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南越1号(終)

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斗酒庵 ベトナム月琴に手を出す の巻南越1号(終)

STEP9 漢の塗装道

塗装中

  うおおおおおっ!!塗るんじゃーいッ!!!!!

  ――というほどのことではありませんが,まあいつもながらタイヘンな作業なので,ちょっと気合を。

  南越1号の下塗装は,これでまいります。


ベンガラ溶いて
塗って
拭いて
柿渋/油
色ニスかけて
仕上げにオイルニス
  早苗ちゃんの修理以来,庵主は「ベンガラ」という,ずっと使ってきた自然顔料をあらためて見直しています。

  ベンガラと砥粉と炭の粉,そして柿渋という,工房に常備されている素材で,さまざまな木の色――調合の割合でいくらでも微妙な色合いが作り出せるのですね。

  古代からの知恵ばんざい!古色付けばんざい!

  まずはベンガラを柿渋でよく溶きます。
  色合いを見ながら,混ぜるのはほんのすこしづつ。
  板切れか何かで,皿の底に押し付け,すり潰すようにしながら,完全に混ぜ合わせます。
  ちゃんと混ぜておかないと,塗ってる途中でダマがつぶれて,思わぬマーブルカラーになっちゃったりしますので,気をつけましょう(経験者,談)。

  ウサ琴ですんで,月琴の修理で使うよりはいくぶん赤めの調合です。

  木目や工作部を隠したいところのみ筆でベタ塗り,そうでない部分は布で擦り込み,なるべく薄く色付けをします。上から色ニスを塗るのが前提なので,ちょっと薄めの色でいいでしょう。
  乾いたら布でこすって余分を落とし,薄くなってしまったところは再度塗装します。

  けっこう何度もやりなおせるので,前回の染めとかにくらべると気がラクですね。

  だいたい具合が良くなったところで,全体に柿渋を塗布して固め,それが乾いたら,つぎに極少量の亜麻仁油をつけた布で,表面を磨いて落ち着かせます。乾性油が乾くまで一週間,できれば一ヶ月くらいは放置したいとこですね。

  中塗りは日本リノキシンさん謹製,ヴァイオリン用ヴァーニッシュのダークレッド。下地にすでに色が付いているので,3度も塗ればウサ琴カラー。

  トップコートは,同じくオイルヴァーニッシュ。
  紫外線硬化なので,天気のいい日を狙って作業をします。

  下地の塗装に柿渋を使ったので,オイルニスの硬化とともにこれも紫外線で発色して,色がちょうどよく濃くなりました。

  さらにこれも柿渋のおかげでしょうか。
  いつもより木地が締まって,固めの感触になってるような気がします。
  ただ,この下地と上面に塗ったニスの相性がどんなものなのか不明なので,そのへんには不安もないではありませんね。

  とまあ,書き並べてゆくと,大したことがないのですが。

  実際には塗装開始から終了まで,およそ2ヶ月近い日々が流れています。
  その間にも,古い資料を漁ったり,コウモリ月琴を改修したり,鶴寿堂の再修理が終わったり,彼氏月琴の調整があったり,10号菊芳の修理が始まったりと,色々なことがございました。



STEP10 S.K.T.(すーぱー小物たーいむ)!

新作軸
  さあて,この間に小物を作ります。

  最初に作ってやった軸は鶴寿堂のほうに回してしまったので,まずは再び軸削り。
  こんどはちょっと細身のスマートな軸にしました。
  オハグロベンガラで塗って黒軸に…なかなかかっこいいですね。


目摂1
目摂2
目摂3
目摂4
  つぎに目摂,もちろんこんなもの,ホンモノのベトナム月琴には付いてませんが,ウサ琴とのハイブリット楽器ですんで何としても付けたい。

  日本に音楽をくれた国の一つに「林邑」というのがあります。
  雅楽の「林邑八楽」のふるさとですね。
  これは現在のベトナムの古い王朝の一つなんですが,そこの伝説によれば,この国の最初の王様は,川で捕まえた二匹の魚が刀に化け,その刀を使って新しい国を切り開いたことになっています。
  その魚が何だったのか――「フナ」だとか「ハモ」だとか諸説あるようですが,「魚」で「王様」と言って分かりやすいので,とりあえず「鯉」に。

  そもそも,月琴の丸い胴体はお金(銭)に喩えられます。
  そこに「魚」が付くと 「魚銭」 となり,それは 「余銭(ユウチェン)」 と同音。
  「お金が余ってお目出度や!」という洒落となります。
  しかも二匹いるから 「双鯉」  「双利」 の近音,余ったお金が倍倍倍…

  朴の木の薄板を両面テープで二枚貼りあわせてざっと切り抜き,剥がすと左右対のお魚が出来上がります。
  両面に和紙を貼って,細工中の割れ止めをしておきましょう。
  ヤスリで削って,アートナイフで刻んで。こちらもオハグロベンガラで黒く塗装。

  庵主,海浜の出なので川魚に今ひとつ縁が薄く,「鯉」のつもりでデザインしているのに,何度描いても,なぜか 「シャケ」 になってしまいます。出身地のせいでしょうかねえ?
  今回の鯉も,庵主的にはまだどこかシャケっぽい気がするんですが,まあこれ以上どうにもなりませんや。


フレット塗装
  フレットも渋く塗装しときましょう。

  胴体に使ったのと同じベンガラを,ごく薄くさッと刷いて,柿渋とラックニスで止めました。

  うん,ちょっとなんだか古楽器っぽくなってきたぞ。



STEP11 完成!!

  軸の塗装の乾燥に思ったより時間がかかり,一週間ほど余分にとられてしまいましたが。
  最後に全体を軽く研磨して,鳥口,フレット,お飾りを取り付けて。

  2009年5月27日。

  ベトナム月琴とその古形である「丐彈雙韻(かいだんそういん)」,古代楽器「阮咸(げんかん)」,そして明清楽の月琴とウサ琴の詰め込みすぎハイブリット楽器 「南越1号」 ,完成です!

完成!


  記録を見返しますに,最初に棹を切り出し,製作をはじめたのは2007年4月のこと。

  その間,しょっちゅうクジけたり,何ヶ月も放置したまま忘れたりしていたので,べつだんコレにずっとかかりっきりだったわけではありませんが。

  ――2年ちょっとかかってるワケですね。

  ウサ琴の製作が月割り一本だったことを考えると,こりゃまさに「記録」だわ。

  * 去年までの一年ちょっとで13本。製作は4本同時のことが多い。でも「楽器」の製作ペースとしては,これもちょっと異常。




南越1号・音資料

南越1号全景

南越1号試奏中!

  庵主,正直ベトナム月琴の奏者ではないので,作ったはいいものの,この楽器をちゃんと使いこなせません。

  そこで今回の音は,受け取りに来た和尚♪さんに頼んで,試奏してもらったものです。
  bebung(弦を押し込んでかけるビブラート効果)の効きかたが,もーぜんぜん違います。高音域での音がまた,庵主がちょいと弾いてみたのたあ比べものにならないくらいいい!

  祝杯挙げながらの録音,かついつもより少なめですが,まあどうぞ。




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