましたね。

雲南イ族
  芦奈野さんによれば,アルファさんの楽器のデザインは,中国の少数民族の月琴をもとにしているそうです。たしかに雲南の少数民族なんかには,首が長く,面板に同心円状の飾りやペイントをほどこした,似たようなデザインの月琴がよく見られますね。少数民族が使用しているそうした月琴は,一般に市販されている中国月琴を改造したものである場合も多いのですが,まだ昔ながらに自分たちで作っているところもあります。
  それらの楽器は外見上,現在一般的な中国月琴よりは,19世紀末~20世紀初頭の頃の,古い楽器のスタイルをとどめていることが多い――つまり,ふだん庵主の扱っている「明清楽の月琴」に近いところが多々あるのです。

  そんなこともあって。

  この,マンガに出てくる月琴を作ってみたい,弾いてみたい,という思いは,じつはけっこう前,月琴をはじめたころから抱いていたんですが,こうして実際作ってみれるようになるまでには,ずいぶんと時間がかかりました。

  連載,終わっちゃったもんね――。

  とはいえ,原作ファンの庵主にとって,それはある意味「理想の一本」
  作るからにはカタチをなぞっただけじゃなく,楽器としてちゃんと辻褄のあった,ちゃんと音の鳴るものを作りたい。
  庵主は中国月琴の音も,少数民族の月琴の音も,明清楽の月琴の音もあるていど知ってます。
  だから原作を読んで,その楽器の姿を見て,頭に浮かんだサウンドは,現代の中国月琴のそれではなく,ナシ族とかイ族の月琴とかのソレ,もしくは明清楽の月琴のやさしげな音色でありました。

  キーンと澄んでるのに,どこかほわほわ。

アルさん
  そんな感じの音のする楽器。玩具や模型でなく,楽器として「アルファさんの月琴」を作ってみたい,弾いてみたいのですよ。
  もっとも,現在の庵主の技術と工房の限界からして,それはゲンミツには「月琴」ではなく,オリジナルの代用楽器・ウサ琴の延長になってしまうのですが,架空の楽器を,さまざまに制限のあるゲンジツのなかにどうランディングさせるか....これはこれで楽器製作者としては一つの大きな挑戦となりましょう。

  原作のコアなファンの方々にとっては,「そこチガうよ~」てなところもあるかもしれませんが,
  庵主のカッテな「思い込み」も,多々入る製作ともなりましょうが,

  よろしく,お付き合いのホドを。


1)棹を作る

棹(1) 棹(2)
  棹材はチーク,糸倉もチークの板です。

  棹の長さは糸倉の先まで 37cm,ふつうの月琴と比べると7cm,ふだん作ってるウサ琴より5cm以上長い。たぶんホンモノ――といってもマンガのなかの楽器ですが――は,ふつうの月琴と同じく糸倉までの一木作りでしょうが,このへんはウサ琴と同じ寄木作りでやらせてもらいます。


棹(3)
  原作を見るかぎり,この楽器の棹に「指板」がついてるかどうかは微妙なんですが,材質のこともありまして,このへんもウサ琴準拠で。

  指板の材はカリン。
  銘木屋さんで貰ってきた端材の薄板を切って貼りました。厚さ4mm,幅3cm,長さは 19.5cm。
  マンガではこの棹上に第6フレットまでがのっかっています。
  どのように作っても,今まで作ってきた楽器とスケールが異なりますし,最終的にその弦の長さがどのくらいになるかすら分からないので,どこにどのフレットがくるのか,この時点でははっきりと分からないのですが,いちおうカメ琴やウサ琴のフレット位置からだいたい予想をたてて,指板の長さを決めました。

  さてと,うまくいくやいなや?――こりゃもう賭けですね。

  ウサ琴等と違い,アルファさんの月琴は,棹元から山口(ナット)のところまで同じ幅で,テーバーがないのが特徴。
  山口を置く付近がちょっと太くなる,いわゆる「ふくら」のないこのデザインは,中国の現代月琴や,明清楽の月琴にもあるのですが,すらりと先細りになったウチの月琴の棹を見慣れた目には,やたらゴン太くんに見えます。

  Webで木工関係のサイトを見ると,よく「チークは接着に難」とあります。
  材質的に油分が多く,表面がロウ質で接着剤の染みこみが悪いためですが,接着面を粗めのペーパーで荒したり,エタノールなどでよく拭いたり,あらかじめお湯を多めに含ませておくなどの手間をちゃんとやっていればキチンとくっつきます。(わたしはその三つ,ぜんぶやってますヨ)

