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9号早苗ちゃん(1)

MOONH09_01.txt
斗酒庵 明清楽月琴を直す9本目 之巻明清楽月琴9号(1)


修理前・梱包
  ウサ琴4塗装の合間に,と入手した「生葉」ちゃんがあまりにも健康体だったため,不健康なヤンデレ好きの庵主としてはフラストレーションが溜まり,さらに一本,今度こそ思いっきり不健康そうな破れ月琴を落としました。

  庵主の好きな「修理」とは,もっとこう――バリバリッ!ガリガリッ!ドリドリドリ~ッ!――な行為なもので。たまさか間違って8号のように 「転んじゃったの~,テヘッ」 みたいのが来ると,思わず首絞めたくなりますね。

  写真で見たかぎりでは,全体にヨゴレもヒドく,状態は悪そうなものの,軸も4本そろってて,部材の欠落は少ない。まあ,壊れLv.中度,くらいのカンジだったんですが,さて,ブツがとどいて見ると,こちらもどうしてどうして……予想以上にヒドいオンボロ月琴で。

  コワれたあと,軒下に三年くらいぶるさげてあった――てなとこでしょうか。

  一目見て分かる半壊状態。ひさびさの重症患者ですねえ。

  蓮頭も間木もなく,二股になった糸倉。面板はひび割れバックシ,虫食いだらけ。
  棹のささってる天の側板は,表裏の面板から完全に浮いて,左右の接合部もハズれ,どうやらクギを打ってとめているみたいです。

ナゾの補修(?)
  そして何よりも,白眉はこの半月のところ。

  ネオクの写真で見たときは,半月が壊れたんでギターのブリッジでも貼り付けてあるんだろう,とか考えていたんですが(実例アリ),実際に見てみるとコレが――ギターのブリッジどころか,ただ2枚の板を組み合わせたものをはっつけてあるだけ,おまけに半月はぜんぜんどこもコワれてません!……わけ分からん工作です。なんのつもりだったんだろう?


  庵主の命銘は「早苗」ちゃん。

  5月に買ったからではありません。某ギャルゲの病弱少女から。
  なにせ重傷,この半壊状態――さて,直るかどうか。

  マタ アエルト イイネ



採寸と観察

修理前・全景

  全長 638
  棹長 383 うち糸倉部分 158
  指板アリ 長 14 最大幅 30 厚 1
  胴幅 355 厚 40

  山口がなく,痕跡も定かではないため,正確な有効絃長は分かりません。
  外見からより分かる要修理箇所は以下の通り。

 ▲ 蓮頭・糸倉間木,欠損。
 ▲ 山口・指板上フレット,欠損。
 ▲ 左目摂,欠損。
 ▲ 糸倉左にヒビ割れ。
 ▲ 面板,表裏とも虫損激し。
 ▲ 天の側板,面板からほぼ完全に遊離,クギにてとめる。
 ▲ 絃停部分に後補のブリッジ(?)が貼り付けられている

  ――とはいえ,ここまで状態がヒドいとこの後ナニが出てくるか知れたもんではありません。
  まあ,現時点で言えることは

  とにかくキタナイ。
  とにかくコワれてる。

  ――って,くらいで。

  胴材はおそらくクリ。棹も同じだと思われます。
  月琴ではふつうの素材ですが,前8号がヘビー級だったのでやたらと軽く感じますねえ。
  指板は紫檀のようですが,汚れがひどいこともあり,ホンモノか染めなのかは現状では分かりかねます。

  まあ,とにかくこのコワれっぷり。
  各部ガタガタで正確な寸法も取れそうもなく,外側から眺めていてもこれ以上のデーターは得られない――という状況ですので,さっさと修理に入るとしましょう。



修理開始

面板(1)
  表裏の面板は,一見すると大きな割れがあるだけで,それほど状態も悪くはなさそうに見えるのですが,近くば寄って目にも見ると,表面には無数の虫食い穴。縦横無尽に食い散らかされて板の内部はスカスカ――虫食い痕をほじくってゆくと,おそらく板がなくなります。

