15号三耗(3)
![]() 第3回 ねずちゅーと踊ろう ![]() ![]() ![]() では修理本番。 あちこち「耗子(ネズミ)」に食われて,その名も「三耗」。 なにはともあれ,ここから行きましょうか。 ![]() ![]() ![]() 蓮頭から糸倉,棹に到る鼠害箇所は,大きいのが3箇所,小さいのが幾つか。 やることは単純。 穴埋め,ですわな。 まずはカジカジ痕を整形。 この複雑にカジカジされた痕そのままに,ぴったりハマるような埋め木をこさえられる神人もいるんでしょうが,こちとら神ならざる身ゆえ,削り過ぎないように注意しながら,ギザギザの傷口を均し,わかりやすい形に整形します。 ![]() ![]() ![]() つぎにクルミの端材を刻んで,わかりやすい形の埋め木を作り,接着----んで,整形,っと。 蓮頭の補修箇所には,模様の続き部分をリューターで彫りこみましょうね。 写真だとほんの数枚ですが,この間,けっこうたいへんだったんだからネ! ほんとうに…軸穴に被害が及んでいなかったのがもっけの幸い,ってとこで。 ![]() ![]() ![]() 柿渋・砥粉・炭粉・各種ベンガラを調合・駆使して,修理箇所が目立たなくなるように誤魔化します。 ここは完全に分からない,より,よーく見れば分かる,のほうが後世の修理者にとって親切というものでしょう,ええ,そうですとも,いや間違いない! ![]() 塗装ははじめ薄く,周囲との兼ね合いを見ながら,何度も塗り重ねてゆきます。 だいたい目立たなくなったら,さいごに全体にムラなく柿渋を塗布,じゅうぶんに乾いたら,ごく少量の亜麻仁油を布につけ,磨き上げて完成! 柿渋は少々粘りがあるので,この「ムラなく」ってのがちょっと難しいですが,できあがるとそこらの水性ニスになんか負けないような塗膜になります。しかもほぼ無害。 自然ってスゴいもんですねえ。 ![]() 胴体の問題は二つ。 側板のゆがみと,響き線がないこと。 まずは早苗ちゃん,菊芳さんでやったように,歪んで段差のついた側板接合部を濡らして,矯正。 一週間ばかりしめあげた結果,左右下の接合部はそれなりに矯正されたんですが,左上だけはあんまり治りませんでした。 この左上の接合部には当初からヒビが入っていました。 しかもそのヒビは貫通しておらず,ねじれるような形で浅く入っています。 これは単純に接合の工作や衝撃によるものではなく,部材の質自体と,さらに木取りが悪かったんだと思いますね。 ちゃんと乾燥されてない木を使った時にも,こういうことがままあるそうです。 もっとも,このヒビ自体は古いもので,作られてから百年以上たった現在では,これ以上ヒビたり歪んだりすることは,そうないと思いますが。 ![]() いちおう矯正して少しは縮めたものの,左側板と表面板の段差が最大で2ミリほども残ってしまいました。 もとから数十年剥がれていたとはいえ,ここまで段差が出来るというのは,側板の歪みだけが原因ではないようです。 ----ということで,表面板を計りなおしてみたところ,横幅が,剥がす前と後で,何と約1ミリ近く縮んでます。 本場物,いわゆる「唐渡り」の月琴は面板が一枚板です。 一方,国産コピー品は多く細めの桐板を継接ぎした板で作られています。 この方法ですと,いくらでも大きな板材を,比較的安価に作ることができるのですが,質の異なる板を何枚も矧ぎあわせるわけですから,やはりこういうことにもなるわけです。 とにかく,側板を削ってどうにかできるレベルではないので,何かほかの方法を考えなくてはなりません。 左がわの足りない分をどうするか----足りないならば,足してあげるとしましょう。 ![]() ![]() ![]() ![]() まずは面板を左の第二矧ぎ目から切断します。 つぎに修理で出た古い面板からこういうのを切り出し---- 間にはさめて矧ぎなおします。 この板の幅のぶん,面板は左につきだすわけですな。 この間にはさめる部品を,足りないぶんの寸法,ギリギリの幅で作る,っていう線もあったんですが,部品が小さくなると,その後の作業が難しくなります。自分の技量と相談した結果,無難に板の幅は1センチとしました。 木端口にニカワを引き,板とクランプ,輪ゴムを使って,一晩固定します。 ![]() くっついてから点検してみると,板の中心付近にわずかに段差ができていました。 しかしこれは間にはさめた板が薄かったのではありません。オリジナルの板のほうが不均等だったのです。 測ってみますと,矧ぎ足した板のほうがほぼ水平で,オリジナルの板は真ん中のあたりがわずかに厚くなってますね。 11号に次いで,またほんのちょっぴりアーチトップな月琴,のようです。 ![]() 胴体のほうはこれでだいたいメドがつきました。 あとは箱に戻すだけですが,その前に,「月琴の音のイノチ」響き線の製作に参りましょう。 響き線はピアノ線を曲げて作ります。 類型の14号やそのほかの資料を参考にして,最初の曲がりまでの長さとか,胴体内でのカーブの具合,長さなどを決めます----この類の響き線は,胴内をだいたい半周して,線先は茎の先端の下あたりにあることが多いようですので,このあたりかと。 錆びた古い響き線をピンバイスでほじくりだし,新しくこさえた線をそこに挿しこんでは,曲がり具合などを微妙に調節してゆきます。 ![]() 形が決まったら,焼きを入れ,全体をバネ化します。 このところウサ琴の製作をサボってるもので,合羽橋で買った特大お好み焼き鉄板,ひさびさの登場です。 200度前後で約10分,ときどき位置を変えながら,全体がテンパーブルーになるまでじっくり熱します。 前のがサビて折れちゃったんですからね。 焼きが終わったら,サビ防止に,根元のあたりにラックニスを塗っておきましょう。 ![]() 前回書いたとおり,オリジナルの線が入っていた穴は小さく,線の直径くらいしかないので,四角釘とか竹釘のような補助固定具は使われていなかったようです。 試験的にあけられた2つの穴はそのままなのですが,元の穴はサビた線の基部をほじくったため,若干大きくなってしまいました。 これだと線がすっぽ抜けてしまいますので,ここはニカワ止め+竹釘を挿しておきます。 固定されてから響き線をはじいてみますと,「チーン」「カラーン」となかなか良い響き。 うまくいったようです。 この種の響き線は,形状ですでにバネ的特性を有しているので,時折焼きの甘い,あるいはぜんぜん焼入れされてないような鉄線が入ってたりもします。 ふつう焼入れがちゃんとされていると,表面に青い酸化膜が出来てサビにくくなるものですから,15号のオリジナルもそんな焼きの甘い線だったのじゃないかな? さてこれで,いよいよ面板貼り付け----というところで,今回はここまで。 (つづく)
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