  部品を組み合わせてできた四角い物体を,コミックスを見ては削り,触ってなぞって確かめては削り…見た目のカタチと,実際の使用感との整合性との摸索は,ここからもう始まっています。

棹(4) 棹(5) 棹(6)

  糸倉の先端は,ふつう蓮頭の雲板を貼り付けるため,楽器の表側に向かって斜めに切りそがれたカタチになってますが,アルファさんの月琴はまっすぐ上に突き出し,裏面が船のように丸く削られています。

  この糸倉のカタチがまず第一関門。

  ここの出来不出来で,楽器の印象がずいぶん変ります。
  コレぞと思う一枚ができるまで,何枚も型紙を試作しました。

  先端はスパッと切り落とされた感じになってます。
  ここにわざとヤスリ目を粗く残して,民族楽器風味をもたせてみました。

棹(7) 棹(8)

  棹ができたところで,軸穴をあけます。

  さてここで二つ目の関門。

軸穴参考
  アルファさんの月琴は3弦ですが,軸の配置がフシギです。

  向かって左側に2本,右が1本。

  左右の本数はともかく,三弦の場合,使い勝手から言うと,三味線とかと同じ――つまり片方2本の「中間」に反対側の軸がささってる――という配置のほうがいいのですが,この楽器ではなぜか,右の1本が左の2本の「下に」位置しています。

  これをどう考えるか?

  最初から3弦の楽器として作られたにしては,少々奇妙な配置です。

  では,もともと「4弦だった」楽器を「3弦にして」使っているのだ,と考えてみたらどうでしょう?

  上から二本目の軸は折れてしまったのか,なくなってしまったのか,それとも使わないのでもとから挿してなかったのか,そのへんは分かりませんが,それならこの軸の配置も納得がゆきます。
  少数民族が市販の月琴を改造して使っている場合などにも,似たような例がありますからね。

軸孔をふさぐ
  とりあえず,軸穴は4本分あけてしまいました。

  そして上から二番目の軸穴(位置はかなりテキトウ)はふさいでしまう。
  原作ではちょうどここいらへんに,いつもストラップの布が巻きつけられてますよね。

  あれでふだんは,この痕は見えない――という設定でいかが?



2)胴体を作る

  胴体のフレームはエコウッド(30cm 径),内桁は檜(9mm 厚),左右の竜骨は杉板(6mm 厚)。
  天地には補強に桂材のウッドブロックを接着。
  棹を内桁に挿すための延長材は杉。
  このへんもまたウサ琴準拠です。

  つぎに作る方は当ブログ内,ホンモノの月琴の「修理報告」など参考に,ちゃんと広葉樹4ピースで胴体作ってみてください。なお,ウサ琴は材料の関係で,本物の月琴より胴体の直径が5cmほど小さいのですが,今回の場合,庵主的にはこの「やや小さめ」のサイズの方が,イメージ的にはぴったりハマったんですが,どうでしょう?

胴(1) 胴(2) 胴(3)

響き線・表面板
  メインの「響き線」は阮咸さん,ウサ初と同じ「渦巻き型」
  スプリング・リバーブばりのうねうねとした残響効果が特徴…てより,この選択は,そのゼンマイみたいなカタチが,なんとなく直線や弧線より「アルファさん的」だったからなんですね(笑)。

  表裏面板も,いつもと同じく\100屋の焼桐板。
  表面をこそいで白くした桐板を貼り付けて,半月を付ける前にヤシャブシで黄色く下染めをしておきます。



3)半月を作る

半月・比較
  さて「アルファさんの月琴」の目だった特徴の一つが,この独特のカタチをした「半月(テールピース)」です。
  少数民族の月琴でも,こういうカタチのものはまだ見たことがないですね。
  たぶん芦奈野先生のオリジナル・デザインでしょう。

  そしてこれが第三関門。

  この特徴あるカタチをどういう材料で,どうやってこさえようか,またそのサイズや取付け位置は?
  悩みは尽きず多ケレド――何はともあれカタチにしてみなくては何も分からない。
  とりあえず,糸倉を作った余り材のチークの板(1cm厚)で実際に作ってみることにしました。
  縦幅は 5.5cmと,ふだん扱ってる明清楽の月琴とあんまり変わらないのですが,幅は18cmとほぼ2倍,巨大な半月です。

