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15号三耗(6)

G15_06.txt
斗酒庵 ようやく本領発揮 の巻(6)2009.12~ 明清楽の月琴(15号三耗 さんはお)

第6回 しうりかんりよう

一度完成
  さて,数晩置いて,半月も無事にくっつきました。
  出来上がった山口も貼り付け,開放弦での試験も終了----少なくとも弦を張った途端に半月が跳ぶようなことはございませんでした。

  ではフレッティングを開始いたしましょう。

  フレットは竹製。
  オリジナルのフレットが赤っぽい煤竹製でしたので,はじめは表皮部分にベンガラを塗って似せてみたのですが,これを棹の上にのせてみると,棹の色も似たようなものなのでやたらとクドく見えてしまい。けっきょく塗りをぜんぶひっぺがして,ただの竹フレットに戻しました。
  ついでに表皮部分を少し平らに削って,いつもの「斗酒庵式フレット」(ブログ記事参照)にしてしまいます。

  古風な楽器なので,皮を残した清楽月琴式よりは,14号のような中国式フレットに近い方が似合いそうですしね。こちらには柿渋を染ませ,ラックニスを塗って保護します。

フレット(1) フレット(2)
  いつもなら,チューナーでより正確な位置を探りながら,フレットの位置を決めてゆくのですが,今回はまず,お飾りもフレットも 「オリジナルの位置」 に貼って,いちど完成させてしまいます。

  今回の修理の目的の一つがこれ。
  この古いタイプの月琴の,正確な音階が知りたい。

  明治後半,清楽月琴が日本風に進化した後の楽器の音階については,乙女ちゃん(「N氏の月琴」)のときにも調べたことがありますが,15号のような古いタイプははたしてどうなっているのか,興味があります。

  清楽月琴も明治の遅くなってから作られたものになると,フレットの並びもより西洋音階に近づいてきます。
  これは西洋音楽やその理論の普及の影響もあったでしょうが,楽器の製作者のほうでも,山田縫三郎のように,ヴァイオリンなど西洋楽器まで手がける者が多くなったことがその一因と考えられます。
  全体の工作等から見て,15号は製作者がそうした影響を大きく受ける以前の楽器と考えられますので,そのオリジナルの音階は,少なくとも当時の清楽で「まあいいんじゃないか」という範囲内のものであったはずです。

  清楽月琴の音階は,西洋音階に合わせた場合だいたい---

  高音:G(開放弦)A B C D E G A C
  低音:C(開放弦)D E F G A C D F

  という並びになっております。

  さてでは15号の音階は---

  高音:G(開放弦)A+6 B-40 C+14 D+12 E+20 G#-32 Bb-20 C#-26
  低音:C(開放弦)D+9 E-34 F+18 G+18 A+34 C#-29 Eb-26 F#-17

  クロマチックチューナーで開放音C/Gを4C/4Gで張り,測定時の誤差は±5%といったあたりになります。

一度完成(2)
  第2フレットの音が低いのは,だいたいどの楽器でも同じですが,これは三味線など日本の楽器でよく使われていた音階で,べつだん清楽月琴の特徴,というわけではありません。むかしのお三味とかに慣れてる,と自然こうなっちゃうわけですわ。

  このあたりまではまだいいんですが。
  またさらに,あまり使われない高音部がテキトウなのもいつものことなんですが。

  今回のこの測定で確信しましたね。

  この当時の月琴職人さんたちは,おそらくは基音楽器(清楽の場合は笛)に合わせるとか,排簫のような調子笛の音に合わせるとかいう行為どころか,実際に弦をはじき,おさえながら位置を探るようなことさえしてないようです。
  乙女ちゃんの時にも少しそう考えていたのですが----どうやら「第何番目は何寸何分」みたいな寸法的なきまりがあって,それに合わせてフレットをただ並べていたんだと思いますね。

  たとえばそれは,Eの低音と高音が対応してないとこなどからみても分かりますし,また音のブレ方が全体に不自然,というか法則性がないことからも言えましょうか。

  しかしながら。
  ギターやマンドリンなどと違い,こうしたフレットの高い楽器の音階は,必ずしもピタゴラスさんの言うとおりにはなってくれません。
  山口と半月の高低差,ネックの傾き,表面板のレベル,そうしたものがわずかに違っただけで,かなりの差が出てしまいます。
  実際,同じ弦長の楽器でも,同じ音階のフレット位置が最大5ミリくらい平気で違ったりしますからね。つまり,この楽器の調音においては,構造上,そうした「スケール」があまり有効ではないわけです。

  せめて調子笛のような実音に即して調整されていれば,もう少しそろうんでしょうけどね。
  実際,製作後に演奏者が自分で位置を調整したり,フレットを交換したりといったような例もないではありませんが,まあ,当時の音楽では,この程度のゆらぎはさして気にならなかったのかもしれませんね。作るほうとしても,日本には当時まだこうしたフレット楽器があまりありませんでしたから,しょうがないことだったのかも。


今度は改造
  とりあえずまあ,知りたいことは分かりました。
  ありあとう15号。

  ではつぎに,この楽器を今という時代で「使い物になる」ように「改造」しましょう。

  15号は清楽月琴のなかでも古いタイプの楽器です。
  楽器としてより,資料的な価値の方が高いので,本来はオリジナルに近く復元するのがいちばんなのですが,せっかく甦ったもののお飾りにされちゃうのでは可哀そうです。

  それに何より,オリジナルの,このあまりといえばあまりなテキトウ音階には,庵主,どうしてもガマンがなりません!

  弾いてるうちに,ナニヤラ気分が悪くなります。

  一度貼り付けたフレットと,一部のお飾りを剥がし,チューナーを使って,より正確な音階に近い位置を探ります。
  動かさなくて良かったのは第1フレットだけ,ほかはだいたいフレットの厚み1枚分くらい動きましたね。
  もっとも動いたのは第2フレット,約1センチばかりも下がってしまいました----第2と3柱の間に入るお飾りが,もうギリギリです。

  最初から仮付けにでもしてれば良かったろう,って?

  先にも述べたように,今回の修理の目的の一つがオリジナルの音階を調べることでした。
  しかし,庵主は音響学とやらを学んでいないので,こういう場合,何がどう音に影響するかよく分かりません。
  お飾り一つにしてもそろえ,とりあえず楽器として完成状態にしてしまうことが,より正確なデータを得るための,いちばん簡単な方法だと考えたわけですね。

お飾り(4)
  とはいえ…これ,取れないなー。

  自慢じゃありませんが,このところ庵主,ニカワ付けが無駄に巧くなってしまってまして…一昔前なら,何もせんでもカンタンにぽろぽろはずれたんだけどなー。(^_^;)

  あちゃ…第6~7フレットの間に付けてたお魚さんのお飾りをぶッ壊してしまいました。

  まあ,前のも自作だし,いいか。
  しょうがない,また作るべー。
  前のお魚さんは何だか分からない鯉か鮒みたいなものでしたが,今度はスマンソも含めてちょっとキアイを入れ,「金魚」さんを彫りました。

  「楽器」の部分はともかく,庵主,本気出すとオリジナルの職人さんよりたいがい上手に作れますからね,こういう余計なものは。


  ちょっと色々ありましたが,これにてすべて相揃い。
  2010年1月26日,15号月琴三耗。
  ちゅーちゅー地獄より生還す。

15号修理後全景

15号修理後(2)
  さっそく弾いてみました。

  …意外と,よく鳴りよります。

  資料的な価値は大きいものの,庵主はこういうコピーの匂いの残る古いタイプの楽器は,実演奏用としてはそれほど好きではないので,音のほうは大して期待してなかったのですが。

  深みはないがよく透る,あまりしつこくない,枯れた響き,いわゆる「古雅な」という感じの音でしょうね。

15号修理後(3)
  ネックの細さには多少好き嫌いがありましょう。
  フレットは全体に高いのですが,例によって弦に合わせギリギリの高さに調整してあるため,運指に対する反応は悪くありません。
  ただ斗酒庵流にトレモロを多用すると,ちょっとガリッと引っかかりやすいかな?

  材料がそれほどではないので,低音の響きが若干足りませんが,思ったよりもいい音で鳴ります。
  響き線の効きも良いですね。

  ちなみに下の音声資料,最初や最後の余計な部分をカットしたりはしてますが,音それ自体には何のエフェクトもかけていません。それでいて時折,スプリング・リバーブを通したような音が聞こえることがあります----その部分が,響き線の効果です。
  このタイプの線の効果は,直線や浅い弧線にくらべると,分かりやすいですね。
  この型の響き線は「線鳴り(演奏中に響き線が胴に触れてノイズを出すこと)」がしやすいという欠点があるのですが,今回はきっちり焼きを入れて硬めにしたせいか,それほどでもありません。

  けして上級の楽器ではありませんが,使い勝手は悪くないし,ここまで鳴ればじゅうぶん音的にも楽器として使用に耐えましょう。

  楽しんでやってください。




15月琴三耗・音源

  1.開放弦(17kb)
  2.音階(1)(34kb)
  3.音階(2)(50kb) 低音弦/高音弦それぞれ
  4.九連環(150kb)
  5.溪菴流水(152kb)
  6.ハイカラ節(100kb)
(おわり)

15号三耗(5)

G15_05.txt
斗酒庵 ようやく本領発揮 の巻(5)2009.12~ 明清楽の月琴(15号三耗 さんはお)

第5回 こものなる古楽器のほとり

半月接着
  板は継ぎ足したものの,再貼り付けもうまくいったので,楽器の中心線はほとんどズレてません。
  半月はもとの位置に戻すだけですね。

  接着面を粗いペーパーで軽く荒らし,よ~くお湯をふくませてから,ニカワを塗って。
  当木を噛ませ,しっかり,ズレないように固定します。

  今回の楽器は1本桁。

  半月の下には何も支えがありませんから,クランピングにはちょっと注意が要ります。


棹基調整
  半月を接着している間に,ちょいと棹の調整もしておきましょう。

  古い月琴は棹の挿込がユルユルになってることが多いのですが,15号三耗,中級品の割にはそのへんの工作が比較的しっかりとしてまして,棹基部の右側に一枚,ツキ板を貼り付けるくらいで左右のガタツキも解消,「するぴた」が実現しました。

  ありがたいことです。


山口
  同時に弦の反対側を担う部品も作っておきましょう。
  今回の山口は竹製です。

  棹や胴体の色が,わりとキツめの赤なので,いつもの黒檀や紫檀だと色合い的にどうもクドくなってイケません。

  薄めの色の材料がいいのですが,とはいえツゲが使われるほど高級な楽器ではない。たぶんもと付いていたのは,カリンあたりだったのじゃないかと思うのですが,ちょうどいい材料が手元になかったので,斑竹の太いところを使って作ってみました。

  なんかこの書き方だと,素材を色やら似合うかどうかで決めたみたいですが。(^_^;)

  本物の月琴ではあまり見ないものの,竹の山口はウサ琴2やアルファさんの月琴で実用実験済み。
  安い素材ながら,音や具合はけして悪くありません。

  竹だけに,形を作るのはカンタン,ほんの10分くらいで完成。
  高さや形は14号月琴のものを参考にしました----こちらのほうが半月がやや低いので,そのあたりは調節しましたがね。

  出来上がった山口に,ヤシャ液を染ませラックニスを塗って磨きます。
  書けばほんの1行ですが,乾かしながらの作業ですからね。

  この部品だけで,三日はかかってるんですよ。



  ではその間に,SKT。
  至福の小物たーいむッ!!!!

