11号柏葉堂/12号まだ名は無い(3)
![]() 第3回 壊しもンのブルース やっちゃいました。 11号柏葉堂の修理,裏板の状態以外は心配もなく,メインの作業は,なくなっちゃってる軸の再製作。 こんなもン,かるいかるーいッ!ぬるーいぬるいッ!---と,作業開始。 はじめに作った軸の材料は,このところ定番のスダジイ。 ちょうどウサ琴5の製作と重なっていたので,同じものを流用。嫌な四面落しも終わり,やれやれ。 さて,あとは合わせながら仕上げていこう,と,軸先を削り,軸穴に挿しては調整,挿しては調整していたら…
ばきっ。
---えっ!? …………糸倉が, ………………割れ,ました。 …故意じゃなく,直そうとして壊しちゃったのは,ハジメテのこと。 落ち込んで,二ヶ月ばかり何も出来ませんでしたね。 弦楽器の糸巻き,軸はふつう,黒檀とかツゲとか,重く,硬い木で作られるのがふつうです。 しかし,今までも4号月琴や早苗ちゃんのように,およそそうした硬木とはほど遠い,柔らかめの,軽い,正体不明の木材で作られていることが多々ありました。 あらためて考えてみますと。 これは中級・普及品月琴では棹・糸倉自体が,ホオとかクリとか,およそ「硬い」とは言えない素材で作られているためだったんですね。 柔らかい材質で出来た糸倉に,あまり硬い軸を挿すと,噛み付きは良いかもしれませんが,使っているうちに軸穴が広がったり,こうして割れちゃったりする可能性があるわけだ。 気がついておくべきでした。 「いや,これはやっぱ硬い方がいいだろう。」 ってな感じで,何も考えずに作業をしてました。 修理人失格…orz.....ちょっと旅に出てまいります………実家に。 と,まあ,落ち込んでばかりもいられません。 これも一夏の経験(立ち直り,早いなー),再起を期しての全力修理---- 責任はとりましょう。 まずは糸倉の修繕。 いつものとおり,ヒビたところに薄く溶いたニカワを流し込み,ヒビ全体にまんべんなく行き渡らせて固定。 乾いたところで,竹クギを何本か打ち込み,浅いミゾを彫り回して,ニカワを塗り,籐で巻きしめます。 籐がまだ少し湿っているうちに,焼き鏝で均し,一晩乾燥。 木粉パテで細かな隙間をうめてから,ペーパーをかけ,籐を糸倉の面とほぼ同じく平らにします。 このとき,角の部分をあまり削り過ぎないように。 せっかく巻いた籐が,切れてしまっては意味がありませんから。 第一回・所見のところでも書きましたが,この「柏葉堂」の糸倉は実に華奢な作りで,そこがまた美しかったんですが,これがまたこの楽器の弱点であったようです。 そういえば,以前ネオクで出た,同所製のほかの楽器(→)の糸倉も,ちょうど今回と同じようなところが割れてました。 過去からの警告----このあたりも,もっとちゃんと留意しておくべきでしたね。 さて,ではふたたび,軸を削りましょう。 やわらか軸材には,古例にのっとり,「クルミ」を用意させていただきました。 いや,切りやすいね,削りやすいね。 ----スダジイにくらべると。いや,くらべもンになりません。 サクサクサク,しゃりしゃりしゃり,ほんと,ちゃんと糸巻きになるのかなあ,使い物になるのかなあ,といった感触です。 しかし「菊芳(4)」で書いたとおり,「桜の棹に胡桃の糸巻き」といった楽器が作られていたのは事実ですしね。そうそう,4号月琴に付いてた「正体不明の軸」も,同じくクルミだったと思われます。 持ってみた感じや,木目が同じですね。 今度は慎重に…軸先の調整で抜き差しするときも,糸倉の側面を指で支えて,気をつけながら…ひぃひぃ,ふぅふぅ。 ----四本,出来上がりました。 上の写真の楽器の例をもとに,六角形ラッパ型,ミカン溝付きに仕上げます。 白っぽい木地を,ヤシャブシで染め,亜麻仁油で軽く拭いて乾燥,日本リノキシンさんのオイルニスで,ナチュラルカラーっぽく仕上げます。 いや,それにしてもこの作者は何を考えているんでしょうねえ。 庵主,軸と糸倉はきっちり合っていて欲しいので,順繰り,軸穴に合わせながら一本一本削っていったのですが。 見てください,この軸先。 太さが見事にバラバラです。 ふつう,軸穴の加工は,どの穴も同じ,一つの穴あけ道具,たとえばハンド・リーマーのようなものを使ってやると思いますので,多少の差はあれど,寸法はどの穴でもだいたい同じになるはずなんですが,単に太さだけではなく,軸先のすぼまる割合----「テーバー」すらも異なるとはどういうことだ? ここまでバラバラですと,逆にどんなふうな道具を使って,どんなふうに穴あけをしたのか…ギモンです。 作業で棹や糸倉を眺めているうちに気がついたのですが----お飾りがちょっと立派なことを除くと,この楽器の全体的なフォルムは,以前修理した4号月琴のそれに,よく似ていますねえ。 特に双方特徴的なのが,コンパクトで華奢な作りの,この糸倉です。 11号には指板があり,また角度やアールの深さは違うのですが,糸倉の根元のすぼまりや,うなじへの処理の仕方がきわめて近い。 上三枚が4号,下三枚が修理中の11号。 4号の修理当時は,(修理技術のほうもですが)今よりも撮影技術が劣っていたので,細部に関してはいまひとつ碌な写真が残ってないんですが,4号月琴の棹基部の写真にも花押のような文字が書かれていました。 書かれている位置が,棹の表と裏の違いはありますが,これ11号の墨書に似てなくもありませんね。 ![]() また4号裏板に残っていた縦長のラベル痕も,ちょうど11号の「柏葉堂製造」のそれとほぼ同じ大きさで,しかも同じくらいの位置にありますね。 そのほかにも,桁の音孔が笹型,棹茎の材質と形状,など,その気で見ると共通点が多く出てきます。 ただし,記憶にある4号のものとは加工技術,「手」が多少違っているように感じるので,「同じ作者」とまでは言えないのですが,この二面の月琴はかなり近い系列の楽器であったかと思われます。 確たる証拠はまだないので,とりあえず,邪推。 (つづく)
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