  まずは材料から半月形を切り出します。
  角を落として全体を丸っこくしたら,うちの田舎でいうところの葬式饅頭みたいなカタチになりました。
  つぎに真ん中の部分の内側を刳って薄くします。この部分に糸がかかります。

半月(1) 半月(2) 半月(3)

  つぎはその左右を糸ノコでえぐり取り,内側のラインをヤスリでなめらかに整形します。
  真ん中の裏側をさらに刳って薄くし,面板に貼りつけたとき左右の開いたポケットみたいになるように削ります。

半月(4) 半月(5)

  最後に左右の張り出した部分を,いくぶん低目に削って完成です…試作品のつもりだったんですが,思ったよりそれっぽくなりました。

  ――これを使ってみましょう。

半月(6) 半月(7) 半月(8)

  チークは切削性が良いので,こういうちょっと複雑なカタチのものを作るのには最適なのですが,力のかかる半月に使うのには強度的に少し足りません。とくに糸のかかる真ん中部分の強度が心配なので,裏側を少し削って,黒檀の薄板を木目が交差する方向で貼り付けときましょう。

半月(9) 半月(10) 半月(11)

  これでまあ,ポキンと折れたりすることはそうありますまい。

  つぎ作るヒトはこの半月も,黒檀とかメイプルとか,目の詰まったもう少し丈夫な材料で挑戦してみてください。



4)山口を作る

山口(1)
  山口――ギターでいうところのナットのことですね。

  コミックスや画集をみると,フレットと同じ色だったりしていることもあり,今回はフレットと同じ材,竹で作ってみました。

  一般にこの部品は,黒檀や黄楊など硬木で作ることが多いのですが,竹の山口がそれほど悪くないものであることは,すでに前作ウサ琴2でお試し済み。
  ぜんぶ竹でできてる,ってほうが,よりアルファさん的な感じはするんですが,ここは斗酒庵工房準拠,糸擦れ防止に象牙をちょいと噛ませてもらいます。


  原作では1巻と3巻で多少カタチが変わったりしてますが,だいたいこんなところかと。

山口(2) 山口(3)

山口(4)
  写真右にあるのは,現在製作中のウサ琴3の黒檀+象牙の山口です。

  うちの楽器は,だいたいこの縦割りカマボコ型に統一しているのですが,アルファさんの月琴のもののように,両側が斜めになっているこのカタチに近いものも,幕末~明治の古い月琴で見たことがありますね。

  ――今回は,ここまで。
 

ウサ琴3(5)

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斗酒庵 みたびウサ琴作り の巻5ウサ琴3(5)


響き線の加工と取付け

  う~む,今回の内容はあまりにマニアックなので,ふつうの人はついてこられないかも……。
  とわいえ,庵主の楽器製作の目的は,こういうことを実験して調べて,再現するところですからね。
  どうか,お付き合いのホドを。


  月琴の音のイノチ「響き線」のおハナシです。

鶴壽堂月琴・内部構造   今回,ウサ3に仕込む響き線は,直線の2本線。
  桁で分けられた中と下の空間に,長さの違う線を左右互い違いで取り付けます。
  以前修理した「鶴壽堂月琴」の構造を参考にしたものです。

  ただ,オリジナルでは上下とも真鍮のハリガネだったのですが,今回はメインとなる上線をピアノ線に変更しています。

  真鍮の響き線は工作も容易(切るだけ)で,直線でも曲線でも,短くてもよく振動し,音への反応もいいのですが,材質的に柔らかいため,長くなると自重で楽器裏面に触れたりしてかえって効果が悪くなったり,使用しているうちにふとした衝撃で変形したりしやすい。
  音質的にはあたたかく華やかな余韻が得られますが,多少音が小さいのも欠点の一つです。

  逆にピアノ線で作った直線の響き線硬く丈夫で,余韻は力強く,音の増幅効果も高いのですが,硬いぶん短いと振幅が小さく,反応が良くないので,響き線として使うのにはどうしてもある程度の長さが必要となります。
  またピアノ線というものは買ったときそのままでは,指で弾いてもボヨンボヨンと揺れるだけで,音に対する効果もほとんどなく,響き線として使用するには「焼き入れ」をして,線を「バネ」の状態にしておく必要があります。