軸作成(1)
軸作成(2)

  まずは軸,ですね。

  11号,12号とクルミの軸を試してみましたが,今回は元に戻ってスダジイ。

  にぎりの形は14号のものを参考にします。
  古いタイプの清楽月琴には,よくこの類の軸が付いてますからね。

  まずはいつもどおり,六角形の軸を削ります。

  つぎにこれまたいつもどおり,各面の中央に溝を引く----このまんま仕上げればただのミカン溝の軸ですが,ふだんは細い四角の棒ヤスリを使って,浅く彫り込むこの線を,今回は目立てヤスリや三角ヤスリも使って,これでもか!ってくらい深く刻み,角を落として丸っこくします。

軸作成(3)
軸作成(4)

  うむ,いい感じ。

  挿してみましょう----左上の軸の角度が足りなくて,なんだかちょっと左右のバランスが良くありませんが,このあたりはもともとの加工,いまさら直すわけにはいきませんねえ。

  見なかったことにします。


  ヤシャ液で染め,オイル仕上げ。
  ここはナチュラルでフラットなほうがカッコいいと思うなあ。

  中国の月琴の軸は,この溝をさらに分割で増やしていって,現在見るような形になったんだと思いますが,国産の清楽月琴の軸が,なぜそっち方向へ向かわず「六角形」になったのか,実際にやってみるとよく分かりますね。

  ----この加工,けっこうメンドイですわ。

  清楽月琴で軸の握りがほぼ六角形に統一されていった理由は,一つには演奏者の方が,三味線に近い操作感を欲したためがあると思うんですが,この加工の煩雑さ,それでいて操作上には大した違いがないといったあたりも原因となっておりましょう。

  琵琶くらいの値段の楽器だったら,細かな彫りをする余裕もあるでしょうが,月琴はどちらかといえば大量生産された,安い楽器です。
  月琴は材料も安いですし,はぶける工程はなるべくはぶいとかないと利益率が悪くなります。

  逆に言うと,軸がこちらのカタチになっていたり,やたら凝っているような楽器は,まだ唐渡り時代の余韻を残し,原形に則って作られた古いタイプのものか,特別あつらえの高価なもの,ということですね。


お飾り(1)
  今回は目摂も扇飾りもオリジナルのが健在で,工作もさほど悪くはありません。
  純粋な小物といえるのは柱間のお飾りくらいなものです。
  とはいえ,無くなってしまっているお飾りの形は,接着痕や日焼け痕から「おぼろげに」分かるか,って程度ですからね。
  過去の例や資料の中から,だいたい似たようなカタチのお飾りを探して,参考にしました。

  山口と第1フレットの間には「花籃」,第3~4間には「花」,第6~7間には「魚」を置くことにしました。

お飾り(2)
  材料は「凍石」。
  書道のハンコ,いわゆる「落款」とかを作るのに使う石ですが,要はむかし道路にイタズラ描きするのに使った「ロウ石」ってのがありましたよね?駄菓子屋で売ってたやつ。あれのちょっと高級なものですわ。

  庵主,ハンコ彫りの前科もございますので,この素材には慣れております。「石」ではありますがごく柔らかいものなので,いつも使ってる糸ノコやヤスリでふつうに加工できます。


中央飾り(1)
  ちょっと問題なのが,楽器中央の飾りですね。

  ここにはよく円形の飾りが付けられることが多いんですが,今回は逆三角形に近いカタチの何かがついていました。
  まずは画像をごらんあれ。
  全体は横につぶれたハート型,下辺はひらひらに飾りがつき,上の真ん中には小さなとんがり頭,そこから「触角」のように曲線が流れて,頭の左右が空間になっています。

  この接着痕と日焼け痕から見て,おそらくは「蝙蝠」か「蝶」だと思うのですが…いまひとつ,どちらという決め手がない。

  え?「触角」があるなら「蝶」に決まってるだろう,って?

  甘い!…甘いよキミは。

  下の図を見たまえ。
  左は吉祥図の「蝴蝶」,右は「コウモリ」の図案の一つだ。

参考図(2) 参考図(1)
中央飾り(3)
  このとおり,吉祥図のコウモリさんには似たような「触角」が生えてるのがいるのじゃ。
  まあもっともこの楽器,半月にも蓮頭にも,柱間の飾りにもコウモリさんがいないので,そっちのほうが確率は高いのですが…。

  12号で二匹も彫っちゃったばかりですからね。

  正直,何か飽きちゃってるんスよ,コウモリさんに。
  ----ですので,ここはひとつ,「蝴蝶」で行かせてください。

  材料は柱間飾りと同じですが,その中ではちょっと高級なのを,これ,庵主のとっておきだったんですがね。
  日焼け痕の輪郭の中で,よくある吉祥図の蝴蝶を参考にデザインしてみました。

絃停(1)
絃停(2)

  今回,絃停には,めずらしくヘビ皮を用意しました。

  庵主はどちらかというと「ヘビ皮使用反対派」(自然保護の観点からではなく嗜好として)なんですが,古風な楽器ですので今回はヨシとします。

  素材は三線の皮のハギレですね。

  ちなみに庵主,沖縄三線も弾きます。
  ときおりお店で偽うちなんちゅーして,島歌などうなってることもありまして。「どこの島の出ね?」と聞かれるときは「北のほう」と答えることにしています。
  ちなみに中国にいたときは「どこから来た?」と聞かれたら「山東省の東の方の島」と答えてました。

  そのままだと絃停には厚すぎるので,水でふやかしてから裏をこそいで薄くしました。
  さらにちょいと伸ばしながら乾かします。

  では次回こそ,完成。

(つづく)

15号三耗(4)

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斗酒庵 ようやく本領発揮 の巻(4)2009.12~ 明清楽の月琴(15号三耗 さんはお)

第4回 ヨロコビとカナシミと

面板接着
  接合部のスキマを埋めて,胴体に矧ぎ足した面板を接着。
  例によって3倍早い「赤いワラジ」の登場です。

  今回はほかにも修理楽器があったせいで,これのおかげでひさしぶりに布団が敷けず,一晩寝袋睡眠となりました。

面板接着
  一日置いて,はみ出しを切り去り,胴体を整形します。
  ほかにも段差になってる箇所があったので,側板削りはしましたが,何とか必要最小限で済みましたね。

  面板を清掃し,側板を塗りなおします。
  棹の再塗装で,この楽器の塗装の過程がだいたい知れたので,それに合わせましょう。

  まずは面板の木口木端をマスキング。
  つぎに側板全体を薄く溶いた赤ベンガラで下染めします。
  あちこちに残ったオリジナルの塗装を見ながら,茶ベンガラ・炭粉・砥粉を調合し,柿渋で溶いて布につけ,ラフ目に刷きます。
  さいごに柿渋を数回塗って,ごく少量の亜麻仁油で拭き磨き。

胴体完成(1) 胴体完成(1) 胴体完成(1)

  一日二日たつと,柿渋が発色してなかなか見事な赤茶に染まりました。
  つか,ちょっと濃すぎたかな?
途中全景



15号半月
  半月…今回の修理,これが思わぬ伏兵でございました。

  弦楽器のペグ(糸巻き),ナット(山口,乗弦),ブリッジ(駒),テールピース(覆手,半月)---
  といった,弦を結んだり乗せたりする部品は通常,楽器の主要部材のなかでは,特に丈夫な材質で作られるのが普通なのですが。 日本の清楽月琴の場合,この頑丈であるべき半月が,カツラやホオ,時にはヒノキのような加工しやすい木材で作られていることが多くあります。
  幸いなことに,この楽器の弦のテンションはそれほど高くないので,そこそこの強度がある木ならば,糸巻きにせよ半月にせよじゅうぶん使用に耐えられるものが出来るようです。

半月(1)
  15号の半月も,本体と同じクルミかカツラと思われる木で出来ていました。
  最初の記事で書いたとおり,この半月にはけっこう大きな穴が左右にあり,はじめ修理であけられたクギ穴くらいに思ってたんですが,それにしては穴の形が不恰好ですし---とあちこちツツいていたら。

  ズボッ。

  思わぬところに,穴が,あきました。
  ケガキの先でほじくってみると,なんと----うわあああああっ!!!

半月(1)
  柔らかめの木で作られてる,とはいえ,薄い板じゃなくて木のカタマリですからね。

  さしもの庵主も,この部品がここまで 「食われて」 いるのを見たのは初めてです。
  右の虫穴は面板にまで達し,裏面でもまたさらに横に広がってます----ていうか,もしかするとこの虫は,内部から来て半月の中を食い荒らし,外に出てったのかもしれません。

  15号三耗,ネズミだけでなく虫にも食われてましたか……よほど材質が美味しいのか,何か美味しそうなニオイでも全体に付けちゃったんでしょうかねえ。

  形だけなら埋め木やパテで直すことが出来ますが,ほかの弦楽器に比べるとユルいとはいえ,弦のテンションがかかる部品です。それで強度的に問題のない修理となるとは思えませんので,ここは12号に続き,半月を作り直すこととしましょう。


半月(2)
  最初にまずは,棹材と推定したクルミの板で作ってみたのですが,木肌表面の感じと削った時の感触が,オリジナルとどうも一致しません。
  オリジナルはおそらく,ヤシャブシで黄色く下染めをされた後,砥粉と炭粉に少量のベンガラを混ぜた顔料で軽く表面塗装がなされているようなのですが,下染めしてみると,その色合いも多少気に入らない。
  いくぶん薄いんですね。

  その後,色を重ねて,まあこれでもいいかな?---というところまではいったんですが,どうにも納得がゆかず,結局カツラでもう一枚作ってみました。
  加工の際の感触,また下塗りの色付きからすると,どうもこちらのほうが近いようですね。

  下部にある紋様は,オリジナルに和紙を当て,エンピツで上から擦って写し,それを糊で貼り付けて彫りこみます。
  そんなに複雑なものではありませんが,こうして真似してみると,その彫り線はごく浅く,流暢。
  意外に力量を感じさせるものでした。

半月(3)
  次に立ちふさがりし難関は,上塗りの顔料でした。

  こうした顔料はだいたい柿渋で溶いて油拭き,というパターンが多いのですが,下染めのヤシャ液と柿渋----主成分は同じくタンニンなくせに,これがどうも相性が良くない組み合わせのようで。

  ヤシャ液で染めてから柿渋をかけると,なぜかヤシャ液の黄色味が薄れて白っぽくなってしまいますし,柿渋を使って塗装した上からヤシャ液を刷くと,こんどは塗膜が溶けて流れてしまうのです。

