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2009.10~ 明清楽の月琴(12号照葉)
第6回 月琴12号照葉 コモノノオウコク
実際はほとんど同時進行,ゴチャ混ぜ作業だったんですが。
いちおう順番どおり,11号のほうが先に片付きました。
さて,研究用に買い入れましたる自出し月琴12号。
1ト月以上経ってようやく, 「照葉(てるは)」 と名づけられました。
宅急便さんから受け取った時の感想が 「重っ!!!」 だった,てのは前にも書きましたが,庵主の現在のコンサーティナ「生葉(いくは)」と,同じくらい「重量級」の月琴です。「生葉」はおそらく唐木屋さん系の人の作らしく,数種類の檀木,鉄刀木,紅木紫檀,花梨,黒檀などをぜーたくに使った楽器でした。そのため,重い。たぶん中級クラスの月琴の,2倍以上はありましょう。
12号「照葉」の主材はおそらく「カヤ(榧)」。
唐木を主材にした「特上品」よりは1コ落ちますが,高級家具や特上の将棋盤にするくらいで,けして安価な材料ではありません。
そのカヤをぜーたくに使って,棹も太め,胴材もぶ厚く----そもそも棹が茎までムクなわけですから,ちょっと勿体無い,ってぐらいの木取りですね。同じくカヤを主材とした鶴寿堂でも,茎は継ぎでしたものね。
あちこち厚めなおかげか,棹も糸倉も胴体にも目立った損傷はなく,欠損部品も少ないほうですが。
----半月が,ナイ。
テールピースと言うか,ブリッジと言うか。琵琶では「覆手(ふくじゅ)」と言いますね。
弦楽器で,糸の片方を結び付ける部分が丸ごとないわけですから,楽器としてはけっこう「重症」と言えるかもしれません。
この半月,弦の力がかかるところですからね。ふつうは,まずカンタンには取れないよう,丁寧に,強固に接着されてしかるべき部品なのですが,古物では取れちゃってるのもけっこう見かけますし,前に修理した十六夜くんなんか,演奏中にぽーんとハガれて演者のおデコ,直撃したそうですから,そういうこともなきにしもあらず。
特上品ではないとはいえ,これだけの材の楽器です。
蓮頭と半月も,もとは黒檀とか紫檀だったかもしれませんが,資金難かつ工房の工具では歯が立ちませんので,ここは一丁,手馴れたカツラで作ろうと思い----そのかわり,意匠で思いっきり凝ってみますね。
まずは楽器の頭から。
「蓮頭」と呼ばれている割には,意匠が「コウモリ」さんになってたりするのをよく見かけますが。
今回は伝統的な蓮の花の意匠で作ってみました。
二日かけて彫り上げたやつを,沸かしたオハグロ液にブチ込んで染めます。
そして上から,カシューの紅溜で拭き漆風に仕上げると,ちょっと目には紅木紫檀あたりにも見えなくはない。
さて次にいよいよ「半月」,今回の修理のメインとまいります。
半月自体は無くなっちゃってるんですが,その接着痕と製作時のケガキ線が残ってますから,だいたいのカタチや大きさは分かります。これを半透明の用紙に写し,型紙を起こして,カツラの板を切り出します。
( ゚Д゚)ゴルァ!! (^▽^) ってとこかなあ。
平面的な形やサイズは分かるものの,立体的な形は不明です。
材質や作りから考えて,これは関西方面で作られた楽器だと思います。
しっかり調べたわけではないのですが,月琴の半月は,関東では平面,関西では曲面のほうが多いようです。
同じカヤ製の鶴寿堂なんかもそうでしたしね。
そこでまず,形はドラ○モンのポケットのような曲面構成で。
よくある意匠は,えーと……「蓮の花」ですね。
しまった,蓮頭を「ハス」にしちゃったんだっけ!