ウサ初・内部 ウサ2イ号・内部
  2号月琴やウサ初のような渦巻き線,また前作ウサ2のイ号のような曲線の場合は,形状そのものがバネ的な特性を有しているので,多少焼き入れが甘くても充分に効果のある響き線になるのですが,直線の場合はこの「焼き入れ」加工の成否が,その効果に大きく影響してしまいます。

ウサ2・焼き入れ/急冷
  しかし――

  直接コンロの火で炙って焼き入れするような場合,曲線のものは作業範囲がコンパクトなので,家庭用ガスコンロの火口ていどでも全体に火を通すことが比較的容易なのですが,直線の場合,焼き入れ範囲は線の長さと同じなので,長くなればなるほど線全体を均一に炙ることが難しくなります。

  ウサ2・ニ号の工作でも10本近く失敗してしまいました。

  多くは焼ムラをなんとかしようとしているうちに,焼きが入りすぎたもの。
  焼きすぎると線はモロくなって,バネどころか,かんたんに折れてしまい,使いものになりません。


  そこで庵主。今回はまずこの焼入れ作業に先立って,台東区は男の道具街・「合羽橋」であるモノを仕入れてきました。

男の鉄板!
  それがコレ,「お好み焼き用鉄板」!

  自転車の前カゴが落ちそうになるくらい,ブ厚く,ものスゴ重たい鋳物製で,直径はナント34cmもあります(誰がいったいこんな巨大なお好み焼きを…)。
  ウサ琴の胴体の直径は 31cm ほど。これだけのサイズならどんなタイプの響き線でも焼入れができますし,鋳物は熱のまわりが遅いものの蓄熱がよく,鉄板全体をほぼ均一な温度に保つことができますから,この作業にはまさしくうってつけです。

  これに決めるまで,キャンプ用の鉄板とか鉄のステーキ皿とかパエリアパンとかいろいろ迷ったんですが,いずれもサイズが折り合わなかったり,予算と折り合わなかったりで…けっきょく合羽橋を4時間あまりもさまよってました――いや,でも帰りはホントに重かった。

焼き入れ実験中1 5分後・茶色に変色 10分後・青変はじまる

  実際に焼き入れに使って実験してみた結果,ピアノ線がバネ化する目安,テンパーブルーに変色しはじめる(右写真)のは,鉄板の温度が180度前後になったとき。30cm の線で全体が均一に焼入れされるまでに,200度前後で,およそ30分ほどかかるということが分かりました。

  またガスコンロの火口のサイズと,鉄板の底が完全に平らではない関係から,焼き入れをより均等にするためには,何度か線の位置を変えたり,鉄板をズラしたりする必要がありますが,コンロで直接炙っていたころにくらべると問題にならないぐらい作業が容易で,歩留まりもほとんど出ません。

  端から端まで完全に焼入れされてしまうと,線がまったく曲げられなくなって,取り付けたあとの微調整に支障の出る場合があるので,線の一方の端には焼きの甘い,もしくは入っていない部分が必要なのですが,この底の形状を逆に使うと,そういう部分を故意に作り出すことも可能です。

  ほんと,ラクになりました~。


  さてさて,この新兵器のおかげで,今回の響き線の焼入れは上々,品質もほぼ均一です。
  いくら外側の工作を均一にしてても,音の要の響き線の品質がまちまちなのでは,今回の実験(棹の材質による音質の相違を調べる)なぞハナから不可能であります。

ウサ3・4号内部
  さてしかし――

  いざ取り付けた響き線を指で弾いてみると,4号バカ鳴り,1号そこそこ,2号物足りず,3号ぺこぺこ無響き状態…とバラバラ。


響き線を指で弾く

  (注)これは響き線の機能を調べるためにやっていることで,響き線を「指で弾いた音」がそのまま「楽器の音」になるとかいうわけではありません。

  打楽器でいう「響き線」と違って,月琴のこの部品に求められるのは,弦音を増幅・装飾する効果を生み出す線の「振動」だけであって,そのものの発する「音」ではありません。
  現に演奏時に響き線が「ガラン」とか音を出してしまうことは,どちらかというと失敗で,月琴の演奏では,これが胴内でぶつからず(音をたてず)かつ,最大に振幅して,最高の効果を得られるような姿勢を保つのを理想とします。