  アルカリだとか中性だとかの問題のようですが,バケ学は不得意なので良く分かりませんが。

  下塗り段階から何度も失敗してはやり直した末,いろいろ考え,またテストしてみた結果。

  1)上塗りの粉を温めたヤシャ液で溶き,素早く刷きます。
  2)乾いたら布で拭って粉を落とし,何度か重ねて色が濃くなったところで,乾性油で拭いて固定。

半月(4)
  さらにテストを重ねた結果,ここまでを下地として,完全に乾いた状態だと,ヤシャ液で染めた上から柿渋をかけても,さほど褪色しないことが分かり一安心。ヤシャ液と乾性油だけでは塗膜がまったく出来ないので,表面の保護が難しいですからね。
  斗酒庵流ではとくに,トレモロ演奏をするとき,この半月に手横を置いて義甲を使いますので,そのままだと汗染みとかついちゃいますし。


  半月だけに,仕上がるまでほぼ半月,マジです(笑)。
  ようやくなんとか,それっぽい感じになりました。
  そのうち木工仕事は2枚合わせてもほんの2時間ぐらい。
  あとは試行錯誤の塗装修行----うむ,古人偉大なり。


(つづく)

15号三耗(3)

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斗酒庵 ようやく本領発揮 の巻(3)2009.12~ 明清楽の月琴(15号三耗 さんはお)

第3回 ねずちゅーと踊ろう

15号糸倉(1) 15号糸倉(2) 15号糸倉(3)
  では修理本番。

  あちこち「耗子(ネズミ)」に食われて,その名も「三耗」。

  なにはともあれ,ここから行きましょうか。

糸倉修理 棹修理 蓮頭修理

  蓮頭から糸倉,棹に到る鼠害箇所は,大きいのが3箇所,小さいのが幾つか。
  やることは単純。
  穴埋め,ですわな。

  まずはカジカジ痕を整形。

  この複雑にカジカジされた痕そのままに,ぴったりハマるような埋め木をこさえられる神人もいるんでしょうが,こちとら神ならざる身ゆえ,削り過ぎないように注意しながら,ギザギザの傷口を均し,わかりやすい形に整形します。

糸倉修理(2) 棹修理(2) 蓮頭修理(2)

  つぎにクルミの端材を刻んで,わかりやすい形の埋め木を作り,接着----んで,整形,っと。
  蓮頭の補修箇所には,模様の続き部分をリューターで彫りこみましょうね。

  写真だとほんの数枚ですが,この間,けっこうたいへんだったんだからネ!

  ほんとうに…軸穴に被害が及んでいなかったのがもっけの幸い,ってとこで。

糸倉修理(3) 棹修理(3) 蓮頭修理(3)

  柿渋・砥粉・炭粉・各種ベンガラを調合・駆使して,修理箇所が目立たなくなるように誤魔化します。

  ここは完全に分からない,より,よーく見れば分かる,のほうが後世の修理者にとって親切というものでしょう,ええ,そうですとも,いや間違いない!

棹完成!
  塗装ははじめ薄く,周囲との兼ね合いを見ながら,何度も塗り重ねてゆきます。
  だいたい目立たなくなったら,さいごに全体にムラなく柿渋を塗布,じゅうぶんに乾いたら,ごく少量の亜麻仁油を布につけ,磨き上げて完成!

  柿渋は少々粘りがあるので,この「ムラなく」ってのがちょっと難しいですが,できあがるとそこらの水性ニスになんか負けないような塗膜になります。しかもほぼ無害。
  自然ってスゴいもんですねえ。



胴体矯正中
  胴体の問題は二つ。

  側板のゆがみと,響き線がないこと。

  まずは早苗ちゃん,菊芳さんでやったように,歪んで段差のついた側板接合部を濡らして,矯正。
  一週間ばかりしめあげた結果,左右下の接合部はそれなりに矯正されたんですが,左上だけはあんまり治りませんでした。
  この左上の接合部には当初からヒビが入っていました。
  しかもそのヒビは貫通しておらず,ねじれるような形で浅く入っています。

  これは単純に接合の工作や衝撃によるものではなく,部材の質自体と,さらに木取りが悪かったんだと思いますね。

  ちゃんと乾燥されてない木を使った時にも,こういうことがままあるそうです。
  もっとも,このヒビ自体は古いもので,作られてから百年以上たった現在では,これ以上ヒビたり歪んだりすることは,そうないと思いますが。

左段差
  いちおう矯正して少しは縮めたものの,左側板と表面板の段差が最大で2ミリほども残ってしまいました。

  もとから数十年剥がれていたとはいえ,ここまで段差が出来るというのは,側板の歪みだけが原因ではないようです。
  ----ということで,表面板を計りなおしてみたところ,横幅が,剥がす前と後で,何と約1ミリ近く縮んでます。

  本場物,いわゆる「唐渡り」の月琴は面板が一枚板です。
  一方,国産コピー品は多く細めの桐板を継接ぎした板で作られています。
  この方法ですと,いくらでも大きな板材を,比較的安価に作ることができるのですが,質の異なる板を何枚も矧ぎあわせるわけですから,やはりこういうことにもなるわけです。

  とにかく,側板を削ってどうにかできるレベルではないので,何かほかの方法を考えなくてはなりません。

  左がわの足りない分をどうするか----足りないならば,足してあげるとしましょう。

面板矧ぎ足し(1) 面板矧ぎ足し(2) 面板矧ぎ足し(3)

面板接着
  まずは面板を左の第二矧ぎ目から切断します。
  つぎに修理で出た古い面板からこういうのを切り出し----
  間にはさめて矧ぎなおします。

  この板の幅のぶん,面板は左につきだすわけですな。

  この間にはさめる部品を,足りないぶんの寸法,ギリギリの幅で作る,っていう線もあったんですが,部品が小さくなると,その後の作業が難しくなります。自分の技量と相談した結果,無難に板の幅は1センチとしました。

  木端口にニカワを引き,板とクランプ,輪ゴムを使って,一晩固定します。


面板段差
  くっついてから点検してみると,板の中心付近にわずかに段差ができていました。
  しかしこれは間にはさめた板が薄かったのではありません。オリジナルの板のほうが不均等だったのです。
  測ってみますと,矧ぎ足した板のほうがほぼ水平で,オリジナルの板は真ん中のあたりがわずかに厚くなってますね。

  11号に次いで,またほんのちょっぴりアーチトップな月琴,のようです。



響き線再製作
  胴体のほうはこれでだいたいメドがつきました。

  あとは箱に戻すだけですが,その前に,「月琴の音のイノチ」響き線の製作に参りましょう。

  響き線はピアノ線を曲げて作ります。

  類型の14号やそのほかの資料を参考にして,最初の曲がりまでの長さとか,胴体内でのカーブの具合,長さなどを決めます----この類の響き線は,胴内をだいたい半周して,線先は茎の先端の下あたりにあることが多いようですので,このあたりかと。

  錆びた古い響き線をピンバイスでほじくりだし,新しくこさえた線をそこに挿しこんでは,曲がり具合などを微妙に調節してゆきます。

響き線再製作(2)
  形が決まったら,焼きを入れ,全体をバネ化します。

  このところウサ琴の製作をサボってるもので,合羽橋で買った特大お好み焼き鉄板,ひさびさの登場です。
  200度前後で約10分,ときどき位置を変えながら,全体がテンパーブルーになるまでじっくり熱します。

  前のがサビて折れちゃったんですからね。

  焼きが終わったら,サビ防止に,根元のあたりにラックニスを塗っておきましょう。

響き線再製作(3)
  前回書いたとおり,オリジナルの線が入っていた穴は小さく,線の直径くらいしかないので,四角釘とか竹釘のような補助固定具は使われていなかったようです。
  試験的にあけられた2つの穴はそのままなのですが,元の穴はサビた線の基部をほじくったため,若干大きくなってしまいました。
  これだと線がすっぽ抜けてしまいますので,ここはニカワ止め+竹釘を挿しておきます。

  固定されてから響き線をはじいてみますと,「チーン」「カラーン」となかなか良い響き。
  うまくいったようです。

  この種の響き線は,形状ですでにバネ的特性を有しているので,時折焼きの甘い,あるいはぜんぜん焼入れされてないような鉄線が入ってたりもします。
  ふつう焼入れがちゃんとされていると,表面に青い酸化膜が出来てサビにくくなるものですから,15号のオリジナルもそんな焼きの甘い線だったのじゃないかな?

  さてこれで,いよいよ面板貼り付け----というところで,今回はここまで。


(つづく)

15号三耗(2)

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斗酒庵 ようやく本領発揮 の巻(2)2009.12~ 明清楽の月琴(15号三耗 さんはお)

第2回 修理開始!-破壊の先に明日はろーんぐうぇい-

15号修理開始!
  心ある修理者は,気軽にこういうことをしてはイケません。

  オープン修理,ってのは楽器への負担がすごいので,庵主もなるべくならしたくない。
  修理の基本はあくまでも「原状回復」,オリジナルの状態を保存保護することを主眼とします。

  ただそれが単なる装飾的文化財である場合と,道具として実際に使用される「楽器」である場合には,その修理作業にもおのずから違いが出てきます。
  もっとも,どこまでが「必要なこと」でどこまでが「余計なこと」なのかの線引きは意外に難しいとこなんですが。

  たとえオリジナルを損ねても,楽器としての再生を目指すか,あくまで原状回復に従い,楽器としての使用はあきらめるか,となったときどうするか――博物館員ならば迷わず後者を選ぶべきです。そういうところにある楽器は「資料」です,それをオリジナルに近い形のまま後世に伝えるのが彼らの義務。

  庵主は研究者であると同時に演奏者でもあります。
  研究対象としての楽器に関しては,それが演奏可能な状態であろうがなかろうが関係はありませんが,演奏するための楽器はもちろん演奏可能な状態になってないと困ります。

  自出し月琴は研究のために購入されるもの,ほとんどの楽器は庵主の手元にきたときには,まず演奏不可能な状態になっています。
  楽器資料としてのデーターは,実際に手にとって,その外見や構造を観察することから,ほとんど得ることが出来,情報を得てしまえば,研究者としての庵主に物質としての楽器は本来必要ありません。

  楽器マニアの類ならば,ただただ所有することで満足するでしょうが,プレーヤーとしての庵主はすでにじゅうぶんな演奏楽器を持っており,ただでさえ演奏不可能,楽器として使用することの出来ないものに興味はないわけです。

  ですが,自分の年齢をはるかに越えた,百年以上もの年月をここまで生き抜いてきた物を軽々にゴミるわけにもいかない。

  庵主の修理は,楽器に対し,その情報をくれた薄謝のようなものでしょうか。
  使用不能の物体となったものに,もう一度,楽器として生きるチャンスを。

  まあもっとも。
  「したくない」のと「好き」なのはまた別の,個人的嗜好,ってとこでして。
  むかしよく,白いギターを客に叩きつけて,破壊したりしていたせいもありましょうか。
  正直な話,庵主,月琴をひっぺがすのが,大好きです。

