月琴のフレットの作り方(2)
![]() フレット作り(実践篇 1) ![]() ■ 基本的に,月琴のフレットの材料は,ある程度の硬さ,糸擦れに対する耐久性をもっていれば,なんでもよろしい。 庵主も象牙や檀木からはじまって,そのコンパチ。またタモなどの硬木からアクリルやプラスチックまで,いろいろと試してきましたが,じつのところこの部品,何を使っても,楽器の音色上には,ほとんど変化がありませんでした。 高級な月琴で象牙が用いられているのは,指滑りの感触が良いのをのぞけば,おもとして高級感を出すためだけのことで,音色や操作の面で,これがとくに優れているというわけではありません。 また象牙は,たしかに素材としては粘りもあり,丈夫ですが,日本の琵琶の柱くらい厚さがあるならともかく,月琴のフレットていどの薄いものだと,けっこう糸擦れで削れて減ってしまうので,さほど耐久性が高いともいえません。 月琴のフレットは消耗品です。 減ってしまったら取り替えなきゃならないし,なくなってしまったら削って作らなきゃなりません。 さてそこで―― 象牙や黒檀などの稀少材は,今後とも安定した供給があるとは限らなかったり,ワシントン条約にひっかかったり…そもそもがところ,単価が高い。 入手が容易なことからいっても,加工が容易なことからいっても,庵主はやはり「竹」をおすすめいたします。 ![]() ■ 材料の竹は,あるていどの厚みがある(8ミリ~1センチくらい)ものなら,なんでもけっこう。 ホームセンターなどでは,園芸用として,垣根などに使う割り竹の板が売られています。 180センチくらいの長さで,1本¥200くらい。 長いものなんで,これ1本あれば,じつに何セット分ものフレットができます。 ![]() また,百均屋さんの園芸コーナーや,台所用品のコーナーなどにも,使えそうな竹製品がけっこうありますので,そういうものでもぜんぜんかまいません。 お手元に,竹板は用意できましたでしょうか? では,いよいよ作ってみましょう。 基本的な工作はじつにかんたん。 切って,割って,削って,磨く。 ハイ,それまでよ。 1)中国月琴型フレットのつくりかた ![]() まずはどんなタイプのフレットを作るのか。 同じ竹のフレットでも,明清楽の月琴と中国の月琴では,竹の割り方や加工の手順が若干違っています。 「月琴」で検索して,このブログにたどりついた方々の多くは,中国月琴のユーザーだと思いますし,まずはそっちから始めましょうか。 ■ 中国月琴のフレットは,肉厚の竹を用いて,頭の部分に表皮を残し,そこを中心に両面と底の部分を削ぎとって作ります。 竹の表皮の部分はガラス質の層になっていて,糸擦れに対する耐久性も強いですし,なにしろ一枚の竹板から数多くのフレットを取ることができます。さすが中国,大量生産に向いてるやりかたですなあ。 ![]() (1)まずは竹を切り分けます。 竹を横に切るのは糸ノコがいいです。 ふつうのノコギリとか精密なピラニア鋸なんかより,サクサクシャリシャリとよく切れます。 必要な幅より,ちょっと大きめに挽いておきましょう。また失敗した時の予備も考えて,素材はちょっと多めに作っておくといいです。 (2)木口から割ります。 はじめからサイズぴったり超うすーく,なんて考えず,ちょっと厚めに割っておいたほうが,失敗がなくて良いですよ。 モノは竹ですから,木口にノミの刃先を当てて,木槌でかるくたたくだけでスパッ!と割れます。ヘンにリキんで「トゥッ!!」とかやって,飛んだカケラでケガなんかしないでくださいな。 この時点ではまだ両面はケバだってガサガサ,底の部分は竹の内側そのままですから,わずかに凹んでますが,これだけでもう,カタチはほぼ楽器のフレットそのものですね。 ![]() ![]() ![]() ![]() (3)底の部分を削って,高さを調整します。 実際に楽器に当てて弾いてみながら,削ってゆきます。 糸に触れるくらいの高さまでは,刃物などで一気に。 そのあとは,ひとつ前のフレットを押えても,ビビりの出ないところまで中目くらいの紙ペーパーで慎重に削り減らしてゆきます。 あたりまえのことですが,高いフレットを低くすることはできても,その反対はできませんから(笑)。 あと,左右片ぴっこにならないように,注意してください。 透明な方眼定規とかがあると,ちゃんと上下まっすぐ,幅均一にできてるかどうか,調べやすいですね。 ![]() (4)必要な幅に合わせて,両端を切ります。 幅の切り詰めは,5ミリ以上なら糸ノコで切り落としますが,それ以下ならカッターやヤスリで切り取り,削ってしまったほうがラク。そのように刃物を使う時や,最後に左右の上角を斜めにそぎ落とす時には,右「図1」のように,いちばんはじめに頭の部分に切れ目を入れておくと良いです。 フレットの胴体部分は柔らかい「肉」の部分なので削りやすいのですが,調子にのってザクザクやってると,ふと工具がひっかかって,いちばん大事な頭の部分が,図2のように丸っこ剥がれてしまったりします(ここまできてると,けっこうヒゲキ)。 最初に刻みを入れておくと,まずそうしたことは起こりません。 ![]() ![]() ![]() 早くて安くて簡単がモットーの中国式。 修理をお急ぎの方,ワイルド好きなムキは,最低ここまでもよろしい――ちょっとブ厚く,両面が多少ボサボサしてても,フレットとしては,じゅうぶん用をなします。 まあでも,せっかくですから少しキレイにしてあげましょうか。
好みの厚さになったら,細かいペーパーで仕上げ磨きを。 このとき,頭の部分の両辺もかるくこすって,四角い頭を少しだけ丸くしてあげましょう。 指滑りがかくだんに良くなります。 ![]() 中国型の利点は,なんといってもその工作の容易さにあります。 細かいことを気にしなければ,3回割っただけで出来てしまうのですものね。 庵主はちょっと丁寧に,ノミやら紙ヤスリやら,いろいろと工具を使いましたが,極端なハナシ,この中国型は,切り出し小刀一本あれば製作が可能です。ちょっと慣れたら,それでじゅうぶん,機能的にまったく問題のないフレットを,短時間でこしらえることが可能でしょう。 欠点としては,まず第一に,かなり肉厚で径の大きな竹が必要となることがあげられます。 明清楽の月琴に比べると,中国月琴はやや絃高が高く,フレットの高さは最大15ミリくらいになります。日本でふつうに売ってる竹だと,ちと厚みが足りませんので,同じようなものを作るとなると,すこし斜めに材どりするしかありません。 さらにフレット本体のほとんどが,表皮ほど丈夫ではない竹の「肉」の部分であるため,衝撃の方向によってはかんたんに割れてしまうことがあります。またそういう繊維質の部分が外に晒されているわけなので,多少,汚れがつきやすいですね。 このあたりの対策としては,柿渋を染ませたり,ニスを軽く刷いたりしておけば,いくぶんか違ってくると思います。 |