うむ,じゃあ,こちらは逆に蓮頭でよく使われる意匠 「コウモリ」 で行ってみましょう。
とはいえ,コウモリさんを一匹,ただ彫るんじゃ面白くはありませんね。もう少し,ひねってみましょう。
デザインに二日,彫るのに4時間。おまけに塗装に2週間。
なんかこれなら,黒檀のカタマリ彫った方が早かったですかねえ。
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蓮頭と同じく,オハグロで染めて,カシューで上塗りですが,蓮頭より若干ツヤ塗りにします。
最後の方で黒と紅溜を二三回ベタ塗りで重ね,研いで縞目を浮き出し,指板の黒檀に似せる----っと,お江戸の職人さん伝来の技法の応用です。ちょっと見たくらいで,これを「塗り」だと気づくような輩は,プロの骨董屋さんか美術品詐欺師です,ご注意を。(笑)
素材自体が柔らかいので,糸穴の補強を兼ねて,象牙の薄板を埋め込みました。その円盤には糸穴があきますので,これをむかしのお金「穴あき銭」に見立てます。
コウモリさんは二匹,左右からその穴あき銭を噛んでいる。
中国語で穴あき銭は「眼銭(イェンチェン)」,コウモリは「蝙蝠(ピェンフー)」。 「眼銭」は「目の前(眼前)」,「蝙蝠」は「福だらけ(遍福)」に通じます。これすなわち「眼前遍福(イェンチェンピェンフー)」という洒落になるわけです。
さらにコウモリさんとコウモリさんとの間に,小さな蓮花を添えました。
これでも一つ「福(コウモリ)縁(円)連(ハス)至(ずーっとシアワセ)」の出来上がり。 「宝珠」も抱えて目出度いなァ,と。
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月琴という楽器は,今でも中国では,吉祥の贈答品としても使われます。
そのためその意匠には本来,こうしたお目出度尽くしの洒落が多く含まれていたはずなのですが,日本で複製されるうち,また独自に製作されてゆくうちに,もとの意匠,もとの意味を失って,何だか分からなくなってしまったお飾りも少なくはありません。
さて,楽器の中心線上にある,この蓮頭と半月という二つの部品を凝りに凝って,彫りに彫りまくってしまったために……オリジナルのお飾りが,似合わなくなってしまいました。
まあ,もともとちょっとヒドい作りですからねえ。
一番目立つ目摂の菊なんか,「一つ目のデメ金」 みたいです。葉っぱの彫りもテキトウ。なんか全体に「ぐんにゃり」「げんなり」といった感があります。
扇飾りはまあ,こんなものでもいいんですが,やたらと角が取れてて,彫りが丸まっちい。
ここはもうちょっと,綾格子の窓みたいにシャープなほうが,庵主は好きです。
オリジナルがちゃんと残っているのにそれを使わないというのは,修理の本道からははずれますが。
今回は半月からして再製作。
音に関係のある部品が欠けてしまっているので,オリジナルの音はハナから分かりません。
早苗ちゃんほどではないけれど,修理楽器としては 「再生」 に近い。
ここは12号照葉ちゃんの,楽器としての新しい門出に「花」を添えてあげようと思います。
ぜいたくな材質と作りに合った,も少しマトモなお飾りを。
まあ,気に入らなければ,もとのお飾りに貼り換えてもらやイイですからね。
オリジナルと同じく,目摂は「菊」。
よくあるデザインは花を真横から見たというか…花びらがそっくりかえってるというか(→図参照)。
1号のように正面を向かせたものもないではありませんが,今回のは斜め正面,庵主のオリジナル角度です。
お飾りは朴の3ミリ板で作ります。
目摂の大きさに切った四角い板を二枚,両面テープで貼り合せ,表にコピーしたデザイン画,裏に割れ防止の和紙を貼って,透き貫くところにドリルで穴を開けたら,糸ノコで外側の輪郭をだいたいのところ切り出します。
そのあとはひたすらアートナイフ----刃先が何本逝ったやら。
彫り線をリューターでキレイにし,擦り板で裏を削いで,半分くらいの薄さにします。
左をまずあるていどこさえてしまってから,それを参考に右を彫る。
ふだんの修理ですと,目摂のオリジナルが残っていて,無くなってるどっちか一方だけを彫ることが多いんで,両方とも彫るってぇ機会はそうそうございません。まあ,けっきょくやりかたは同じですがね。
庵主はむかし篆刻(書道とかで使うハンコ,「落款」なんちゅう類のものを作るアレです)のけーけんがありますんで,左右反転仕事には慣れてますが,同時にこうして左右一対のものを作る時,「完全に同じにはしない」というのが鉄則であるというのも知っております。
人間の顔なんかもそうなんですが,右半分と左半分,同じように見えても実際にはけっこう違っています。
月琴という楽器も,胴体はまん丸で一見左右対称のように思えるのですが,実際には歪んでいたり,中心がわずかにズレていたりします。
月琴の「目」にあたるお飾りも,顔と同じようにわずかに違えたほうがいいのです。
…いえいえ,けっして。
「100%同じはムリだしぃ」とか,
「えー,メンドイぃー」とか,
そんなことァ,思ったこともありません!
