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月琴の弾き方(2)

PLAY02.txt
斗酒庵 月琴取扱 の巻月琴の弾き方(2)

  今回は弦楽器の基本,糸と音あわせ(調弦)について。

  例によって,「明清楽の月琴(もしくはウサ琴)」の場合でして,中国の月琴には使えない情報ですんで足柄山。

  お持ちの楽器が演奏可能な状態であると仮定して。
  楽器本体以外で,とりあえず必要なものは糸(弦)義甲(ピック)ですね。

  ピックについては特集記事が2つばかり(月琴ピック製作記1/2)。記事にも書きましたが,まあ,カタチが同じようなものなら,竹を削ったものでも,アクリル板でも構いません。
  糸巻きについては「月琴の軸の調整」,これより後の「弾き方」については「月琴の弾き方 (1)」も,合わせてご参照アレ。



1. 糸を買おう!

糸
  月琴の弦には,三味線のお糸を使います。

  現在,三味線糸にはナイロンとかテトロンとか,いろんな素材のものがありますが,月琴では昔ながらの「絹」でできた糸を使います。

  ただし,お持ちの楽器の状態が万全ならば,ほかの素材の糸を試してみるのも一興です。

  耐久性はナイロン糸などのほうが高く,音もかなり大きく,くっきりと出せます。
  欠点は丈夫なかわり,弦圧(テンション)が高くなるので,古い楽器だと負担が大きいこと,そして三の糸が釣り糸のようにツルツルなので,多少ピックの先がひっかかりにくいあたりでしょうか。

  絹の糸はいかにも古風な楽器らしいやわらかな音色と,ピックのかかりの滑らかさが利点。
  欠点は,湿度とか温度とか,環境に左右され伸びやすいこと,切れやすいこと。
  音量もあまり大きくは出せませんが,この楽器は,もともと大きなホールで演奏されるようなモノではなく,基本,お女郎さんとさしむかいで聞くような室内楽器ですから,一向かまわないとは思います。

  つぎに「番手」,糸の太さですね。
  庵主は 12-3 と 13-2 という太さのものを使用しています。
  上の番号は「12号の三の糸」「13号の二の糸」という意味で,三味線ではこの最初の番号が大きければ大きいほど太いものとなります。

  二の糸は太いのでそうそう切れることはありませんが,楽器を手にいれてしばらく,タマネギを与えられたお猿さんのように弾きまくっていると,高音側の細い糸がよく切れます。
  最初のころは力の入れ方もピックの角度とかも適当なので,糸がイタみやすいのですね。
  ちょっと多めに買っておきましょう。

  そんなのどこに売ってるんだ?

  と,探し回ったり,近所の琴・三味線屋さんに飛びこんだりする必要はありません――今はネットで安いものがラクに買えます。某大手オークションだと,三の糸で10本¥8~900円くらい,二の糸が同じく¥1500くらいですね。



2. 糸を張ろう!


  さて,いよいよ糸を楽器に張りましょう。

  月琴の糸は四本。左右2本づつを同じ音に調弦します。

  音楽用語でいうと4弦2コースの複弦楽器ということになりますか。

  楽器を正面から見て,左右外側の弦を「外弦」,内側2本を「内弦」としましょう。

  どこからはじめても構わないとは思いますが,庵主はいつも高音外弦(細いほう,楽器を正面から見ていちばん右側)から張ってゆきます。
  ギター等では低音弦(太いほう)から張ることが多いのですが,これは庵主が,調弦に安物のギター・チューナー(低音開放弦のC(=ド)が測れない)を使っていたことからくる癖です。

  やりやすいところからやってください。

  まずは丸くまとめられた三味線のお糸をほどきます。
  三味線の糸の片方の端には,赤とか銀色で色がつけてあります。

  どっちを使ってもかまいませんが,庵主は色を塗ってあるほうを軸(糸巻き)がわにしていますね。

 1) 色のついていないほうの端に,単(ひとえ)結びの輪を作りましょう。

 2) 半月の糸穴に,色ついたほうの先っぽを通します。

 3) さっき作った輪に,色つきのほうを通します。

 4) 両方をひっぱり,輪を縮めてゆきます。


  このとき,輪の結び目のところを糸穴の縁にひっかけて,この結び目の部分が穴の中にちょっと沈み込むよう,ひっぱる角度とか力を加減してください。

 5) 輪がほどよく縮んだところで,両端をギュッと軽くひっぱってやります。

  こうすると,結びがかたまってほどけにくくなります。
  ただ単結びの輪をひっかけてるだけのことで,最初のころはなんか危なげに感じますが,基本的には三味線なども同じで,このあと弦をしぼってゆくとまずハズれることはありませんのでご安心を。


  つぎに軸の糸穴に色つきの端を通して,余った糸を巻き取ります。

  右端の糸(高音外弦)はいちばん下の糸巻き,そこから左へ順ぐり,いちばん左(低音外弦)をてっぺんの糸巻きで巻きとります。

  はじめの数巻きは,糸孔からとび出てる,糸の端っこの上にかぶせて,高音弦なら右方向へ,低音弦なら左方向へ糸を巻き取ります(こうして最初に糸端を押さえ込んでおくと,巻きがゆるみにくくなって,調弦のときの余計な狂いが少なくなるのです。)。

