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月琴のフレットの作り方(4)

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斗酒庵 フレット削りを伝授す の巻4斗酒庵流 月琴のフレットの作り方(4)

フレット作り(実践篇 3)

高さ調整ヒケツ(クリックで拡大!)
3)斗酒庵流もう一手間

  竹のフレットが主流なのは,その丈夫さと加工性の良さがいちばんの理由。
  慣れちゃえば月琴に必要なフレット,1セット8本,ほんの2~3時間で用意することも可能です。

  また竹はもともと,仕上げにあまり手のかからない素材で,表面を軽く磨いてあげるだけですぐツルツルになるし,ニスや柿渋を軽く塗れば,それだけでもかなり雰囲気が違ってきます。

  しかし,庵主はひねくれものなので,この「早くて安い!」がウリの竹製品に,さらに余計な手間をかけています。



(1)材取り

  カタチの作り方,切ったり削ったりの工作自体は,前2回のそれとなんら変わりありません。
  素材の竹板を楽器に当てて,高さをはかりながらフレットを削ってゆきます。

高さをはかる 高さ調整-2本ぐらいづつ一緒に作る


  ただ庵主のフレットは,ちょうど中国月琴と明清楽のそれを合わせたような感じになっています。

材取り
  材取りは明清楽のに近く,フレットの片面を表皮のがわに向けて取りますが,ざっくりと半月型に削ぎ取るのではなく,頭の部分がちょうど皮の表面のところにくるように,やや斜めに傾けて取り,両面を削ぎ取って,カタチとしては中国月琴のフレットのようにしています。

  前にも言いましたが,竹の皮の表面には,竹でいちばん硬くて丈夫なガラス質の層があります。

材取り(2)
  この部分はきわめて硬く,面では糸擦れ等に強いのですが,層の横からだと意外とモロい。またこの層の部分が水分をはじいてしまうので,竹はふつう耐水耐染,あると染めたり塗ったりが,けっこうタイヘンです。

  この最表皮の層の,まさに薄皮一枚下には,竹の繊維がぎゅっとつまった層があります。

  この部分はガラス質ではないけれど,繊維が詰んでいるので,じゅうぶん丈夫。

表皮を削ぎ去る
  庵主,ガラス質の部分はあえて捨てて,その下の美味しいところを利用します。

  材を斜めに取るので,ほかのフレットよりゼイタクな材取りにはなりますが,大量生産しているわけではないので,それでもよろしいかと。
  両面を削ぐので,あとでのカタチの修整はラクですし,片面のほとんどが,肉よりはずっと丈夫な層で覆われているので,摩擦や衝撃にも強く,また表層ほどモロくありません。

  さらに,塗料の類がしみこまないガラス質の部分を取り去っているので,このフレットには,色を比較的容易つけることができます。


(2)うでる・染める

  整形したフレットを,ヤシャブシの液に砥粉を少量混ぜた汁(面板を染めるのに使ってるのと同じもの)の中で煮つけます。弱火で30分~1時間ほど煮たら,紙で落とし蓋をして,そのまま一晩ほど放置し,色を染みこませます。

煮しめ(1) 煮しめ(2)紙で落し蓋

(3)ニス漬け

  煮〆たフレットを引揚げて,一日ほど乾燥。

  乾いたらそれをそのまま,今度はラックニス(棹や胴体を雑巾ポリッシュするのに使っている,エタノールで薄めたもの)のなかにドボン!

  またまた一晩~二晩漬け込みます。


(4)磨き

完成!
  ニスから引揚げたフレットを数日乾燥させ,#1500~2000くらいの耐水ペーパーで空研ぎ。
  ついで同じくらいの番手のペーパーに,研磨剤と亜麻仁油を少しつけて仕上げ磨き。
  油が乾くまで,また二晩ほど乾燥させます。

  ヤシャ液で煮ると,白い竹の肉の部分に色がついて,どっちが表だかわからなくなるのと,全体が茶黄色くなって,古色めいた風合いが出ます。ニスに漬け込むのは,このヤシャ液の色止めのためですが,染み込んだニスで竹自体が強化されるのも余禄ですね。
  木口からのササクレだちとか,しにくくなりますし。


  とはいえ,最初に言ったように,ただ削るだけなら数時間で仕上がるものに,数日…きちんとやれば一週間もの時間をかけようというのですから,物好きでないとできません。演奏とメンテで必要なフレットの工作テクニック,それ自体は,前回までのぶんでじゅうぶん,じゅうにぶん。

  こちらはあくまで,ヒマと手間が惜しくない方向きですよ――ハイ。


 

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