  もとになる音のない状態,つまり弦を張っていない状態で,この響き線の品質や反応・効果のほどを確かめるもっとも簡単な方法が,響き線を直接指で弾いて「音を出してみる」ことなのです。
  響き線がプルプル揺れてるところを目で見ただけでは,それがどのような状態なのか分かりませんが,打検――つまり弾いて音を出してみれば,その音によって,その線の振幅の深浅,長短や持続時間,振動の安定・不安定はある程度把握できます。

  基本的には,安定した響きが大きく,長く持続するもの――まあ,カンタンに言えば,良い音で鳴る響き線が,ちゃんと機能している「いい響き線」と言えますね。

  ここまで述べてきたように,今回は線自体の形状,寸法,焼き入れの加工は4本ともほぼ均一なので,「線によって音が変る」なんてことはないハズです。また,まだオープンバックの状態なので,それぞれの棹や胴体の材質,品質によってこんなに分かるくらい響きが違ってくるわけもありません。

  とすれば――

  残る原因は,線の取り付け加工の問題です。
響き線取付部・上 響き線取付部・下

  とはいえ,ウサ琴の響き線の取付けというものは,竜骨に噛ませた取付けブロックの穴に線を挿しこんで,ニカワを塗った竹釘で抜けないように固定しているだけのことなのですが……まア何にせよモノはためしにと,ぜんぜん鳴らない3号の線を引っこ抜いて挿しなおしてみることにしました。

  竹釘を作り直し,カタチとか角度とか挿し具合をかえながらイロイロやってみると…なあんだ,ちゃんと響くようになるじゃあ,あ~りませんか。

  竹釘のほんの少しの加工の違いや挿し具合で,響き線が「ごわあ~ん!」とスバラしく鳴り響いたり,「かぽかぽかぽ」とてンで鳴らなくなったりします。きっちり挿してがっちり固定した方がいいというわけでもなく,かといってユルユルでいいかというわけでもない――竹釘が線とぴったりくっついてると響かないけれど,完全に離してしまうと,これもまた響かない。

  いろいろ実験した結果。「挿し具合」のほうにはまだ修行の余地があるものの,竹釘の加工については以下のようなことが分かってきました。


1) いちばん作るのがカンタンな四角い竹釘。
  固定はしっかりできるけど,線が角にあたってないと響いてくれません。平らな面にのっかってると振動は死んでしまうらしいですね。穴は円いので,角度の調整が難しいのと,何度も抜き差ししてるうちに角がツブれて,やはり響かなくなってしまいます。

2) 丸い竹釘。
  作るのがタイヘン。
  それでいて大して響きは良くならず,固定もゆるい。

3) 三角の竹釘。
  角が少ないわりに,線がうまく角にあたるように調整するのが意外と難しく,また非常に折れやすい。

竹釘図説
  結果――竹釘の断面は,四角の左右を少し落として,先端の丸まった台形型にしたものがいちばん調整しやすいことが分かりました。丸いほうを線側にあててさしこむと,竹釘のどこに当っても最小面積です。
  また反対側に角があるので,固定もしっかりできます。


  そのままで響きのいい4号機をのぞいて,ほとんどの竹釘を挿しかえ,三日ほどかけて調整をした結果,4本上下の線の響きを,何とかようやくそろえることができました(自信はありませんが)
  けっきょく3号は上下とも2回以上,2号の下線など,4~5回もやり直しました。
  材質や加工のほうばかり気になっていて,そのあとは線を差し込んで固定するだけ。ごく単純な作業としか思っていなかっただけに,この微妙さは意外に大きな落とし穴でしたね。


  おそらくいままで作った楽器でも,こうした調整によってさらに響くようになるものがあったとは思いますが,これまで今回のようにまったく同じ構造のものを,複数同時に作ったことがなかったので気がつかなかったわけですね。

  また新たな発見。

  月琴という楽器のナゾが,ひとつまた解けました。



おまけ 響き線の形状による利点と欠点の比較

松音齋月琴・内部
曲線の利点

1)一定のスペースの中にもっとも長い線を入れることができる。線が長い方が音への反応が良い。
2)線の形状自体がバネ的な特質を持つので,焼入れが多少甘くてもちゃんと響く。
3)長いサスティン,深みのある音が得られる。


彼氏月琴・内部
同・欠点

1)鋼線の場合,特定のカタチに曲げるのがけっこうタイヘン。
2)取付け作業がやや難かしい。
3)形状によっては,大きなノイズが出やすい。また最大効果を得ようと思うと,演奏姿勢に多少の制限が生じることがある。


