ウサ琴3(5)
![]() 響き線の加工と取付け う~む,今回の内容はあまりにマニアックなので,ふつうの人はついてこられないかも……。 とわいえ,庵主の楽器製作の目的は,こういうことを実験して調べて,再現するところですからね。 どうか,お付き合いのホドを。 月琴の音のイノチ「響き線」のおハナシです。 ![]() 桁で分けられた中と下の空間に,長さの違う線を左右互い違いで取り付けます。 以前修理した「鶴壽堂月琴」の構造を参考にしたものです。 ただ,オリジナルでは上下とも真鍮のハリガネだったのですが,今回はメインとなる上線をピアノ線に変更しています。 真鍮の響き線は工作も容易(切るだけ)で,直線でも曲線でも,短くてもよく振動し,音への反応もいいのですが,材質的に柔らかいため,長くなると自重で楽器裏面に触れたりしてかえって効果が悪くなったり,使用しているうちにふとした衝撃で変形したりしやすい。 音質的にはあたたかく華やかな余韻が得られますが,多少音が小さいのも欠点の一つです。 逆にピアノ線で作った直線の響き線は硬く丈夫で,余韻は力強く,音の増幅効果も高いのですが,硬いぶん短いと振幅が小さく,反応が良くないので,響き線として使うのにはどうしてもある程度の長さが必要となります。 またピアノ線というものは買ったときそのままでは,指で弾いてもボヨンボヨンと揺れるだけで,音に対する効果もほとんどなく,響き線として使用するには「焼き入れ」をして,線を「バネ」の状態にしておく必要があります。 ![]() ![]() ![]() しかし―― 直接コンロの火で炙って焼き入れするような場合,曲線のものは作業範囲がコンパクトなので,家庭用ガスコンロの火口ていどでも全体に火を通すことが比較的容易なのですが,直線の場合,焼き入れ範囲は線の長さと同じなので,長くなればなるほど線全体を均一に炙ることが難しくなります。 ウサ2・ニ号の工作でも10本近く失敗してしまいました。 多くは焼ムラをなんとかしようとしているうちに,焼きが入りすぎたもの。 焼きすぎると線はモロくなって,バネどころか,かんたんに折れてしまい,使いものになりません。 そこで庵主。今回はまずこの焼入れ作業に先立って,台東区は男の道具街・「合羽橋」であるモノを仕入れてきました。 ![]() それがコレ,「お好み焼き用鉄板」! 自転車の前カゴが落ちそうになるくらい,ブ厚く,ものスゴ重たい鋳物製で,直径はナント34cmもあります(誰がいったいこんな巨大なお好み焼きを…)。 ウサ琴の胴体の直径は 31cm ほど。これだけのサイズならどんなタイプの響き線でも焼入れができますし,鋳物は熱のまわりが遅いものの蓄熱がよく,鉄板全体をほぼ均一な温度に保つことができますから,この作業にはまさしくうってつけです。 これに決めるまで,キャンプ用の鉄板とか鉄のステーキ皿とかパエリアパンとかいろいろ迷ったんですが,いずれもサイズが折り合わなかったり,予算と折り合わなかったりで…けっきょく合羽橋を4時間あまりもさまよってました――いや,でも帰りはホントに重かった。 ![]() ![]() ![]() 実際に焼き入れに使って実験してみた結果,ピアノ線がバネ化する目安,テンパーブルーに変色しはじめる(右写真)のは,鉄板の温度が180度前後になったとき。30cm の線で全体が均一に焼入れされるまでに,200度前後で,およそ30分ほどかかるということが分かりました。 またガスコンロの火口のサイズと,鉄板の底が完全に平らではない関係から,焼き入れをより均等にするためには,何度か線の位置を変えたり,鉄板をズラしたりする必要がありますが,コンロで直接炙っていたころにくらべると問題にならないぐらい作業が容易で,歩留まりもほとんど出ません。 