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月琴の弾き方(2)

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斗酒庵 月琴取扱 の巻月琴の弾き方(2)

  今回は弦楽器の基本,糸と音あわせ(調弦)について。

  例によって,「明清楽の月琴(もしくはウサ琴)」の場合でして,中国の月琴には使えない情報ですんで足柄山。

  お持ちの楽器が演奏可能な状態であると仮定して。
  楽器本体以外で,とりあえず必要なものは糸(弦)義甲(ピック)ですね。

  ピックについては特集記事が2つばかり(月琴ピック製作記1/2)。記事にも書きましたが,まあ,カタチが同じようなものなら,竹を削ったものでも,アクリル板でも構いません。
  糸巻きについては「月琴の軸の調整」,これより後の「弾き方」については「月琴の弾き方 (1)」も,合わせてご参照アレ。



1. 糸を買おう!

糸
  月琴の弦には,三味線のお糸を使います。

  現在,三味線糸にはナイロンとかテトロンとか,いろんな素材のものがありますが,月琴では昔ながらの「絹」でできた糸を使います。

  ただし,お持ちの楽器の状態が万全ならば,ほかの素材の糸を試してみるのも一興です。

  耐久性はナイロン糸などのほうが高く,音もかなり大きく,くっきりと出せます。
  欠点は丈夫なかわり,弦圧(テンション)が高くなるので,古い楽器だと負担が大きいこと,そして三の糸が釣り糸のようにツルツルなので,多少ピックの先がひっかかりにくいあたりでしょうか。

  絹の糸はいかにも古風な楽器らしいやわらかな音色と,ピックのかかりの滑らかさが利点。
  欠点は,湿度とか温度とか,環境に左右され伸びやすいこと,切れやすいこと。
  音量もあまり大きくは出せませんが,この楽器は,もともと大きなホールで演奏されるようなモノではなく,基本,お女郎さんとさしむかいで聞くような室内楽器ですから,一向かまわないとは思います。

  つぎに「番手」,糸の太さですね。
  庵主は 12-3 と 13-2 という太さのものを使用しています。
  上の番号は「12号の三の糸」「13号の二の糸」という意味で,三味線ではこの最初の番号が大きければ大きいほど太いものとなります。

  二の糸は太いのでそうそう切れることはありませんが,楽器を手にいれてしばらく,タマネギを与えられたお猿さんのように弾きまくっていると,高音側の細い糸がよく切れます。
  最初のころは力の入れ方もピックの角度とかも適当なので,糸がイタみやすいのですね。
  ちょっと多めに買っておきましょう。

  そんなのどこに売ってるんだ?

  と,探し回ったり,近所の琴・三味線屋さんに飛びこんだりする必要はありません――今はネットで安いものがラクに買えます。某大手オークションだと,三の糸で10本¥8~900円くらい,二の糸が同じく¥1500くらいですね。



2. 糸を張ろう!


  さて,いよいよ糸を楽器に張りましょう。

  月琴の糸は四本。左右2本づつを同じ音に調弦します。

  音楽用語でいうと4弦2コースの複弦楽器ということになりますか。

  楽器を正面から見て,左右外側の弦を「外弦」,内側2本を「内弦」としましょう。

  どこからはじめても構わないとは思いますが,庵主はいつも高音外弦(細いほう,楽器を正面から見ていちばん右側)から張ってゆきます。
  ギター等では低音弦(太いほう)から張ることが多いのですが,これは庵主が,調弦に安物のギター・チューナー(低音開放弦のC(=ド)が測れない)を使っていたことからくる癖です。

