11号柏葉堂/12号照葉(8)
![]() 第8回 月琴12号照葉 最終回 ![]() さて,破壊系修理者である庵主がニガテな「刃の下にココロと書く」ような細かい作業を乗り越えて,いよいよここまでたどりつきました。 清楽月琴2面同時修理,いよいよ最終回です。 まずは半月の接着。 シロウトさんにゃあ判るめェ,紫檀黒檀ぶりッこさせた苦心の作ですねえ。 くうぅうう~っ!!!! ![]() 平面的なサイズは剥離痕に残ってたケガキ線に合わせましたし,接着位置もそこで間違いないでしょう。 高さとかカタチとか,立体的な方向は分かりませんが,そのへんは類例から推測するしかありますまい。 半月の高さは糸の出る部分で 10mm。糸穴の間隔はサイズの似た1号と同じにしてみました。外弦間 30mm,内弦間 23mm,内外弦間はおよそ 3mmです。 曲面なので,接着がちょっとタイヘンですが,これも早苗ちゃんで経験済み。 当木とFクランプを使って,うまく左右平均に圧がかかるように固定します。 ![]() さて,フレットを削ります。 当初,胴体上のフレット4本は,もとから残っていたオリジナルの部品(画像右)を再使用するつもりだったんで,あー棹の上の4本だけ削ればいいや,と軽く考えていたんですが。 このフレット,実際に弦を張って並べてみますと,何かがおかしい----最高音のところでフレットの頭から糸までが2mm 以上あるのは,清楽ではこのあたりの音域は滅多に使われない…からしょうがない,と言うか,まあいいものとして。 4本がみなほぼ「同じ高さ」というのはどういうわけだ? 高いならまだしも,ただでさえ低いのですから,これ以上削るわけにもいかず----けっきょくフレット8本総製作と相成りました。 浅草橋で買ってきた象牙の端材を,切ったり擦ったり削ったり。いつものことですが硬いのなんの! ああ竹なら,ほんの1時間で終わるのに(泣)。 8本を削りだすのにほぼ半日。 ヤスリを持つ右手はブジなんですが,なんせ小さな部品なもので,しっかり押さえつけるのにコクシした左腕が,もう動きません。 ちなみにこの楽器,フレットまでがゼイタクに出来てます。 太さをオリジナルに合わせたんですが,けっこう太めになりましたねえ。 ![]() この楽器の棹は,胴体の水平面と指板面のレベルがほぼ同じになっています。 過去の修理報告で何度も書いているように,楽器として作られた月琴の多くは,棹が山口のところで胴体の水平面からいくぶん背面側に倒れこんでいることが多いのですが,このようになっているケースもないではありません。 このままだと絃高がやたら高くなりそうなので,棹基や茎にスペーサーを貼るなどして,それでも1mm ほど傾けましたがこれが限界。 なにせ糸倉から茎までムクの棹ですからねえ,あまりあちこち削るのも勿体無い。 この棹の倒れこみには,糸の張力に対抗するため,という面もあるのですが,この棹だと強度的には問題ありませんしね。 しかしながら,削り終わったフレットを並べて弦を張ってみたところ,やっぱり絃高が高い。 山口から半月までの絃の高低差は11.5mm(-棹の傾き約1.5mm)>7mm。 これは清楽月琴としてはふつうの寸法ですし,半月や山口の高さは,そもそもどの楽器でもそれほどの違いはありませんから,オリジナルなしの再製作とは言え,庵主の推測と実際の寸法にさほどの誤差があったわけではない(要するに庵主のせいじゃない)のですが。 もちろん,このままでもちゃんと弾けます。 修理楽器としてはそれでじゅうぶんに通りますが,これから現代を生きる楽器としては,もう少し使いやすいモノになって欲しいものですな。 なんせもともと13個しか音数のない楽器ですから,何を弾くにせよ,低音から最高音までちゃんと出てくれたほうが有難いわけで。 ![]() これも恒例の処置ですね----とはいえ,自分で作った半月に自分でやるのはさすがにハジメテ。 半月に竹で作ったスペーサー,通称 「ゲタ」 を履かせます。 さらに山口を多少削って,絃の高低差は11mm(-棹の傾き約1.5mm)>5.5mm となりました。 落差5mm は,この手の月琴としては実はかなりキツく,操作性の面から見てもこれがギリギリのあたり。 これ以上下げると,バチが面板をひっかいちゃいます。 ![]() さて,絃高は下げたし,フレットも再度調整しました。 高さ合わせの終わったフレットを磨いて。あらかじめチューナーで測って決めといた位置を,「フレットやする君」で軽く荒らして,接着----コレやるようになってから,格段,フレットがはずれにくくなりました。 そして最後に,こちらも快心のデキ,お飾りを並べます。 山口に糸溝を切って,弦を張り。 2009年,年末も年末,12月30日。 自出し月琴12号「照葉」,修理完了です! ![]() 目摂がオリジナル位置よりやや下になりましたが,いくぶん細工が違うので,バランス的にはこちらのほうが良いと思います。 絃停は花唐草の紺とどちらにしようか最後まで迷ったんですが,楽器の中心線に黒いものが多いので,同じ柄の臙脂のものにしました。サイズは修理前に測っておいた日焼け痕から。やや小さめですね。 修理後所感 ![]() 12号照葉,ゼイタクに材料を使い,ゼイタクに作られた楽器でした。 棹は太めですが,握った感触は良い。 フレットがやっぱり多少高い感じですが,絃高自体が高いわけではないので,運指への反応も,ピックのかかり具合も悪くない。 まあ,寸法的には清楽月琴としてはふつう,どちらかといえばやや低めですし,庵主がふだん弾いている楽器が低いせいもありましょう。音や操作上には支障ありません----ただ材料が高くつくので,次の修理の時に多少銭がかかるぐらいで(笑)。 あと,軸が一二本,ややユルめですが,まあ操作感は合格。 さて,音のほう。 まず,余韻はちゃんと出てますね。 直線の響き線特有の,まっすぐ消えてゆくような透明感のある響きです。 音自体は多少硬いかな,という感じですが,これも庵主がこのところ弾いてるのが響き線が曲線のコウモリ月琴なせいで,最初のころ弾いていた1号は,こんな感じだったと思います。 音量が思ったより出ないようですが,もっと響く場所だったらどうだろう? ![]() 12号照葉,けして「お飾り楽器」ではないのですが,半月が取れちゃってた割りには使用痕も少なく,もともとあまりちゃんと弾いてもらえていなかった楽器のようです。 部材がまだ落ち着いていない修理直後のせいもあるでしょうが,楽器自体が音の出し方をよく分かっていない,という感触があります。弾いてると,ねえねえ,どっから音出せばいいの?とか,どどどど…っちに出せばいいの,って楽器がテンパってるみたいな感じ。 うむ,科学的ではありませんが,どう表現すりゃいいのかよく分からん。 新品ピカピカの楽器より,中古のよく弾き込まれた楽器のほうが良く鳴ったりしますよね,ああいうことでしょう。 今回,庵主はこの楽器を,修理が終わって数時間でいきなりギグにひっぱりだし,弾きまくってみたりしたのですが,まあそのわりには,良く鳴ってくれたほうかと。 音的には現在のところ60点くらいですが,弾き込んで一週間後,一ヵ月後にどう変わるかは不明。 丈夫な楽器ですから,ハードな調教希望。 ぞんぶんに,使ってやってください。 12月琴照葉・音源 1.開放弦(40kb) 2.音階(1)(37kb) 3.音階(2)(45kb) 低音弦/高音弦それぞれ 4.九連環(167kb) 5.旅愁(167kb) 6.漫奏(277kb) (おわり)
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