  そこから糸をズラして,残りの部分を反対方向へ巻き取ってゆきます。

  一箇所で何重にも巻き取ると,糸がお団子のように盛り上がって,最後のほうで微妙な調整がしにくくなりますし,左右あっちゃこっちゃテキトウに巻いてゆくと,余計な凸凹ができてやっぱり細かい調整が難しくなります。

  なるべく均等に,きっちりと巻きとりましょう。

  また,糸が糸倉の内壁に触れてたりしてると,調弦に影響が出るので,最後はうまく真ん中辺りで終わるように努力してみてください。

巻き取り(1)
巻き取り(2)
巻き取り(3)


 ポイント・その1!
  糸を張る前に,お持ちの月琴の軸が,所定の位置に挿されているかどうか,事前にお確かめを。
  機械で精密に加工された現代の楽器と違って,手工品の月琴では,軸と軸穴が一対一で微調整されていることが多く,ある軸はある孔ではユルユル,ほかの穴ではキツキツということも珍しくはありません。
  なるべくぴったりはまる軸を,ぴったりの軸穴に挿し替えておいてください。
  ユルユルの軸だと,音合わせがたいへんですよ~。
  軸の状態によっては若干の調整が必要な場合もありますので,その際には当ブログ過去記事「月琴の軸の調整」をご参照アレ。

 ポイント・その2!
  山口(ナット)に糸溝がちゃんと切られているかどうかもご確認を。
  装飾用のいわゆる「お飾り月琴」として使われていた楽器の場合,この溝がきちんと切られていないことがあります。糸溝がなくても弾けないことはありませんが,山口で糸の位置が固定されていないと,糸合わせは難しいですね。演奏中,カンタンにズレたりもしちゃいますし。
  楽器によって糸溝の間隔等には差がありますが,左右の外弦間で15~16ミリ,外弦と内弦の間隔が2ミリ~3ミリ。手の込んだ楽器では,低音弦のほうだけ,外内の間隔をほんのわずか広くとっています(糸が太いから)。
  糸溝の切り方は,Webでギターのリペアなどの記事を参考にしてみてください(ただし工具は百均のヤスリでけっこう。ギターほど精密でなくてよろしい)。

 ポイント・その3!
  さらに「見てウツクシイ」のを追求する場合は,調弦が終わったとき,糸が糸巻きの中心よりやや左(高)・右(低)から出ているのがベストポジションです。
  糸倉を横から見てビルマの竪琴のように,正面から見て鳥が翼をたたんでいるように見えるのがウツクシイと言います(このへんマニアック!)。
  ふつう月琴の軸の糸穴は,4本とも同じくらいの位置にあけられていることが多いのですが,造りの丁寧な月琴では,上下の2本は握り寄りに,中の2本は先端寄りに,穴があけられています。
  そういうふうにすると,きっちりと巻いたとき,さいごには自然と糸が中央あたりにくるからですね。
  昔の職人さんは,こんなところにまで心配りをしていたのか,と感心することがあります。




3 糸合わせ

  巻き取った糸を必要な音の高さに調弦します。

  「演奏時間より調弦している時間のほうがずっと長い」と言われたリュートの仲間のなかでは,月琴の弦は4本,わずか2コース――2本づつ同じ音に2回調整してあげれば,それでおしまいなわけですが。

  かほどに弦が少なくとも,複弦楽器というのは難しいもんです。

  ギターとか三味線で慣れてるヒトでも,けっこうむきーっ!てなりますよ。むきーっ!って。

  東洋の楽器なので,笛とか人の声で音をとって合わせるのが本当で,基本的には高音・低音の間が5度,もしくは4度になっていれば可なのですが。この現代,楽譜を見て弾くにも,西洋楽器に合わせるにも不便なので,低音弦2本をC(=ド),高音弦をG(=ソ)に合わせます。

  お三味でも同じだったのですが,この調弦がニガテだという人には共通点があります。

  たいてい,糸を「巻く」動作と,糸を「弾く」行為を,交互,もしくはべつべつにしているのですね。

軸の握り方(×)
  糸巻きを握って糸を巻いて「から」,糸を弾いて音を確かめて「から」,また巻いたり緩めたり……これを「カラ・カラ合わせ」と名づけます。

  「こんなもんかな?」「これくらい締めれば合うだろう。」という,かってな思い込みだけの操作で,巻き加減による実際の音の変化を聞いていないわけですから,こんな「カラ・カラ合わせ」をしている限り,いつまでたっても音は合いません。

  月琴に限らず,邦楽器では「カラカラ合わせ」は禁止行為,だとお考えください。

軸の握り方(◎)
  三味線もそうですが,この手の楽器の調弦は,演奏姿勢で糸巻きを握った「まま」,糸を弾いて変化する音を確かめ「ながら」行います――糸巻きを締めるのと糸を弾くの,音を確かめるのが,同時の作業なわけで。これをこれ「ママ・ナガラ合わせ」と名づけます。