端から端まで完全に焼入れされてしまうと,線がまったく曲げられなくなって,取り付けたあとの微調整に支障の出る場合があるので,線の一方の端には焼きの甘い,もしくは入っていない部分が必要なのですが,この底の形状を逆に使うと,そういう部分を故意に作り出すことも可能です。 ほんと,ラクになりました~。 さてさて,この新兵器のおかげで,今回の響き線の焼入れは上々,品質もほぼ均一です。 いくら外側の工作を均一にしてても,音の要の響き線の品質がまちまちなのでは,今回の実験(棹の材質による音質の相違を調べる)なぞハナから不可能であります。 ![]() さてしかし―― いざ取り付けた響き線を指で弾いてみる*と,4号バカ鳴り,1号そこそこ,2号物足りず,3号ぺこぺこ無響き状態…とバラバラ。
ここまで述べてきたように,今回は線自体の形状,寸法,焼き入れの加工は4本ともほぼ均一なので,「線によって音が変る」なんてことはないハズです。また,まだオープンバックの状態なので,それぞれの棹や胴体の材質,品質によってこんなに分かるくらい響きが違ってくるわけもありません。 とすれば―― 残る原因は,線の取り付け加工の問題です。 ![]() ![]() とはいえ,ウサ琴の響き線の取付けというものは,竜骨に噛ませた取付けブロックの穴に線を挿しこんで,ニカワを塗った竹釘で抜けないように固定しているだけのことなのですが……まア何にせよモノはためしにと,ぜんぜん鳴らない3号の線を引っこ抜いて挿しなおしてみることにしました。 竹釘を作り直し,カタチとか角度とか挿し具合をかえながらイロイロやってみると…なあんだ,ちゃんと響くようになるじゃあ,あ~りませんか。 竹釘のほんの少しの加工の違いや挿し具合で,響き線が「ごわあ~ん!」とスバラしく鳴り響いたり,「かぽかぽかぽ」とてンで鳴らなくなったりします。きっちり挿してがっちり固定した方がいいというわけでもなく,かといってユルユルでいいかというわけでもない――竹釘が線とぴったりくっついてると響かないけれど,完全に離してしまうと,これもまた響かない。 いろいろ実験した結果。「挿し具合」のほうにはまだ修行の余地があるものの,竹釘の加工については以下のようなことが分かってきました。 1) いちばん作るのがカンタンな四角い竹釘。 固定はしっかりできるけど,線が角にあたってないと響いてくれません。平らな面にのっかってると振動は死んでしまうらしいですね。穴は円いので,角度の調整が難しいのと,何度も抜き差ししてるうちに角がツブれて,やはり響かなくなってしまいます。 2) 丸い竹釘。 作るのがタイヘン。 それでいて大して響きは良くならず,固定もゆるい。 3) 三角の竹釘。 角が少ないわりに,線がうまく角にあたるように調整するのが意外と難しく,また非常に折れやすい。 ![]() 結果――竹釘の断面は,四角の左右を少し落として,先端の丸まった台形型にしたものがいちばん調整しやすいことが分かりました。丸いほうを線側にあててさしこむと,竹釘のどこに当っても最小面積です。 また反対側に角があるので,固定もしっかりできます。 そのままで響きのいい4号機をのぞいて,ほとんどの竹釘を挿しかえ,三日ほどかけて調整をした結果,4本上下の線の響きを,何とかようやくそろえることができました(自信はありませんが)。 けっきょく3号は上下とも2回以上,2号の下線など,4~5回もやり直しました。 材質や加工のほうばかり気になっていて,そのあとは線を差し込んで固定するだけ。ごく単純な作業としか思っていなかっただけに,この微妙さは意外に大きな落とし穴でしたね。 おそらくいままで作った楽器でも,こうした調整によってさらに響くようになるものがあったとは思いますが,これまで今回のようにまったく同じ構造のものを,複数同時に作ったことがなかったので気がつかなかったわけですね。 また新たな発見。 月琴という楽器のナゾが,ひとつまた解けました。
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