  2)は具体的に言うと,曲線の場合,線の根元部分をほんのすこ~しイジっただけで,全体が大きく動いて,なかなか思ったような場所におさまってくれない。また長いぶん線自体の重みで変形してしまうので,加工・取付の際にはそのへんも考えて調整しなければなりません。
  さらに,工作が難しくなるのと,その自重変形のせいで,あまり太い線が使えない。
  線が細いとサスティンは長く美しくかかるのですが,音自体の力強さは失われてしまいます。

1号月琴・内部
直線の利点

1)加工がラク(切るだけ)。
2)楽器への取付け,配置,位置の設定・調整がカンタン。
3)比較的ノイズの出が少なく,どんな姿勢で弾いても,ほどほどに効果を生じる。
4)力強いサスティン,キレのある音が得られる。


赤いヒヨコ月琴・内部
同・欠点

1)胴内のスペースとの兼ね合いで,あるていど決まった長さのものしか入れられない。
2)鋼線の場合,焼き入れ作業の成否が効果に直接影響する。


  このうち直線の1)は水平でなく斜めに取り付けることで,ある程度――胴体の直径より多少長いもの――くらいまでは入れることができますね。
  2)のほうは秘宝「お好み焼き鉄板(34cm)」でカイケツしたんですが,今回さらに――

3)取付けの手順自体は単純だが,微調整がまっことシビア。

――という問題点がでてきちゃったわけす。


 

ウサ琴3(4)

USA3_04.txt
斗酒庵 みたびウサ琴作り の巻4ウサ琴3(4)


胴体を作る(2)

竜骨1
  何度も言うようですが。

竜骨2
  本物の月琴の棹は糸倉までの一木作り,胴体は硬い広葉樹の木片で出来た,4つのパーツを組み合わせでできています。

  一方,ウサ琴の糸倉は板を組み合わせた寄木作り,逆に胴体は円形になった一枚板で,材質は柔らかいスプルースです。
  ギターの表板なんかにも使う木材ですから,楽器の材料としては申し分はないものの,針葉樹で板の厚さは5mm ほどしかなく,月琴の胴体にするには多少強度不足です。またその材質のせいでホゾや溝を切るわけにもいかず,桁や響き線を特定の位置にしっかりと固定するための方法を,何かほかに考えなければなりませんでした。

  そうした強度不足の問題と,内部構造の固定。この二つを同時に解決するため考え付いたのが,ウサ琴の「竜骨(キール)」構造です。

竜骨2
■ まずは左右の内壁の線に合わせて,杉板から胴体のおよそ1/4円ぶんの円弧を切り出します。

  つぎに檜材の内桁の両端に,これと噛合わせるホゾを切ってはめこみます。
  杉板と内桁がぴったり所定の位置におさまるように調整したら,2枚あわせて余計な部分を糸ノコで切り落とし「骨」状にする――庵主はこの部品を「竜骨」と呼んでいるわけですね。

  かたちが大昔の船の大黒柱,「竜骨(キール)」に似ているんでこう呼んでいるんですが,杉板で作ったこの「竜骨」は,船の背骨――いちばん丈夫なソレと違って,見ての通り,それ自体ではそんなに強いモノじゃありません。
  細いところで幅5mmくらいなものでしょうか。指二本でカンタンにへし折れてしまいましょう。

竜骨3
  しかし,この程度のものでも胴体の補強にはじゅうぶん有効。

  材質的に弱い箱の内部に,もうひとつ箱型の構造を入れ子にします。たんに厚みが倍になっただけでも強度は増しますが,さらに組み合わせる板の木目とか材の方向を変えると,弱い材同士の組み合わせでも,強度はいやまします。

  内壁に対して直角に取り付けたこのでっぱりは,音の響きなどにも影響しているようですが,そのへんは意図したことではないので定かではありません。



表面板1
■ 内部構造が完成したら,つぎに表面板を用意します。

  まずは¥100屋で買った焼桐板(600×150×6mm)の表面を削ります。
  今回も公園で手作業でごしごしやってたら,近所の方が電動サンダーをかしてくれたんで,いつもなら数時間かかる作業が,ほんの10分くらいで終わりました。