  月琴のチューニングは「ママナガラ」――覚えておいてください。


  糸巻きの握り方が大切です。

  上の写真のような握り方だと,軸が糸倉としっかり噛みあわず,糸を巻いてるうちに軸穴から浮いて,せっかく音が合っても,糸巻きが戻ってしまいます。

  調弦は,右のように糸倉に指をかけ,軸を糸倉に押し込むようなかたちで行います。
  右側の軸を操作するときは親指を,左側の軸では小指を糸倉にかけ,軸と糸倉をしっかりと噛み合せたまま,少しづつ,軸を締めてゆきます。

軸の握り方(裏ワザ)
  庵主は小指の力が弱いので,身体の側の軸を締めるときは,左のように,反対側の軸尻を,膝に押し当て,糸巻きを押し込むようにしながらやってます。

  同じように握力の弱い方や,手が小さくて指が糸倉にかけられない方は,肩や膝のほか,カベとか机の角で同様にやってみてください。

  ただしこの方法,糸倉に多少負担がかかりますし,軸が滑って楽器をイタめることもあるので,無機物に当てる際には,軸尻に布などを敷くのもお忘れなく。


  最初のころはぜんぶチューナーに頼ってもかまいませんが,楽器に慣れてきたらだんだん使用を減らしてゆきましょう。庵主はチューナーで合わせるのは最初の一本,高音外弦の一本だけ。あとは音を聞きながら合わせてゆきます。

  まずは高音の外弦と内弦を,ぴったり同じ音に。

  弦を2本一緒に弾きながら,目をつぶって,アタマの中で「波形」をイメージしてください。
  ――そう,オシロスコープとか,心電図とか,あんなやつ。
  二つの波形がぴったり一つに重なるように,軸を巻いたり緩めたり。

  高音二本がそろったら,低音弦の4フレット目(G=ソ,高音の開放弦と同じ音)をおさえて,調弦の終わった高音弦と交互に弾きながら低音内弦を調整します。

  音が高音弦と同じになったら,指を離して,低音2本の音をそろえます。


 ポイント・その4!
  「カラ・カラ合わせ」をする人を見ていると,調弦のとき,いちいち糸巻きを見て,手元を確かめたりもしていますね。
  ちゃんと糸合わせのできる人は,そんなことはしません。
  どこにどの糸巻きがあるのか,どの糸巻きからどの糸が出ているのか,目をつぶっていても分かる,手の感覚だけでおぼえておく,これは弦楽器の基本中の基本。
  月琴ではしかも,弦が4本しかないんですから,難しく考える必要もありません。
  手元を見るわずかな瞬間でも,握りがゆるんだり,糸がのびたりして音は狂います。
  音がちゃんと合うそのときまで,ナミダを飲んで,糸巻きとは目を合わせないようにしましょう(笑)。

 ポイント・その5!
  なお三味線や三線などの糸巻きの扱いでは,音が合うまでは,軸を糸倉からわずかに浮かせておいて,音が合ったところで,軸をギュッ,と押し込んでトドメをさす,というようなことをします。
  そのほうが音を合わせるあいだ,軸を自由に回せるからですね。
  月琴も,糸の余分を巻き取るところまではソレでいいのですが,音合わせのときには使えません。
  これは月琴が三味線などとくらべて,ずっと糸が短く,テンションが高いため,わずかな糸の動きで,音が大きく変ってしまうためです。
  せっかく音が合っても,トドメの「ギュッ!」でズレてしまい,そのたびにハラが立つだけ。
  月琴では 「トドメの "ギュッ!" 禁止」――これも覚えておいてください。

 ポイント・その6!
  絹の弦を調節するときは,「締めて音を高くする」ほうは問題ありませんが,「緩めて音を低くする」のはキカない,と思ったほうがよろしい。
  だから,「アレ?ちょっとだけ高くなりすぎちゃった。」というとき,糸巻きを緩めていってもダメです。一瞬合ったとしても,そのあとどんどん音が低くなってゆきます。
  これは絹弦では「伸び」より「縮み」の反応がずっと遅いからですね。
  音が高くなりすぎたときは,いッそ低すぎるくらいのところまで戻してから,締めなおしてやったほうが確実だと,覚えておいてください。



  ウナギの世界で「串打ち十年」とか言うように。
  オクナワの三線には「ちんだみ三年」,と言うコトバがあります。
  「ちんだみ」――つまり調弦がちゃんとできるようになるのには,三年くらいかかる,ということですね。

  練習次第で,またほかの弦楽器をやったことがある方だと,この期間は大幅に減りますが(じっさい,ギターとお三味の前科のあった庵主は三週間ぐらいでなんとか),ともあれギターにせよマンドリンにせよ,お三味にせよ琵琶にせよ,弦楽器初心者の習得における最初の難関がこの糸あわせ――チューニングです。
  さらに月琴は,邦楽器にはほとんどない複弦楽器。
  しかも敏感な生絹の弦。

  環境によっては,庵主もまだ戸惑うことがあります。

  その調弦には微妙で感覚的なところが多くって,実際に操作しているところを見ながらだと「なあんだ」ていどのことでも,文字にするとなんだか難しくなっちゃいますね(それで,こッちの記事が(2)になっちゃったわけで)。
  表現の足りないところもありましょうから,分からない時はお気軽に質問メールなぞ,どうぞ。