  でもみなさんに言っておきますよ,いちおう。

  ちゃんと技術がないのなら,けっして真似しないでください。
  あなたがヘマこいても,わたしは助けてあげません。



15号月琴 内部所見

  まずはすでにハガれかかっていた表面板左がわから,お湯を垂らしながら刃物を進めてゆきます。

  原作者,ニカワ着けのウデはまあまあですね。
  多少ニカワの量が多いようで,スキマをあけたりしめたりしていると,幾分じゅるっとハミ出てきますが。

  周縁の1/4強はすでに剥がれていたので問題はなかったのですが,右がわの接着がけっこう強固で。
  無理に刃を進めると部材を傷めてしまいそうなので,ゆっくりと時間をかけ,ニカワをゆるめながら割ってゆきました。

  ----ひさしぶりですねえ,月琴のハラワタ。

  滅多に見れない楽器の中身。
  研究者にとってはほんと,タイムカプセルとか宝箱みたいなものです。

  では,内部観察によるデーターを。

15号内部

 ■ 胴体側板:厚 10>7mm。

  板の切り出しは薄めで,裏面に鋸痕が残るがそれほど深くはない。工作は比較的丁寧。
  左側板の両端接合部には,部材の歪みによるものと思われるスキマが見える。
  右下接合部内側にも一部スキマがあるが,こちらは擦り合わせの工作不良によるもの。


15号内桁(1)
15号内桁(2)
 ■ 内桁:1本桁。

  長 328mm 幅 29mm 厚 8mm。桐板。
  天の板棹穴から 145mm,地の板から 198mm に位置する。
  中央に茎を受ける棹穴 19×10,楽器正面から見て右側に響き線を通す音孔。
  幅 55mm,高さ最大で 21mm ほど。笹の葉型。

  上から見て右端に錐穴があるので,そこから回し切りを左右に挽いて切り抜いたと思われる。
  工作は丁寧で鋸痕も細かく,板の幅ぎりぎりのあたりまで,うまく抜いてある。

  左右端を胴体に埋め込み,左上面には調整のため削った痕が見える。
  その部分が白っぽくなっていることから,この板は両面をヤシャ染めしてあるものだったことが判る。内桁の用途には必要のないことであるから,加工済みの何らかの板を流用したものではないかと思われる。


響き線痕跡
 ■ 響き線:なし。

  面板剥離前から,胴体内に何もないことは確認されていたが,当初はその基部の痕跡すら見つからず,廉価版楽器のため,最初から仕込んでいないのか,とも疑った。
  しかし,これと同じような古いタイプ月琴に関する過去の資料,また14号月琴の内部構造などを参考に基部の位置を推測,再度探してみたところ,棹穴の右,3センチほどのところにそれらしい痕跡を発見した。

  画像指先の黒っぽく染みになっている箇所がそれで,触ってみると,錆びた線の先がわずか出ていることが分かる。

  通常こうした場合,線は胴体内にそのまま残されていることが多いのだが,前修理者かそれ以前の所有者が取り出してしまったようだ。この痕跡のほか,楽器内部からは線の一部も,さらには錆の一欠けらも残されてはおらず,よほど丹念に清掃したものと思われる。

  線基部の痕跡の上に二箇所,同じ目的であけられたと思われる小さな穴が二つある。
  おそらく数箇所試してみて,もっとも良い位置を探ったものと思われる。

  むかしの響き線取り付けのやりかたに関する良い資料となった。

  痕跡箇所も含め,いづれの穴もその直径はほぼ線の太さしかないため,この楽器の響き線は胴体に直挿しで,四角釘や竹釘による補助的な固定は行っていないものと推測される。


15号表板内部 15号表板内部

 ■ 表面板裏面

  数箇所虫穴。ほか目だった損傷はない。

  右端,内桁のすぐ上辺りに,木片で埋められた直径3ミリほどの穴が二つある。詰め込まれた木片は何の接着もされておらず,ケガキの先でつついたところ簡単に抜け取れてしまった。
  3センチほど間隔をあけ,楽器の水平方向に合わせきっちり並べてあけられているため,自然の節穴などではなく,何らかの意図を持ってあけられたものと思われるが不明である。

  左右方向にエグれたような細い穴が4箇所ばかり見えるが,これらはいづれも板を作る時に,部材同士を結合するため埋め込まれた竹釘の痕である。

  現在は工具や接着剤の発達もあり,こんなことをする必要はないと思うが,かつては図のように,大きな角材もしくは板材を重ねて,そこから表裏面板のような薄い桐板を切り出していたものと推測される。

板の作り方
  この方法については以前にも紹介したことがある。
  部材同士の接着はニカワによるものだが,ニカワだけだと固定されるまで時間がかかることと,より正確な位置に,確実に密着させるためクサビのようにした竹釘を等間隔に打ち,切り出すときはちょうどその竹釘の中心を鋸で両断するようにしたものらしい。

  実際,今回板面にあったこれらの痕跡からも,竹釘の破片や先端が見つかっている。


15号裏板内部
 ■ 裏面板裏面

  数箇所に虫穴。ほかはほぼ健全。

  表面版裏面同様,こちらにも矧ぎに使った竹釘の痕がいくつも残る。
  それのかなり大きいものが内桁の中心のちょうど下のあたりにある。原作者はあまり気にせず,そのままその上に桁を接着したようだが,長さ7.5センチ,深さも2ミリほどあるので,せめて充填しておく必要があろう。



(つづく)

15号三耗(さんはお)

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斗酒庵 ようやく本領発揮 の巻(1)2009.12~ 明清楽の月琴(15号三耗 サンハオ)

  はーひ,はーひ…今日で三日,記事を書き続けております。
  何て正月だ…

  
  とりあえずデータの公開だけ済ませた13号,14号は,いづれもヒストリカルな意味合いの強い楽器で,たんに庵主が修理(破壊,とも言う)して楽しむには,あまりにも資料的な価値が勝り,かつ高級すぎ,うかつに手ェが出せません。
  11号の修理は終わりお嫁入り,12号も残るところ仕上げだけとなりますと,なにやらムラムラ…いえいえ,寂しいというか手持ちブタさんになってまいりました。
  そこでたまたま出ていた出物に,入れるともなく入札していたら,誰も入れずに落ちちゃったのがこの15号。

  さて,届いてみますとこれがけっこうな壊れ月琴。
  しかも中級,普及品(ココ,大事です)。

  チェーンソーを持ったウデが鳴ります,こふぅー。

  すさまじいことに,あちこちネズミに齧られております。

  清代の学者先生が「北京の官舎には鼠が非常に多い。俗に鼠のことを"耗子(ハオヅ)"と呼ぶのは,家具什器を耗(すりへ)らすからである。」(『模糊集』松枝茂夫 訳)と言うております。庵主がむかし訳したわらべ歌にも「小耗子兒上燈台/偸油吃下不來…」とネズちゃんを唄ったものがありましたな。
  庵主の筆号の一つに「張三耗」ってのがあります。
  むかし中国の人気漫画に「三毛(サンマオ)」てのがありまして,それのパロでもあるんですが,「張三瞎耗(チャンサンシアハオ)」の略でもあります。
  マザーグースですね。"Three Blind Mice"。

  当初はそれほど気が乗ってなかったのですが,一目見て気に入りました----いえいえ,今回は楽器としてではなく,「修理物」として。

  13号は墨書のある面板をいかにうまく修理するかで研究中,14号は資料的価値の高さに慎重な前調査と修理キボンヌ。
  到着の15号は,一目見て分かるその破損状態,そのうえ中級品。
  ツンデレ・ヤンデレ様な前の2面と比べると,こいつはなんでもヤらせてくれそうだ!と,善からぬ予感にウチふるえつつ,2面とばして現在絶賛修理中でございます。

  ではまず,データから。



【15号月琴・三耗 修理前所見】


15号修理前全景
1.採寸

 全長:637mm
 胴体 縦横ともに:345mm 厚:38mm(表裏板ともに 厚4.5mm)
 棹 全長:288mm(蓮頭を除くと278) 幅:29mm  最大厚:32mm 最小厚:21mm
 指板ナシ 指板相当部分 長:148mm  最大幅:29mm 最小幅:24.5mm
 糸倉 長:130mm(基部から先端まで) 幅:29mm(うち左右側部厚 8mm/弦池 13×95mm )指板面からの最大深さ:58mm

 推定される有効弦長: 約423mm

2.各部所見

15号蓮頭(1) 15号蓮頭(2)

 ■ 蓮頭:存。57×77mm

  意匠は不明。庵主は当初「栗」かなあ,とか思っていたが,友人が「蕪(カブラ)じゃネ?」と言ったのには開眼。
  表面のぼこぼこ加減や縦線を見ると,カブラというよりはコールラビだが,吉祥図にも使われる野菜だし,可能性は高い。

  ベンガラによる着色,おそらく棹,胴体と同じ素材。
  数箇所美味しくいただかれている。特に左上の食損はけっこう深い。
  糸倉との接着がはがれており,間木ごとはずれる。


15号糸倉(1) 15号糸倉(2) 15号糸倉(3)

 ■ 糸倉:蓮頭下中央に間木をはさむ。

糸倉横から
  左右薄く,横から見て厚みのある姿は,「唐渡り」ものの古い清楽月琴のタイプに近いが,棹背がわの「うなじ」はなめらかで,入込みは小さいが山口を乗せる部分が「ふくら」になっている。
  糸倉の下部2/3に軸穴が集中しているというあたりが,やや納得いかないが,配置から推測して,実際に4本軸を挿し,正面から見ると,それほど違和感はないものと思われる。

  今回の楽器の主要修理箇所か?

  特に美味しくいただかれてしまったようで,糸倉本体に3箇所と弦池の「うなじ」がわ端,そして「ふくら」の左横に食損。
  中でも糸倉右背がわのものは最大で,深さ2センチほどまで谷型に齧られている。
  さいわいなことにいづれの食損も,軸穴には関係がなく,また糸倉全体の強度を,特に損ねるには到っていないため,単純な穴埋め補修で使用可能な状態に回復可能なものと思われる。


15号軸
 ■ 軸:全損。後補2本。

   後補軸の材質は不明。
   庭木の枯れ枝あたりを削ったものか。ごくもろく,およそ実用できるものではない。実際に糸を巻いた形跡はあるが,そのためか1本は先が折れている。

15号棹(1) 15号棹(2)

 ■ 棹:「ふくら」左横のほか,その下に一箇所に食損。

   全体に細身の棹で,指板はない。
   左右にテーバー。棹基部から「ふくら」下に向かい,わずかにすぼまっている。
   棹背には少しアールがついており,「ふくら」入込みの裏あたりから,糸倉の「うなじ」にむかい曲面で流れる。

棹上墨書
 ■ 山口:欠。
   代わりに色を塗られた角材が接着されている。

 ■ 柱(棹上):接着痕残る,後補1本。
   後補のフレットも山口のところの角材と同じ材質と思われる。
   この第1フレットと第2フレット痕との間,柱間飾りの下に,小さいが何か墨書が見える。


 ■ 柱間飾り:2つ存。
   凍石製。同様の形状のものは14号でも見られた。

15号茎(1) 15号茎(2)

 ■ 棹茎(なかご):損傷なし。

   色合いは少し異なるが,棹本体と同じ材を継いでいる。
   長:202mm,幅:23>16mm,厚:15-7mm。

   棹基部楽器正面側に墨書。署名か。
   14号同様に基部裏面の処理が少し荒く,刃物の痕が交差。調整痕か?