  ご近所様ありがたや~。


表面板2
■ 白くなった板を3つのパーツに切り分けます。

  切り分けたパーツはそれぞれにまとめて両面テープで貼り合わせ,横に継ぐ時の接着面,「矧ぎ面」を磨ぎだします。

  この「矧ぎ面」,つまり接着する板の横っちょが精確に直角になっていないと,うまく幅広の一枚板になってくれないんですが,一枚づつだとその幅はたった6mm しかありません。
  そんな薄いシロモノを,いくら紙やすりの上でゴシゴシやってたって,精確な平面なんかできるハズもない――でもこれを,4枚なり5枚なり合わせて厚くすれば,安定もよくなって作業は精確にもなるし,ラクにもなる。

  ――おまけにナニセ,複数枚の工作が一度で済みます。

  考えてみればカンタンなリクツなんですが。
  こんなことを考え付くのまでに一年もかかりましたよ。


表面板3
■ 貼り合せたパーツをまたバラしてそれぞれ仕分け,ニカワを塗って横矧ぎし,一枚の面板に仕立てます。

  ウサ琴の直径は 31.5cmくらいあるので,この3枚だけではサイズ的に幅2~3cm,ほんのちょっぴり足りません。
  足りないぶんは余り材や端材から切り取った板を足しますが,これがなければほぼギターでいうところの「単板」てのと同じですね。音的にはいろんな板を継ぐより,同じ板を切り分けたパーツを組み合わせて継いだほうが良いそうです。

  一枚からとった3つのパーツのうち,いちばん大きな板を中央において,左右にあとの二枚を継ぎ,右端にその補充の板を継いで,幅広の一枚板を作ります

  前回のウサ琴2で,この板矧ぎの作業を複数枚同時にやってしまおうと,即興の装置を考え,試してみたんですが。
  矧ぎ面の工作がちゃんとなってなかったり,それぞれの部材の厚さが微妙に違って,均等な圧力がかけられなかったために当初の予想どおりにはウマくいかず,結局また一枚一枚矧ぎなおすハメになりました。

  しかし,そのとき考えた「板矧ぎ装置」の発想自体は間違ってなかったはず。

  そこで今回もこの即興装置を再現し,今度は不精しないで一枚づつやってみようと思います。
  ほんとうだとこういう作業,「ハタガネ」という一種のクランプを何本も使ってやるんですが,そのお金もないので…。

  まずは作業台に板がくっつかないよう,台の表面をラップでくるみます。
  つぎに台の片方にFクランプで角材を固定。矧ぎ面にニカワを塗った板を,その角材におしつけるようにしながら並べ,反対側にも角材を噛ませて,角材か板を横に渡して押さえ込み,ゴムをかけて横方向に圧をかけます。
表面板4
表面板4B
表面板5


表面板6
  装置は即興のものですが,今回のように矧ぎ面が精確だとこれで充分いい矧ぎ板が作れます。

  桐板は着きがいいので,6時間ほどもあればじゅうぶんくっついて一枚の板になります。
  ただ,次の作業にはいるのは,接着後一日くらいたってから。接着部分が完全に乾燥してからのほうがいいようですよ(焦ってやって,失敗しました)。

■ つぎにこれを胴体に接着する前に,板の余計な部分をあらかた落としておきます。

  これをしておかないとうまくクランプがかかりませんので。

表面板7   接着する前にもう一度,寸法とか表裏の木目とかを見て,板の中心線を決めなおし,板裏に描いておきましょう。胴体の上下のブロックと桁には,あらかじめ中心線が記してあるので,この線を目印にして胴体と接着します。

■ 板と胴体にニカワを塗り,Cクランプをぐるりとかけまわして胴体に接着。

  さらに今回は,内桁がちゃんと着くよう,真ん中にゴムをかけて角材を噛まし,上から圧をかけました。



  一晩ほど置いてから。

  面板を,胴体の縁から1mm ほどの余裕をもって糸ノコでぐるりと切り落とし,残った部分をヤスリで整形します。
  前にも言いましたが,決して「一発でキメちゃる!」とか言って,胴体円周ギリギリで切り落とそうなどと考えてはイケません。
  糸ノコの刃はけっこうコントロールが難しいので,そのうちオーバーランして,側板にザックリ,癒しきれないような大きなキズを負わせることになってしまいます。

  ええええ,ケイケン者が言うのですから,間違いありません!

