ウサ琴3(4)
ウサ琴3(4)
胴体を作る(2) 本物の月琴の棹は糸倉までの一木作り,胴体は硬い広葉樹の木片で出来た,4つのパーツを組み合わせでできています。 一方,ウサ琴の糸倉は板を組み合わせた寄木作り,逆に胴体は円形になった一枚板で,材質は柔らかいスプルースです。 ギターの表板なんかにも使う木材ですから,楽器の材料としては申し分はないものの,針葉樹で板の厚さは5mm ほどしかなく,月琴の胴体にするには多少強度不足です。またその材質のせいでホゾや溝を切るわけにもいかず,桁や響き線を特定の位置にしっかりと固定するための方法を,何かほかに考えなければなりませんでした。 そうした強度不足の問題と,内部構造の固定。この二つを同時に解決するため考え付いたのが,ウサ琴の「竜骨(キール)」構造です。 ■ まずは左右の内壁の線に合わせて,杉板から胴体のおよそ1/4円ぶんの円弧を切り出します。 つぎに檜材の内桁の両端に,これと噛合わせるホゾを切ってはめこみます。 杉板と内桁がぴったり所定の位置におさまるように調整したら,2枚あわせて余計な部分を糸ノコで切り落とし「骨」状にする――庵主はこの部品を「竜骨」と呼んでいるわけですね。 かたちが大昔の船の大黒柱,「竜骨(キール)」に似ているんでこう呼んでいるんですが,杉板で作ったこの「竜骨」は,船の背骨――いちばん丈夫なソレと違って,見ての通り,それ自体ではそんなに強いモノじゃありません。 細いところで幅5mmくらいなものでしょうか。指二本でカンタンにへし折れてしまいましょう。 しかし,この程度のものでも胴体の補強にはじゅうぶん有効。 材質的に弱い箱の内部に,もうひとつ箱型の構造を入れ子にします。たんに厚みが倍になっただけでも強度は増しますが,さらに組み合わせる板の木目とか材の方向を変えると,弱い材同士の組み合わせでも,強度はいやまします。 内壁に対して直角に取り付けたこのでっぱりは,音の響きなどにも影響しているようですが,そのへんは意図したことではないので定かではありません。 ■ 内部構造が完成したら,つぎに表面板を用意します。 まずは¥100屋で買った焼桐板(600×150×6mm)の表面を削ります。 今回も公園で手作業でごしごしやってたら,近所の方が電動サンダーをかしてくれたんで,いつもなら数時間かかる作業が,ほんの10分くらいで終わりました。 ご近所様ありがたや~。 ■ 白くなった板を3つのパーツに切り分けます。 切り分けたパーツはそれぞれにまとめて両面テープで貼り合わせ,横に継ぐ時の接着面,「矧ぎ面」を磨ぎだします。 この「矧ぎ面」,つまり接着する板の横っちょが精確に直角になっていないと,うまく幅広の一枚板になってくれないんですが,一枚づつだとその幅はたった6mm しかありません。 そんな薄いシロモノを,いくら紙やすりの上でゴシゴシやってたって,精確な平面なんかできるハズもない――でもこれを,4枚なり5枚なり合わせて厚くすれば,安定もよくなって作業は精確にもなるし,ラクにもなる。 ――おまけにナニセ,複数枚の工作が一度で済みます。 考えてみればカンタンなリクツなんですが。 こんなことを考え付くのまでに一年もかかりましたよ。
装置は即興のものですが,今回のように矧ぎ面が精確だとこれで充分いい矧ぎ板が作れます。 桐板は着きがいいので,6時間ほどもあればじゅうぶんくっついて一枚の板になります。 ただ,次の作業にはいるのは,接着後一日くらいたってから。接着部分が完全に乾燥してからのほうがいいようですよ(焦ってやって,失敗しました)。 ■ つぎにこれを胴体に接着する前に,板の余計な部分をあらかた落としておきます。 これをしておかないとうまくクランプがかかりませんので。 接着する前にもう一度,寸法とか表裏の木目とかを見て,板の中心線を決めなおし,板裏に描いておきましょう。胴体の上下のブロックと桁には,あらかじめ中心線が記してあるので,この線を目印にして胴体と接着します。 ■ 板と胴体にニカワを塗り,Cクランプをぐるりとかけまわして胴体に接着。 さらに今回は,内桁がちゃんと着くよう,真ん中にゴムをかけて角材を噛まし,上から圧をかけました。 一晩ほど置いてから。 面板を,胴体の縁から1mm ほどの余裕をもって糸ノコでぐるりと切り落とし,残った部分をヤスリで整形します。 前にも言いましたが,決して「一発でキメちゃる!」とか言って,胴体円周ギリギリで切り落とそうなどと考えてはイケません。 