14号表裏面板

 ■ 胴体:面板の剥離。部材の歪み等も見られるが,いづれも軽度。

   表面板:板目4枚継ぎ。
   楽器左がわ,左目摂下端すぐ横あたりに直径4mmほどの丸い孔を埋めた痕が二つ。そのほか目立った損傷はない。

   裏面板:同6枚継ぎ。
   左肩に小ヒビ,上端から板の矧ぎ目に沿って楽器中心方向へ,17センチほど。上のほうの横に虫孔と浅い虫損痕が見えることから食害によるものと思われる。そのほかにも虫孔と思われる小穴が数箇所見えるが,いづれもさほど深刻なものではない。



15号側板
   側板:単純な凸凹接ぎによる接合,板4枚。

   左と天の板の接合部にヒビ。
   同じく地の板との接合部にも段差があり,左側板全面と地の板の半ばほどにかけ,表面板がほぼ剥離。
   左側板,板自体も多少歪みが出ている模様。
   右側はほぼ健全,二箇所の接合部,面板との接着,いづれも堅固である。


   棹および胴体の主材は国産の 「胡桃」 と思われます。
   洋材の「ウォルナット」と違って,日本のクルミ材は白っぽくて柔らかく,挽き物の地などには使われるものの,ふつうはまあ弦楽器には使わない素材ですが,10号菊芳さん,また11号の記事にも書いたように,古い資料にこれを月琴の軸として使っている例も見えるので,これで楽器本体を作ったとしても,まあ不思議はありません。

   ちなみに「クリ」なども同じような質の木材ですが,これも「月琴の材料」とよく言われたり書かれたりしてますね。
   実際には国産品では,高級品が鉄刀木や黒檀紫檀などの唐木やカヤなど高級家具材。大量生産された中級品はホオやカツラ,サクラなどのほうが多いようです。

15号目摂
 ■ 左右目摂:損傷なし。

   これと似たタイプの花の飾りはいくつか見たことがあるが,どれも何なのか,はっきりとは分からない。
   花だけ見るとテッセン,ではないかと思うのだが,茎が蔓にはなっていないようだし…
   ホオにベンガラ塗りか。


15号胴体上フレット(1) 15号胴体上フレット(2)

 ■ 柱(胴体上):1本欠,4本存。
   煤竹製。
   フレット幅の変化はそれほど大げさではないが,扇飾り下の第6フレットがちゃんと長くなり,よく見る国産月琴のデザインに近い。


 ■ 扇飾り,柱間飾り(胴体上),円飾り:
   柱間飾りは2個存,1個は痕跡のみ残る。凍石製。中心飾りは痕跡のみだが,円飾りではなく,蝶か蝙蝠ではなかったかと推測される。
   扇飾りはよく見る唐草のより単純化したもの。目摂と同じくホオ板と思われる。


15号半月
 ■ 半月:95×41×10mm。
   おそらくクルミ。
   平面の半円形,上面下方に線刻。おそらく蓮花であろう。
   糸孔は外弦間:30mm/内弦間:23mm。内外弦間:約3mm。

   上端左右にかなり深い虫穴がある。

 ■ 絃停:後補。布 95×70mm。
   化繊の青い布が貼り付けられている。
   貼り付けてから再度大きさを調整したらしくカッターの刃痕が面板上に残っている(桐板の上で! 恐ろしいことを…)。


  一見平凡なこの半月が,実は14号に引き続きビックリドッキリ部品となったのですが…そのあたりは次回!



4.15号概観 & ちょっと月琴の歴史2

   月琴が「文人楽器」となったのは幕末,日本でのことで。

   何度か書きましたが,この楽器,中国におけるステータスはそれほど高くありません。

   京劇音楽の中では三大件,四大件の一つとされ,主要楽器の一つとなっていますが,一般的には「古琴」を頂上にする楽器ヒエラルキーの中にさえ入らない,お女郎さんや門付け芸人の使う,アウトカーストというかアンタッチャブルな楽器です。

   これが「文人楽器」となったのは,もともとは「お遊び」だったと思います。

   月琴を愛した幕末の一流の文人,たとえば漢詩人の梁川星巌などは,その音楽を讃える詩を作る一方で,月琴は淫声の楽器だとする文章「月琴篇」などというものも書いています。
   彼ら江戸時代トップクラスの文人は,鎖国下とはいえ海外の事情にもちゃんと通じており,それがどういう楽器であるのかちゃんと知っておりました。知っている上で,それを同じ「琴」の字で表される七絃琴に見立てたり,歴史上の楽器である「阮咸」と結びつけることで,聖俗の「地位の逆転」をも楽しんでいたはずなのです。

   「見立て」と「逆転」は江戸の美意識の根幹,「遊び」は本気でやるのが江戸の流儀です。

   しかしながら彼らのフォロワーズ----二流三流どころの知識人や,たまたま長崎に来て遊んでたような留学生くずれにとって,彼らの遊びは「エラい人のやっているエラいこと」にしか映りません。また,流行っているから金でもとって教えようという連中にとっては,絶好の宣伝材料,さらには自分たちのステータスを高めるための格好の材料ともなったでしょう。

   そうした駄目フォロワーズたちはさらに,当時大陸で流行っていたポップスを演奏する楽器だった月琴で,すでに廃れかけていた明楽(こちらは明代の家楽,宮廷音楽につながる雅な音楽)の曲を取り入れてみたり,雅楽の本から商やら宮やらと,本来はこの楽器と何の関係もない,大昔の小難しい音楽用語や理論を剽窃してきたりして,その本来の姿をどんどんと歪めていってしまいました。

   このへん,月琴のはじまりのあたりが,虚飾めいた伝承や,無茶な牽強付会,我田引水の説に覆われ,模糊として判らないその原因の一つでもあるのですね。

   ちょっと脱線しましたが,15号,ちゅーちゅーにカジカジされた楽器「三耗」。

   月琴が「唐渡り」の輸入品時代からコピー国産化され,それが日本独自の様式になってゆく,そのちょうど中間点にあたる楽器と位置づけることができましょう。
   全体のフォルム,厚めの糸倉の姿などにはまだ「唐渡り」時代の遺音がありますが,「うなじ」はなだらかになり,まだ小さいものの「ふくら」もつき,棹の左右には傾斜があって,ほっそりとしたフォルムに仕上がっています。

正倉院の阮咸(胴部分)
   また面板上の第六フレットが長く,ほかが短くなるフレットのデザイン。
   これも中国で作られた楽器にはあまり見られません。

   なぜってこれ,おそらく正倉院の「阮咸」のデザインを引いたものなんですね。

   誰がはじめたことかは判りませんが,唐時代の「阮咸」の実物は,この日本にしかありません。
   この時代に正倉院の御物楽器の詳細が,こんな俗楽器に使われるほど,中国で知れ渡っていたとは思えないので,このフレットのデザインは国産品の証しの一つなんですね。

   もっとも,月琴のフレットは弾いている内によくとれちゃう,いわば「消耗品」なので,唐渡りの古い月琴が,後世国内で修理された時に,そういうしたデザインにされちゃった例もないではないでしょうが。

   また脱線----とにかくそういう意味では,この時期にこういう楽器が到来したというのは,偶然とはいえ,もっとも古形である14号からこの15号,そして明治中期以降の一般的な清楽月琴へとつながる,楽器の変化の様子を,実物をもとに確かめられ,立証できるという絶好の機会が与えられた,と言えるのかもしれません。

   15号「三耗」,まずは糸倉から棹にかけて,あちこち盛大に齧られちゃっているほか,側板が歪んで面板がはがれかかっています。
   これを直さなきゃならないのが第一。

   そして……楽器を振ってもなぜか「響き線」の音がしません。
   あまつさえ棹穴から覗いてみても,その存在が確認できない。
   玩具みたいな最低級の楽器の場合,はじめから「響き線」を仕込んでいない,という可能性もあるのですが,棹穴からの目視では内桁に響き線が通る孔はちゃんとあることが確認されています。

   「響き線」は清楽月琴の音のイノチみたいな部品です。
   側板の矯正,また響き線のナゾ解明のためにも,さっさとひっぺがし…いえいえ,面板をあけて内部からの観察,修理を行う必要があります。

 ひさしぶりに月琴のハラワタがのぞけるぞぅ……げへげへげへ

(つづく)

14号玉華斎

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斗酒庵 歴史的月琴を前に戸惑う の巻(2)2009.12~ 明清楽の月琴(14号玉華斎)

  エラい楽器が来ちゃったかも知れません。

  こいつァ,こまったね。

  おいらは「野良月琴」というくらい大流行してた時期の,大量生産のどうでもいい楽器を,ぎゃははと笑いながら,ひっぺがしたりドリドリするのが好きなんで…こういうのが来るとどうイジめていいのか分かりません。

  とまあ,野生への招待はともかくおいて,ちょっとタイヘンな,自出し月琴14号。
  データーの紹介とまいります。



【14号月琴・玉華斎 修理前所見】


14号修理前全景
1.採寸

 全長:640mm
 胴体 縦:350mm 横:357mm 厚:37.5mm(表裏板ともに 厚4.5mm)
 棹 全長:287mm(蓮頭を除くと262) 幅:28mm  最大厚:28mm 最小厚:21mm
 指板ナシ 指板相当部分 長:133mm  幅:28mm
 糸倉 長:150mm(基部から先端まで) 幅:28mm(うち左右側部厚 6.5mm/弦池 15×100mm )指板面からの最大深さ:68mm

 有効弦長: 約400mm

2.各部所見

14号蓮頭(1) 14号蓮頭(2)

 ■ 蓮頭:透かし彫り。四爪龍正面

  おそらく紫檀。
  彫りは精緻,側面に切り出し痕を残す。
  損傷見えず,しかし裏面に1mmほどの薄い桐板を貼り付けてある,理由不明。
  その桐板の裏面に正体不明の黒い物質で,棹頭に接着されている。


14号糸倉うなじ
 ■ 糸倉:無傷。蓮頭下中央に間木をはさむ。

  左右も薄く,弦池の切り貫き工作も丁寧だが,材質が硬いせいか,裏面「うなじ」がわの端にわずかに取り残しが見える。

  山口下に「ふくら」はなく,棹と同じ幅のまま糸倉につながる。「うなじ」の部分は深いが,なだらかには流れず,平面的で---いわゆる「絶壁」になっている。


14号軸
 ■ 軸:三本残。一本後補。

   一番手前,後補の1本は,梅か桜の枝を加工したものではないかと思うが不明。

   オリジナル3本は,おそらくツゲと思われる。
   角材ではなく,枝のような棒材を,比較的自然なかたちのまま加工したものらしく,すべての軸がいくぶん反り曲がっている。

14号棹背
 ■ 棹:損傷なし。

   指板はなし。糸倉と同じ幅で,棹背には少しアールがついており,胴体側基部からもちあがり,糸倉方向へ4センチほどのあたりまで流れて,そこからはほぼ直線となる。

14号山口
 ■ 山口:存。損傷なし。

   材はツゲと思われる。幅28×厚10mm,高さは13mm。
   楽器正面側に向かってすぼまり,弦乗部分の幅は20mm。
   古い型,また小型月琴に多い富士山型である。
   使用痕多数。


14号棹上
 ■ 柱(棹上):2本存。1本後補

   オリジナル2本はどちらもツゲ製と思われる。
   いづれも使用痕があり,尾根の左右が少しエグれている。
   第2フレットは材質不明。
   第1フレットにボンドによる接着痕あり。

 ■ 柱間飾り:4つとも存。
   凍石製。一番上はザクロか仏手柑,二番目はコウモリ,ほか二つは意匠不明。


14号棹茎
 ■ 棹茎(なかご):損傷なし。

   杉と思われる針葉樹を継ぐ。
   長:193mm,幅:28>14mm,厚:14-7mm。

   棹基部楽器正面側に墨書。署名か花押と思われるも判読不能。
   基部裏面の処理が少し荒く,刃物の痕が多数残る。調整痕か?