  ともあれ,調弦ができなきゃ,そもそも弦楽器ナゾ弾けませぬ。

  鋭意努力アレ。



ウサ琴4(終)

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斗酒庵 よいよいウサ琴作り の巻ウサ琴4(終)

音声資料集

  まずは実験時の音声から。

  前回までに書いたように,今回の実験は,ひとつの胴体に,素材の違う4本の棹を挿替えて,そこに音色的な差異が生じるかどうかを確認すること。
  ほんものの月琴の場合では,棹と胴体はだいたい同材で作られることが多いので,材質によって楽器の音色がかわる,というのも理解できます。
  しかし,代用楽器ウサ琴の場合,胴体の構造や材質はどれも同じくエコウッド。
  棹の素材による音色への影響がどれほどのものなのか,もし大きな影響があるとすれば,よりベストな組み合わせを摸索する必要があります。

  実験の過程は以下の通り。

  1)試験胴に棹を挿す
  2)試験用の軸を挿し,外弦を張ってフレット(棹上4本,1オクターブぶん)を仮設
  3)内弦を張って調音
  4)開放弦・音階・試験演奏(九連環)を録音



4-1棹
4-1 糸倉:サクラ 棹:バーチ

♪ 4-1 開放弦
♪ 4-1 音階
♪ 4-1 演奏


4-2棹
4-2 糸倉:サクラ 棹:メイプル

♪ 4-2 開放弦
♪ 4-2 音階
♪ 4-2 演奏


4-3棹
4-3 糸倉:サクラ 棹:クスノキ

♪ 4-3 開放弦
♪ 4-3 音階
♪ 4-3 演奏


4-4棹
4-4 糸倉:ニューギニアウォルナット 棹:マコレ

♪ 4-4 開放弦
♪ 4-4 音階
♪ 4-4 演奏




  実験後,余った3本の棹のために,追加の胴体を作り,常の製作と同じく4面のウサ琴に仕立てました。

  この第4段まで,楽器の構造・工程に関するもののほかに,毎回月琴の音のイノチともいえる内部構造,響き線の実験をいろいろとやってきています。ウサ琴2ではいろいろな形状による違いを。ウサ琴3では直線タイプの取付・調整を。
  そして今回は,最近知った3つの型の弧線(9号早苗,コウモリ,彼氏月琴)について,それぞれの特性や音色の違いを確かめてみようということに。

  こちらの試奏曲は「徳健流水(てけんりゅうすい)」。日本に月琴音楽を伝えたオールドマスターの一人・林徳健さんの曲で,もっと長いのが一般的なんですが,ここでは『明清楽之栞』所載のショートヴァージョンでイキます。

  ついでに楽器を揺らした時の響き線の音も。
  通常の演奏ではノイズでしかない音ですが,楽器の響きを左右する振動を,聞こえるカタチにするのはこれが一番。ギターとかバイオリンでもそうですが,弾くほかに叩いてみたりして,基本的にいい音で響く楽器はいい楽器というのは,そう間違いではないと思いますね。


4-1内部
  4-1にはコウモリ月琴と同様の線を。

  取付け位置は上桁のすぐ下。線は取付けブロックから5ミリ~1センチほどのところで曲がり,下桁の中央辺りを頂点とする,上下桁の間の空間をいっぱいにつかったアールを描いて,基部と同じ辺りの高さのところで終わります。
  4号月琴のものにくらべると,アールが深いのが特徴。
  オリジナルのコウモリ月琴のものは,頂点部分が下桁の音穴にかかるかかからないかのあたりでとまっているのですが,今回作ったものは,アールをやや深く取りすぎたようで,焼入れをしたら完全に下桁にひっかかってしまいました。
  線のほうは焼入れ後の整形はできないため,当初,左右二つだった下桁の音孔をつなげて,一つの大きな孔にして,響き線の振動への影響が少なくて済むように加工しなおしました。

♪ 4-1 音階
♪ 4-1 演奏
♪ 4-1 響き線


  現在,庵主のメイン楽器はこれと同じタイプの構造を持つコウモリ月琴と,エレキ月琴・カメ琴ですが,この型は,余韻の深さでは彼氏型の長い弧線に劣り,音量の面では直線型に劣りますが,耳にきつくない,あまやかな余韻が得られることと,楽器の揺れに対してわりと線鳴り(ノイズ)が出にくく,扱いやすいのが利点です。


4-2内部
  4-2では9号早苗ちゃん型の弧線を再現。

  これも取付け位置はオリジナルと同じく,上桁のすぐ下。オリジナルの線基部は,上桁を固定するブロックの役割もしています。線は取付け基部から5センチほどのところで曲がり,楽器内部にやや沿うようなかたちで,きつい円弧を描きながら下桁方向へしばらく伸びたあと,下桁の手前あたりから,ゆるい弧となって反対側のほうへと向いてゆきます。
  草刈鎌のようなこの型の線は,まだほかで見たことがありませんので,多少データ不足であります。このあと,この楽器のオーナーとなる方の報告を待ちたいところ。