…ありません……ってばよ。
目摂の次は扇飾り。
扇飾りでは,これと大同小異の意匠がかなり多く見られますね。
たぶんこれは帯が「まんじ」型にからまった「万帯(=万代)」という吉祥紋がもとだと思うのですが,ほとんどの場合,意味不明のただの唐草紋になっちゃってます。
これとフォルムがほとんど同じで,それをはっきり植物にしたり,流水にしたり,ヘビかナマズかウナギみたいな動物っぽくしちゃったりしている例もあります。唐渡り系の古い月琴では「喜」とか「寿」の字をくずした紋様になっていることがありますから,もともとちゃんとした意味のある吉祥紋だったことは間違いありません。
今回は,オリジナルのものを多少フクザツにした程度。
ぐにゃぐにゃ部分の角は落とさず,切り出した時のシャープなままにしておきます。
最後は中央の円飾り。
オリジナルは黒檀の板に「桃」を線刻しています。
桃自体が吉祥紋なのでそこはいいんですが,ほかのお飾り----左右の菊や扇飾りと,材質も違うし,彫りの手も違う(こっちのが若干上手い)。
さらにボンドで付けられてたこともありまして,これはもともと,ほかの楽器についていたものか,前修理時の後補部品だったかもしれません。彫りはまあ悪くないんですが,今回ほかのお飾りをぜんぶスケスケにしちまいましたので,付けるにはちょっと重たいですねえ。
さて,何を彫りましょう?
もと付いてた「桃」を敷衍して「三多」といきましょう。
「三多」----すなわちモモとザクロとブシュカン。
モモは汁が多い(多汁=多什=物持ち),ザクロは種が多い(多子=子だくさん),ブシュカンはなんだかわからないけど多い(多宝)。三つまとめて多いづくしで目出度いなァ,と,よく吉祥画などに使われます。
ザクロとブシュカンは,月琴の目摂の意匠としてもけっこう使われてますね。
元の円飾りを型にエンピツでなぞって,内側にだいたいの図柄を直接描きこみ,あとは彫りながら考えます。
やれほれ,それほれ,ここほれワンワン。
けっこうテキトウですが,まずまず,このあたりでヨロシイかと。
お飾り三種類,彫りあがりまでの所要時間はおよそ12時間。
音にはあまり関係のない部品ですが,小物作りはもともとキライではないですからねえ。
そこそこに,キアイ,入りました。
蓮頭,半月と同じくオハグロ染め。
色どめ程度にカシューを滲ませて,こちらのお飾り群は,比較的フラットな仕上げにします。
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オリジナルの糸巻きは棹・胴体と同材のカヤか,あるいはサクラくらいの硬さの木で出来ているようです。
黒っぽく見える表面は塗りですね。漆の溜塗りってとこでしょうか。
けっこう反り返りのある,ミカン溝のない型です。
最初,11号の軸のついでに,同じクルミでこさえたんですが…糸倉に少し負けてますね。
柔らか過ぎました。
色形は満足ゆける仕上がりになったんですが。
棹が柔らかいホオの木で出来てる11号と違い,もう少し硬い木のほうが良いようです。
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いつものスダジイでもう一本,作り直しました。
前作と同じように,オハグロで染めて,カシューの黒と紅溜でツヤ塗り。
ふう……今回は小物の紹介で終わっちゃいますが,ちゃんと楽器本体の修理もしてんですよ。
次回は,そのあたりを…でわでわ。
(つづく)
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2009.10~ 明清楽の月琴(11号柏葉堂)
第5回 月琴11号柏葉堂,修理完了!
さて,もともとこの楽器は,軸さえ作ってしまえば,ほとんどお終まいだったのを,庵主の不手際により,かえって余計な補修をするハメとなったもの---ばっきゃろーっ!オレ!