14号表裏面板

14号ラベル
 ■ 胴体:比較的健全。

   表面板:おそらく1枚板。
   左にヒビ割れ,上下に走りほぼ貫通。上半分に補修痕,木工パテか?

   裏面板:同じく1枚板。
   上端棹穴近くに墨書。判読不明。
   右肩に木版印刷のラベル。「玉華斎」
   右下にヒビ割れあり,下端よりやや斜め右方向へ断続的に170ミリ。



14号側板
   側板:飾り板で隠されているため継ぎ方は不明だが,おそらく木口接合の4枚継。

   棹穴を中心とした天の側板,および表面板の木口にパテ埋め痕。
   側部飾り板,数箇所に小欠損およびハガレ。


   棹および胴体の主材は唐木の 「鉄刀木(タガヤサン)」 と思われます。
   古楽器でもかなり高級なものにしか使われなかった素材----うむ,ブルジョアな楽器であります。

14号目摂
 ■ 左右目摂:損傷なし。

   紫檀のように見えるが,材質は不明。


   見ての通り,意匠は龍。
   蓮頭と同じく,こちらも「四爪の龍」となっています。

14号胴体上フレット
 ■ 柱(胴体上):4本存。
   ツゲ製と思われる。
   第5フレットに小キズ。ほかは問題なし。
   一般的な国産清楽月琴に比べると,フレット幅にデザイン的な変化はない。
   棹際の第4フレットが35mm,第7フレットが43mm と最も長い。

 ■ 扇飾り,柱間飾り(胴体上),円飾り:全存。
   柱間飾り,円飾りは凍石製。円飾りは鶴を線刻する。
   扇飾りは「喜」字を意匠化したもの。材はおそらくタガヤサン。


14号半月
 ■ 半月:損傷なし。95×40×12mm。
   材はおそらくツゲ。
   糸孔は外弦間:30mm/内弦間:22.5mm。内外弦間:約3mm。


 ■ 絃停:ヘビ皮。95×80mm。
   全体にやや縮み,下部にハガレはあるが比較的健全。


  この半月は,今回のビックリドッキリ部品。後で詳述しますね。



3.14号内部簡見

14号内部
  棹穴から観察。
  右図クリックで,別窓が開き,拡大。
14号内部 14号内部
  


4.14号概観 & ちょっと月琴の歴史

天華斎ラベル
   江戸から明治初期にかけて,清楽月琴流行初期の頃の月琴の作者については,文献も伝承も少ないので,正直なところほとんど分からないのが現状です。たとえば,連山派の長原梅園の伝(『明治閨秀美譚』M.25)に,彼女の月琴が「初代天華斎作にて,逸雲,卓文君等の二名器と同時に渡来せるもの」であったことなどが記されています。
   これなどそうした作者のことが知れる,数少ない文献資料ですね。

   現在残っている楽器のラベルなどから見ると,この「天華斎」は福建省の人だったようです。
   江戸時代,長崎に渡来した清国船の多くが福建省の港を基点にしていましたから,彼らの運んだ渡来楽器の作者が,そのあたりの人であったというのはフシギありません。

   ただ「天華斎」の楽器は,「名器」と呼ばれただけに,大流行時代多くの贋物や,そのコピーが作られています。
   一口にコピーといっても,中国本土で同系の職工により作られたものや,まったく同じ材質を使って国内で製造されたもの(「写し」と呼ばれます)もあり,よほどぞんざいな作りの低級模倣品以外は,簡単に見分けがつきません。
   また「天華斎」の名を継いだのかどうかは分かりませんが,上文に「初代」とあるとおり,二代目,三代目を名乗る作家もいたらしく,「天華斎」とラベルがあったとしても,そもそもそれが「名器」の作者のものかどうかは不明です。

『耽奇漫録』
   この楽器の作者,似たような名前の「玉華斎」も,その「天華斎」の作品に似た楽器を数多く作っています。
   本当に清国の人なのか,それとも国内でコピー品を作っていた職工さんなのかは不明ですが,糸倉や棹のデザイン,意匠などはほとんど「天華斎」のものと変わりません。


   たとえば馬琴の随筆に出てくる楽器(←)が,今見る清楽月琴よりは,どちらかというと棹のさらに短い古中国月琴に近いものであったりするように,唐渡り時代にも,実際にはさまざまなタイプの月琴が入ってきており,一概に「これこれこうだと "唐渡り" 」とは言えないのですが,清楽月琴の中で「天華斎」などの「唐渡りの月琴」とされている古い楽器の特徴を,国産物と比較していくつか書き出してみましょうか。


  1)材質:面板が板目の一枚板であることが多い。
    主材が唐木のもののほかは,梧桐(アオギリ)梓(キササゲ)など,国内であまり使われない材が用いられる。
   (コピーものは板目の矧ぎ板,後期国産品は多く柾目の矧ぎ板)

  2)加工:鋸目が逆。鉋痕も日本のものと少し異なり,やや粗く削り痕が残る。。

  3)糸倉の形状:横から見てやや短く全体に高さがあり,「うなじ」が平面。
   (国産のものは後期になるほど細く,長く。「うなじ」は曲面で棹に流れる)

  4)棹の形状:山口をのせる部分に「ふくら」がなく,幅が糸倉と同じ。
   (国産のものでは棹左右にテーバーがつき「ふくら」の下に向かってわずかにすぼまる)

  5)フレットの形状:現在の中国月琴と同じ細い台形。
   (拙ブログ記事「月琴フレットの作り方」(1)(2)をご参照ください)
    さらにフレットの幅が,上から下まであまり変わらない。
   (古中国月琴は末広がり,国産のものは第6フレットが長い)

  6)内桁:一本桁,桐製。
   (国産は針葉樹で2本桁のものが一般的)

   このほか,側板接合部に飾り板のついているところや(唐渡りでも,安物だとありませんが),お飾りの意匠が,きちんと意味の分かる吉祥紋となっている,など細かく言えばいくらでもありますが,それでもたとえば,同じ材料や工具を使われたり,帰化した職工さんの手になるものだったりした場合は,国産品であったとしても,まったく判別がつかないでしょうねえ。

   14号もそうした幕末~明治初めころ,「唐渡り時代」によく見られるタイプの楽器になっています。
   ただ,上述のとおり,実際にこの楽器が海を渡ってきたものなのか,それともそうしたものをコピーした「写し」なのかについては,楽器自体と作者についてもう少し調べがつくまで,判断を保留しておきましょう。



14号半月
   この楽器,最大の特徴は半月です。

   はじめ出品者の写真で見たときには,半月が剥がれたので何か飾り箱の蓋のようなものでも貼り付けたんだろう,とか思ってたんですが,届いてみてびっくり----

   中央を左右に流れているのは布でしょうか,書簡でしょうか?

   中央糸孔の真ん中には蝙蝠が一匹。左右には十文字の花と,その上には蓮の花ものぞいています。

   「半月」 というくらいで,通常は半円,もしくは木の葉を半分に切ったような形をしており,飾り彫りや透かし彫りなど,表面的な細工に凝ったものはよく見るのですが,意匠のために形そのものを変えてしまっているような例は,まず見たことがありません。


14号蓮頭
   次に問題なのが蓮頭や目摂になっている「四爪の龍」…実は意外と少ないんですよ,この楽器で「龍」の模様。「鳳凰」は定番なんですけどね。

   中国ではずっと,龍の紋様の使用には一定の決まりがありました。

   「四爪の龍」は諸侯の龍----これが明治になって日本で作られた楽器ならさして問題はないのですが,清朝の中国で,そうしたものに対する禁令や規制もかなりゆるんでいたとはいえ,それでも「三本爪」ではなく「四本爪」となると,そう軽々には使うことの出来ないものでした。


   そもそも,高級素材である鉄刀木が使われていること,半月や飾りが,同じ作者の作品中でも見ないような凝った意匠となっていることからして,この楽器が特製品,もしくは特注品であろうことは想像に難くありません。
   またこの「龍」の意匠から,この楽器の所有者,もしくは製作依頼者は,少なくとも高級官吏以上の存在であった可能性が高いかもしれませんね。

   さて,困ったね,と何時かに続く。
(つづく)

13号柚多田

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斗酒庵 歴史的月琴を前に戸惑う の巻(1)2009.12~ 明清楽の月琴(13号柚多田)

  この年末も近くなって,我が家にはいまだ4面の壊れ月琴が転がり,修理を待っております。

  しかもぜんぶ自出し月琴とはどういうことだ?

