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11号柏葉堂/12号まだ名は無い(3)

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斗酒庵 2面同時に月琴を直す の巻(3)2009.10~ 明清楽の月琴(11号柏葉堂)

第3回 壊しもンのブルース

11号糸倉破損!
  やっちゃいました。

  11号柏葉堂の修理,裏板の状態以外は心配もなく,メインの作業は,なくなっちゃってる軸の再製作。
  こんなもン,かるいかるーいッ!ぬるーいぬるいッ!---と,作業開始。
  はじめに作った軸の材料は,このところ定番のスダジイ。
  ちょうどウサ琴5の製作と重なっていたので,同じものを流用。嫌な四面落しも終わり,やれやれ。
  さて,あとは合わせながら仕上げていこう,と,軸先を削り,軸穴に挿しては調整,挿しては調整していたら…

  ばきっ。

  ---えっ!?
  …………糸倉が,
  ………………割れ,ました。


  …故意じゃなく,直そうとして壊しちゃったのは,ハジメテのこと。
  落ち込んで,二ヶ月ばかり何も出来ませんでしたね。


  弦楽器の糸巻き,軸はふつう,黒檀とかツゲとか,重く,硬い木で作られるのがふつうです。

  しかし,今までも4号月琴や早苗ちゃんのように,およそそうした硬木とはほど遠い,柔らかめの,軽い,正体不明の木材で作られていることが多々ありました。

  あらためて考えてみますと。

  これは中級・普及品月琴では棹・糸倉自体が,ホオとかクリとか,およそ「硬い」とは言えない素材で作られているためだったんですね。

  柔らかい材質で出来た糸倉に,あまり硬い軸を挿すと,噛み付きは良いかもしれませんが,使っているうちに軸穴が広がったり,こうして割れちゃったりする可能性があるわけだ。

  気がついておくべきでした。

  「いや,これはやっぱ硬い方がいいだろう。」 ってな感じで,何も考えずに作業をしてました。

  修理人失格…orz.....ちょっと旅に出てまいります………実家に。


  と,まあ,落ち込んでばかりもいられません。
  これも一夏の経験(立ち直り,早いなー),再起を期しての全力修理----
  責任はとりましょう。


  まずは糸倉の修繕。
  いつものとおり,ヒビたところに薄く溶いたニカワを流し込み,ヒビ全体にまんべんなく行き渡らせて固定。
  乾いたところで,竹クギを何本か打ち込み,浅いミゾを彫り回して,ニカワを塗り,籐で巻きしめます。

糸倉修理(1)ニカワ接着 糸倉修理(2)竹釘打ち 糸倉修理(3)ミゾを刻む
糸倉修理(4)籐を巻く 糸倉修理(5)パテ盛り 糸倉修理(6)整形後

  籐がまだ少し湿っているうちに,焼き鏝で均し,一晩乾燥。
  木粉パテで細かな隙間をうめてから,ペーパーをかけ,籐を糸倉の面とほぼ同じく平らにします。
  このとき,角の部分をあまり削り過ぎないように。
  せっかく巻いた籐が,切れてしまっては意味がありませんから。

柏葉堂の月琴(ネオクに出た例)
  第一回・所見のところでも書きましたが,この「柏葉堂」の糸倉は実に華奢な作りで,そこがまた美しかったんですが,これがまたこの楽器の弱点であったようです。

  そういえば,以前ネオクで出た,同所製のほかの楽器(→)の糸倉も,ちょうど今回と同じようなところが割れてました。

  過去からの警告----このあたりも,もっとちゃんと留意しておくべきでしたね。


軸素体(クルミ)
  さて,ではふたたび,軸を削りましょう。

  やわらか軸材には,古例にのっとり,「クルミ」を用意させていただきました。

  いや,切りやすいね,削りやすいね。

  ----スダジイにくらべると。いや,くらべもンになりません。

  サクサクサク,しゃりしゃりしゃり,ほんと,ちゃんと糸巻きになるのかなあ,使い物になるのかなあ,といった感触です。

  しかし「菊芳(4)」で書いたとおり,「桜の棹に胡桃の糸巻き」といった楽器が作られていたのは事実ですしね。そうそう,4号月琴に付いてた「正体不明の軸」も,同じくクルミだったと思われます。
  持ってみた感じや,木目が同じですね。

  今度は慎重に…軸先の調整で抜き差しするときも,糸倉の側面を指で支えて,気をつけながら…ひぃひぃ,ふぅふぅ。
  ----四本,出来上がりました。

  上の写真の楽器の例をもとに,六角形ラッパ型,ミカン溝付きに仕上げます。

軸仕上げ(1)真ん中にしるし 軸仕上げ(2)細い角ヤスリで当り線を引く 軸仕上げ(3)両刃ヤスリで深く刻む


軸染め後
  白っぽい木地を,ヤシャブシで染め,亜麻仁油で軽く拭いて乾燥,日本リノキシンさんのオイルニスで,ナチュラルカラーっぽく仕上げます。

  いや,それにしてもこの作者は何を考えているんでしょうねえ。

  庵主,軸と糸倉はきっちり合っていて欲しいので,順繰り,軸穴に合わせながら一本一本削っていったのですが。

軸先比較
  見てください,この軸先。
  太さが見事にバラバラです。

  ふつう,軸穴の加工は,どの穴も同じ,一つの穴あけ道具,たとえばハンド・リーマーのようなものを使ってやると思いますので,多少の差はあれど,寸法はどの穴でもだいたい同じになるはずなんですが,単に太さだけではなく,軸先のすぼまる割合----「テーバー」すらも異なるとはどういうことだ?

  ここまでバラバラですと,逆にどんなふうな道具を使って,どんなふうに穴あけをしたのか…ギモンです。




  作業で棹や糸倉を眺めているうちに気がついたのですが----お飾りがちょっと立派なことを除くと,この楽器の全体的なフォルムは,以前修理した4号月琴のそれに,よく似ていますねえ。

  特に双方特徴的なのが,コンパクトで華奢な作りの,この糸倉です。
  11号には指板があり,また角度やアールの深さは違うのですが,糸倉の根元のすぼまりや,うなじへの処理の仕方がきわめて近い。
  上三枚が4号,下三枚が修理中の11号。

4号糸倉(1) 4号糸倉(2) 4号糸倉(3)
11号糸倉(1) 11号糸倉(2) 11号糸倉(3)

  4号の修理当時は,(修理技術のほうもですが)今よりも撮影技術が劣っていたので,細部に関してはいまひとつ碌な写真が残ってないんですが,4号月琴の棹基部の写真にも花押のような文字が書かれていました。
  書かれている位置が,棹の表と裏の違いはありますが,これ11号の墨書に似てなくもありませんね。

4号花押 11号署名

  また4号裏板に残っていた縦長のラベル痕も,ちょうど11号の「柏葉堂製造」のそれとほぼ同じ大きさで,しかも同じくらいの位置にありますね。

4号ラベル痕 11号ラベル

  そのほかにも,桁の音孔が笹型,棹茎の材質と形状,など,その気で見ると共通点が多く出てきます。
  ただし,記憶にある4号のものとは加工技術,「手」が多少違っているように感じるので,「同じ作者」とまでは言えないのですが,この二面の月琴はかなり近い系列の楽器であったかと思われます。

  確たる証拠はまだないので,とりあえず,邪推。


(つづく)


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