というわけで,あとは蓮頭と山口,フレット,それに絃停。
蓮頭のデザインは菊芳さんのものと同じ,ということは,うちのコウモリさんと同じ。
簡単な線刻だけの如意宝珠模様です。
なんか三回目くらいなので,ほとんど見ないで作っちゃいましたねえ。
山口は,前回菊芳さんのときに作っておいた予備のやつを使います。
ローズウッド+象牙の斗酒庵仕様。
先だってネオクで,これと同じようなのを付けた清楽月琴が出てましたが,これほとんど庵主のオリジナル工作ですからね。
カタマリで象牙を買う金もないし,そもそも硬いのでやりたくない。
かといって,檀木のカタマリ削っただけじゃ味気ないので,工夫してみたんですよ----まあ,黒と白がツーピースになって,何やらかっこいいし。
さあ,フレッティングです。
フレッティングの作業の前に,山口から半月までの高低差とか,棹の傾き具合とかを知りたくて調べたんですが,おかしなことに,測るたびに数値が違う。何度測っても,ヘンな誤差が出ます。
当初,30センチの曲尺で測ってたんですが,へんだな?---と,もう少し大きな定規を持ってきてみたところ。
この月琴の表面板が,軽く 「アーチトップ」 状態になっていることに気がつきました。
楽器の中心が,わずかばかり盛り上がってたわけですね。どうりで楽器の水平線が決まらないわけだ。
縁辺との高低差は最大で2ミリ,ほぼ均等で,360度一定してますから,おそらくは部材の収縮や,過去の修理で削られた結果,こうなったのではなく,製作者が最初からこうした,のだと思われます。
フレットは象牙,残存するオリジナル5本も,じゅうぶん使用可能な状態ですので,あとは棹上の三枚を作るだけ。
このくらいの材料の月琴だと,ニセ象牙,練り物のことも多いのですが,オリジナルもちゃんと本物の象牙ですね。
浅草橋あたりで買い込んだ,象牙のカケラを切り出し,削り出し----あいかわらず,硬いなあ。
カタチにするのは早いが,そのあとが大変な竹製フレットとは逆で,象牙や檀木のフレットは,カタチにするまでがちょっと大変ですが,仕上げはラク。
軽く磨けばピッカピカですからねえ。
山口を着け,外弦を張り。
ニカワ鍋をあたためて,楽器のわきに空砥ぎペーパーを貼った擦り板を置いて,フレッティング開始!
クルミの軸,やはり柔らかいですねえ。
最下の一本なぞ,ただでさえ軸先が細いので,無理に回すとなんかネジ切れてしまいそうですよ。
軸穴の修理は今回も上手くいったようで,現在までのところ,張りっぱなしにしていても,ヒビ等再発せにずいますが,もともと糸倉全体が華奢ですし,この軸ですから。ほかの月琴よりもチューニング時には,多少気をつけてあげないとなりませんね。
フレット位置は,ほぼオリジナルの目当て,接着痕どおり。
西洋音階のほうに近くなってますね。
はずしたお飾りをもどし,新たに作った蓮頭と,絃停を貼ります。
今回の絃停の模様は「荒磯」。
古裂の名物模様の一つなんですが,「磯」って…これお魚,コイですよねえ。
いつもの紺地の花唐草とどっちにしようか,ちょいと悩んだんですが,華奢で繊細な感じの楽器には,逆にこれくらい大ぶりな柄のほうが似合うみたいですね。
中国語でおサカナは「魚(ユ)」で「余裕」の「余」に通じるとて,お目出度い意匠によく使われます。
この楽器のフォルムには,カミソリのような,ちょっと 「余裕のない鋭敏さ」 みたいなものも感じられるので,「余裕のお魚」,こいつは悪くない,と思います。
最後に,棹と胴体側部をたんねんに磨いて,2009年12月9日,自出し月琴11号・柏葉堂,修理完了です!
