ウサ琴4(終)
ウサ琴4(終)
音声資料集 まずは実験時の音声から。 前回までに書いたように,今回の実験は,ひとつの胴体に,素材の違う4本の棹を挿替えて,そこに音色的な差異が生じるかどうかを確認すること。 ほんものの月琴の場合では,棹と胴体はだいたい同材で作られることが多いので,材質によって楽器の音色がかわる,というのも理解できます。 しかし,代用楽器ウサ琴の場合,胴体の構造や材質はどれも同じくエコウッド。 棹の素材による音色への影響がどれほどのものなのか,もし大きな影響があるとすれば,よりベストな組み合わせを摸索する必要があります。 実験の過程は以下の通り。 1)試験胴に棹を挿す 2)試験用の軸を挿し,外弦を張ってフレット(棹上4本,1オクターブぶん)を仮設 3)内弦を張って調音 4)開放弦・音階・試験演奏(九連環)を録音 4-1 糸倉:サクラ 棹:バーチ ♪ 4-1 開放弦 ♪ 4-1 音階 ♪ 4-1 演奏 4-2 糸倉:サクラ 棹:メイプル ♪ 4-2 開放弦 ♪ 4-2 音階 ♪ 4-2 演奏 4-3 糸倉:サクラ 棹:クスノキ ♪ 4-3 開放弦 ♪ 4-3 音階 ♪ 4-3 演奏 4-4 糸倉:ニューギニアウォルナット 棹:マコレ ♪ 4-4 開放弦 ♪ 4-4 音階 ♪ 4-4 演奏 実験後,余った3本の棹のために,追加の胴体を作り,常の製作と同じく4面のウサ琴に仕立てました。 この第4段まで,楽器の構造・工程に関するもののほかに,毎回月琴の音のイノチともいえる内部構造,響き線の実験をいろいろとやってきています。ウサ琴2ではいろいろな形状による違いを。ウサ琴3では直線タイプの取付・調整を。 そして今回は,最近知った3つの型の弧線(9号早苗,コウモリ,彼氏月琴)について,それぞれの特性や音色の違いを確かめてみようということに。 こちらの試奏曲は「徳健流水(てけんりゅうすい)」。日本に月琴音楽を伝えたオールドマスターの一人・林徳健さんの曲で,もっと長いのが一般的なんですが,ここでは『明清楽之栞』所載のショートヴァージョンでイキます。 ついでに楽器を揺らした時の響き線の音も。 通常の演奏ではノイズでしかない音ですが,楽器の響きを左右する振動を,聞こえるカタチにするのはこれが一番。ギターとかバイオリンでもそうですが,弾くほかに叩いてみたりして,基本的にいい音で響く楽器はいい楽器というのは,そう間違いではないと思いますね。 4-1にはコウモリ月琴と同様の線を。 取付け位置は上桁のすぐ下。線は取付けブロックから5ミリ~1センチほどのところで曲がり,下桁の中央辺りを頂点とする,上下桁の間の空間をいっぱいにつかったアールを描いて,基部と同じ辺りの高さのところで終わります。 4号月琴のものにくらべると,アールが深いのが特徴。 オリジナルのコウモリ月琴のものは,頂点部分が下桁の音穴にかかるかかからないかのあたりでとまっているのですが,今回作ったものは,アールをやや深く取りすぎたようで,焼入れをしたら完全に下桁にひっかかってしまいました。 線のほうは焼入れ後の整形はできないため,当初,左右二つだった下桁の音孔をつなげて,一つの大きな孔にして,響き線の振動への影響が少なくて済むように加工しなおしました。 ♪ 4-1 音階 ♪ 4-1 演奏 ♪ 4-1 響き線 現在,庵主のメイン楽器はこれと同じタイプの構造を持つコウモリ月琴と,エレキ月琴・カメ琴ですが,この型は,余韻の深さでは彼氏型の長い弧線に劣り,音量の面では直線型に劣りますが,耳にきつくない,あまやかな余韻が得られることと,楽器の揺れに対してわりと線鳴り(ノイズ)が出にくく,扱いやすいのが利点です。 4-2では9号早苗ちゃん型の弧線を再現。 これも取付け位置はオリジナルと同じく,上桁のすぐ下。オリジナルの線基部は,上桁を固定するブロックの役割もしています。線は取付け基部から5センチほどのところで曲がり,楽器内部にやや沿うようなかたちで,きつい円弧を描きながら下桁方向へしばらく伸びたあと,下桁の手前あたりから,ゆるい弧となって反対側のほうへと向いてゆきます。 草刈鎌のようなこの型の線は,まだほかで見たことがありませんので,多少データ不足であります。このあと,この楽器のオーナーとなる方の報告を待ちたいところ。 ♪ 4-2 音階 ♪ 4-2 演奏 ♪ 4-2 響き線 音のへの反応はそこそこ良く,線鳴り(ノイズ)は彼氏月琴型に比べると少なく,コウモリ型よりはやや出やすいようす。余韻の印象は渦巻き型(明清楽2号・ゴッタン阮咸・ウサ琴1)と直線型の中間。深み,というよりは,タメのある,というか,コシのあるというか。ややうねる,意外と力強い響きです。 4-3は直線2本線。弧線との比較検討用。 ウサ3と同じタイプですが,弧線タイプ用の胴体に仕込んだので,上線と下線が同じ空間に突き出てます(ウサ3では上線は中央の空間,下線は下桁より下の空間でした)。もしかすると明清楽3号のように,線同士が触れちゃうかなあ,と思ったのですが大丈夫でした。 ♪ 4-3 音階 ♪ 4-3 演奏 ♪ 4-3 響き線 上・鋼線,下・真鍮線のW直線が醸し出す,バランスがよく,力強い音と,うねりの少ない素直な余韻。 そして,線鳴りの出にくい扱いやすさ。 明清楽月琴1号・5号をもとにした,ウサ琴シリーズの定番ともいえる構造ですね。 庵主としては,4-1とともに,弾いてて安心できる一本です。 4-4は試験胴を使用(真!ウサ4?)。 響き線は語り部のミウさん所有・彼氏月琴の内部構造を参考にした,長弧線タイプ。 線は棹穴のすぐ横からはじまり,胴の内がわに沿って,ほぼ2/3周したあたりで終わります。 線の先端は,下桁から少し突き出るか突き出ないかのあたり。 長い弧線は取り付けの作業が大変です。ほんのわずか,根元をズラしただけでも,全体が大きく動くので,常に線全体の変形に気を配りながら調整しなければなりません。また演奏時の姿勢も大事で,響き線が最大に効果を発揮するベストポジションがある一方,少しでも不当な姿勢になると,その効果が半減するといった欠点もあります。 しかし,楽器の直径よりもずっと長い線から生み出される余韻は,透明で,深く震えるよう。まさにガラスの触れ合う音――「玲瓏」たる音色です。 ♪ 4-4 音階 ♪ 4-4 演奏 ♪ 4-4 響き線 弾きなれて,楽器と演奏者が一つになったとき,もっとも素晴らしい音の出る一本でしょう。 ただし,かなり気難しい楽器に仕上がってしまいました。 カクゴして弾いてください。 |