♪ 4-2 音階
♪ 4-2 演奏
♪ 4-2 響き線

  音のへの反応はそこそこ良く,線鳴り(ノイズ)は彼氏月琴型に比べると少なく,コウモリ型よりはやや出やすいようす。余韻の印象は渦巻き型(明清楽2号・ゴッタン阮咸・ウサ琴1)と直線型の中間。深み,というよりは,タメのある,というか,コシのあるというか。ややうねる,意外と力強い響きです。


4-3内部
  4-3は直線2本線。弧線との比較検討用。

  ウサ3と同じタイプですが,弧線タイプ用の胴体に仕込んだので,上線と下線が同じ空間に突き出てます(ウサ3では上線は中央の空間,下線は下桁より下の空間でした)。もしかすると明清楽3号のように,線同士が触れちゃうかなあ,と思ったのですが大丈夫でした。

♪ 4-3 音階
♪ 4-3 演奏
♪ 4-3 響き線

  上・鋼線,下・真鍮線のW直線が醸し出す,バランスがよく,力強い音と,うねりの少ない素直な余韻。
  そして,線鳴りの出にくい扱いやすさ。
  明清楽月琴1号・5号をもとにした,ウサ琴シリーズの定番ともいえる構造ですね。

  庵主としては,4-1とともに,弾いてて安心できる一本です。


4-4内部
  4-4は試験胴を使用(真!ウサ4?)。

  響き線は語り部のミウさん所有・彼氏月琴の内部構造を参考にした,長弧線タイプ。
  線は棹穴のすぐ横からはじまり,胴の内がわに沿って,ほぼ2/3周したあたりで終わります。
  線の先端は,下桁から少し突き出るか突き出ないかのあたり。

  長い弧線は取り付けの作業が大変です。ほんのわずか,根元をズラしただけでも,全体が大きく動くので,常に線全体の変形に気を配りながら調整しなければなりません。また演奏時の姿勢も大事で,響き線が最大に効果を発揮するベストポジションがある一方,少しでも不当な姿勢になると,その効果が半減するといった欠点もあります。
  しかし,楽器の直径よりもずっと長い線から生み出される余韻は,透明で,深く震えるよう。まさにガラスの触れ合う音――「玲瓏」たる音色です。

♪ 4-4 音階
♪ 4-4 演奏
♪ 4-4 響き線

  弾きなれて,楽器と演奏者が一つになったとき,もっとも素晴らしい音の出る一本でしょう。
  ただし,かなり気難しい楽器に仕上がってしまいました。
  カクゴして弾いてください。


ウサ琴4(3)

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斗酒庵 よいよいウサ琴作り の巻ウサ琴4(3)

塗装

塗装(1)
  スオウによる木地の下染めが成功したおかげで,塗装は前作までよりはるかに少ない回数で済みました。

  棹は中塗り(色ニス・シェラック)4回で,継ぎ目加工や木地色の違いが目立たなくなりましたし,胴体に至ってはわずか2回でほどよい色に。これに上塗りとしてオイルニスを2度ほど塗布――使用した塗料の量は,たぶん前作の半分くらいでしょう。

  しかしながら今回は,作業が「お仕事期間」と重なってしまったため,けっきょく時間のほうは,前作と同じく一ヶ月ほどもかかってしまいましたけどね(笑)。
  この期間に入ると,製作に多く時間を割けるのは,週末しかありませんから,ほおっておけば乾くアルコールニスの中塗りまではいいんですが,上塗りのオイルニスは紫外線硬化。わずか2回のことなれど,週末が雨だと作業が出来ないんですよ。

  そのうえ,季節は梅雨。

  週末になるたび,空を眺めながら,むきーっ!ってしてました。むきーっ!って。


塗装(2)
  最後の一塗りの前に,糸倉の内側,軸孔,蓮頭の接着部などに溜まった塗料をこそげおとします。
  木地までこそいだ糸倉の内側は,オハグロベンガラを塗ってラックニスで固着。

  最後に全体を水砥ぎして塗膜を均したあと,あらかじめ作っておいた山口を接着します。
  つぎに布にオイルニスを染ませて棹全体を拭き,仕上塗り。

  試験胴のほうも二度目の上塗りと水砥ぎのあと,研磨剤と亜麻仁油をつけた布で磨いて仕上げています。
  いづれも塗膜が前作の半分くらいしかないはずなので,砥ぎには細かめのペーパーを使い,いつもより少し慎重に作業しました。

塗装(3)
  それから数日――

  塗料はいまだ完全に乾いてはおらず,棹や糸倉を多少強く握ると指の痕がついてしまうくらいですが,夏の帰省もせまっているため,ちょっと早めではありますが。

  7月20日,いよいよ玉兎琴4号による実験,開始です。




4号による実験

フレットをたてる
  実験過程,というほどのことでもありませんが,各棹ごとの手順は以下の通り。

  1)試験胴に棹を挿す

  2)試験用の軸を挿し,外弦を張ってフレット(棹上4本,1オクターブぶん)を仮設

  3)内弦を張って調音

  4)開放弦・音階・試験演奏(九連環)を録音


内弦を張る
  棹の取り付け角度などは,前作で1デキだった3-2の寸法を参考にしたので,どの棹でもフレット高は低く,第4フレットで最高6ミリ。どの棹も操作性はよろしい。
  しかし,±1ミリ以内ではあるものの,わずかながら出たこの工作誤差のため,すべてのフレットをたて,楽器として完全な状態での実験をするには至りませんでした。