糸ノコの刃はけっこうコントロールが難しいので,そのうちオーバーランして,側板にザックリ,癒しきれないような大きなキズを負わせることになってしまいます。 ええええ,ケイケン者が言うのですから,間違いありません! ■ つぎに,棹を挿して面板と指板の間に段差が出来ていないかどうか調べます。 段差があったら,面板を削るなり,棹元を削るなりして調整しますが,手作業で平面を均等に削るのはタイヘンなので,たいていの場合は棹元の改修でなんとかしちゃいますね 理想的には,接合部では段差がないが完全な水平ではなく,指板の先端で棹が楽器の背面側に1mm ほど傾いている,というくらいがいいようです。 糸を張るとその張力で棹が戻り,ちょうどいいくらいになるはずですからね。 ■ 半月接着前に,まずは表面板の半月でかくれる裏側あたりに5mm ほどの穴をひとつ,あけておきましょう。 一部の資料ではこれを「サウンドホール」と言っていますが,あいている場所からしてもその機能がないことは明白です。 これは胴体内の気圧を調整するための「空気孔」と考えられます。 以前修理した中国製の月琴に,この孔のないものがありました。 その月琴はもともとの工作が悪く,棹のホゾ穴なども寸法ユルユルだったのですが,修理の過程でそうしたところを直し,明清楽の月琴のいいものなみにきっちりと補修したら,その後,湿度・気温が高くなった夏場に,部材接合部や面板に,内側からピシッと割れやヒビが入ってしまいました。 工作がユルユルだったときは,そういうとこから空気が抜けたんでしょうが,修理で胴内の気密性が高まり,高温で内部の空気が膨張したため,部材の接合部に負担がかかってそうしたことになったと思われます。 事実,次の修理で面板に同じような孔をあけたら,以後そうした現象は起きなくなりました。 ■ つぎに,表面板をヤシャブシで下染めしておきます。 上の一枚が,染める前の板の色です。 彼氏月琴修理の際に半月をはがしたところ,その下になっていた部分も染められていたことから考えて,最低でもこの時点で下染めまではされていたはずです。塗装後の仕上げでもう一度染め直しますから,この時は汁がだいたい黄色く染みていればいいでしょう。 ■ 下染めして乾燥させた面板に,半月を接着します。 今回の半月はニューギニアウォルナットの板にタガヤサンの薄板(3mm)を貼って作りました。 前作までのカツラのものに比べると硬いですが,接着さえうまくいっていれば表面を磨いてラックニスを刷くていどでいいので,加工と塗装の手間がはぶけ,工期が短縮できます。 見ての通り色合いも良くフィットしていて,外見上はいうことナシ。 今回の糸孔の間隔は,外弦間 2.8cm 内外弦間3mm。 1号月琴を参考とした前作ウサ2よりちょっとせまく,実用月琴コウモリさんとほぼ同じ。棹の太さとの兼ね合いもあって一概には言えませんが,三味線みたいなピンカラ弾きだけなら広いほうが弾きやすいのですが,ややせまいほうが慣れた人には早弾なんかもしやすくていいですね。 ■ 棹の山口(ナット)を載せるところと,面板との接合部の中央をはかり,楽器の中心線を決めなおします。 次に山口のところにガビョウを打って糸をひっかけ,半月の位置を決めます。 位置が決まったら,まずはエンピツでざっと輪郭をなぞっておき,つぎにクランピングで位置がズレないように,上端の真っすぐなところに細い板を渡して,左右をクランプで固定しておきます。 接着の前には半月の置かれるあたりの面板を,軽くペーパーがけして荒らしておきましょう。 そうするとニカワが染みこんで,より,しっかり着いてくれます。 月琴のテールピースはニカワで面板に接着してあるだけ。ハメ込み式でも,釘どめでもありません。 力のかかるところですからね。ここばかりはちゃんとくっつけましょう。 ■ 両方にニカワを塗って,半月を所定の場所にもどしたら,Fクランプをかけてぎゅぎゅ~っ,と締め付けます。 半月がキズつかないように上には当て板を,クランプがしっかりかけられるように裏側には角材で当て木ををしておきましょう。 面板がつき,半月がつくと,ちょっと見にはもう完全に楽器。 いよいよできてきた~,て感じがしてきます(ゲンジツにはこの後がけっこう長い)。 次回はいよいよ明清楽の月琴の音のイノチ。 胴体の中に,あの月琴の独特のサウンド,ちょっと物悲しい余韻を作り出す構造,「響き線」を組み込みます。 |