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改訂版・斗酒庵流月琴ピック製作記

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斗酒庵流月琴ピック製作記(3)改訂版! 改訂版・斗酒庵流月琴ピック製作記

ぎじゅちゅはすすむ

  以前までの製作法については こちら をご覧ください。

  従前の方法だと,月琴のピックは牛のヒヅメの「底の部分」からしか作れませんでした。

  底がほどよい厚さで,ほどよい長さのものがしゅっちゅうあれば苦労はしませんが,これがなかなか無い。

切り分け
  側面を熨した板を材料にしたほうが,より大きく,長いものを作ることが出来るのですが,これまでの工法では,この部分から月琴のピックのように細長い形のものを作ると,変形がひどくて,とても使えるようなものが出来ませんでした。

  これはヒヅメの底だと,繊維が長く縦方向に走っているのに対して,側面では斜め方向に細かく入っているためです。これでそのまま月琴のピックを作った場合,縦方向に反り返り,さらに横方向にねじれてしまう――繊維が細かいので変形も早く,甚だしきは半年ほどで,お菓子のネジ棒のようになってしまったこともあります。

  なもので,せっかくある大きな板も,ずっと副産物であるギター・ピックの材料(三角形だとあまり歪まない)くらいにしか使っていなかったのですが――最近,ちょっと工夫すれば,この部分からも,じゅうぶん使用に耐える月琴のピックが作れることが分かってきました。

  今回は新しいその工法をご紹介いたします。




1)最初の焼き入れ――平らにするだけ

焼き入れ(1)
  ヒヅメの切り分けから,だいたいの形に削りだす下加工までは,従前とほとんど変わりありません。

  一晩,丸ごと水に漬けておいたヒヅメを3つのパーツ(底・側面・内側)に切り分け,鉄板で挟んで,コンロで焼いて,平らに熨します。

  この最初の火熨しは,反ったり曲がったりしている板を,加工しやすいように平らにするだけが目的なので,あまりキツく焼かないようにしましょう。

  焼きが甘くて,多少生っぽくてもかまいません。

焼き入れ(2)
  平らになった板を,しばらく乾燥させます。

  以前は自然乾燥で半年くらい寝かせていました。
  新しい手法でも,加工後の変形を少なくするためには,最低1ヶ月くらいは乾しておくのが理想ですが,多少早くてもかまいません。
  焼きが甘いので,乾燥中,材料が元のカタチに戻ろうと,変形したり反ったりすることもあります。
  変形があまりにひどいようなら,さッと水をくぐらせて,再度修整の火熨しを加えますが,このあとの切り刻む作業に支障がないていどなら,それほど気にしなくても大丈夫です。



2)切り出し――水漬け可

切り出し(1)
  乾燥の終わった材料を,ピックの幅(少し太めくらいが良)に切り分け,
オニ目ヤスリや切り出しで,表裏を削って,薄くしてゆきます。

  以前はカチンコに乾燥した状態のまま,力づくでゴリゴリとやっていたのですが,これだともごっそ硬くて大変なので,最近は水に数時間漬けて,表面を柔らかくしながら削っています。

  そもそも火熨ししてちゃんと乾燥させた材料は,中心の繊維がつまっているので,ちょっとやそっと水に漬け込んだくらいでは,芯まで水が滲みることはありません。また,この次の工程がうまくゆけば,内部の水分まで飛んでくれるので,このへんはあまり心配しなくて良いようです。

切り出し(2)
  やや厚いかな(1.5~1.8ミリほど)というあたりで水漬け削りをやめて,乾いた状態での削りに移ります。

  ヒヅメの爪先方向(硬い)を先端に,カカトのほう(柔らかい)をお尻に,左右を整形してまずは先細の細長い三角形にします。この時点でのポイントがふたつ――

切り出し(3)
 ▲ お尻の部分は,この後の工程で多少潰れてしまうので,ちょっと厚めに。
 ▲ 表裏左右の縁をそぎ落とすように削って,わずかに 「中心の盛り上がった」 カタチにしておいてください。


  ――ここ,大事です。



3)油焼き

油焼き(1)
  つぎに「油焼き」ということをします。

  だいたいのカタチに削った素材を,亜麻仁油にどぷんと漬けて,表裏まんべんなく,ちょっと垂れるくらい油をまぶします。
  それをそのまま鉄板とクランプで,ぎゅぎゅ~っとはさみこみ,弱火でじっくりと焼きます。

  温度は200度ほど――うちの鉄板は1ミリの厚さですが,これでだいたい,指で鉄板に垂らした水滴が,じわ~っと蒸発するくらいになったら,クランプを付け直し,裏返してさらに数分。