  やりやすいところからやってください。

  まずは丸くまとめられた三味線のお糸をほどきます。
  三味線の糸の片方の端には,赤とか銀色で色がつけてあります。

  どっちを使ってもかまいませんが,庵主は色を塗ってあるほうを軸(糸巻き)がわにしていますね。

 1) 色のついていないほうの端に,単(ひとえ)結びの輪を作りましょう。

 2) 半月の糸穴に,色ついたほうの先っぽを通します。

 3) さっき作った輪に,色つきのほうを通します。

 4) 両方をひっぱり,輪を縮めてゆきます。


  このとき,輪の結び目のところを糸穴の縁にひっかけて,この結び目の部分が穴の中にちょっと沈み込むよう,ひっぱる角度とか力を加減してください。

 5) 輪がほどよく縮んだところで,両端をギュッと軽くひっぱってやります。

  こうすると,結びがかたまってほどけにくくなります。
  ただ単結びの輪をひっかけてるだけのことで,最初のころはなんか危なげに感じますが,基本的には三味線なども同じで,このあと弦をしぼってゆくとまずハズれることはありませんのでご安心を。


  つぎに軸の糸穴に色つきの端を通して,余った糸を巻き取ります。

  右端の糸(高音外弦)はいちばん下の糸巻き,そこから左へ順ぐり,いちばん左(低音外弦)をてっぺんの糸巻きで巻きとります。

  はじめの数巻きは,糸孔からとび出てる,糸の端っこの上にかぶせて,高音弦なら右方向へ,低音弦なら左方向へ糸を巻き取ります(こうして最初に糸端を押さえ込んでおくと,巻きがゆるみにくくなって,調弦のときの余計な狂いが少なくなるのです。)。

  そこから糸をズラして,残りの部分を反対方向へ巻き取ってゆきます。

  一箇所で何重にも巻き取ると,糸がお団子のように盛り上がって,最後のほうで微妙な調整がしにくくなりますし,左右あっちゃこっちゃテキトウに巻いてゆくと,余計な凸凹ができてやっぱり細かい調整が難しくなります。

  なるべく均等に,きっちりと巻きとりましょう。

  また,糸が糸倉の内壁に触れてたりしてると,調弦に影響が出るので,最後はうまく真ん中辺りで終わるように努力してみてください。

巻き取り(1)
巻き取り(2)
巻き取り(3)


 ポイント・その1!
  糸を張る前に,お持ちの月琴の軸が,所定の位置に挿されているかどうか,事前にお確かめを。
  機械で精密に加工された現代の楽器と違って,手工品の月琴では,軸と軸穴が一対一で微調整されていることが多く,ある軸はある孔ではユルユル,ほかの穴ではキツキツということも珍しくはありません。
  なるべくぴったりはまる軸を,ぴったりの軸穴に挿し替えておいてください。
  ユルユルの軸だと,音合わせがたいへんですよ~。
  軸の状態によっては若干の調整が必要な場合もありますので,その際には当ブログ過去記事「月琴の軸の調整」をご参照アレ。

 ポイント・その2!
  山口(ナット)に糸溝がちゃんと切られているかどうかもご確認を。
  装飾用のいわゆる「お飾り月琴」として使われていた楽器の場合,この溝がきちんと切られていないことがあります。糸溝がなくても弾けないことはありませんが,山口で糸の位置が固定されていないと,糸合わせは難しいですね。演奏中,カンタンにズレたりもしちゃいますし。
  楽器によって糸溝の間隔等には差がありますが,左右の外弦間で15~16ミリ,外弦と内弦の間隔が2ミリ~3ミリ。手の込んだ楽器では,低音弦のほうだけ,外内の間隔をほんのわずか広くとっています(糸が太いから)。
  糸溝の切り方は,Webでギターのリペアなどの記事を参考にしてみてください(ただし工具は百均のヤスリでけっこう。ギターほど精密でなくてよろしい)。

