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15号三耗(6)

G15_06.txt
斗酒庵 ようやく本領発揮 の巻(6)2009.12~ 明清楽の月琴(15号三耗 さんはお)

第6回 しうりかんりよう

一度完成
  さて,数晩置いて,半月も無事にくっつきました。
  出来上がった山口も貼り付け,開放弦での試験も終了----少なくとも弦を張った途端に半月が跳ぶようなことはございませんでした。

  ではフレッティングを開始いたしましょう。

  フレットは竹製。
  オリジナルのフレットが赤っぽい煤竹製でしたので,はじめは表皮部分にベンガラを塗って似せてみたのですが,これを棹の上にのせてみると,棹の色も似たようなものなのでやたらとクドく見えてしまい。けっきょく塗りをぜんぶひっぺがして,ただの竹フレットに戻しました。
  ついでに表皮部分を少し平らに削って,いつもの「斗酒庵式フレット」(ブログ記事参照)にしてしまいます。

  古風な楽器なので,皮を残した清楽月琴式よりは,14号のような中国式フレットに近い方が似合いそうですしね。こちらには柿渋を染ませ,ラックニスを塗って保護します。

フレット(1) フレット(2)
  いつもなら,チューナーでより正確な位置を探りながら,フレットの位置を決めてゆくのですが,今回はまず,お飾りもフレットも 「オリジナルの位置」 に貼って,いちど完成させてしまいます。

  今回の修理の目的の一つがこれ。
  この古いタイプの月琴の,正確な音階が知りたい。

  明治後半,清楽月琴が日本風に進化した後の楽器の音階については,乙女ちゃん(「N氏の月琴」)のときにも調べたことがありますが,15号のような古いタイプははたしてどうなっているのか,興味があります。

  清楽月琴も明治の遅くなってから作られたものになると,フレットの並びもより西洋音階に近づいてきます。
  これは西洋音楽やその理論の普及の影響もあったでしょうが,楽器の製作者のほうでも,山田縫三郎のように,ヴァイオリンなど西洋楽器まで手がける者が多くなったことがその一因と考えられます。
  全体の工作等から見て,15号は製作者がそうした影響を大きく受ける以前の楽器と考えられますので,そのオリジナルの音階は,少なくとも当時の清楽で「まあいいんじゃないか」という範囲内のものであったはずです。

  清楽月琴の音階は,西洋音階に合わせた場合だいたい---

  高音:G(開放弦)A B C D E G A C
  低音:C(開放弦)D E F G A C D F

  という並びになっております。

  さてでは15号の音階は---

  高音:G(開放弦)A+6 B-40 C+14 D+12 E+20 G#-32 Bb-20 C#-26
  低音:C(開放弦)D+9 E-34 F+18 G+18 A+34 C#-29 Eb-26 F#-17

  クロマチックチューナーで開放音C/Gを4C/4Gで張り,測定時の誤差は±5%といったあたりになります。

一度完成(2)
  第2フレットの音が低いのは,だいたいどの楽器でも同じですが,これは三味線など日本の楽器でよく使われていた音階で,べつだん清楽月琴の特徴,というわけではありません。むかしのお三味とかに慣れてる,と自然こうなっちゃうわけですわ。

  このあたりまではまだいいんですが。
  またさらに,あまり使われない高音部がテキトウなのもいつものことなんですが。

  今回のこの測定で確信しましたね。

  この当時の月琴職人さんたちは,おそらくは基音楽器(清楽の場合は笛)に合わせるとか,排簫のような調子笛の音に合わせるとかいう行為どころか,実際に弦をはじき,おさえながら位置を探るようなことさえしてないようです。
  乙女ちゃんの時にも少しそう考えていたのですが----どうやら「第何番目は何寸何分」みたいな寸法的なきまりがあって,それに合わせてフレットをただ並べていたんだと思いますね。

  たとえばそれは,Eの低音と高音が対応してないとこなどからみても分かりますし,また音のブレ方が全体に不自然,というか法則性がないことからも言えましょうか。

  しかしながら。
  ギターやマンドリンなどと違い,こうしたフレットの高い楽器の音階は,必ずしもピタゴラスさんの言うとおりにはなってくれません。
  山口と半月の高低差,ネックの傾き,表面板のレベル,そうしたものがわずかに違っただけで,かなりの差が出てしまいます。
  実際,同じ弦長の楽器でも,同じ音階のフレット位置が最大5ミリくらい平気で違ったりしますからね。つまり,この楽器の調音においては,構造上,そうした「スケール」があまり有効ではないわけです。