  知り合いのマイミクさんが 「月琴が来たがってるのヨ」 とか言ってましたが…いろいろ不覚もあり因縁もありて,この状況。

  重量級月琴12号とほぼ同時期に購入したほかの3面は,偶然にもみな,楽器としてより「資料的な価値」の方が高い物体です。
  正直なところ,これらの楽器に手を入れたところで,11号や12号のようなふつうの実用清楽月琴の音は出ないでしょう。

  月琴が大陸からの輸入品だった「唐渡り時代」から,そのコピーを生産していた時代,そしてちょっとづつ,三味線や琵琶の影響,日本独自の意匠や構造が入ってゆき,いわゆる「清楽月琴」の典型が出来あがるまで----日本における月琴の流行時期,それ自体が短いので,その変化はわずかなものですが,それをたどることで,この楽器のルーツをより正確に知ることが出来るかもしれません。

  先にも書いたとおり,演奏楽器としてはどれも多少ナニがアレしますので,修理は急ぎませんが,とりあえず資料としてデータだけを,順繰り先出しでお送りいたします。



【13号月琴・柚多田 修理前所見】

  3面のうち,まず最初にわが工房に到着したのがこの楽器です。

  13号月琴,付けられたコードネームは「柚多田ひかる」ちゃん。
  13面目なんでユダだ。(笑)

  ま,冗談はともかく(でも銘は本気だ),いわゆる「文人楽器」として作られた月琴ですね。
  もしかすると楽器店や唐木屋さんが作ったものではなく,個人による手作りの楽器かもしれません。
  ただ,月琴という楽器として,それほどおかしな点も見受けられないことから,手作りであったとしても,ちゃんと楽器を識っていて,かなり細工に手馴れた人の作と思われます。


13号修理前全景
1.採寸

 全長:668mm
 胴体 縦:352mm 横:357mm 厚:35mm(表裏板ともに 厚4mm)
 棹 全長:307mm 最大幅:37mm  最大厚:30mm 最小厚:22mm
 指板ナシ 指板相当部分 長:155mm  最大幅:37mm  最小幅:27mm 
 糸倉 長:152mm(基部から先端まで) 幅:37mm(うち左右側部厚 11mm/弦池 13×112mm )指板面からの最大深さ:57mm

 山口欠損のため未確定ながら,推定される有効弦長: 426mm

2.各部所見

13号糸倉(1) 13号糸倉(2) 13号糸倉(3)

 ■ 蓮頭:無装飾の黒塗り板。
  素材は不明。オハグロ塗り?
  糸倉や棹の太さからすると,寸法的には小さめかつ薄めである。周縁の切り込み浅く,加工はやや粗い。


 ■ 糸倉:ほぼ無傷。蓮頭下中央に間木をはさむ。
   左右が分厚く(11mm,一般的な清楽月琴では8mmほど),頑丈そうな作りとなっている。
   その割には軸穴はそれほど大きくない。

13号軸
 ■ 軸:一本のみ残。
   材質は不明。
   ほぼ三味線の音締めと同じくらいの太さで,加工も粗い。
   形状的にもオリジナルかどうかは疑問。

 ■ 棹:損傷なし。
   やや太めで,棹背にアールはなく,ほぼ直線。
   糸倉との間のうなじは,やや深いがなめらか。
   ふくら下の入込みはやや深い。


13号棹(1) 13号棹(2)

 ■ 山口:欠損。接着痕のみ。
   接着痕から推測される平面的なサイズは,10×34mm。棹自体が幅広なこともあり,かなり大きい。

 ■ 柱(棹上):4本存。
   材は杉かヒノキ。
   異様に太く,先端を三角に尖らせているが,4本とも高さがほぼ変わらず,かつ等間隔に配置されていることから,実用には向かず,おそらくすべて前修理者による後補部品と思われる。


13号棹茎
 ■ 棹茎(なかご):損傷なし。
   棹から継ぎナシのムク。表板側と右側面にスペーサーの板が貼られている。寸法は薄く,短く。長:122mm 幅:23-18mm 厚:12-5mm

   ※ 糸倉~棹,材は「栗」か?



13号表裏面板

 ■ 胴体:比較的健全。

   表面板:5~6枚継ぎか。
   右に楕円の落款(判読不明),墨書 「弄琴明月酌」 。左に墨書 「酒和風」 ,落款二つ,判読不能。
   かなり濃く変色しているが,やや年輪の広い柾目板で,表面はなめらか。楽器中心付近に打痕二筋,撥痕かなりあり。
   中央やや左半月の下にヒビ。あちこちに小さな虫食い穴が見える。

   裏面板:4~5枚継ぎ。
   全面に竹の墨絵,右に落款陰刻,判読不明。左下に署名 「〓崖舞鳳/〓仲昭邑〓/〓〓〓〓〓〓」 ,落款陰刻,判読不明。
   左右肩口に小ヒビ,左肩に剥落痕,中央中心付近と右下に虫食い穴数個あれど,表板よりはヨゴレ,変色も少なく,比較的健全。


13号側板
   側板:4枚,凸凹継ぎ。棹と同材か。
   天の側板右肩から右側中央付近まで,表面板ハガレ。棹穴付近の表面板木口に小虫食い。
   地の側板,表面板側右から九割がたハガレ,面板との間に段差。


13号胴体上フレット
 ■ 柱(胴体上):4本存。
   うち一番上は棹上のものと同じ材質,加工から後補と思われる。
   下三本は竹製,加工も悪くなく,こちらがオリジナル部品かと推測される。


13号半月
 ■ 半月:損傷なし。105×46×10.5mm。
   やや大ぶりで,下周縁の処理が斜め切り落しではなく段差のあるところ,また上面中央の開口部が四角ではなく半円形であるところが少し変わっている。

   糸孔は外弦間:26mm/内弦間:20mm。内外弦間:約3mm。 棹や糸倉が太い割には弦間はやや狭い。



   ※ 半月の上の面面板上に,絃停が着いていた形跡はない。




3.13号内部簡見

13号内部
  とりあえず,棹穴からの観察です。
  今回の楽器は棹穴が小さめなのと,桁位置や音孔の大きさ・場所の関係で,死角になってしまう場所が多く,あまりよく分かりません。

  オープン修理の予定ですので,より詳しいデーターは後で。
  図クリックで,別窓が開き,拡大。(→)

  響き線は一本。曲線で,楽器のほぼ中心を右から左へ浅く弧を描き,左側板の1~2センチ手前まで伸びています。
  下桁の上左右端に,表裏の板にはさまれる形で,太さ20mmほどの円柱状の物体が仕込まれているようです。
  左のものは現在響き線の先端を隠すように,そのすぐ上くらいのところに位置していますが,右のものは接着がはがれているらしく,,胴体内下桁の上を転がっております。

  この円柱状物体。現在までのところその材質,用途,目的,共に不明です。

  棹穴から垣間見た感じは,牛角みたいなんですけどねえ
  「魂柱」みたいなものなんでしょうか?----さて,楽しみな。



4.13号概観

  年代は不明。
  その形状や加工から,個人製作のものである可能性が高い。
  主材はおそらくクリ。

  前修理者の仕業は棹上第一~胴体上第5フレットまでの再製作と,全体,もしくは部分的なニス塗り。
  フレットを付けなおした指板相当部分周縁に,フレットについているのと同様のニスと思われる塗料染みが見受けられる。
  オイルニスの類かも知れず,多少表面にベタつきを感じる。
  これにより,棹および側板の現在の木色はやたらと黄色っぽいが,これがどこまで当初からの色あいなのかは現在までのところ不明。

  表面板にハガレや段差が著しく,また内部の円柱形の部品がはずれているらしいことなどから,オープン修理をする必要がある。

  表面板はかなり変色しており,墨書・落款がほとんど読み取れない箇所もある。虫食いもかなりあるが,墨書があるため,通常工房で行うような洗浄,また表面からの埋め木による修理は出来ない。
  表面板表面を傷つけずに,虫食い痕を補強・充填する方法,ならびに墨書をなるべく傷つけずに,面板表面を洗浄する方法を現在探究中。
(つづく)

11号柏葉堂/12号照葉(8)

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斗酒庵 2面同時に月琴を直す の巻(8)2009.10~ 明清楽の月琴(12号照葉)

第8回 月琴12号照葉 最終回

半月再接着
  さて,破壊系修理者である庵主がニガテな「刃の下にココロと書く」ような細かい作業を乗り越えて,いよいよここまでたどりつきました。
  清楽月琴2面同時修理,いよいよ最終回です。

  まずは半月の接着。

  シロウトさんにゃあ判るめェ,紫檀黒檀ぶりッこさせた苦心の作ですねえ。

  くうぅうう~っ!!!!

半月完成体
  平面的なサイズは剥離痕に残ってたケガキ線に合わせましたし,接着位置もそこで間違いないでしょう。
  高さとかカタチとか,立体的な方向は分かりませんが,そのへんは類例から推測するしかありますまい。
  半月の高さは糸の出る部分で 10mm。糸穴の間隔はサイズの似た1号と同じにしてみました。外弦間 30mm,内弦間 23mm,内外弦間はおよそ 3mmです。

  曲面なので,接着がちょっとタイヘンですが,これも早苗ちゃんで経験済み。
  当木とFクランプを使って,うまく左右平均に圧がかかるように固定します。



フレット
  さて,フレットを削ります。

  当初,胴体上のフレット4本は,もとから残っていたオリジナルの部品(画像右)を再使用するつもりだったんで,あー棹の上の4本だけ削ればいいや,と軽く考えていたんですが。

  このフレット,実際に弦を張って並べてみますと,何かがおかしい----最高音のところでフレットの頭から糸までが2mm 以上あるのは,清楽ではこのあたりの音域は滅多に使われない…からしょうがない,と言うか,まあいいものとして。

  4本がみなほぼ「同じ高さ」というのはどういうわけだ?

  高いならまだしも,ただでさえ低いのですから,これ以上削るわけにもいかず----けっきょくフレット8本総製作と相成りました。

  浅草橋で買ってきた象牙の端材を,切ったり擦ったり削ったり。いつものことですが硬いのなんの!

  ああ竹なら,ほんの1時間で終わるのに(泣)。

  8本を削りだすのにほぼ半日。
  ヤスリを持つ右手はブジなんですが,なんせ小さな部品なもので,しっかり押さえつけるのにコクシした左腕が,もう動きません。

  ちなみにこの楽器,フレットまでがゼイタクに出来てます。

  太さをオリジナルに合わせたんですが,けっこう太めになりましたねえ。



棹レベル
  この楽器の棹は,胴体の水平面と指板面のレベルがほぼ同じになっています。
  過去の修理報告で何度も書いているように,楽器として作られた月琴の多くは,棹が山口のところで胴体の水平面からいくぶん背面側に倒れこんでいることが多いのですが,このようになっているケースもないではありません。

  このままだと絃高がやたら高くなりそうなので,棹基や茎にスペーサーを貼るなどして,それでも1mm ほど傾けましたがこれが限界。
  なにせ糸倉から茎までムクの棹ですからねえ,あまりあちこち削るのも勿体無い。
  この棹の倒れこみには,糸の張力に対抗するため,という面もあるのですが,この棹だと強度的には問題ありませんしね。

  しかしながら,削り終わったフレットを並べて弦を張ってみたところ,やっぱり絃高が高い。
  山口から半月までの絃の高低差は11.5mm(-棹の傾き約1.5mm)>7mm。
  これは清楽月琴としてはふつうの寸法ですし,半月や山口の高さは,そもそもどの楽器でもそれほどの違いはありませんから,オリジナルなしの再製作とは言え,庵主の推測と実際の寸法にさほどの誤差があったわけではない(要するに庵主のせいじゃない)のですが。

  もちろん,このままでもちゃんと弾けます。
  修理楽器としてはそれでじゅうぶんに通りますが,これから現代を生きる楽器としては,もう少し使いやすいモノになって欲しいものですな。
  なんせもともと13個しか音数のない楽器ですから,何を弾くにせよ,低音から最高音までちゃんと出てくれたほうが有難いわけで。

半月ゲタ接着
  これも恒例の処置ですね----とはいえ,自分で作った半月に自分でやるのはさすがにハジメテ。
  半月に竹で作ったスペーサー,通称 「ゲタ」 を履かせます。

  さらに山口を多少削って,絃の高低差は11mm(-棹の傾き約1.5mm)>5.5mm となりました。
  落差5mm は,この手の月琴としては実はかなりキツく,操作性の面から見てもこれがギリギリのあたり。

  これ以上下げると,バチが面板をひっかいちゃいます。

完成!
  さて,絃高は下げたし,フレットも再度調整しました。

  高さ合わせの終わったフレットを磨いて。あらかじめチューナーで測って決めといた位置を,「フレットやする君」で軽く荒らして,接着----コレやるようになってから,格段,フレットがはずれにくくなりました。

  そして最後に,こちらも快心のデキ,お飾りを並べます。
  山口に糸溝を切って,弦を張り。


  2009年,年末も年末,12月30日。
  自出し月琴12号「照葉」,修理完了です!