 ポイント・その3!
  さらに「見てウツクシイ」のを追求する場合は,調弦が終わったとき,糸が糸巻きの中心よりやや左(高)・右(低)から出ているのがベストポジションです。
  糸倉を横から見てビルマの竪琴のように,正面から見て鳥が翼をたたんでいるように見えるのがウツクシイと言います(このへんマニアック!)。
  ふつう月琴の軸の糸穴は,4本とも同じくらいの位置にあけられていることが多いのですが,造りの丁寧な月琴では,上下の2本は握り寄りに,中の2本は先端寄りに,穴があけられています。
  そういうふうにすると,きっちりと巻いたとき,さいごには自然と糸が中央あたりにくるからですね。
  昔の職人さんは,こんなところにまで心配りをしていたのか,と感心することがあります。




3 糸合わせ

  巻き取った糸を必要な音の高さに調弦します。

  「演奏時間より調弦している時間のほうがずっと長い」と言われたリュートの仲間のなかでは,月琴の弦は4本,わずか2コース――2本づつ同じ音に2回調整してあげれば,それでおしまいなわけですが。

  かほどに弦が少なくとも,複弦楽器というのは難しいもんです。

  ギターとか三味線で慣れてるヒトでも,けっこうむきーっ!てなりますよ。むきーっ!って。

  東洋の楽器なので,笛とか人の声で音をとって合わせるのが本当で,基本的には高音・低音の間が5度,もしくは4度になっていれば可なのですが。この現代,楽譜を見て弾くにも,西洋楽器に合わせるにも不便なので,低音弦2本をC(=ド),高音弦をG(=ソ)に合わせます。

  お三味でも同じだったのですが,この調弦がニガテだという人には共通点があります。

  たいてい,糸を「巻く」動作と,糸を「弾く」行為を,交互,もしくはべつべつにしているのですね。

軸の握り方(×)
  糸巻きを握って糸を巻いて「から」,糸を弾いて音を確かめて「から」,また巻いたり緩めたり……これを「カラ・カラ合わせ」と名づけます。

  「こんなもんかな?」「これくらい締めれば合うだろう。」という,かってな思い込みだけの操作で,巻き加減による実際の音の変化を聞いていないわけですから,こんな「カラ・カラ合わせ」をしている限り,いつまでたっても音は合いません。

  月琴に限らず,邦楽器では「カラカラ合わせ」は禁止行為,だとお考えください。

軸の握り方(◎)
  三味線もそうですが,この手の楽器の調弦は,演奏姿勢で糸巻きを握った「まま」,糸を弾いて変化する音を確かめ「ながら」行います――糸巻きを締めるのと糸を弾くの,音を確かめるのが,同時の作業なわけで。これをこれ「ママ・ナガラ合わせ」と名づけます。

  月琴のチューニングは「ママナガラ」――覚えておいてください。


  糸巻きの握り方が大切です。

  上の写真のような握り方だと,軸が糸倉としっかり噛みあわず,糸を巻いてるうちに軸穴から浮いて,せっかく音が合っても,糸巻きが戻ってしまいます。

  調弦は,右のように糸倉に指をかけ,軸を糸倉に押し込むようなかたちで行います。
  右側の軸を操作するときは親指を,左側の軸では小指を糸倉にかけ,軸と糸倉をしっかりと噛み合せたまま,少しづつ,軸を締めてゆきます。

軸の握り方(裏ワザ)
  庵主は小指の力が弱いので,身体の側の軸を締めるときは,左のように,反対側の軸尻を,膝に押し当て,糸巻きを押し込むようにしながらやってます。

  同じように握力の弱い方や,手が小さくて指が糸倉にかけられない方は,肩や膝のほか,カベとか机の角で同様にやってみてください。

  ただしこの方法,糸倉に多少負担がかかりますし,軸が滑って楽器をイタめることもあるので,無機物に当てる際には,軸尻に布などを敷くのもお忘れなく。


  最初のころはぜんぶチューナーに頼ってもかまいませんが,楽器に慣れてきたらだんだん使用を減らしてゆきましょう。庵主はチューナーで合わせるのは最初の一本,高音外弦の一本だけ。あとは音を聞きながら合わせてゆきます。

