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南越1号(5)

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斗酒庵 ベトナム月琴に手を出す の巻南越1号(5)

STEP6 組み立て

裏板(1)
  さて,部品もあらかたそろったことですので,いよいよ組上げていこうと思います。

  まずは裏板。
  前にも書きましたが,今回は厚みが2倍なため,この圧着作業にいつも使ってる5センチのCクランプが使えません。面板保護の板を付けると,大き目のCクランプ(75mm)でも駄目。
  なもので,Fクランプをありったけ,あとは角材にゴム輪を総動員して,なんとか固定しております。
裏板(2)
  格好はかなり悪いものの,無事くっつきましたので,余分を切り取り,縁周を整形。

裏板(3)
  はい,胴体が箱になりました。

  厚みがあるのもありますが,バランスはいいようですね。
  見事に自立します。
  急須などでもそうなんですが「いい道具は立つ」のですよ(笑)。

裏板(3)
  ちなみに棹挿しても,ちょっとの支えでほぼ自立しました。
  これにはお父さんもびっくりだ。



STEP7 フレッティング


フレッティング(1)
  さっそくフレッティングに入ります。

  まずは鳥口の接着。
  塗装前に取り外すので,あまりしっかりは着けられないのですが,あるていどしっかり着いててくれないと,きちんと試奏ができません…難しいですね。

フレッティング(2)
  ニカワをわざと厚めに,点のように盛り上げて3~4箇所,底につけて固定しました。
  固定のときも特に圧力はかけず,ほぼ定位置にのっけるだけ。
  ニカワの層だけでくっついてるので,隙間に水が入れば比較的簡単にはずれてくれるはずです。

フレッティング(3)
  フレッティングの開始です。
  まだたった1本でも,なにか感動しますなあ~。


  フレットの音配列は,和尚♪さんが送ってくれました。

  さすがにこうした細かなところまで書いてくれてる資料が見つからなかったのと,安物の現物楽器は手元にあるんですが,あまりに工作がヒドいんで,そのフレッティングが正しいかどうか自信が持てなかったのですよ。
  うちのはいかにもアヤしげな「お土産」レベルの一本ですが,日本で数少ない(専門,なのは唯一か?)ベトナム月琴奏者である彼の愛器はショップのカスタムメイド。
  ちゃんとした職人さんの作った高級品ですものね。

  伝統的には8フレット,調弦は明清楽月琴などと同じく4度もしくは5度,C/Gで弾く楽器ですが,いろんな曲を弾きたい関係で,和尚♪さんはC/Dで弾いてます。
  またモダンスタイルのベトナム月琴は,胴体の上に数本高音域のフレットが追加されることがあるようで,彼の愛器も10フレットになってますね。

開放弦10
111112
111112

  上段が高音弦,下段が低音弦。
  伝統的なC/Gのチューニングに直すとこういう感じになります。

開放弦10
111112222
111112

  この伝統的な調弦で弾いてみて,第一に気がつくことは,低音域のEがない,ってとこですね。

  この楽器の低音域の音は素晴らしい。
  bebungを使ったビブラートのかかりも良くって気持ちいいんですが,何か知ってる曲を弾こうとすると,すぐに気がつきます。

  「あ,"ミ" がない…どうしよ!」。

  半音がない,なんてのはこちらの月琴も同じ。フレットが高いので,技術的には琵琶のように,弦を押し込んで半音から1~2度くらいあげることは可能ですが,速い曲では対応が難しいでしょうね。
  もちろん伝統的な曲をこの楽器の担当パートでやる場合は,それでいいんでしょうが,現代の曲を弾こうと思うと困っちゃう。

  最初,和尚♪さんのチューニングを聞いたときは,もともと弦もフレットも少ない楽器なのだから,伝統的な調弦にもどして音数を増やした方が有利なんじゃないかと考えたんですが。

  「Eが欲しいからC/D」

  このキモチは,実際に演奏してみると良く分かります。

  「フレットなんて勝手に増やしやぁいーじゃん!」

  ――てなことは,誰でも考えつきます。

神様(1)

  実際,近年では8フレットだったのを10フレットに増やして弾いている人もいる,というのは上にも書いたとおり。しかし,追加されるフレットは胴体の上,高音域の部分で,よく使われる棹の上ではありません。