  棹は挿しかえるのに胴体は同じなわけですから,胴上のフレット高を最低のものに合わせると,そのほかの棹では低すぎて,押えたときに音高が狂い,最高のものに合わせると,棹のが低いものでは糸が触れてビビリが出たり,音が出なかったりする可能性があるためです。

  そもそも音色の違いを調べたいというだけなら,録音は開放弦の音のみでも良いとは思うのですが,棹上1オクターブぶんのみとはいえ,フレットをたてれば分析材料としての音のデータも増えますし,あるていどの曲弾きも可能になるので,棹の違いによる操作感などもよりハッキリと分かる,と考えました。

フレット
  急ぎの実験なので,今回のフレットは極力手間の少ない明清楽型に統一しました。

  3回削げばできあがり――片面には,竹の皮の部分がそのまま残っています。


  さて,その実験の結果ですが。

  正直,庵主自身の耳で聞こえる範囲においては,生音にしても録音したものにしても,それぞれの棹によって,顕著といえるほどの差異は感知できませんでした。

  つぎに開放弦のみの音を録音したデーターをSPWAVEによって視覚化すると,波形のうえでは4-1と4-3,そして4-2と4-4が似ており,一見2タイプ(くびれの多いものと,少ないもの)あるように思えるのですが,のちほど行った音階や試験演奏などの例から,より多くの音を摘出し,比較してゆくと,どの棹でも同じように二つのタイプの波形が見られることが分かってきました。

4-1開放弦4-2開放弦
4-3開放弦4-4開放弦

  この波形の違いは,工作や棹の材質の違いによるものではなく,演奏時のピッキングや楽器の姿勢によるもののようです。簡単に言うと,くびれの多い型は糸をうまく弾けているとき(楽器の姿勢も正位置で,響き線の効果もかかり,余韻の効いた音が出ている場合)で,そうでないときがもう一方のくびれの少ない型(響き線が効いていない)になるようです。

  月琴の「響き線」というのはコントロール不能な部品ですし,そのなかでも今回の試験胴に仕込んだ長い弧線の型は,扱いが難しい。楽器にかかるちょっとした姿勢のくずれやある種の振動の影響で,響き線の効きに大きな差が出てしまうのです……3号と同じ,影響の少ない直線型にしておけば良かったですね。

  ともあれ,波形のタイプは違っても,4本の棹によるそれぞれの音の撥弦から終束までの時間や,音量の上下限は,実際,ほとんど同じと言ってよく,結論としては,棹材に由来すると思えるような,特筆すべき差異は,音の上ではほとんどない,として良いようです。

棹4本
  つまり,月琴という楽器では,棹材の選択は,音色より楽器のバランスなど操作性のほうに関係があるものだと考えます。楽器としての音色の違いは,棹よりも,胴体の材質や加工・工作のほうに拠っており,三味線などの楽器ほど,影響はないということだと思います――まあ,月琴の棹は短いですしね。

  木地の素材感による,視覚的,触感的な部分も,本来の月琴では当然考慮されていると思われますが,胴材が同一(エコウッド,セミモノコック構造)で,表面を塗装することが前提の代用楽器・ウサ琴の製作においては,音色上の差異がこの程度なら,棹材というものは,さほど問題にしなくてもいい部分のようです。

  本を見ると,古い月琴もいちおう伝統的に使用する素材が決まっていたかのように書かれていますが,表裏の面板が桐なのをのぞけば,胴や棹は庵主がいままで見てきた例でも,檀木の類からはじまって,クリ,サクラ,クワ,エンジュなど,まあ楽器によく使われる材のほか,針葉樹をふくめた正体不明の雑多な木材で作られていた例もありましたから,つまりは弦を張って,曲がったり折れたりしないほどの,硬さや丈夫さのもならば,素材に関しては,さほど選好みしなくてもよい,ということなんでしょうねえ――よ~し,ウサ琴ではさらに安月琴を追求するぞ(笑)。

  これが分かっただけでも見っけもんです。



4号あとしまつ

追加胴
  さて,実験も終わり。

  残されたのは棹が4本と,まるい胴体が1コ。

  この胴体にあと3つ棹穴をあけて,どっかの怪獣みたいな楽器を作る,というテもないではありませんが。ともあれ結果を出してくれた棹たちに,敬意を表して。

  あと3つ,胴体をこさえました。

  追加ぶんの胴体の製作は,実際には棹塗装のちょっと前からやってたんですが,いささか急造ぎみで,試験胴と違って棹とのフィッティングも十分できなかったため,いざ棹を挿してみると,胴体と棹の中心線が合ってなくて,半月がわずかに傾いていたり,糸を張ってみると左右不均等になったりしてしまいました。