12号修理後全景

  目摂がオリジナル位置よりやや下になりましたが,いくぶん細工が違うので,バランス的にはこちらのほうが良いと思います。
  絃停は花唐草の紺とどちらにしようか最後まで迷ったんですが,楽器の中心線に黒いものが多いので,同じ柄の臙脂のものにしました。サイズは修理前に測っておいた日焼け痕から。やや小さめですね。



修理後所感

12号棹
  12号照葉,ゼイタクに材料を使い,ゼイタクに作られた楽器でした。

  棹は太めですが,握った感触は良い。

  フレットがやっぱり多少高い感じですが,絃高自体が高いわけではないので,運指への反応も,ピックのかかり具合も悪くない。
  まあ,寸法的には清楽月琴としてはふつう,どちらかといえばやや低めですし,庵主がふだん弾いている楽器が低いせいもありましょう。音や操作上には支障ありません----ただ材料が高くつくので,次の修理の時に多少銭がかかるぐらいで(笑)。

  あと,軸が一二本,ややユルめですが,まあ操作感は合格。

  さて,音のほう。

  まず,余韻はちゃんと出てますね。
  直線の響き線特有の,まっすぐ消えてゆくような透明感のある響きです。
  音自体は多少硬いかな,という感じですが,これも庵主がこのところ弾いてるのが響き線が曲線のコウモリ月琴なせいで,最初のころ弾いていた1号は,こんな感じだったと思います。
  音量が思ったより出ないようですが,もっと響く場所だったらどうだろう?

蓮頭
  12号照葉,けして「お飾り楽器」ではないのですが,半月が取れちゃってた割りには使用痕も少なく,もともとあまりちゃんと弾いてもらえていなかった楽器のようです。

  部材がまだ落ち着いていない修理直後のせいもあるでしょうが,楽器自体が音の出し方をよく分かっていない,という感触があります。弾いてると,ねえねえ,どっから音出せばいいの?とか,どどどど…っちに出せばいいの,って楽器がテンパってるみたいな感じ。

  うむ,科学的ではありませんが,どう表現すりゃいいのかよく分からん。
  新品ピカピカの楽器より,中古のよく弾き込まれた楽器のほうが良く鳴ったりしますよね,ああいうことでしょう。

  今回,庵主はこの楽器を,修理が終わって数時間でいきなりギグにひっぱりだし,弾きまくってみたりしたのですが,まあそのわりには,良く鳴ってくれたほうかと。
  音的には現在のところ60点くらいですが,弾き込んで一週間後,一ヵ月後にどう変わるかは不明。

  丈夫な楽器ですから,ハードな調教希望。

  ぞんぶんに,使ってやってください。





12月琴照葉・音源

  1.開放弦(40kb)
  2.音階(1)(37kb)
  3.音階(2)(45kb) 低音弦/高音弦それぞれ
  4.九連環(167kb)
  5.旅愁(167kb)
  6.漫奏(277kb)
(おわり)

11号柏葉堂/12号照葉(7)

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斗酒庵 2面同時に月琴を直す の巻(7)2009.10~ 明清楽の月琴(12号照葉)

第7回 月琴12号照葉 本体直し編

  前回も申し上げたとおり,12号照葉,ぜいたくに素材を使っているため,棹や側板,表面板など,主要な部分にはほとんど損傷がありません。単純に音の出る楽器として再生するだけなら,半月と軸を一本,それに山口と棹上のフレットを再製作するくらいのことで済みそうです。

  ただ,裏板に数箇所,ヒビや虫食い痕が見えます。
  本体修理,まずはこの辺からいきましょうかね。

  最初の記事にも書いたように,この楽器は庵主の前に一人修理しようとした者がいて,あちこちキレイに磨いたりしてくれてます。

裏板修理痕
  裏板の虫食い穴は,当初,半透明の樹脂のようなもので埋められておりました。
  おっ,樹脂による充填かあ,本格的だねえ,こりゃあプロの仕業かもしれんなあ……とか思ってたんですが。

  その虫穴周辺をケガキで突付いて回ったところ,ホジれる,ホジれる。

  ……木工ボンドで口をふさいでただけだったんですね。

  いちおう充填…というか穴の中に詰め込もうとはしたようですが。
  ほじったら,穴の口あたりに,ほんのちょっと固まりがあるだけでした。

裏板修理(1)
裏板修理(2) 裏板修理(3)

  意外としっかり食われてました。

  重症箇所3箇所,浅いのが二箇所ほど。

  数としては少ないものなんですが,ぜいたくに作られた楽器では,虫も巨大化するようで,どの食害痕も,ちょっとハンパねぇくらい太く,大きい――幸いなことに横方向への広がりはなかったものの,どれもほぼ,板の底まで食われてスカスカになっておりました。

  損傷の規模はちょっと想定外だったのですが,ケガの功名としましては,左肩の部分から内部を少し覗けたことですな。
  側板が内側に突き出してること,響き線の形状など,第2回で書いたのを確認できました。

  11号と同じく,過去の修理で出た面板を使い,埋め木を削って埋め込みます。

  キズが大きいのでかえってラクですね。
  あとは裏板の清掃の時,ほかの部分のヨゴレを集めたり,新たにヤシャ液を塗ったりして誤魔化しましょう。


12号半月痕
  表面板には裏板ほどヒドい虫食いはありませんが,半月の剥離痕として二箇所ばかり,エグレがあるのと,ちょうどその半月の下になる,楽器の中心付近にヒビがあり,その下端周縁が側板からハガれています。

  半月の再接着の前に,このあたりは埋めたりくっつけたり,きちんと整形しておかなければなりません。
  左のエグレ痕はかなり深く,大きいので埋め木で対処,右は浅いのでパテ埋めです。

表板修理(1)
表板修理(2)ヒビ再発 表板修理(3)再度修理

  次はヒビの始末です。
  はじめはいつものように割れ目にニカワを染ませ,ちょっと圧をかけて接着したのですが,半月の再接着直前にまた再発してしまいました。

  このヒビは矧ぎ目とは関係のなく,木目に沿っており,木口から見るとやや斜めに割れています。矧ぎ目から分かれた時のように直角ではなく,斜めになってるのですから,接着面も広くて,ふつうはこれで簡単にくっつきそうなものなのですが。数日でみごとに「ぱちゅん」,と。

  さて,裏板のものとは違い,このヒビは虫食いに起因する損傷ではありません。
  この表面板は,ほとんど柾目の,かなり目の詰まった板なのですが,その木目は上から下までまっすぐ通った単純な柾目ではなく,同じ板のうちに,繊維が乱れて逆目になっている部分がところどころあるようなシロモノです。

  こういう板はよく「暴れ」ます。

  繊維の方向がいろいろなので,思わぬところが反ったり,割れたりするのですね。このヒビもそうした板自体の質に起因するものなので,いざ直そうというと,頑固でなかなかしつこいのです。

  より強力なヒビ対処法を,今度はも少し考えなければなりません。

  まずはひび割れの周囲を濡らし,板を少し柔らかくしておきます。
  つぎに,薄く溶いたニカワをヒビに垂らし,その両岸を指圧のように揉み押して,ニカワを割れ目に行き渡らせます。
  ここまでは同じですが,今回はさらに新兵器。
  「木粉粘土」をアートナイフの先でヒビに押し込みました。

  ヒビを少し広げるつもりで,アートナイフの刃先で木粉粘土をおしこんでは,ニカワを垂らしてまたマッサージ。
  これをくりかえしていると,スキマが完全に埋まって,板が動かなくなってきます。
  そうしたら,少しだけ場所を変えて繰り返し。

  スキマを埋めるため押し込むのはカンナ屑でも良かったのですが,カンナ屑は濡れるとふにゃふにゃになって扱いにくく,表面を埋めるだけなら,いつもの木粉パテでいいのですが,それではヒビ自体はくっつかず,また,はじめから柔らかいので,割れ目の深くまで押し込む,という作業には向きません。

  木粉粘土は,はじめはパサパサした粉状の物体です。
  粉粒の時は押し込むのがラク。
  そしてヒビを揉んでいるうちに,ニカワと水分を吸って,割れ目の中でほどよく練れる。
  ちょうど木糞漆のように充填材と接着剤を兼ねてくれます。

  10センチほどのヒビを,上から下まで順繰り埋めるのに4時間ほどもかかりましたが,指で押しても今度はビクとも動きません。
  数日たっても変化なし----ふう,今度はしっかりとくっ付いてくれたようです。


棹指板再接着(1)
  棹にはほとんど損傷はありませんでしたが,磨いていたら,黒檀の指板の端がわずかに反って,少しハガれかけているのを見つけました。

  目で見えるスキマはごく細く,場所もごく小さかったのですが,そこにお湯を垂らして揉んでみると,剥離が意外に広い範囲に及んでいることが分かったので,指板全体をよく湿らせてから,ヒビの処理と同じようにニカワを流し込んで行き渡らせ,当て木をして太ゴム輪でしばりあげました。

  そのまま約一週間放置----まあ,硬い黒檀ですからね。

棹指板再接着(2) 棹指板再接着(3)

  どれもこれも損傷としては小さなものですが,今回の修理作業,どれもけっこう細かく,手間と時間のかかる作業でした。
  ご存知の通り庵主は,ドリルがりがりっ!板をベリベリっ!とかが好きな,らんぼー系修理者ですので,こういう 「刃の下に心」 と書くような修理ばっかりやってますと,どうもストレスが…

  じつは現在,その解消策(?)となるようなブツを一丁手がけてはいるんですが…そちらについては,またいづれ。
  ちなみに庵主がこの記事を書いている時点で,修理中の月琴はこの「12号」と…なんと,「15号」。

  いや,ほんと。

  ただでさえ二面同時進行のせいで,報告しなくちゃならないことが溜まっているんで,そっちとそこに至るまでの報告は,何時になるやら。
(つづく)

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