  面板は楽器の音色に大きくかかわる部分なので,修理ではなるべくオリジナルの面板を補修して使うのが本筋。これを取替えることは楽器の「復元」というよりは「再生」に近いのですが,いくら庵主でも,こりゃさすがに使えません。

  オリジナルの板は破棄し,新しい板で張り替えるしかなさそうです。
  裏板の張替は何度かやってるんですが,そういえば両面張替は初めてですね。

  張替を決めたんで,オリジナルの板が割れてもかまわない。そのままでハガれそうなところは力まかせにバリッと。残ったところは面板の周縁にお湯を含ませ,隙間に刃物を押し込んで剥ぎとります。

  今回の月琴の胴体は,部材の木口同士を接着しただけのいちばん単純な方法で接合されています。しかも長年の劣化で,ほとんどニカワもとんでしまっていますから,表裏の面板を剥がすと,楽器はほぼ完全にバラバラ状態。もうバラバラ。あ,ベリベリ(と,板をハガす),バラバラ(部品が)

  バラしながらの観察です――


内部簡見

9号解体

 ■胴材:4枚。
  木口部分の接着により接合。
  材質はクリと思われる。
  内側には回し挽きノコの痕がそのままのこり,ほぼ切り出したままの状態に近い。
  全体に薄く,最大のところで9ミリ,薄い部分は3ミリほど。
  
胴材(1) 胴材(2)

 ■桁:二本。
  上桁は杉,下桁は檜のよう。厚さも微妙に異なり,上桁のほうがやや薄め。
  工作はかなり雑で,下桁の表面などは,ほぼ荒材のまま。

  上桁は左右側板に貼り付けられた角材に乗るカタチで取付けられ,下桁は胴下部の接合部の手前で,左右側板に直接接着されている。
  音孔は直径6ミリほどのたんなる○穴で,上桁のみ。
  おそらく壺ギリによる加工と思われる。
  また,上下桁のオモテ面板に接着されるがわの両端は,すこし斜めに落とされている。
  この丸く小さな音孔と,両端がそぎ落とされた桁は,ともに「コウモリ月琴」でも見られた構造である。
  響き線の空間が広くとられているので,音孔に関しては申し訳程度のものと考えるが,桁材両端の加工については,現状では不明なものの,なにか意図があるものと思われる。

  それが証拠に,ほぼ同じ構造のコウモリさんの音は,それほど悪くない。

内桁(1) 内桁(2)

 ■響き線:弧線一本。鋼製。
  楽器右の上桁を乗せる角材に,四角釘でとめられている。
  線はそこから楽器の垂直方向へ5センチほどのびたあたりで,ほぼ直角に曲げられ,全体として草刈鎌の刃先のような大胆なアールを描く。
  表面に少しサビはあるものの,線の状態は良く,焼きもきちんと入っており,弾いてみると意外と良い音がする。

響き線(1) 響き線(2) 響き線(3)

  薄くてガサガサの内側,クリの側板は異様なほどに軽いし,ここまでゴーカイさんな曲げ方の響き線もはじめて見ますねえ。




修理開始
9号解体(2)
  完全にバラけた楽器を見ながら,あらためて,部品数の少ない楽器だなあ――と。
  バラけた部品をぜんぶ重ねてみても,「一山」というほどにもなりませんなあ。

  ではいよいよ修理,というか「再生」作業に入りましょう。
  なんかまた,フランケンシュタイン――あ,いやフロンコンスティンでしたか――博士の気分です。
  庵主はサイエンティストではありませんが…ああ,「マッド」なところは同じかあ。