  一面などは,半月の取付位置が,正中から左右に1センチ以上ズレてしまっています。

  こうなると,棹元の調整だけでは修整がしきれません――

半月貼り直し(1)
  一度取付けた半月をへっぱがして,付け直しました。

  半月は糸の張力のかかる場所なので,庵主はいつもかなりしっかりと接着してしまっています。

  周囲を濡らすこと1時間以上。

  はじっこのほうに刃物を入れ,持ち上げるように揺すっては,できたわずかなスキマに筆でお湯をたらし,ニカワをゆるめながらハガしてゆきます。
  下地が柔らかい桐なので刃先をもぐりこませやすい反面,力を入れすぎると板が割れたりもしますからね,たいへんですが,少しづつ,慎重にハガしました。

  胴体と棹を一対一でもう一度,ちゃんとフイッティングをしてから,新しく楽器の中心線を出し,より正確な位置に半月を貼りなおします。

半月貼り直し(2)
  ただしこんどの場合は,胴体がすでに箱状になっているので,最初のときほどしっかりと接着することができません。
  半月の真下に,これを支えるようなかたちで下桁がある場合なら別でしょうが,こうした事態を考えていなかったため,そういう構造にはなっておらず,クランプで圧をかけすぎると,面板が割れてしまう可能性があります。

  半月のついていた部分は,さいしょの接着ですこし凹んでしまっています。
  まずは半月裏と面板がより密着しやすくするため,いつもより余計に接着面を均し,薄めに溶いたニカワをよく染ませて,半月の上と裏板に当て板を噛ませ,Fクランプでやさしーくしめつけました。

  そのまま一日以上おき,はずしてまた一日ほどたってから,糸をギリギリと強く張ってテスト。

  ちょっと心配でしたが,なんとか糸を張っても,半月がハガれてぶッ飛ばないくらいには,再接着,成功したようですよ。



付録・半月の取付について

半月貼り直し
  庵主のように胴体が半完成の状態のときにやるのか,あるいは胴体が完全な箱状になっている最後のほうでやるのか。月琴の製作工程において,テールピース――半月をどの段階で取付けるのか,これはいままでひとつのナゾでした。

  修理などで実際に見てきた例から考えると,古い月琴ではこのどちらのやりかたもされていたようですが,概していうなら,比較的高級な月琴では前者のものが,中級以下の量産月琴では,後者の例が多いように思われます。


9号早苗・半月
  これは,高級な楽器では,一つの楽器は棹と胴体が一対一の関係で,一貫して作られたのに対して,中級以下の量産品では,生産性をあげるため,今回の棹と追加胴のように,胴と棹がべつべつに作られ,あとで組み合わされることがあったのではないかと考えます。

  じっさい,量産品の月琴では,たんに各部品を同規格で別個に作った,というだけではなく,部品によって工作の精度がまったく違っていたりする場合も良く見られます。外注というカタチほどではないにせよ,家内分業のような形で,一部の部品の製作が家族や徒弟の手にゆだねられていた,というようなことはあったに違いありません。

彼氏月琴・半月
  こうした分割生産や分業制をはかった場合は,今回の追加胴の場合のように,じっさいに組み合わせてみないと,棹と胴の取付け具合がどうなっているのか正確には分かりません。

  棹と胴体のフィッティングは微妙な工作なので,わずかな工作のバラつきであっても,楽器の中心線が大きくズレてしまうことがありますが,この場合,半月の取付けを最後に回せば,あるていど大きな範囲で,弦の片方の端の位置を前後左右に調整できるので,棹・胴体,どちらかの加工に多少の問題があったとしても,楽器として使用可能なものに仕上げることが,比較的かんたんにできます。


半月貼り直し・参考
  最初から同一の正中線に沿って,棹も胴体も調整されながら作られてゆく場合と異なり,この工法では修整の結果,かならずしも楽器の中心線が,胴体を円と見た時の中心線とぴったり合うとは限らない場合もあるでしょう。そうするとその結果,左右が非対称な楽器ができたりするかもしれません。

  じっさい古い量産品の月琴には,そうした例がけっこう見られますね。

  また,オープンバックの状態で接着する場合には,半月に,面板の表裏から直接圧をかけることができるので,糸の張力のかかるこの部品を,よりしっかりと面板上に固定することが可能ですが,すでに胴体が中空の箱状になってしまっていると,その上からそれほど強い圧をかけることはできません。

  前者の接着方法をとった場合,そもそもこれが自然にハガれてしまうような事態は,まず考えられないのですが,やはり古物の量産品では,この大事な部品が浮いたり,完全にハガれてしまっている例をいくつか見たことがありますし,弾いている最中に半月が飛んできておデコに当たった人も知ってます。

ウサ2・半月接着
  たとえば今回の追加胴の修整でもそうだったのですが,強い圧をかけて接着した場合,半月をはずすのは一大作業で(「ゴッタン阮咸」の時に,どんなにしてもハガれないので切り取ったこともあります),その下には桐が圧縮されて,半月のカタチにわずかに凹んだ痕がついていましたが,ここが壊れてしまった古物の月琴で,そうした圧縮痕が見られたことはほとんどありません。

