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11号柏葉堂/12号照葉(7)

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斗酒庵 2面同時に月琴を直す の巻(7)2009.10~ 明清楽の月琴(12号照葉)

第7回 月琴12号照葉 本体直し編

  前回も申し上げたとおり,12号照葉,ぜいたくに素材を使っているため,棹や側板,表面板など,主要な部分にはほとんど損傷がありません。単純に音の出る楽器として再生するだけなら,半月と軸を一本,それに山口と棹上のフレットを再製作するくらいのことで済みそうです。

  ただ,裏板に数箇所,ヒビや虫食い痕が見えます。
  本体修理,まずはこの辺からいきましょうかね。

  最初の記事にも書いたように,この楽器は庵主の前に一人修理しようとした者がいて,あちこちキレイに磨いたりしてくれてます。

裏板修理痕
  裏板の虫食い穴は,当初,半透明の樹脂のようなもので埋められておりました。
  おっ,樹脂による充填かあ,本格的だねえ,こりゃあプロの仕業かもしれんなあ……とか思ってたんですが。

  その虫穴周辺をケガキで突付いて回ったところ,ホジれる,ホジれる。

  ……木工ボンドで口をふさいでただけだったんですね。

  いちおう充填…というか穴の中に詰め込もうとはしたようですが。
  ほじったら,穴の口あたりに,ほんのちょっと固まりがあるだけでした。

裏板修理(1)
裏板修理(2) 裏板修理(3)

  意外としっかり食われてました。

  重症箇所3箇所,浅いのが二箇所ほど。

  数としては少ないものなんですが,ぜいたくに作られた楽器では,虫も巨大化するようで,どの食害痕も,ちょっとハンパねぇくらい太く,大きい――幸いなことに横方向への広がりはなかったものの,どれもほぼ,板の底まで食われてスカスカになっておりました。

  損傷の規模はちょっと想定外だったのですが,ケガの功名としましては,左肩の部分から内部を少し覗けたことですな。
  側板が内側に突き出してること,響き線の形状など,第2回で書いたのを確認できました。

  11号と同じく,過去の修理で出た面板を使い,埋め木を削って埋め込みます。

  キズが大きいのでかえってラクですね。
  あとは裏板の清掃の時,ほかの部分のヨゴレを集めたり,新たにヤシャ液を塗ったりして誤魔化しましょう。


12号半月痕
  表面板には裏板ほどヒドい虫食いはありませんが,半月の剥離痕として二箇所ばかり,エグレがあるのと,ちょうどその半月の下になる,楽器の中心付近にヒビがあり,その下端周縁が側板からハガれています。

  半月の再接着の前に,このあたりは埋めたりくっつけたり,きちんと整形しておかなければなりません。
  左のエグレ痕はかなり深く,大きいので埋め木で対処,右は浅いのでパテ埋めです。

表板修理(1)
表板修理(2)ヒビ再発 表板修理(3)再度修理

  次はヒビの始末です。
  はじめはいつものように割れ目にニカワを染ませ,ちょっと圧をかけて接着したのですが,半月の再接着直前にまた再発してしまいました。

  このヒビは矧ぎ目とは関係のなく,木目に沿っており,木口から見るとやや斜めに割れています。矧ぎ目から分かれた時のように直角ではなく,斜めになってるのですから,接着面も広くて,ふつうはこれで簡単にくっつきそうなものなのですが。数日でみごとに「ぱちゅん」,と。

  さて,裏板のものとは違い,このヒビは虫食いに起因する損傷ではありません。
  この表面板は,ほとんど柾目の,かなり目の詰まった板なのですが,その木目は上から下までまっすぐ通った単純な柾目ではなく,同じ板のうちに,繊維が乱れて逆目になっている部分がところどころあるようなシロモノです。

  こういう板はよく「暴れ」ます。

  繊維の方向がいろいろなので,思わぬところが反ったり,割れたりするのですね。このヒビもそうした板自体の質に起因するものなので,いざ直そうというと,頑固でなかなかしつこいのです。

  より強力なヒビ対処法を,今度はも少し考えなければなりません。

  まずはひび割れの周囲を濡らし,板を少し柔らかくしておきます。
  つぎに,薄く溶いたニカワをヒビに垂らし,その両岸を指圧のように揉み押して,ニカワを割れ目に行き渡らせます。
  ここまでは同じですが,今回はさらに新兵器。
  「木粉粘土」をアートナイフの先でヒビに押し込みました。

  ヒビを少し広げるつもりで,アートナイフの刃先で木粉粘土をおしこんでは,ニカワを垂らしてまたマッサージ。
  これをくりかえしていると,スキマが完全に埋まって,板が動かなくなってきます。
  そうしたら,少しだけ場所を変えて繰り返し。

  スキマを埋めるため押し込むのはカンナ屑でも良かったのですが,カンナ屑は濡れるとふにゃふにゃになって扱いにくく,表面を埋めるだけなら,いつもの木粉パテでいいのですが,それではヒビ自体はくっつかず,また,はじめから柔らかいので,割れ目の深くまで押し込む,という作業には向きません。

  木粉粘土は,はじめはパサパサした粉状の物体です。
  粉粒の時は押し込むのがラク。
  そしてヒビを揉んでいるうちに,ニカワと水分を吸って,割れ目の中でほどよく練れる。
  ちょうど木糞漆のように充填材と接着剤を兼ねてくれます。

  10センチほどのヒビを,上から下まで順繰り埋めるのに4時間ほどもかかりましたが,指で押しても今度はビクとも動きません。
  数日たっても変化なし----ふう,今度はしっかりとくっ付いてくれたようです。


棹指板再接着(1)
  棹にはほとんど損傷はありませんでしたが,磨いていたら,黒檀の指板の端がわずかに反って,少しハガれかけているのを見つけました。

  目で見えるスキマはごく細く,場所もごく小さかったのですが,そこにお湯を垂らして揉んでみると,剥離が意外に広い範囲に及んでいることが分かったので,指板全体をよく湿らせてから,ヒビの処理と同じようにニカワを流し込んで行き渡らせ,当て木をして太ゴム輪でしばりあげました。

  そのまま約一週間放置----まあ,硬い黒檀ですからね。

棹指板再接着(2) 棹指板再接着(3)

  どれもこれも損傷としては小さなものですが,今回の修理作業,どれもけっこう細かく,手間と時間のかかる作業でした。
  ご存知の通り庵主は,ドリルがりがりっ!板をベリベリっ!とかが好きな,らんぼー系修理者ですので,こういう 「刃の下に心」 と書くような修理ばっかりやってますと,どうもストレスが…

  じつは現在,その解消策(?)となるようなブツを一丁手がけてはいるんですが…そちらについては,またいづれ。
  ちなみに庵主がこの記事を書いている時点で,修理中の月琴はこの「12号」と…なんと,「15号」。

  いや,ほんと。

  ただでさえ二面同時進行のせいで,報告しなくちゃならないことが溜まっているんで,そっちとそこに至るまでの報告は,何時になるやら。
(つづく)

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