こんなとこまで食われてるぅ!
  まずはバラした部材のひとつひとつを磨いては,あっちのヒビを止め,こっちのアナを埋め…と,細かな作業を続けます。
  幸いなことに打ち付けられたクギは3本だけでしたが,胴材が薄いので,そのうち2本はほとんど表面に貫通して,抜いた痕もしっかり痕を残しています。

  そもそも柔らかい桐板をクギで止めよう,ってほうが間違いなんだけどなあ…

胴材(3)
  クリは家の根太にするくらいで,比較的虫食いにも強い木なのですが,面板との接着面などに,さほど深くはないものの,かなり食い荒された痕があります。いやはや――胴材がここまで食われているのもハジメテ見ましたね。

  胴材を重ねてみると,木目がほぼ一致しますね。
  おそらくは同じ一枚の部材から,こんなふうに切り出したのでしょう。


糸倉のヒビ
  下拵えが済んだところで。
  まずは楽器のアタマ…糸倉のほうからいきましょうか。

  左の糸倉の根元,一番下の軸穴をはさんで2本のヒビが見えます。
  間木がないのと板になってる部分自体が薄いので,ちょっと押すとプヨプヨ動き,かなり広がりますが,軸穴の前後から木目に沿って斜めに入っているものの,貫通はしていません。棹表からのものは単純で直線的なですが,棹裏,糸倉の根元部分のほうは多少複雑なカタチにヒビが走っていますね。

  間木を付けちゃうとこの部分が動かせなくなりますから,最初にこのヒビ割れを処置しておきましょう。

  まずはゆるく溶いたニカワを,ヒビ割れに流し込みます。
  ヒビが余計に広がらないように注意しながら,板になっている部分をウニウニと動かし,ニカワをヒビ割れ全体に行き渡らせたら,ニカワの染み出し対策に和紙を巻き,当て板をしてクランプで固定します。

糸倉修理(1) 糸倉修理(2) 糸倉修理(3)
  ニカワがくっついて,傷んだ部分が固定されたら,糸倉の天に間木をはめこんで接着しましょう。
  間木はサクラの端材を切り出しました。
  本当は同材のクリがいいんですが,さすがに手元にはなかったもので。
  間木がつくと糸倉左右はちょっとやそっとじゃ動きません。ヒビも貫通してなかったことだし,ニカワでの接着もうまくいき,何かこのままでも当分は良さそうには思うのですが,糸倉は弦楽器のなかでもとくに力のかかるところ――楽器の未来のためにも,きちんと補強しておきましょう。

  まずは割れた部分に竹釘を打ち込みます。多いほうがいいのですが,材が薄いので5本くらいでやめました。棹表のヒビに3本,棹裏に2本。これでひび割れに対して斜め垂直に繊維を通します。

  つぎに軸穴の前後に溝を二本,あさく切り回し,籐を巻き込んで補強。
  何度もやってる作業なんで手馴れたもんですが,何度も言っているように「糸倉は弦楽器のイノチ」――慎重にやります。

糸倉修理(4) 糸倉修理(5) 糸倉修理(6)

  巻き込んだ籐を焼き鏝で均し,パテを盛ってスキマをふさぎ,軽くペーパーがけをします。

  痕が多少目立ってはしまいますが,糸倉の総すげ替え,棹全交換を別にすれば,これがまあ,オリジナルの状態を使った,いちばん丈夫で長持ちする補強法だと思いますよ。

  指板の左側が少し浮いていたので,ついでにここにもニカワを流し込んで,当て木と輪ゴムで固定しました。
  最後に,大きめに切ってあった間木を整形して,棹の修理はだいたい完了です。


  あらためて観察すると,この棹――
  糸倉や指板部分が短かくてコンパクトなわりには,茎(なかご)がずいぶん長いんですね。
  190ミリもあります。
  茎の先がV字型の入れ込みの奥まで多少キチンと入ってませんが,工作自体は丁寧でキレイなものです。

糸倉修理(7) 糸倉修理(8) 糸倉修理(9)


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