  最初のうちは無理せず,(クランプの着脱がちょっと面倒ですが…)しょっちゅう開いて,素材の様子をみながら焼き上げてゆくのが良いでしょう。

  焼き具合はお好みですが,側面の板の場合は,白く見えていた繊維の筋一部見えなくなっているくらいがベスト。
  さらに固目が良い方は,表面が少しコゲて,オレンジ色っぽくなっているくらいまで焼くのが良いでしょう。

  ここで熱と圧力によって繊維が癒着し,潰れることで,側面の板も底の板も,材質的にはあまり変らないものになります。

油焼き(2)
  左画像,上が油焼き前の荒加工状態,下が油焼き後の素材です。

  このとき2)の最後に述べたように,柔らかいお尻の部分を少し厚くしておくと,ほかの部分より余計に圧縮されて硬くなるため,素材全体の硬さが均等になります。
  これにより,素材の部分的な強度の違いを考えなくても良くなるので,ピック全体をより平らに,薄く仕上げることも出来るようになりました。

  さらに,少しだけ中高にしておくと,ピックの中心線に焼きが強くかかって固目の「芯」に,周縁部分の焼きは少し甘くなって柔らかくなります。
  「芯」のうまく入ったピックは,反発の具合が一定で,手によく馴染みますし,糸に直接あたる部分は,少し柔らかめのほうが負担が軽くなります。

油焼き(3)
  低温の油でじっくり焼くことで,素材内部の水分も飛んで,以前よりも加工後の変形も小さくなりました。また油が内部までしっかり浸透するので,素材としての耐久性もあがったようです。

  以前の工法では,加工前の素材の厚さによって,出来上がるピックの焼きが甘かったりキツかったりしてしまったのですが,ここで最終的な焼入れをするようになってからは,ピックごとにその度合いを,より細かく調整することができるようになりました。
  さらに2)で触れた工法を応用すれば,焼き入れ前の削り具合によって,「先だけ固く」「中央だけ固く」とすることも可能なわけですね。



4)仕上げ

仕上げ(1)
  油焼きの終わった素材を,ヤスリや切り出し,紙やすり等で削って磨いて,ピックのカタチに仕上げてゆきます。

  先端がスリムなほうがトレモロはラクですが,単音の響きは弱くなります。
  太くすると単音は響かせやすいのですが,細かなピッキングが効かせにくくなります。
  尖らせたりせずに,四角くする場合もあります。

  先端の形状や厚さ薄さはご随意に。

仕上げ(2)
  仕上げは#120,#240で荒磨き,#600でキズをとりながら中研ぎ。
  耐水の#600に亜麻仁油をつけて油磨き,さらに白棒(研磨剤)の粉をふりかけて#1000~#1500で磨き,最後に布に白棒をつけて磨き上げますと,鼈甲のように透明でツヤツヤとなります。

  実際,この牛のヒヅメという素材は,むかし鼈甲のニセモノを作るのにも使われていたそうで。
  庵主のこのピック作りの技法の原点もだいたい,そのへんに基づいております。




荒加工・油焼き・完成
  「油焼き」の技法は,そもそも,水琴窟主人がムックリの材料の竹板を油で揚げる,と言っていたところから着想したものであります。

  低温の油でじっくりと揚げることで,芯まで熱が通って水分が飛び,素材が変形しにくくなります。
  また加工後の竹の板は,熱で硬くなり,より精密な加工が可能になります。
  さらに油が滲みこむことで耐久性も上がるし,煤竹ほどではありませんが,時代のついたようないい色の仕上がりになるのですね。

  こりゃ,月琴の竹フレットの仕上げに使えるかな?
  ――とか考え,心に留めていたのですが,ある日ふと,この技法は,従来,自然乾燥で半年もかかっていた 「ピックの素材の乾燥」 に応用できないかと思いつきまして。

  とくに自然乾燥にこだわらなければならない部品でないかぎり,加工期間の短縮はメーカーの責務の一つです(笑)。また,楽器本体と違って,もともと最後に 「油漬け」 ということをしていたような部品ですから,工程として油が染みこんでもOK,というか却って有り難い――漬け込みにも一週間ぐらいかかってたわけですからね。

  さて,工房は四畳半一間ですから,もともと鍋に熱油をはっての油モノは出来ません。

  さらに素材の特徴を考えて,「油まみれにして,鉄板ではさみこんで,低温で焼く」というのを思いついたのですが,これが予想外に余禄の多い大成功でした。

  過去・現在の,すべての職人に,感謝。

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