  一方,胴体がすでに箱として完成している状態で,なお半月により強い圧をかけ,接着するための手段としては,胴体内部の下桁を,半月の真下にくるよう配置する,というテが考えられます。

  その位置に下桁が渡っていれば,間に胴体をはさんだとしても,面板にあまり負担をかけずにかなり強い圧をかけることが可能になります。ただしこの場合は,桁の位置がかなり下のほうになってしまい,胴体の補強材としての役割上は,ややバランスを欠くことになるかもしれません。

月琴4号内部構造
  庵主は彼氏月琴や4号月琴の内部構造などは,そうした実例なのではないかと推測していますが,この下桁の配置については,響き線の形状との関係とか,ブレーシングというか音梁としての効果を狙ったものである可能性も考えられるので,必ずしもここで述べたように,半月接着時の補強が目的だとは言い切れません。

  この点に関しては,もう少し類証が必要かと。




4号あとしまつ・2

追加胴・内部構造
  さて庵主にとって,本来の意味での「ウサ琴4」というのは,実験のために作った棹4本と試験胴のことであって,後付の胴体による3面は,ショ○カーの再生怪人とか,アイスの当たりでもう一本,みたいなものなのですが,楽器として完成させたからにはこれも我が子。

  今回はいささか急造気味で,いままでのウサ琴からすると,多少アラの見える作りになっているかもしれませんが。半月付け直しという非常事態はあったものの,もともと棹の出来は悪くないので,どれもフレットの低い,比較的操作性の良い楽器に仕上がりました。


ウサ琴4-1
  4-1 糸倉:サクラ 棹:バーチ 指板:ニセ紫檀? 胴:追加作 鋼の弧線(コウモリ月琴のコピー)

  4面中もっとも操作性が良く感じられる。
  棹はやや太目で幅広だが,運指は滑らかで,最高音まではっきりと出る。
  バーチの棹はそれだけ手にとると,重たく,かなりヘッドヘビーな楽器になっているはずなのだが,じっさいに胴に挿して持ってみると,意外とバランスは良く,それほど気にならない。
  響き線はコウモリ月琴のコピーだが,オリジナルと比べ,少しばかりアールを深めにしてあるぶん線長があり,反応は良い。演奏時のノイズも少なく,4面中いっとう扱いやすい楽器に仕上がっている。


ウサ琴4-2
  4-2 糸倉:同上 棹:メイプル 指板:紫檀 胴:追加作 響き線:鋼の孤線(9号早苗ちゃんのコピー)

  その棹の細めなフォルムと本紫檀の指板は美しい。
  ただ,棹幅が細いため,糸間がややせまく感じられる。
  手の大きな人では,運指に多少の不満が出るかもしれない。
  開放弦での余韻は澄んで美しいが,高音低音のバランスが少し悪いのか,チューニングがやや微妙で難しい。

  操作性も音色も,ややクセのある楽器となった。

  響き線は試験胴のものほどではないにせよややノイズが出やすいが,線鳴りはすぐおさまるので,長い弧線としては比較的扱いやすいだろう。弦音に対する反応はやや鈍いようだが,響き線の効果がうまくかかったときには,どちらかというと直線タイプに近い,力強くコシのある余韻が出る。


ウサ琴4-3
  4-3 糸倉:同上 棹:クスノキ 指板:黒檀 胴:追加作 響き線: 響き線:2本直線(上・鋼/下・真鍮)

  棹背を少し削りすぎてしまったため,やや薄めの棹になってしまったが,操作上の問題はない,というよりはかなり扱いやすい楽器に仕上がった。
  乱れ杢,クスノキの棹は軽くて美しく,楽器として手に持った時のバランスは良い。
  直線の響き線はノイズが出にくいため,演奏姿勢をかなり自由にとることができ,少々暴れてもちゃんと余韻のついた音は出る。響き線の反応は良く,振幅の大きな,あたたかくやわらかな余韻がかかる。



ウサ琴4-3
  4-4 糸倉:ニューギニアウォルナット 棹:マコレ 指板:黒檀 胴:試験胴 響き線:鋼の孤線(彼氏月琴のコピー)

  銘:スピードスター

  試験に使った棹と試験胴を組み合わせたものだから,この一本が正真,「ウサ琴4」と呼べるものなのかもしれない。
  NWナットの糸倉とマコレの棹は,ほかの3本と違ってどちらも木地の色が濃いため,スオウ染めはしていないが,光線により透けてツーピースに見える木地色が,なかなかシャープで恰好が良い。
  糸倉がやや重く,しっかりと作った試験胴とともに機体は頑丈,フレット高も4面中もっとも低いが,操作性には少しクセが出た。敏感な響き線のせいもあいまって,やや扱いには難がある。
  ノイズは出やすいが,やはりこのタイプの響き線は,楽器の姿勢とピッキングがぴたりと合ったときに出る余韻が素晴らしい。もっとも「月琴らしい」という響きを持つ楽器である。
  室内でじっくりと弾きたい人にはよかろう。ステージ上で暴れたいムキには向かない。



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