11号柏葉堂/12号照葉(5)
![]() 第5回 月琴11号柏葉堂,修理完了! さて,もともとこの楽器は,軸さえ作ってしまえば,ほとんどお終まいだったのを,庵主の不手際により,かえって余計な補修をするハメとなったもの---ばっきゃろーっ!オレ! というわけで,あとは蓮頭と山口,フレット,それに絃停。 蓮頭のデザインは菊芳さんのものと同じ,ということは,うちのコウモリさんと同じ。 簡単な線刻だけの如意宝珠模様です。 なんか三回目くらいなので,ほとんど見ないで作っちゃいましたねえ。 山口は,前回菊芳さんのときに作っておいた予備のやつを使います。 ローズウッド+象牙の斗酒庵仕様。 先だってネオクで,これと同じようなのを付けた清楽月琴が出てましたが,これほとんど庵主のオリジナル工作ですからね。 カタマリで象牙を買う金もないし,そもそも硬いのでやりたくない。 かといって,檀木のカタマリ削っただけじゃ味気ないので,工夫してみたんですよ----まあ,黒と白がツーピースになって,何やらかっこいいし。 さあ,フレッティングです。 フレッティングの作業の前に,山口から半月までの高低差とか,棹の傾き具合とかを知りたくて調べたんですが,おかしなことに,測るたびに数値が違う。何度測っても,ヘンな誤差が出ます。 当初,30センチの曲尺で測ってたんですが,へんだな?---と,もう少し大きな定規を持ってきてみたところ。 この月琴の表面板が,軽く 「アーチトップ」 状態になっていることに気がつきました。 楽器の中心が,わずかばかり盛り上がってたわけですね。どうりで楽器の水平線が決まらないわけだ。 縁辺との高低差は最大で2ミリ,ほぼ均等で,360度一定してますから,おそらくは部材の収縮や,過去の修理で削られた結果,こうなったのではなく,製作者が最初からこうした,のだと思われます。 フレットは象牙,残存するオリジナル5本も,じゅうぶん使用可能な状態ですので,あとは棹上の三枚を作るだけ。 このくらいの材料の月琴だと,ニセ象牙,練り物のことも多いのですが,オリジナルもちゃんと本物の象牙ですね。 浅草橋あたりで買い込んだ,象牙のカケラを切り出し,削り出し----あいかわらず,硬いなあ。 カタチにするのは早いが,そのあとが大変な竹製フレットとは逆で,象牙や檀木のフレットは,カタチにするまでがちょっと大変ですが,仕上げはラク。 軽く磨けばピッカピカですからねえ。 山口を着け,外弦を張り。 ニカワ鍋をあたためて,楽器のわきに空砥ぎペーパーを貼った擦り板を置いて,フレッティング開始! クルミの軸,やはり柔らかいですねえ。 最下の一本なぞ,ただでさえ軸先が細いので,無理に回すとなんかネジ切れてしまいそうですよ。 軸穴の修理は今回も上手くいったようで,現在までのところ,張りっぱなしにしていても,ヒビ等再発せにずいますが,もともと糸倉全体が華奢ですし,この軸ですから。ほかの月琴よりもチューニング時には,多少気をつけてあげないとなりませんね。 フレット位置は,ほぼオリジナルの目当て,接着痕どおり。 西洋音階のほうに近くなってますね。 はずしたお飾りをもどし,新たに作った蓮頭と,絃停を貼ります。 今回の絃停の模様は「荒磯」。 古裂の名物模様の一つなんですが,「磯」って…これお魚,コイですよねえ。 いつもの紺地の花唐草とどっちにしようか,ちょいと悩んだんですが,華奢で繊細な感じの楽器には,逆にこれくらい大ぶりな柄のほうが似合うみたいですね。 中国語でおサカナは「魚(ユ)」で「余裕」の「余」に通じるとて,お目出度い意匠によく使われます。 この楽器のフォルムには,カミソリのような,ちょっと 「余裕のない鋭敏さ」 みたいなものも感じられるので,「余裕のお魚」,こいつは悪くない,と思います。 最後に,棹と胴体側部をたんねんに磨いて,2009年12月9日,自出し月琴11号・柏葉堂,修理完了です! 修理後所感 今回は少し辛口ですヨ。 11号柏葉堂,「巧い楽器」 なんですが,正直なところ 「良い楽器」 である,とは言えません。 楽器としてはやっぱり,中の上,くらいですね。 いえ,けっして。そんな…コワしちゃったから,誤魔化すのにケナしてんじゃないですよ。 音も姿も,美しい楽器です。 音量は出ないけれども,やや硬質な,澄んだ響きで,ガラスの玉がコロコロと転がるような明るい音色。 まさしく「玲瓏」----月琴という楽器の音としてはふさわしい音色が出ます。 「月琴」としては十二分ですが,楽器としては 「のびしろ」 の無さが多少感じられます。 前回の菊芳さんは職人として,12の実力のうち,8出せば,10までにはなる楽器を作れるウデがありました。 しっかり手抜きもしてますが,中級クラスのモノでも,手を入れると,ちょっと驚くくらい,良く鳴る楽器に育ちます。 柏葉堂さんは,工作の手抜きもきわめて少なく,作業は丁寧で,その技術レベルもけして低くはありません。 技術自体は高い---しかし,極限に細い糸倉,わずかにアーチになった表面板----いづれも独創的で高度で,それなりに意味も考えられますが,それが現実に活かされるところまで,すなわち,楽器としての操作性や音に反映されるところまでには到っていません。 そのため,10の力で出来上がった10のモノも,「楽器」としてみると,6か7あたりに落ち着いちゃうのですね。 しかも,もともと独創的かつ精巧に----ギリギリのところで作られているため,これ以上,手の入れようがありません。 「巧い楽器」,でも「のびしろ」がない,と評するが由縁であります。 コンサート楽器にはちょっと足りませんが,個人で楽しむ室内楽器としてはこれでじゅうぶん----むしろ最上クラスでしょう。 まあ庵主は,落としても踏んでもコワれないような丈夫なモノ,精密な特殊工具よりはナタとかマサカリみたいな楽器が好きなんで,評価は低いですが,ガラス細工のような,カミソリのような,繊細な楽器がお好みの方には,ちょっと堪らないかもしれませんねえ。 さて,次からはカヤ材の重量級月琴12号。 到着以来ずっと「名無し」の楽器でしたが,このたび,ようやく「照葉」と銘名されました。 やれやれ。どこまで続くか,この年末修理地獄よ~。 るるら~。 11月琴柏葉堂・音源 1.開放弦(21kb) 2.音階(1)(39kb) 3.音階(2)(55kb) 低音弦/高音弦それぞれ 4.如意串(92kb) 5.久聞曲(136kb) 6.きらきら星(228kb) (つづく)
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