修理後所感
今回は少し辛口ですヨ。
11号柏葉堂,「巧い楽器」 なんですが,正直なところ 「良い楽器」 である,とは言えません。
楽器としてはやっぱり,中の上,くらいですね。
いえ,けっして。そんな…コワしちゃったから,誤魔化すのにケナしてんじゃないですよ。
音も姿も,美しい楽器です。
音量は出ないけれども,やや硬質な,澄んだ響きで,ガラスの玉がコロコロと転がるような明るい音色。
まさしく「玲瓏」----月琴という楽器の音としてはふさわしい音色が出ます。
「月琴」としては十二分ですが,楽器としては 「のびしろ」 の無さが多少感じられます。
前回の菊芳さんは職人として,12の実力のうち,8出せば,10までにはなる楽器を作れるウデがありました。 しっかり手抜きもしてますが,中級クラスのモノでも,手を入れると,ちょっと驚くくらい,良く鳴る楽器に育ちます。
柏葉堂さんは,工作の手抜きもきわめて少なく,作業は丁寧で,その技術レベルもけして低くはありません。
技術自体は高い---しかし,極限に細い糸倉,わずかにアーチになった表面板----いづれも独創的で高度で,それなりに意味も考えられますが,それが現実に活かされるところまで,すなわち,楽器としての操作性や音に反映されるところまでには到っていません。
そのため,10の力で出来上がった10のモノも,「楽器」としてみると,6か7あたりに落ち着いちゃうのですね。 しかも,もともと独創的かつ精巧に----ギリギリのところで作られているため,これ以上,手の入れようがありません。
「巧い楽器」,でも「のびしろ」がない,と評するが由縁であります。
コンサート楽器にはちょっと足りませんが,個人で楽しむ室内楽器としてはこれでじゅうぶん----むしろ最上クラスでしょう。
まあ庵主は,落としても踏んでもコワれないような丈夫なモノ,精密な特殊工具よりはナタとかマサカリみたいな楽器が好きなんで,評価は低いですが,ガラス細工のような,カミソリのような,繊細な楽器がお好みの方には,ちょっと堪らないかもしれませんねえ。
さて,次からはカヤ材の重量級月琴12号。
到着以来ずっと「名無し」の楽器でしたが,このたび,ようやく「照葉」と銘名されました。
やれやれ。どこまで続くか,この年末修理地獄よ~。
るるら~。
11月琴柏葉堂・音源
1.開放弦(21kb)
2.音階(1)(39kb)
3.音階(2)(55kb) 低音弦/高音弦それぞれ
4.如意串(92kb)
5.久聞曲(136kb)
6.きらきら星(228kb)
(つづく)
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2009.10~ 明清楽の月琴(11号柏葉堂)
第3回 壊しもンのブルース
やっちゃいました。
11号柏葉堂の修理,裏板の状態以外は心配もなく,メインの作業は,なくなっちゃってる軸の再製作。
こんなもン,かるいかるーいッ!ぬるーいぬるいッ!---と,作業開始。
はじめに作った軸の材料は,このところ定番のスダジイ。
ちょうどウサ琴5の製作と重なっていたので,同じものを流用。嫌な四面落しも終わり,やれやれ。
さて,あとは合わせながら仕上げていこう,と,軸先を削り,軸穴に挿しては調整,挿しては調整していたら…
ばきっ。
---えっ!?
…………糸倉が,
………………割れ,ました。
…故意じゃなく,直そうとして壊しちゃったのは,ハジメテのこと。
落ち込んで,二ヶ月ばかり何も出来ませんでしたね。
弦楽器の糸巻き,軸はふつう,黒檀とかツゲとか,重く,硬い木で作られるのがふつうです。
しかし,今までも4号月琴や早苗ちゃんのように,およそそうした硬木とはほど遠い,柔らかめの,軽い,正体不明の木材で作られていることが多々ありました。
あらためて考えてみますと。
これは中級・普及品月琴では棹・糸倉自体が,ホオとかクリとか,およそ「硬い」とは言えない素材で作られているためだったんですね。
柔らかい材質で出来た糸倉に,あまり硬い軸を挿すと,噛み付きは良いかもしれませんが,使っているうちに軸穴が広がったり,こうして割れちゃったりする可能性があるわけだ。
気がついておくべきでした。
「いや,これはやっぱ硬い方がいいだろう。」 ってな感じで,何も考えずに作業をしてました。
修理人失格…orz.....ちょっと旅に出てまいります………実家に。
