14号玉華斎(3)
![]() 第3回 ヒビ割れ太閤記 ちょっと苦労した部品もありましたが,まずもってお飾り類の取外しは成功。 では本体修理とまいりましょう。 ではもっとも音に関係しそうな箇所,表面板の補修から。 ![]() ![]() ![]() この表面板左側のヒビ割れは,天の板の左から1/4,側板の飾りの端あたりの木口からほぼ木目に沿って,左目摂の下を通り,半月の左あたりまで伸びています。割れ目の幅は,最大で 1.5ミリほど。 前修理者によってパテ埋め補修がなされていますが,工作は拙く,ヒビ割れ自体もきちんと埋まっていないし,むやみに塗りたくられた余分なパテで,白っぽく,面板が汚されてしまっています。 まずは,このパテをハガし,修理箇所をキレイにしてあげましょう。
![]() 矧ぎ板を使うことが多い明治後期の月琴だと,こういうヒビ割れの原因はその接着部のニカワを狙った虫食いであることが多いですね。 そういう場合にはたいてい,割れ目は矧ぎ目を中心に薄皮一枚となってしまっており,ほじくると,板がトンネル状になっていて細かい木粉が次から次へと出てくるものです。 右画像は12号の虫食い---こんな感じですね。 ヒビ割れの断面をのぞいて見たり,周辺をケガキの先でつついてみたりしましたが,幸いにも今回は,どうやら虫食いの様子ではないようです。 ![]() よかったよかった。 唐渡りの月琴の面板には,多く桐の一枚板が使われています。 一枚板だと虫食いの被害は少ないのですが,矧ぎ板より板の変形・収縮の幅が大きいらしくて,よくこのように割れて---というより「裂けて」----しまっている例を,よく見ますね。 12号の修理のときにも書きましたが,単純に矧ぎ目から割れたような場合に比べると,こういう「裂けて」しまった場合のほうが,実はけっこう厄介です。 なにせそうした割れ目はニンゲンの工作には関係なく,「割れるべくして割れた」もの,ある意味,板が自然と安定した「あるべき状態」になろうとした結果なので,端から端まできちんとやらなければ,直しても直しても再発する,なんてことにもなりかねません。 慎重にまいりましょう。 ![]() ヒビ本体の前に,木口のこの部分が胴体から浮いていますので,これをくっつけておきます。 これも板が裂けちゃったたせいでしょうか? キレイに剥がれておらず,胴材の接着面に板の木口の一部が,少し残ってしまっています。 薄く溶いたニカワを垂らし込んで,マッサージして全体に行き渡らさせ,クランプで固定。 一晩経ったらしっかりくっつきました。 板が動かなくなったところで,いつものように修理で出た古い面板から,埋め木を削り出します。 ヒビがそれほど太くないのと,完全に真っ直ぐではないので,神業使って一本でピタリ----というわけにはまいりませんが,出来るだけ長くして,埋め込む本数を極力減らします。 自然発生のヒビなので,所によっては断面が垂直ではなく斜めになっていたり,片方が丸く盛り上がっていたりしてますので,埋め木のほうばかりではなく,面板のほうも削って,なるべくしっかりとおさまるよう,細かく整形しなきゃなりません。 ニカワを塗って軽く押し込んだら,筆で左右を濡らし,焼き鏝をあてて,周囲を柔らかくしながら,きっちりと底まで押し込みます。 板の木口,および埋め木左右に出来てしまったスキマやくぼみ,あとヒビ本体の埋め木が入らないような狭い部分には,木粉粘土をヤシャ液で練ったパテを詰め込みましょう。 またまた一晩ほど置いて,しっかりと乾かし,整形します。 ![]() ![]() ![]() つぎに表面板の清掃もかねて,修理箇所の古色付けをします。 例によって,ぬるま湯に重曹を入れたのを垂らしながら,耐水ペーパーをかけて板に染み付いた経年の汚れをこそげ落とし,その汁を修理で白っぽくなった箇所に回して,全体を均一な色に染め直します。 それでも薄い箇所やムラになってしまったような場所は,ヤシャ液を布に染ませたので拭って,色を足してあげましょう。 ![]() ![]() よしよし。 遠目にはまあ,ほとんど分からなくなりましたね。 (つづく)
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