  まずは高音の外弦と内弦を,ぴったり同じ音に。

  弦を2本一緒に弾きながら,目をつぶって,アタマの中で「波形」をイメージしてください。
  ――そう,オシロスコープとか,心電図とか,あんなやつ。
  二つの波形がぴったり一つに重なるように,軸を巻いたり緩めたり。

  高音二本がそろったら,低音弦の4フレット目(G=ソ,高音の開放弦と同じ音)をおさえて,調弦の終わった高音弦と交互に弾きながら低音内弦を調整します。

  音が高音弦と同じになったら,指を離して,低音2本の音をそろえます。


 ポイント・その4!
  「カラ・カラ合わせ」をする人を見ていると,調弦のとき,いちいち糸巻きを見て,手元を確かめたりもしていますね。
  ちゃんと糸合わせのできる人は,そんなことはしません。
  どこにどの糸巻きがあるのか,どの糸巻きからどの糸が出ているのか,目をつぶっていても分かる,手の感覚だけでおぼえておく,これは弦楽器の基本中の基本。
  月琴ではしかも,弦が4本しかないんですから,難しく考える必要もありません。
  手元を見るわずかな瞬間でも,握りがゆるんだり,糸がのびたりして音は狂います。
  音がちゃんと合うそのときまで,ナミダを飲んで,糸巻きとは目を合わせないようにしましょう(笑)。

 ポイント・その5!
  なお三味線や三線などの糸巻きの扱いでは,音が合うまでは,軸を糸倉からわずかに浮かせておいて,音が合ったところで,軸をギュッ,と押し込んでトドメをさす,というようなことをします。
  そのほうが音を合わせるあいだ,軸を自由に回せるからですね。
  月琴も,糸の余分を巻き取るところまではソレでいいのですが,音合わせのときには使えません。
  これは月琴が三味線などとくらべて,ずっと糸が短く,テンションが高いため,わずかな糸の動きで,音が大きく変ってしまうためです。
  せっかく音が合っても,トドメの「ギュッ!」でズレてしまい,そのたびにハラが立つだけ。
  月琴では 「トドメの "ギュッ!" 禁止」――これも覚えておいてください。

 ポイント・その6!
  絹の弦を調節するときは,「締めて音を高くする」ほうは問題ありませんが,「緩めて音を低くする」のはキカない,と思ったほうがよろしい。
  だから,「アレ?ちょっとだけ高くなりすぎちゃった。」というとき,糸巻きを緩めていってもダメです。一瞬合ったとしても,そのあとどんどん音が低くなってゆきます。
  これは絹弦では「伸び」より「縮み」の反応がずっと遅いからですね。
  音が高くなりすぎたときは,いッそ低すぎるくらいのところまで戻してから,締めなおしてやったほうが確実だと,覚えておいてください。



  ウナギの世界で「串打ち十年」とか言うように。
  オクナワの三線には「ちんだみ三年」,と言うコトバがあります。
  「ちんだみ」――つまり調弦がちゃんとできるようになるのには,三年くらいかかる,ということですね。

  練習次第で,またほかの弦楽器をやったことがある方だと,この期間は大幅に減りますが(じっさい,ギターとお三味の前科のあった庵主は三週間ぐらいでなんとか),ともあれギターにせよマンドリンにせよ,お三味にせよ琵琶にせよ,弦楽器初心者の習得における最初の難関がこの糸あわせ――チューニングです。
  さらに月琴は,邦楽器にはほとんどない複弦楽器。
  しかも敏感な生絹の弦。

  環境によっては,庵主もまだ戸惑うことがあります。

  その調弦には微妙で感覚的なところが多くって,実際に操作しているところを見ながらだと「なあんだ」ていどのことでも,文字にするとなんだか難しくなっちゃいますね(それで,こッちの記事が(2)になっちゃったわけで)。
  表現の足りないところもありましょうから,分からない時はお気軽に質問メールなぞ,どうぞ。

  ともあれ,調弦ができなきゃ,そもそも弦楽器ナゾ弾けませぬ。

  鋭意努力アレ。



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