表面板8 表面板9

表面板10
■ つぎに,棹を挿して面板と指板の間に段差が出来ていないかどうか調べます。

  段差があったら,面板を削るなり,棹元を削るなりして調整しますが,手作業で平面を均等に削るのはタイヘンなので,たいていの場合は棹元の改修でなんとかしちゃいますね

表面板11
  理想的には,接合部では段差がないが完全な水平ではなく,指板の先端で棹が楽器の背面側に1mm ほど傾いている,というくらいがいいようです。

  糸を張るとその張力で棹が戻り,ちょうどいいくらいになるはずですからね。



表面板12
■ 半月接着前に,まずは表面板の半月でかくれる裏側あたりに5mm ほどの穴をひとつ,あけておきましょう。

  一部の資料ではこれを「サウンドホール」と言っていますが,あいている場所からしてもその機能がないことは明白です。

  これは胴体内の気圧を調整するための「空気孔」と考えられます。


  以前修理した中国製の月琴に,この孔のないものがありました。

  その月琴はもともとの工作が悪く,棹のホゾ穴なども寸法ユルユルだったのですが,修理の過程でそうしたところを直し,明清楽の月琴のいいものなみにきっちりと補修したら,その後,湿度・気温が高くなった夏場に,部材接合部や面板に,内側からピシッと割れやヒビが入ってしまいました。
  工作がユルユルだったときは,そういうとこから空気が抜けたんでしょうが,修理で胴内の気密性が高まり,高温で内部の空気が膨張したため,部材の接合部に負担がかかってそうしたことになったと思われます。

  事実,次の修理で面板に同じような孔をあけたら,以後そうした現象は起きなくなりました。

表面板13
■ つぎに,表面板をヤシャブシで下染めしておきます。
  上の一枚が,染める前の板の色です。

  彼氏月琴修理の際に半月をはがしたところ,その下になっていた部分も染められていたことから考えて,最低でもこの時点で下染めまではされていたはずです。塗装後の仕上げでもう一度染め直しますから,この時は汁がだいたい黄色く染みていればいいでしょう。


半月1
■ 下染めして乾燥させた面板に,半月を接着します。

  今回の半月はニューギニアウォルナットの板にタガヤサンの薄板(3mm)を貼って作りました。
  前作までのカツラのものに比べると硬いですが,接着さえうまくいっていれば表面を磨いてラックニスを刷くていどでいいので,加工と塗装の手間がはぶけ,工期が短縮できます。
  見ての通り色合いも良くフィットしていて,外見上はいうことナシ。

  今回の糸孔の間隔は,外弦間 2.8cm 内外弦間3mm。
  1号月琴を参考とした前作ウサ2よりちょっとせまく,実用月琴コウモリさんとほぼ同じ。棹の太さとの兼ね合いもあって一概には言えませんが,三味線みたいなピンカラ弾きだけなら広いほうが弾きやすいのですが,ややせまいほうが慣れた人には早弾なんかもしやすくていいですね。


半月2
■ 棹の山口(ナット)を載せるところと,面板との接合部の中央をはかり,楽器の中心線を決めなおします。
  次に山口のところにガビョウを打って糸をひっかけ,半月の位置を決めます。

  位置が決まったら,まずはエンピツでざっと輪郭をなぞっておき,つぎにクランピングで位置がズレないように,上端の真っすぐなところに細い板を渡して,左右をクランプで固定しておきます。

  接着の前には半月の置かれるあたりの面板を,軽くペーパーがけして荒らしておきましょう。
  そうするとニカワが染みこんで,より,しっかり着いてくれます。
  月琴のテールピースはニカワで面板に接着してあるだけ。ハメ込み式でも,釘どめでもありません。
  力のかかるところですからね。ここばかりはちゃんとくっつけましょう。

半月3
■ 両方にニカワを塗って,半月を所定の場所にもどしたら,Fクランプをかけてぎゅぎゅ~っ,と締め付けます。
  半月がキズつかないように上には当て板を,クランプがしっかりかけられるように裏側には角材で当て木ををしておきましょう。

  面板がつき,半月がつくと,ちょっと見にはもう完全に楽器。
  いよいよできてきた~,て感じがしてきます(ゲンジツにはこの後がけっこう長い)。


  次回はいよいよ明清楽の月琴の音のイノチ。

  胴体の中に,あの月琴の独特のサウンド,ちょっと物悲しい余韻を作り出す構造,「響き線」を組み込みます。



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