  せめて調子笛のような実音に即して調整されていれば,もう少しそろうんでしょうけどね。
  実際,製作後に演奏者が自分で位置を調整したり,フレットを交換したりといったような例もないではありませんが,まあ,当時の音楽では,この程度のゆらぎはさして気にならなかったのかもしれませんね。作るほうとしても,日本には当時まだこうしたフレット楽器があまりありませんでしたから,しょうがないことだったのかも。


今度は改造
  とりあえずまあ,知りたいことは分かりました。
  ありあとう15号。

  ではつぎに,この楽器を今という時代で「使い物になる」ように「改造」しましょう。

  15号は清楽月琴のなかでも古いタイプの楽器です。
  楽器としてより,資料的な価値の方が高いので,本来はオリジナルに近く復元するのがいちばんなのですが,せっかく甦ったもののお飾りにされちゃうのでは可哀そうです。

  それに何より,オリジナルの,このあまりといえばあまりなテキトウ音階には,庵主,どうしてもガマンがなりません!

  弾いてるうちに,ナニヤラ気分が悪くなります。

  一度貼り付けたフレットと,一部のお飾りを剥がし,チューナーを使って,より正確な音階に近い位置を探ります。
  動かさなくて良かったのは第1フレットだけ,ほかはだいたいフレットの厚み1枚分くらい動きましたね。
  もっとも動いたのは第2フレット,約1センチばかりも下がってしまいました----第2と3柱の間に入るお飾りが,もうギリギリです。

  最初から仮付けにでもしてれば良かったろう,って?

  先にも述べたように,今回の修理の目的の一つがオリジナルの音階を調べることでした。
  しかし,庵主は音響学とやらを学んでいないので,こういう場合,何がどう音に影響するかよく分かりません。
  お飾り一つにしてもそろえ,とりあえず楽器として完成状態にしてしまうことが,より正確なデータを得るための,いちばん簡単な方法だと考えたわけですね。

お飾り(4)
  とはいえ…これ,取れないなー。

  自慢じゃありませんが,このところ庵主,ニカワ付けが無駄に巧くなってしまってまして…一昔前なら,何もせんでもカンタンにぽろぽろはずれたんだけどなー。(^_^;)

  あちゃ…第6~7フレットの間に付けてたお魚さんのお飾りをぶッ壊してしまいました。

  まあ,前のも自作だし,いいか。
  しょうがない,また作るべー。
  前のお魚さんは何だか分からない鯉か鮒みたいなものでしたが,今度はスマンソも含めてちょっとキアイを入れ,「金魚」さんを彫りました。

  「楽器」の部分はともかく,庵主,本気出すとオリジナルの職人さんよりたいがい上手に作れますからね,こういう余計なものは。


  ちょっと色々ありましたが,これにてすべて相揃い。
  2010年1月26日,15号月琴三耗。
  ちゅーちゅー地獄より生還す。

15号修理後全景

15号修理後(2)
  さっそく弾いてみました。

  …意外と,よく鳴りよります。

  資料的な価値は大きいものの,庵主はこういうコピーの匂いの残る古いタイプの楽器は,実演奏用としてはそれほど好きではないので,音のほうは大して期待してなかったのですが。

  深みはないがよく透る,あまりしつこくない,枯れた響き,いわゆる「古雅な」という感じの音でしょうね。

15号修理後(3)
  ネックの細さには多少好き嫌いがありましょう。
  フレットは全体に高いのですが,例によって弦に合わせギリギリの高さに調整してあるため,運指に対する反応は悪くありません。
  ただ斗酒庵流にトレモロを多用すると,ちょっとガリッと引っかかりやすいかな?

  材料がそれほどではないので,低音の響きが若干足りませんが,思ったよりもいい音で鳴ります。
  響き線の効きも良いですね。

  ちなみに下の音声資料,最初や最後の余計な部分をカットしたりはしてますが,音それ自体には何のエフェクトもかけていません。それでいて時折,スプリング・リバーブを通したような音が聞こえることがあります----その部分が,響き線の効果です。
  このタイプの線の効果は,直線や浅い弧線にくらべると,分かりやすいですね。
  この型の響き線は「線鳴り(演奏中に響き線が胴に触れてノイズを出すこと)」がしやすいという欠点があるのですが,今回はきっちり焼きを入れて硬めにしたせいか,それほどでもありません。

  けして上級の楽器ではありませんが,使い勝手は悪くないし,ここまで鳴ればじゅうぶん音的にも楽器として使用に耐えましょう。

  楽しんでやってください。




15月琴三耗・音源

  1.開放弦(17kb)
  2.音階(1)(34kb)
  3.音階(2)(50kb) 低音弦/高音弦それぞれ
  4.九連環(150kb)
  5.溪菴流水(152kb)
  6.ハイカラ節(100kb)
(おわり)

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