  ――なぜか。

  この楽器の棹の上には,「神様がいる」 からなのです。

  高級な楽器では,この細い棹の上に8人の神様が象嵌されています。
  おそらく中国の「八仙人」のようなものなんでしょうが,この8人の神様は8本それぞれのフレット間に鎮座ましまし,それぞれの音を表象し,司っていると言われています。
  そのためそこにフレットを追加するということは,その神様を踏んづけて,ないがしろにしてしまうことになる――

神様(2)   「だから,それはできない。」

  と,和尚♪さんも現地ではっきりと断られたそうな。

  さあ,どうしましょうかねえ。

  音は欲しいが,神様はコワい…なんせこのハナシだと,演奏する方はいいとして,作る方にバチが当たる構図になっとるわけで。
  ダンナ,音楽家は違うかもしれやせんが,職人ってえ人種は,あッしもふくめて,どこの国でも意外と信心深いものなんでさあ。

神様(3)
  じつは庵主,この件に関しまして ハラにイチモツ あるのですが,そのあたりは後のハナシとして。

  とりあえずは,神罰の当たらない方向で,組み立ててゆきたいと思います。



  ベトナム月琴のフレットの材料は,安いものでは竹――さすがに南方,こんなにデカいフレットを平気で削りだせるような巨大・肉厚の竹材が平気であるんですわ。高級なものは唐木で出来ています。このあたりもこっちの月琴と同じですね。

フレッティング(4)
  南越1号のフレットは,竹と木のコンパチ。
  本体は棹と同じサクラ,弦で擦れる先端部分に竹の板を貼ります。

  和尚♪さんの現在の愛器のフレットも,唐木の本体に竹の板を貼ったものなのですが,竹板に「肉」の部分から取られた板が使われていたため,彼のパワフルな演奏に耐え切れずエグれてしまったのを,庵主が直したことがありました。

  できるなら最強と言われる皮付きのまま使いたいところですが,それもあまりカッコよくないので,目が詰まっていてぶ厚い,斑竹の皮ぎしの部分を使おうと思います。

  画像は素体の製作中。

  マクロのアップで撮ると,なんかカマボコ板の加工場みたいですねえ。
  すくなくとも「楽器のフレット」なんてものを作ってるようには見えませんて。


  こうして竹板を接着したカマボコ板を,いつものようにチューナーで位置を探りつつ,高さを調節してはどんどん立ててゆきます。

  まあもっとも――

  いつもの月琴のフレッティングだと,庵主,最近は4時間もあれば1セット,8~10本作っちゃえるんですが,さすがに格段デカいので勝手が違い,削りすぎとかで何本もオシャカりまして,今回は結局,10本そろうのに三日もかかってしまいました。
  おかげで最初使っていた本サクラの柾目の材料が払底。
  「日本人の作るなんちゃってベトナム月琴」 ということで,なんとなく国産っぽい材料を使いたかったんですが,7フレットから先は 「アメリカン・ブラックチェリー」 に…まあ,ぎりぎり「サクラ」なんで勘弁してください。

フレッティング(5)
  胴径の関係でスケールがわずかに短いので,オリジナルでは胴体上もしくは,棹と胴体の継ぎ目あたりにくる第7フレットが,棹上――それも基部のふくらみの真上にきちゃいましたが,この時点では本物との違いはその程度。

  本物のベトナム月琴のフレット幅は,上から下までほとんど同じですが,第7フレットを同じにすると,指板とのあいだに変なくぼみが出来て,指がひっかかっちゃいまして。
  指板の幅に合わせて,長くしちゃいました。

フレッティング(6)
  ついでに第8フレットを長く,以下を尻すぼみに。
  おなじみの――日本の明清楽月琴なんかで見るデザインですね。

  なんせほれ(忘れてたけど),ハイブリットな楽器ですから,このくらいは。

  さて,フレットがそろったところで,外二本しか張ってなかった弦を,内外4本の複弦に張り替えます。
  もう一度,フレットの位置と高さを微調整して,仮接着。

  複弦ベトナム月琴・南越1号。
  いまだホワイト月琴状態なれど,とりあえず楽器としては「完成(仮)」です。

  さあ,和尚♪さんに試奏してもらいましょうかあ!


  その先は…そこからまた考えます。


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