と,まあ,落ち込んでばかりもいられません。
これも一夏の経験(立ち直り,早いなー),再起を期しての全力修理----
責任はとりましょう。
まずは糸倉の修繕。
いつものとおり,ヒビたところに薄く溶いたニカワを流し込み,ヒビ全体にまんべんなく行き渡らせて固定。
乾いたところで,竹クギを何本か打ち込み,浅いミゾを彫り回して,ニカワを塗り,籐で巻きしめます。
籐がまだ少し湿っているうちに,焼き鏝で均し,一晩乾燥。
木粉パテで細かな隙間をうめてから,ペーパーをかけ,籐を糸倉の面とほぼ同じく平らにします。
このとき,角の部分をあまり削り過ぎないように。
せっかく巻いた籐が,切れてしまっては意味がありませんから。
第一回・所見のところでも書きましたが,この「柏葉堂」の糸倉は実に華奢な作りで,そこがまた美しかったんですが,これがまたこの楽器の弱点であったようです。
そういえば,以前ネオクで出た,同所製のほかの楽器(→)の糸倉も,ちょうど今回と同じようなところが割れてました。
過去からの警告----このあたりも,もっとちゃんと留意しておくべきでしたね。
さて,ではふたたび,軸を削りましょう。
やわらか軸材には,古例にのっとり,「クルミ」を用意させていただきました。
いや,切りやすいね,削りやすいね。
----スダジイにくらべると。いや,くらべもンになりません。
サクサクサク,しゃりしゃりしゃり,ほんと,ちゃんと糸巻きになるのかなあ,使い物になるのかなあ,といった感触です。
しかし「菊芳(4)」で書いたとおり,「桜の棹に胡桃の糸巻き」といった楽器が作られていたのは事実ですしね。そうそう,4号月琴に付いてた「正体不明の軸」も,同じくクルミだったと思われます。
持ってみた感じや,木目が同じですね。
今度は慎重に…軸先の調整で抜き差しするときも,糸倉の側面を指で支えて,気をつけながら…ひぃひぃ,ふぅふぅ。
----四本,出来上がりました。
上の写真の楽器の例をもとに,六角形ラッパ型,ミカン溝付きに仕上げます。
白っぽい木地を,ヤシャブシで染め,亜麻仁油で軽く拭いて乾燥,日本リノキシンさんのオイルニスで,ナチュラルカラーっぽく仕上げます。
いや,それにしてもこの作者は何を考えているんでしょうねえ。
庵主,軸と糸倉はきっちり合っていて欲しいので,順繰り,軸穴に合わせながら一本一本削っていったのですが。
見てください,この軸先。
太さが見事にバラバラです。
ふつう,軸穴の加工は,どの穴も同じ,一つの穴あけ道具,たとえばハンド・リーマーのようなものを使ってやると思いますので,多少の差はあれど,寸法はどの穴でもだいたい同じになるはずなんですが,単に太さだけではなく,軸先のすぼまる割合----「テーバー」すらも異なるとはどういうことだ?
ここまでバラバラですと,逆にどんなふうな道具を使って,どんなふうに穴あけをしたのか…ギモンです。
作業で棹や糸倉を眺めているうちに気がついたのですが----お飾りがちょっと立派なことを除くと,この楽器の全体的なフォルムは,以前修理した4号月琴のそれに,よく似ていますねえ。
特に双方特徴的なのが,コンパクトで華奢な作りの,この糸倉です。
11号には指板があり,また角度やアールの深さは違うのですが,糸倉の根元のすぼまりや,うなじへの処理の仕方がきわめて近い。
上三枚が4号,下三枚が修理中の11号。
4号の修理当時は,(修理技術のほうもですが)今よりも撮影技術が劣っていたので,細部に関してはいまひとつ碌な写真が残ってないんですが,4号月琴の棹基部の写真にも花押のような文字が書かれていました。
書かれている位置が,棹の表と裏の違いはありますが,これ11号の墨書に似てなくもありませんね。

また4号裏板に残っていた縦長のラベル痕も,ちょうど11号の「柏葉堂製造」のそれとほぼ同じ大きさで,しかも同じくらいの位置にありますね。
そのほかにも,桁の音孔が笹型,棹茎の材質と形状,など,その気で見ると共通点が多く出てきます。
ただし,記憶にある4号のものとは加工技術,「手」が多少違っているように感じるので,「同じ作者」とまでは言えないのですが,この二面の月琴はかなり近い系列の楽器であったかと思われます。
確たる証拠はまだないので,とりあえず,邪推。
(つづく)
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